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夏。到来。
この世界にも、四季に近い季節の巡りはあるらしい。
それに気づいたということは、きっと、私がこの世界にだいぶ馴染んでしまった証なのだろう。
「えっ、嘘…咲いてるー?!」
見てくれはオンボロでもささやかな楽しみにと、周りに向日葵の種を植えたのが春も終わりのころだった。
その向日葵はここ数日、思わせぶりで開いてくれなかったのだが、それが、一斉に花開いていた。
朝見た時はまだ中途半端だったのに、今では、太陽に顔を向けて咲き誇っている大輪の花。
「うん!夏って感じー!」
青い空に白い雲、それから黄色のアクセントが【なんでもない、いつも通りの夏】を想起させて、なんだか懐かしい気分になる。
そういえば、いつもこのくらいの時期には家族総出で両親の実家に帰省していたな、と、そんなことを思いながら、ホースを持ち出して水やりに勤しむ。
時刻は昼下がり。
一人暇をもて余していたところに満開の向日葵がお出迎えしてくれれば、笑顔にもなるというものだ。
水しぶきに太陽が反射する。キラキラと落ちてゆくそれが眩しくて、目まいがした。
夏の暑さにやられただろうか。その場に座り込んでしばしの休憩。
ぴちゃん、ぴちゃん。
水の音がやけに大きく耳に響く。
遠く朧げに見えるのは、どこの世界の景色だろう。
「おい!監督生、大丈夫か?!」
「、え?」
頭上から思いもよらず声がしてそちらを見上げると、ぼやけて映るその顔にスペードのマークが見えた。
「あれ…デュース…?いつからそこに?」
「たった今だ。忘れ物を届けにきたら、お前がしゃがんでいたから…」
「心配させてごめん、大丈夫だよ。少し暑さにやられたかな、っと、あ」
「おっと」
突然立ち上がっためにフラついて、デュースの胸に倒れかかってしまった。
いつもはふざけて叩きあっている身体も、こうして改めて寄りかかると、とてもしっかりとしている。
その事実が、私をなんだか恥ずかしく、くすぐったい気持ちにさせて、パッと距離をとった。
「ごめん、」
「そんなことはいいんだ、それより本当に大丈夫なのか?」
「へーきへーき、」
「何かあったらすぐに言ってくれ。女の子には優しくしなさいって、この間も母さんに言われたんだ」
「デュースは今のままでも十分優しいよ。ウインターホリデーの時だって、飛んで帰ってきてくれて本当に嬉しかったよ。でも、ごめんね、ご家族との時間を取り上げちゃって。デュースがお母さんを大事に思ってることはよく知ってたのに」
「だから、いいんだ気にしなくて、そんなこと。監督生が無事だったなら、」
「ほら、そういうとこ。優しい。」
ふふ、と笑いかければ、少し頬を赤くして、そうか、と一言つぶやいた。
「そういえばグリムはどうしたんだ」
「お昼寝中。この間ね、やっとオンボロ寮も空調システムいれてもらったの。妖精たちが頑張ってくれてるから、グリムも過ごしやすいみたい。」
「あいつ、こういう時に監督生を助けなくて何がパートナーだよ」
「ふふ、グリムにとって私は子分だからね。足手まといにならないように私が頑張らないと」
「子分って…監督生、それ本気にしているのか?グリムはお前のこと」
「わかってるよ。…でも、私もグリムも、ずっと一緒に居られるか、わからないから。私がしっかりしないと」
グリムとは、それからデュースやエースやみんなとは、私がこの世界から出られなくなったとしても、元の世界に帰ったとしてもずっと一緒には居られないのだ。
地面に視線を向ければ、色濃い影が足元から伸びていた。
この世に存在しないものには影がないんだっけ。私にもあるってことは、少なくともこの世界に私は存在できているんだ。
そんなおとぎ話や怪談でありきたりな言われですら、何度支えにしただろう。
が、今はそんなしんみりしていい場面じゃない。
余計に心配させてどうするんだ、と自分を叱咤し、雑念を振り払うように「ね」と笑って見せれば、対峙したデュースの顔はなんだか辛そうで。
どうした、と声をかけようとしたけれど、それは向こうからの言葉に遮られてしまった。
「あのさ」
「うん?」
太陽は相変わらず私たちをジリジリと照らして、肌にはじんわりと汗が浮かぶ。
