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『・・・小さなお嬢さん。こんな所に一人でどうしたの?』
白い砂浜に海碧色の穏やかな海。
観光地といえども今日は人の入りは少ない。
砂浜の真ん中にぽつんと座る、ピンクのワンピースを着た目立つ少女に声をかけながら座る。
『パパとママと来たの!だけどね、貝殻探しをしていたらはぐれちゃった』
握られていた小さな手をピンと伸ばし、ほら!と淡い色の様々な貝殻を見せてくれる。強く握っていたせいで幾つか割れていたが、綺麗だね!と笑いかけると少女は得意そうに目をキラキラさせてウン!と頷き、目の端に溜まっていた涙はいつの間にか引っ込んでいて安心した。
『きっと今頃心配して探しているね・・・。じゃぁ・・・、パパとママが来てくれるまで、お姉さんがお話しようかな?』
『わぁい!おとぎ話?!』
『うーん・・・お姫様や王子様が出るお話ではないんだけど・・・それでもいいかな?』
いいよ!と少女は割れた貝殻をポケットに仕舞うと膝を抱えて座り、隣の・・・あなたを見上げた。
『ふふっ・・・じゃぁ、はじまりはじまり~』
*****
それは高校生の女の子が異世界に飛ばされ、ナイトレイブンカレッジ・・・選ばれた才ある魔法士の卵が通う男子校に、唯一の女の子として通うことになる女の子のお話。女の子は監督生として様々な生徒と問題を解決し、そして帰る方法を密かに探していた。
この世界の学校に通っていれば、”マブダチ”も出来る。そしてお年頃なので恋もする。
好きになったキッカケはよくあるパターン。
唯一の女の子である監督生は良い意味でも悪い意味でも目立つ。その時は悪い意味で目立っていた。
『監督生だか何だか知らねぇけど、ぶつかっておいてすみませんじゃねぇだろ?!俺はなぁ、マジフトのスタメンで腕を痛めるわけにはいかねぇんだよ!!あ~痛ってぇなぁ!!』
『す、すみません。急にあなたが走って飛び出すから・・・』
『はあ?俺が悪いってのかよ?・・・・・・そーいや、監督生って女だっけか・・・へぇ・・・』
ぶつかった拍子に尻もちを付いていた監督生のスカートは少し捲れていて、すらりとした足が晒されていた。慌ててスカートを戻すが既に遅く、醜態をしっかりと男に見られていた。
『じゃぁ、詫びに俺を保健室に連れて行けよ。お前が手当するなら許してやってもいいぜ?へへっ・・・』
『あ・・・・・・フロ・・・イド』
『おいっ!人の話・・・・・・ぐあっっ!!』
監督生の視線は男の後ろの黒い影に向いた。
名前を言い終わる頃には男は頭を掴まれ、人間の力ではない握力で男を壁にめり込ましているフロイドの姿があった。
パラパラと壁の破片が落ちる先に男は呻き声を上げている。
『ねぇ・・・小エビちゃんを困らせてる雑魚ってお前?あぁ、お前保健室行きたいんだっけ?俺が絞めてやるから、保健室で寝てれば?』
フロイドが左手を離し、その長い足で男の脇腹に重い一撃を食らわすとあっという間に廊下の端まで飛ばされて行った。
『散れ!雑魚が!』
口角を下げギザ歯が見え隠れする。フロイドの獰猛な迫力に辺りはシンと静まり返っていた。
『あの、フロイド先輩・・・ありが・・・』
『小エビちゃーん!!困った時に助けるのが俺の役目なのに遅くなってごめんね~!!アザラシちゃんから聞いて教室からすっ飛んできたー!』
不穏な表情から一変。監督生が声をかけると、すぐに眩しいぐらいの笑顔を振りまき、当たり前のように抱きつく。抱き枕の要領で抱きつかれるのもすっかり慣れ、最初は苦しい思いをしていたが今ではフロイドも加減が分かってきたようで、お互いがすっかりと抱き心地のよい相手となっていた。
『折角小エビちゃんに会えたから~次の授業サボろっと!さっき植物園の横を通った時、羽の生えた小さな変な生き物がふわふわ浮いてたんだよねー。どう?小エビちゃん、気にならない?見たくない?!』
『え・・・それって妖精?どうしよ・・・凄く気になります』
『でしょでしょ?!ほらっ、小エビちゃん行くよ!!』
座り込んだままの監督生を軽々と片手で子どものように抱えると、出発!!と廊下を疾走する。
もうすぐ次の授業が始まる鐘が鳴る。
皆々が教室へ向う波の中を2人だけが逆らっていて、サボるという背徳感よりもフロイドが見つけた生き物を”一緒”に”今”見たい。
危ないだの、高すぎるだのとフロイドの頭にしがみつき、わちゃわちゃと言い合えるのは監督生ぐらいなもので、困りながらも監督生の顔は笑う。
─そっか。私、フロイド先輩が好きなんだ
自覚した瞬間からフロイドを慕う心はますます膨らむばかりで、膨らみすぎていつか泡のように弾けてしまうのではと監督生自身が心配になる。
楽しそうに監督生を抱えて走っているフロイドに気づかれないように、風に揺れる海色の髪にそっと口付ける。
人魚であり、人とは違う神経があるフロイドはその柔らかな感触に気づかないわけがない。
『・・・小エビちゃん!ずっと一緒にいようね!』
春を祝う、花弁が舞い散る祝祭前の出来事が監督生の恋の始まり。
