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「なんか、おかしくない?」
本日、バレンタイン前夜。
一週間前からずっと、ずっとアズール先輩の夢を見ている私はベッドの上で頭を捻っている。
「うーん?いや…平安時代じゃあるまいし…っていうかこの世界にそんな時代ないし…?」
夢に人が現れるのはその人が自分の事を思っているからだ、とは元の世界の授業で習った知識だが、あのアズール先輩がそんなに人に意識を向けているとは思えない。というか、あれは昔の人の考えであって、現実にそんなことがあるわけない。
ということはやっぱり私が毎日アズール先輩のことを考えすぎということか。
「自覚はあったけど、ここまでとは!」
一人で納得して、一応用意だけはした小さめの箱を見つめる。その中にはもちろん手作りショコラを詰めた。渡せないかもしれないけれど、食べてもらえないかもしれないけれど、とりあえず、気持ちくらいはと。味については、先輩の舌を納得させられるわけないので考えないことにした。
「なるようになるよね…。おやすみなさーい」
ベッドサイドの灯りを落として目を閉じれば、すぐに眠気がやってきて、私は次第に夢の世界へと誘われた。
・
・
・
「…。…、あなた!」
「…ん…わぁっ!?」
誰かの声に起こされて目を開ければ、見慣れたモストロ・ラウンジの天井が見えた。
おかしいな!?ついさっきベッドの中に潜り込んだはずなのに。どうして。
ぼんやりする頭で考えていると、視界にぬっとアズール先輩の端正なお顔が入り込んできて思わず仰け反ってしまった。
「全くいつまで寝ているんですか」
「えっ…あれっ…?だって、…えぇ??」
「ここ一週間手間暇かけてきたというのに。魔力を持たない人間を連れてくるのがこんなにも大変だったなんて」
「?何ですって?」
「いえ、こちらの話です」
私の前では見せることが少なくなった商業スマイルを貼り付けて、アズール先輩は私の手を引いてソファーから立ち上がらせると、カウンターまで連れてきた。
ラウンジには人っこ一人いない。珍しい光景だ。
「さ、座ってください」
「あ…はい…」
「どうしたんです?そんなに硬くならないで。それとも何か違和感が?」
「うーん、違和感、というか…異質な空気は感じます。悪いものではない、とは思いますが…」
「へぇ…。やはり貴女、センスはあるんですね」
「…?どういう…?」
「ネタばらしをしましょうか。ここは現実世界じゃないんです」
「!」
驚きを隠せない私に、悪戯が成功したかのように楽しそうに唇を釣り上げた。
話の前にと、目の前に出されたカクテルグラス。
それを飲んでいいのかいけないのかがわからず、アズール先輩を見つめ返す。
先輩の前にもグラスが置かれており、グラスの脚の部分をなぞる指が艶かしい。
「今日は何日ですか?」
「…2月13…あ、違う、14日…?」
「そうです。地域ごとに色々な行事が行われているようですが、僕らの故郷ではこの日は恋人同士が夢の中で会って誓いを交わすんですよ。末永くこの関係が続くよう願いを込めて。なので、貴女を連れてきました」
「…!そうなんですか」
「ええ。ですが貴女は魔力を持たないから、これに慣れさせるためにも短時間から始めようと毎日少しずつ会いに行っていたのですが、まさか一度もきちんと目覚めないとは。よほど眠りが深いか鈍感か…」
そこで言葉を切って、堪えきれずにふふ、と笑った先輩。
すみませんね!と怒ったものの、そう言われるとちょっとだけ頬が熱い。
「ああ怒らないでください。こんなものは、こちらの力量でなんとかするものですから。僕は貴女の番、一流の魔法士で支配人のアズール・アーシェングロットですよ?できないことはないんですから」
「そんなのわかってますッ!だって、こうして当日には成功するんだから。でもお手間かけたなって反省しただけですよ」
「お褒めに預かり光栄です。それで、その誓いですが、」
そこで言葉を切ってカクテルグラスを持ち上げた先輩は、中に入ったブルーの飲み物をユラリと揺らした。
「これ、お酒ですか?」
「そんなわけないでしょう。誰でも飲めるようにアルコールは入れていません。誓いを立てるときにはブルーの飲み物を入れたグラスで乾杯する習慣とはなっていますが、特にお酒に限定されているわけでもありませんので。ノンアルコールリキュールで作ったジュースです」
