2023 advent calendar
キーンコーンカンコーン……
聞き慣れたチャイムはどこの中学でもそう変わらない音を立てて時刻を知らせる。氷帝学園といえどもそんなところに差異はない。
ピーっ!と大きな音を鳴らせばぴたりと練習は止めた部員たちがザッと私の前に並んだ。
「今日の練習はここまで!明日からは部活動は休みに入りますのでそのつもりで。跡部、他に何かある?」
「年末年始は学園自体が閉められるが、練習ができないからなにもしなくていいわけじゃねぇ。自らにメニューを課して各自で励め。年明けに腑抜けにならないようにな。以上だ」
解散、と言い渡すと、っしたー!と大きな声が響く。
この時期は陽が落ちるのが早いので、練習が終わる頃には真っ暗だ。氷帝学園は設備が整いすぎているから練習に夢中になっていると驚いてしまう。こんな時間にわざわざ着替えて帰る必要もないので、練習が終わると即座に帰りたいのだが、案外心配性なメンバーにより「マネージャーは一人で帰ったらダメ」と命令されているため、部室の外で待ちぼうけ、である。
関東はまだ雪が降るような季節ではないけど、随分と分厚い雲が空を覆っており、時折薄い部分に月灯が見える程度。その風景が、余計に寒さを際立たせている。
「はー……ほんと寒くなったなぁ」
「何当たり前のこと言ってんだ」
「あ、跡部。お疲れ様」
かじかむ手をほっぺたに当てて無理矢理暖を取っていると、よく通る声が私の耳に届く。防寒具でぐるぐる巻きにした私を見て笑うものだから、制服にマフラーだけでよく寒くないよねと返すと、鍛え方が違うからなともっと笑われてムッとした。言い返そうと息を吸ったが言葉が出なかったのは、なんだか遠くを見る跡部の姿に困惑したからだった。
「もうすぐ一年が終わるのか」
「……」
「あっという間だ」
「……やり残したことでもあるの」
「あ?俺はやらなきゃならねぇことは毎日きっちり終わらせる主義だ」
毎日練習に取り組む姿を間近で見ていればそんなことくらいわかるが、まだお子様の私には、どう返事をするのが最善なのかがわからずにいる。跡部はそんな私に構わず話を続けた。
「だが、それでも悔やむこともある。時間は有限だ」
「何、突然。センチメンタルじゃん」
「……ふ……もうすぐクリスマスだから、街の空気にやられでもしたかな」
「跡部ともあろうものが?」
「テメェ俺様のことなんだと思ってやがる」
「ふふ、ごめんて。で、そんな跡部様はその日はどうするの?やっぱり一日中練習?」
ちょっとだけ、私と過ごしたりしてくれるのかな、との期待があって何気なく話題を振ると、片眉を上げた跡部は「あーん?」とお決まりの前置きを口にした。
「クリスマスといえば家族で過ごす日だろうが。他にどうするって言うんだ」
「え?……ああ、そっか、欧米ではそうなんだっけ」
「お前の席は用意済みだ。明日にでも招待状を送る手筈になっている」
「は、」
一瞬、何がどう繋がってそのセリフをかけられているのかわからなくてポカンと跡部の背中を見つめてしまった。
「未来の家族だから当たり前だろ」
「……あ、家族?へ?」
「なんだその顔は」
なんだその顔は、じゃないよ。中学生がサラッということじゃないでしょそれ。でもまぁ跡部なら信じさせられちゃうところはあるんだけれど。
「けいちゃ〜ん、キザすぎなんちゃう?」
「うわ!?」
固まっていた私の肩を突っついてきたのは忍足で、振り向くと後ろにはレギュラー陣がみんな並んでいた。いつの間に揃ってたんだ。
「初心な日吉なんて目ん玉落としてんで」
「嘘言わないでもらえますか。別に何の興味もないです」
「跡部ぇ、俺も食べにいってE?」
「あん?お前らはお前らの家族と過ごしやがれ」
「マネージャーだけ家族扱いなのはずるいです!俺も跡部さんの家に招待されたいです!ねぇ宍戸さん!」
「いや俺は別に」
「いーじゃん、みんなで行けばよぉ!な、樺地もそう思うよな!」
「ウス」
暗い寒空の下でもみんなでいれば、全然明るくなっちゃう、こんなの確かに、大家族以外の何者でもないかもね!
「仕方ねぇ、全員まとめて招待してやるか」
「ついでに初詣の計画も立てようよ!今年こそ、全国制覇!」
「それは祈るもんじゃねぇ。勝ち取るもんだ」
「ふふ!言われてみれば、確かにそうだね!」
校舎内にある一番大きな木はもみの木ではないけれど、イルミネーションでピカピカしていた。
あそこのてっぺんを取るくらい、気合い入れて勝ちに行こうね、みんなで!
