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「ウワ!!ヴィルさんじゃないかあれ」
「ん…?お〜…あの人も学食なんて来るんだな」
それはある日のお昼休みのことだった。
今日も今日とて学食で最安のランチセットを頼みつつ、エースとデュースとそれからグリムと歓談中。
と言っても、ここのランチは、当たり前だが、高校生男子を満足させられる量になっているから、それはもう一生懸命頬張っていたのだが。
そんな時、少し上ずったデュースの声がして、ついでエースが答えた。
今しがた口に詰め込んだハンバーグのせいで、私は話すことができない。
『んぐんぐ』
「ん?お前ヴィルさんのこと知らないのか?」
『むぐ』
「ヴィルさんってのはな、ツイステッドワンダーランドの中でも超一流だ」
「容姿端麗、学業優秀、ポムフィオーレの寮長。」
「常に美を追求してて、マジカメアカウントのフォロワーは500万人!」
「「この世界にヴィルさんを知らない人はいない」」
エースとデュースが、二人してここまで言うのだから、相当すごい人なのだろう。
私の世界で言うスター…アイドル…そう言う類の人なのだろうか。
この学園はそんな人でも普通に受け入れるし通えるのかと、末恐ろしくなった。
ごくん、とやっとの事で頬張っていたものを飲み込んで、私は言う。
『んん…でもさ、この学園にいる人ってみんな顔整ってるし割と身長も高いしキラキラしてるし、特別さが半減しちゃうね。エースだってデュースだって、私がいた世界の人に比べたらイケメンの部類だよ、きっと芸能人になれるよ。』
それを聞いて、二人は一瞬ポカンとしてから、徐々にその意味を理解したようで「そうか?」と少し頬を染めてわかりやすく喜んだ。
でもこれは本心だから。こんなに綺麗な顔の人たちが揃った世界があるなんて思ってもいなかったんだよ。
そんな中で普通に友達になってくれた二人にはとても感謝しているんだ、とこちらも笑顔になる。
ふふ、と笑いながら残り一口のご飯を口に詰め込んだその時。
「聞き捨てならないわね」
背後から一本芯の通った鋭い声が聞こえた。
言葉の内容から、なんとなく声の主に想像がついたので恐る恐る振り返ると、そこには先ほど遠目に見た「ヴィルさん」がいた。
「アタシが、その辺の小じゃがと同じ?馬鹿言わないでもらいたいわね」
『あ…えっと』
「その辺の小じゃがとアタシじゃ、ステージが違う。同じに見えるなら、アンタ、目が腐ってるわよ」
確かに「ヴィルさん」は、近くで見てみれば、彼…と呼んでいいのかわからないくらいには美しい人だった。
目視でわかるほどにきめ細かい潤った肌。細身だけれど背筋がしっかり立った身体。ベージュから紫へ変わるグラデーションカラーが施された髪はサラサラで指通りがとても良さそうだ。
きり、とつり上がった眉とその声色からは、厳しそうな人だ、と言う第一印象を受けた。
「アンタは、…例のオンボロ寮を任された人間、だったかしら」
『えっ、私のことご存知なんですか』
「入学式にあれだけ騒がれたんだもの。寮長クラスでアンタのこと知らないなんてなったらモグリだわ」
『そ、そうでしたか…』
「えぇ…そうね。異世界から来たアンタが私のことを知らないのも無理はないわね。それでも自分から情報収集しないなんて、努力が足りない。」
『は?』
素で声を挙げてしまい、ハッと手で口を覆った。バツが悪い。
でも、初対面の人にそんなこと言われる筋合いなどないと思ってしまったのだ。
努力?私は私のできる範囲ではあるけれど、勉強も必死でしているし、魔力がないなりに自力で身の回りのことだってやっている。
それの何をこの人が知っていると言うのか。
確かに自分は見てくれは良くないかもしれない。
でもそれは、それに構うだけの資金も時間もないから二の次になってしまっているだけで、本当なら綺麗に整えたい気持ちは山々なんだ。
そんな、普段は考えないように、抑え込んでいる気持ちが堰を切ったように溢れてきて、泣きそうになる。
でもこの人の前では泣きたくない、泣かされたと言う事実を作りたくないと、必死で下唇を噛んで堪えた。
こう言う人には関わらない方が身のためだ。自分を守るための逃げは必要だと、私は知っている。
『っ…す、みません、でした…。以後、気をつけますッ…』
ぺこりと頭を下げて、ヴィルさんの目を見れば、少し驚いたような表情をしていた。
それから、じっ、と私を見つめ返して、何かを言おうとしてからもう一度口をつぐんだ。
美しすぎる人からの視線は、時に恐怖を煽るものだ。ビクビクしながら言葉を待てば。
