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今年もまた、彼の誕生日がやってくる。
カレンダーを見ながらぼんやりと。
何を渡そうかな、そう思うのだ。
一緒に過ごすようになって何回目のお祝いだろうか。
一番最初にプレゼントしたものはなんだっけ、と思い出すのにも苦労するほどに共にした時間は、だけれど私の心を暖かくする。
いつからか、サプライズ計画をやめ、事前にほしいものを聞くようになったっけ。でも、聞いたら聞いたで
お前が一緒に祝ってくれるなら、なんだって
とか、
じゃあキスがほしい
とか、当たり障りのない回答しかもらったことがなかったな…と、そこまで考えて、あぁ、違った、と思い当たる。
一度だけ。
たった一度だけ、彼が【モノ】を欲しかったことがあったっけ。
あれはまだ同棲もしていない一樹が働きはじめたばかりのころの話。
*
『かーずきー』
仕事が早く終わる日は自分の家でなく、私の家に寄ることがままある。その日もそんな日和だった。
スーツ姿のままインターホンを押した一樹は一緒に夕飯を食べ終えて、すでにいつでも鞄にはいっている新聞に優雅に目を走らせていた。
「んー」
返答があったので、耳だけはこっちにまで意識がまわっていたらしい。
私もその隣に、ちょん、と座り込み、淹れたてのコーヒーをテーブルにおいた。
『今一番ほしいものなぁに?』
「ん?」
『ほしいもの』
「……あぁ…もうそんな時期か」
『なぁにじじくさいこと言ってんの』
「じじくさっ!?っ俺はただもう四月かって」
『はーいそうだよー!そんな時期ですよー!!だからほしいもの、ないの?なんでもいいよー。財布とかネクタイとか…靴とか!なんかない?』
「あー…だから毎年言ってるだろ?小夏が裸に生クリームつけ」
『却下』
「じゃあ小夏からディープキ」
『無理!!』
もー!!と膨れっ面で明後日の方向を向くと、冗談だって、といいながら背中から抱きよせられた。
未だに慣れきることができないスキンシップに頬を熱くしながら、私は一樹を振り返る。
『……じゃぁ、何がほしい?』
「お前が祝ってくれるならな……あー…」
『?』
宙をさ迷う視線に、私の頭にはクエスチョンが浮かぶ。
「……小夏」
『なに?』
さっきまでの調子とは打って代わった雰囲気にクルリと身体を一樹側に向きなおす。
じっと見つめられたかと思うと、柄にもなく恥ずかしそうに、呟いた。
「…かぎっ」
『かぎ?』
「っ…この家の、鍵がほしい…かなっ…」
『!!』
「…っ…ま、まぁ、そうだな、あとは、コーヒーとかなっ!!新しいマグカップでもいいなっ!?……っ…」
『…っ』
まさか一樹からそんな言葉が吐き出されるとは思いもよらず、2人してくすぐったい雰囲気に飲まれてしまったのだった。
*
そのときに思ったのだ。
人は、それを失ったときのことを無意識に考えてしまうのではないかと。
例えばそれは、動物が好きでもペットを飼わない人のように。
またあるいは、もらったものをなくしてしまったことを隠すような感覚だったり。
誰よりも失うことを恐れる彼は、何かを求めることが苦手なのかもしれない。
けれど私は知っている。
怖くて、それでもそれを渇望していることを。
その年のプレゼントには、もちろん鍵を選んだ。お揃いのストラップつき。ユニセックスなものにして、どこかで誰かに見られても恥ずかしくないようにした。
渡したときのあの表情は本当に嬉しかった。ありがとう、との一言が震えていたことは、気づかないふりをした。それにありがとうはこっちのセリフだ、彼氏に鍵を望まれる私がどれだけの喜びをもらったことか。
私が渡したアパートの鍵
を使わなくなった…使えなくなった今でも大切に持ち歩いてくれていることを。
私はしっかり、知っている。
『…キーケース』
ぽつり呟いた商品名は、すごくしっくりと私の胸に落ちてきた。
ふわり、込み上げた微笑みを携えて、そのまま出かけ支度を始める私。
喜んでくれるかな
一樹の笑顔を思い描くだけで、今日も素敵な一日になるの。だからね一樹。
生まれてきてくれて、ありがとう。
私と出会ってくれて、ありがとう。
お誕生日おめでとう。
