HAPPY EVER AFTER
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はぁ…」
何度も出るため息。あのデート後からずっとだ。
順調にお付き合いしてきた、と思う。色々と順序がおかしなこともあったけれど。
私は、身に余るような素敵な日々に浮かれ過ぎていたのかもしれない。
見ぬふりをしてきた事実を突きつけられれば、否が応でも考えさせられてしまうのだ。
この間のデートで訪れた博物館で、この世界の姿を見て、改めて思い知らされた。
ここは私のいた世界とは歴史も概念も異なる世界。形こそ地球に似たようなもので惑星自体は同じなのかと錯覚もしたけれど、飾られたその全ての資料が私に忠告していた。お前はこの世界では異分子だ、調子に乗るんじゃない、と。
「困ったねぇ…」
いくらオンボロといえど、作りはきちんとした寮の一室であるこの部屋には豪華なバルコニーがあって、私は今、そこから学園を見渡していた。
現実が、ヒタヒタと足元によってくる。
「おかしいね、わたし」
あんなにも帰りたい、帰りたいと思っていたのに、今はもう、その方法が見つからなければいいのにと、心のどこかで祈っている。
私の世界はどうなっているんだろう。
時が止まっているのかな?
それとも昏睡状態の自分がいたりするのかな。
親は、兄弟は、どうしているんだろう。
心配事はたくさんあるけれど、でも、仕方ないじゃないか。
私自身は、私の意識は、今、この世界で生きている。
「こんなはずじゃなかったのに…」
出会いを後悔しているわけじゃない。
好きという気持ちを否定するわけじゃない。
でも思わずにはいられない。
いつか、どこかのタイミングで私がここからいなくなったら、みんなは私を忘れてしまうのか、それとも覚えていてくれるのか。
「アズールせんぱい…」
先輩の顔を思い浮かべると、胸がいっぱいになる。
会いたい、話したい、触れたい。
いつだって近くにいたい。
彼は支配人だから日々忙しそうにしているし、毎日毎日会いたいなんてわがままは言えない。だからこそたまに廊下で逢ったり、姿を見かける、その瞬間を待ち望む。
そんな一時ですらもなくなってしまう日がくるのかと思うと、目頭が熱くなるのは仕方のないことだ。
その声で名前を呼ばれるたび。
控えめに触れられるたび。
涙を抑えるのに必死だなんて。
バルコニーに乗せていた腕に頭を埋めて、また溜め息をついた。
その瞬間だった。
「おや?さながらお伽話のお姫様ですね」
「小エビちゃんはさぁ、もっと楽しそうにしてないと」
「えっ」
私の身体を挟み込むように、左右に人の気配を感じ、バッと身体を起こせば、そこにいたのは。
「ジェイド先輩にフロイド先輩?!」
「ユウさんこんにちは。」
「小エビ姫を助けにきましたぁっ」
「えっ、え…?!ここ二階っ?!」
「いやですねぇ。僕たちは魔法士ですよ」
「オレぇ、飛行は苦手だけど、壁歩くのは得意♪」
その言葉を聞くに、どうやら魔法で外壁を歩いて登ってきたのだと察せられた。どこまでもイレギュラーな人たちだと、苦笑する。
「近ごろはあまりモストロへいらっしゃいませんね」
「えっ、あ…えっと…あはは…恥ずかしながら金欠なんです…」
「オレたちに会いにきてくれるんなら席くらい用意するよぉ〜」
「そんな…特別待遇してもらうような身分じゃないですから」
ぽん、と私の背中に手を触れるジェイド先輩。
私の横に肘をつき、覗きこんでくるフロイド先輩。
二人の表情からは言葉通りの気持ち以上に、私への心配が見てとれて、なんだか申し訳なくなってしまう。
