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ある日突然ものを浮かせられるようになったあなたがあまりにも怖がるものだから、共にクリニックに出向けば、『魔力量の多いものと接触を続けることで、少しずつ体内に魔力が蓄積されたのでしょう』と説明された。
「接触?そんなことは誰とだって…」
「ああ…ええと、失礼ですが、お二人はどういったご関係ですか?」
「番ですが、それが何か?」
「なるほど番でしたか。お若いのにしっかりしていらっしゃる。であればお話しても問題ないでしょう。接触、といっても普通の接触ではありません。口付けや性交など、身体の交わりを通して魔力が移る形です。口付けの場合は唾液、性交の場合は精液というように、魔力のあるものからないものに体内の分泌物が移ることで…って、彼氏さん、大丈夫ですか?」
あまりの衝撃に椅子から転がり落ちた僕を真っ赤な顔のあなたが見下ろしていたのは言うまでもないし、その日は一日中あなたに慰められることになった。
つまり僕は知らないうちにあなたに魔力を与えて、あなたをこちら側の生き物に仕立て上げてしまっていたのだ。
だがしかし、そのおかげもあって、あなたは四年でこの学園を卒業できるほどには魔法士として成長できたのだから、結果オーライである。
まぁこの事実さえ墓場まで持っていけば…と思ったが、案の定、陸の者には周知の事実だったようで死ぬほど恥じた事も、もはや過去の思い出だ。
それで、なぜこんなことを思い出しているのかといえば、今日は、あなたがNRCを卒業する日だからだ。
色々なことがあったなと、少し感慨深くなる。
式を終え、同級生や教員、それからもちろん相棒やゴーストたちへの別れを済ませてあなたが待ち合わせ場所の正門に来たのは、陽が傾きかけたころだった。
『お待たせしたくなかったから来なくていいって言ったのに』と申し訳なさそうに告げるあなたに、『構わないから迎えに行く、と強行突破したのは僕ですから気にしないでください』と返せば、お互い強情だからと笑った。
「…いつも思うんですけど」
そう、切り出された言葉。
「アズール先輩は」
「もう先輩じゃありませんよ」
「ふは!そうですね、じゃあ…アズールさんは…ってなんか照れますね。アーシェングロットさんにしようかな…」
「なぜ今以上に他人行儀になるんですか。いいですよ、『さん』で」
「そうですか?…じゃあ…その、アズールさんは、本当に…私でいいんですか?」
「はぁ…またその話ですか?」
「だ、だって!このままアズールさんのお家に行ったら、ほら、最後の確認!ね?」
何度も何度も話し合ったことを未だ気にしているのは何か訳があるのだろうか。視線で問うと、困ったように笑った顔が返ってきた。
「その、…アズールさんは、私があっちから戻ってくると、試すように質問しますよね。そういえば先週のあのときのこと…やら、先月はどこどこに行きましたね、やら。私、アズールさんとしてきたこと、忘れたりしません。なのに…。だから信じてもらえてないのかなって…」
何を言うかと思えば、そんなことか。
あなたはほとんどこちらの世界の生き物になってしまったというのに、元の世界とも行き来をやめないのだ。僕も一緒に戻るときはもちろんあるが、二人で行けないときに一人こちらで待たされる気持ちも考えてほしい。
「そうは言っても、人間は忘れる生き物でしょう。時空を越え続ける貴女に何が起こるのかは、誰にもわからない。そもそも初めての時がそういう状況だったんですよ。確認くらいさせてほしいものです。」
「その気持ちはもちろんわかりますけど、もう何度も成功しているのに。」
「自分の作ったもの以外は根本的に信じていないんですよ、僕は。」
「じゃあ鏡もそのうち作ってくれるんですか?」
「貴女が望むなら、もちろん。」
言い切った台詞に、本当に?という表情をするものだから、貴女こそ信じてないじゃないですか僕のこと、と思ったが、ここは黙っておくのが得策かもしれない。本当はずっとこっちにいてほしいのであまり気は進みませんが、貴女が望むことはなんでもしてやりたいと思うくらいには、こっちは本気なんだ。
「…永遠なんて、絶対なんて、この世には存在しないんです。」
「…」
「だから僕は、」
今日はとっておきのものを持ってきたんだ。
