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風任せ
【何時集合?どこに行きたい?ランチは何にしよっか?】
【せっかくだからショッピングも組み込んじゃう?そうだね。今ならサマーバーゲンやってるよ♪】
巷で噂の最先端スイーツ。開店したてのお洒落カフェ。流行りものが大好きなマジカメグラマーにぬかり無し。
いつもならこっちが伝えた希望を全部拾い上げたデートコースをさらっと決めてもらえるのに、今回はどうやら違うらしい。
【十時に迎えに行くから待ってて。あ!いつもより動き易い格好と履き慣れた靴でよろよろ〜♪♪♪】
口調が余裕で再生される文面で、ちょうどきっちり十二時間前にラインが飛んできたからだ。
(なんだろ?お散歩?ケイト先輩って、ちっとも体育会系じゃないよね?もしピクニックなら先に教えて欲しいなあ。お弁当くらい頑張って詰めるのに)
授業中に落としたり更衣室から盗まれたりして失くしたくないから、アクセサリーで自分を飾るのは休みの日だけ。先輩とお揃い。もらったばかりのブレスレットをジュエリーケースから連れ出した。
足元は赤いデッキシューズ。リネンのシャツは生成色。機動力重視ならチノパンで、ざっくり纏めてだいたい完成。
結論。爪の表面に専用塗料でお絵描きするより求められるのは日焼け止めだ。
「監督生ちゃん、おっはよ〜♪時間通りにけーくん参上!昨日はしっかりよく眠れた?」
「おはようございます!ケイト先輩!宿題の途中で力つきて、きっちり九時間も寝ちゃいました……」
「どーりで顔色イイと思った。大変よろしい♪今日はそんなに遠くまで行かないからさ、早めに帰ってきて課題手伝ってあげるよ。今週はどれ?」
「暗記系は自力でどうにか出来そうなので実践魔法の講師をお願いしたいです」
「ヤッバ〜。オレもちょっと苦手なヤツじゃん!でもでもっ!たまには先輩の威厳見せなきゃね☆」
不慣れなネイルアートより紫外線対策を優先して正解だった。いつもの週末よりは私服の布がバサバサしていないケイトの背後に箒が居る。
脳に伝令。今日は健康的にツーリング。先輩の瞳に閉じ込められたエメラルドグリーンのそよ風を全身で浴びる解放感。最高に気持ちよさそうだ。
挨拶代わりにもらうキス。おでこに触れた恋する詠唱《今日もめっちゃカワイイね!》。めっそうもないけど目一杯背伸びして、ほっぺにチュッとお返しした。
陽が昇ってから沈むまでがゴースト達の仮眠時間だし、我らが寮唯一の四つ足寮生は三十分以上早く出掛けてる。今日は馬術部の馬房でネズミ狩りのアルバイトらしい。
だから人目を気にする必要はまるでない。
地上でも水中でも渓谷でも住んでみちゃえば都だし、地元ルールと言うか誰かの営みがある場所には、その土地ならではの習慣が根付いてる。
今まで距離感ゼロの愛情表現なんて存在しない場所で暮らしていたから心臓が毎日破裂しそうだったけど、まあ慣れた。照れ臭さは全く消えないけど慣れてしまった。
「はー……けーくんって、ほんっと幸せものだね。うちのガッコのヤバイひと達のお気に入りちゃん、こうやって一人占めしてるんだもん」
二歳も年上なのに愛嬌満開で甘え上手な末っ子気質。ほっとけない。だってこんな子を一人ぼっちにしたら絶対、鬱々と膝抱えたまま部屋の隅っこから動かないもの。
陥落した敗因は、こんな時でさえ抜けてくれない自己犠牲型・長女スキルのせい。
「ねえ先輩。今日はどこに行くんですか?」
「うんとねえ——決めてない。って言うか、気が向いた方向にふらっと飛んでみよっかなー、って突然思った。上手く言えないけど、なんか風に呼ばれてるんだよね。昨日から。どうせなら見たこと無い景色を一緒に見たいし終着点は知らない場所にしたくって。そんなお出かけ、嫌いじゃない?」
「むしろ好きです。たまには外で冒険したいし」
「そっか。よかったぁ!ほんっと監督生ちゃんって変わってる。ま、そこが好きなんだけどさ!ではではナイトレイブンカレッジ発着空の旅、一名様ごあんなーい♪」