「ありがとう、ございます。…でも、ほんとに、大丈夫っ…」
お願い、私に優しくしないで。
言葉にならない声が涙となって目尻に溜まる。
「やぁだなー。そんな顔すんなって…小エビちゃんを泣かせたいんじゃなくて、笑わせたいんだよオレたちは」
ぎゅうぎゅうとフロイド先輩に抱きしめられれば、あっけなく溢れてしまった涙は、隠すこともできなかった。
「アズールには言いませんから僕たちにだけ話してみませんか?これはただの推測ですが、ユウさんが一人で抱えるには大きすぎる問題な気がしますよ」
一頻り泣かせてもらったあと、ぐすぐすと鼻を擦りながら考えを吐露すれば、少しだけ落ち着きを取り戻す私の心。
本当、リーチ兄弟には敵わない。
「…要領を得ない悩みですみません…」
「アズール愛されてんなぁ」
「フロイド、今はそういう話ではありませんよ」
「でもさぁ!いーなー!!こーんなに小エビちゃんに思われててさぁ!」
「ふ…たしかに。少し妬けますね」
「っ…そういうわけじゃっ…」
涙で真っ赤にしたのとはまた別の紅で頬が熱くなるのを感じつつ、フロイド先輩の腕の中で動けなくなってしまう。
「冗談はさておき、そうですね。貴女がいうことは、たしかにいつ起こってもおかしくはないでしょう」
「です、よね…」
「うわぁ、ジェイド辛辣ぅ」
「嘘を言っても仕方ありませんから。たしかに貴女は、入学式に合わせてこちらの世界にやってきた。ですが、卒業式をきっかけに帰る、という保証はないでしょうね」
「どうやって帰れるかも謎ですしね」
「オレ、がくえんちょーがどうにかしてくれるとは思えねー。帰れるんならマジ鏡とかの気まぐれになんじゃね?」
「僕も学園長にはあまり期待していません。ただ、たしかにいつ帰れるのかわからないのは、こちらも気が気ではありません。目の前なんかで消えられてもごらんなさい」
「その現場、アズールが見たら死んじゃうかもね」
「はは…私だって…そんな瞬間はアズール先輩には見せたくありません…」
実態が消えるなら、私の存在を記憶ごと消して欲しい。
「傷つくのは私だけでいいんです…みんなは忘れてくれたって…」
たくさんの気持ちをもらっておいて酷いことを言うようだけれど、自分の存在がアズール先輩を傷つけてしまうのは、それだけは嫌だ。
それならいっそ私に関する記憶ごとなくなれば。
「やだ」
「へ?」
「オレはやだ〜!!」
「僕も同意見です」
「どうして?」
「せっかくこうして関わってきたんです。『僕のきのこ料理がおいしいと言われた』という評価がなくなったら、僕に失礼だと思わないんですか」
「一緒にサボりしてくれた小エビちゃんとたーくさんお話したこと、オレは忘れねぇ」
「!!」
二人分の優しさを身に受けて、また目頭が熱くなる。
「私…ごめんなさっ…」
「ユウさんは物分かりが良いですね」
「ウン!小エビちゃんはいーこ!」
「も、ほんと…ふへっ…」
「よーし、しんみりは終わり〜!」
「ッハイ…!」
その気遣いがじんわりと沁みる。同じ気持ちを感じてくれているのかな、なんて、そう思えたら気分が晴れてくるのはゲンキンだけれど、とても幸せだ。
「しかしながら、鏡の…またはこの世界の気まぐれでその日がくると仮定した場合、その気まぐれが"いつ"起こるかわからない以上、相応の準備は進めておくべきですね…」
「例えば誰かが全部忘れてしまっても、記憶の片鱗に残るものを持っていられたらいいんですが…」
「小エビちゃん、こっちきたとき、サイフもスマフォもねぇって騒いでたもんね」
「そうです。あの日は、持ち物はなにもなくて…なのに服はなぜか制服だし…」