「アンタが、アンタなりに努力をしてるだろうなんてことは、アタシだって理解してるわ。」
『ぇ、』
「でもね、成長に終わりなんてないの。今まで以上に、毎日、努力しなさい。そうすれば、アンタの願いだって、いつか必ず叶うわ」
『!』
「現状に満足しないことね。悩むことは時間の無駄だわ。常に全力で挑みなさい。」
「そうすれば、アンタなら大丈夫よ。」という言葉とともに目の縁を撫でられたので、驚いて身を引いてしまった。
その様子を見て、くす、と口を歪めたヴィルさんは、あ、と言う顔をしてからポケットを探りながら私に言った。
「ちょっと目を閉じてもらえるかしら?」
『目を?はい…』
素直に言われた通り目を瞑ると、私の唇にヒヤリと何かが触れ、ツ、と滑っていった。
その感覚にびくりとしたけれど、思いの外強い力で肩を押さえつけられていたせいで、動くことは叶わない。
「はい、いいわよ」そう言われて目を開ける。と同時に、コロンと掌に何かを乗せられた。
見れば、それは品の良い装丁が施されたリップのようだ。
「アタシのお古だけど、それはあげるわ。言葉は心の使いよ。言葉を吐き出す唇から、まずは整えることね」
『え…』
「アンタのこと、気に入ったわ。自分でやってみて、どうにもならなくなったらアタシのところへ来なさい。場合によっては助けてあげる」
『っ…』
「返事は?」
『は、はいっ…!ありがとう、ございます!』
「それじゃぁね」
カツ、とヒールを鳴らして食堂を出て行ったヴィルさんの背中を見つめながら、不安は嘘のように消えていた。
いただいたリップを、キュ、と握りしめて、机に向き直ると、ものすごい複雑な顔をしたエーデュースがそこにいた。
『ん?どうした?』
「お前…すげぇな」
「俺も思った。あのヴィルさんと普通に会話するなんて」
「しかもそれ、貰い物?ヴィルさんの私物だろ?」
「知れ渡ったらファンに殺されるぞ、気をつけろよ?」
『えっ…それは怖い…気をつけるね…!?』
とは言っても、時すでに遅し、かもしれない。
だってこんなの、唇に毒を塗られてしまったようなものだ。
私ももっともっと努力をして、それで、綺麗になったら、ヴィルさんはどんな顔で私を出迎えてくれるのだろうか。
俄然頑張る気持ちが湧いてきて、食べ終えたトレイを持って立ち上がった私についてくるみんな。
「今日のアタシも眩しすぎたかしら?」との、ヴィルお決まりの文句は、喧騒に溶けて消えた。
「ん…?お〜…あの人も学食なんて来るんだな」
それはある日のお昼休みのことだった。
今日も今日とて学食で最安のランチセットを頼みつつ、エースとデュースとそれからグリムと歓談中。
と言っても、ここのランチは、当たり前だが、高校生男子を満足させられる量になっているから、それはもう一生懸命頬張っていたのだが。
そんな時、少し上ずったデュースの声がして、ついでエースが答えた。
今しがた口に詰め込んだハンバーグのせいで、私は話すことができない。
『んぐんぐ』
「ん?お前ヴィルさんのこと知らないのか?」
『むぐ』
「ヴィルさんってのはな、ツイステッドワンダーランドの中でも超一流だ」
「容姿端麗、学業優秀、ポムフィオーレの寮長。」
「常に美を追求してて、マジカメアカウントのフォロワーは500万人!」
「「この世界にヴィルさんを知らない人はいない」」
エースとデュースが、二人してここまで言うのだから、相当すごい人なのだろう。
私の世界で言うスター…アイドル…そう言う類の人なのだろうか。
この学園はそんな人でも普通に受け入れるし通えるのかと、末恐ろしくなった。
ごくん、とやっとの事で頬張っていたものを飲み込んで、私は言う。
『んん…でもさ、この学園にいる人ってみんな顔整ってるし割と身長も高いしキラキラしてるし、特別さが半減しちゃうね。エースだってデュースだって、私がいた世界の人に比べたらイケメンの部類だよ、きっと芸能人になれるよ。』
それを聞いて、二人は一瞬ポカンとしてから、徐々にその意味を理解したようで「そうか?」と少し頬を染めてわかりやすく喜んだ。
でもこれは本心だから。こんなに綺麗な顔の人たちが揃った世界があるなんて思ってもいなかったんだよ。
そんな中で普通に友達になってくれた二人にはとても感謝しているんだ、とこちらも笑顔になる。
ふふ、と笑いながら残り一口のご飯を口に詰め込んだその時。
「聞き捨てならないわね」
背後から一本芯の通った鋭い声が聞こえた。
言葉の内容から、なんとなく声の主に想像がついたので恐る恐る振り返ると、そこには先ほど遠目に見た「ヴィルさん」がいた。
「アタシが、その辺の小じゃがと同じ?馬鹿言わないでもらいたいわね」
『あ…えっと』