学生というレッテルがはがれて、本当の意味で、自分の力で生きていかなければならなくなるこの日に。
ほかならぬ貴女に聞いてほしいことが、伝えたいことがあって。
この世に存在しないとしても、せめて形だけでも見せたいから。
「だから僕は、今日も貴女に『さよなら』は言わない。できれば『また明日』も言いたくない。試すように『覚えているか』、とも、言わないようにしたい。」
一体何が言いたいんだろう?、と言いたげに眉を顰めたあなたに対して、僕は言葉を返さない。
代わりにパチンと、指を鳴らした。途端、舞い散るのは色とりどりの花びら。
こういうのは演出が重要だ。
魔法をかける方法は、なにもマジカルペンを振るだけではない。
降らせた花びらは、地面に着く前にほわりと消えていくけれど、僕と貴女の関係は、そんな風にはさせない。
「僕と結婚してください」
そう言ってポケットから取り出したのは、小箱で。
それを開けば、天から一筋の光が差し込み、まっすぐに指輪を照らした。
それはさながら、天からの贈り物とも天の祝福ともとれる。
…というのはもちろん演出だが、僕の演出に狂いはない。だから、こう取ってもらえたことは間違いないだろう。
ネタを明かせば、指輪の入った小箱に、開いたときに明かりがつくような仕掛けをしておいただけなのだが、あなたはこういうものを気に入ってくれるはずだ。
絶対の自信の元、どうだとあなたを盗み見る。
考えていた通り、一瞬ポカンとしたあなたは、次第に頬を緩ませて、でも瞳を潤ませるという器用な表情をしていた。
「ほ、んとに?」
「この期に及んで、これが嘘だとでも思いますか?」
「あいて、わたしで、まちがってないです、よね?」
「貴女の顔と誰かを違うことは絶対にありません。」
「…指輪まで、スポットライト、なんて、アズール先輩らしいっ…」
「一世一代じゃないと困りますよこんなこと。」
「わたし…自分の身に、こんなこと、絶対に起こらないと思ってました…。でもよく考えたら、この世界に来たこと自体が、ありえないことだったから…、奇跡みたいなことがあっても、間違いじゃないのかも…?」
その顔を見れば、答えなんて一目瞭然ではあるけれど、言葉で、明確に聞かないと安心できるはずもなく。焦れて急かしてしまう。
「それで…答えはいただけないんですか?」
「…どっちだと思いますか?」
「勝率が低いことを、僕がするとでも?決まってるじゃないですか。」
「じゃあ言わなくてもいい?」
「それは嫌です。貴女の口から聞かせてほしい。」
「わがまま!」
「あたりまえでしょう!僕はもともとこういう性格です!」
このやり取り、いつまで続くんだと我慢が限界に達するかと思われた、その時。
あなたが徐に、自分の手を胸の前に持ってきて、以前僕が送った細いリングをその指から抜いた。それは一瞬きらりと夕陽に照らされて、それからポケットにしまわれる。
すっと、その手が僕に向けて差し出されたことを踏まえると、これはきっと。
「嵌めて、くれないんですか?」
「それは、じゃあ、」
「私が、イエス、以外の返事、するわけないじゃないですか。わかってるくせに。」
「っ、」
どこまで自分の素顔を晒しても。
どんな間違いをおかしても。
否定されたことなんて一度もなかったなと。
感慨深くなって、しゃがみこんでしまった。
こんな風になる予定ではなかったのに、大変遺憾である。
「あれ?先輩泣いてます?」
「っ、泣いてませんよ!」
「ほーら、早く嵌めてもらわないと、またいなくなっちゃうかもしれませんよ?」
「そんなことはないと言ったくせに今更!」
「…嘘、ですよ。」
呟かれた台詞にバッとあなたを見やると、はにかんだ顔で『ごめんなさい』と言われた。咄嗟にはその言葉の真意がわからず、ポケッとあなたを見つめる僕。
あなたも僕と同じようにしゃがみこんで、そうして言った。
「本当のことを言うと、私も、アーシェングロットって、あのときからずっと名乗りたかったです。」
「!?」
「そうしてくれるんですよね?」
もう一度、控えめに左手を差し出すので、今度こそその指に指輪を嵌めた。
それはもちろんぴったりとあなたの指に収まって。
そうしてあなたは、泣きながら笑った。
「例えばもしも、もしもね、先輩が私のことを嫌いになっても、私は絶対に先輩のこと、好きでいられる自信があるの。」
