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Azul
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すでにラウンジが閉まって照明が落ちてしまったこの空間は、ほの明るいランプがゆらゆら揺れるだけ。世界から切り離されてしまったかのように、静かで、とても心地よい。アズール先輩が何かの計算に夢中になっているその横で、私はレモネードを一杯嗜みながらその作業の終わりを待っている。お仕事の邪魔をするつもりはないが、雑談くらいは許されるかと、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「アズール先輩は、どうして事業を始めようと思ったんですか?」
「どうして、と言われると…説明が難しいですね」
「お金儲けしたくてとかですか?」
「それは結果論でしかありません。目的とは少し異なりますね」
「言われてみれば。うーん、そうすると、カフェを始めようって思った理由があるんですよね?」
「ええ、まぁ。一番は実家の影響、ですかね」
「あ、そっか。先輩、実家もリストランテって言ってましたもんね」
確か誕生日の時には、実家にいた頃はお店を閉めてスタッフ全員でお祝いしてくれたと言っていた。いいな。小さい頃のアズール先輩のことを知っている人全員、羨ましくて嫉妬しちゃう…って今はそういう話じゃなかった。
「母は経営の才も料理人としての腕も一流ですから。もちろん、魔法士としてもね」
「親の背中を見て育ったってやつですね。素敵なご家族ですね」
「お褒めに預かり光栄です」
「そんな場所で育ったら、自然とその道に進みたくなるものなのかなぁ」
レモネードのストローをちょいっと触ると、カランと氷が音を立てた。
私は一体、これからどうすればいいんだろうかと、少しだけ別のことが頭をよぎるが、ポツリと、先輩がこぼしたセリフに視線をそちらに戻した。
「…楽しそうだったんですよね」
「え?」
「母も、スタッフも、お客様も。うちのレストランにいる人たちは、誰もが皆幸せそうだった」
先輩は、走らせていたペンを止めて、遠い目でどこかを見つめている。
「いいなと、思ったんです。その空間が。僕もそういう場所を提供したいと、思った」
ふ、と口を歪めて私の方を向いたアズール先輩は、片方の眉をあげながら『そう上手くはいきませんけどね』と珍しく自虐的なことを言った。
「そんな…、モストロ・ラウンジにくるお客さん、みんな楽しそうじゃないですか。スタッフも」
「そういうことではないんですよ。貴女にはわからないかもしれませんが」
深い溜め息を吐かれてしまっては私には言えることはなかった。なんと声をかけたらいいのか迷った。けれど、湧いてくる思いを伝えたいという気持ちがたしかにあったので、訥々と言葉を紡ぐ。
「私は…私の人生の主役かもしれないけど、世界規模でみたらただの傍観者でしかないんです」
なんの話だ、とでも言いたげにあからさまに表情が歪んだ先輩だったが、私は構わず話を続ける。
「だから、先輩の頭の中に描かれる理想も、極論を言えば傍観することしかできません。ただ、その理想を聞くこともできるし、想像することもできます。だから、もっと教えて欲しいなとは、思います」
そう言って笑って見せれば、案外真剣な表情の先輩がそこにいて少しだけ戸惑った。
「あなたは、いつも僕の斜め上をゆきますね」
「それは、どういう…?」
「普通、貴女にはわからないでしょう、と言われたら怒りませんか?」
「そうですか?だってわかりませんもん。先輩のご実家の様子、見たことがないですし。違うと言われたら、それを受け入れるしかありません。アズール先輩だって私の元いた世界のこと、何もわからないでしょう?それと同じです」
「…それは…そうなんですが…そう言われると、僕は得体の知れない気持ちに襲われます」
「?」
「僕が知らないあなたがいると思うと、それを知っているだろう、見たこともない人に、世界に、嫉妬してしまう」
そっと伸びてきた手が、私の髪をさらりと梳いて、そのまま頬を撫でられる。
小さい男でしょう、と小さく呟いた先輩は、苦々しそうに視線を逸らした。
「…あなたにも、怒って欲しかったのかもしれませんね。僕は、貴女を番にしたけれど、貴女のその理論で言えば、番ですらも貴女の世界の脇役でしかないということでしょうから」
頬を滑って離れていった手をキュッと握って、私は。
「そ、それは違います!私だって、嫉妬します」
「、な」
「私が知らない先輩の世界に、私がいないことは、嫌です。だから、いつかその世界を見せて欲しいし、ずっと隣で世界を見せて欲しい」
「貴女…」
「だからまず初めに、幸せそうなご実家の様子を、見せてください。それで、モストロ・ラウンジにもその幸せ、持って帰ってきましょう?二人で。そうしたら、ご実家よりも幸せでいっぱいの空間が創れるかも。それをまたみんなに共有して、ここを私たちの世界の中心にしたらいいです。ね、そしたらお互い嫉妬もしなくて済みますよ」
