2023 advent calendar
バンパイアにゆく年くる年もあったもんじゃないとはいえ、雰囲気だけでも一年の終わりを感じて刻め、ということだそうで。装いはパーティードレスとタキシード。私はバンパイアの年の瀬会合にお邪魔することになった。前回の会合は初めてだったということもあって取材取材と騒いでしまったので、会合後にバルバトスにお仕置きされたのは記憶に新しい。今回は気をつけなくっちゃと気を引き締め、パーティー会場の入り口に立つ。
「わかっていらっしゃるかと思いますが、今日は」
「わかってるわよぉ！ちゃんと大人しくしてるわ！ペンもノートも持ってない！」
両手を振って見せると安心したように微笑んだバルバトスに「それでは」と腕を差し出されたのでちょっと恥ずかしくなったけど、こういう場所ではマナーが第一だものね。そっとこちらの腕を絡めると、もう一度にこりとされて、やっぱりバルバトスは品があって素敵だと思った。うちでエプロンをしてお菓子を作っている姿も言わずもがな素敵ではあるけれど。
会合は毎度立食パーティー形式で行われると聞いていた。でもこの時期は特別仕様らしく、扉をくぐると前回とは比べ物にならないほど煌びやかな飾り付けが目に飛び込んで圧倒される。大きなケーキも用意されていて、思わず「わぁっ」と声をあげ、カメラを持って来れなかったことを悔やんだ。
「すっ……ごぉい！」
「ふふ、我々、やはり世界の至る所で過ごしておりますので。クリスマスは派手になりがちなのです」
「そっか、そうよね、年の瀬よりもクリスマスよねぇ。これ、派手っていうレベルじゃないのよぉ！ランプが、ほら、浮いてる〜！」
「この程度であれば少々の魔力で事足りますから」
「なるほどぉ……！ねぇあれ見て！かわいい色のジュース！私も飲めるのかしら……ってあらぁ？いい香り……」
ウエイターのトレイに乗る飲み物や装飾に気を取られていても嗅覚はしっかりと知らない匂いをとらえる。日本には……というか、人間にはあまり馴染みのない香りな気がするが、バンパイアの伝統料理か何かだろうか。
「バルバトス、ねぇ私あれを」
「いい香りなのは君の方だ」
「へ？」
「君からはとてもいい香りがするね。味見しても？」
「はい？？？？」
バルバトスと腕を組んだままではあるけれど、四方八方に首を伸ばしていろんなものを目に焼き付けていたせいでちょっと彼の視界から外れた隙をつかれたのか、知らない人に話しかけられて困惑する。
「味見？私を？こんなにいい香りがするのに？私、香水はつけてないわよ？」
「いや、君自身がいい香りを放ってい」
「失礼。彼女はわたくしの妻ですのでご遠慮いただけますか」
「つ！？」
「……なんだ、バルバトス、この子は君の伴侶だったのか。契約は？」
「つい、先日」
「はは！君も隅には置けないね。仕方がない。またね」
「は〜い？」
何が何だかわからないままひらひら手を振って見送ると、バルバトスが「こちらへ」と私を少し強引に促した。行先はバルコニー。こんなにも寒いのだから部屋の中にいればいいのに、とちょっと肩を竦めるも、なんだか怒っているようだったから素直に従った。
「ねぇバルバトス？ここに何かあるの？」
私にベンチを薦め、バルバトスが私の前に躓く。その様にどきりと胸が高鳴った。漫画ではよく描くシチュエーションだけれど、自分の身にそれが起こると平常心でいられないのがよくわかる。
「あなたには私の妻という自覚をもう少し持っていただかなければ」
「つ！？あ、えっと、でも、だって」
「だって、ではありません。契約を終えているからと行って、他の者に血を飲まれないわけではありません。あなたを連れてきたわたくしもよくなかったですけれど」
「いやよ！バルバトスが一人でどこかに行くの、私、許さないわ！」
「！」
「私を妻だっていうなら、どこにでも連れて行ってくれなくちゃ、や！」
プイッとそっぽを向くと、少ししてくすくすと控えめな笑い声が聞こえてくる。笑うところじゃないわよ、と怒ろうとした刹那、膝の上に揃えていた左手をついっと持ち上げられて、あっと思った時にはそこに口付けられていた。ゆっくりと下ろされる手と対照に、ゆったりと持ち上がったバルバトスの瞼。その奥の瞳はそれはそれは嬉しそうに煌めいている。
「……バルバトスの瞳に、星が降ってるのよ……」
「……ふふ……詩的ですね。さすがです、っん」
「っ、ンひぁ！」
スッと、バルバトスが立ち上がったのと認識するよりも早くそのまま身体を引き寄せられて、首筋に振ってきたのはキス、だと思う。ちくりと痛みが走ったけれど、私はそこを見ることができないからわからない。でも少し動悸が早いから、多分、絶対そう。さらにその上をべロリと舌が這ったから、治癒も同時に行われたみたい。
「痛くはないはずですよ」
「っ、な、こんな、とこでっ！」
「わたくしが目を光らせていても、あなたに不埒な真似をする輩がいないとも限りません。先手必勝とはよく言ったものでしょう」
部屋の中からダンスミュージックが流れてきたのが聞こえたのに私よりも早く気づいたバルバトスは、恭しく一礼して、こう口にした。