「そんなこと、絶対にないですけど、その自信はとても嬉しいですよ。」
「それでね、きっと私のほうが先に寿命が来ちゃうと思うんですけど、そうしても、お迎えの場所が変わるだけで、ずっと迎えに来てくれるの、待ってますから。ずっと、どこにいても、」
「…貴女、」
「本当は、アズール先輩を残してどこかに行くなんて、したくないから。それならもらった言葉とリングを糧に、ゆるくお付き合いしてたほうがいいかなって、思ったこともあったんです。でも、やっぱり、それじゃ私、満足できなくて…」
はぐらかしてきた本当の理由を知って、僕は愕然としてしまった。
どこまでもバカだと思った。そうして、なんでこんなにも優しい子なんだと、少し怒った。自分の幸せが、他人を幸せにしていることも視野に入れてはくれないんだろうかと。
僕は貴女が笑っていれば、結局何もかもよくなってしまうのに。
泣くんじゃなくて、笑ってほしい。
だからきっと、僕は今、こう言うべきなんだと思う。
「知ってますよ。貴女も僕に似て、強欲、ですからね。」
「!」
「そっくりなもの同士で、きっとうまくいくと思いませんか?」
「…ふふっ…あははっ!そう、ですねっ…!先輩の言う通りっ!」
「でしょう?」
「ありがとうございます。これからも、不束者ですが、よろしくお願いします!」
「貴女の相手をできるのなんて、僕くらいしかいませんよ。」
前には未来永劫と言ったけれど、気持ちがどうあれ本物の永遠なんて約束することは到底できない。でもそれを願うくらいはさせてほしい。
「ちなみに、こちら、設計書になります。」
「へ?」
「結婚式の日取りはこうなっています。新婚旅行はここ。新居はこの日程で建ちます。」
「は!?」
「もちろん好きな職業に就いていただいて構いませんが、子育ても考慮に入れるとこの辺りで育休が妥当かなと。頭に入れておいてくださいね。」
「!??!!?!?」
「何で目を白黒させているんですか。」
「えっ、だって、これ、!?」
「僕と貴女の未来地図です!」
つい、契約書を振りかざすような恰好になってしまったが仕方ない。
それをみたあなたは、真っ赤になりながらもなぜか小さく噴き出した。
理由はよくわからなかったが、まあいいだろう。
今までありがとう、そして、これからもあなたと過ごす未来が明るいものであるように。
「これからも、ずっと一緒にいてくださいね。」
「接触?そんなことは誰とだって…」
「ああ…ええと、失礼ですが、お二人はどういったご関係ですか?」
「番ですが、それが何か?」
「なるほど番でしたか。お若いのにしっかりしていらっしゃる。であればお話しても問題ないでしょう。接触、といっても普通の接触ではありません。口付けや性交など、身体の交わりを通して魔力が移る形です。口付けの場合は唾液、性交の場合は精液というように、魔力のあるものからないものに体内の分泌物が移ることで…って、彼氏さん、大丈夫ですか?」
あまりの衝撃に椅子から転がり落ちた僕を真っ赤な顔のあなたが見下ろしていたのは言うまでもないし、その日は一日中あなたに慰められることになった。
つまり僕は知らないうちにあなたに魔力を与えて、あなたをこちら側の生き物に仕立て上げてしまっていたのだ。
だがしかし、そのおかげもあって、あなたは四年でこの学園を卒業できるほどには魔法士として成長できたのだから、結果オーライである。
まぁこの事実さえ墓場まで持っていけば…と思ったが、案の定、陸の者には周知の事実だったようで死ぬほど恥じた事も、もはや過去の思い出だ。
それで、なぜこんなことを思い出しているのかといえば、今日は、あなたがNRCを卒業する日だからだ。
色々なことがあったなと、少し感慨深くなる。
式を終え、同級生や教員、それからもちろん相棒やゴーストたちへの別れを済ませてあなたが待ち合わせ場所の正門に来たのは、陽が傾きかけたころだった。
『お待たせしたくなかったから来なくていいって言ったのに』と申し訳なさそうに告げるあなたに、『構わないから迎えに行く、と強行突破したのは僕ですから気にしないでください』と返せば、お互い強情だからと笑った。
「…いつも思うんですけど」
そう、切り出された言葉。
「アズール先輩は」
「もう先輩じゃありませんよ」
「ふは!そうですね、じゃあ…アズールさんは…ってなんか照れますね。アーシェングロットさんにしようかな…」