「…ふむ、そうなってくると僕らの常識が通用するのかも不明ですね。ただ、ツイステッドワンダーランドでは、鏡を抜ける時に掴んでいるものは鏡を抜ける者と共に移動する、というのが鉄則ですし、身につけているものはそのまま移動するという前提で仮説を立ててみましょうか」
「なるほど…」
「とすると…そうですね…何かアクセサリーなどをアズールと交換してはどうでしょうか」
「ジェイドそれ名案〜!オレたちみたいにさ、ピアスとかどぉ?」
「ただ、それだけだと少し弱いですね…記憶を失ってしまった場合に、何かはっきりと思い起こすきっかけになりそうな…名前などを書いておけないものでしょうか…」
キョロ、とその"何か"を求めて三人の目が泳ぐ。
すると少しして、フロイド先輩が、あー!と叫んだ。
「ねぇねぇねぇあれ!あれよくねー?!」
「あれ…ああ!お手柄ですよフロイド!」
「?」
ジェイド先輩が、コツコツ、と靴を鳴らしながら私の部屋に歩を進める。
その手が取り上げたもの。それは。
「ゴーストカメラ」
「これは…見たところ魔法具ですか?」
「あ、はい。それは学園長がくれて…えっと、なんて言ってたかな…たしか…被写体の姿だけでなく魂も映せて、撮影者と被写体の魂の結びつきが強くなると、メモリー?が飛び出してくる、だったかな…」
「よくわかんねぇけどすげー!」
「それでは、こちらを使って、写真を撮ってみては?」
「ウンウン!オレも小エビちゃんと写真撮りたいな〜」
それは、一縷の望み。
「そっか…それを肌身離さず持っていれば、万が一の時にもあっちの世界に持っていけるかも」
「はい。そして僕たちにもいただければ、あるいは」
「だねー!こっちは元々魔法がある世界なわけだから〜、もしかしたら動く小エビちゃんが残るかも?」
メモリーってどんなんだろうねぇ?ほんとに動くのかなぁ?
ユウさんの元の世界を覗けたら、それはそれで面白いですよね。
ふわりふわりと笑いかけてくれる二人に元気をもらって、私はスクッと立ち上がった。
「ありがとうございます…っ!がんばりますね、私もっ!」
「はい、たくさん撮りましょうね、写真」
「ツーショとー、集合とー、ピンとー、あ、またアトランティカ博物館みたいなとこに遊びいこーよー」
「はい!いろんなところで、たくさん撮りましょう!」
この世界で生きた証を。今この瞬間の優しい想い出を胸に抱こう。
私の身に何か起こったとしても、絶対に、思い出してみせる。
この夢のような世界で起こった数々の出来事と、それから、アズール先輩のことを。
何度も出るため息。あのデート後からずっとだ。
順調にお付き合いしてきた、と思う。色々と順序がおかしなこともあったけれど。
私は、身に余るような素敵な日々に浮かれ過ぎていたのかもしれない。
見ぬふりをしてきた事実を突きつけられれば、否が応でも考えさせられてしまうのだ。
この間のデートで訪れた博物館で、この世界の姿を見て、改めて思い知らされた。
ここは私のいた世界とは歴史も概念も異なる世界。形こそ地球に似たようなもので惑星自体は同じなのかと錯覚もしたけれど、飾られたその全ての資料が私に忠告していた。お前はこの世界では異分子だ、調子に乗るんじゃない、と。
「困ったねぇ…」
いくらオンボロといえど、作りはきちんとした寮の一室であるこの部屋には豪華なバルコニーがあって、私は今、そこから学園を見渡していた。
現実が、ヒタヒタと足元によってくる。
「おかしいね、わたし」
あんなにも帰りたい、帰りたいと思っていたのに、今はもう、その方法が見つからなければいいのにと、心のどこかで祈っている。
私の世界はどうなっているんだろう。
時が止まっているのかな?