ふと、デュースが私の肩を掴んだと思ったら、真剣な視線を向けられて、びく、と強張る私の身体。
なんでもない一日のなんでもない昼下がり。
特出すべきことなんてなにもない、いつも過ごしているこの場所で。
私たちは何をしているんだろう。
「監督生が、こっちの世界に留まるしか道がなくなったら、うちへこないか。一緒に暮らそう。」
「デュース…?」
「ずっと一緒にいよう、その方が、楽しい」
「え、あの」
「苦労は、するかもしれないけど…僕が頑張るから、一生、頑張るから」
「それ、プロポーズみたいに聞こえるよ?」
「…そ、そうとってもらって、構わない」
遮られた日差しは、デュースの髪の回りを照らして、その少し青みがかった黒がチカチカと目に映った。
私を見つめるデュースは真っ赤になりながら、監督生からの返事を聞きたい、と小さく声を発した。
「私からの返事は、」
デュースが名前を呼んでくれたら、しようと思ってるんだけど。
きょとん、と目をしばたかせて、そういえばずっと監督生のままだったな、と、デュースは笑った。屈託のないその笑顔につられて、私も微笑み返す。
1テンポ置いてから、スゥと息を吐いて。デュースは初めて、私の名前を呼んだ。
もしかすると。
なんでもない日なんて、生きている限り一生訪れないのかもしれない。
【昼下がりのプロポーズ】
「デュース、私てっきり、お付き合いが先かなと思っていたんだけど」
「!?な、あっ!?じゃあ、まずはうちに挨拶に来てくれないかッ!!」
「え?!いや、だから、それもプロポーズの延長線なんじゃ…」
「っ…こ、こういうのは、よくわからないんだ…でも、気持ちだけは本物だっ」
いつでも真っ直ぐなこの人の気持ちを疑うことなど、誰が思いつくだろうか。
大丈夫だよ、いつも一緒に居てくれてありがとうという気持ちを込めて、握り締められていた拳にそっと手を重ねた。
一体いつから私のことを意識していてくれたんだろうとの質問は、心の中にしまっておくことにして。
「信じてるよ。私もデュースのこと、好きだから」
告げた言葉に目を回すデュースを支えることなどできるはずもなく、二人して地面に倒れ込んだのは、この先の未来に語り継ごう。
この世界にも、四季に近い季節の巡りはあるらしい。
それに気づいたということは、きっと、私がこの世界にだいぶ馴染んでしまった証なのだろう。
「えっ、嘘…咲いてるー?!」
見てくれはオンボロでもささやかな楽しみにと、周りに向日葵の種を植えたのが春も終わりのころだった。
その向日葵はここ数日、思わせぶりで開いてくれなかったのだが、それが、一斉に花開いていた。
朝見た時はまだ中途半端だったのに、今では、太陽に顔を向けて咲き誇っている大輪の花。
「うん!夏って感じー!」
青い空に白い雲、それから黄色のアクセントが【なんでもない、いつも通りの夏】を想起させて、なんだか懐かしい気分になる。
そういえば、いつもこのくらいの時期には家族総出で両親の実家に帰省していたな、と、そんなことを思いながら、ホースを持ち出して水やりに勤しむ。
時刻は昼下がり。
一人暇をもて余していたところに満開の向日葵がお出迎えしてくれれば、笑顔にもなるというものだ。
水しぶきに太陽が反射する。キラキラと落ちてゆくそれが眩しくて、目まいがした。
夏の暑さにやられただろうか。その場に座り込んでしばしの休憩。
ぴちゃん、ぴちゃん。
水の音がやけに大きく耳に響く。
遠く朧げに見えるのは、どこの世界の景色だろう。
「おい!監督生、大丈夫か?!」
「、え?」
頭上から思いもよらず声がしてそちらを見上げると、ぼやけて映るその顔にスペードのマークが見えた。
「あれ…デュース…?いつからそこに?」
「たった今だ。忘れ物を届けにきたら、お前がしゃがんでいたから…」
「心配させてごめん、大丈夫だよ。少し暑さにやられたかな、っと、あ」
「おっと」
突然立ち上がっためにフラついて、デュースの胸に倒れかかってしまった。
いつもはふざけて叩きあっている身体も、こうして改めて寄りかかると、とてもしっかりとしている。
その事実が、私をなんだか恥ずかしく、くすぐったい気持ちにさせて、パッと距離をとった。
「ごめん、」
「そんなことはいいんだ、それより本当に大丈夫なのか?」