「なぜ今以上に他人行儀になるんですか。いいですよ、『さん』で」
「そうですか?…じゃあ…その、アズールさんは、本当に…私でいいんですか?」
「はぁ…またその話ですか?」
「だ、だって!このままアズールさんのお家に行ったら、ほら、最後の確認!ね?」
何度も何度も話し合ったことを未だ気にしているのは何か訳があるのだろうか。視線で問うと、困ったように笑った顔が返ってきた。
「その、…アズールさんは、私があっちから戻ってくると、試すように質問しますよね。そういえば先週のあのときのこと…やら、先月はどこどこに行きましたね、やら。私、アズールさんとしてきたこと、忘れたりしません。なのに…。だから信じてもらえてないのかなって…」
何を言うかと思えば、そんなことか。
あなたはほとんどこちらの世界の生き物になってしまったというのに、元の世界とも行き来をやめないのだ。僕も一緒に戻るときはもちろんあるが、二人で行けないときに一人こちらで待たされる気持ちも考えてほしい。
「そうは言っても、人間は忘れる生き物でしょう。時空を越え続ける貴女に何が起こるのかは、誰にもわからない。そもそも初めての時がそういう状況だったんですよ。確認くらいさせてほしいものです。」
「その気持ちはもちろんわかりますけど、もう何度も成功しているのに。」
「自分の作ったもの以外は根本的に信じていないんですよ、僕は。」
「じゃあ鏡もそのうち作ってくれるんですか?」
「貴女が望むなら、もちろん。」
言い切った台詞に、本当に?という表情をするものだから、貴女こそ信じてないじゃないですか僕のこと、と思ったが、ここは黙っておくのが得策かもしれない。本当はずっとこっちにいてほしいのであまり気は進みませんが、貴女が望むことはなんでもしてやりたいと思うくらいには、こっちは本気なんだ。
「…永遠なんて、絶対なんて、この世には存在しないんです。」
「…」
「だから僕は、」
今日はとっておきのものを持ってきたんだ。
学生というレッテルがはがれて、本当の意味で、自分の力で生きていかなければならなくなるこの日に。
ほかならぬ貴女に聞いてほしいことが、伝えたいことがあって。
この世に存在しないとしても、せめて形だけでも見せたいから。
「だから僕は、今日も貴女に『さよなら』は言わない。できれば『また明日』も言いたくない。試すように『覚えているか』、とも、言わないようにしたい。」
一体何が言いたいんだろう?、と言いたげに眉を顰めたあなたに対して、僕は言葉を返さない。
代わりにパチンと、指を鳴らした。途端、舞い散るのは色とりどりの花びら。
こういうのは演出が重要だ。
魔法をかける方法は、なにもマジカルペンを振るだけではない。
降らせた花びらは、地面に着く前にほわりと消えていくけれど、僕と貴女の関係は、そんな風にはさせない。
「僕と結婚してください」
そう言ってポケットから取り出したのは、小箱で。
それを開けば、天から一筋の光が差し込み、まっすぐに指輪を照らした。
それはさながら、天からの贈り物とも天の祝福ともとれる。
…というのはもちろん演出だが、僕の演出に狂いはない。だから、こう取ってもらえたことは間違いないだろう。
ネタを明かせば、指輪の入った小箱に、開いたときに明かりがつくような仕掛けをしておいただけなのだが、あなたはこういうものを気に入ってくれるはずだ。
絶対の自信の元、どうだとあなたを盗み見る。
考えていた通り、一瞬ポカンとしたあなたは、次第に頬を緩ませて、でも瞳を潤ませるという器用な表情をしていた。
「ほ、んとに?」
「この期に及んで、これが嘘だとでも思いますか?」
「あいて、わたしで、まちがってないです、よね?」
「貴女の顔と誰かを違うことは絶対にありません。」
「…指輪まで、スポットライト、なんて、アズール先輩らしいっ…」
「一世一代じゃないと困りますよこんなこと。」
「わたし…自分の身に、こんなこと、絶対に起こらないと思ってました…。でもよく考えたら、この世界に来たこと自体が、ありえないことだったから…、奇跡みたいなことがあっても、間違いじゃないのかも…?」
その顔を見れば、答えなんて一目瞭然ではあるけれど、言葉で、明確に聞かないと安心できるはずもなく。焦れて急かしてしまう。
「それで…答えはいただけないんですか?」
「…どっちだと思いますか?」