それとも昏睡状態の自分がいたりするのかな。
親は、兄弟は、どうしているんだろう。
心配事はたくさんあるけれど、でも、仕方ないじゃないか。
私自身は、私の意識は、今、この世界で生きている。
「こんなはずじゃなかったのに…」
出会いを後悔しているわけじゃない。
好きという気持ちを否定するわけじゃない。
でも思わずにはいられない。
いつか、どこかのタイミングで私がここからいなくなったら、みんなは私を忘れてしまうのか、それとも覚えていてくれるのか。
「アズールせんぱい…」
先輩の顔を思い浮かべると、胸がいっぱいになる。
会いたい、話したい、触れたい。
いつだって近くにいたい。
彼は支配人だから日々忙しそうにしているし、毎日毎日会いたいなんてわがままは言えない。だからこそたまに廊下で逢ったり、姿を見かける、その瞬間を待ち望む。
そんな一時ですらもなくなってしまう日がくるのかと思うと、目頭が熱くなるのは仕方のないことだ。
その声で名前を呼ばれるたび。
控えめに触れられるたび。
涙を抑えるのに必死だなんて。
バルコニーに乗せていた腕に頭を埋めて、また溜め息をついた。
その瞬間だった。
「おや?さながらお伽話のお姫様ですね」
「小エビちゃんはさぁ、もっと楽しそうにしてないと」
「えっ」
私の身体を挟み込むように、左右に人の気配を感じ、バッと身体を起こせば、そこにいたのは。
「ジェイド先輩にフロイド先輩?!」
「ユウさんこんにちは。」
「小エビ姫を助けにきましたぁっ」
「えっ、え…?!ここ二階っ?!」
「いやですねぇ。僕たちは魔法士ですよ」
「オレぇ、飛行は苦手だけど、壁歩くのは得意♪」
その言葉を聞くに、どうやら魔法で外壁を歩いて登ってきたのだと察せられた。どこまでもイレギュラーな人たちだと、苦笑する。
「近ごろはあまりモストロへいらっしゃいませんね」
「えっ、あ…えっと…あはは…恥ずかしながら金欠なんです…」
「オレたちに会いにきてくれるんなら席くらい用意するよぉ〜」
「そんな…特別待遇してもらうような身分じゃないですから」
ぽん、と私の背中に手を触れるジェイド先輩。
私の横に肘をつき、覗きこんでくるフロイド先輩。
二人の表情からは言葉通りの気持ち以上に、私への心配が見てとれて、なんだか申し訳なくなってしまう。
「ありがとう、ございます。…でも、ほんとに、大丈夫っ…」
お願い、私に優しくしないで。
言葉にならない声が涙となって目尻に溜まる。
「やぁだなー。そんな顔すんなって…小エビちゃんを泣かせたいんじゃなくて、笑わせたいんだよオレたちは」
ぎゅうぎゅうとフロイド先輩に抱きしめられれば、あっけなく溢れてしまった涙は、隠すこともできなかった。
「アズールには言いませんから僕たちにだけ話してみませんか?これはただの推測ですが、ユウさんが一人で抱えるには大きすぎる問題な気がしますよ」
一頻り泣かせてもらったあと、ぐすぐすと鼻を擦りながら考えを吐露すれば、少しだけ落ち着きを取り戻す私の心。
本当、リーチ兄弟には敵わない。
「…要領を得ない悩みですみません…」
「アズール愛されてんなぁ」
「フロイド、今はそういう話ではありませんよ」
「でもさぁ!いーなー!!こーんなに小エビちゃんに思われててさぁ!」
「ふ…たしかに。少し妬けますね」
「っ…そういうわけじゃっ…」
涙で真っ赤にしたのとはまた別の紅で頬が熱くなるのを感じつつ、フロイド先輩の腕の中で動けなくなってしまう。
「冗談はさておき、そうですね。貴女がいうことは、たしかにいつ起こってもおかしくはないでしょう」
「です、よね…」
「うわぁ、ジェイド辛辣ぅ」
「嘘を言っても仕方ありませんから。たしかに貴女は、入学式に合わせてこちらの世界にやってきた。ですが、卒業式をきっかけに帰る、という保証はないでしょうね」
「どうやって帰れるかも謎ですしね」
「オレ、がくえんちょーがどうにかしてくれるとは思えねー。帰れるんならマジ鏡とかの気まぐれになんじゃね?」
「僕も学園長にはあまり期待していません。ただ、たしかにいつ帰れるのかわからないのは、こちらも気が気ではありません。目の前なんかで消えられてもごらんなさい」
「その現場、アズールが見たら死んじゃうかもね」
