Sweet Dreams
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まだ夜も明けない時刻。ジェイドは悶々と時を過ごしていた。
寮の周りのライトのみならず、今宵は月も明るいようだ。
自然のほの明かりが寝室に届くなど、味わったことのない情景だった。
腕の中には愛しい人を抱いて。夢物語なんかじゃない、現実を。
絡められる腕と、そして足と。今なら、あの人魚の姫が足を切望した理由もわかる気がした。
腕だけでは心もとなくて、すり、と二本の脚でもユウの身体を挟み込む。
「いいですね…こういうのも。」
ずっと眺めていても飽きることがないだろうユウの顔を眺めながら、今日一日くらい眠らなくてもいいか、と微笑んだ。
そんな一夜が明けて、朝日が差し込んできたころ。
漸くこくりこくりと船をこぎ始めたジェイドとは対照的に、覚醒し始めたユウの心は今までにないくらいに早鐘を打っていた。
(なんで?!なんでジェイド先輩に添い寝っていうか抱きしめられてるの?!昨日は、もうこんな関係は終わりにしようと決心して、話をしたはずだったのに。そのあと、…ジェイド先輩は、私のこと…す、好!?!??!)
嘘か誠か記憶が曖昧なのが唯一の悩みではあるが、その言葉は、確かに自分に対して放たれたはずだと、ユウの頭は沸騰する。
だってあのジェイドが、あんなに人を一定の距離から近づけないジェイドが。
自分なんかに心を許したばかりか、この距離で眠っているのだ。
普段は切れ長に開いているオッドアイは、今はゆるく閉じられている。
『私で…いいんですか…?』
(これが現実なら、泣き出しそう。幸せすぎると人は涙を流すのね。)
と思いながら、滑らかな肌に無意識に伸ばした指。
あと数ミリで触れようとするところでその指を、キュ、ジェイドが捉えた。
『!』
「ユウさん、大胆ですね…夜這いですか?」
『な?!』
ジェイドはそのまま、ユウの指先に唇を寄せ、キスを落とす。
手を取られているだけでも恥ずかしいのに、端正な顔立ちの想い人からさながら王子様のようなことをされては、心がもたないというものだ。
「それから、ユウさんじゃなかったら、こんなことしませんよ。」
見慣れたはずのその顔なのに、滲み出る表情はこれまでに見たことがないほど柔らかく、ユウは、嫌が応にもこれがジェイドの本心なんだなと思い知り、瞳を潤ませた。が。
『っ、あ、の…ちか、い…ですっ!』
「?そうですか?」
『そう、ですっ!!と言うか、こ、こんな、一緒に、寝るとか、ダメ、ですしっ』
「どうしてですか?僕たち両思いでしょう?問題ありません」
『んな!?なんでそういう発想に飛ぶんですか!!』
「たかが添い寝ですよ、こんなことでは孕みません」
『〜っ!!』
恥ずかしさから、捉われていない方の手で一生懸命にジェイドの身体を押しても、一向に動く気配はない。
抵抗もむなしく、逆に、ユウの身体は布団に縫い付けられてしまった。
『ちょ…!』
「いけないですね。貴女が煽ったんですよ?添い寝だけで済まそうと思ったのですが…」
『だだだだだだめ!!ダメです!そんな、昨日の今日で、そんな、っ、ジェイド先輩は、私の身体が目当てなんですか!?』
「そんなわけないでしょう。心外ですね。」
『ならダメです!!こんな、破廉恥です!!先輩の変態!!』
「ふ…っふふっ…」
『…!っ!!ジェイド先輩のバカッ!』
必死にバタバタと足を動かしても意味をなさなかったが、自分の上から、楽しそうに笑うジェイドの声が漏れてきて、遊ばれたことに気づいたユウ。
これ以上ないほどに赤くなったその顔は、次の瞬間、ジェイドによって捉えられた。
「あんまり、暴れないでください?お口にチャック、という言葉くらい、貴女の国にもあるでしょう」
『だってっ、ジェ、ン、ぅ?!』
「ん」
ユウの声は、ジェイドの咥内に飲み込まれた。
口づけされたのか、食まれたのか。
目が回るように次々と信じられないことが起こる。本当に身が持たない。
ユウの抵抗むなしく、唇を貪られること、何秒だったろうか。
キスなんて初めてで息の吸い方もわからないのに、吸って、舐められて、ぴちゃクチャと、咥内を荒らされて、もうダメだ死んでしまうと思った頃に、漸く離された。