「ふぁー…綺麗…」
先輩の真似をしてカクテルグラスを持ち上げると、ただ真っ青な液体だと思っていたその中には、控えめなキラキラが浮いており、薄灯りに反射して大層美しかった。どんな味がするんだろう。先輩のことだから、私が考えているような普通の飲み物でもないんだろうな。
飲んでもいいんですかとの意図を含んだ視線を先輩に戻すと、意外にも先輩はまだダメです、とそれを遮った。
「その前に。貴女の世界ではこの日何をするんですか?」
「え?」
「フェアじゃないでしょう。お互いのことを聞かないと。前にも言った通り全てこちらに染まる必要はありませんから。文化というのは様々あって、譲れるものも譲れないものもあるでしょう」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、特にどうという文化でもないですよ。2月14日のこと、私たちはバレンタインデーと呼んでいましたけど、女性から男性にチョコレートを贈って、告白をする日でした。それだけです」
「女性から男性に告白!?」
「あ、やっぱり驚くくらい不思議なことなんですね?マブたちも『感謝』って言ってたから、ちょっと違うのかと思っていました」
この空間に似合わない素っ頓狂な声をあげたアズール先輩は、「告白してもらえるのか、羨ましい文化だ」などとぶつぶつと言っていたが、聞こえないふりをしておいた。
「でもほら、アズール先輩は甘いものは食べないでしょう?カロリー計算もしてるし。だから」
「!?だから用意していないと言うんですか!?」
「違いますよ!作りましたけど、渡そうかどうしようか迷ってて…って本人に言う話でもないんですけど…」
「わかりました貴女の手作りを誰かに食べさせるわけにはいきませんからカロリー調整をしてそのチョコレートをいただきます当たり前でしょう僕は彼氏ですから」
そこまで一息で言って少し前のめりになったアズール先輩には、ちょっと驚いて、それから笑ってしまった。
そんな私を見て息巻きすぎたと感じたのか、少し頬を染めながら眼鏡を直しつつカウンターに向き直った先輩に、私は言う。
「ふはっ…!食べてもらえるなら、とっても嬉しいです。美味しいかどうかはわかりませんけど…じゃあ明日…あ、もう今日か。今日、渡しに行きますね」
「お、おねがい、します…」
「えっと、でもそれじゃあ、ここでは先輩の故郷の風習に倣って、乾杯、ですかね?」
「ええ、はい。そうしましょう。それではグラスを持って」
先輩を真似てカクテルグラスをかかげる。
「貴女と、末長く共に。乾杯」
「乾杯」
こくりとそれを飲み下す。
甘くて、美味しい、幸せの味がした。
あれ、なんだか、瞼がおもい。
そういえば、ここはゆめの中、なんだっけ…?
もしかしてもう朝になっちゃったのかな。
もうちょっと、二人きりで、いたかったのに。
「あずーる、せんぱい、」
「なんですか?」
先輩は、夢の中だとわかっているからか、楽しそうに私の表情を見つめる。
普段はあまりかち合うことのない瞳に私が映る。
カウンター席では距離を縮めるのが難しい。もどかしい。
まぶたが、閉じてしまう、その前に。
アズール先輩に手を伸ばして、頬に触れた。
「すきです、」
「は、?」
「誓い、ありがとう、ございま…す、また、あした…」
「え、ちょ!」
・
・
・
「っは!!」
次に瞼を開けた時、私はオンボロ寮にいた。
麗かな朝日がカーテンの隙間から差し込んで、少し眩しい。
「…ゆめ…じゃ、ない、よね」
先輩が話して聞かせてくれたこと、全て覚えてる。
やっぱり魔法ってすごいやと思いながら、自分の唇をそっとなぞった。
意識が遠のく中で、先輩の唇に触れたような気がしたんだけれど。
でも今となってはもうわからない。
「あっ!授業始まっちゃう!グリム起きて!」
時計を見て大慌てで支度をした少し後、学園でアズール先輩と鉢あわせた。
けれどバッと顔をそらされたのを見て、あ、もしかして私の記憶は間違っていなかったかもと思い当たる。
この私が、告白とキスと同時にする世界線があるなんて、と頬を染めながら。
そんなアズール先輩に向かって、私はチョコレートを差し出した。
