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庭球
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綺麗に積もった白い雪。
二つ並んだ靴あとは、恋人同士のものだろうか。
………くっそ悔しいなんて思わねぇ。
そんなことを考えたクリスマスの朝。
『ぷ~……』
「なんだよ。お前な、わざわざアタシを目の前に座らせてため息かオラ」
『ちひゃひましゅ~』
むにむにゃと頬っぺたを引っ張られながらも、久しぶりに構ってもらえて嬉しい自分。
「最近元気ねぇなぁ。」
『気づいてくれたんd「それだけが取り柄だろうが」…うぅ…ι』
テニス部のみんなと話さなくなると途端に、時間が余ることが判明。
自分がどれだけ依存していたのか思い知らされた。
『優しくしてよ~』
「生憎、無理だ」
『はぅぅ…』
「ったく……一日そうしてな」
そう言って教室から出たななみは、廊下にいた柳生と何やら話しているようだった。
時折こっちを指さしてるのが見える。
『あ~ぁ』
深くため息をついて、机の横にかけられたものに目をやった。
『……なんで作っちゃったんだろう…ケーキなんて…』
袋の中には昨日作ったブッシュドノエルが入っていた。
パーティーなんて大それたことをする時間は、テニス部のみんなにはないわけで。
だからこそ毎年、お昼休みにレギュラー全員集合でケーキだけでも食べてきた。今年で三回目、最後のパーティーだと思って気合い入れたのに。
なにも出来ないなんて。
悲しくて、悔しくて。
ただただため息が漏れる。
『…自己責任辛いなぁ…』
「自己責任償いたいなら今日放課後、ちょっと付き合えよ?」
『あれま。戻って来たんだ?』
「きちゃ悪いかよ。んで?付き合えるか?」
『独り身に聞かないの~!もちろん付き合います!』
よかった!一人寂しいクリスマスイブは免れた!
ケーキ、ななみと一緒に食べよう!ちょうど二つあるし!
考えていると、ちょうど一日の始まりを知らせる鐘が鳴った。
**
「真田君、柳君、ジャッカル君。」
「む?なんだ柳生。」
「どうした」
「?」
「いえ、ちょっと気になることがありまして…」
**
『ね~クラブハウスのほうに行ってもなんもないよ。どうすんの!』
「あ~も~ウゼえなぁ!黙ってついてこればいいんだよ!」
『ウザイとかひどい!反対!そんなこと言う、よくない!』
「…かわいいかわい『もっとひどい!』
「ん?なんじゃ。小夏も呼ばれたんか。」
『…!仁王!』
「あ。センパイ。」
『あ…赤也…』
「…よぉ」
『……ブン、太』
「なんだ。勢ぞろいじゃないか。」
『精市も?』
よく意味が理解できなくて、ななみを見上げても、訝しげな顔が見えるだけ。
なんだっつーの……
ったく…会いたくないような会いたいような時に限ってこんな…
「おや。みなさんおそろいで。」
ふいに部室の扉が開き、柳生が姿を表した。
その後ろにはジャッカルに真田、柳がいる。
「連れてきたぞ」
「ありがとうございました南さん。」
「礼はいいから物をよこしな。」
「それはまた、後ほど。とりあえず仁王君。」
「ぷりっ」
「ちょっとお話がありますので外で話しましょう。」
仁王を連れて部室から離れて行く柳生。
「そういえば赤也。お前はサンタクロースに会いたいと言っていたな」
「え!?もしかして柳センパイのデータで何かわかったんスか!!?」
「ふっ……知りたいなら着いてこい。」
「行くッス!」
柳のあとを追いかけていく赤也。
「ブン太、ほしがってた新作の菓子、見つけたから買っといたんだが、教室に置いてきちまった。取りに行くからついてこい」
「はぁ?!めんどっ!ジャッカル一人で行けよ!」
「食いたくないのか」
「……しかたねぇなあ」
渋々ジャッカルに着いてゆくブン太
「…で?真田は俺に話があるわけだ?」
「む…なぜわかった…」
「俺に隠れて何かやろうとするほうが無理だな。さぁ行くよ。」
意味深な言葉とともに歩いてゆく真田と精市。
最終的に、またななみと二人になってしまった。
『ななみ、どうする?』
「あたしは帰る。じゃあな。」
『は!!?』
スタスタ来た道を戻っていくななみを…追いかけても仕方ないので部室に入って椅子に腰かけた。
4ヶ月入っていないこの部室がとても懐かしく見えて、思い出が蘇ったりして。
楽しかったあの頃がまた悔やまれた。
一人部室に残されること10分ちょっと。
いくら感傷に浸るっていっても、もともとドライなあたしには長すぎる時間だ。
暇すぎて、仕方なく自作ケーキを食べようと手をかけたときだった。
コンコン
『?』
部室の扉を叩く音がした。
『どうぞ?』
……待っても待っても入ってくる様子はない。
コンコン
また扉を叩く音がする。
『…?』
仕方なく自分から扉に近づき、ドアノブに手をかけた、その時。
ガチャッ
パンパパパン!
