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Azul
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「ダッセェーーーーーー!!!!!!」
その大きな声がこだましたのは、午後5時に近づいたころのことだった。
本題を話すには、時を少し遡らなければならない。
本日、モストロラウンジは店休日。支配人だ従業員だと言っても、本分は皆学生とあって、テスト期間中だけは、このラウンジも休みにせざるを得ない。
寮の顔である三人が、この時期の人気のないこの場所を存分に利用していることを知るのは、寮生のうちでも数える程だ。
ただしいつもと違うのは、その三人に混じって、一人の小エビがいることだった。
『プレゼント?』
「はい。日頃のお礼です。」
『エッ、お礼ってそんな…なんの…あぁ〜それ、対価とかいるやつじゃないですか?』
「貴女、僕のことなんだと思っているんですか?流石に彼女にそんなことは言いませんよ」
『ンン…そういってこの間も対価って言ってきたじゃないですか…』
じと、とアズールに向けられる目は、そう言いつつもイタズラを湛えて笑っており、ジェイドとフロイドも勉強の手を止めてその流れに乗っかった。
「へぇ?アズールは貴女にどんなことを要求するんですか?」
「小エビちゃんへの要求…つーかなんの対価なの?まずそこじゃね?」
『聞いてくださいよ〜それが〜』
「黙ってください!」
勢い伸びてきた手に口を塞がれて、わーわーと笑いが溢れる。グラスの氷もカランと音を立てた。
どこにでも見られる高校生活のワンシーンでも、モストロ・ラウンジのカウンターでしていれば、一味違うというものだ。
ギブギブ、と口を覆うアズールの手を叩いたあなたは、ぷは、といつもより大きく息を吸った。
『も〜!大丈夫ですよ、私にそういう趣味はないのでっ!』
「…本当ですね?」
『信用ないですね。大丈夫ですよ。ごほんっ…なんなら契約書でも交わしますか?』
「あは、それアズールの真似?ぜんっぜん似てねぇ」
「真似なら真似で、もう少し似せませんと」
『む…別に、似てないのは承知の上です〜!』
くすくすと笑いながら、もらった品の良い袋を覗いたあなたは、開けてもいいですか?と視線でアズールに問う。
どうぞとのジェスチャーに促されて、その紐を解いた。そして、それを見て唖然とする。
『え?』
「マジで?」
「こ、れは…」
「どうです?!素晴らしいでしょう!!」
入っていたのは、手触りの良い一枚のTシャツだった。
が、しかし。
その服の真ん中に大きく書かれた【Azul Ashengrotto】という独特の筆記体から、アズール以外の全員が目を離せなくなってしまった。
「先日ヴィルさんに化粧水を納品しに行った時に見せてもらったブランド服を参考にしてみました。あの様な服は、個性的で普通は着られない様に感じますが近くで見ると案外」
『ダッ…「ダッセェーーーーーー!!!!!!」
セェ〜〜〜〜〜 セェ〜〜 セェ…
そのフロイドの声は、オクタヴィネル寮生室にまで響き渡ったという。
「エ?!これ!?これアズールが作ったの!?嘘デショ〜!!!?」
「ぶふっ…!!ふっ、フロっ…あなたっ…ふふっ」
ジェイドは目をパチクリさせた次の瞬間には、口元を上品に覆って大笑いを耐えていた。
すんでのところでその言葉を飲み込んだあなたの努力はなんだったのだろうか。
一歩間違えば侮蔑にもなりそうな言葉をどんどん並べ立てては、嘘、嘘だ、と服を持ち上げ顔に近づけ、フロイドは大げさに驚いている。
アズールはアズールで、その光景が一つも理解できないと行った様子で時を止めてしまった。
フルフルとその眼鏡の前で手を振って、アズールの意識を確認するあなた。
『せ、先輩?せんぱーい?アズール先輩ッ…?だ、大丈夫、ですか?』
「っは!?」
「ねぇアズールマジでなんでこんなダッセェの考えついちゃったわけ?」
「この前から新しい事業の展開を、とブツブツ呟いてたのは、これでしたか…」
「そ、そう、です!食の業界だけではなく、幅を広げようと思った時、何ができるか、そう考えたんです。ラウンジで使う給仕服や寮服は僕らがデザインしていますし、それなら、通信販売もできそうな服飾業界に力を入れてみるのはどうかとようかと思いまして!で、試作品を…」
「それが、これなワケ?」
「少しばかり…個性が…ふ、ふふっ」
『これを、売る?』
「はい!第一弾とするならば、やはりブランド名を売るべきかと!もちろんブランド名は僕の名前です!」
『な、なるほど?』
なるほど?と言っておきながらも、あなたは内心頭を抱えていた。
このセンスで、一体どこからこんなに自信が湧いてくるのだろう。
正直にいう。ダサい。ダサいことこの上ない。着れたものじゃないこんなもの。
しかもよくよく見れば、アズールは後ろ手に自分の分も持っているではないか。
これはまさか、そう、俗にいう。
『せ、先輩、あの、ちょっとお聞きしたいんですけどぉ』
「どうぞ?」
『その、アズール先輩の後ろにあるのってぇもしかしてぇ』
「!!よくぞお気付きです!これは、試作品ではありますが、僕と貴女と、お揃いなんですっ!!」
やっぱりかーーーー!!