「アズール先輩、ハッピーバレンタイン!」
本日、バレンタイン前夜。
一週間前からずっと、ずっとアズール先輩の夢を見ている私はベッドの上で頭を捻っている。
「うーん?いや…平安時代じゃあるまいし…っていうかこの世界にそんな時代ないし…?」
夢に人が現れるのはその人が自分の事を思っているからだ、とは元の世界の授業で習った知識だが、あのアズール先輩がそんなに人に意識を向けているとは思えない。というか、あれは昔の人の考えであって、現実にそんなことがあるわけない。
ということはやっぱり私が毎日アズール先輩のことを考えすぎということか。
「自覚はあったけど、ここまでとは!」
一人で納得して、一応用意だけはした小さめの箱を見つめる。その中にはもちろん手作りショコラを詰めた。渡せないかもしれないけれど、食べてもらえないかもしれないけれど、とりあえず、気持ちくらいはと。味については、先輩の舌を納得させられるわけないので考えないことにした。
「なるようになるよね…。おやすみなさーい」
ベッドサイドの灯りを落として目を閉じれば、すぐに眠気がやってきて、私は次第に夢の世界へと誘われた。
・
・
・
「…。…、あなた!」
「…ん…わぁっ!?」
誰かの声に起こされて目を開ければ、見慣れたモストロ・ラウンジの天井が見えた。
おかしいな!?ついさっきベッドの中に潜り込んだはずなのに。どうして。
ぼんやりする頭で考えていると、視界にぬっとアズール先輩の端正なお顔が入り込んできて思わず仰け反ってしまった。
「全くいつまで寝ているんですか」
「えっ…あれっ…?だって、…えぇ??」
「ここ一週間手間暇かけてきたというのに。魔力を持たない人間を連れてくるのがこんなにも大変だったなんて」
「?何ですって?」
「いえ、こちらの話です」
私の前では見せることが少なくなった商業スマイルを貼り付けて、アズール先輩は私の手を引いてソファーから立ち上がらせると、カウンターまで連れてきた。
ラウンジには人っこ一人いない。珍しい光景だ。
「さ、座ってください」
「あ…はい…」
「どうしたんです?そんなに硬くならないで。それとも何か違和感が?」
「うーん、違和感、というか…異質な空気は感じます。悪いものではない、とは思いますが…」
「へぇ…。やはり貴女、センスはあるんですね」
「…?どういう…?」
「ネタばらしをしましょうか。ここは現実世界じゃないんです」
「!」
驚きを隠せない私に、悪戯が成功したかのように楽しそうに唇を釣り上げた。
話の前にと、目の前に出されたカクテルグラス。
それを飲んでいいのかいけないのかがわからず、アズール先輩を見つめ返す。
先輩の前にもグラスが置かれており、グラスの脚の部分をなぞる指が艶かしい。
「今日は何日ですか?」
「…2月13…あ、違う、14日…?」
「そうです。地域ごとに色々な行事が行われているようですが、僕らの故郷ではこの日は恋人同士が夢の中で会って誓いを交わすんですよ。末永くこの関係が続くよう願いを込めて。なので、貴女を連れてきました」
「…!そうなんですか」
「ええ。ですが貴女は魔力を持たないから、これに慣れさせるためにも短時間から始めようと毎日少しずつ会いに行っていたのですが、まさか一度もきちんと目覚めないとは。よほど眠りが深いか鈍感か…」
そこで言葉を切って、堪えきれずにふふ、と笑った先輩。
すみませんね!と怒ったものの、そう言われるとちょっとだけ頬が熱い。
「ああ怒らないでください。こんなものは、こちらの力量でなんとかするものですから。僕は貴女の番、一流の魔法士で支配人のアズール・アーシェングロットですよ?できないことはないんですから」
「そんなのわかってますッ!だって、こうして当日には成功するんだから。でもお手間かけたなって反省しただけですよ」
「お褒めに預かり光栄です。それで、その誓いですが、」
そこで言葉を切ってカクテルグラスを持ち上げた先輩は、中に入ったブルーの飲み物をユラリと揺らした。
「これ、お酒ですか?」
「そんなわけないでしょう。誰でも飲めるようにアルコールは入れていません。誓いを立てるときにはブルーの飲み物を入れたグラスで乾杯する習慣とはなっていますが、特にお酒に限定されているわけでもありませんので。ノンアルコールリキュールで作ったジュースです」
「ふぁー…綺麗…」