『っっ!!?』
目の前でクラッカーが弾けて赤い服の…柳生…柳生が…
「メリークリスマス!」
『……サンタサン…?』
「メリークリスマスだ。」
『え?』
バンッと、さらに大きく扉が開けば、見えたのは真っ赤な服の真田、柳、ジャッカルだった。
「「メリークリスマス」」
『……め、めりぃくりすます………』
「なんだ。嬉しくないのか。」
『…え!?そんな』
「弦一郎、その言い方はよせ」
「そうですよ真田君。よくありませんね!小夏さんが驚いています。」
『え?あ、』
「む…す、すまない…」
「それよか寒ぃからよ!早くやっちまおうぜ!」
「あぁ。あと10分以内に、雪が降ってくる確率75%だ。」
「そうですね。小夏さん?」
『へ?』
戸惑いを隠せないあたしに、柳生はいつもの笑顔で話始めた。
「この三年間、私たちはあなたにとても助けられました。」
「だからな、感謝っつーかなんつーか」
「お礼というには小さいものだが」
「してやれることがないか考えた結果だ。」
『?』
「さ、アイマスクをして外に来てください。」
差し出されたアイマスクをつけられ、手をひかれて外に出る。
外気はとても冷たくて、また雪が降るって言った柳の言葉が思い出された。
『柳生、まだ?』
「…もう少しですよ。あぁ、足元、気をつけてくださいね!」
『う、うん』
「お、準備出来てるみたいだぜ?」
「うむ。」
「小夏そこに立って12秒待ってから、マスクを取れ。」
『え?』
「いいな?」
『わ、わかった。』
返事をして、いーち……と数え始めたら、四人の足音が遠ざかるのを感じた。
『……じゅーいち…じゅーに…』
恐る恐るアイマスクを外す。
目の前をみると、どうもここは校門の前あたりらしい。
階段があって、目線を上へとずらす。
雪が、降り始めていた。
『あ―』
階段の一番上に、凸凹に並んだ八人のサンタたちが、背中に紙をくっつけて立っている。
あの達筆、間違いなく真田が書いたものだと思う。
左から
笑
顔
を
あ
り
が
と
う
と。
『―っっ!!!!』
「いっせ―の―で」
「メリークリスマス!!!!!」
振り向くと同時に赤い……バラの花びらが空中に舞う。
白と赤とのコントラストでうめられた視界が滲むのが解った。
ダダダッと階段をかけ降りる音がして、みんながあたしの前まで来るのに数秒。
「え?!なんで泣いてんだ!」
『っ…乙女心っは!複雑なん…だよジャッカルぅぅ…!』
「そういう問題か?」
『ひっく…!柳…当たった、ね…雪、降って…る』
「成功と言えそうですね」
『柳生ぅぅ……粋すぎだよ紳士のクセに、江戸っ子めぇ…ぐすっ』
「ほら、お前たち!」
真田に背中を押されて、顔を上げると、四人が並んでこっちを見ていた。
『…っく……みんな…』
「たく!潔く頭下げろ!」
「イテッ!ジャッカル痛ェッ!!」
「ちょっ!準備してただけっスよ!」
無理矢理押された頭の角度はこっちから見てもそうとう痛そう。
『あ、え、ちょ…ジャッカル!』
「その辺にしとくナリ」
「小夏」
緩んだ頬が瞬時に引き締まる。精市の顔がまともに見れない自分が情けなかった。
「小夏…すまなかった。」
『……精市が、謝ることなんて、何もないよ…』
「いや。俺が悪かったとは言ってないけど?」
『は?』
あまりに間抜けた返事に思わず顔を見てしまった。
「そうそう。話すときは相手の目を見なきゃ。」
『っ!……だって…』
「悪かったとは思ってない、誰だって考える時間がほしいだろ?俺だって同じだよ。」
「は!?俺は素直に悪かったって思ってるッスよ!小夏センパイすみませんッした!」
「赤也お前、抜け駆けしてんじゃねぇよぃ!」
ブン太が赤也の首に飛びかかる。それを仁王がめんどくさそうに止める。
そんな光景を見るのが久しぶりで、また視界が滲んできた。