*****
『わぁ!小エビちゃんを助けるフロイドって王子様みたい!』
『んー・・・王子様が人を蹴り飛ばしたり授業サボったりするかなぁ』
『だって、暴力も大好きな小エビちゃんを守る為にでしょ?やっぱり王子様だよ!』
柔軟でいてそれでいて素直なようで、少しズレている少女。あなたの話に興奮してくれているようで、少女の足の上には白い砂が被っている。砂を払ってあげようと手を伸ばすと海風が吹いて砂はハラハラと元にいた場所に帰っていく。風が少し冷たいように感じたあなたは自分が羽織っていたカーディガンを少女にかけてやる。
『お姉さん、ありがとう!お話の続き聞かせてくれる?』
あなたは優しく頷くと少女から目の前の水平線へと視線を移した。
*****
『小エビちゃんも運命の王子様ってやつを信じる?』
ゴーストのお姫様の件が終わって暫く経ったある日の晩。パルクールの練習に飽きたとフロイドはオンボロ寮にいきなり押し掛け、監督生を強制的に学園内のプールまで連れてきた。
まさか泳げとは言われないだろうと、監督生は靴を脱ぎ裾を捲って足だけ浸かる。
人工的なプールは海と違い、白く泡立つさざ波も生き物の息吹も感じられない。代わりに感じられるのは監督生の隣に座るフロイドの体温。
冷たい夜の水に反して、監督生は顔周りだけ熱くなっていた。
『・・・何故、そんなことを聞くのですか?』
『うーん、あの時は色々面倒くせぇって思ったけど・・・小エビちゃんも女の子だしぃ・・・そういう人を待ってたりするのかなって』
後ろに手を付き、足を伸ばしたフロイドは随分と慣れた二本足を交互に上下させ水面を蹴る。フロイドの足から離れた水しぶきは、少し先の水面に映る月にぽたぽたと落ちて月の形を歪ませた。
『歌をハモってくれなくても、剣を持っていなくてもいい。授業をすっぽかしてでも助けに来てくれて、一緒に面白い事をしようって、小さな発見を共有しようとしてくれたり・・・・・・・・・眠れずに窓辺で1人で泣いていた私に気付いて、パルクールの練習に飽きたから!とかって理由付けて、私を連れ出してくれる・・・・・・そんな、フロイド先輩が好きです』
『・・・あれぇ?バレてた?』
『だって・・・フフっ、寮服じゃ・・・パルクール出来ないでしょう?』
あ・・・とフロイドは自分の格好を思い出す。契約者への”お願い”の仕事の帰りにふらりとオンボロ寮へ立ち寄ってみると、さすがに寝ているかと思いきや、月を見上げながら泣いている監督生の姿が月光に照らされていて、フロイドはいても立ってもいられず連れ出したのだ。
『俺・・・かっこ悪ぃし、だせぇー・・・』
フロイドはボスッとハットを監督生に被せて誤魔化す。監督生はハットを被り直し、珍しく赤面しているフロイドを見ようとするも、フロイドの大きな手で顔を押されてしまい監督生の視界はすぐに遮られてしまった。
『ってか、小エビちゃん・・・シレッと俺に告ってなかった?』
───フロイド先輩が好きです。
『あ、あれぇ?バレました?』
わざとらしく言ってみるが、照れ隠しであり監督生は空恥しく目線を逸らす。
そして、ずっと耐えていた目尻も気が緩み涙が頬を伝ってしまった。
『ちょっ・・・小エビちゃん!何でまた泣くの?あ、いつまでも水に浸かって冷たかった?!それとも、気づかないうちに怪我した?!』
『ち、違っっ・・・』
フロイドは監督生が泣くところを今夜初めて見た。
不良のような生徒に理不尽な対応をされても、勉強についていけなくても泣くことはなかった。どんなにフロイドが無茶苦茶に連れ回しても最後は笑ってくれる監督生。いつも目で追いかけいて、遠くても視界に入れば、驚かせてでも監督生の瞳に映りたかった。
『小エビちゃん・・・泣かないでよ。あっ、これあげる!!小エビちゃんに持ってて欲しい!!小エビちゃんを想って錬金術で混ぜてたら飛び出してきたんだけど、めちゃくちゃ綺麗だから!』
ポケットから無造作に取り出すと横に座る監督生に握らせる。しゃくりながら手の中に収まる固形物を見るとその美しさに涙は引っ込む。
『それ、”泡沫のサファイア”っていうんだって。イシダイ先生が教えてくれたぁ。普通のサファイアは透明度が高いほど高価らしいんだけど、それ・・・よぉく見てみて?』
『・・・・・・水が入ってるみたいに泡がぷくぷくしてる。吸い込まれそうな深い青色ですね・・・』
『そう!凄く珍しくて錬金術でしか作れない人工宝石。それでも配合が難しくって中々お目にかかれないぐらい珍しいんだって!俺天才じゃ~ん!』
『へぇ!!フロイド先輩は天才です!嬉しい・・・ありがとうございます!それにしても、ほんと綺麗・・・アズール先輩が欲しいって言いそうですね』
小エビちゃんにあげるから、アズールにはやらねぇ~とケタケタと笑うフロイド。
夜の暗闇の中のわずかな月の光でも分かるぐらい、泡沫のサファイアは輝く。
『その宝石の石言葉教えてあげるね。”儚げな慈愛”だってさ。・・・・・・小エビちゃんにピッタリじゃん』
『ど、どういうことですか?』