晴天飛行の玄関口はオンボロ寮で一番、天に近いバルコニー。ここから眺める麓の街は、さながら巨人の箱庭だ。
三日月湖。東へ流れる曲がりくねった黒い河。物流を対岸へ渡す鉄橋はヨルムンガンドを彷彿とさせるくらい凄く長い。青銅色の塗箸みたい。
あっちからやってくる特急列車は子供が自由に組んで作ったような、歪んだ線路上をひた走る。ターミナル駅は時計塔のすぐ近く。
トラック。乗合いバス。消防車。ぜんまい仕立てのおもちゃみたいな車列が、ひっきりなしに行き交う主要道路に渋滞は発生していない。
何度か鏡舎経由で連れ出してもらったけど徒歩で向かったら二時間以上はかかるだろう。
それほどまでの僻地——もとい。切り立った崖の上。深く昏い隠者の森の最奥に名門学園がひっそりと、千年眠る竜王の居城の如くそびえている。
「ふふ!ケイト先輩、私もあの番組見ましたよ!【ハーツラビュルで流行ってる】ってエースとデュースが教えてくれたから。箒でビュンって飛んでって空の上から見つけた面白そうな場所に突撃取材かけるアレですよね?」
「うーん。概ね正解かな。でも五分の二は不正解。なぜならオレはただ名前が無い旅人になりたいだけの操舵士で羅針盤があなたちゃんだから」
不思議の国の住人は謎かけみたいなもの言いが得意。さっぱりちんぷんかんぷんだ。
どこからともなく取り出したヘアゴムで、自慢のふわふわさらさらを惜しげなく括る横顔に、すかさず胸がギュッとなった。
そう。本気モードのケイト・ダイヤモンドはそこはかとなく心臓に悪い。いつもキラキラおちゃらけてるから、その反動が狡いくらい格好いい。何度ハートを盗まれたかなんて恥ずかしくって覚えてない。
「ざっくりでいいよ。道しるべになる光を頂戴?君とならどこまでだって行けちゃうから♪北?それとも東?誰も知らないような秘境の洋食屋さんを探すのでも、あの渡り鳥の群れを尾行するのでもなんでもオッケー!プリンセス・あなたのお気に召すまま気紛れに」
赤の女王の命令にトランプ兵は逆らえない。でも君とグリちゃんは、どう考えたって無敵のジョーカー。イレギュラーそのものだからオレがもらった存在理由まるごとチップにして星の声に委ねるのだ。
嘘ばっかりで退屈な人生に出会い頭でペンキ缶とポップコーンバケットをひっくり返してくれちゃった、あわてんぼうの女の子。家への帰り道が無い迷子。暗闇を照らす簡単な魔法だって使えない。
それなのに一メートル先だって手探りじゃなきゃ進めない絶望色の土曜日を、夢色の絵の具とザクザクぶったぎる容赦ない絵筆で素敵に可憐に塗り替えちゃう。そんな君と一緒なら絶対、楽しいことしか起こらないでしょ?
膝の上にひょいと乗せられるくらいミニマムで底抜けに退屈知らずなあなたちゃんと、運命に岩塩ブチ撒けてハバネロ風味のデスソースでデコるオレが同時に生まれなかった今日に乾杯。
「それじゃあケイ……じゃなくて、けーくん。なんとなく南がいいです。風向きはどちらかって言えばあっちだから逆らわないでこのまま乗っかる。実はお気に入りのインク瓶を割ってしまったので初めましてな文具屋さんに寄って、やっぱり初めましてなカフェでお昼ごはん、食べたいです。今日はハンバーグドリアとブルーベリータルトの気分」
それは小さな解放宣言。自由を空に求めたからには名前で呼ぼう。お互いに。
築ウン百年な建物が軋む。しなる窓枠。絶叫めいた蜘蛛の巣カーテンの悲鳴。ひときわ強く吹き抜けた、この時期特有の偏西風は台風の子供と恋人達を軽々運ぶ。
「あははっ!けーくんって呼んでもらえるの新鮮♪それじゃああなたちゃん、舌噛んじゃうからお口チャックでお願いね。本機は間もなく離陸しま〜っす☆レッツゴー!」
絵本の中の黒猫は必至で爪をたててたけど自分には自由に動かせる腕がある。
すっかり覚えた浮遊感。羅針盤の役割はどんなに酷い荒天の中でも目的地のイメージをはっきり舵取りに伝えること。
ねえ先輩。見えますか?赤い屋根に蔦がびっしり絡まった煉瓦壁の喫茶店。看板猫は白黒ハチワレ。どこに在るかは知らないけれど私はここに行ってみたい。