人間の頭がそこまで下がることがあるのか、と言わんばかりにガクンと落ちたあなたの頭。
これはまごう事なきペアルック。こんなでかでかと彼氏の名前が入った服を、当の本人と二人で着るというのか?
控えめに言って吐きそうだ、とあなたの心は荒れていた。
「ぺっ、ペア、ルックーーーーー!?!?」
「っ、あなたさんっ、よ、よかった、ですね?!」
もはや座っていることも難しいほどに笑うフロイドはカウンターをダンダン叩いて割りそうな雰囲気だし、一方のジェイドも呼吸がか細くて死にそうになっている。
渦中のあなたは、嬉しそうに言葉を待つアズールに対峙して、どうにかこの計画をやめさせなければと頭をひねる。
こんなものを世界に向けて売り出そうだなんて、完全に赤字待ったなしだし、それ以上に恥ずかしすぎて死にそうだ。
どうしてこんなにも商才のあるアズールがこんなことにも気づかないのだ。
しかし、どんな言葉も、アズールのプライドを傷つけることに間違いなく、かと言って、直接的な言葉でなかったなら、この計画が止まるはずもない。
(万事休すか…私がこれを着なければならない日も近い気がする)と遠くに目をやった瞬間だった。
閃きという名の一縷の望みは、追い詰められたところにこそやってきてくれる。ガッツポーズは心の中で。
すっと息を吸うと、あなたは此処一番のぶりっ子を演じにかかる。
『っ…先輩はっ…意地悪、ですねっ…』
「?何がですか」
『だって、アズール先輩、私の気持ち、全然わかってないっ…!』
「え…それは、ど、どういう?」
『アズール先輩はっ、私以外の人に、アズール先輩の名前が入った服を着られてもいいんですか?!』
「ハッ!!」
『これを売り出したら…私以外の人も、たくさん…たくさんの女の子が、アズール先輩の名前に身体を温めてもらうことになるんですよ?!』
「それは、盲点でした!!」
その茶番を見たジェイドとフロイドの時は止まる。
真っ只中にいるアズールは、本気で悩み始めていた。
「う…これでは僕の計画を白紙に戻さざるを得ませんね…」
『うっ…私だけでいいでしょう…?アズール先輩の名前を身に纏うのは…。だめ、でしょうか?』
「グッ…!!そんな言い方はッ…」
『私…私っ、先輩の名前を大事にします!!』
「〜〜っああもう!!わかりました!!この服の展開はやめにしますっ!」
『わぁん!ありがとうございますアズール先輩っ!やっぱり先輩はかっこいい!大好きですッ!』
「こ、今回だけですよっ!?」
また一から新しい事業を練らなければ、と言いつつも、どこか嬉しそうなアズールの表情に、あなたの頬も知らず緩む。
態とらしくも勢いづいてアズールに抱きつき、本人からは見えない位置でジェイドとフロイドに、グッと親指を立てて合図した。
これで難は免れた、と。
それを見た双子が小声でこんなことを話していたなど、当の二人は知る由もない。
「あのさージェイド…確かに事業の件は助かったけどさぁ…なーんでこんなの見せつけられてんの俺たち」
「こういう二人組をなんと呼ぶか知っていますか?フロイド。」
「もちろん、知ってる…あれでしょ、バカップル」
「正解ですよ」
「もーほんとやだ…やる気が吹っ飛んだぁ…」
呆れたフロイドの声は、オクタヴィネル寮を包み込む海に吸い込まれていった。
その大きな声がこだましたのは、午後5時に近づいたころのことだった。
本題を話すには、時を少し遡らなければならない。
本日、モストロラウンジは店休日。支配人だ従業員だと言っても、本分は皆学生とあって、テスト期間中だけは、このラウンジも休みにせざるを得ない。
寮の顔である三人が、この時期の人気のないこの場所を存分に利用していることを知るのは、寮生のうちでも数える程だ。
ただしいつもと違うのは、その三人に混じって、一人の小エビがいることだった。
『プレゼント?』
「はい。日頃のお礼です。」
『エッ、お礼ってそんな…なんの…あぁ〜それ、対価とかいるやつじゃないですか?』
「貴女、僕のことなんだと思っているんですか?流石に彼女にそんなことは言いませんよ」
『ンン…そういってこの間も対価って言ってきたじゃないですか…』
