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『あれ?シルバー先輩だ』
お昼明けが移動教室だったため、普段は通ることのない廊下を珍しく歩いていると、その端っこにある小さな中庭のベンチで居眠りをしているシルバー先輩を発見した。
その脇には、どこからきたのか野ウサギだの小鳥だのが寄り添うようにして眠っている。
『本当に、動物に好かれてるんだなぁ…』
こちらにも四季があるのだろうか。ウインターホリデーが終わってから徐々に暖かくなってきた気がする。
柔らかく花の香りを運ぶ春風は、そよそよと頬をなでてゆく。こんな時期には、シルバー先輩でなくとも眠気を誘われることだろう。
それでも、もうすぐしたら午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴ってしまう。
おそらくそんな音では、シルバー先輩が覚醒することはなさそうだ。
声をかけるのもはばかられるような綺麗な横顔ではあるが、そうもいってはいられない。
うたた寝をするシルバー先輩の隣に腰をかけつつ、ゆさゆさと腕を揺すった。
『先輩…シルバー先輩…!』
「…ん…」
『起きてください…!もうすぐ午後の授業始まっちゃいますよ』
「…ああ…俺はまた眠っていたのか…?」
『ふふ…そうですね』
何が原因かわからないが、そこここで眠ってしまうというシルバー先輩。
フルフルと頭を振る姿は、先輩とは思えないほどに可愛らしい。
『あれ?でもそういえば、少し前に言っていた眠気覚まし薬はどうしたんですか?』
「あの薬は、作り置きがものの2〜3日でなくなってしまったんだ…作り方はわかるのだが、あまりたくさんの薬草を温室から採ってくることも憚られる…」
『あらら…そうだったんですね』
「残念だ」
『ちなみに、効いたんですか?』
「一応は効いたようだった。少なくとも、飲んだ後3時間くらいは」
『そんなに短いんですか』
眠気ざましの魔法薬というくらいだから、相当効くのだと思ったけれど、シルバー先輩にかかればその程度だったかと、失礼ながらクスクス笑ってしまったら、ムッとした声が返ってきた。
「笑うな。俺だって困ってるんだ…これでは親父殿に叱られてしまう。いざという時にマレウス様をお守りできない。」
『マレウス様って、ディアソムニアの寮長ですよね?シルバー先輩がお守りしないといけないような人なんですか?どこの寮も、割とすごそうな人が寮長をしているイメージなんですけれど』
「マレウス様はそんな方ではない!…ただ…いざという時には、命に代えても…」
そういって、空を映したオーロラ色の瞳がキラッと輝いたのは、光が反射したからだろうか。
いつも眠たげなそれとは違って、強い意志を秘めた視線に、思わずどきりと胸が跳ねた。
でもそれは一瞬のことで、もしかしたら見間違いかとも思わせるように、パチパチと瞬きをした隙にまたとろりと半分にも満たない程度に瞳が閉じてきていた。
『せ、先輩!眠っちゃダメです!!これから授業です!!』
「ん…わかって…いる…」
『!!』
こてん、と首が傾いたと思ったら、私の肩にその頭が寄せられて、心臓が口から出そうになった。
こんなの、人が見たら恋人同士みたいじゃないかと。
でも、ここで大声をあげてはシルバー先輩が困ってしまうというもの。
必死で平静を装って、カチコチに身体を固まらせた。
少し長めの銀髪が頬と首筋をくすぐる。
目と鼻の先で吐息が聞こえる。
足元では、まん丸の目をしたうさぎさんが私たちを見つめていて、顔が赤くなるのを止められなかった。
『こんなに無防備にされても…困るよ…』
シルバー先輩のこれはただの病なのだ。誰が相手でもこんな風になるに決まっているのに、近い距離に勘違いしそうになる。
このまま時が止まってしまえばいいのにと、どこかで思っていたけれど、そんな都合のいい事は起こらない。
時は非常なもので、タイムアップとばかりに、キンコンカンコン…と重厚な音が校内に鳴り響く。
