Sweet Dreams
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もはや勝手知ったるオンボロ寮。
最近では入口でユウさんを待つこともなく、直接厨房までお邪魔するようになっていた。
「こんばんは、ユウさん」
『あ、ジェイド先輩!いらっしゃい!』
下ごしらえでもしてくれていたのだろうか。
すでにエプロンを纏ってキッチンに向かっていたユウさんが振り向きざまにそんなことを言うものだから、柄にもなく胸が躍った。
普段から思ったことが顔に出にくい性質でよかった、と思う。
出かける前にフロイドが変なことを言うから、どうにもむず痒い。
「わからない」なんて本当は嘘だ。「教えて欲しい」なんておこがましい。
きっと僕はこの気持ちの名前をとうの昔に知っている。
ただ、踏み込まないようにしていただけだったのだ。
「ユウさん」
『はい?』
「……いえ…その、今日は何を教えてくださるんですか?」
『あ、それなんですけど、今日のは、実はもうできてるんです!炊き込みご飯って言うんですけど』
ユウさんの声は、聞こえているのに頭に入ってこない。
モストロ・ラウンジでもお昼にオニギリ弁当みたいなものなら売れるかもしれませんね。
などと、この間話していたから、きっと今日のレシピは役に立つはずなのに。
だめだ。
ユウさんの動きが可愛い。声が耳をくすぐる。小さな背中が愛おしい。
こっちを向いて。顔を見せて。その目に僕を映して。
カタン
調理台に手をついて、ユウさんを後ろから囲う。
突然のことに、え?、と小さい声をあげて、ユウさんが僕を振り返った。
『ジェイド、先輩?』
「……、僕、貴女に言わなければならないことがあって、そのー」
「おーい!ユウ!俺の分はできたんだゾ!?」
『「!!」』
タイミングが良いのか悪いのか、厨房に飛び込んできたグリムさんの声でハッと我に返って、ユウさんから一歩距離を取る。
『ぐ、りむ、』
「なんだゾ?俺様のツナ缶を一個使ってまで作ったご飯、早く食べたいんだゾ!」
「今日は、グリムさんもいらしたのですね」
「げ…また来たんだゾ…」
「酷い言い草ですねぇ。こんばんは。ユウさん、今日はすでに出来上がっているとのことなので、僕は先に談話室に行っていますね。作り方などは食べながら伺います。」
『あっ、はい、そうですね…!』
「さ、グリムさん、僕たちは配膳をしましょう」
「!?なんで俺様がお前と一緒にやらないといけないんだゾ?!」
ワタワタと手足を振り回すグリムさんの首根っこを掴んで、部屋を移動する。
(危なかった、突然何をしようとしているんだ)
と自分の行動を叱咤しながら。
気を取り直して食事を終えて、しばし復習という名の歓談。
自分の行動のせいではあるが、普段よりもギクシャクした空気がいたたまれない。
今日はグリムさんがいて良かったと、思ったのも束の間、食べるだけ食べたら眠くなったのか、ユウさんの膝の上でこくりこくりとし始めた。
そういえば、今日はとっておきのものを持ってきたのだったと、話のネタにそれを取り出した。
「そうでした。今日はプレゼントがあるんですよ。」
『プレゼント?』
「はい。前からよく眠れないと仰っていたでしょう。なので、リラックス効果の高いお茶をブレンドしてみたんです。」
『え、ジェイド先輩がですか?』
「僕はお茶には少々こだわりを持っていまして。」
持ってきた紙袋から、茶葉の入った缶を取り出して手渡すと、キラキラした目でそれに夢中になったユウさん。
ありがとうございます、こんなものいただいちゃっていいのかな、でも嬉しいです、などと、ありとあらゆる言葉を尽くして想いを伝えてくれた。
僕は何も伝えられていないのに。
「せっかくですから、僕が淹れて差し上げましょう。」
『いいんですか?!』
「もちろんですよ。今日もたくさんお世話になりましたから。」
そうして席を立って一息。厨房で一人反省会が始まった。
この場にフロイドがいたら笑われそうなくらい、今日の僕は酷い気がする。
「もう少しまともに口が回ったはずですが、重要な時にいい言葉が出てこないとは…こんな一面、新発見ですね…」
今はそんなことを考えている場合ではないのだが。