先輩の真似をしてカクテルグラスを持ち上げると、ただ真っ青な液体だと思っていたその中には、控えめなキラキラが浮いており、薄灯りに反射して大層美しかった。どんな味がするんだろう。先輩のことだから、私が考えているような普通の飲み物でもないんだろうな。
飲んでもいいんですかとの意図を含んだ視線を先輩に戻すと、意外にも先輩はまだダメです、とそれを遮った。
「その前に。貴女の世界ではこの日何をするんですか?」
「え?」
「フェアじゃないでしょう。お互いのことを聞かないと。前にも言った通り全てこちらに染まる必要はありませんから。文化というのは様々あって、譲れるものも譲れないものもあるでしょう」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、特にどうという文化でもないですよ。2月14日のこと、私たちはバレンタインデーと呼んでいましたけど、女性から男性にチョコレートを贈って、告白をする日でした。それだけです」
「女性から男性に告白!?」
「あ、やっぱり驚くくらい不思議なことなんですね?マブたちも『感謝』って言ってたから、ちょっと違うのかと思っていました」
この空間に似合わない素っ頓狂な声をあげたアズール先輩は、「告白してもらえるのか、羨ましい文化だ」などとぶつぶつと言っていたが、聞こえないふりをしておいた。
「でもほら、アズール先輩は甘いものは食べないでしょう?カロリー計算もしてるし。だから」
「!?だから用意していないと言うんですか!?」
「違いますよ!作りましたけど、渡そうかどうしようか迷ってて…って本人に言う話でもないんですけど…」
「わかりました貴女の手作りを誰かに食べさせるわけにはいきませんからカロリー調整をしてそのチョコレートをいただきます当たり前でしょう僕は彼氏ですから」
そこまで一息で言って少し前のめりになったアズール先輩には、ちょっと驚いて、それから笑ってしまった。
そんな私を見て息巻きすぎたと感じたのか、少し頬を染めながら眼鏡を直しつつカウンターに向き直った先輩に、私は言う。
「ふはっ…!食べてもらえるなら、とっても嬉しいです。美味しいかどうかはわかりませんけど…じゃあ明日…あ、もう今日か。今日、渡しに行きますね」
「お、おねがい、します…」
「えっと、でもそれじゃあ、ここでは先輩の故郷の風習に倣って、乾杯、ですかね?」
「ええ、はい。そうしましょう。それではグラスを持って」
先輩を真似てカクテルグラスをかかげる。
「貴女と、末長く共に。乾杯」
「乾杯」
こくりとそれを飲み下す。
甘くて、美味しい、幸せの味がした。
あれ、なんだか、瞼がおもい。
そういえば、ここはゆめの中、なんだっけ…?
もしかしてもう朝になっちゃったのかな。
もうちょっと、二人きりで、いたかったのに。
「あずーる、せんぱい、」
「なんですか?」
先輩は、夢の中だとわかっているからか、楽しそうに私の表情を見つめる。
普段はあまりかち合うことのない瞳に私が映る。
カウンター席では距離を縮めるのが難しい。もどかしい。
まぶたが、閉じてしまう、その前に。
アズール先輩に手を伸ばして、頬に触れた。
「すきです、」
「は、?」
「誓い、ありがとう、ございま…す、また、あした…」
「え、ちょ!」
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「っは!!」
次に瞼を開けた時、私はオンボロ寮にいた。
麗かな朝日がカーテンの隙間から差し込んで、少し眩しい。
「…ゆめ…じゃ、ない、よね」
先輩が話して聞かせてくれたこと、全て覚えてる。
やっぱり魔法ってすごいやと思いながら、自分の唇をそっとなぞった。
意識が遠のく中で、先輩の唇に触れたような気がしたんだけれど。
でも今となってはもうわからない。
「あっ!授業始まっちゃう!グリム起きて!」
時計を見て大慌てで支度をした少し後、学園でアズール先輩と鉢あわせた。
けれどバッと顔をそらされたのを見て、あ、もしかして私の記憶は間違っていなかったかもと思い当たる。
この私が、告白とキスと同時にする世界線があるなんて、と頬を染めながら。
そんなアズール先輩に向かって、私はチョコレートを差し出した。
「アズール先輩、ハッピーバレンタイン!」