だらしなく、はぁはぁと喘ぐことしかできないユウの唇を最後にペロリと舐めて、これ見よがしに自分の唇の拭ったジェイドは、にや、と笑って言う。
『ぁ、ふ、ぅは…』
「ふ…言動には気をつけてくださいね?」
『ぅ…』
「ふふ。朝からこんなこと、新婚夫婦みたいですね」
極め付けに、綺麗な笑顔を貼り付けて言う言葉がそんなものだから、反則だとユウは思う。
勢いづいたジェイドを見ながら、少しでも隙を見せたことを後悔したのにも関わらず、またいらないことを口にしてしまった。
『っこう言うのは…フロイド先輩のが得意そうなのに…ジェイド先輩が、こんなっ…ふぅ…っ』
「…フロイドの話はいいです」
『ふぇ?』
「貴女の口から、他の男の名前が出るのは、なんだか不愉快です」
せっかく離れた身体がまたのし掛かったと思えば、首筋に、チリ、と痛みが一つ。
『いっ、』
さらりとシーグリーンの髪が目の端に揺れ、次の瞬間には離れたが、この痛みはなんとなしに嫌な予感を与えた。
「あぁ、これでは制服を着た時に見えてしまいますね」
『!!っ!ジェイドせんぱいっ!?今!』
「僕のものには印をつけておきませんと。双子といえども、共有できないものもありますからね」
『だからってこんな!』
「今度はこんなものじゃすみませんよ?よく心に留めておいてくださいね。」
『、ひ、ひゃい…!』
じとっと睨まれて、返事を返せば、よろしい。と微笑まれたのはいいが、先ほど痛みを感じた首筋を、今度はちゅぅとわざとらしくリップノイズ付きで吸われてブルブルと身体を震わせてしまう。
『…こんなのずるい…!』
「ズルくて結構です。何事も先手必勝ですよ。」
『悔しいくらいにかっこいい…!』
「お褒めに預かり光栄です。…さ、じゃれ合いはこの辺で終わりです。でないと…」
『?』
何の用意もしていないのに、続きまでしてしまいそうになりますからね。
との言葉はジェイドの胸の内にしか響かなかったが、近い将来、きっと起こるだろう。
「しっかりしておきますからね」
『何をですか』
「お任せくださいね」
『??』
純粋そうなこの子をこの腕に抱いて潰してしまわないように、慎重に。
名残惜しいと思いつつも、ベッドから出たジェイドは背中ざまに語りかける。
「おいしくいただきますよ」
『?朝ごはんですか?』
「えぇ、まぁ、そんなところです」
耳飾りを付け直して、ユウを振り返ると。
『夜ご飯だけでなくて、朝ご飯も一緒に摂れるなんて、』
「!」
『幸せですね』
ほわと、とろけるように笑ったユウは、今まで見たどの笑顔よりも素敵な表情をしていて、思わずもう一度抱きしめてキスをしてしまったのは、言うまでもないだろう。
さて、そんな風にして晴れてお付き合いを始めた二人であったが、気持ちが通じた途端に愛情表現が激しくなったジェイドの近くには迂闊に寄ることができず、ユウは学園内では相変わらずジェイドを避けていた。
そのため、グリム以外の誰もが、ジェイドとユウの関係を知らないまま、普段通りの時を過ごしていた。
ただし、付き合っているのに彼女に近づけないどころかほとんど顔も合わせることがない時間を、ジェイドが許すわけがなく。
それから暫く経ったころ、根負けしたユウはモストロ・ラウンジを久しぶりに訪れていた。
スゥ、と一息吸って、よし!と気合も十分、ラウンジの入り口を覗き込もうとすれば。
「ユウさん!!」
『!?』
中にいるはずのジェイドに、思いもよらず背後から声をかけられたせいで、さながら小エビのように跳ね上がったユウは、声にならない声をあげて、後ろを振り返る。
満面の笑みを浮かべたジェイドに、びくりとしてしまうのも無理はなかった。
ジェイドはその両手でユウの頬を優しく包み込んで、うっとりと眺める。
「会いたかったですよ。どうして毎日来てくださらないんです?」
『だ、だから、言ってる、じゃないですか…っお金、が』
「賄いならいくらでも無料で出しますし、何なら僕の部屋にいてくれたら」
『そ、なこと、他の方に、示しが、』
「僕は副寮長ですからそんなことくらい」
他愛もない話をしながらも、だんだんと近づいてくる端正な顔に、公共の場でそんなやめて!と叫ぶこともできず、軽くパニックに陥ったユウを救ったのは、他でもない彼の片割れの声だった。
