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僕の努力はあの日すべて無に還ったと思っていたが、それは違うと彼女は言った。
今でも鮮烈に覚えている。
一番認めて欲しかったことをいとも簡単に、この人間の女の子は見つけ出して言葉にしてくれた。
『虚構の世界に陶酔しなくたって、契約書がなくたって、その力はアズール先輩だけのものですよ、自信持ってください。先輩は、誰よりもかっこいいです』
そんな言葉を僕にかけた彼女の瞳。憑物が落ちたみたいな顔をした僕は、そこにどう映っていただろうか。
*
『ムゥー…!』
「おや?そんな表情をしていたらあなたの手札は筒抜けも同然ですね?」
今、僕と彼女はとあることを賭けてトランプ勝負をしていた。
ゲームの種目はブラックジャック。1対1の勝負に最適だ。
僕がデイーラー側で彼女がプレイヤー。
通常カジノで行われるブラックジャックは、公平性が高いゲームと言われている。
その理由はひとえに、ディーラー側に自分の自由意志で決められるようなプレー選択権がない点と、単純明快なルールとに集約されるが、それは基本ルールを完全に理解している人間に対してのみ言えることであるのは間違いない。
『ブラックジャックにそういうの関係ないって聞きましたけど!っ…hit!! Hit me!!』
「そうですか?では」
シュッとカードを一枚配ると、あぁっ!、と大きな声を上げて、彼女はついにカウンターに突っ伏してしまった。
かわいいな。素直にそう思う。
前に、そんなことをジェイドとフロイドに話したら「それは恋だ」と結論づけられ、あのアズールが人間を好きになるなんてねぇ、となぜか喜ばれてしまう始末。
そうか、これが恋という気持ちか。初めての感覚に若干高揚したことは否めなかった。
ただ、そんなことを、あろうことか本人に対して素直に言葉にするなど、できるわけもないのが性分だ。
大げさに眉を顰めて腕を組んで、そんな彼女に一言お見舞いする。
「Jackpot. 大当たり、ですか?」
『わかっているのに言わせないでくださいよ!!大外れです!!』
最初、勝負を持ちかけられた時にはどうしたことやらと思ったが、「エースに借りた」このトランプで、と言われ、逡巡した。
(エース・トラッポラ、彼は確か、カードマジックが得意だと言ったか。)と。
チート…いわゆるイカサマとまではいかないが、カードに何かしらの細工が施してあるだろうことは、初見である程度把握した。
だからこそ、7回勝負を持ちかけた。
1回、2回、3回。そのあたりまでは「私の勝ちです!」と軽快な声を上げていた彼女の面影は、もはや風前の灯火だ。
わかっていてやっているのか、それとも。
(まぁ後者で間違いはないだろうが、それにしてはお粗末すぎる。エース・トラッポラはどういう意図で彼女にこれを渡したのだろうか。)
カードをシャッフルながら、また、息を潜めていた不服が首をもたげた。
*
それは小一時間前のことだった。
唐突にやってきた彼女は、僕にトランプをつきつけて言ったのだ。
勝負がしたい、と。
「賭け、ですか?」
『はい。私と勝負してください。ただし、魔法勝負やこの世界の学問勝負では不公平なので、この、トランプで』
「…それで?賭けるということは、何か罰ゲームというか、目的があるんでしょう?流石に学園内で賭博はいただけませんから」
『っ…それは』
「言えないとでも?」
『言え…なくは、ないです、けど…い、今言わないとダメですか…?』
「は?そりゃあそうでしょう。賭けですから、その内容を知らないとスタート地点にも立てませんが?」
『で…すよね…。』
来た時とは打って変わって、しおらしく、なぜか少し顔を赤らめる姿を不思議に思うも、賭けなどと言われては、一歩も引けないというものだ。
『わ、私が勝ったら、アズール先輩に一つ質問をさせてください』
「質問?そんなことでいいんですか」
『はい。ただ…その質問には、必ず真実で答えてほしいんです。はぐらかしたり、嘘をついたり、しないでほしいんです。』
「…なるほど。ですが、僕が嘘をついたかついていないか、など、どのように把握するおつもりですか」
『それは…信じてますから』
「は?」
『アズール先輩は、そういうことはしないって、信じてますから。いいんです』
そう言って、僕の瞳を真っ直ぐ見据えた彼女は、あの時と同じ表情をしていたように思う。
*
「最後の勝負ですよ。それでは、deal」
『…!』
彼女に配られたカードはハートのA。
それから、クラブのA。
ある程度はこちらで操作しているとはいえ、
引きがいいのか悪いのか。足して12ということは、確実にhitしてくるだろう。
対する僕のカードはハートのキングにスペードのクィーン。
(20、か。この勝負、僕の勝ち、ですね)
僕は一人、ほくそ笑む。
「さぁ、どうされますか」
『hitです』
「OK。では、こちらを」
最後くらいは、公平に行こうじゃないか。
どうあがいても勝てない勝負の前に、公平も運もないのだが。
しかしその一枚のカードを配ったところで、ハッとした。
「…!」
『…っ!アズール先輩、私、ステイです!』
