Sweet Dreams
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金曜日。モストロ・ラウンジの開店前。
なんだかんだと先延ばしにしていた連絡を、ユウさんに入れた。
【明日の夜、伺いますね】
明日なんて突然だったろうか。と思わなくもないが、なんでもない文章を一つ送るのに躊躇していたことは事実だ。
そもそも、仕事以外の用事で、知り合いにメッセージを送る経験が極端に少なかったこともあって、どんな調子で送ればよいのかがわからなかった。
「話す」ことは得意だが、それは相手の仕草や声のトーン、目線の動きなどから、思考がある程度読めるという点で僕を安心させるからだ。
文章のやり取りでは、読み取れる事柄が極端に制限されるため、好きではなかった。
読み返してみると、あまりにも簡素だったかもしれない、と反省もしたが、そのあとすぐに【わかりました。準備しておきますね。】と返ってきたメッセージを見て、ほっとする。
『本当に連絡してきた…どうしよう…』
などと、ユウが困っていたことは知らずに。
それからは、週末に一度、それからシフトが空いた時に一度の週二回程度オンボロ寮にお邪魔しては、ユウさんの故郷の料理を色々と教わる日が続いた。調味料からして異なるその国の料理は、主食から菓子類まであらゆる部分で僕の常識を覆し、その度に好奇心を刺激した。
時刻が遅いということもあるのだろうが、この穏やかな時間はとても心地よく、また、次第に警戒心も解けたらしいユウさんが時折笑ってくれることが僕の心を満たした。
そして、お礼と言うにはあまりにも簡単ではあったが、帰り際には催眠魔法をかけ、週に二度の安眠をプレゼントしておいた。ただ、本来であれば毎日きちんと眠れた方が身体への負担は少なくなるだろう、と、同時進行で他の方法も探っていた。
そんな風にして緩やかに続いていたこの秘密の逢瀬だったが、それからしばらく経ったある日、フロイドが僕を引き留めたことがきっかけとなり、変わることになる。
「ジェイド、今日もどっかいくの」
「はい。少し用事が。」
「ふーん?きのこ狩でもいってんの?俺も行っていい?」
「おや。山なんか行くわけねぇ、と言っていたのはどこの誰です?」
「…はぐらかさなくてもよくねぇ?今日は山じゃないでしょ。服装がそうじゃないもんね…小エビちゃんのとこ?」
「…フロイドも人が悪い。わかってるなら聞かないでくださいよ」
付いてくるな、と暗に牽制すると、フロイドはニタァと笑った。
「ウツボって通い婚だもんねぇ」
「僕たちはウツボの人魚であってウツボじゃないのでその風習はないでしょう」
「でも、ジェイド、現に通い婚やってんじゃん」
「そんなのじゃありませんよ。これは…新メニューのために」
「いい加減にしなよジェイド」
突然、真顔になったフロイドは、それからため息を一つ吐いて言った。
「俺言ったよね。ジェイドのことは好きだけど小エビちゃんのことも好きなんだよねって」
「えぇ、覚えていますよ」
「じゃあさぁ、小エビちゃんとこれからも一緒にいたいならハッキリしてあげなよ。小エビちゃんが未だに悩んでんの知らねぇとは言わせねぇ。」
「…」
「それだけ」
ふぃ、と踵を返して、寮の奥へと消えていったフロイドの背中を見ながら、僕は自嘲するような薄笑いをした。
「フロイドにあそこまで言われたのはいつぶりでしょうね」
ユウさんがこの状況をどう捉えたらいいのか困っていることはわかってはいたが、面と向かって断られないのをいいことに甘えていたのは事実だ。
そして、こうして「二人」でいる時間が増えたことで、次第に自分の気持ちにも整理がついてきたのも確かなことで。
過去に戻れるならば、以前、ユウさんに放った辛辣な言葉を取り消したいくらいの気持ちではあったが、そんなことはいくら魔法使いでもできない。真摯な対応をするしかないのだろうが、いかんせん、自分の気持ちに正直になって、自分が動いた経験が限りなく少なく、どう切り出したらよいのかがわからない状態だったのだ。
「僕もまだまだですね…」
伊達にアズールの補佐を務めてきたわけでも、フロイドの自由奔放な行動についてきたわけでもないのだけれど。
「帰りたくないと思うくらいには、想っているんですよ…」
本当に、心の移り変わりとは面白い。まさかこの僕が、自分の心変わりに戸惑うとは。
ユニーク魔法では、自分の心を曝け出すことはできないのなら。
「わからない」を「わかる」に変えられる存在に頼るのも悪くないだろうか。
(ユウさんは、まだ、僕を想ってくれていますか?)