「あ〜!小エビちゃ…え?ジェイド何してんのキモ」
「フロイド…」
『ふ、フロイドせんぱあああああ』
今までに見たこともない距離感で二人が喋っているので、どう言う風の吹きまわしだと眉を顰めたフロイドは、それでも何かを感じ取ったらしく。
「え…まさか小エビちゃん、ジェイドと…?」
『え?…ジェイド先輩?まさか、言ってないんですか?』
「おや?言いませんでしたっけ?」
「言ってねーし!!!!え?俺めっちゃアシストしたつもりだったけど!?そういうの言って!?すぐ言って!!」
『フロイド先輩、ごめんなさい、あの、わたし、恥ずかしくって…』
「いいの!小エビちゃんはいいの!ぜんっぜん悪くねーから!悪いのはこっちだから!!ジェイドマジでほんとお前そういうとこ!」
「というわけですから、もうユウさんに抱き着いたりしないでくださいねフロイド」
「ねぇ~~~~~~マジでたんま!いつから呼び捨てだし?!俺に指図するし?!やだよ!?小エビちゃんはこれまで通り抱きしめるし!」
『ゎ!フロイド先輩、今日、つよい、ちから、』
「フロイド。いい加減にしないといつぶり以来の兄弟喧嘩ですよ」
「ガチトーンかよ」
なんとも大変なことになってしまった。でも、前のようにこんな風に楽しい時間を過ごせることが、何よりも嬉しいとユウは思う。
心地よい空気にふわふわと笑っていると、ズイと、ジェイドの前に身体を押し出されてしまった。
「小エビちゃんもなんか言ってやってよ!」
『え』
「貴女も何か僕に言いたいことがおありですか。貴女の意見なら甘んじて受け入れる可能性もありますが、場合によっては、です。」
『あ、ぇ、と…その…』
しどろもどろ。こういう場合はどうしたらよいだろうかと脳が忙しく回転した結果、ユウの頭に1つのいい案が思い浮かぶ。
意を決して、ジェイドに視線を合わせたユウは、少し頬を染めながら言う。
『ジェイド』
「は」
『ジェイド…っさん…は!もっと、私のことを信用して!』
「…」
『私が好きなのはジェイドさんだから、例えフロイド先輩がハグ魔でも、心配することは何もないです!』
「…あの…ちょっと」
片手で顔を覆ったジェイドの耳は少しずつ赤く染まっていった。
「小エビちゃんやるぅ…あのジェイドが恥ずかしがってらぁ」
「うるさいですよフロイド…」
「だってほんとじゃん。え?どっちがグッときちゃったの?呼び捨て?さんよび?それとも内容?」
「…全部です」
「小エビちゃんの勝ちじゃん!やった〜〜!」
フロイドとユウは顔を見合わせて、ガッツポーズを一つ。
ジト目のジェイドからは、後で覚えておいてくださいよ…、と大変な言葉がかけられた。
『ジェイドさんは、私がいなくなったらどうなっちゃうんでしょうねぇ』
「大丈夫です。貴女に何かあったら、命を代償にしても連れ戻しに行きますから」
『それは…嫌です。私だって、ここに戻ってこれるように頑張るから、一緒に暮らせる道を探しましょうね』
「貴女、強くなりましたね」
『ふふ…!それはもう、ジェイドさんから、いっぱい気持ちをもらってますから』
Sweet Dreams
魔法もお茶もなくたって、ずっと二人で、甘い夢の中。
寮の周りのライトのみならず、今宵は月も明るいようだ。
自然のほの明かりが寝室に届くなど、味わったことのない情景だった。
腕の中には愛しい人を抱いて。夢物語なんかじゃない、現実を。
絡められる腕と、そして足と。今なら、あの人魚の姫が足を切望した理由もわかる気がした。
腕だけでは心もとなくて、すり、と二本の脚でもユウの身体を挟み込む。
「いいですね…こういうのも。」
ずっと眺めていても飽きることがないだろうユウの顔を眺めながら、今日一日くらい眠らなくてもいいか、と微笑んだ。
そんな一夜が明けて、朝日が差し込んできたころ。
漸くこくりこくりと船をこぎ始めたジェイドとは対照的に、覚醒し始めたユウの心は今までにないくらいに早鐘を打っていた。
(なんで?!なんでジェイド先輩に添い寝っていうか抱きしめられてるの?!昨日は、もうこんな関係は終わりにしようと決心して、話をしたはずだったのに。そのあと、…ジェイド先輩は、私のこと…す、好!?!??!)