「僕も、です」
『じゃあここで勝負です!手札を見せてください』
「…わかりました」
ホウルカードをペラりとめくる僕に向かって、手札を自信満々に出した彼女は言った。
『ブラックジャック!です!』
「…まさか…負けるなんて」
『冷や冷やした〜!』
まさか最後の最後で運を味方につけるとは。彼女の手に渡ったのはダイヤの9。足して21の文句なしのパーフェクトな手札であった。
「やれやれ…仕方ありませんね…。それで?その質問とやらはなんですか?」
『あ』
「?」
負けるというのは、たかが遊びでもあまりよい気分ではないものだ。
ササッとカードを片付けながら、声をかけても返事がないので、不思議に思ってそちらをみると、おでこから首まで真っ赤に染めて、こちらを凝視している彼女の姿が目に映る。
「え、?」
『ッ…そ、その…』
その様子を見ているせいで、こちらまで緊張で身体が熱くなってきた。
「な、なんで、すかっ」
『い、…言っ、言います、からね、ちゃんと聞いててくださいよっ!?』
「…いいでしょう」
言葉というものは呪いだ。
信じられていると思うと、その通りにしてしまいたくなる自分がいる。
叶わぬ夢なら捨ててしまえと人は言うが、僕は全部手に入れたい。
願うことすら叶わないのなら、生きていたって死んでいたって同じだ。
僕は何もかもを可能にしてきた。
僕にならできるのだ、何をかもが。
不可能なことなどひとつもない。
この世界にあるのは、やるかやらないか。
その一歩を始めるか始めないかだけだ。
でも流石に。こんな都合のいいことが、足を生やして歩いてくるとは到底思わなかった。
周りからじわじわと行くはずだったのに。
『アズール先輩は、私のこと、どう思っていますか!?』
「!!」
想定外のことに反応が遅れてしまったため、ゴホンと咳払いで場を繋いだ。
「いいでしょう、その質問に、真実で答えます。」
何度もシミュレーションしたようなシチュエーションではないけれど、言うべき一言は決まっている。
恋は駆け引きとは、誰から聞いた言葉だっただろうか。
この駆け引きは、ここで終わり。続きはあなたの言葉から始めましょうか。
「実は、あなたに惹かれているんです。あなたはどうですか?」
お題:twst文字書きワードパレットより
カタルシス/catharsis
(「私の勝ち」、不公平、鮮烈な)
リクエストありがとうございました!
I actually have feelings for you.
アズール先輩にとてもぴったりな、告白の言葉だと思います。
エース君は監督生ちゃんのアズール先輩への気持ちを知ってて、イカサマトランプを渡していた、というオチ。
今でも鮮烈に覚えている。
一番認めて欲しかったことをいとも簡単に、この人間の女の子は見つけ出して言葉にしてくれた。
『虚構の世界に陶酔しなくたって、契約書がなくたって、その力はアズール先輩だけのものですよ、自信持ってください。先輩は、誰よりもかっこいいです』
そんな言葉を僕にかけた彼女の瞳。憑物が落ちたみたいな顔をした僕は、そこにどう映っていただろうか。
*
『ムゥー…!』
「おや?そんな表情をしていたらあなたの手札は筒抜けも同然ですね?」
今、僕と彼女はとあることを賭けてトランプ勝負をしていた。
ゲームの種目はブラックジャック。1対1の勝負に最適だ。
僕がデイーラー側で彼女がプレイヤー。
通常カジノで行われるブラックジャックは、公平性が高いゲームと言われている。
その理由はひとえに、ディーラー側に自分の自由意志で決められるようなプレー選択権がない点と、単純明快なルールとに集約されるが、それは基本ルールを完全に理解している人間に対してのみ言えることであるのは間違いない。
『ブラックジャックにそういうの関係ないって聞きましたけど!っ…hit!! Hit me!!』
「そうですか?では」
シュッとカードを一枚配ると、あぁっ!、と大きな声を上げて、彼女はついにカウンターに突っ伏してしまった。
かわいいな。素直にそう思う。
前に、そんなことをジェイドとフロイドに話したら「それは恋だ」と結論づけられ、あのアズールが人間を好きになるなんてねぇ、となぜか喜ばれてしまう始末。
そうか、これが恋という気持ちか。初めての感覚に若干高揚したことは否めなかった。
ただ、そんなことを、あろうことか本人に対して素直に言葉にするなど、できるわけもないのが性分だ。
大げさに眉を顰めて腕を組んで、そんな彼女に一言お見舞いする。
「Jackpot. 大当たり、ですか?」
『わかっているのに言わせないでくださいよ!!大外れです!!』
最初、勝負を持ちかけられた時にはどうしたことやらと思ったが、「エースに借りた」このトランプで、と言われ、逡巡した。
(エース・トラッポラ、彼は確か、カードマジックが得意だと言ったか。)と。
チート…いわゆるイカサマとまではいかないが、カードに何かしらの細工が施してあるだろうことは、初見である程度把握した。
だからこそ、7回勝負を持ちかけた。
1回、2回、3回。そのあたりまでは「私の勝ちです!」と軽快な声を上げていた彼女の面影は、もはや風前の灯火だ。