じと、とアズールに向けられる目は、そう言いつつもイタズラを湛えて笑っており、ジェイドとフロイドも勉強の手を止めてその流れに乗っかった。
「へぇ?アズールは貴女にどんなことを要求するんですか?」
「小エビちゃんへの要求…つーかなんの対価なの?まずそこじゃね?」
『聞いてくださいよ〜それが〜』
「黙ってください!」
勢い伸びてきた手に口を塞がれて、わーわーと笑いが溢れる。グラスの氷もカランと音を立てた。
どこにでも見られる高校生活のワンシーンでも、モストロ・ラウンジのカウンターでしていれば、一味違うというものだ。
ギブギブ、と口を覆うアズールの手を叩いたあなたは、ぷは、といつもより大きく息を吸った。
『も〜!大丈夫ですよ、私にそういう趣味はないのでっ!』
「…本当ですね?」
『信用ないですね。大丈夫ですよ。ごほんっ…なんなら契約書でも交わしますか?』
「あは、それアズールの真似?ぜんっぜん似てねぇ」
「真似なら真似で、もう少し似せませんと」
『む…別に、似てないのは承知の上です〜!』
くすくすと笑いながら、もらった品の良い袋を覗いたあなたは、開けてもいいですか?と視線でアズールに問う。
どうぞとのジェスチャーに促されて、その紐を解いた。そして、それを見て唖然とする。
『え?』
「マジで?」
「こ、れは…」
「どうです?!素晴らしいでしょう!!」
入っていたのは、手触りの良い一枚のTシャツだった。
が、しかし。
その服の真ん中に大きく書かれた【Azul Ashengrotto】という独特の筆記体から、アズール以外の全員が目を離せなくなってしまった。
「先日ヴィルさんに化粧水を納品しに行った時に見せてもらったブランド服を参考にしてみました。あの様な服は、個性的で普通は着られない様に感じますが近くで見ると案外」
『ダッ…「ダッセェーーーーーー!!!!!!」
セェ〜〜〜〜〜 セェ〜〜 セェ…
そのフロイドの声は、オクタヴィネル寮生室にまで響き渡ったという。
「エ?!これ!?これアズールが作ったの!?嘘デショ〜!!!?」
「ぶふっ…!!ふっ、フロっ…あなたっ…ふふっ」
ジェイドは目をパチクリさせた次の瞬間には、口元を上品に覆って大笑いを耐えていた。
すんでのところでその言葉を飲み込んだあなたの努力はなんだったのだろうか。
一歩間違えば侮蔑にもなりそうな言葉をどんどん並べ立てては、嘘、嘘だ、と服を持ち上げ顔に近づけ、フロイドは大げさに驚いている。
アズールはアズールで、その光景が一つも理解できないと行った様子で時を止めてしまった。
フルフルとその眼鏡の前で手を振って、アズールの意識を確認するあなた。
『せ、先輩?せんぱーい?アズール先輩ッ…?だ、大丈夫、ですか?』
「っは!?」
「ねぇアズールマジでなんでこんなダッセェの考えついちゃったわけ?」
「この前から新しい事業の展開を、とブツブツ呟いてたのは、これでしたか…」
「そ、そう、です!食の業界だけではなく、幅を広げようと思った時、何ができるか、そう考えたんです。ラウンジで使う給仕服や寮服は僕らがデザインしていますし、それなら、通信販売もできそうな服飾業界に力を入れてみるのはどうかとようかと思いまして!で、試作品を…」
「それが、これなワケ?」
「少しばかり…個性が…ふ、ふふっ」
『これを、売る?』
「はい!第一弾とするならば、やはりブランド名を売るべきかと!もちろんブランド名は僕の名前です!」
『な、なるほど?』
なるほど?と言っておきながらも、あなたは内心頭を抱えていた。
このセンスで、一体どこからこんなに自信が湧いてくるのだろう。
正直にいう。ダサい。ダサいことこの上ない。着れたものじゃないこんなもの。
しかもよくよく見れば、アズールは後ろ手に自分の分も持っているではないか。
これはまさか、そう、俗にいう。
『せ、先輩、あの、ちょっとお聞きしたいんですけどぉ』
「どうぞ?」
『その、アズール先輩の後ろにあるのってぇもしかしてぇ』
「!!よくぞお気付きです!これは、試作品ではありますが、僕と貴女と、お揃いなんですっ!!」
やっぱりかーーーー!!