爪先がふわりと重力から解放される直前で、すかさず彼に抱き付いた。
END
【何時集合?どこに行きたい?ランチは何にしよっか?】
【せっかくだからショッピングも組み込んじゃう?そうだね。今ならサマーバーゲンやってるよ♪】
巷で噂の最先端スイーツ。開店したてのお洒落カフェ。流行りものが大好きなマジカメグラマーにぬかり無し。
いつもならこっちが伝えた希望を全部拾い上げたデートコースをさらっと決めてもらえるのに、今回はどうやら違うらしい。
【十時に迎えに行くから待ってて。あ!いつもより動き易い格好と履き慣れた靴でよろよろ〜♪♪♪】
口調が余裕で再生される文面で、ちょうどきっちり十二時間前にラインが飛んできたからだ。
(なんだろ?お散歩?ケイト先輩って、ちっとも体育会系じゃないよね?もしピクニックなら先に教えて欲しいなあ。お弁当くらい頑張って詰めるのに)
授業中に落としたり更衣室から盗まれたりして失くしたくないから、アクセサリーで自分を飾るのは休みの日だけ。先輩とお揃い。もらったばかりのブレスレットをジュエリーケースから連れ出した。
足元は赤いデッキシューズ。リネンのシャツは生成色。機動力重視ならチノパンで、ざっくり纏めてだいたい完成。
結論。爪の表面に専用塗料でお絵描きするより求められるのは日焼け止めだ。
「監督生ちゃん、おっはよ〜♪時間通りにけーくん参上!昨日はしっかりよく眠れた?」
「おはようございます!ケイト先輩!宿題の途中で力つきて、きっちり九時間も寝ちゃいました……」
「どーりで顔色イイと思った。大変よろしい♪今日はそんなに遠くまで行かないからさ、早めに帰ってきて課題手伝ってあげるよ。今週はどれ?」
「暗記系は自力でどうにか出来そうなので実践魔法の講師をお願いしたいです」
「ヤッバ〜。オレもちょっと苦手なヤツじゃん!でもでもっ!たまには先輩の威厳見せなきゃね☆」
不慣れなネイルアートより紫外線対策を優先して正解だった。いつもの週末よりは私服の布がバサバサしていないケイトの背後に箒が居る。
脳に伝令。今日は健康的にツーリング。先輩の瞳に閉じ込められたエメラルドグリーンのそよ風を全身で浴びる解放感。最高に気持ちよさそうだ。
挨拶代わりにもらうキス。おでこに触れた恋する詠唱《今日もめっちゃカワイイね!》。めっそうもないけど目一杯背伸びして、ほっぺにチュッとお返しした。
陽が昇ってから沈むまでがゴースト達の仮眠時間だし、我らが寮唯一の四つ足寮生は三十分以上早く出掛けてる。今日は馬術部の馬房でネズミ狩りのアルバイトらしい。
だから人目を気にする必要はまるでない。
地上でも水中でも渓谷でも住んでみちゃえば都だし、地元ルールと言うか誰かの営みがある場所には、その土地ならではの習慣が根付いてる。
今まで距離感ゼロの愛情表現なんて存在しない場所で暮らしていたから心臓が毎日破裂しそうだったけど、まあ慣れた。照れ臭さは全く消えないけど慣れてしまった。
「はー……けーくんって、ほんっと幸せものだね。うちのガッコのヤバイひと達のお気に入りちゃん、こうやって一人占めしてるんだもん」
二歳も年上なのに愛嬌満開で甘え上手な末っ子気質。ほっとけない。だってこんな子を一人ぼっちにしたら絶対、鬱々と膝抱えたまま部屋の隅っこから動かないもの。
陥落した敗因は、こんな時でさえ抜けてくれない自己犠牲型・長女スキルのせい。
「ねえ先輩。今日はどこに行くんですか?」
「うんとねえ——決めてない。って言うか、気が向いた方向にふらっと飛んでみよっかなー、って突然思った。上手く言えないけど、なんか風に呼ばれてるんだよね。昨日から。どうせなら見たこと無い景色を一緒に見たいし終着点は知らない場所にしたくって。そんなお出かけ、嫌いじゃない?」
「むしろ好きです。たまには外で冒険したいし」
「そっか。よかったぁ!ほんっと監督生ちゃんって変わってる。ま、そこが好きなんだけどさ!ではではナイトレイブンカレッジ発着空の旅、一名様ごあんなーい♪」
晴天飛行の玄関口はオンボロ寮で一番、天に近いバルコニー。ここから眺める麓の街は、さながら巨人の箱庭だ。
