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Jade
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190cm
ー145cm
--------
=45cm
『はぁ~…』
この距離感。この距離感だよ…。
カリカリカリ、と、地面に枝で落書いた筆算の結果は、頭の中でしたものと寸分の変わりもない。
「キスするのに最適なのは10~15cm差らしいぞ。」
『無理じゃん。』
「それ、うちの寮長くらいしか合わないんじゃね?」
『リドルさんにそんなことしたら首跳ねられるね!』
「あんな奴でも、首がもげても一緒にいたいくらいの相手なのか?」
『もげたくはないから考えてるの…』
お昼休み。
デュースにエース、それからジャックにグリムに私。いかにも高校生らしい話題に花が咲く。
話のネタは恋バナだ。
オクタヴィネル寮での一件のあと、私が、ジェイド先輩かっこいい、ジェイド先輩素敵、ジェイド先輩最高!、と騒ぐので、いつも一緒にいるこのメンツには私の恋路を応援する係をしてもらっている。
「お前、小せぇからなぁ!」とカラカラ笑われていい気はせず、どーせ小さいですよ!別にエースは最初から眼中にありませんからね!とお見舞いをくれてやった。
そんな穏やかな時間に忍び寄る黒い影。
『…?あれ?日差しが...今日雨予報だっけ』
「あ」
「監督セー、ウシロ、ウシロ…」
『へ?』
「あ~小エビちゃんみっけたぁ」
その声は。
『…フロイド先輩。こ、こんにちは…ジェイド先輩も』
「こんにちは。皆様揃って何をお話しされていたのですか?」
ニコリ。
いつもの胡散臭い笑顔を貼りつけて挨拶してくるのは、たった今話の中心にいた人そのものだったため、決まりが悪い。
見上げると首がもげそうなほどの長身のリーチ兄弟は、私からみたら巨人のようなものだけれど、その体躯がスマートなため、あまり圧迫感はない。
ただし、こうして上から覗き込まれると、やはり怖いものである。
「何の話してたの~?俺たちも混ぜてよ」
「い、いや、えっと、特に…なぁ、デュース!」
「!?俺にふるなよ!あ、あの、そうですね、普通の話」
「俺は小エビちゃんに話しかけてんの~」
こうしてる間に、さりげなく筆算の落書きを消してくる辺り、ジャックは機転がきくなぁと感謝せざるを得ない。
190cmなんて丸わかりの数字を見られたらどうなるかと冷や冷やしていたのだから。
「おや?計算ですか?勉強熱心ですね。僕たちにご相談くだされば教えて差し上げましたのに」
「契約はこりごりなんで」
唯一この兄弟に真っ向から立ち向かえるジャックが言い返してくれたのは救いだ。
「それは残念です」
ああ、本日も綺麗なお顔を拝見できるだけで私は幸せです。ジェイド先輩。
などと言えはしない私は、あはは、と相槌を打つ。
「んで?答えは?」
『他愛もない世間話ですよ…身長差についての』
嘘はついていない。
たしかに身長差についての話をしていたのだから。ただ、それが少し特定の人についての話であっただけで。
「身長~?ニンゲンってツマンナイこと気にすんだね~。」
「人魚にはあまりそういった概念がありませんからね」
『それだけ背が高いお二人ですし、気にしようもないでしょうね!?!』
「まぁ、小エビちゃんは、たしかにちまっこーい」
アハハ~!と笑ったのも束の間、次の瞬間には私の身体を抱き上げて、自分と同じ目線まで持ち上げるフロイド先輩。
『あっわっ?!!』
「ちっさいし、軽いし。ちゃんと食ってるー?」
『せっ、先輩が、大きすぎるんですよっ!お、下ろしてっ、ください!』
「やーだ。どぉ?俺たちの高さから見る景色」
『ひ、』
慣れない高さに持ち上げられて、若干恐怖が湧いてくる。助けを求めようにも、あろうことか一緒にいたメンツは逃げてしまったようで仲間がいない。
「フロイド、いくらなんでも、女性をそんな風にぶら下げてはいけませんよ」
ひょい、とフロイド先輩から私を取り上げたジェイド先輩は、そのままお姫様抱っこに切り替えるあたり、スマート オブ スマートな紳士である。
「こうすれば、身長差なんて問題になりませんね。」
『!?!』
「190cm、僕の身長とピッタリ同じだ。そして145cmはあなたさんの身長。」
『っ、な?!!』
あの一瞬で見えたのか?!と目を白黒させてもがくも、この体格に似合わず力のある腕を振り解けるわけもなく。
「おっと危ない。落ちてしまいますよ。」
『ひっ』
逆に抱きつく形になってしまい、恥ずかしいことこの上ない。
「小エビちゃん真っ赤~」
「本物のエビみたいになっていますよ?」
『だっ…てッ…!』
「おや、そんなに僕の腕の中がお好きですか」
『!?!』
貴女なら、言っていただければいつでも抱いて差し上げますよ。
なんて、期待させるようなことを言うものだから、もう何も言えなくなってしまった。
ああもう。
縮まることのない身長差ではあるけれど、これはこれで捨てたもんじゃなかったかも、なんて喜んでしまう自分が憎らしい。
「そのままの貴女が一番素敵ですよ」
殺し文句は耳元でそっとささやかれた。