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Azul
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学生の日常は案外大変だ。
朝六時。起きたら自分の身支度にグリムのお世話、朝ごはんを作って、食べて、お天気なら洗濯物もして、寮を飛び出る。
オンボロ寮の目の前にある校舎だけど、中に入るにはぐるっと回り込まなきゃならないから少し早めに出発する。
授業は朝の八時から。飛行術が一限だともう最悪。着替えのためにもっと早く移動する必要がある。他の授業のときだって、休み時間はあってないようなものだ。たかが十分、十五分で移動手洗いに課題のチェックを済ませて席に着く。
お昼は食堂にどれだけ早く着けるかが勝負。男子の食欲を舐めちゃいけない。出遅れたらリゾットにしかありつけなくなる。
午後の授業は眠気との戦いも入ってくるから余計に厄介だ。そこにリソースをとられると、復習が大変になる。
授業の終わりは大体十五時ごろ。
そこから十九時くらいまでは、学園長により雑用に駆り出されたり、マドルが足りない時は別の校内アルバイトをしたり、はたまたモストロ・ラウンジでヘルプをしたりして、知らないうちに時間がすぎる。
ふらふらしながら部屋に帰ったら、ぶつぶつ言うグリムを引っ張りつつ夕食の準備をして、お風呂を済ませて洗濯物を取り入れて。課題を終わらせてやっと眠れるのが0時近く。
一週間がなんとか終わり、土曜日、日曜日は休めるかなと思いきや、買い出しや掃除なんかをしているとあっという間にすぎていく。
(こうして人生の大半の時間は「生きるための様々なこと」に費やされ、老いてゆくのかなぁ)
洗濯物を干し終えて、今日もいい天気だと青空を見つめていたらふと、そんなことを思った。
この歳でこんなことを感じるとは思わなかった。
この世界にくるまでは、身の回りの世話は家族に任せきりだったのだ。自分の用事にだけ没頭していればよいなら、そりゃあ時間もあったはずだと納得しながらも、そこから動けない。
やるべきことは、今日も山積み。
動かなければ終わらない。
まだ朝も早い時刻だ。早くここから動かなければ。いけないのに。のに。
「なに、してるんだろ」
ホロリと口から漏れた言葉に続いて、口にしてはいけない言葉が出てしまった。
「疲れちゃった」
下を向けば、バルコニーにポタポタとシミができた。
ああ、私、泣いているのかと気づくと、もっとそのシミが増えた。
馬鹿だな。泣いたって何も終わらないのに。こんなこと時間の無駄だ。立ち上がって、それで、
それで?
なにをするんだっけ?
「私、」
アズール先輩に会いに行かなくっちゃ。
そう思うとパッと立ち上がれて自分でも驚く。まだ朝も早い時間。
月曜日のこんな時間に、先輩の邪魔にならないだろうか。
でも。
でも。
先輩は言ってくれたから。
『疲れた時は言ってください、肩くらい貸しますよ』って。
『一人で悩むな、辛いことがあるなら僕に言え』って。
今この時の気持ちをどう表現したらいいのかよくわからないけれど、会いに行ってもいいですか。
オンボロ寮を飛び出して暫く、鏡舎にたどり着くと、驚くことにそこにはアズール先輩が立っていた。忙しく動いていた私の足が止まると、先輩が足を動かした。
「な、んで」
「そろそろ、来る頃かなと思いました」
「う、うそ、だって、そんなの、」
「わかるわけない、と?そうですか…ではあなたはまだ僕のことを理解しきれていないようだ」
「、どういう、ことですか…?」
「僕は誰ですか?」
唐突な質問に脳が停止しそうになるも、私は素直に回答する。
「アズール先輩…」
「正解で、不正解です。僕はアズール・アーシェングロツト。あなたに魔法をかけられる、唯一の魔法士」
「へ、」
「さぁ、あなたに魔法をかけましょう。ワン、ツー、」
言いながら私に近づいた先輩は、スリー、と告げると同時、私の身体をその腕の中に閉じ込めた。
「ほら、これでゆっくり息ができるでしょう」
「!」
「肩の力を抜くところからですよ。まだ始業まで時間もありますしね。思う存分、甘えてくれていいですよ」
「…っ…ありがと、ございます…っ」
「お安い御用です。あなたに頼られるのは気分がいいので。僕のためにも定期的によろしくお願いしますね」
先輩に抱きしめられてスンと鼻を啜れば、鼻腔を満たしたのは悲しさではなくて大好きなコロンの香りだった。
疲れた、もう嫌だ、やすみたい
