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アズールに、生まれて初めて「彼女」という存在ができた。
彼女のことを見ているだけで楽しいし、一緒にいれば幸せだし、触れ合えば愛しいと思っていた。
アズールは、自分がそういう「関係性」に臆病だと知っていたし、そんなものは信じてもいなかったが、実際に名前がついた繋がりというのは存外悪くないものだ。
「うっ…今日も可愛い…」
「またそれですか」
「アズールそれもう聞き飽きたぁ」
「…お前たちの目は節穴ですか!!どれだけ言っても言い足りない!!」
「いや、まぁ小エビちゃんは可愛いよ?可愛いけど」
「けど?」
「そればっか言ってるとアズール怒るじゃん」
「アズール以外の人間があなたさんに好意的な視線を向けると貴方、機嫌がものすごく悪くなりますから。気づいていないとは言わせませんよ。」
「当たり前でしょう。僕の彼女ですから」
アズールの言うことは、ジェイドやフロイドにも理解はされるものの、受け入れがたいものらしい。
やれやれ、と言った空気で目配せし合う双子を見て、アズールが机に突っ伏すのも日常茶飯事になってきた。
最近はこうして話を切られる事も増えて、少し物足りないと感じるアズール。
この二人に話を聞いてもらえなくなると、他の誰かに話さなければならなくなると少々頭を悩ませる。誰に?と言うことが問題だ。
同じ2年生なら、リドル?(いやいやない。可愛い彼女は小さいものが好きなのだから、リドルさん側からも好意を向けられたらたまったものじゃない。)
それじゃあ同じクラスのジャミル?(…いやそれもない。彼は僕と争えるくらいの技量の持ち主。けしかけたら面倒なことになりそうだ。)
となると、あなたといつも一緒にいるエースやデュースやジャックか?(…下級生にそんな話を触れるか!却下。)
すると上級生(…ヴィルさん?そう言う話は一蹴されそうだな。除外。)
「誰も話せる人がいないじゃないか!!」
そう頭を抱えたところで、チャイムが鳴り響く。悩みがあるからといって時は止まらず、授業がまた始まる。
とりあえず頭を切り替えないと。この授業で今日は最後だ。そのあとは部活…そこまで考えたアズールの脳に、ある人がポンと浮かび上がった。
「いた!!」
「アーシェングロット、どうした」
「あ…いえ、なんでもありませんッ… 失礼しました」
「そうか。では授業を始めるぞ」
「はい、お願いします」
そこでやっと、アズールに集中力が戻ったと言うものだ。
そうして放課後。アズールはあなたを引き連れて、部室へ向かった。
「イデアさん、いますか」
「おっアズール氏、今日は早いですな。新しいゲームが手にファ!?!?」
『こんにちは!』
「…拙者これでおいとましますわ」
「ちょっとイデアさん何で帰るんですか、せっかく僕が紹介に上がったと言うのに」
「いやだってオンボロ寮の監督生氏がいるなんて聞いてな」
自分の荷物を片付け始めたイデアの前に立ちはだかって、仁王立ちするのはもちろんアズール。
イデアは背が高くとも普段から縮こまっているので、アズールよりも小さく見えることもしばしばあった。
今日はいてもらわないと困る、帰られては困る。自分のために!、とアズールはニコニコしながら言葉を紡いだ。
「こちら、僕の彼女ですっ!」
『っ先輩っ…ちょっとその言い方は…』
「なんですか。間違ったことは言っていないでしょう?」
『そ、そうなん、ですけど、ぉ…』
「ン”ッ…!!」
ぽぽぽ、と頬を染めるその姿を見るのは久しぶりで、アズールの息はすでに詰まりかけている。
やっぱり可愛い。可愛い。可愛い!