茶葉を蒸らし終え、ティーカップを温めて談話室に戻れば、グリムさんとユウさん、二人の話し声が聞こえたため、その場で立ち止まった。
「なぁ、ジェイドのこと、どうするんだゾ…」
『うん』
「俺様、アイツが何をしたいのかわからないんだゾ。この間たまたま見たんだゾ。玄関前で、アイツがユウに魔法をかけてるところ」
『…うん』
「すぐにユウが眠っちまって、俺様驚いたんだゾ。本当にそのまま眠ってるだけみたいだったから、強くは言わなかったんだゾ…」
『知ってる。ありがとね、グリム、気を遣って、黙っててくれて。』
「どうしてそんなことになっているのか、俺様は知らないけど…、お前は大丈夫なんだゾ?あんなに関わりたくないって言ってたのに…」
『…ねぇグリム…なんで、忘れたいと思うと、もっと好きになっちゃうのかな』
「なんでって…俺様は人間の気持ちはよくわからないんだゾ。」
『ジェイド先輩の気持ちがわからないの。…もう…疲れちゃった。」
「でも俺様、子分には、楽しい顔をしていて欲しいんだゾ…。」
『グリムは優しいね…ありがと』
「ふな…。俺様はもう寝るんだゾ。ジェイドと二人で話ができるといいんだゾ…」
僕には見せないその一面に、胸の奥がズキズキとする。
知っていて、言わなかっただけだったのかと驚いた。
僕が自分の都合の良いように事を運ぶよう、弄んだせいでユウさんを傷つけて。
だけれど。本当に自分勝手だけれど。
それでも、やっと向き合ったこの気持ちを無かったことにはできそうにないから。
グリムさんと入れ違いで談話室に戻って、何も聞かなかったかのような顔でお茶を差し出した。
談話室のソファーは、オンボロ寮という名にふさわしくないほど座り心地が良い。
「おや、グリムさんは」
『グリムは先に寝るそうです。いつもお腹がいっぱいになるとすぐ寝ちゃうので』
「そうだったんですね。」
『…お茶、いただきますね。あ、いい香り』
「えぇ、カモミールを中心にパッションフラワーなどをブレンドしたハーブティーです。香りだけでなく、効能もあると思いますよ。」
『こっちの世界にもハーブっていう概念があるんですね』
「すると元の世界でも?」
『ですね。自然の力とでもいうか…ハーブティーや漢方薬は、体に負担をかけないという意味で割とよく飲んでまして』
「元の世界にもあったならば、身体への影響も少なさそうですね」
『そうですね、魔法よりは安心かも』
そんな言葉を口にしてから、しまった、とバツの悪そうな顔をする。
ここでそれを問い詰めても怖がらせてしまうだけだろうと、次の言葉を待った。
『…あの、ジェイド先輩』
「はい」
『先輩は、前に私に、引き続き僕を楽しませてくださいねっ…て言ってくれたの、覚えていますか』
「…言いましたね」
『その…私は、今もジェイド先輩を楽しませているから、こうやって会ってくださるんですか?』
「…」
『ジェイド先輩は、私の気持ちを知っていて、でも別にそれ自体は関係なくて…自分の好奇心のためだけで、こうして会ってくれているんですよね?モストロ・ラウンジの…ううん。アズール先輩と、フロイド先輩のためにも』
やっぱりまだその事を引きずられていたかと、後悔しても過去は変わらない。
「その件なんですが、僕はユウさんに謝らなければならないことがあるんです」
『…謝る?』
「はい。これまで、散々貴女に対して酷い言葉を投げかけてきたことを」
スゥ、と息を一つ吸って、ユウさんのほうに目を向ける。
「確かに始めは、僕らが知りえない事を教えてくれたり次々と問題を起こす貴女が’面白くて’、傍に置いていました」
『…ですよね』
「でも、今は違うんです。というか、おそらく最初から、違っていたんです」
『えっ…と…?』
「恥ずかしながら、自分の気持ちというのには、どうにも疎いようで」
『きも、ち…、』
目をパチパチとしばたたかせながら、ユウさんは僕の言葉を繰り返した。
「はい。僕は、ユウさんが面白いから傍に置いていたのではなくて、僕は、貴女のことが気になっていて、最初から、貴女のことを好きだったのです」
『?!』
「これまで散々はぐらかして来たこと、謝らなければと。申し訳ありませんでした。そして改めて、僕の気持ちを伝えさせて欲しいんです」
