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Azul
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『…せんぱーい…』
「…」
『アズールせんぱーい』
「…」
困ったなぁ。
時計を見れば、かれこれ15分はこのままの状態でいたことになる。
つまり、私に背中側から抱きついて抱っこ人形のようになってしまったアズール先輩に捕われてから、結構長い時間が経っているということだ。
VIPルーム。
そこは、オクタヴィネル寮の中でも奥まった場所にあるモストロ・ラウンジの、更に一番奥にある特別な部屋。
寮長であるアズール・アーシェングロット先輩が、大切なクライアントの悩みを、海の魔女の慈悲でもって受け入れて、契約を交わすために使われる部屋。
その部屋で、なぜ私はこんな体勢で抱きしめられているのだろうか。
いくら広いソファーとは言っても、膝の間に座らされてはやはり窮屈というもの。無理な姿勢でいるせいで、だんだん身体が辛くなってくる。
理由を聞いても背中にひっついているアズール先輩は答えてくれないのでさっきからずっと考えているのだけれど、まだ回答にはたどり着けない。
ただ、もうすぐ次のクライアントがくる時間だ。
回答は聞けずとも、離してもらわなくては困るなぁと、私の腹に巻きついている腕をやんわりと叩いた。
『先輩、先輩。もうすぐ次のクライアントがいらっしゃるのでは?そろそろ離れましょ?』
「…」
『…本当にどうしたんですか?もしかして疲れてます?それともどこか痛みますか?病気ならジェイド先輩かフロイド先輩に言って薬を…』
「行くな」
『え?』
珍しく命令口調が聞こえて、思わず言葉が止まる。声に引き寄せられた私の視線が、目の端で先輩の柔らかいグレーの髪を映した。
「行かせません」
『で、でも…』
「次のクライアントには、貴女も一緒に会ってもらいます」
『は…え?なんで私が…秘密保持はどうするんですか?』
その言葉に、ムッとした顔で反応したアズール先輩が顔をあげて、フィ、とマジカルペンを振った。
それに合わせて、一枚の用紙が私のところへ飛んでくる。
手にとってみると、そこには、こんなことが記されていた。
【相談者名】 2ーA ××× 20YY/MM/DD
【相談概要】 オンボロ寮の監督生さんに認知されたい。(特に内容は問わないが会話が出来るとなお嬉しい)
『…………は?え?何かの間違いでは?』
「このところ毎日毎日、この手の相談が来るんです」
『え…?本当に?私なんかに何を夢見てるんでしょうみんな…』
「貴女、ここが男子校ということをお忘れですか?いくら制服が男物だからと言っても、見た目は完全に女性なのですから、邪な感情を向ける輩もいるでしょう。それに…」
『?』
珍しく言葉を切ったアズール先輩に違和感を覚えたので振り向こうとすれば、アズール先輩の手が私の給仕服のスカートを撫でて、知らず肩が跳ね上がる。
「ラウンジの仕事中に…この給仕服を着させたのは他でもない僕ですが、今では失敗したなと…反省しているんですよ…」
『どうしてですか?こんなに素敵な給仕服なのに』
「だからです。僕の見立てに狂いはなく、貴女にそれは、本当にお似合いだ。でも、だからこそ、貴女はラウンジで最も目立つ華になってしまった。」
『え!?褒めすぎですよ!!そんなことはな』
「貴女気付いてないのですか?ご自分が受けるオーダー数。他の従業員より圧倒的に多い。それからほとんどの生徒が貴女を目で追っている。」
『は?!え、いや…嘘…。だって私、モテたことないですし』
その言葉に返ってきたのは大きなため息と強いハグであった。
緩んだはずの腕がまた私をキツく抱きとめて、グリグリと肩口に先輩のおでこがあたる。
「無防備もほどほどにしてください!」
『ええ…?』
「貴女、ご自身の可愛さわかっていますか?!」
『え…いや、だってそんな…可愛いだなんて言われたことありませんし…?』
「僕が何度も言っているでしょう!」
『だ、だってそれは!!アズール先輩は、その…かッ…彼氏、だから…あの…』
「彼氏の言うことは信じられないとでも言うんですか」
『違いますよ!!でもほら、多少でも色眼鏡というかフィルターがかかるでしょう?!』
「じゃあ貴女が僕のことをかっこいいという時は冗談で言っていると?」
『そんなわけないじゃないですか!!アズール先輩は世界一宇宙一かっこいいです!!』
そこまで言い切ってハッとする。本人の目の前で、なんと恥ずかしいことを叫んだのかと。
私の顔が紅くなるのと裏腹に、肩口にあった先輩の顔は徐々に上がってきて、その顔は、それはそれはいい笑顔を携えていた。
「ありがとうございます、貴女がそんなにも僕のことを好いてくれているとわかって、安心しました」
『っ…言わされた感ありますが…本当のことなので…い、いいですっ…』
「ふふふふ、嬉しい限りです」
『んもう!!で、でも、じゃあ…。最初の質問に戻りますが、私はここにいて何をするんです?』
「ああ、ですから簡単なことですよ」
『?』
コンコン!