「あのさぁアズール氏?」
「はいっ、なんでしょう!!可愛いでしょう彼女!!」
「…いや、あの、それは…まぁ、…それよりもずっとスマフォのバイブ鳴ってない?大丈夫なの?」
「え!?あっ!?すみません、ちょっと失礼!!」
ディスプレイに表示されている【モストロ緊急用】の文字を見て、何があったんだと部屋を飛び出たアズールの後ろで、イデアが「置いていかないで!!」と叫んだのは、もはやアズールの耳には届いていなかった。
そうして残されてしまったイデアとあなた。
全然関わりのなかった二人は無言の地獄を過ごすことになろうかと思いきや。案外そうでもなかった。
「あ、あの…」
『あっ!すみません、初対面でこんなことに…。』
「いや、それは、まぁ…アズール氏のことだから、仕方ないというか…」
『イデア先輩はアズール先輩のこと、よく知ってるんですね!アズール先輩ってオクタヴィネルの人以外とあまり交友を持ってないみたいに見えたので、実は今ちょっとびっくりしてるんですけど。…部活動の時はどんな感じなんですか?』
「え…そうだなぁ…割と…子供っぽいですぞ」
『えっ!どんなふうに…?』
「勝つために狙ったサイコロの目を確実に出す方法とか研究したり…」
『エッ?』
「ひひ…あれには拙者もびっく…いや、僕もびっくりしましたぞ」
あなたは「なんだか思っていたと違う一面が見えるなぁ」とクスリと笑顔をこぼす。
それを見たイデアは、少し面を食らったような顔をしてから、ぽりぽりと頬をかいた。
『そういえば、イデア先輩はゲーム類ならなんでも得意って聞いたのですが』
「突然?今どういう話の流れ?」
『いいじゃないですか~あの、実は私、やっとスマホを借してもらえたので、オンラインゲームを始めたんですけど、どうしてもクリアできなくて』
「ホォ?なんのゲームで?」
『アンダーレッドファンタジーっていうんですけど』
「ああアンレツ」
最初こそ驚いていたものの、好きなことやものの話をされれば、警戒心も少しは溶けるというもの。
声色に少しだけ楽しい気持ちを乗せたイデアが少し前のめりの体勢をとる。
『知ってます?!』
「拙者、鬼周回上位ユーザですからな、うちのギルド入る?」
『まさか先輩、団長なんですか?』
「そりゃもう。君…えっと」
『あなたです!』
「あなた…ちゃん、はさ、メインキャラ誰で周回してるの?」
『えっと、エイダンです』
「は?雑魚キャラじゃん」
『ひどい!可愛いじゃないですか!』
「メインキャラは見た目で選んじゃダメだよ。これ常識。」
饒舌になるイデアに食いかかるあなた。
少し異質な組み合わせに見えて、実はぴったりとハマるコンビなのかもしれない。
『イデア先輩…実は…実は私、ショタが!!好きなんです!!』
「は~~いますねぇそういう趣味の人」
『だから、エイダンはパーティーから抜けません!』
「そういうのにこだわるから勝てないんですぞ~」
『でも可愛いじゃないですか!嫌です!可愛い男の子を抜くなんて!一人にできない!』
「可愛いねぇ…あなたちゃんの趣味、現実世界とちょっと違くない?なんでアズール氏を選んだの?」
『?アズール先輩は可愛いですよ?』
「えっ」
『えっ』
「ちょ…その話くわしk「そこまでですよ!!」あ~」
肩を寄せ合って小さなスマフォの画面を覗き込んでいた二人の間にアズールの手が入ったことで、話が中断されてしまった。
「噂をすればアズール氏」
『お帰りなさい!大丈夫でしたか?』
「ええ、ええ…ラウンジの方はぬかりなく。ただ…二人は…二人も、なにか、良い感じで」
「あなたちゃん、なかなかに強情で面白い子ですな」
「あなたちゃん?!!!」
『イデア先輩すごいんですよ!尊敬します!』
「尊敬?!」
顔を真っ青にして、アズールはワナワナと身体を震わせる。自分がいない数分の間に二人の距離がこんなに近くなっているだなんて思いもよらなかった、と。
アズールの頭の中のシュミレーションでは、あなたを紹介した後、ひたすら彼女の可愛いところを語る彼女自慢、いわば惚気るつもりだったため、大混乱だ。
ただしそんな事情をイデアやあなたが知るはずもなく、二人はクエスチョンマークを浮かべてアズールを見ることしかできなかった。
『イデア先輩イデア先輩』
