HAPPY EVER AFTER
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妙な違和感に意識を引かれる経験は、誰にでもあると思う。
この時の私の目覚めは、そんなものだった。
ボンヤリとした視界に、何度か目をパチクリさせて、何かがいつもと違う?、と思ったのも束の間。
寝る前に起こっていたことを思い出して大声をあげそうになるのをすんでのところで堪えたことは、褒めるに値するだろう。
「~ッ…!」
堪えられたのは何かが胸にひっつく感覚がしたからで、さらにその"何か"を確認してしまった驚きからだった。
胸の谷間に顔を埋めて、しっかりと私の腰に腕を回して、スヤスヤ眠っているのは…にわかに信じられないが、あのアズール・アーシェングロット先輩であった。
深海のディープブルーを楽しむ予定が、ディープ違い。ディープキスにハマったらしいアズール先輩にいいように扱われ、抵抗する力もないままに、無理矢理着替えだけさせてもらって眠ったのは、何時ごろだったのだろうか。
(…いつからこの状況だったのかなぁ…)
一応紳士なアズール先輩なので、言った通り、本当にキス以上のことは何もなく、きちんと眠りにはつけた。当たり前のようにキングサイズなこの広いベッドにきちんと二人で、特に近すぎず遠すぎずな距離を保って横たわって、だ。
健全だなぁと苦笑までしたのに。なのになぜ今、彼と私はこんなにくっついて、というか、なぜ彼は私の胸の間に顔を埋めた状態で幸せそうに眠っているのか。
(全く思い出せない…)
確かに私は一度寝たら割と何があっても起きない自信はあったが、さすがに人に触られたら起きてほしかった。
借りたお泊りセットに含まれていたパジャマは『何用?』と聞きたくなるような、胸元が結構はだけているシルクのパジャマで、下は半ズボン。ジェイド先輩、これ絶対Mr.Sのショップで新しく仕入れたよね?!、と怒ったところで取り変えに行くこともできず。仕方なしにそのまま着たのだ。
胸の間では未だ先輩が幸せそうに寝ているのだけれど、息をされる度に吐息が私の肌を掠めてくすぐったい。
「お疲れ様、ですね」
日頃から先輩を見ていればわかる。きっと毎日相当に疲れた状態で眠りにつくのだろう。起こさないほうがいいか、と思いつつもその吐息のくすぐったさを我慢できずに声を漏らしたら、先輩の目がゆっくりと開いた。
「ん………」
「…ぁ、」
「、…、あさ、…か……?」
「え…と…まだ、夜明け前、みたいです、よ…」
「……幻覚?」
当たり前だが眼鏡をかけたまま寝る人間などいるわけもない。
視界がぼやけているのか、はたまた寝ぼけているのか。
アズール先輩は、しかめっ面で私の顔を見つめたあと、ややあってカッと切れ長の目を見開いた。
「!?」
声も出ないほどの驚きをもって、私から距離を取る。
「な、えっ、なぁっ?!」
「…えっと…言っておきますが、私も今目を覚ましたばかりで状況がわかっていないので…すみません、です」
何を言っても胡散臭くなりそうで、それだけ言ってから起き上がり、私もベッドの上に正座する。
「ッ…、っぁ、あのっ、」
「はい」
「何も、していませんね?、僕は、」
「…されたのはハグだけみたいです」
相手のほうが狼狽していると、自分は冷静になるって本当なんだなぁ、と別の自分がボンヤリ考えている。
「よ、よかった…」
「それは女のこちらのセリフでは?」
「あ、っす、すみません、いや、でもほら、既成事実があるなら然るべき対応は」
「既成じっ…っ!?先輩しっかり予習済じゃないですか!!」
この発言には驚かざるを得ず、私まで体温急上昇。なにが、時間がなかったのでキスだけで、なんですか!!