『、え、あの、そんな、うそ…。』
「悩ませてしまって、ごめんなさい。」
ユウさんの膝の上に揃えられた小さな手を取って、握る。
なおも信じられないというように、しきりにパチパチとする目が少し潤んで可愛さに色香が滲んだ。
「僕も貴女が好きですよ。ユウさん。」
『…そ、ん、な…都合が、いいことって…』
「そうでしょうか?貴女もずいぶん物好きですよ。僕みたいな面倒な男に引っかかるんですから」
ふふ、と笑えば、トロンとした顔が返ってきて、それに引き寄せられるように唇を寄せようとした時だった。
『あ、れ…おかし…な…あの、ごめ、なさ…先輩、わた し ちょ と 眠、く、』
「あ」
そのままストンと前のめりに、僕に突っ込んできた身体を抱きとめて、しまったと独り言ちた。
「まさかこんなにも効き目があるなんて…残念なことをしました」
ローテーブルの上に置かれたティーカップを見て、僕は一人、苦笑を漏らす。
あの表情は、お茶のせいでもあったのだ。
彼女に飲ませたそれは、ハーブティーと言えば聞こえが良いものの、こちらで使われる睡眠導入の薬草を少しだけ煎じた茶葉だった。
一度、ひっそりフロイドに飲ませて効果を確認したが、フロイドにはそこまで効かなかったようだったので、このくらいで良いだろうとそのまま持って来たのだが、人間には効き目が強かったようだ。
「これは、もう少し分量の調整が必要ですねぇ」
今後も一番いいところで寝落ちされてはたまったものではありませんから、との言葉はユウさんには届いていないだろう。
そのままいつものようにユウさんの自室に運んでベッドに寝かせてやったが、ふと、良いことを思いつく。
「効果がどの程度持続するかは、やはり近くで観察しておく必要がありますからね」
耳飾りを外して、サイドテーブルに置かせてもらい、そのままユウさんの横に潜り込んだ僕は、ユウさんを胸に抱いて添い寝を決め込んだ。
「気持ちは伝えましたし、これはもう両思いというものです。お預けをくらったのですからこのくらいしても良いでしょう」
おそらく今日は、それはもうぐっすり眠れますよ。
空をすべった流れ星には、もう願う必要もないだろう。
この恋を叶えられるのは、自分自身でしかないのだから。
最近では入口でユウさんを待つこともなく、直接厨房までお邪魔するようになっていた。
「こんばんは、ユウさん」
『あ、ジェイド先輩!いらっしゃい!』
下ごしらえでもしてくれていたのだろうか。
すでにエプロンを纏ってキッチンに向かっていたユウさんが振り向きざまにそんなことを言うものだから、柄にもなく胸が躍った。
普段から思ったことが顔に出にくい性質でよかった、と思う。
出かける前にフロイドが変なことを言うから、どうにもむず痒い。
「わからない」なんて本当は嘘だ。「教えて欲しい」なんておこがましい。
きっと僕はこの気持ちの名前をとうの昔に知っている。
ただ、踏み込まないようにしていただけだったのだ。
「ユウさん」
『はい?』
「……いえ…その、今日は何を教えてくださるんですか?」
『あ、それなんですけど、今日のは、実はもうできてるんです!炊き込みご飯って言うんですけど』
ユウさんの声は、聞こえているのに頭に入ってこない。
モストロ・ラウンジでもお昼にオニギリ弁当みたいなものなら売れるかもしれませんね。
などと、この間話していたから、きっと今日のレシピは役に立つはずなのに。
だめだ。
ユウさんの動きが可愛い。声が耳をくすぐる。小さな背中が愛おしい。
こっちを向いて。顔を見せて。その目に僕を映して。
カタン
調理台に手をついて、ユウさんを後ろから囲う。
突然のことに、え?、と小さい声をあげて、ユウさんが僕を振り返った。
『ジェイド、先輩?』
「……、僕、貴女に言わなければならないことがあって、そのー」
「おーい!ユウ!俺の分はできたんだゾ!?」
『「!!」』
タイミングが良いのか悪いのか、厨房に飛び込んできたグリムさんの声でハッと我に返って、ユウさんから一歩距離を取る。
『ぐ、りむ、』
「なんだゾ?俺様のツナ缶を一個使ってまで作ったご飯、早く食べたいんだゾ!」
「今日は、グリムさんもいらしたのですね」
「げ…また来たんだゾ…」