聞き慣れたチャイムはどこの中学でもそう変わらない音を立てて時刻を知らせる。氷帝学園といえどもそんなところに差異はない。
ピーっ!と大きな音を鳴らせばぴたりと練習は止めた部員たちがザッと私の前に並んだ。
「今日の練習はここまで!明日からは部活動は休みに入りますのでそのつもりで。跡部、他に何かある?」
「年末年始は学園自体が閉められるが、練習ができないからなにもしなくていいわけじゃねぇ。自らにメニューを課して各自で励め。年明けに腑抜けにならないようにな。以上だ」
解散、と言い渡すと、っしたー!と大きな声が響く。
この時期は陽が落ちるのが早いので、練習が終わる頃には真っ暗だ。氷帝学園は設備が整いすぎているから練習に夢中になっていると驚いてしまう。こんな時間にわざわざ着替えて帰る必要もないので、練習が終わると即座に帰りたいのだが、案外心配性なメンバーにより「マネージャーは一人で帰ったらダメ」と命令されているため、部室の外で待ちぼうけ、である。
関東はまだ雪が降るような季節ではないけど、随分と分厚い雲が空を覆っており、時折薄い部分に月灯が見える程度。その風景が、余計に寒さを際立たせている。
「はー……ほんと寒くなったなぁ」
「何当たり前のこと言ってんだ」
「あ、跡部。お疲れ様」
かじかむ手をほっぺたに当てて無理矢理暖を取っていると、よく通る声が私の耳に届く。防寒具でぐるぐる巻きにした私を見て笑うものだから、制服にマフラーだけでよく寒くないよねと返すと、鍛え方が違うからなともっと笑われてムッとした。言い返そうと息を吸ったが言葉が出なかったのは、なんだか遠くを見る跡部の姿に困惑したからだった。
「もうすぐ一年が終わるのか」
「……」
「あっという間だ」
「……やり残したことでもあるの」
「あ?俺はやらなきゃならねぇことは毎日きっちり終わらせる主義だ」
毎日練習に取り組む姿を間近で見ていればそんなことくらいわかるが、まだお子様の私には、どう返事をするのが最善なのかがわからずにいる。跡部はそんな私に構わず話を続けた。
「だが、それでも悔やむこともある。時間は有限だ」
「何、突然。センチメンタルじゃん」
「……ふ……もうすぐクリスマスだから、街の空気にやられでもしたかな」
「跡部ともあろうものが?」
「テメェ俺様のことなんだと思ってやがる」
「ふふ、ごめんて。で、そんな跡部様はその日はどうするの?やっぱり一日中練習?」
ちょっとだけ、私と過ごしたりしてくれるのかな、との期待があって何気なく話題を振ると、片眉を上げた跡部は「あーん?」とお決まりの前置きを口にした。
「クリスマスといえば家族で過ごす日だろうが。他にどうするって言うんだ」
「え?……ああ、そっか、欧米ではそうなんだっけ」
「お前の席は用意済みだ。明日にでも招待状を送る手筈になっている」
「は、」
一瞬、何がどう繋がってそのセリフをかけられているのかわからなくてポカンと跡部の背中を見つめてしまった。
「未来の家族だから当たり前だろ」
「……あ、家族?へ?」
「なんだその顔は」
なんだその顔は、じゃないよ。中学生がサラッということじゃないでしょそれ。でもまぁ跡部なら信じさせられちゃうところはあるんだけれど。
「けいちゃ〜ん、キザすぎなんちゃう?」
「うわ!?」
固まっていた私の肩を突っついてきたのは忍足で、振り向くと後ろにはレギュラー陣がみんな並んでいた。いつの間に揃ってたんだ。
「初心な日吉なんて目ん玉落としてんで」
「嘘言わないでもらえますか。別に何の興味もないです」
「跡部ぇ、俺も食べにいってE?」
「あん?お前らはお前らの家族と過ごしやがれ」
「マネージャーだけ家族扱いなのはずるいです!俺も跡部さんの家に招待されたいです!ねぇ宍戸さん!」
「いや俺は別に」
「いーじゃん、みんなで行けばよぉ!な、樺地もそう思うよな!」
「ウス」
暗い寒空の下でもみんなでいれば、全然明るくなっちゃう、こんなの確かに、大家族以外の何者でもないかもね!
「仕方ねぇ、全員まとめて招待してやるか」
「ついでに初詣の計画も立てようよ!今年こそ、全国制覇!」
「それは祈るもんじゃねぇ。勝ち取るもんだ」
「ふふ!言われてみれば、確かにそうだね!」
校舎内にある一番大きな木はもみの木ではないけれど、イルミネーションでピカピカしていた。
あそこのてっぺんを取るくらい、気合い入れて勝ちに行こうね、みんなで!