「あ…あの、申し訳ありませんでした…。その、意識あってあのようなことをしたのではなく…」
「無意識で胸に顔埋められたの初めてです」
「そ、それに関しては、その…習性で…」
「?」
「その…岩なんかに這うのが好きなんですよ、もともと…」
「…なるほど…」
それなら、なんとなく理解ができた。
たしかに水族館などで、吸盤で張り付いている姿を何度か見た気もする。
先輩は人魚だけれど、よく蛸壷に篭りたいと言うぐらいだからその辺は似ているのかもしれない。
ふむ…と逡巡している間も、アズール先輩は所在なさげにしていて、いつもの威厳は何処へやら。
その様子をみていると、なんだか逆にこちらが意地悪をしているような気分になってくる。
「…あの、アズール先輩、私は別に怒ってないので、そんなしょんぼりしないでください」
「怒ってらっしゃらないんですか?」
きょとんとした顔が驚くほど可愛くて、苦笑してしまった。
「ふはっ!怒りませんよ。他でもないアズール先輩ですし。…すきな人に抱きつかれて嫌なわけ、ないです。ビックリはしたけど」
「すき、」
「ッ、そこ繰り返さないでください!」
ん"っ!と詰まってしまった。
自分で言っておいて何だけれど、この状況でその言葉はなかったかもしれない。
「ユウさんは、僕のことが好きで、だから、抱きつかれて眠るのも嫌ではないと。そういうことでよろしいんですね?」
「だから!そんなこと改まって言わないでくだっ!?」
「でも、そういうことでしょう?」
いつのまに距離を詰めたのか、膝と膝がくっつくくらい近くに寄っていたアズール先輩に、ぐい、と腕を引かれて腰をとられた私は、バランスを崩して先輩の首元に倒れ込む。
「!?っ…!」
「ああ、すみません。眼鏡がないもので、近づかないとお顔が見えなくて、つい」
にこり。端正な顔が心底楽しそうに綻んだ。
「では、朝まで抱き合ってもう一眠りしましょうか」
「?!」
「今度は、僕がユウさんを抱きしめますから」
そのまま、ぎゅう、と抱きしめられてベッドへダイブ。逆戻りだ。
「ちょ…!アズール先輩っ」
「借りは返しますよ」
「借りなんて別にっ…んぐぅ!」
日頃はリーチ兄弟に挟まれているからあまり感じないけれど、実は背の高いアズール先輩に体格で敵うわけもない。抵抗もむなしく、その腕から抜け出すことはできなかった。
私にできることと言えば、大人しく全身を固まらせることだけで。そうしていれば、頭の上から小さな声がふってきた。
「…僕、冷たいでしょう」
「それは、対応のことですか?体温のことですか?」
「この流れでそれを聞きます?体温に決まっているでしょう」
「ふふっ、冗談ですよ。そうですねぇ…少し冷たいですけど、嫌じゃありません。私の体温と半分こして、ちょうどいいんじゃないですか?」
「…そうですか…僕も、暖かいものは嫌いではありませんよ」
それだけいうと、先輩は今度こそ口を閉ざしてしまった。
眼鏡をしていないアズール先輩は、いつもと違って少しあどけなくみえて、私の母性本能をくすぐった。今ならいいかなぁ、と、少し身体を動かして頭を撫でてみれば、一瞬ビクリとするも、もう逃げたりすることはなく、逆に私を抱きしめる腕に力がこめられる。
それから寝息が聞こえるまで数分もかからなかった。
かっこよくて可愛いとか、本当に反則。
こんなじゃ、いつまで経っても敵わないんだろうなと、私は惚れた弱みを再確認。
なお、私の預かり知らぬところで、アズール先輩はこんな心持ちだったそうな。
*
side.アズール
頭を撫でられるのなんていつぶりだろうか。
恥ずかしいと思いつつも、どうにも気持ちがよくて、起きていることを悟られたくなかった。