一樹がずっと幸せでありますように願いを込めて。
2015.04.19
カレンダーを見ながらぼんやりと。
何を渡そうかな、そう思うのだ。
一緒に過ごすようになって何回目のお祝いだろうか。
一番最初にプレゼントしたものはなんだっけ、と思い出すのにも苦労するほどに共にした時間は、だけれど私の心を暖かくする。
いつからか、サプライズ計画をやめ、事前にほしいものを聞くようになったっけ。でも、聞いたら聞いたで
お前が一緒に祝ってくれるなら、なんだって
とか、
じゃあキスがほしい
とか、当たり障りのない回答しかもらったことがなかったな…と、そこまで考えて、あぁ、違った、と思い当たる。
一度だけ。
たった一度だけ、彼が【モノ】を欲しかったことがあったっけ。
あれはまだ同棲もしていない一樹が働きはじめたばかりのころの話。
*
『かーずきー』
仕事が早く終わる日は自分の家でなく、私の家に寄ることがままある。その日もそんな日和だった。
スーツ姿のままインターホンを押した一樹は一緒に夕飯を食べ終えて、すでにいつでも鞄にはいっている新聞に優雅に目を走らせていた。
「んー」
返答があったので、耳だけはこっちにまで意識がまわっていたらしい。
私もその隣に、ちょん、と座り込み、淹れたてのコーヒーをテーブルにおいた。
『今一番ほしいものなぁに?』
「ん?」
『ほしいもの』
「……あぁ…もうそんな時期か」
『なぁにじじくさいこと言ってんの』
「じじくさっ!?っ俺はただもう四月かって」
『はーいそうだよー!そんな時期ですよー!!だからほしいもの、ないの?なんでもいいよー。財布とかネクタイとか…靴とか!なんかない?』
「あー…だから毎年言ってるだろ?小夏が裸に生クリームつけ」
『却下』
「じゃあ小夏からディープキ」
『無理!!』
もー!!と膨れっ面で明後日の方向を向くと、冗談だって、といいながら背中から抱きよせられた。
未だに慣れきることができないスキンシップに頬を熱くしながら、私は一樹を振り返る。
『……じゃぁ、何がほしい?』
「お前が祝ってくれるならな……あー…」
『?』
宙をさ迷う視線に、私の頭にはクエスチョンが浮かぶ。
「……小夏」
『なに?』
さっきまでの調子とは打って代わった雰囲気にクルリと身体を一樹側に向きなおす。
じっと見つめられたかと思うと、柄にもなく恥ずかしそうに、呟いた。
「…かぎっ」
『かぎ?』
「っ…この家の、鍵がほしい…かなっ…」
『!!』
「…っ…ま、まぁ、そうだな、あとは、コーヒーとかなっ!!新しいマグカップでもいいなっ!?……っ…」
『…っ』
まさか一樹からそんな言葉が吐き出されるとは思いもよらず、2人してくすぐったい雰囲気に飲まれてしまったのだった。
*
そのときに思ったのだ。
人は、それを失ったときのことを無意識に考えてしまうのではないかと。
例えばそれは、動物が好きでもペットを飼わない人のように。
またあるいは、もらったものをなくしてしまったことを隠すような感覚だったり。
誰よりも失うことを恐れる彼は、何かを求めることが苦手なのかもしれない。
けれど私は知っている。
怖くて、それでもそれを渇望していることを。
その年のプレゼントには、もちろん鍵を選んだ。お揃いのストラップつき。ユニセックスなものにして、どこかで誰かに見られても恥ずかしくないようにした。
渡したときのあの表情は本当に嬉しかった。ありがとう、との一言が震えていたことは、気づかないふりをした。それにありがとうはこっちのセリフだ、彼氏に鍵を望まれる私がどれだけの喜びをもらったことか。
私が渡したアパートの鍵
を使わなくなった…使えなくなった今でも大切に持ち歩いてくれていることを。
私はしっかり、知っている。
『…キーケース』
ぽつり呟いた商品名は、すごくしっくりと私の胸に落ちてきた。
ふわり、込み上げた微笑みを携えて、そのまま出かけ支度を始める私。
喜んでくれるかな
一樹の笑顔を思い描くだけで、今日も素敵な一日になるの。だからね一樹。
生まれてきてくれて、ありがとう。
私と出会ってくれて、ありがとう。
お誕生日おめでとう。
一樹がずっと幸せでありますように願いを込めて。
2015.04.19