「へーきへーき、」
「何かあったらすぐに言ってくれ。女の子には優しくしなさいって、この間も母さんに言われたんだ」
「デュースは今のままでも十分優しいよ。ウインターホリデーの時だって、飛んで帰ってきてくれて本当に嬉しかったよ。でも、ごめんね、ご家族との時間を取り上げちゃって。デュースがお母さんを大事に思ってることはよく知ってたのに」
「だから、いいんだ気にしなくて、そんなこと。監督生が無事だったなら、」
「ほら、そういうとこ。優しい。」
ふふ、と笑いかければ、少し頬を赤くして、そうか、と一言つぶやいた。
「そういえばグリムはどうしたんだ」
「お昼寝中。この間ね、やっとオンボロ寮も空調システムいれてもらったの。妖精たちが頑張ってくれてるから、グリムも過ごしやすいみたい。」
「あいつ、こういう時に監督生を助けなくて何がパートナーだよ」
「ふふ、グリムにとって私は子分だからね。足手まといにならないように私が頑張らないと」
「子分って…監督生、それ本気にしているのか?グリムはお前のこと」
「わかってるよ。…でも、私もグリムも、ずっと一緒に居られるか、わからないから。私がしっかりしないと」
グリムとは、それからデュースやエースやみんなとは、私がこの世界から出られなくなったとしても、元の世界に帰ったとしてもずっと一緒には居られないのだ。
地面に視線を向ければ、色濃い影が足元から伸びていた。
この世に存在しないものには影がないんだっけ。私にもあるってことは、少なくともこの世界に私は存在できているんだ。
そんなおとぎ話や怪談でありきたりな言われですら、何度支えにしただろう。
が、今はそんなしんみりしていい場面じゃない。
余計に心配させてどうするんだ、と自分を叱咤し、雑念を振り払うように「ね」と笑って見せれば、対峙したデュースの顔はなんだか辛そうで。
どうした、と声をかけようとしたけれど、それは向こうからの言葉に遮られてしまった。
「あのさ」
「うん?」
太陽は相変わらず私たちをジリジリと照らして、肌にはじんわりと汗が浮かぶ。
ふと、デュースが私の肩を掴んだと思ったら、真剣な視線を向けられて、びく、と強張る私の身体。
なんでもない一日のなんでもない昼下がり。
特出すべきことなんてなにもない、いつも過ごしているこの場所で。
私たちは何をしているんだろう。
「監督生が、こっちの世界に留まるしか道がなくなったら、うちへこないか。一緒に暮らそう。」
「デュース…?」
「ずっと一緒にいよう、その方が、楽しい」
「え、あの」
「苦労は、するかもしれないけど…僕が頑張るから、一生、頑張るから」
「それ、プロポーズみたいに聞こえるよ?」
「…そ、そうとってもらって、構わない」
遮られた日差しは、デュースの髪の回りを照らして、その少し青みがかった黒がチカチカと目に映った。
私を見つめるデュースは真っ赤になりながら、監督生からの返事を聞きたい、と小さく声を発した。
「私からの返事は、」
デュースが名前を呼んでくれたら、しようと思ってるんだけど。
きょとん、と目をしばたかせて、そういえばずっと監督生のままだったな、と、デュースは笑った。屈託のないその笑顔につられて、私も微笑み返す。
1テンポ置いてから、スゥと息を吐いて。デュースは初めて、私の名前を呼んだ。
もしかすると。
なんでもない日なんて、生きている限り一生訪れないのかもしれない。
【昼下がりのプロポーズ】
「デュース、私てっきり、お付き合いが先かなと思っていたんだけど」
「!?な、あっ!?じゃあ、まずはうちに挨拶に来てくれないかッ!!」
「え?!いや、だから、それもプロポーズの延長線なんじゃ…」
「っ…こ、こういうのは、よくわからないんだ…でも、気持ちだけは本物だっ」
いつでも真っ直ぐなこの人の気持ちを疑うことなど、誰が思いつくだろうか。
大丈夫だよ、いつも一緒に居てくれてありがとうという気持ちを込めて、握り締められていた拳にそっと手を重ねた。
一体いつから私のことを意識していてくれたんだろうとの質問は、心の中にしまっておくことにして。
「信じてるよ。私もデュースのこと、好きだから」
告げた言葉に目を回すデュースを支えることなどできるはずもなく、二人して地面に倒れ込んだのは、この先の未来に語り継ごう。