「はは…私だって…そんな瞬間はアズール先輩には見せたくありません…」
実態が消えるなら、私の存在を記憶ごと消して欲しい。
「傷つくのは私だけでいいんです…みんなは忘れてくれたって…」
たくさんの気持ちをもらっておいて酷いことを言うようだけれど、自分の存在がアズール先輩を傷つけてしまうのは、それだけは嫌だ。
それならいっそ私に関する記憶ごとなくなれば。
「やだ」
「へ?」
「オレはやだ〜!!」
「僕も同意見です」
「どうして?」
「せっかくこうして関わってきたんです。『僕のきのこ料理がおいしいと言われた』という評価がなくなったら、僕に失礼だと思わないんですか」
「一緒にサボりしてくれた小エビちゃんとたーくさんお話したこと、オレは忘れねぇ」
「!!」
二人分の優しさを身に受けて、また目頭が熱くなる。
「私…ごめんなさっ…」
「ユウさんは物分かりが良いですね」
「ウン!小エビちゃんはいーこ!」
「も、ほんと…ふへっ…」
「よーし、しんみりは終わり〜!」
「ッハイ…!」
その気遣いがじんわりと沁みる。同じ気持ちを感じてくれているのかな、なんて、そう思えたら気分が晴れてくるのはゲンキンだけれど、とても幸せだ。
「しかしながら、鏡の…またはこの世界の気まぐれでその日がくると仮定した場合、その気まぐれが"いつ"起こるかわからない以上、相応の準備は進めておくべきですね…」
「例えば誰かが全部忘れてしまっても、記憶の片鱗に残るものを持っていられたらいいんですが…」
「小エビちゃん、こっちきたとき、サイフもスマフォもねぇって騒いでたもんね」
「そうです。あの日は、持ち物はなにもなくて…なのに服はなぜか制服だし…」
「…ふむ、そうなってくると僕らの常識が通用するのかも不明ですね。ただ、ツイステッドワンダーランドでは、鏡を抜ける時に掴んでいるものは鏡を抜ける者と共に移動する、というのが鉄則ですし、身につけているものはそのまま移動するという前提で仮説を立ててみましょうか」
「なるほど…」
「とすると…そうですね…何かアクセサリーなどをアズールと交換してはどうでしょうか」
「ジェイドそれ名案〜!オレたちみたいにさ、ピアスとかどぉ?」
「ただ、それだけだと少し弱いですね…記憶を失ってしまった場合に、何かはっきりと思い起こすきっかけになりそうな…名前などを書いておけないものでしょうか…」
キョロ、とその"何か"を求めて三人の目が泳ぐ。
すると少しして、フロイド先輩が、あー!と叫んだ。
「ねぇねぇねぇあれ!あれよくねー?!」
「あれ…ああ!お手柄ですよフロイド!」
「?」
ジェイド先輩が、コツコツ、と靴を鳴らしながら私の部屋に歩を進める。
その手が取り上げたもの。それは。
「ゴーストカメラ」
「これは…見たところ魔法具ですか?」
「あ、はい。それは学園長がくれて…えっと、なんて言ってたかな…たしか…被写体の姿だけでなく魂も映せて、撮影者と被写体の魂の結びつきが強くなると、メモリー?が飛び出してくる、だったかな…」
「よくわかんねぇけどすげー!」
「それでは、こちらを使って、写真を撮ってみては?」
「ウンウン!オレも小エビちゃんと写真撮りたいな〜」
それは、一縷の望み。
「そっか…それを肌身離さず持っていれば、万が一の時にもあっちの世界に持っていけるかも」
「はい。そして僕たちにもいただければ、あるいは」
「だねー!こっちは元々魔法がある世界なわけだから〜、もしかしたら動く小エビちゃんが残るかも?」
メモリーってどんなんだろうねぇ?ほんとに動くのかなぁ?
ユウさんの元の世界を覗けたら、それはそれで面白いですよね。
ふわりふわりと笑いかけてくれる二人に元気をもらって、私はスクッと立ち上がった。
「ありがとうございます…っ!がんばりますね、私もっ!」
「はい、たくさん撮りましょうね、写真」
「ツーショとー、集合とー、ピンとー、あ、またアトランティカ博物館みたいなとこに遊びいこーよー」
「はい!いろんなところで、たくさん撮りましょう!」
この世界で生きた証を。今この瞬間の優しい想い出を胸に抱こう。
私の身に何か起こったとしても、絶対に、思い出してみせる。
この夢のような世界で起こった数々の出来事と、それから、アズール先輩のことを。