その言葉と同時に、扉が叩かれた。しまった!と思うには時すでに遅し。
いつの間にか、次のクライアントの待ち合わせ時刻になっていたらしい。
「どうぞお入りください!」
『アズール先輩!わたしっ!』
「大丈夫ですから」
そうして、2ーA ×××君を招き入れたアズール先輩は、私を抱きしめたまま言った。
「ようこそいらっしゃいました、2ーA ×××さん。ああ、監督生さんならこちらに。僕の彼女ですから何なりとお申し付けください」
その場で固まった哀れな×××君は、かわいそうに、一言「出直します」と言ってVIPルームを去っていった。
それからあとは、二度と私と××したいと言った依頼は来なくなったそうだ。
あのオクタヴィネル寮長の彼女に手を出すな、といったところか。
なお、一時はラウンジの売り上げも下がったらしいが、そんなことはなんのその、別の案は準備済みだったようで。
全く、私は、私の彼氏様には敵わないことを改めて悟ったのであった。
「…」
『アズールせんぱーい』
「…」
困ったなぁ。
時計を見れば、かれこれ15分はこのままの状態でいたことになる。
つまり、私に背中側から抱きついて抱っこ人形のようになってしまったアズール先輩に捕われてから、結構長い時間が経っているということだ。
VIPルーム。
そこは、オクタヴィネル寮の中でも奥まった場所にあるモストロ・ラウンジの、更に一番奥にある特別な部屋。
寮長であるアズール・アーシェングロット先輩が、大切なクライアントの悩みを、海の魔女の慈悲でもって受け入れて、契約を交わすために使われる部屋。
その部屋で、なぜ私はこんな体勢で抱きしめられているのだろうか。
いくら広いソファーとは言っても、膝の間に座らされてはやはり窮屈というもの。無理な姿勢でいるせいで、だんだん身体が辛くなってくる。
理由を聞いても背中にひっついているアズール先輩は答えてくれないのでさっきからずっと考えているのだけれど、まだ回答にはたどり着けない。
ただ、もうすぐ次のクライアントがくる時間だ。
回答は聞けずとも、離してもらわなくては困るなぁと、私の腹に巻きついている腕をやんわりと叩いた。
『先輩、先輩。もうすぐ次のクライアントがいらっしゃるのでは?そろそろ離れましょ?』
「…」
『…本当にどうしたんですか?もしかして疲れてます?それともどこか痛みますか?病気ならジェイド先輩かフロイド先輩に言って薬を…』
「行くな」
『え?』
珍しく命令口調が聞こえて、思わず言葉が止まる。声に引き寄せられた私の視線が、目の端で先輩の柔らかいグレーの髪を映した。
「行かせません」
『で、でも…』
「次のクライアントには、貴女も一緒に会ってもらいます」
『は…え?なんで私が…秘密保持はどうするんですか?』
その言葉に、ムッとした顔で反応したアズール先輩が顔をあげて、フィ、とマジカルペンを振った。
それに合わせて、一枚の用紙が私のところへ飛んでくる。
手にとってみると、そこには、こんなことが記されていた。
【相談者名】 2ーA ××× 20YY/MM/DD
【相談概要】 オンボロ寮の監督生さんに認知されたい。(特に内容は問わないが会話が出来るとなお嬉しい)
『…………は?え?何かの間違いでは?』
「このところ毎日毎日、この手の相談が来るんです」
『え…?本当に?私なんかに何を夢見てるんでしょうみんな…』