『小エビちゃん、元の世界に帰るんでしょ?』
監督生の手から転がった泡沫のサファイアがプールに落ちそうになり、フロイドが慌ててキャッチした。
フロイドの言葉に目を丸くしている監督生からハットを回収すると、フロイドは泡沫のサファイアをギュッと握り、マジカルペンを翳した後そっと手を開く。
泡沫のサファイアはティアドロップ型のネックレスになっていた。
『はい、付けてあげるねぇ』
『どうして・・・私が帰るって知って・・・』
監督生に腕を回し、抱きしめるようにネックレスを首元に飾る。いつかされたようにフロイドはさり気なく監督生の髪に口付け、すぐに離れた。
『うん!よく似合ってる!あー・・・うん・・・こんなに小エビちゃんが泣くの初めてじゃん?だから、そうかなってピンときた。当たって欲しくなかったけど・・・当たっちゃったねぇ』
眉を下げ目を細めて笑うフロイドこそ儚げで、迷惑だと分かっていても監督生は声を上げて泣いた。
『俺も小エビちゃんが好き・・・』
ふざけ合ってたくさん笑い、紡ぎあった思い出。
抱きしめて貰えた温もり、この声や香りもいつかは忘れてしまうかもしれない。
声にならない想いを監督生は背中に回す腕に込めた。
『忘れないで欲しいんだけど・・・泡沫のサファイアの泡は消えても何回も何回も生まれるんだって。小エビちゃんがそのサファイアを見る度に俺を思い出してくれたら、すげぇ嬉しい』
『フロイド先輩を忘れるわけがないです!私は先輩しか好きになれない』
『もう、小エビちゃん可愛い過ぎだかんね!ほんとはギュッと締めて繋いで閉じ込めたいの分かってる?』
両手で監督生の頬を挟み顔を近づけ、絶えず零れる涙を親指で拭う。言っている台詞は物騒なのに仕草は優しくて監督生はクスッと笑ってしまう。
『じゃぁ、海の底に連れて行っちゃいますか?』
『小エビちゃんがそうして欲しいなら、すぐにでもアズールとジェイドんとこ連れて行くけど・・・・・・本当は違うでしょ?』
ごめんなさい・・・とまた涙が出てきて、フロイドはもぉ~と言いながら眉を下げて笑い、何度も拭ってあげる。
二人重なる手は重ねてきた日々を心に刻み、想い焦がれ過ぎて、失ったあとが怖い。
本当は同じ世界で生きていたい。
監督生とフロイドはこの祈りが届くなら何度でも言う。
『フロイド先輩っっ・・・愛してます』
『小エビちゃん、俺、ずーっとずーっと・・・愛してるからね!!!』
静かな夜に似つかわしくない声で、とびっきりの笑顔で愛を伝える。
永遠の約束の立会人は月と星だけ。
言葉にする想いは魔法よりも強く、水面に映る二つの影はひとつになった。
──また、きっと会おうね。
泡沫のサファイアの泡が静かに弾けた。
*****
『こうして、監督生の小エビちゃんは元の世界に帰りましたとさ・・・。おしまいっ!』
本を閉じるようにあなたはパチンと手を合わせた。
『小エビちゃん、帰っちゃったの?もうフロイドとは会えないのかな・・・・・・お姉さん、泣いてる?』
少女があなたを見上げると目が潤んでいて泣いているように見える。大丈夫よ、とゆっくり首を横に振ると少女はチャリッと揺れるあなたの首元に揺れるネックレスに気がついた。
『・・・お話の宝石に似てるね!泡がキラキラして綺麗!』
身を乗り出している少女は興味津々で、あなたは近くでネックレスを見せてあげた。深海のような深い青色の中にぷくぷくと泡が出ている。眺めていると気持ちが落ち着いて穏やかになり、深い愛情が込み上げ、少女はどうしてだろうと不思議そうな顔をしていた。
『パパとママに会いたい・・・』
『大丈夫。きっともうすぐ会えるよ』
『・・・え?』
あなたが少女の手を握る。
『─────!!!』
遠くの砂浜から声が聞こえる。
『ママ!!パパ!!』
『良かった・・・お迎えが来たね。・・・あのね、この話には実は続きがあるんだよ』
『そうなの?!・・・でも、残念。私遠いところに引っ越すの。だからもうお姉さんのお話聞けない』
『そっか。残念だけど仕方ない・・・さぁ、ママ達のところへ。日も暮れてきたし、寒いでしょ?そのカーディガンあげるね』
カーディガンを掛け直してあげると少女の砂を払う。ポンッと背中を押して促すと少女はお礼を言うと砂浜に足を取られながら走って行く。少女が無事に両親の元へたどり着くとあなたは振っていた手を下ろした。
『・・・夕方の海は少し寒いかな・・・くしゅん!』
『あ~ぁ、カーディガンをあの子にあげちゃうからでしょ?風邪引くじゃん、小エビちゃん』
あなたの肩に大きなジャケットが掛かる。
『・・・フロイド先輩!』
オッドアイの優しい眼差しがあなたに注がれる。
『フロイド先輩があの子の両親を連れてきてくれたのですね。ありがとうございます』
パステル色の尾びれの長い小魚がフロイドの周りに飛び回っていて、小魚ちゃん達お疲れちゃん!とパチンと指を鳴らすと弾けて消えた。
『だってぇ、小エビちゃんのお願いなら聞くしかないじゃん』
””フロイド先輩!あの子、きっと迷子です!私があの子のお相手してる間にご両親を探して連れてきてください!””