そんな後ろ向きな気持ちすら、こうやって抱きしめて溶かしてもらえるなら、また少しずつ頑張っていけるかもって。
「魔法士ってすごいです」
「あなただけの特別、ですからね」
朝六時。起きたら自分の身支度にグリムのお世話、朝ごはんを作って、食べて、お天気なら洗濯物もして、寮を飛び出る。
オンボロ寮の目の前にある校舎だけど、中に入るにはぐるっと回り込まなきゃならないから少し早めに出発する。
授業は朝の八時から。飛行術が一限だともう最悪。着替えのためにもっと早く移動する必要がある。他の授業のときだって、休み時間はあってないようなものだ。たかが十分、十五分で移動手洗いに課題のチェックを済ませて席に着く。
お昼は食堂にどれだけ早く着けるかが勝負。男子の食欲を舐めちゃいけない。出遅れたらリゾットにしかありつけなくなる。
午後の授業は眠気との戦いも入ってくるから余計に厄介だ。そこにリソースをとられると、復習が大変になる。
授業の終わりは大体十五時ごろ。
そこから十九時くらいまでは、学園長により雑用に駆り出されたり、マドルが足りない時は別の校内アルバイトをしたり、はたまたモストロ・ラウンジでヘルプをしたりして、知らないうちに時間がすぎる。
ふらふらしながら部屋に帰ったら、ぶつぶつ言うグリムを引っ張りつつ夕食の準備をして、お風呂を済ませて洗濯物を取り入れて。課題を終わらせてやっと眠れるのが0時近く。
一週間がなんとか終わり、土曜日、日曜日は休めるかなと思いきや、買い出しや掃除なんかをしているとあっという間にすぎていく。
(こうして人生の大半の時間は「生きるための様々なこと」に費やされ、老いてゆくのかなぁ)
洗濯物を干し終えて、今日もいい天気だと青空を見つめていたらふと、そんなことを思った。
この歳でこんなことを感じるとは思わなかった。
この世界にくるまでは、身の回りの世話は家族に任せきりだったのだ。自分の用事にだけ没頭していればよいなら、そりゃあ時間もあったはずだと納得しながらも、そこから動けない。
やるべきことは、今日も山積み。
動かなければ終わらない。
まだ朝も早い時刻だ。早くここから動かなければ。いけないのに。のに。
「なに、してるんだろ」
ホロリと口から漏れた言葉に続いて、口にしてはいけない言葉が出てしまった。
「疲れちゃった」
下を向けば、バルコニーにポタポタとシミができた。
ああ、私、泣いているのかと気づくと、もっとそのシミが増えた。
馬鹿だな。泣いたって何も終わらないのに。こんなこと時間の無駄だ。立ち上がって、それで、
それで?
なにをするんだっけ?
「私、」
アズール先輩に会いに行かなくっちゃ。
そう思うとパッと立ち上がれて自分でも驚く。まだ朝も早い時間。
月曜日のこんな時間に、先輩の邪魔にならないだろうか。
でも。
でも。
先輩は言ってくれたから。
『疲れた時は言ってください、肩くらい貸しますよ』って。
『一人で悩むな、辛いことがあるなら僕に言え』って。
今この時の気持ちをどう表現したらいいのかよくわからないけれど、会いに行ってもいいですか。
オンボロ寮を飛び出して暫く、鏡舎にたどり着くと、驚くことにそこにはアズール先輩が立っていた。忙しく動いていた私の足が止まると、先輩が足を動かした。
「な、んで」
「そろそろ、来る頃かなと思いました」
「う、うそ、だって、そんなの、」
「わかるわけない、と?そうですか…ではあなたはまだ僕のことを理解しきれていないようだ」
「、どういう、ことですか…?」
「僕は誰ですか?」
唐突な質問に脳が停止しそうになるも、私は素直に回答する。
「アズール先輩…」
「正解で、不正解です。僕はアズール・アーシェングロツト。あなたに魔法をかけられる、唯一の魔法士」
「へ、」
「さぁ、あなたに魔法をかけましょう。ワン、ツー、」
言いながら私に近づいた先輩は、スリー、と告げると同時、私の身体をその腕の中に閉じ込めた。
「ほら、これでゆっくり息ができるでしょう」
「!」
「肩の力を抜くところからですよ。まだ始業まで時間もありますしね。思う存分、甘えてくれていいですよ」
「…っ…ありがと、ございます…っ」
「お安い御用です。あなたに頼られるのは気分がいいので。僕のためにも定期的によろしくお願いしますね」
先輩に抱きしめられてスンと鼻を啜れば、鼻腔を満たしたのは悲しさではなくて大好きなコロンの香りだった。
疲れた、もう嫌だ、やすみたい
そんな後ろ向きな気持ちすら、こうやって抱きしめて溶かしてもらえるなら、また少しずつ頑張っていけるかもって。
「魔法士ってすごいです」
「あなただけの特別、ですからね」