俄かに騒がしくなる廊下に、動物たちはパッとどこかに散ってしまった。
『し、シルバー先輩!ほんとに!もう時間ですって…!』
「はっ…!すまない…!俺は本当に…何度も何度も…」
『いいんですよ、謝る必要はないんですけど…先生にもわからない病気なんですもん。でも、今日はほんとうに、もう行かないと』
このままベンチに座っていては、また同じことが繰り返されるだろうと予想して、失礼かとも思ったけれど、シルバー先輩の腕をとり無理矢理立たせた。
それから手を取って歩き出す。
『とりあえず急ぎましょう!先輩の次の授業はどこですか?』
「えぇと、この近く…だったから、ここまできた…はずだが…」
『あぁもう!立ったままでもダメですか!?眠らないで!!』
「眠りたく、ないんだが…なんでこう俺は…。せっかくお前がいるのに…」
『!?』
そう言いながらも目蓋は徐々に下がっていき、閉じそうになっては開き、閉じそうになっては開き。
シルバー先輩なりに頑張ろうとはしているようであるけれど、うまく行かないのはご愛嬌なのか。
「お前の空気は、好きだ…暖かくて…安心する…。だから、もっと、色々と、話したい…のに」
『言ってることと態度が真逆なの…ふふっ』
「こんな俺に構ってくれるなんて…お前は変わっているな…」
『こんな私ともっと話したいって言ってくれるシルバー先輩も、変わり者ですよっ』
悔しいやら愛しいやら。
シルバー先輩の、どこでも眠くなっちゃう性質、治るといいですね…。
今にも、また眠りそうな端正な顔に、さらさらと流れた前髪がなびく。
「また…俺が眠っていたら…起こしにきてくれるか…?」
『もちろんですよ、何度でも手を引いて、起こしてみせます』
「…ありがとう…安心して任せられそうだ」
私の中に芽生えたこの気持ち、このまま育てていってもいいですか?
今度はその綺麗なオーロラに私を映してと、願わずにはいられない、お昼明けの午後1時。
お題:twst文字書きワードパレットより
たんぽぽ/dandelion
(春風、輝いた、横顔)
リクエストありがとうございました!
お昼明けが移動教室だったため、普段は通ることのない廊下を珍しく歩いていると、その端っこにある小さな中庭のベンチで居眠りをしているシルバー先輩を発見した。
その脇には、どこからきたのか野ウサギだの小鳥だのが寄り添うようにして眠っている。
『本当に、動物に好かれてるんだなぁ…』
こちらにも四季があるのだろうか。ウインターホリデーが終わってから徐々に暖かくなってきた気がする。
柔らかく花の香りを運ぶ春風は、そよそよと頬をなでてゆく。こんな時期には、シルバー先輩でなくとも眠気を誘われることだろう。
それでも、もうすぐしたら午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴ってしまう。
おそらくそんな音では、シルバー先輩が覚醒することはなさそうだ。
声をかけるのもはばかられるような綺麗な横顔ではあるが、そうもいってはいられない。
うたた寝をするシルバー先輩の隣に腰をかけつつ、ゆさゆさと腕を揺すった。
『先輩…シルバー先輩…!』
「…ん…」
『起きてください…!もうすぐ午後の授業始まっちゃいますよ』
「…ああ…俺はまた眠っていたのか…?」
『ふふ…そうですね』
何が原因かわからないが、そこここで眠ってしまうというシルバー先輩。
フルフルと頭を振る姿は、先輩とは思えないほどに可愛らしい。
『あれ?でもそういえば、少し前に言っていた眠気覚まし薬はどうしたんですか?』
「あの薬は、作り置きがものの2〜3日でなくなってしまったんだ…作り方はわかるのだが、あまりたくさんの薬草を温室から採ってくることも憚られる…」
『あらら…そうだったんですね』
「残念だ」
『ちなみに、効いたんですか?』
「一応は効いたようだった。少なくとも、飲んだ後3時間くらいは」
『そんなに短いんですか』