嘘か誠か記憶が曖昧なのが唯一の悩みではあるが、その言葉は、確かに自分に対して放たれたはずだと、ユウの頭は沸騰する。
だってあのジェイドが、あんなに人を一定の距離から近づけないジェイドが。
自分なんかに心を許したばかりか、この距離で眠っているのだ。
普段は切れ長に開いているオッドアイは、今はゆるく閉じられている。
『私で…いいんですか…?』
(これが現実なら、泣き出しそう。幸せすぎると人は涙を流すのね。)
と思いながら、滑らかな肌に無意識に伸ばした指。
あと数ミリで触れようとするところでその指を、キュ、ジェイドが捉えた。
『!』
「ユウさん、大胆ですね…夜這いですか?」
『な?!』
ジェイドはそのまま、ユウの指先に唇を寄せ、キスを落とす。
手を取られているだけでも恥ずかしいのに、端正な顔立ちの想い人からさながら王子様のようなことをされては、心がもたないというものだ。
「それから、ユウさんじゃなかったら、こんなことしませんよ。」
見慣れたはずのその顔なのに、滲み出る表情はこれまでに見たことがないほど柔らかく、ユウは、嫌が応にもこれがジェイドの本心なんだなと思い知り、瞳を潤ませた。が。
『っ、あ、の…ちか、い…ですっ!』
「?そうですか?」
『そう、ですっ!!と言うか、こ、こんな、一緒に、寝るとか、ダメ、ですしっ』
「どうしてですか?僕たち両思いでしょう?問題ありません」
『んな!?なんでそういう発想に飛ぶんですか!!』
「たかが添い寝ですよ、こんなことでは孕みません」
『〜っ!!』
恥ずかしさから、捉われていない方の手で一生懸命にジェイドの身体を押しても、一向に動く気配はない。
抵抗もむなしく、逆に、ユウの身体は布団に縫い付けられてしまった。
『ちょ…!』
「いけないですね。貴女が煽ったんですよ?添い寝だけで済まそうと思ったのですが…」
『だだだだだだめ!!ダメです!そんな、昨日の今日で、そんな、っ、ジェイド先輩は、私の身体が目当てなんですか!?』
「そんなわけないでしょう。心外ですね。」
『ならダメです!!こんな、破廉恥です!!先輩の変態!!』
「ふ…っふふっ…」
『…!っ!!ジェイド先輩のバカッ!』
必死にバタバタと足を動かしても意味をなさなかったが、自分の上から、楽しそうに笑うジェイドの声が漏れてきて、遊ばれたことに気づいたユウ。
これ以上ないほどに赤くなったその顔は、次の瞬間、ジェイドによって捉えられた。
「あんまり、暴れないでください?お口にチャック、という言葉くらい、貴女の国にもあるでしょう」
『だってっ、ジェ、ン、ぅ?!』
「ん」
ユウの声は、ジェイドの咥内に飲み込まれた。
口づけされたのか、食まれたのか。
目が回るように次々と信じられないことが起こる。本当に身が持たない。
ユウの抵抗むなしく、唇を貪られること、何秒だったろうか。
キスなんて初めてで息の吸い方もわからないのに、吸って、舐められて、ぴちゃクチャと、咥内を荒らされて、もうダメだ死んでしまうと思った頃に、漸く離された。
だらしなく、はぁはぁと喘ぐことしかできないユウの唇を最後にペロリと舐めて、これ見よがしに自分の唇の拭ったジェイドは、にや、と笑って言う。
『ぁ、ふ、ぅは…』
「ふ…言動には気をつけてくださいね?」
『ぅ…』
「ふふ。朝からこんなこと、新婚夫婦みたいですね」
極め付けに、綺麗な笑顔を貼り付けて言う言葉がそんなものだから、反則だとユウは思う。
勢いづいたジェイドを見ながら、少しでも隙を見せたことを後悔したのにも関わらず、またいらないことを口にしてしまった。
