2023 advent calendar

「ホリデーは年間通していちにを争う掻き入れどきです!そこでコンペを開催します!」
 そんな話が出されたのは、三ヶ月前の全体ミーティングの時だった。この日ばかりは朝早くからみんな談話室に集まるのだ。まためんどくさい寮内イベントを開催するなぁと、モストロラウンジに定期的に駆り出されるボロ雑巾ことバイトの私は、眠気眼をこすりながらもこのミーティングには毎度きちんと参加している。
「コンペぇ?俺はパァス」
「提案勝負ですか。腕がなりますね」
「りょうちょーう!それって出したい人だけ出したらいいんですか?」
「出したい方だけでもちろん問題ありません。ただし、選ばれた方には豪華賞品が出ますのでそのつもりで」
 にわかにガヤガヤと騒がしくなる皆を一蹴するためか一番大事なことを最後に言い残したアズール先輩は、コンペ詳細は談話室の掲示板に飾っておきますので各自見るように、と告げ、解散を言い渡す。
「小エビちゃんは参加すんのー?」
「うーん、どうしましょうかね」
「俺様、豪華賞品のツナ缶が欲しいんだぞ!子分!勝ちに行くんだぞ!」
「もう!グリムは今の今起きたくせにそういうところだけはきちんと聞いてるんだから!」
「グリムさんのためにもない知恵を絞るしかなくなってしまいましたね、あなた」
「一言多いんですよジェイド先輩は!」
 それからあれよあれよと時はすぎてもう十二月。明かされた事実には皆唖然とするしかなかった。だってそれは間違いなく、商才あふれるずる賢いアズール先輩にしか考えつかないことだったから。
【いただいた案は甲乙つけ難いものばかりだったため、アドベントカレンダー風にしました。よって皆が優勝となりますので、豪華賞品は山分け。一律お給料に上乗せしておきます】
 選考結果が書かれた掲示物を見て溜め息一つ吐いたところで、いつの間にか横に並んでいたアズール先輩が呆れたように声をかけられた。
「なんですその顔は。皆さん素晴らしいメニューを考案してくれましたから甲乙付けられませんでした、というだけですよ。毎日別メニューが出るなんて楽しいことでしょう?期間限定には誰もが弱いんです」
「最初からそのつもりでしたよね、これ」
「なんのことでしょうか?」
 澄ました顔をするアズール先輩には私のジト目なんて全く効果はない。しらばっくれるならこれ以上突っ込むのはやめた方がいいというのは短くも濃い時間を共に過ごしてきた私の意見。
「そうですか。それならまぁ、私には関係ないので」
「待ちなさい。あなたは勤務前にVIPルームにきてもらいますよ」
「なんでですか」
「それは、成果を讃えるため、です」
 いかにもな顔でパチンと指を鳴らしたアズール先輩が、言う。
 途端、照明が一段階暗くなり、ハラハラと談話室内に雪が舞った。
「これって……」
「『海中ではマリンスノーという現象が起こると聞きました。それをモストロラウンジで再現するのはどうでしょう。室内で雪が降ると大変なので、そこはもちろん魔法でどうにかしてもらうことが前提になります。スノードームのようでホリデーの雰囲気も出るし、盛り上がるかと思います』」
「それ……私の書いた案……!」
「皆がフードメニューの提案ばかりしている中、あなたは唯一内装のことに触れ、かつその案は僕らには思い浮かばない妙案でした。ですのであなたには特別賞を贈ります」
「……ってことは、私の勝ち?」
「ええそうです。表向きはああいう形を取りましたが、ジェイドとフロイドにも賛成してもらいました」
 その言葉に、後ろの扉からひょこっと名指しされた二人が顔を覗かせた。
「あなた、なかなかやるじゃないですか。異質な路線で目立っていましたよ」
「二人とも言い方がこんなだけど、小エビちゃんのこと普通に褒めてたから安心して〜」
 なんだかんだこの三人は適当な判断を下すような人じゃないことは、私もよく知るところである。ここの人たちは皆、仕事に対しては誠実なのだ。じわじわと、私がコンペで買ったんだという自覚が湧いてくる。自分が認められたんだと感じることが少ないので、どういう顔をしていいか分からずにいると、フロイド先輩にムニムニと頬を弄ばれた。
「小エビちゃんの顔、ブッサイク〜」
「ふょいどせんぴぁあう」
「ふふっ、よく伸びる頬ですね」
「特別賞、なんて刺激が強すぎましたかね、あなたには」
「やったんだぞー!商品のツナ缶は俺様のものなんだぞー!!」
「商品はツナ缶ではありませんよ、グリムくん」
「ふな!?ツナ缶じゃないのか!?」
「僕は商品が何かはどこにも書いた覚えはありませんし、伝えた覚えもありません」
「うわ……嫌な予感がする」
「おや、あなたもなかなか鋭くなりましたね」
 告げられた言葉は私を苦笑いさせたけど、みんなと一緒にいられるなら、結構嬉しいことなのかもね。

「来年もモストロラウンジにてアルバイトする権利を差し上げます!嬉しいでしょう!」
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