「貴女、ここが男子校ということをお忘れですか?いくら制服が男物だからと言っても、見た目は完全に女性なのですから、邪な感情を向ける輩もいるでしょう。それに…」
『?』
珍しく言葉を切ったアズール先輩に違和感を覚えたので振り向こうとすれば、アズール先輩の手が私の給仕服のスカートを撫でて、知らず肩が跳ね上がる。
「ラウンジの仕事中に…この給仕服を着させたのは他でもない僕ですが、今では失敗したなと…反省しているんですよ…」
『どうしてですか?こんなに素敵な給仕服なのに』
「だからです。僕の見立てに狂いはなく、貴女にそれは、本当にお似合いだ。でも、だからこそ、貴女はラウンジで最も目立つ華になってしまった。」
『え!?褒めすぎですよ!!そんなことはな』
「貴女気付いてないのですか?ご自分が受けるオーダー数。他の従業員より圧倒的に多い。それからほとんどの生徒が貴女を目で追っている。」
『は?!え、いや…嘘…。だって私、モテたことないですし』
その言葉に返ってきたのは大きなため息と強いハグであった。
緩んだはずの腕がまた私をキツく抱きとめて、グリグリと肩口に先輩のおでこがあたる。
「無防備もほどほどにしてください!」
『ええ…?』
「貴女、ご自身の可愛さわかっていますか?!」
『え…いや、だってそんな…可愛いだなんて言われたことありませんし…?』
「僕が何度も言っているでしょう!」
『だ、だってそれは!!アズール先輩は、その…かッ…彼氏、だから…あの…』
「彼氏の言うことは信じられないとでも言うんですか」
『違いますよ!!でもほら、多少でも色眼鏡というかフィルターがかかるでしょう?!』
「じゃあ貴女が僕のことをかっこいいという時は冗談で言っていると?」
『そんなわけないじゃないですか!!アズール先輩は世界一宇宙一かっこいいです!!』
そこまで言い切ってハッとする。本人の目の前で、なんと恥ずかしいことを叫んだのかと。
私の顔が紅くなるのと裏腹に、肩口にあった先輩の顔は徐々に上がってきて、その顔は、それはそれはいい笑顔を携えていた。
「ありがとうございます、貴女がそんなにも僕のことを好いてくれているとわかって、安心しました」
『っ…言わされた感ありますが…本当のことなので…い、いいですっ…』
「ふふふふ、嬉しい限りです」
『んもう!!で、でも、じゃあ…。最初の質問に戻りますが、私はここにいて何をするんです?』
「ああ、ですから簡単なことですよ」
『?』
コンコン!
その言葉と同時に、扉が叩かれた。しまった!と思うには時すでに遅し。
いつの間にか、次のクライアントの待ち合わせ時刻になっていたらしい。
「どうぞお入りください!」
『アズール先輩!わたしっ!』
「大丈夫ですから」
そうして、2ーA ×××君を招き入れたアズール先輩は、私を抱きしめたまま言った。
「ようこそいらっしゃいました、2ーA ×××さん。ああ、監督生さんならこちらに。僕の彼女ですから何なりとお申し付けください」
その場で固まった哀れな×××君は、かわいそうに、一言「出直します」と言ってVIPルームを去っていった。
それからあとは、二度と私と××したいと言った依頼は来なくなったそうだ。
あのオクタヴィネル寮長の彼女に手を出すな、といったところか。
なお、一時はラウンジの売り上げも下がったらしいが、そんなことはなんのその、別の案は準備済みだったようで。
全く、私は、私の彼氏様には敵わないことを改めて悟ったのであった。