「勝率が低いことを、僕がするとでも?決まってるじゃないですか。」
「じゃあ言わなくてもいい?」
「それは嫌です。貴女の口から聞かせてほしい。」
「わがまま!」
「あたりまえでしょう!僕はもともとこういう性格です!」
このやり取り、いつまで続くんだと我慢が限界に達するかと思われた、その時。
あなたが徐に、自分の手を胸の前に持ってきて、以前僕が送った細いリングをその指から抜いた。それは一瞬きらりと夕陽に照らされて、それからポケットにしまわれる。
すっと、その手が僕に向けて差し出されたことを踏まえると、これはきっと。
「嵌めて、くれないんですか?」
「それは、じゃあ、」
「私が、イエス、以外の返事、するわけないじゃないですか。わかってるくせに。」
「っ、」
どこまで自分の素顔を晒しても。
どんな間違いをおかしても。
否定されたことなんて一度もなかったなと。
感慨深くなって、しゃがみこんでしまった。
こんな風になる予定ではなかったのに、大変遺憾である。
「あれ?先輩泣いてます?」
「っ、泣いてませんよ!」
「ほーら、早く嵌めてもらわないと、またいなくなっちゃうかもしれませんよ?」
「そんなことはないと言ったくせに今更!」
「…嘘、ですよ。」
呟かれた台詞にバッとあなたを見やると、はにかんだ顔で『ごめんなさい』と言われた。咄嗟にはその言葉の真意がわからず、ポケッとあなたを見つめる僕。
あなたも僕と同じようにしゃがみこんで、そうして言った。
「本当のことを言うと、私も、アーシェングロットって、あのときからずっと名乗りたかったです。」
「!?」
「そうしてくれるんですよね?」
もう一度、控えめに左手を差し出すので、今度こそその指に指輪を嵌めた。
それはもちろんぴったりとあなたの指に収まって。
そうしてあなたは、泣きながら笑った。
「例えばもしも、もしもね、先輩が私のことを嫌いになっても、私は絶対に先輩のこと、好きでいられる自信があるの。」
「そんなこと、絶対にないですけど、その自信はとても嬉しいですよ。」
「それでね、きっと私のほうが先に寿命が来ちゃうと思うんですけど、そうしても、お迎えの場所が変わるだけで、ずっと迎えに来てくれるの、待ってますから。ずっと、どこにいても、」
「…貴女、」
「本当は、アズール先輩を残してどこかに行くなんて、したくないから。それならもらった言葉とリングを糧に、ゆるくお付き合いしてたほうがいいかなって、思ったこともあったんです。でも、やっぱり、それじゃ私、満足できなくて…」
はぐらかしてきた本当の理由を知って、僕は愕然としてしまった。
どこまでもバカだと思った。そうして、なんでこんなにも優しい子なんだと、少し怒った。自分の幸せが、他人を幸せにしていることも視野に入れてはくれないんだろうかと。
僕は貴女が笑っていれば、結局何もかもよくなってしまうのに。
泣くんじゃなくて、笑ってほしい。
だからきっと、僕は今、こう言うべきなんだと思う。
「知ってますよ。貴女も僕に似て、強欲、ですからね。」
「!」
「そっくりなもの同士で、きっとうまくいくと思いませんか?」
「…ふふっ…あははっ!そう、ですねっ…!先輩の言う通りっ!」
「でしょう?」
「ありがとうございます。これからも、不束者ですが、よろしくお願いします!」
「貴女の相手をできるのなんて、僕くらいしかいませんよ。」
前には未来永劫と言ったけれど、気持ちがどうあれ本物の永遠なんて約束することは到底できない。でもそれを願うくらいはさせてほしい。
「ちなみに、こちら、設計書になります。」
「へ?」
「結婚式の日取りはこうなっています。新婚旅行はここ。新居はこの日程で建ちます。」
「は!?」
「もちろん好きな職業に就いていただいて構いませんが、子育ても考慮に入れるとこの辺りで育休が妥当かなと。頭に入れておいてくださいね。」
「!??!!?!?」
「何で目を白黒させているんですか。」
「えっ、だって、これ、!?」
「僕と貴女の未来地図です!」
つい、契約書を振りかざすような恰好になってしまったが仕方ない。
それをみたあなたは、真っ赤になりながらもなぜか小さく噴き出した。
理由はよくわからなかったが、まあいいだろう。
今までありがとう、そして、これからもあなたと過ごす未来が明るいものであるように。
「これからも、ずっと一緒にいてくださいね。」