「その辺の小じゃがとアタシじゃ、ステージが違う。同じに見えるなら、アンタ、目が腐ってるわよ」
確かに「ヴィルさん」は、近くで見てみれば、彼…と呼んでいいのかわからないくらいには美しい人だった。
目視でわかるほどにきめ細かい潤った肌。細身だけれど背筋がしっかり立った身体。ベージュから紫へ変わるグラデーションカラーが施された髪はサラサラで指通りがとても良さそうだ。
きり、とつり上がった眉とその声色からは、厳しそうな人だ、と言う第一印象を受けた。
「アンタは、…例のオンボロ寮を任された人間、だったかしら」
『えっ、私のことご存知なんですか』
「入学式にあれだけ騒がれたんだもの。寮長クラスでアンタのこと知らないなんてなったらモグリだわ」
『そ、そうでしたか…』
「えぇ…そうね。異世界から来たアンタが私のことを知らないのも無理はないわね。それでも自分から情報収集しないなんて、努力が足りない。」
『は?』
素で声を挙げてしまい、ハッと手で口を覆った。バツが悪い。
でも、初対面の人にそんなこと言われる筋合いなどないと思ってしまったのだ。
努力?私は私のできる範囲ではあるけれど、勉強も必死でしているし、魔力がないなりに自力で身の回りのことだってやっている。
それの何をこの人が知っていると言うのか。
確かに自分は見てくれは良くないかもしれない。
でもそれは、それに構うだけの資金も時間もないから二の次になってしまっているだけで、本当なら綺麗に整えたい気持ちは山々なんだ。
そんな、普段は考えないように、抑え込んでいる気持ちが堰を切ったように溢れてきて、泣きそうになる。
でもこの人の前では泣きたくない、泣かされたと言う事実を作りたくないと、必死で下唇を噛んで堪えた。
こう言う人には関わらない方が身のためだ。自分を守るための逃げは必要だと、私は知っている。
『っ…す、みません、でした…。以後、気をつけますッ…』
ぺこりと頭を下げて、ヴィルさんの目を見れば、少し驚いたような表情をしていた。
それから、じっ、と私を見つめ返して、何かを言おうとしてからもう一度口をつぐんだ。
美しすぎる人からの視線は、時に恐怖を煽るものだ。ビクビクしながら言葉を待てば。
「アンタが、アンタなりに努力をしてるだろうなんてことは、アタシだって理解してるわ。」
『ぇ、』
「でもね、成長に終わりなんてないの。今まで以上に、毎日、努力しなさい。そうすれば、アンタの願いだって、いつか必ず叶うわ」
『!』
「現状に満足しないことね。悩むことは時間の無駄だわ。常に全力で挑みなさい。」
「そうすれば、アンタなら大丈夫よ。」という言葉とともに目の縁を撫でられたので、驚いて身を引いてしまった。
その様子を見て、くす、と口を歪めたヴィルさんは、あ、と言う顔をしてからポケットを探りながら私に言った。
「ちょっと目を閉じてもらえるかしら?」
『目を?はい…』
素直に言われた通り目を瞑ると、私の唇にヒヤリと何かが触れ、ツ、と滑っていった。
その感覚にびくりとしたけれど、思いの外強い力で肩を押さえつけられていたせいで、動くことは叶わない。
「はい、いいわよ」そう言われて目を開ける。と同時に、コロンと掌に何かを乗せられた。
見れば、それは品の良い装丁が施されたリップのようだ。
「アタシのお古だけど、それはあげるわ。言葉は心の使いよ。言葉を吐き出す唇から、まずは整えることね」
『え…』
「アンタのこと、気に入ったわ。自分でやってみて、どうにもならなくなったらアタシのところへ来なさい。場合によっては助けてあげる」
『っ…』
「返事は?」
『は、はいっ…!ありがとう、ございます!』
「それじゃぁね」
カツ、とヒールを鳴らして食堂を出て行ったヴィルさんの背中を見つめながら、不安は嘘のように消えていた。
いただいたリップを、キュ、と握りしめて、机に向き直ると、ものすごい複雑な顔をしたエーデュースがそこにいた。
『ん?どうした?』
「お前…すげぇな」
「俺も思った。あのヴィルさんと普通に会話するなんて」
「しかもそれ、貰い物?ヴィルさんの私物だろ?」
「知れ渡ったらファンに殺されるぞ、気をつけろよ?」
『えっ…それは怖い…気をつけるね…!?』
とは言っても、時すでに遅し、かもしれない。
だってこんなの、唇に毒を塗られてしまったようなものだ。
私ももっともっと努力をして、それで、綺麗になったら、ヴィルさんはどんな顔で私を出迎えてくれるのだろうか。
俄然頑張る気持ちが湧いてきて、食べ終えたトレイを持って立ち上がった私についてくるみんな。
「今日のアタシも眩しすぎたかしら?」との、ヴィルお決まりの文句は、喧騒に溶けて消えた。