人間の頭がそこまで下がることがあるのか、と言わんばかりにガクンと落ちたあなたの頭。
これはまごう事なきペアルック。こんなでかでかと彼氏の名前が入った服を、当の本人と二人で着るというのか?
控えめに言って吐きそうだ、とあなたの心は荒れていた。
「ぺっ、ペア、ルックーーーーー!?!?」
「っ、あなたさんっ、よ、よかった、ですね?!」
もはや座っていることも難しいほどに笑うフロイドはカウンターをダンダン叩いて割りそうな雰囲気だし、一方のジェイドも呼吸がか細くて死にそうになっている。
渦中のあなたは、嬉しそうに言葉を待つアズールに対峙して、どうにかこの計画をやめさせなければと頭をひねる。
こんなものを世界に向けて売り出そうだなんて、完全に赤字待ったなしだし、それ以上に恥ずかしすぎて死にそうだ。
どうしてこんなにも商才のあるアズールがこんなことにも気づかないのだ。
しかし、どんな言葉も、アズールのプライドを傷つけることに間違いなく、かと言って、直接的な言葉でなかったなら、この計画が止まるはずもない。
(万事休すか…私がこれを着なければならない日も近い気がする)と遠くに目をやった瞬間だった。
閃きという名の一縷の望みは、追い詰められたところにこそやってきてくれる。ガッツポーズは心の中で。
すっと息を吸うと、あなたは此処一番のぶりっ子を演じにかかる。
『っ…先輩はっ…意地悪、ですねっ…』
「?何がですか」
『だって、アズール先輩、私の気持ち、全然わかってないっ…!』
「え…それは、ど、どういう?」
『アズール先輩はっ、私以外の人に、アズール先輩の名前が入った服を着られてもいいんですか?!』
「ハッ!!」
『これを売り出したら…私以外の人も、たくさん…たくさんの女の子が、アズール先輩の名前に身体を温めてもらうことになるんですよ?!』
「それは、盲点でした!!」
その茶番を見たジェイドとフロイドの時は止まる。
真っ只中にいるアズールは、本気で悩み始めていた。
「う…これでは僕の計画を白紙に戻さざるを得ませんね…」
『うっ…私だけでいいでしょう…?アズール先輩の名前を身に纏うのは…。だめ、でしょうか?』
「グッ…!!そんな言い方はッ…」
『私…私っ、先輩の名前を大事にします!!』
「〜〜っああもう!!わかりました!!この服の展開はやめにしますっ!」
『わぁん!ありがとうございますアズール先輩っ!やっぱり先輩はかっこいい!大好きですッ!』
「こ、今回だけですよっ!?」
また一から新しい事業を練らなければ、と言いつつも、どこか嬉しそうなアズールの表情に、あなたの頬も知らず緩む。
態とらしくも勢いづいてアズールに抱きつき、本人からは見えない位置でジェイドとフロイドに、グッと親指を立てて合図した。
これで難は免れた、と。
それを見た双子が小声でこんなことを話していたなど、当の二人は知る由もない。
「あのさージェイド…確かに事業の件は助かったけどさぁ…なーんでこんなの見せつけられてんの俺たち」
「こういう二人組をなんと呼ぶか知っていますか?フロイド。」
「もちろん、知ってる…あれでしょ、バカップル」
「正解ですよ」
「もーほんとやだ…やる気が吹っ飛んだぁ…」
呆れたフロイドの声は、オクタヴィネル寮を包み込む海に吸い込まれていった。