「ん?」
『こういうところです』
「へ?……あ、ああ、あ~…なんとなくわかりましたわ」
『ね?でしょう?』
混乱しているアズールを他所に、二人は何やら目配せし合ってクスクスしている。
なんだかそれが、昔の自分を彷彿させて、すごく惨めになってきたアズールは、イライラを隠さない声を発した。
「僕を差し置いて、さぞかし楽しい話でもしていたのでしょうね?何か笑われるようなことしましたか僕は。」
「あーあ…なんか変な方向に行きはじめた。アズール氏の悪い癖ですぞそれ」
「イデアさんに言われたくありませんね!!」
「あなたちゃん…なんか…こういうのに対応する呪文みたいなのないわけ?」
『えー…魔法は私、使えな……あ、』
そこまで言って、閃いた!とばかりにニコリ笑ったあなたは、アズールを呼ぶ。
『アズール先輩』
「…なんですか…ッ!!」
その呼び声に、唇を少し尖らせたアズールが振り向いた、その刹那。
ちゅ
背伸びをしたあなたの唇が、アズールのスベスベした頬に触れ、音を立てて離れた。
時間にして3秒もなかっただろう。
しかし、その3秒で、アズールの怒りや嫉妬や悲しみは全て吹き飛んだのだから、やはりキスは永遠に一番の魔法なのかもしれない。
離れていくあなたの身体を、ギュウと腕に閉じ込めたアズールは、あなたの肩口に頭を擦り付けて動かなくなってしまった。
「ひゅ~!やりますなぁ!乙女ゲじゃあるまいし見せつけはよくないですぞ」
『アズール先輩は可愛いってお話をしていただけですよ、先輩』
「可愛いのはあなたですっ!!あーもう!!僕の彼女は世界一可愛いです!!誰にも渡しません!!」
「ほ~?アズール氏もこんな風になるんですなぁ」
『割とよく!』
「あなたちゃん、アズール氏のお世話係みたいですぞ?ひひ…」
『アズール先輩は、とってもいい子です~』
「覚えてなさい二人とも…」
そんな形でイデアとの接触を果たしたあなたは、なんだかんだボードゲーム部に入り浸るようになり、イデアがアズールから「惚気話を聞いてくれる要員」に抜擢されてしまう日も遠くなかった。
彼氏彼女が二人そろって目の前で楽しそうにしながら惚気話を聞くのは、側から見たら地獄絵図に感じるかもしれないが、イデアは存外、これはこれでギャルゲのモブになったようで新しいかもしれない、なんて思いながら楽しんでいたというのは、また別の話。
それから、アズールがイデアからゲームキャラのコスプレ制服を調達して…というのも、また別の話である。
彼女のことを見ているだけで楽しいし、一緒にいれば幸せだし、触れ合えば愛しいと思っていた。
アズールは、自分がそういう「関係性」に臆病だと知っていたし、そんなものは信じてもいなかったが、実際に名前がついた繋がりというのは存外悪くないものだ。
「うっ…今日も可愛い…」
「またそれですか」
「アズールそれもう聞き飽きたぁ」
「…お前たちの目は節穴ですか!!どれだけ言っても言い足りない!!」
「いや、まぁ小エビちゃんは可愛いよ?可愛いけど」
「けど?」
「そればっか言ってるとアズール怒るじゃん」
「アズール以外の人間があなたさんに好意的な視線を向けると貴方、機嫌がものすごく悪くなりますから。気づいていないとは言わせませんよ。」
「当たり前でしょう。僕の彼女ですから」
アズールの言うことは、ジェイドやフロイドにも理解はされるものの、受け入れがたいものらしい。
やれやれ、と言った空気で目配せし合う双子を見て、アズールが机に突っ伏すのも日常茶飯事になってきた。
最近はこうして話を切られる事も増えて、少し物足りないと感じるアズール。
この二人に話を聞いてもらえなくなると、他の誰かに話さなければならなくなると少々頭を悩ませる。誰に?と言うことが問題だ。
同じ2年生なら、リドル?(いやいやない。可愛い彼女は小さいものが好きなのだから、リドルさん側からも好意を向けられたらたまったものじゃない。)
それじゃあ同じクラスのジャミル?(…いやそれもない。彼は僕と争えるくらいの技量の持ち主。けしかけたら面倒なことになりそうだ。)
となると、あなたといつも一緒にいるエースやデュースやジャックか?(…下級生にそんな話を触れるか!却下。)