「泣くんじゃなくて笑うとこ」
『だっ…だって…本当…卒業しても話せないかと…思ったりして…っ!』
「そんなわけないだろ?」
「そうっすよ!俺ら、センパイのこと大好きなんスから!めっちゃ寂しかったっす!」
飛び付いてきた赤也の重みもたった数日なのにとても懐かしく感じる。
だけど、【好き】という言葉に反応せざるをおえない自分が痛い。
「……好きとか嫌とか、感情は理屈では説明できないものが多い。俺はお前の力にはなれないが、話相手にはなってやれる。」
『柳…』
「そうだ。だから元気を出せ。」
「小夏にはアホみたいに笑っていてもらわないと、調子が狂うぜ。」
『真田……ジャッカル…アホは余計。』
ほんのちょっと、笑顔がこぼれるあたし。
「小夏さん?辛ければ私たちに言ってくださいね。」
『柳生……ありがと。』
「じゃあ仲直りもすんだし!ケーキ食おうぜぃ!」
『立ち直り早いよ。』
「はぁ?こんな寒ぃとこで待たせといてそんなこと言うのはこの口か小夏!」
あ。名前。
「今日はブン太がケーキを持ってきてるぜよ。毎年食べちゃって持ってこないあのブン太が」
「丸井センパイ、作れるクセに毎年意味ねぇっすもん」
『あたしも!持ってきた、よ!』
「おっ!じゃあ今年は豪華絢爛二つかよぃ!」
『いや、3つ。』
「!!マジかっ!」
『ちいさいから、2つ持ってきたんだ。』
「っしゃああ!早く戻って食おうぜぃっ!」
「ちょ!丸井先輩先行かせたら残らないって!ホラ!小夏センパイも!」
『うん!』
手をひかれ、みんなで部室に向かって全速力で走る。
最高級のプレゼントは、みんなと一緒にいる毎日だってこと、身に染みてわかった中学最後のメリークリスマス。
8人ものサンタに囲まれて食べたケーキは、うちで試食したときよりも数倍おいしく感じた。
end.
**
『……ところでこのバラの演出って…』
「あぁ。昨日道でたまたま跡部くんに会いましてね?女の子は何を嬉しがるのかと聞いたら、バラを散らせばいいと教えてくれましたから買ってみたのですよ。」
『………やっぱりか!』
**
二つ並んだ靴あとは、恋人同士のものだろうか。
………くっそ悔しいなんて思わねぇ。
そんなことを考えたクリスマスの朝。
『ぷ~……』
「なんだよ。お前な、わざわざアタシを目の前に座らせてため息かオラ」
『ちひゃひましゅ~』
むにむにゃと頬っぺたを引っ張られながらも、久しぶりに構ってもらえて嬉しい自分。
「最近元気ねぇなぁ。」
『気づいてくれたんd「それだけが取り柄だろうが」…うぅ…ι』
テニス部のみんなと話さなくなると途端に、時間が余ることが判明。
自分がどれだけ依存していたのか思い知らされた。
『優しくしてよ~』
「生憎、無理だ」
『はぅぅ…』
「ったく……一日そうしてな」
そう言って教室から出たななみは、廊下にいた柳生と何やら話しているようだった。
時折こっちを指さしてるのが見える。
『あ~ぁ』
深くため息をついて、机の横にかけられたものに目をやった。
『……なんで作っちゃったんだろう…ケーキなんて…』
袋の中には昨日作ったブッシュドノエルが入っていた。
パーティーなんて大それたことをする時間は、テニス部のみんなにはないわけで。
だからこそ毎年、お昼休みにレギュラー全員集合でケーキだけでも食べてきた。今年で三回目、最後のパーティーだと思って気合い入れたのに。
なにも出来ないなんて。
悲しくて、悔しくて。
ただただため息が漏れる。
『…自己責任辛いなぁ…』
「自己責任償いたいなら今日放課後、ちょっと付き合えよ?」
『あれま。戻って来たんだ?』
「きちゃ悪いかよ。んで?付き合えるか?」
『独り身に聞かないの~!もちろん付き合います!』
よかった!一人寂しいクリスマスイブは免れた!
ケーキ、ななみと一緒に食べよう!ちょうど二つあるし!