眠気ざましの魔法薬というくらいだから、相当効くのだと思ったけれど、シルバー先輩にかかればその程度だったかと、失礼ながらクスクス笑ってしまったら、ムッとした声が返ってきた。
「笑うな。俺だって困ってるんだ…これでは親父殿に叱られてしまう。いざという時にマレウス様をお守りできない。」
『マレウス様って、ディアソムニアの寮長ですよね?シルバー先輩がお守りしないといけないような人なんですか?どこの寮も、割とすごそうな人が寮長をしているイメージなんですけれど』
「マレウス様はそんな方ではない!…ただ…いざという時には、命に代えても…」
そういって、空を映したオーロラ色の瞳がキラッと輝いたのは、光が反射したからだろうか。
いつも眠たげなそれとは違って、強い意志を秘めた視線に、思わずどきりと胸が跳ねた。
でもそれは一瞬のことで、もしかしたら見間違いかとも思わせるように、パチパチと瞬きをした隙にまたとろりと半分にも満たない程度に瞳が閉じてきていた。
『せ、先輩!眠っちゃダメです!!これから授業です!!』
「ん…わかって…いる…」
『!!』
こてん、と首が傾いたと思ったら、私の肩にその頭が寄せられて、心臓が口から出そうになった。
こんなの、人が見たら恋人同士みたいじゃないかと。
でも、ここで大声をあげてはシルバー先輩が困ってしまうというもの。
必死で平静を装って、カチコチに身体を固まらせた。
少し長めの銀髪が頬と首筋をくすぐる。
目と鼻の先で吐息が聞こえる。
足元では、まん丸の目をしたうさぎさんが私たちを見つめていて、顔が赤くなるのを止められなかった。
『こんなに無防備にされても…困るよ…』
シルバー先輩のこれはただの病なのだ。誰が相手でもこんな風になるに決まっているのに、近い距離に勘違いしそうになる。
このまま時が止まってしまえばいいのにと、どこかで思っていたけれど、そんな都合のいい事は起こらない。
時は非常なもので、タイムアップとばかりに、キンコンカンコン…と重厚な音が校内に鳴り響く。
俄かに騒がしくなる廊下に、動物たちはパッとどこかに散ってしまった。
『し、シルバー先輩!ほんとに!もう時間ですって…!』
「はっ…!すまない…!俺は本当に…何度も何度も…」
『いいんですよ、謝る必要はないんですけど…先生にもわからない病気なんですもん。でも、今日はほんとうに、もう行かないと』
このままベンチに座っていては、また同じことが繰り返されるだろうと予想して、失礼かとも思ったけれど、シルバー先輩の腕をとり無理矢理立たせた。
それから手を取って歩き出す。
『とりあえず急ぎましょう!先輩の次の授業はどこですか?』
「えぇと、この近く…だったから、ここまできた…はずだが…」
『あぁもう!立ったままでもダメですか!?眠らないで!!』
「眠りたく、ないんだが…なんでこう俺は…。せっかくお前がいるのに…」
『!?』
そう言いながらも目蓋は徐々に下がっていき、閉じそうになっては開き、閉じそうになっては開き。
シルバー先輩なりに頑張ろうとはしているようであるけれど、うまく行かないのはご愛嬌なのか。
「お前の空気は、好きだ…暖かくて…安心する…。だから、もっと、色々と、話したい…のに」
『言ってることと態度が真逆なの…ふふっ』
「こんな俺に構ってくれるなんて…お前は変わっているな…」
『こんな私ともっと話したいって言ってくれるシルバー先輩も、変わり者ですよっ』
悔しいやら愛しいやら。
シルバー先輩の、どこでも眠くなっちゃう性質、治るといいですね…。
今にも、また眠りそうな端正な顔に、さらさらと流れた前髪がなびく。
「また…俺が眠っていたら…起こしにきてくれるか…?」
『もちろんですよ、何度でも手を引いて、起こしてみせます』
「…ありがとう…安心して任せられそうだ」
私の中に芽生えたこの気持ち、このまま育てていってもいいですか?
今度はその綺麗なオーロラに私を映してと、願わずにはいられない、お昼明けの午後1時。
お題:twst文字書きワードパレットより
たんぽぽ/dandelion
(春風、輝いた、横顔)
リクエストありがとうございました!