『おかげであの子もホッとしたと思います』
『それにしても小エビちゃ~ん。おとぎ話とかって言ってぇ、俺たちの話しちゃって~ウケる!』
『き、聞いてたんですね・・・』
フロイドは後ろから抱きつき、顎をあなたの頭に乗せてグリグリと圧力をかけるとあなたは恥ずかしそうに自分の指を絡めた。あなたにとってはおとぎ話のような体験だと思ったのは事実。
本当にまたフロイドと会えるなんて奇跡で、こうしてまたじゃれあえるのは幸せなこと。
今も首元に飾られている泡沫のサファイアに触れながら、その時のことを思い出す。
『フロイド先輩、もう一個お願いしてもいいですか?』
『えぇ~今日の小エビちゃん、お願いばっかぁ~。もう、惚れた弱みってやつで聞いてあげるけどぉ!あ、その代わりに俺のお願い聞いてくれる?』
『うわ・・・対価とか久しぶりなんですけど。・・・わかりました』
ニタリと笑うフロイドに一瞬たじろぐがあなたはどうしても叶えて欲しいことがあった。それはあなたの優しさであり、気遣い。
爪先立ちになって背の高いフロイドに耳打ちする。当然爪先立ちぐらいでは届かないのでフロイドは体を傾けてあげた。
『そんな事でいいの?めちゃくちゃ簡単な願いじゃん・・・。』
今度はフロイドがお願いをあなたに耳打ちする。
あなたは照れくさそうに笑顔で頷き、視線を願いの先へ向ける。フロイドは胸ポケットにマジカルペンを取り出しふわりと魔力を飛ばした。
『ありがとうございます、フロイド先輩。あぁ、そうそう!フロイド先輩に言わなきゃいけないことがあるんです』
『ん?なぁに?俺の願いごとの却下はナシね』
******
『そうなの、不思議よねー。体が波に押されるみたいにここに来たの』
母親と手を繋ぎながら歩く少女。
不思議な経験をしたという母親の話をおとぎ話の魔法みたい!と跳ねながら喜ぶ。
『あのね!ママ達とはぐれた後にたくさん貝殻拾ったの!見てみて!!』
手をポケットに入れると少女は首を傾げる。何度も傾げているものだから、母親がどうしたの?と声をかける。
『・・・・・・貝殻が割れてない!!それに増えてる!!きれーい!!』
小さな手の中には割れた貝殻は割れる前の元のかたちに戻り、新たに綺麗な貝殻も増えていた。
凄い!魔法だ!と大事そうに両手で優しく包む。
『小エビちゃん!!!やったぁぁぁ!!』
『フ、フロイド先輩!お、落ちる!!ってか、お願いはどうなったんですか?!』
『お願いのちゅーは後でしまくるからいいの!今はそれどころじゃねぇし!!!あー!早くアズールとジェイドに報告してぇ!!』
『・・・小エビ・・・ちゃん?フロイド・・・?』
少女がさっきまでいた白い砂浜から大きな声が聞こえ貝殻を包んだまま砂浜を振り返る。
フロイドがあなたの両脇を抱えあげ、慈しむようにあなたのお腹に顔を擦り付けていた。
困ってそうで困っていない泣き顔のあなたと、感無量だと言わんばかりに泣きながら目を細めて笑うフロイド。
『そっか・・・そうなんだ!!お姉さん・・・ううん!小エビちゃん!あのお話の続き分かったよ!また、会えて良かったね・・・』
少女は小エビちゃん、貝殻ありがとう。と呟くと幸せを分けてもらったような笑顔で愛する両親の元へ戻った。
『小エビちゃん、”3人”で幸せになろうね!』
弾けては生まれる─泡沫。
消えても永遠に変わらないものがある。
1度離れた二人の物語は二人だけが知る。
濃い泡沫の色は慈しむ愛。
Fin
白い砂浜に海碧色の穏やかな海。
観光地といえども今日は人の入りは少ない。
砂浜の真ん中にぽつんと座る、ピンクのワンピースを着た目立つ少女に声をかけながら座る。
『パパとママと来たの!だけどね、貝殻探しをしていたらはぐれちゃった』
握られていた小さな手をピンと伸ばし、ほら!と淡い色の様々な貝殻を見せてくれる。強く握っていたせいで幾つか割れていたが、綺麗だね!と笑いかけると少女は得意そうに目をキラキラさせてウン!と頷き、目の端に溜まっていた涙はいつの間にか引っ込んでいて安心した。
『きっと今頃心配して探しているね・・・。じゃぁ・・・、パパとママが来てくれるまで、お姉さんがお話しようかな?』
『わぁい!おとぎ話?!』
『うーん・・・お姫様や王子様が出るお話ではないんだけど・・・それでもいいかな?』
いいよ!と少女は割れた貝殻をポケットに仕舞うと膝を抱えて座り、隣の・・・あなたを見上げた。
『ふふっ・・・じゃぁ、はじまりはじまり~』
*****
それは高校生の女の子が異世界に飛ばされ、ナイトレイブンカレッジ・・・選ばれた才ある魔法士の卵が通う男子校に、唯一の女の子として通うことになる女の子のお話。女の子は監督生として様々な生徒と問題を解決し、そして帰る方法を密かに探していた。