「酷い言い草ですねぇ。こんばんは。ユウさん、今日はすでに出来上がっているとのことなので、僕は先に談話室に行っていますね。作り方などは食べながら伺います。」
『あっ、はい、そうですね…!』
「さ、グリムさん、僕たちは配膳をしましょう」
「!?なんで俺様がお前と一緒にやらないといけないんだゾ?!」
ワタワタと手足を振り回すグリムさんの首根っこを掴んで、部屋を移動する。
(危なかった、突然何をしようとしているんだ)
と自分の行動を叱咤しながら。
気を取り直して食事を終えて、しばし復習という名の歓談。
自分の行動のせいではあるが、普段よりもギクシャクした空気がいたたまれない。
今日はグリムさんがいて良かったと、思ったのも束の間、食べるだけ食べたら眠くなったのか、ユウさんの膝の上でこくりこくりとし始めた。
そういえば、今日はとっておきのものを持ってきたのだったと、話のネタにそれを取り出した。
「そうでした。今日はプレゼントがあるんですよ。」
『プレゼント?』
「はい。前からよく眠れないと仰っていたでしょう。なので、リラックス効果の高いお茶をブレンドしてみたんです。」
『え、ジェイド先輩がですか?』
「僕はお茶には少々こだわりを持っていまして。」
持ってきた紙袋から、茶葉の入った缶を取り出して手渡すと、キラキラした目でそれに夢中になったユウさん。
ありがとうございます、こんなものいただいちゃっていいのかな、でも嬉しいです、などと、ありとあらゆる言葉を尽くして想いを伝えてくれた。
僕は何も伝えられていないのに。
「せっかくですから、僕が淹れて差し上げましょう。」
『いいんですか?!』
「もちろんですよ。今日もたくさんお世話になりましたから。」
そうして席を立って一息。厨房で一人反省会が始まった。
この場にフロイドがいたら笑われそうなくらい、今日の僕は酷い気がする。
「もう少しまともに口が回ったはずですが、重要な時にいい言葉が出てこないとは…こんな一面、新発見ですね…」
今はそんなことを考えている場合ではないのだが。
茶葉を蒸らし終え、ティーカップを温めて談話室に戻れば、グリムさんとユウさん、二人の話し声が聞こえたため、その場で立ち止まった。
「なぁ、ジェイドのこと、どうするんだゾ…」
『うん』
「俺様、アイツが何をしたいのかわからないんだゾ。この間たまたま見たんだゾ。玄関前で、アイツがユウに魔法をかけてるところ」
『…うん』
「すぐにユウが眠っちまって、俺様驚いたんだゾ。本当にそのまま眠ってるだけみたいだったから、強くは言わなかったんだゾ…」
『知ってる。ありがとね、グリム、気を遣って、黙っててくれて。』
「どうしてそんなことになっているのか、俺様は知らないけど…、お前は大丈夫なんだゾ?あんなに関わりたくないって言ってたのに…」
『…ねぇグリム…なんで、忘れたいと思うと、もっと好きになっちゃうのかな』
「なんでって…俺様は人間の気持ちはよくわからないんだゾ。」
『ジェイド先輩の気持ちがわからないの。…もう…疲れちゃった。」
「でも俺様、子分には、楽しい顔をしていて欲しいんだゾ…。」
『グリムは優しいね…ありがと』
「ふな…。俺様はもう寝るんだゾ。ジェイドと二人で話ができるといいんだゾ…」
僕には見せないその一面に、胸の奥がズキズキとする。
知っていて、言わなかっただけだったのかと驚いた。
僕が自分の都合の良いように事を運ぶよう、弄んだせいでユウさんを傷つけて。
だけれど。本当に自分勝手だけれど。
それでも、やっと向き合ったこの気持ちを無かったことにはできそうにないから。
グリムさんと入れ違いで談話室に戻って、何も聞かなかったかのような顔でお茶を差し出した。
談話室のソファーは、オンボロ寮という名にふさわしくないほど座り心地が良い。
「おや、グリムさんは」
『グリムは先に寝るそうです。いつもお腹がいっぱいになるとすぐ寝ちゃうので』
「そうだったんですね。」
『…お茶、いただきますね。あ、いい香り』
「えぇ、カモミールを中心にパッションフラワーなどをブレンドしたハーブティーです。香りだけでなく、効能もあると思いますよ。」
『こっちの世界にもハーブっていう概念があるんですね』
「すると元の世界でも?」