「わたくしと一曲、いかがでしょう」
あまりにも彼にぴったりのシチュエーション。ドキドキ高鳴る鼓動がうるさく、お決まりのセリフすら飲み込んで、私はその空気に酔いしれたのだった。
「わかっていらっしゃるかと思いますが、今日は」
「わかってるわよぉ！ちゃんと大人しくしてるわ！ペンもノートも持ってない！」
両手を振って見せると安心したように微笑んだバルバトスに「それでは」と腕を差し出されたのでちょっと恥ずかしくなったけど、こういう場所ではマナーが第一だものね。そっとこちらの腕を絡めると、もう一度にこりとされて、やっぱりバルバトスは品があって素敵だと思った。うちでエプロンをしてお菓子を作っている姿も言わずもがな素敵ではあるけれど。
会合は毎度立食パーティー形式で行われると聞いていた。でもこの時期は特別仕様らしく、扉をくぐると前回とは比べ物にならないほど煌びやかな飾り付けが目に飛び込んで圧倒される。大きなケーキも用意されていて、思わず「わぁっ」と声をあげ、カメラを持って来れなかったことを悔やんだ。
「すっ……ごぉい！」
「ふふ、我々、やはり世界の至る所で過ごしておりますので。クリスマスは派手になりがちなのです」
「そっか、そうよね、年の瀬よりもクリスマスよねぇ。これ、派手っていうレベルじゃないのよぉ！ランプが、ほら、浮いてる〜！」
「この程度であれば少々の魔力で事足りますから」
「なるほどぉ……！ねぇあれ見て！かわいい色のジュース！私も飲めるのかしら……ってあらぁ？いい香り……」
ウエイターのトレイに乗る飲み物や装飾に気を取られていても嗅覚はしっかりと知らない匂いをとらえる。日本には……というか、人間にはあまり馴染みのない香りな気がするが、バンパイアの伝統料理か何かだろうか。
「バルバトス、ねぇ私あれを」
「いい香りなのは君の方だ」
「へ？」
「君からはとてもいい香りがするね。味見しても？」
「はい？？？？」
バルバトスと腕を組んだままではあるけれど、四方八方に首を伸ばしていろんなものを目に焼き付けていたせいでちょっと彼の視界から外れた隙をつかれたのか、知らない人に話しかけられて困惑する。
「味見？私を？こんなにいい香りがするのに？私、香水はつけてないわよ？」
「いや、君自身がいい香りを放ってい」
「失礼。彼女はわたくしの妻ですのでご遠慮いただけますか」
「つ！？」
「……なんだ、バルバトス、この子は君の伴侶だったのか。契約は？」
「つい、先日」
「はは！君も隅には置けないね。仕方がない。またね」
「は〜い？」
何が何だかわからないままひらひら手を振って見送ると、バルバトスが「こちらへ」と私を少し強引に促した。行先はバルコニー。こんなにも寒いのだから部屋の中にいればいいのに、とちょっと肩を竦めるも、なんだか怒っているようだったから素直に従った。
「ねぇバルバトス？ここに何かあるの？」
私にベンチを薦め、バルバトスが私の前に躓く。その様にどきりと胸が高鳴った。漫画ではよく描くシチュエーションだけれど、自分の身にそれが起こると平常心でいられないのがよくわかる。
「あなたには私の妻という自覚をもう少し持っていただかなければ」
「つ！？あ、えっと、でも、だって」
「だって、ではありません。契約を終えているからと行って、他の者に血を飲まれないわけではありません。あなたを連れてきたわたくしもよくなかったですけれど」
「いやよ！バルバトスが一人でどこかに行くの、私、許さないわ！」
「！」
「私を妻だっていうなら、どこにでも連れて行ってくれなくちゃ、や！」
プイッとそっぽを向くと、少ししてくすくすと控えめな笑い声が聞こえてくる。笑うところじゃないわよ、と怒ろうとした刹那、膝の上に揃えていた左手をついっと持ち上げられて、あっと思った時にはそこに口付けられていた。ゆっくりと下ろされる手と対照に、ゆったりと持ち上がったバルバトスの瞼。その奥の瞳はそれはそれは嬉しそうに煌めいている。
「……バルバトスの瞳に、星が降ってるのよ……」
「……ふふ……詩的ですね。さすがです、っん」
「っ、ンひぁ！」
スッと、バルバトスが立ち上がったのと認識するよりも早くそのまま身体を引き寄せられて、首筋に振ってきたのはキス、だと思う。ちくりと痛みが走ったけれど、私はそこを見ることができないからわからない。でも少し動悸が早いから、多分、絶対そう。さらにその上をべロリと舌が這ったから、治癒も同時に行われたみたい。
「痛くはないはずですよ」
「っ、な、こんな、とこでっ！」
「わたくしが目を光らせていても、あなたに不埒な真似をする輩がいないとも限りません。先手必勝とはよく言ったものでしょう」
部屋の中からダンスミュージックが流れてきたのが聞こえたのに私よりも早く気づいたバルバトスは、恭しく一礼して、こう口にした。
「わたくしと一曲、いかがでしょう」
あまりにも彼にぴったりのシチュエーション。ドキドキ高鳴る鼓動がうるさく、お決まりのセリフすら飲み込んで、私はその空気に酔いしれたのだった。