三日月湖。東へ流れる曲がりくねった黒い河。物流を対岸へ渡す鉄橋はヨルムンガンドを彷彿とさせるくらい凄く長い。青銅色の塗箸みたい。
あっちからやってくる特急列車は子供が自由に組んで作ったような、歪んだ線路上をひた走る。ターミナル駅は時計塔のすぐ近く。
トラック。乗合いバス。消防車。ぜんまい仕立てのおもちゃみたいな車列が、ひっきりなしに行き交う主要道路に渋滞は発生していない。
何度か鏡舎経由で連れ出してもらったけど徒歩で向かったら二時間以上はかかるだろう。
それほどまでの僻地——もとい。切り立った崖の上。深く昏い隠者の森の最奥に名門学園がひっそりと、千年眠る竜王の居城の如くそびえている。
「ふふ!ケイト先輩、私もあの番組見ましたよ!【ハーツラビュルで流行ってる】ってエースとデュースが教えてくれたから。箒でビュンって飛んでって空の上から見つけた面白そうな場所に突撃取材かけるアレですよね?」
「うーん。概ね正解かな。でも五分の二は不正解。なぜならオレはただ名前が無い旅人になりたいだけの操舵士で羅針盤があなたちゃんだから」
不思議の国の住人は謎かけみたいなもの言いが得意。さっぱりちんぷんかんぷんだ。
どこからともなく取り出したヘアゴムで、自慢のふわふわさらさらを惜しげなく括る横顔に、すかさず胸がギュッとなった。
そう。本気モードのケイト・ダイヤモンドはそこはかとなく心臓に悪い。いつもキラキラおちゃらけてるから、その反動が狡いくらい格好いい。何度ハートを盗まれたかなんて恥ずかしくって覚えてない。
「ざっくりでいいよ。道しるべになる光を頂戴?君とならどこまでだって行けちゃうから♪北?それとも東?誰も知らないような秘境の洋食屋さんを探すのでも、あの渡り鳥の群れを尾行するのでもなんでもオッケー!プリンセス・あなたのお気に召すまま気紛れに」
赤の女王の命令にトランプ兵は逆らえない。でも君とグリちゃんは、どう考えたって無敵のジョーカー。イレギュラーそのものだからオレがもらった存在理由まるごとチップにして星の声に委ねるのだ。
嘘ばっかりで退屈な人生に出会い頭でペンキ缶とポップコーンバケットをひっくり返してくれちゃった、あわてんぼうの女の子。家への帰り道が無い迷子。暗闇を照らす簡単な魔法だって使えない。
それなのに一メートル先だって手探りじゃなきゃ進めない絶望色の土曜日を、夢色の絵の具とザクザクぶったぎる容赦ない絵筆で素敵に可憐に塗り替えちゃう。そんな君と一緒なら絶対、楽しいことしか起こらないでしょ?
膝の上にひょいと乗せられるくらいミニマムで底抜けに退屈知らずなあなたちゃんと、運命に岩塩ブチ撒けてハバネロ風味のデスソースでデコるオレが同時に生まれなかった今日に乾杯。
「それじゃあケイ……じゃなくて、けーくん。なんとなく南がいいです。風向きはどちらかって言えばあっちだから逆らわないでこのまま乗っかる。実はお気に入りのインク瓶を割ってしまったので初めましてな文具屋さんに寄って、やっぱり初めましてなカフェでお昼ごはん、食べたいです。今日はハンバーグドリアとブルーベリータルトの気分」
それは小さな解放宣言。自由を空に求めたからには名前で呼ぼう。お互いに。
築ウン百年な建物が軋む。しなる窓枠。絶叫めいた蜘蛛の巣カーテンの悲鳴。ひときわ強く吹き抜けた、この時期特有の偏西風は台風の子供と恋人達を軽々運ぶ。
「あははっ!けーくんって呼んでもらえるの新鮮♪それじゃああなたちゃん、舌噛んじゃうからお口チャックでお願いね。本機は間もなく離陸しま〜っす☆レッツゴー!」
絵本の中の黒猫は必至で爪をたててたけど自分には自由に動かせる腕がある。
すっかり覚えた浮遊感。羅針盤の役割はどんなに酷い荒天の中でも目的地のイメージをはっきり舵取りに伝えること。
ねえ先輩。見えますか?赤い屋根に蔦がびっしり絡まった煉瓦壁の喫茶店。看板猫は白黒ハチワレ。どこに在るかは知らないけれど私はここに行ってみたい。
爪先がふわりと重力から解放される直前で、すかさず彼に抱き付いた。
END