暗くて冷たい深海とは違い、ユウさんの隣は暖かくて心地よい。
もう少しこのまま。この体温を堪能させてもらおうか、と、ゆっくりと眠りに堕ちた。
この時の私の目覚めは、そんなものだった。
ボンヤリとした視界に、何度か目をパチクリさせて、何かがいつもと違う?、と思ったのも束の間。
寝る前に起こっていたことを思い出して大声をあげそうになるのをすんでのところで堪えたことは、褒めるに値するだろう。
「~ッ…!」
堪えられたのは何かが胸にひっつく感覚がしたからで、さらにその"何か"を確認してしまった驚きからだった。
胸の谷間に顔を埋めて、しっかりと私の腰に腕を回して、スヤスヤ眠っているのは…にわかに信じられないが、あのアズール・アーシェングロット先輩であった。
深海のディープブルーを楽しむ予定が、ディープ違い。ディープキスにハマったらしいアズール先輩にいいように扱われ、抵抗する力もないままに、無理矢理着替えだけさせてもらって眠ったのは、何時ごろだったのだろうか。
(…いつからこの状況だったのかなぁ…)
一応紳士なアズール先輩なので、言った通り、本当にキス以上のことは何もなく、きちんと眠りにはつけた。当たり前のようにキングサイズなこの広いベッドにきちんと二人で、特に近すぎず遠すぎずな距離を保って横たわって、だ。
健全だなぁと苦笑までしたのに。なのになぜ今、彼と私はこんなにくっついて、というか、なぜ彼は私の胸の間に顔を埋めた状態で幸せそうに眠っているのか。
(全く思い出せない…)
確かに私は一度寝たら割と何があっても起きない自信はあったが、さすがに人に触られたら起きてほしかった。
借りたお泊りセットに含まれていたパジャマは『何用?』と聞きたくなるような、胸元が結構はだけているシルクのパジャマで、下は半ズボン。ジェイド先輩、これ絶対Mr.Sのショップで新しく仕入れたよね?!、と怒ったところで取り変えに行くこともできず。仕方なしにそのまま着たのだ。
胸の間では未だ先輩が幸せそうに寝ているのだけれど、息をされる度に吐息が私の肌を掠めてくすぐったい。
「お疲れ様、ですね」
日頃から先輩を見ていればわかる。きっと毎日相当に疲れた状態で眠りにつくのだろう。起こさないほうがいいか、と思いつつもその吐息のくすぐったさを我慢できずに声を漏らしたら、先輩の目がゆっくりと開いた。
「ん………」
「…ぁ、」
「、…、あさ、…か……?」
「え…と…まだ、夜明け前、みたいです、よ…」
「……幻覚?」
当たり前だが眼鏡をかけたまま寝る人間などいるわけもない。
視界がぼやけているのか、はたまた寝ぼけているのか。
アズール先輩は、しかめっ面で私の顔を見つめたあと、ややあってカッと切れ長の目を見開いた。
「!?」
声も出ないほどの驚きをもって、私から距離を取る。
「な、えっ、なぁっ?!」
「…えっと…言っておきますが、私も今目を覚ましたばかりで状況がわかっていないので…すみません、です」
何を言っても胡散臭くなりそうで、それだけ言ってから起き上がり、私もベッドの上に正座する。
「ッ…、っぁ、あのっ、」
「はい」
「何も、していませんね?、僕は、」
「…されたのはハグだけみたいです」
相手のほうが狼狽していると、自分は冷静になるって本当なんだなぁ、と別の自分がボンヤリ考えている。
「よ、よかった…」
「それは女のこちらのセリフでは?」
「あ、っす、すみません、いや、でもほら、既成事実があるなら然るべき対応は」
「既成じっ…っ!?先輩しっかり予習済じゃないですか!!」
この発言には驚かざるを得ず、私まで体温急上昇。なにが、時間がなかったのでキスだけで、なんですか!!