すると上級生(…ヴィルさん?そう言う話は一蹴されそうだな。除外。)
「誰も話せる人がいないじゃないか!!」
そう頭を抱えたところで、チャイムが鳴り響く。悩みがあるからといって時は止まらず、授業がまた始まる。
とりあえず頭を切り替えないと。この授業で今日は最後だ。そのあとは部活…そこまで考えたアズールの脳に、ある人がポンと浮かび上がった。
「いた!!」
「アーシェングロット、どうした」
「あ…いえ、なんでもありませんッ… 失礼しました」
「そうか。では授業を始めるぞ」
「はい、お願いします」
そこでやっと、アズールに集中力が戻ったと言うものだ。
そうして放課後。アズールはあなたを引き連れて、部室へ向かった。
「イデアさん、いますか」
「おっアズール氏、今日は早いですな。新しいゲームが手にファ!?!?」
『こんにちは!』
「…拙者これでおいとましますわ」
「ちょっとイデアさん何で帰るんですか、せっかく僕が紹介に上がったと言うのに」
「いやだってオンボロ寮の監督生氏がいるなんて聞いてな」
自分の荷物を片付け始めたイデアの前に立ちはだかって、仁王立ちするのはもちろんアズール。
イデアは背が高くとも普段から縮こまっているので、アズールよりも小さく見えることもしばしばあった。
今日はいてもらわないと困る、帰られては困る。自分のために!、とアズールはニコニコしながら言葉を紡いだ。
「こちら、僕の彼女ですっ!」
『っ先輩っ…ちょっとその言い方は…』
「なんですか。間違ったことは言っていないでしょう?」
『そ、そうなん、ですけど、ぉ…』
「ン”ッ…!!」
ぽぽぽ、と頬を染めるその姿を見るのは久しぶりで、アズールの息はすでに詰まりかけている。
やっぱり可愛い。可愛い。可愛い!
「あのさぁアズール氏?」
「はいっ、なんでしょう!!可愛いでしょう彼女!!」
「…いや、あの、それは…まぁ、…それよりもずっとスマフォのバイブ鳴ってない?大丈夫なの?」
「え!?あっ!?すみません、ちょっと失礼!!」
ディスプレイに表示されている【モストロ緊急用】の文字を見て、何があったんだと部屋を飛び出たアズールの後ろで、イデアが「置いていかないで!!」と叫んだのは、もはやアズールの耳には届いていなかった。
そうして残されてしまったイデアとあなた。
全然関わりのなかった二人は無言の地獄を過ごすことになろうかと思いきや。案外そうでもなかった。
「あ、あの…」
『あっ!すみません、初対面でこんなことに…。』
「いや、それは、まぁ…アズール氏のことだから、仕方ないというか…」
『イデア先輩はアズール先輩のこと、よく知ってるんですね!アズール先輩ってオクタヴィネルの人以外とあまり交友を持ってないみたいに見えたので、実は今ちょっとびっくりしてるんですけど。…部活動の時はどんな感じなんですか?』
「え…そうだなぁ…割と…子供っぽいですぞ」
『えっ!どんなふうに…?』
「勝つために狙ったサイコロの目を確実に出す方法とか研究したり…」
『エッ?』
「ひひ…あれには拙者もびっく…いや、僕もびっくりしましたぞ」
あなたは「なんだか思っていたと違う一面が見えるなぁ」とクスリと笑顔をこぼす。
それを見たイデアは、少し面を食らったような顔をしてから、ぽりぽりと頬をかいた。
『そういえば、イデア先輩はゲーム類ならなんでも得意って聞いたのですが』
「突然?今どういう話の流れ?」
『いいじゃないですか~あの、実は私、やっとスマホを借してもらえたので、オンラインゲームを始めたんですけど、どうしてもクリアできなくて』
「ホォ?なんのゲームで?」
『アンダーレッドファンタジーっていうんですけど』
「ああアンレツ」
最初こそ驚いていたものの、好きなことやものの話をされれば、警戒心も少しは溶けるというもの。
声色に少しだけ楽しい気持ちを乗せたイデアが少し前のめりの体勢をとる。
『知ってます?!』
「拙者、鬼周回上位ユーザですからな、うちのギルド入る?」
『まさか先輩、団長なんですか?』
「そりゃもう。君…えっと」
『あなたです!』
「あなた…ちゃん、はさ、メインキャラ誰で周回してるの?」
『えっと、エイダンです』
「は?雑魚キャラじゃん」
『ひどい!可愛いじゃないですか!』