『っこう言うのは…フロイド先輩のが得意そうなのに…ジェイド先輩が、こんなっ…ふぅ…っ』
「…フロイドの話はいいです」
『ふぇ?』
「貴女の口から、他の男の名前が出るのは、なんだか不愉快です」
せっかく離れた身体がまたのし掛かったと思えば、首筋に、チリ、と痛みが一つ。
『いっ、』
さらりとシーグリーンの髪が目の端に揺れ、次の瞬間には離れたが、この痛みはなんとなしに嫌な予感を与えた。
「あぁ、これでは制服を着た時に見えてしまいますね」
『!!っ!ジェイドせんぱいっ!?今!』
「僕のものには印をつけておきませんと。双子といえども、共有できないものもありますからね」
『だからってこんな!』
「今度はこんなものじゃすみませんよ?よく心に留めておいてくださいね。」
『、ひ、ひゃい…!』
じとっと睨まれて、返事を返せば、よろしい。と微笑まれたのはいいが、先ほど痛みを感じた首筋を、今度はちゅぅとわざとらしくリップノイズ付きで吸われてブルブルと身体を震わせてしまう。
『…こんなのずるい…!』
「ズルくて結構です。何事も先手必勝ですよ。」
『悔しいくらいにかっこいい…!』
「お褒めに預かり光栄です。…さ、じゃれ合いはこの辺で終わりです。でないと…」
『?』
何の用意もしていないのに、続きまでしてしまいそうになりますからね。
との言葉はジェイドの胸の内にしか響かなかったが、近い将来、きっと起こるだろう。
「しっかりしておきますからね」
『何をですか』
「お任せくださいね」
『??』
純粋そうなこの子をこの腕に抱いて潰してしまわないように、慎重に。
名残惜しいと思いつつも、ベッドから出たジェイドは背中ざまに語りかける。
「おいしくいただきますよ」
『?朝ごはんですか?』
「えぇ、まぁ、そんなところです」
耳飾りを付け直して、ユウを振り返ると。
『夜ご飯だけでなくて、朝ご飯も一緒に摂れるなんて、』
「!」
『幸せですね』
ほわと、とろけるように笑ったユウは、今まで見たどの笑顔よりも素敵な表情をしていて、思わずもう一度抱きしめてキスをしてしまったのは、言うまでもないだろう。
さて、そんな風にして晴れてお付き合いを始めた二人であったが、気持ちが通じた途端に愛情表現が激しくなったジェイドの近くには迂闊に寄ることができず、ユウは学園内では相変わらずジェイドを避けていた。
そのため、グリム以外の誰もが、ジェイドとユウの関係を知らないまま、普段通りの時を過ごしていた。
ただし、付き合っているのに彼女に近づけないどころかほとんど顔も合わせることがない時間を、ジェイドが許すわけがなく。
それから暫く経ったころ、根負けしたユウはモストロ・ラウンジを久しぶりに訪れていた。
スゥ、と一息吸って、よし!と気合も十分、ラウンジの入り口を覗き込もうとすれば。
「ユウさん!!」
『!?』
中にいるはずのジェイドに、思いもよらず背後から声をかけられたせいで、さながら小エビのように跳ね上がったユウは、声にならない声をあげて、後ろを振り返る。
満面の笑みを浮かべたジェイドに、びくりとしてしまうのも無理はなかった。
ジェイドはその両手でユウの頬を優しく包み込んで、うっとりと眺める。
「会いたかったですよ。どうして毎日来てくださらないんです?」
『だ、だから、言ってる、じゃないですか…っお金、が』
「賄いならいくらでも無料で出しますし、何なら僕の部屋にいてくれたら」
『そ、なこと、他の方に、示しが、』