考えていると、ちょうど一日の始まりを知らせる鐘が鳴った。
**
「真田君、柳君、ジャッカル君。」
「む?なんだ柳生。」
「どうした」
「?」
「いえ、ちょっと気になることがありまして…」
**
『ね~クラブハウスのほうに行ってもなんもないよ。どうすんの!』
「あ~も~ウゼえなぁ!黙ってついてこればいいんだよ!」
『ウザイとかひどい!反対!そんなこと言う、よくない!』
「…かわいいかわい『もっとひどい!』
「ん?なんじゃ。小夏も呼ばれたんか。」
『…!仁王!』
「あ。センパイ。」
『あ…赤也…』
「…よぉ」
『……ブン、太』
「なんだ。勢ぞろいじゃないか。」
『精市も?』
よく意味が理解できなくて、ななみを見上げても、訝しげな顔が見えるだけ。
なんだっつーの……
ったく…会いたくないような会いたいような時に限ってこんな…
「おや。みなさんおそろいで。」
ふいに部室の扉が開き、柳生が姿を表した。
その後ろにはジャッカルに真田、柳がいる。
「連れてきたぞ」
「ありがとうございました南さん。」
「礼はいいから物をよこしな。」
「それはまた、後ほど。とりあえず仁王君。」
「ぷりっ」
「ちょっとお話がありますので外で話しましょう。」
仁王を連れて部室から離れて行く柳生。
「そういえば赤也。お前はサンタクロースに会いたいと言っていたな」
「え!?もしかして柳センパイのデータで何かわかったんスか!!?」
「ふっ……知りたいなら着いてこい。」
「行くッス!」
柳のあとを追いかけていく赤也。
「ブン太、ほしがってた新作の菓子、見つけたから買っといたんだが、教室に置いてきちまった。取りに行くからついてこい」
「はぁ?!めんどっ!ジャッカル一人で行けよ!」
「食いたくないのか」
「……しかたねぇなあ」
渋々ジャッカルに着いてゆくブン太
「…で?真田は俺に話があるわけだ?」
「む…なぜわかった…」
「俺に隠れて何かやろうとするほうが無理だな。さぁ行くよ。」
意味深な言葉とともに歩いてゆく真田と精市。
最終的に、またななみと二人になってしまった。
『ななみ、どうする?』
「あたしは帰る。じゃあな。」
『は!!?』
スタスタ来た道を戻っていくななみを…追いかけても仕方ないので部室に入って椅子に腰かけた。
4ヶ月入っていないこの部室がとても懐かしく見えて、思い出が蘇ったりして。
楽しかったあの頃がまた悔やまれた。
一人部室に残されること10分ちょっと。
いくら感傷に浸るっていっても、もともとドライなあたしには長すぎる時間だ。
暇すぎて、仕方なく自作ケーキを食べようと手をかけたときだった。
コンコン
『?』
部室の扉を叩く音がした。
『どうぞ?』
……待っても待っても入ってくる様子はない。
コンコン
また扉を叩く音がする。
『…?』
仕方なく自分から扉に近づき、ドアノブに手をかけた、その時。
ガチャッ
パンパパパン!
『っっ!!?』
目の前でクラッカーが弾けて赤い服の…柳生…柳生が…
「メリークリスマス!」
『……サンタサン…?』
「メリークリスマスだ。」
『え?』
バンッと、さらに大きく扉が開けば、見えたのは真っ赤な服の真田、柳、ジャッカルだった。
「「メリークリスマス」」
『……め、めりぃくりすます………』
「なんだ。嬉しくないのか。」
『…え!?そんな』
「弦一郎、その言い方はよせ」
「そうですよ真田君。よくありませんね!小夏さんが驚いています。」
『え?あ、』
「む…す、すまない…」
「それよか寒ぃからよ!早くやっちまおうぜ!」
「あぁ。あと10分以内に、雪が降ってくる確率75%だ。」
「そうですね。小夏さん?」
『へ?』
戸惑いを隠せないあたしに、柳生はいつもの笑顔で話始めた。
「この三年間、私たちはあなたにとても助けられました。」
「だからな、感謝っつーかなんつーか」
「お礼というには小さいものだが」
「してやれることがないか考えた結果だ。」
『?』
「さ、アイマスクをして外に来てください。」
差し出されたアイマスクをつけられ、手をひかれて外に出る。
外気はとても冷たくて、また雪が降るって言った柳の言葉が思い出された。
『柳生、まだ?』
「…もう少しですよ。あぁ、足元、気をつけてくださいね!」
『う、うん』
「お、準備出来てるみたいだぜ?」
「うむ。」
「小夏そこに立って12秒待ってから、マスクを取れ。」
『え?』
「いいな?」
『わ、わかった。』