この世界の学校に通っていれば、”マブダチ”も出来る。そしてお年頃なので恋もする。
好きになったキッカケはよくあるパターン。
唯一の女の子である監督生は良い意味でも悪い意味でも目立つ。その時は悪い意味で目立っていた。
『監督生だか何だか知らねぇけど、ぶつかっておいてすみませんじゃねぇだろ?!俺はなぁ、マジフトのスタメンで腕を痛めるわけにはいかねぇんだよ!!あ~痛ってぇなぁ!!』
『す、すみません。急にあなたが走って飛び出すから・・・』
『はあ?俺が悪いってのかよ?・・・・・・そーいや、監督生って女だっけか・・・へぇ・・・』
ぶつかった拍子に尻もちを付いていた監督生のスカートは少し捲れていて、すらりとした足が晒されていた。慌ててスカートを戻すが既に遅く、醜態をしっかりと男に見られていた。
『じゃぁ、詫びに俺を保健室に連れて行けよ。お前が手当するなら許してやってもいいぜ?へへっ・・・』
『あ・・・・・・フロ・・・イド』
『おいっ!人の話・・・・・・ぐあっっ!!』
監督生の視線は男の後ろの黒い影に向いた。
名前を言い終わる頃には男は頭を掴まれ、人間の力ではない握力で男を壁にめり込ましているフロイドの姿があった。
パラパラと壁の破片が落ちる先に男は呻き声を上げている。
『ねぇ・・・小エビちゃんを困らせてる雑魚ってお前?あぁ、お前保健室行きたいんだっけ?俺が絞めてやるから、保健室で寝てれば?』
フロイドが左手を離し、その長い足で男の脇腹に重い一撃を食らわすとあっという間に廊下の端まで飛ばされて行った。
『散れ!雑魚が!』
口角を下げギザ歯が見え隠れする。フロイドの獰猛な迫力に辺りはシンと静まり返っていた。
『あの、フロイド先輩・・・ありが・・・』
『小エビちゃーん!!困った時に助けるのが俺の役目なのに遅くなってごめんね~!!アザラシちゃんから聞いて教室からすっ飛んできたー!』
不穏な表情から一変。監督生が声をかけると、すぐに眩しいぐらいの笑顔を振りまき、当たり前のように抱きつく。抱き枕の要領で抱きつかれるのもすっかり慣れ、最初は苦しい思いをしていたが今ではフロイドも加減が分かってきたようで、お互いがすっかりと抱き心地のよい相手となっていた。
『折角小エビちゃんに会えたから~次の授業サボろっと!さっき植物園の横を通った時、羽の生えた小さな変な生き物がふわふわ浮いてたんだよねー。どう?小エビちゃん、気にならない?見たくない?!』
『え・・・それって妖精?どうしよ・・・凄く気になります』
『でしょでしょ?!ほらっ、小エビちゃん行くよ!!』
座り込んだままの監督生を軽々と片手で子どものように抱えると、出発!!と廊下を疾走する。
もうすぐ次の授業が始まる鐘が鳴る。
皆々が教室へ向う波の中を2人だけが逆らっていて、サボるという背徳感よりもフロイドが見つけた生き物を”一緒”に”今”見たい。
危ないだの、高すぎるだのとフロイドの頭にしがみつき、わちゃわちゃと言い合えるのは監督生ぐらいなもので、困りながらも監督生の顔は笑う。
─そっか。私、フロイド先輩が好きなんだ
自覚した瞬間からフロイドを慕う心はますます膨らむばかりで、膨らみすぎていつか泡のように弾けてしまうのではと監督生自身が心配になる。
楽しそうに監督生を抱えて走っているフロイドに気づかれないように、風に揺れる海色の髪にそっと口付ける。
人魚であり、人とは違う神経があるフロイドはその柔らかな感触に気づかないわけがない。
『・・・小エビちゃん!ずっと一緒にいようね!』
春を祝う、花弁が舞い散る祝祭前の出来事が監督生の恋の始まり。
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『わぁ!小エビちゃんを助けるフロイドって王子様みたい!』
『んー・・・王子様が人を蹴り飛ばしたり授業サボったりするかなぁ』
『だって、暴力も大好きな小エビちゃんを守る為にでしょ?やっぱり王子様だよ!』
柔軟でいてそれでいて素直なようで、少しズレている少女。あなたの話に興奮してくれているようで、少女の足の上には白い砂が被っている。砂を払ってあげようと手を伸ばすと海風が吹いて砂はハラハラと元にいた場所に帰っていく。風が少し冷たいように感じたあなたは自分が羽織っていたカーディガンを少女にかけてやる。
『お姉さん、ありがとう!お話の続き聞かせてくれる?』
あなたは優しく頷くと少女から目の前の水平線へと視線を移した。
*****
『小エビちゃんも運命の王子様ってやつを信じる?』