「っ…ふは…ははっ…!なんて…理論だ!でも、悪くありませんね、そう、二人で、ね」
「はい!」
そのためにはまずは二人で幸せいっぱいにならなくちゃと、先輩にぎゅっと抱きついた。
確かな力で抱きしめ返された、それだけで、私の世界は鮮やかに輝く。
実家に遊びに行きたい、なんて、どれだけ大それたことを口にしたかと気づくのは、もう少し先の話。
「アズール先輩は、どうして事業を始めようと思ったんですか?」
「どうして、と言われると…説明が難しいですね」
「お金儲けしたくてとかですか?」
「それは結果論でしかありません。目的とは少し異なりますね」
「言われてみれば。うーん、そうすると、カフェを始めようって思った理由があるんですよね?」
「ええ、まぁ。一番は実家の影響、ですかね」
「あ、そっか。先輩、実家もリストランテって言ってましたもんね」
確か誕生日の時には、実家にいた頃はお店を閉めてスタッフ全員でお祝いしてくれたと言っていた。いいな。小さい頃のアズール先輩のことを知っている人全員、羨ましくて嫉妬しちゃう…って今はそういう話じゃなかった。
「母は経営の才も料理人としての腕も一流ですから。もちろん、魔法士としてもね」
「親の背中を見て育ったってやつですね。素敵なご家族ですね」
「お褒めに預かり光栄です」
「そんな場所で育ったら、自然とその道に進みたくなるものなのかなぁ」
レモネードのストローをちょいっと触ると、カランと氷が音を立てた。
私は一体、これからどうすればいいんだろうかと、少しだけ別のことが頭をよぎるが、ポツリと、先輩がこぼしたセリフに視線をそちらに戻した。
「…楽しそうだったんですよね」
「え?」
「母も、スタッフも、お客様も。うちのレストランにいる人たちは、誰もが皆幸せそうだった」
先輩は、走らせていたペンを止めて、遠い目でどこかを見つめている。
「いいなと、思ったんです。その空間が。僕もそういう場所を提供したいと、思った」
ふ、と口を歪めて私の方を向いたアズール先輩は、片方の眉をあげながら『そう上手くはいきませんけどね』と珍しく自虐的なことを言った。
「そんな…、モストロ・ラウンジにくるお客さん、みんな楽しそうじゃないですか。スタッフも」
「そういうことではないんですよ。貴女にはわからないかもしれませんが」
深い溜め息を吐かれてしまっては私には言えることはなかった。なんと声をかけたらいいのか迷った。けれど、湧いてくる思いを伝えたいという気持ちがたしかにあったので、訥々と言葉を紡ぐ。
「私は…私の人生の主役かもしれないけど、世界規模でみたらただの傍観者でしかないんです」
なんの話だ、とでも言いたげにあからさまに表情が歪んだ先輩だったが、私は構わず話を続ける。
「だから、先輩の頭の中に描かれる理想も、極論を言えば傍観することしかできません。ただ、その理想を聞くこともできるし、想像することもできます。だから、もっと教えて欲しいなとは、思います」
そう言って笑って見せれば、案外真剣な表情の先輩がそこにいて少しだけ戸惑った。
「あなたは、いつも僕の斜め上をゆきますね」
「それは、どういう…?」
「普通、貴女にはわからないでしょう、と言われたら怒りませんか?」
「そうですか?だってわかりませんもん。先輩のご実家の様子、見たことがないですし。違うと言われたら、それを受け入れるしかありません。アズール先輩だって私の元いた世界のこと、何もわからないでしょう?それと同じです」
「…それは…そうなんですが…そう言われると、僕は得体の知れない気持ちに襲われます」
「?」
「僕が知らないあなたがいると思うと、それを知っているだろう、見たこともない人に、世界に、嫉妬してしまう」
そっと伸びてきた手が、私の髪をさらりと梳いて、そのまま頬を撫でられる。
小さい男でしょう、と小さく呟いた先輩は、苦々しそうに視線を逸らした。
「…あなたにも、怒って欲しかったのかもしれませんね。僕は、貴女を番にしたけれど、貴女のその理論で言えば、番ですらも貴女の世界の脇役でしかないということでしょうから」
頬を滑って離れていった手をキュッと握って、私は。
「そ、それは違います!私だって、嫉妬します」
「、な」
「私が知らない先輩の世界に、私がいないことは、嫌です。だから、いつかその世界を見せて欲しいし、ずっと隣で世界を見せて欲しい」
「貴女…」
「だからまず初めに、幸せそうなご実家の様子を、見せてください。それで、モストロ・ラウンジにもその幸せ、持って帰ってきましょう?二人で。そうしたら、ご実家よりも幸せでいっぱいの空間が創れるかも。それをまたみんなに共有して、ここを私たちの世界の中心にしたらいいです。ね、そしたらお互い嫉妬もしなくて済みますよ」
「っ…ふは…ははっ…!なんて…理論だ!でも、悪くありませんね、そう、二人で、ね」
「はい!」
そのためにはまずは二人で幸せいっぱいにならなくちゃと、先輩にぎゅっと抱きついた。
確かな力で抱きしめ返された、それだけで、私の世界は鮮やかに輝く。
実家に遊びに行きたい、なんて、どれだけ大それたことを口にしたかと気づくのは、もう少し先の話。