「メインキャラは見た目で選んじゃダメだよ。これ常識。」
饒舌になるイデアに食いかかるあなた。
少し異質な組み合わせに見えて、実はぴったりとハマるコンビなのかもしれない。
『イデア先輩…実は…実は私、ショタが!!好きなんです!!』
「は~~いますねぇそういう趣味の人」
『だから、エイダンはパーティーから抜けません!』
「そういうのにこだわるから勝てないんですぞ~」
『でも可愛いじゃないですか!嫌です!可愛い男の子を抜くなんて!一人にできない!』
「可愛いねぇ…あなたちゃんの趣味、現実世界とちょっと違くない?なんでアズール氏を選んだの?」
『?アズール先輩は可愛いですよ?』
「えっ」
『えっ』
「ちょ…その話くわしk「そこまでですよ!!」あ~」
肩を寄せ合って小さなスマフォの画面を覗き込んでいた二人の間にアズールの手が入ったことで、話が中断されてしまった。
「噂をすればアズール氏」
『お帰りなさい!大丈夫でしたか?』
「ええ、ええ…ラウンジの方はぬかりなく。ただ…二人は…二人も、なにか、良い感じで」
「あなたちゃん、なかなかに強情で面白い子ですな」
「あなたちゃん?!!!」
『イデア先輩すごいんですよ!尊敬します!』
「尊敬?!」
顔を真っ青にして、アズールはワナワナと身体を震わせる。自分がいない数分の間に二人の距離がこんなに近くなっているだなんて思いもよらなかった、と。
アズールの頭の中のシュミレーションでは、あなたを紹介した後、ひたすら彼女の可愛いところを語る彼女自慢、いわば惚気るつもりだったため、大混乱だ。
ただしそんな事情をイデアやあなたが知るはずもなく、二人はクエスチョンマークを浮かべてアズールを見ることしかできなかった。
『イデア先輩イデア先輩』
「ん?」
『こういうところです』
「へ?……あ、ああ、あ~…なんとなくわかりましたわ」
『ね?でしょう?』
混乱しているアズールを他所に、二人は何やら目配せし合ってクスクスしている。
なんだかそれが、昔の自分を彷彿させて、すごく惨めになってきたアズールは、イライラを隠さない声を発した。
「僕を差し置いて、さぞかし楽しい話でもしていたのでしょうね?何か笑われるようなことしましたか僕は。」
「あーあ…なんか変な方向に行きはじめた。アズール氏の悪い癖ですぞそれ」
「イデアさんに言われたくありませんね!!」
「あなたちゃん…なんか…こういうのに対応する呪文みたいなのないわけ?」
『えー…魔法は私、使えな……あ、』
そこまで言って、閃いた!とばかりにニコリ笑ったあなたは、アズールを呼ぶ。
『アズール先輩』
「…なんですか…ッ!!」
その呼び声に、唇を少し尖らせたアズールが振り向いた、その刹那。
ちゅ
背伸びをしたあなたの唇が、アズールのスベスベした頬に触れ、音を立てて離れた。
時間にして3秒もなかっただろう。
しかし、その3秒で、アズールの怒りや嫉妬や悲しみは全て吹き飛んだのだから、やはりキスは永遠に一番の魔法なのかもしれない。
離れていくあなたの身体を、ギュウと腕に閉じ込めたアズールは、あなたの肩口に頭を擦り付けて動かなくなってしまった。
「ひゅ~!やりますなぁ!乙女ゲじゃあるまいし見せつけはよくないですぞ」
『アズール先輩は可愛いってお話をしていただけですよ、先輩』
「可愛いのはあなたですっ!!あーもう!!僕の彼女は世界一可愛いです!!誰にも渡しません!!」
「ほ~?アズール氏もこんな風になるんですなぁ」
『割とよく!』
「あなたちゃん、アズール氏のお世話係みたいですぞ?ひひ…」
『アズール先輩は、とってもいい子です~』
「覚えてなさい二人とも…」
そんな形でイデアとの接触を果たしたあなたは、なんだかんだボードゲーム部に入り浸るようになり、イデアがアズールから「惚気話を聞いてくれる要員」に抜擢されてしまう日も遠くなかった。
彼氏彼女が二人そろって目の前で楽しそうにしながら惚気話を聞くのは、側から見たら地獄絵図に感じるかもしれないが、イデアは存外、これはこれでギャルゲのモブになったようで新しいかもしれない、なんて思いながら楽しんでいたというのは、また別の話。
それから、アズールがイデアからゲームキャラのコスプレ制服を調達して…というのも、また別の話である。