ゴーストのお姫様の件が終わって暫く経ったある日の晩。パルクールの練習に飽きたとフロイドはオンボロ寮にいきなり押し掛け、監督生を強制的に学園内のプールまで連れてきた。
まさか泳げとは言われないだろうと、監督生は靴を脱ぎ裾を捲って足だけ浸かる。
人工的なプールは海と違い、白く泡立つさざ波も生き物の息吹も感じられない。代わりに感じられるのは監督生の隣に座るフロイドの体温。
冷たい夜の水に反して、監督生は顔周りだけ熱くなっていた。
『・・・何故、そんなことを聞くのですか?』
『うーん、あの時は色々面倒くせぇって思ったけど・・・小エビちゃんも女の子だしぃ・・・そういう人を待ってたりするのかなって』
後ろに手を付き、足を伸ばしたフロイドは随分と慣れた二本足を交互に上下させ水面を蹴る。フロイドの足から離れた水しぶきは、少し先の水面に映る月にぽたぽたと落ちて月の形を歪ませた。
『歌をハモってくれなくても、剣を持っていなくてもいい。授業をすっぽかしてでも助けに来てくれて、一緒に面白い事をしようって、小さな発見を共有しようとしてくれたり・・・・・・・・・眠れずに窓辺で1人で泣いていた私に気付いて、パルクールの練習に飽きたから!とかって理由付けて、私を連れ出してくれる・・・・・・そんな、フロイド先輩が好きです』
『・・・あれぇ?バレてた?』
『だって・・・フフっ、寮服じゃ・・・パルクール出来ないでしょう?』
あ・・・とフロイドは自分の格好を思い出す。契約者への”お願い”の仕事の帰りにふらりとオンボロ寮へ立ち寄ってみると、さすがに寝ているかと思いきや、月を見上げながら泣いている監督生の姿が月光に照らされていて、フロイドはいても立ってもいられず連れ出したのだ。
『俺・・・かっこ悪ぃし、だせぇー・・・』
フロイドはボスッとハットを監督生に被せて誤魔化す。監督生はハットを被り直し、珍しく赤面しているフロイドを見ようとするも、フロイドの大きな手で顔を押されてしまい監督生の視界はすぐに遮られてしまった。
『ってか、小エビちゃん・・・シレッと俺に告ってなかった?』
───フロイド先輩が好きです。
『あ、あれぇ?バレました?』
わざとらしく言ってみるが、照れ隠しであり監督生は空恥しく目線を逸らす。
そして、ずっと耐えていた目尻も気が緩み涙が頬を伝ってしまった。
『ちょっ・・・小エビちゃん!何でまた泣くの?あ、いつまでも水に浸かって冷たかった?!それとも、気づかないうちに怪我した?!』
『ち、違っっ・・・』
フロイドは監督生が泣くところを今夜初めて見た。
不良のような生徒に理不尽な対応をされても、勉強についていけなくても泣くことはなかった。どんなにフロイドが無茶苦茶に連れ回しても最後は笑ってくれる監督生。いつも目で追いかけいて、遠くても視界に入れば、驚かせてでも監督生の瞳に映りたかった。
『小エビちゃん・・・泣かないでよ。あっ、これあげる!!小エビちゃんに持ってて欲しい!!小エビちゃんを想って錬金術で混ぜてたら飛び出してきたんだけど、めちゃくちゃ綺麗だから!』
ポケットから無造作に取り出すと横に座る監督生に握らせる。しゃくりながら手の中に収まる固形物を見るとその美しさに涙は引っ込む。
『それ、”泡沫のサファイア”っていうんだって。イシダイ先生が教えてくれたぁ。普通のサファイアは透明度が高いほど高価らしいんだけど、それ・・・よぉく見てみて?』
『・・・・・・水が入ってるみたいに泡がぷくぷくしてる。吸い込まれそうな深い青色ですね・・・』
『そう!凄く珍しくて錬金術でしか作れない人工宝石。それでも配合が難しくって中々お目にかかれないぐらい珍しいんだって!俺天才じゃ~ん!』
『へぇ!!フロイド先輩は天才です!嬉しい・・・ありがとうございます!それにしても、ほんと綺麗・・・アズール先輩が欲しいって言いそうですね』
小エビちゃんにあげるから、アズールにはやらねぇ~とケタケタと笑うフロイド。
夜の暗闇の中のわずかな月の光でも分かるぐらい、泡沫のサファイアは輝く。
『その宝石の石言葉教えてあげるね。”儚げな慈愛”だってさ。・・・・・・小エビちゃんにピッタリじゃん』
『ど、どういうことですか?』
『小エビちゃん、元の世界に帰るんでしょ?』
監督生の手から転がった泡沫のサファイアがプールに落ちそうになり、フロイドが慌ててキャッチした。
フロイドの言葉に目を丸くしている監督生からハットを回収すると、フロイドは泡沫のサファイアをギュッと握り、マジカルペンを翳した後そっと手を開く。
泡沫のサファイアはティアドロップ型のネックレスになっていた。
『はい、付けてあげるねぇ』
