ポッキーの日。それは恋人たちにとって、テイ良くイチャつける良い日である。
けれど、私の相手はあのアズール先輩だから、そうは問屋が卸さないらしい。

「アズール先輩！今日はポッキーの日ですね！」
「はい？ポッキーの日？なんですかそれは。」
「ポッキーの日ですよ！あっ…ここではポッキーっていう名前じゃないのかな…。なんかこう、細い棒状のクッキーにチョコレートがコーティングされたお菓子です。」
「ああ…フロイドがたまに食べているあれのことか。それで、それがなんですって？」
「えーっと…。」

ポッキーの日はそのお菓子でゲームするんですよ、なんて、どの口が言えたものだろうか。
相手がそれを知っているなら話は別だが、そうでない限り、食べ物を提供する人の前で『ゲームに食べ物を使う』とは言い難いものがある。
なので少しだけ戸惑ってしまった。

「その…、何ていうか…あっ、そう、１が揃う日付だから、数字の１に似たポッキーを食べましょう、っていう日なんです！」
「…なるほど…。商品を売るための企業戦略というわけですか。」
「え？」
「考え方としては素晴らしい。…それならばモストロ・ラウンジの日を作ってもいいのでは？」

さすがの支配人は、あさっての方向に話を進めている模様。
企業戦略に踊らされていると言えば、それは間違い無いのだけれど、うん、私がしたかったのはそういう話じゃなかったのになぁ、と少しだけ落胆して、それでも彼が楽しそうに目を輝かせているので、これはこれでよかったかもしれないと苦笑した。

「アズール。それは少し違いますね。」
「ああジェイド。お前も知ってたのか、ポッキーの日とやらを。」
「学生の間では、名称は違えどその菓子の日は有名なようですよ。と言っても、僕もフロイドからの又聞きですが。」
「小エビちゃんもアズールとやんねぇの？」
「フロイドもいたのか。どうしてこういう重要なことを言わないんだ。今日に合わせてその菓子を使ったスイーツを準備しておけばまたマジカメ映えで顧客も増えただろうに。」
「は？アズールなんか勘違いしてねぇ？」
「フロイド先輩、この方がアズール先輩らしくていいから、黙っておきましょ。」
「なんです？僕だけまだ何か知らないみたいじゃないですか。」
「アズールはこういうのもうちょい知っとこーね。はいお菓子。」
「僕は無駄な菓子は食べなング！？」

お菓子を無理やりアズール先輩の口に突っ込んでから、お膳立てはしたからね、という目を私に向けるフロイド先輩。
え、これみんなの前でやる流れなのかな、という顔をしたら、ジェイド先輩が背中を押すものだから、前につんのめってそのまま。

額でお菓子の先っちょをへし折ってしまった。

「イッタァー！！！！」
「！？」

目と鼻の先で起こったハプニングには、さすがのアズール先輩も驚いたようで、ぽろっとその口に残っていたお菓子が落ちてしまう。
クッキーも、先が尖っていれば思った以上の凶器だった。少し凹んだ額をさすりながら思うのは『やっぱり私には、こういうイベントではしゃぐのは合っていないみたい』ということ。
でもそれで諦めるのも癪なので。

「先輩…今日のラウンジ閉店後に、リベンジさせてくださいね？」

状況からその意図をなんとなく理解したようなアズール先輩は、徐々に頬を染めながらもコクリと小さく頷いた。
お菓子はフロイド先輩からいっぱいもらっておかなくっちゃ。
カロリーを理由にしたって逃さないんだから。ね、先輩！