返事をして、いーち……と数え始めたら、四人の足音が遠ざかるのを感じた。
『……じゅーいち…じゅーに…』
恐る恐るアイマスクを外す。
目の前をみると、どうもここは校門の前あたりらしい。
階段があって、目線を上へとずらす。
雪が、降り始めていた。
『あ―』
階段の一番上に、凸凹に並んだ八人のサンタたちが、背中に紙をくっつけて立っている。
あの達筆、間違いなく真田が書いたものだと思う。
左から
笑
顔
を
あ
り
が
と
う
と。
『―っっ!!!!』
「いっせ―の―で」
「メリークリスマス!!!!!」
振り向くと同時に赤い……バラの花びらが空中に舞う。
白と赤とのコントラストでうめられた視界が滲むのが解った。
ダダダッと階段をかけ降りる音がして、みんながあたしの前まで来るのに数秒。
「え?!なんで泣いてんだ!」
『っ…乙女心っは!複雑なん…だよジャッカルぅぅ…!』
「そういう問題か?」
『ひっく…!柳…当たった、ね…雪、降って…る』
「成功と言えそうですね」
『柳生ぅぅ……粋すぎだよ紳士のクセに、江戸っ子めぇ…ぐすっ』
「ほら、お前たち!」
真田に背中を押されて、顔を上げると、四人が並んでこっちを見ていた。
『…っく……みんな…』
「たく!潔く頭下げろ!」
「イテッ!ジャッカル痛ェッ!!」
「ちょっ!準備してただけっスよ!」
無理矢理押された頭の角度はこっちから見てもそうとう痛そう。
『あ、え、ちょ…ジャッカル!』
「その辺にしとくナリ」
「小夏」
緩んだ頬が瞬時に引き締まる。精市の顔がまともに見れない自分が情けなかった。
「小夏…すまなかった。」
『……精市が、謝ることなんて、何もないよ…』
「いや。俺が悪かったとは言ってないけど?」
『は?』
あまりに間抜けた返事に思わず顔を見てしまった。
「そうそう。話すときは相手の目を見なきゃ。」
『っ!……だって…』
「悪かったとは思ってない、誰だって考える時間がほしいだろ?俺だって同じだよ。」
「は!?俺は素直に悪かったって思ってるッスよ!小夏センパイすみませんッした!」
「赤也お前、抜け駆けしてんじゃねぇよぃ!」
ブン太が赤也の首に飛びかかる。それを仁王がめんどくさそうに止める。
そんな光景を見るのが久しぶりで、また視界が滲んできた。
「泣くんじゃなくて笑うとこ」
『だっ…だって…本当…卒業しても話せないかと…思ったりして…っ!』
「そんなわけないだろ?」
「そうっすよ!俺ら、センパイのこと大好きなんスから!めっちゃ寂しかったっす!」
飛び付いてきた赤也の重みもたった数日なのにとても懐かしく感じる。
だけど、【好き】という言葉に反応せざるをおえない自分が痛い。
「……好きとか嫌とか、感情は理屈では説明できないものが多い。俺はお前の力にはなれないが、話相手にはなってやれる。」
『柳…』
「そうだ。だから元気を出せ。」
「小夏にはアホみたいに笑っていてもらわないと、調子が狂うぜ。」
『真田……ジャッカル…アホは余計。』
ほんのちょっと、笑顔がこぼれるあたし。
「小夏さん?辛ければ私たちに言ってくださいね。」
『柳生……ありがと。』
「じゃあ仲直りもすんだし!ケーキ食おうぜぃ!」
『立ち直り早いよ。』
「はぁ?こんな寒ぃとこで待たせといてそんなこと言うのはこの口か小夏!」
あ。名前。
「今日はブン太がケーキを持ってきてるぜよ。毎年食べちゃって持ってこないあのブン太が」
「丸井センパイ、作れるクセに毎年意味ねぇっすもん」
『あたしも!持ってきた、よ!』
「おっ!じゃあ今年は豪華絢爛二つかよぃ!」
『いや、3つ。』
「!!マジかっ!」
『ちいさいから、2つ持ってきたんだ。』
「っしゃああ!早く戻って食おうぜぃっ!」
「ちょ!丸井先輩先行かせたら残らないって!ホラ!小夏センパイも!」
『うん!』
手をひかれ、みんなで部室に向かって全速力で走る。
最高級のプレゼントは、みんなと一緒にいる毎日だってこと、身に染みてわかった中学最後のメリークリスマス。
8人ものサンタに囲まれて食べたケーキは、うちで試食したときよりも数倍おいしく感じた。
end.
**
『……ところでこのバラの演出って…』
「あぁ。昨日道でたまたま跡部くんに会いましてね?女の子は何を嬉しがるのかと聞いたら、バラを散らせばいいと教えてくれましたから買ってみたのですよ。」
『………やっぱりか!』
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