『どうして・・・私が帰るって知って・・・』
監督生に腕を回し、抱きしめるようにネックレスを首元に飾る。いつかされたようにフロイドはさり気なく監督生の髪に口付け、すぐに離れた。
『うん!よく似合ってる!あー・・・うん・・・こんなに小エビちゃんが泣くの初めてじゃん?だから、そうかなってピンときた。当たって欲しくなかったけど・・・当たっちゃったねぇ』
眉を下げ目を細めて笑うフロイドこそ儚げで、迷惑だと分かっていても監督生は声を上げて泣いた。
『俺も小エビちゃんが好き・・・』
ふざけ合ってたくさん笑い、紡ぎあった思い出。
抱きしめて貰えた温もり、この声や香りもいつかは忘れてしまうかもしれない。
声にならない想いを監督生は背中に回す腕に込めた。
『忘れないで欲しいんだけど・・・泡沫のサファイアの泡は消えても何回も何回も生まれるんだって。小エビちゃんがそのサファイアを見る度に俺を思い出してくれたら、すげぇ嬉しい』
『フロイド先輩を忘れるわけがないです!私は先輩しか好きになれない』
『もう、小エビちゃん可愛い過ぎだかんね!ほんとはギュッと締めて繋いで閉じ込めたいの分かってる?』
両手で監督生の頬を挟み顔を近づけ、絶えず零れる涙を親指で拭う。言っている台詞は物騒なのに仕草は優しくて監督生はクスッと笑ってしまう。
『じゃぁ、海の底に連れて行っちゃいますか?』
『小エビちゃんがそうして欲しいなら、すぐにでもアズールとジェイドんとこ連れて行くけど・・・・・・本当は違うでしょ?』
ごめんなさい・・・とまた涙が出てきて、フロイドはもぉ~と言いながら眉を下げて笑い、何度も拭ってあげる。
二人重なる手は重ねてきた日々を心に刻み、想い焦がれ過ぎて、失ったあとが怖い。
本当は同じ世界で生きていたい。
監督生とフロイドはこの祈りが届くなら何度でも言う。
『フロイド先輩っっ・・・愛してます』
『小エビちゃん、俺、ずーっとずーっと・・・愛してるからね!!!』
静かな夜に似つかわしくない声で、とびっきりの笑顔で愛を伝える。
永遠の約束の立会人は月と星だけ。
言葉にする想いは魔法よりも強く、水面に映る二つの影はひとつになった。
──また、きっと会おうね。
泡沫のサファイアの泡が静かに弾けた。
*****
『こうして、監督生の小エビちゃんは元の世界に帰りましたとさ・・・。おしまいっ!』
本を閉じるようにあなたはパチンと手を合わせた。
『小エビちゃん、帰っちゃったの?もうフロイドとは会えないのかな・・・・・・お姉さん、泣いてる?』
少女があなたを見上げると目が潤んでいて泣いているように見える。大丈夫よ、とゆっくり首を横に振ると少女はチャリッと揺れるあなたの首元に揺れるネックレスに気がついた。
『・・・お話の宝石に似てるね!泡がキラキラして綺麗!』
身を乗り出している少女は興味津々で、あなたは近くでネックレスを見せてあげた。深海のような深い青色の中にぷくぷくと泡が出ている。眺めていると気持ちが落ち着いて穏やかになり、深い愛情が込み上げ、少女はどうしてだろうと不思議そうな顔をしていた。
『パパとママに会いたい・・・』
『大丈夫。きっともうすぐ会えるよ』
『・・・え?』
あなたが少女の手を握る。
『─────!!!』
遠くの砂浜から声が聞こえる。
『ママ!!パパ!!』
『良かった・・・お迎えが来たね。・・・あのね、この話には実は続きがあるんだよ』
『そうなの?!・・・でも、残念。私遠いところに引っ越すの。だからもうお姉さんのお話聞けない』
『そっか。残念だけど仕方ない・・・さぁ、ママ達のところへ。日も暮れてきたし、寒いでしょ?そのカーディガンあげるね』
カーディガンを掛け直してあげると少女の砂を払う。ポンッと背中を押して促すと少女はお礼を言うと砂浜に足を取られながら走って行く。少女が無事に両親の元へたどり着くとあなたは振っていた手を下ろした。
『・・・夕方の海は少し寒いかな・・・くしゅん!』
『あ~ぁ、カーディガンをあの子にあげちゃうからでしょ?風邪引くじゃん、小エビちゃん』
あなたの肩に大きなジャケットが掛かる。
『・・・フロイド先輩!』
オッドアイの優しい眼差しがあなたに注がれる。
『フロイド先輩があの子の両親を連れてきてくれたのですね。ありがとうございます』
パステル色の尾びれの長い小魚がフロイドの周りに飛び回っていて、小魚ちゃん達お疲れちゃん!とパチンと指を鳴らすと弾けて消えた。
『だってぇ、小エビちゃんのお願いなら聞くしかないじゃん』
””フロイド先輩!あの子、きっと迷子です!私があの子のお相手してる間にご両親を探して連れてきてください!””