「僕は副寮長ですからそんなことくらい」
他愛もない話をしながらも、だんだんと近づいてくる端正な顔に、公共の場でそんなやめて!と叫ぶこともできず、軽くパニックに陥ったユウを救ったのは、他でもない彼の片割れの声だった。
「あ〜!小エビちゃ…え?ジェイド何してんのキモ」
「フロイド…」
『ふ、フロイドせんぱあああああ』
今までに見たこともない距離感で二人が喋っているので、どう言う風の吹きまわしだと眉を顰めたフロイドは、それでも何かを感じ取ったらしく。
「え…まさか小エビちゃん、ジェイドと…?」
『え?…ジェイド先輩?まさか、言ってないんですか?』
「おや?言いませんでしたっけ?」
「言ってねーし!!!!え?俺めっちゃアシストしたつもりだったけど!?そういうの言って!?すぐ言って!!」
『フロイド先輩、ごめんなさい、あの、わたし、恥ずかしくって…』
「いいの!小エビちゃんはいいの!ぜんっぜん悪くねーから!悪いのはこっちだから!!ジェイドマジでほんとお前そういうとこ!」
「というわけですから、もうユウさんに抱き着いたりしないでくださいねフロイド」
「ねぇ~~~~~~マジでたんま!いつから呼び捨てだし?!俺に指図するし?!やだよ!?小エビちゃんはこれまで通り抱きしめるし!」
『ゎ!フロイド先輩、今日、つよい、ちから、』
「フロイド。いい加減にしないといつぶり以来の兄弟喧嘩ですよ」
「ガチトーンかよ」
なんとも大変なことになってしまった。でも、前のようにこんな風に楽しい時間を過ごせることが、何よりも嬉しいとユウは思う。
心地よい空気にふわふわと笑っていると、ズイと、ジェイドの前に身体を押し出されてしまった。
「小エビちゃんもなんか言ってやってよ!」
『え』
「貴女も何か僕に言いたいことがおありですか。貴女の意見なら甘んじて受け入れる可能性もありますが、場合によっては、です。」
『あ、ぇ、と…その…』
しどろもどろ。こういう場合はどうしたらよいだろうかと脳が忙しく回転した結果、ユウの頭に1つのいい案が思い浮かぶ。
意を決して、ジェイドに視線を合わせたユウは、少し頬を染めながら言う。
『ジェイド』
「は」
『ジェイド…っさん…は!もっと、私のことを信用して!』
「…」
『私が好きなのはジェイドさんだから、例えフロイド先輩がハグ魔でも、心配することは何もないです!』
「…あの…ちょっと」
片手で顔を覆ったジェイドの耳は少しずつ赤く染まっていった。
「小エビちゃんやるぅ…あのジェイドが恥ずかしがってらぁ」
「うるさいですよフロイド…」
「だってほんとじゃん。え?どっちがグッときちゃったの?呼び捨て?さんよび?それとも内容?」
「…全部です」
「小エビちゃんの勝ちじゃん!やった〜〜!」
フロイドとユウは顔を見合わせて、ガッツポーズを一つ。
ジト目のジェイドからは、後で覚えておいてくださいよ…、と大変な言葉がかけられた。
『ジェイドさんは、私がいなくなったらどうなっちゃうんでしょうねぇ』
「大丈夫です。貴女に何かあったら、命を代償にしても連れ戻しに行きますから」
『それは…嫌です。私だって、ここに戻ってこれるように頑張るから、一緒に暮らせる道を探しましょうね』
「貴女、強くなりましたね」
『ふふ…!それはもう、ジェイドさんから、いっぱい気持ちをもらってますから』
Sweet Dreams
魔法もお茶もなくたって、ずっと二人で、甘い夢の中。
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