「あ…あの、申し訳ありませんでした…。その、意識あってあのようなことをしたのではなく…」
「無意識で胸に顔埋められたの初めてです」
「そ、それに関しては、その…習性で…」
「?」
「その…岩なんかに這うのが好きなんですよ、もともと…」
「…なるほど…」
それなら、なんとなく理解ができた。
たしかに水族館などで、吸盤で張り付いている姿を何度か見た気もする。
先輩は人魚だけれど、よく蛸壷に篭りたいと言うぐらいだからその辺は似ているのかもしれない。
ふむ…と逡巡している間も、アズール先輩は所在なさげにしていて、いつもの威厳は何処へやら。
その様子をみていると、なんだか逆にこちらが意地悪をしているような気分になってくる。
「…あの、アズール先輩、私は別に怒ってないので、そんなしょんぼりしないでください」
「怒ってらっしゃらないんですか?」
きょとんとした顔が驚くほど可愛くて、苦笑してしまった。
「ふはっ!怒りませんよ。他でもないアズール先輩ですし。…すきな人に抱きつかれて嫌なわけ、ないです。ビックリはしたけど」
「すき、」
「ッ、そこ繰り返さないでください!」
ん"っ!と詰まってしまった。
自分で言っておいて何だけれど、この状況でその言葉はなかったかもしれない。
「ユウさんは、僕のことが好きで、だから、抱きつかれて眠るのも嫌ではないと。そういうことでよろしいんですね?」
「だから!そんなこと改まって言わないでくだっ!?」
「でも、そういうことでしょう?」
いつのまに距離を詰めたのか、膝と膝がくっつくくらい近くに寄っていたアズール先輩に、ぐい、と腕を引かれて腰をとられた私は、バランスを崩して先輩の首元に倒れ込む。
「!?っ…!」
「ああ、すみません。眼鏡がないもので、近づかないとお顔が見えなくて、つい」
にこり。端正な顔が心底楽しそうに綻んだ。
「では、朝まで抱き合ってもう一眠りしましょうか」
「?!」
「今度は、僕がユウさんを抱きしめますから」
そのまま、ぎゅう、と抱きしめられてベッドへダイブ。逆戻りだ。
「ちょ…!アズール先輩っ」
「借りは返しますよ」
「借りなんて別にっ…んぐぅ!」
日頃はリーチ兄弟に挟まれているからあまり感じないけれど、実は背の高いアズール先輩に体格で敵うわけもない。抵抗もむなしく、その腕から抜け出すことはできなかった。
私にできることと言えば、大人しく全身を固まらせることだけで。そうしていれば、頭の上から小さな声がふってきた。
「…僕、冷たいでしょう」
「それは、対応のことですか?体温のことですか?」
「この流れでそれを聞きます?体温に決まっているでしょう」
「ふふっ、冗談ですよ。そうですねぇ…少し冷たいですけど、嫌じゃありません。私の体温と半分こして、ちょうどいいんじゃないですか?」
「…そうですか…僕も、暖かいものは嫌いではありませんよ」
それだけいうと、先輩は今度こそ口を閉ざしてしまった。
眼鏡をしていないアズール先輩は、いつもと違って少しあどけなくみえて、私の母性本能をくすぐった。今ならいいかなぁ、と、少し身体を動かして頭を撫でてみれば、一瞬ビクリとするも、もう逃げたりすることはなく、逆に私を抱きしめる腕に力がこめられる。
それから寝息が聞こえるまで数分もかからなかった。
かっこよくて可愛いとか、本当に反則。
こんなじゃ、いつまで経っても敵わないんだろうなと、私は惚れた弱みを再確認。
なお、私の預かり知らぬところで、アズール先輩はこんな心持ちだったそうな。
*
side.アズール
頭を撫でられるのなんていつぶりだろうか。
恥ずかしいと思いつつも、どうにも気持ちがよくて、起きていることを悟られたくなかった。
暗くて冷たい深海とは違い、ユウさんの隣は暖かくて心地よい。
もう少しこのまま。この体温を堪能させてもらおうか、と、ゆっくりと眠りに堕ちた。