『おかげであの子もホッとしたと思います』
『それにしても小エビちゃ~ん。おとぎ話とかって言ってぇ、俺たちの話しちゃって~ウケる!』
『き、聞いてたんですね・・・』
フロイドは後ろから抱きつき、顎をあなたの頭に乗せてグリグリと圧力をかけるとあなたは恥ずかしそうに自分の指を絡めた。あなたにとってはおとぎ話のような体験だと思ったのは事実。
本当にまたフロイドと会えるなんて奇跡で、こうしてまたじゃれあえるのは幸せなこと。
今も首元に飾られている泡沫のサファイアに触れながら、その時のことを思い出す。
『フロイド先輩、もう一個お願いしてもいいですか?』
『えぇ~今日の小エビちゃん、お願いばっかぁ~。もう、惚れた弱みってやつで聞いてあげるけどぉ!あ、その代わりに俺のお願い聞いてくれる?』
『うわ・・・対価とか久しぶりなんですけど。・・・わかりました』
ニタリと笑うフロイドに一瞬たじろぐがあなたはどうしても叶えて欲しいことがあった。それはあなたの優しさであり、気遣い。
爪先立ちになって背の高いフロイドに耳打ちする。当然爪先立ちぐらいでは届かないのでフロイドは体を傾けてあげた。
『そんな事でいいの?めちゃくちゃ簡単な願いじゃん・・・。』
今度はフロイドがお願いをあなたに耳打ちする。
あなたは照れくさそうに笑顔で頷き、視線を願いの先へ向ける。フロイドは胸ポケットにマジカルペンを取り出しふわりと魔力を飛ばした。
『ありがとうございます、フロイド先輩。あぁ、そうそう!フロイド先輩に言わなきゃいけないことがあるんです』
『ん?なぁに?俺の願いごとの却下はナシね』
******
『そうなの、不思議よねー。体が波に押されるみたいにここに来たの』
母親と手を繋ぎながら歩く少女。
不思議な経験をしたという母親の話をおとぎ話の魔法みたい!と跳ねながら喜ぶ。
『あのね!ママ達とはぐれた後にたくさん貝殻拾ったの!見てみて!!』
手をポケットに入れると少女は首を傾げる。何度も傾げているものだから、母親がどうしたの?と声をかける。
『・・・・・・貝殻が割れてない!!それに増えてる!!きれーい!!』
小さな手の中には割れた貝殻は割れる前の元のかたちに戻り、新たに綺麗な貝殻も増えていた。
凄い!魔法だ!と大事そうに両手で優しく包む。
『小エビちゃん!!!やったぁぁぁ!!』
『フ、フロイド先輩!お、落ちる!!ってか、お願いはどうなったんですか?!』
『お願いのちゅーは後でしまくるからいいの!今はそれどころじゃねぇし!!!あー!早くアズールとジェイドに報告してぇ!!』
『・・・小エビ・・・ちゃん?フロイド・・・?』
少女がさっきまでいた白い砂浜から大きな声が聞こえ貝殻を包んだまま砂浜を振り返る。
フロイドがあなたの両脇を抱えあげ、慈しむようにあなたのお腹に顔を擦り付けていた。
困ってそうで困っていない泣き顔のあなたと、感無量だと言わんばかりに泣きながら目を細めて笑うフロイド。
『そっか・・・そうなんだ!!お姉さん・・・ううん!小エビちゃん!あのお話の続き分かったよ!また、会えて良かったね・・・』
少女は小エビちゃん、貝殻ありがとう。と呟くと幸せを分けてもらったような笑顔で愛する両親の元へ戻った。
『小エビちゃん、”3人”で幸せになろうね!』
弾けては生まれる─泡沫。
消えても永遠に変わらないものがある。
1度離れた二人の物語は二人だけが知る。
濃い泡沫の色は慈しむ愛。
Fin