わかっていてやっているのか、それとも。
(まぁ後者で間違いはないだろうが、それにしてはお粗末すぎる。エース・トラッポラはどういう意図で彼女にこれを渡したのだろうか。)
カードをシャッフルながら、また、息を潜めていた不服が首をもたげた。
*
それは小一時間前のことだった。
唐突にやってきた彼女は、僕にトランプをつきつけて言ったのだ。
勝負がしたい、と。
「賭け、ですか?」
『はい。私と勝負してください。ただし、魔法勝負やこの世界の学問勝負では不公平なので、この、トランプで』
「…それで?賭けるということは、何か罰ゲームというか、目的があるんでしょう?流石に学園内で賭博はいただけませんから」
『っ…それは』
「言えないとでも?」
『言え…なくは、ないです、けど…い、今言わないとダメですか…?』
「は?そりゃあそうでしょう。賭けですから、その内容を知らないとスタート地点にも立てませんが?」
『で…すよね…。』
来た時とは打って変わって、しおらしく、なぜか少し顔を赤らめる姿を不思議に思うも、賭けなどと言われては、一歩も引けないというものだ。
『わ、私が勝ったら、アズール先輩に一つ質問をさせてください』
「質問?そんなことでいいんですか」
『はい。ただ…その質問には、必ず真実で答えてほしいんです。はぐらかしたり、嘘をついたり、しないでほしいんです。』
「…なるほど。ですが、僕が嘘をついたかついていないか、など、どのように把握するおつもりですか」
『それは…信じてますから』
「は?」
『アズール先輩は、そういうことはしないって、信じてますから。いいんです』
そう言って、僕の瞳を真っ直ぐ見据えた彼女は、あの時と同じ表情をしていたように思う。
*
「最後の勝負ですよ。それでは、deal」
『…!』
彼女に配られたカードはハートのA。
それから、クラブのA。
ある程度はこちらで操作しているとはいえ、
引きがいいのか悪いのか。足して12ということは、確実にhitしてくるだろう。
対する僕のカードはハートのキングにスペードのクィーン。
(20、か。この勝負、僕の勝ち、ですね)
僕は一人、ほくそ笑む。
「さぁ、どうされますか」
『hitです』
「OK。では、こちらを」
最後くらいは、公平に行こうじゃないか。
どうあがいても勝てない勝負の前に、公平も運もないのだが。
しかしその一枚のカードを配ったところで、ハッとした。
「…!」
『…っ!アズール先輩、私、ステイです!』
「僕も、です」
『じゃあここで勝負です!手札を見せてください』
「…わかりました」
ホウルカードをペラりとめくる僕に向かって、手札を自信満々に出した彼女は言った。
『ブラックジャック!です!』
「…まさか…負けるなんて」
『冷や冷やした〜!』
まさか最後の最後で運を味方につけるとは。彼女の手に渡ったのはダイヤの9。足して21の文句なしのパーフェクトな手札であった。
「やれやれ…仕方ありませんね…。それで?その質問とやらはなんですか?」
『あ』
「?」
負けるというのは、たかが遊びでもあまりよい気分ではないものだ。
ササッとカードを片付けながら、声をかけても返事がないので、不思議に思ってそちらをみると、おでこから首まで真っ赤に染めて、こちらを凝視している彼女の姿が目に映る。
「え、?」
『ッ…そ、その…』
その様子を見ているせいで、こちらまで緊張で身体が熱くなってきた。
「な、なんで、すかっ」
『い、…言っ、言います、からね、ちゃんと聞いててくださいよっ!?』
「…いいでしょう」
言葉というものは呪いだ。
信じられていると思うと、その通りにしてしまいたくなる自分がいる。
叶わぬ夢なら捨ててしまえと人は言うが、僕は全部手に入れたい。
願うことすら叶わないのなら、生きていたって死んでいたって同じだ。
僕は何もかもを可能にしてきた。
僕にならできるのだ、何をかもが。
不可能なことなどひとつもない。
この世界にあるのは、やるかやらないか。
その一歩を始めるか始めないかだけだ。
でも流石に。こんな都合のいいことが、足を生やして歩いてくるとは到底思わなかった。
周りからじわじわと行くはずだったのに。
『アズール先輩は、私のこと、どう思っていますか!?』
「!!」
想定外のことに反応が遅れてしまったため、ゴホンと咳払いで場を繋いだ。
「いいでしょう、その質問に、真実で答えます。」
何度もシミュレーションしたようなシチュエーションではないけれど、言うべき一言は決まっている。
恋は駆け引きとは、誰から聞いた言葉だっただろうか。
この駆け引きは、ここで終わり。続きはあなたの言葉から始めましょうか。
「実は、あなたに惹かれているんです。あなたはどうですか?」
お題:twst文字書きワードパレットより
カタルシス/catharsis
(「私の勝ち」、不公平、鮮烈な)
リクエストありがとうございました!
I actually have feelings for you.
アズール先輩にとてもぴったりな、告白の言葉だと思います。
エース君は監督生ちゃんのアズール先輩への気持ちを知ってて、イカサマトランプを渡していた、というオチ。