2025VD

「それじゃみんな、また再来週もこの時間に〜っ!」
 ひらひら〜と手を振る様子はアイドルだったころと何一つ変わらない。配信端末の電撃を落とした春居は、ふぅ、と一つ息を吐いた。
「お疲れ様でした。お茶の準備ができていますよ」
「ふわぁ!嬉しい!ありがとう〜」
 引退、電撃結婚、そして作詞家兼弾き語りの活動再開を経て、互いの距離も近くなったころ。二人はいつものようにデビラ後のお茶タイムを嗜んでいた。
「配信中から美味しそうな香りでお腹が鳴りそうだったのよ!」
「今日はバレンタインですから」
 出されたのはザッハトルテで春居の頬はへにゃっと綻んだ。しかしそれに反してすっと俯く顔には影が落ちる。
「いかがなさいました?体調でも」
「ううん、ちがうの。いつまで経っても、追いつけないな、って」
「それは、」
「バルバトスに敵わないことが多すぎて、恥ずかしい」
 あは、と作った笑顔はこの日に似合わぬ痛々しさ。けれどバルバトスはそれに言葉は返さない。そのまま春居の隣に腰掛けて、ふわりと春居の肩を抱き寄せた。
「なにをおっしゃいます。あなたはわたくしと生きることを選び、悪魔に身を落としてくださった」
「それはっ、」
「敵わないのは、わたくしのほうです。毎年この日、いいえ、日々、あなたに愛と感謝を伝えなくてはわたくし、いてもたってもいられませんよ」
「っ、バルバトスさん……」
「これまでも、そしてこれからも、わたくしの眸にはあなたしか映しません」
 ちゅ、と額に優しく落とされた口付けは、春居の心の凍てつきを溶かしてくれる。
 くすぐったくも暖かい。
「私も、ずーっと、ずーっと、バルバトスさんに伝えますね。私らしい、いろんな手段で」
「ありがとうございます。楽しみにしています」

 また一つ、追加される楽しみごと。
 二人でいれば、ずっと幸せ。
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