『ですね。自然の力とでもいうか…ハーブティーや漢方薬は、体に負担をかけないという意味で割とよく飲んでまして』
「元の世界にもあったならば、身体への影響も少なさそうですね」
『そうですね、魔法よりは安心かも』
そんな言葉を口にしてから、しまった、とバツの悪そうな顔をする。
ここでそれを問い詰めても怖がらせてしまうだけだろうと、次の言葉を待った。
『…あの、ジェイド先輩』
「はい」
『先輩は、前に私に、引き続き僕を楽しませてくださいねっ…て言ってくれたの、覚えていますか』
「…言いましたね」
『その…私は、今もジェイド先輩を楽しませているから、こうやって会ってくださるんですか?』
「…」
『ジェイド先輩は、私の気持ちを知っていて、でも別にそれ自体は関係なくて…自分の好奇心のためだけで、こうして会ってくれているんですよね?モストロ・ラウンジの…ううん。アズール先輩と、フロイド先輩のためにも』
やっぱりまだその事を引きずられていたかと、後悔しても過去は変わらない。
「その件なんですが、僕はユウさんに謝らなければならないことがあるんです」
『…謝る?』
「はい。これまで、散々貴女に対して酷い言葉を投げかけてきたことを」
スゥ、と息を一つ吸って、ユウさんのほうに目を向ける。
「確かに始めは、僕らが知りえない事を教えてくれたり次々と問題を起こす貴女が’面白くて’、傍に置いていました」
『…ですよね』
「でも、今は違うんです。というか、おそらく最初から、違っていたんです」
『えっ…と…?』
「恥ずかしながら、自分の気持ちというのには、どうにも疎いようで」
『きも、ち…、』
目をパチパチとしばたたかせながら、ユウさんは僕の言葉を繰り返した。
「はい。僕は、ユウさんが面白いから傍に置いていたのではなくて、僕は、貴女のことが気になっていて、最初から、貴女のことを好きだったのです」
『?!』
「これまで散々はぐらかして来たこと、謝らなければと。申し訳ありませんでした。そして改めて、僕の気持ちを伝えさせて欲しいんです」
『、え、あの、そんな、うそ…。』
「悩ませてしまって、ごめんなさい。」
ユウさんの膝の上に揃えられた小さな手を取って、握る。
なおも信じられないというように、しきりにパチパチとする目が少し潤んで可愛さに色香が滲んだ。
「僕も貴女が好きですよ。ユウさん。」
『…そ、ん、な…都合が、いいことって…』
「そうでしょうか?貴女もずいぶん物好きですよ。僕みたいな面倒な男に引っかかるんですから」
ふふ、と笑えば、トロンとした顔が返ってきて、それに引き寄せられるように唇を寄せようとした時だった。
『あ、れ…おかし…な…あの、ごめ、なさ…先輩、わた し ちょ と 眠、く、』
「あ」
そのままストンと前のめりに、僕に突っ込んできた身体を抱きとめて、しまったと独り言ちた。
「まさかこんなにも効き目があるなんて…残念なことをしました」
ローテーブルの上に置かれたティーカップを見て、僕は一人、苦笑を漏らす。
あの表情は、お茶のせいでもあったのだ。
彼女に飲ませたそれは、ハーブティーと言えば聞こえが良いものの、こちらで使われる睡眠導入の薬草を少しだけ煎じた茶葉だった。
一度、ひっそりフロイドに飲ませて効果を確認したが、フロイドにはそこまで効かなかったようだったので、このくらいで良いだろうとそのまま持って来たのだが、人間には効き目が強かったようだ。
「これは、もう少し分量の調整が必要ですねぇ」
今後も一番いいところで寝落ちされてはたまったものではありませんから、との言葉はユウさんには届いていないだろう。
そのままいつものようにユウさんの自室に運んでベッドに寝かせてやったが、ふと、良いことを思いつく。
「効果がどの程度持続するかは、やはり近くで観察しておく必要がありますからね」
耳飾りを外して、サイドテーブルに置かせてもらい、そのままユウさんの横に潜り込んだ僕は、ユウさんを胸に抱いて添い寝を決め込んだ。
「気持ちは伝えましたし、これはもう両思いというものです。お預けをくらったのですからこのくらいしても良いでしょう」
おそらく今日は、それはもうぐっすり眠れますよ。
空をすべった流れ星には、もう願う必要もないだろう。
この恋を叶えられるのは、自分自身でしかないのだから。