そうして今日も、僕はオンボロ寮に足を踏み入れる。
いつもと違うことは、この気持ちと、手に持った一つのプレゼント。
ただそれだけ。
なんだかんだと先延ばしにしていた連絡を、ユウさんに入れた。
【明日の夜、伺いますね】
明日なんて突然だったろうか。と思わなくもないが、なんでもない文章を一つ送るのに躊躇していたことは事実だ。
そもそも、仕事以外の用事で、知り合いにメッセージを送る経験が極端に少なかったこともあって、どんな調子で送ればよいのかがわからなかった。
「話す」ことは得意だが、それは相手の仕草や声のトーン、目線の動きなどから、思考がある程度読めるという点で僕を安心させるからだ。
文章のやり取りでは、読み取れる事柄が極端に制限されるため、好きではなかった。
読み返してみると、あまりにも簡素だったかもしれない、と反省もしたが、そのあとすぐに【わかりました。準備しておきますね。】と返ってきたメッセージを見て、ほっとする。
『本当に連絡してきた…どうしよう…』
などと、ユウが困っていたことは知らずに。
それからは、週末に一度、それからシフトが空いた時に一度の週二回程度オンボロ寮にお邪魔しては、ユウさんの故郷の料理を色々と教わる日が続いた。調味料からして異なるその国の料理は、主食から菓子類まであらゆる部分で僕の常識を覆し、その度に好奇心を刺激した。
時刻が遅いということもあるのだろうが、この穏やかな時間はとても心地よく、また、次第に警戒心も解けたらしいユウさんが時折笑ってくれることが僕の心を満たした。
そして、お礼と言うにはあまりにも簡単ではあったが、帰り際には催眠魔法をかけ、週に二度の安眠をプレゼントしておいた。ただ、本来であれば毎日きちんと眠れた方が身体への負担は少なくなるだろう、と、同時進行で他の方法も探っていた。
そんな風にして緩やかに続いていたこの秘密の逢瀬だったが、それからしばらく経ったある日、フロイドが僕を引き留めたことがきっかけとなり、変わることになる。
「ジェイド、今日もどっかいくの」
「はい。少し用事が。」
「ふーん?きのこ狩でもいってんの?俺も行っていい?」
「おや。山なんか行くわけねぇ、と言っていたのはどこの誰です?」
「…はぐらかさなくてもよくねぇ?今日は山じゃないでしょ。服装がそうじゃないもんね…小エビちゃんのとこ?」
「…フロイドも人が悪い。わかってるなら聞かないでくださいよ」
付いてくるな、と暗に牽制すると、フロイドはニタァと笑った。
「ウツボって通い婚だもんねぇ」
「僕たちはウツボの人魚であってウツボじゃないのでその風習はないでしょう」
「でも、ジェイド、現に通い婚やってんじゃん」
「そんなのじゃありませんよ。これは…新メニューのために」
「いい加減にしなよジェイド」
突然、真顔になったフロイドは、それからため息を一つ吐いて言った。
「俺言ったよね。ジェイドのことは好きだけど小エビちゃんのことも好きなんだよねって」
「えぇ、覚えていますよ」
「じゃあさぁ、小エビちゃんとこれからも一緒にいたいならハッキリしてあげなよ。小エビちゃんが未だに悩んでんの知らねぇとは言わせねぇ。」
「…」
「それだけ」
ふぃ、と踵を返して、寮の奥へと消えていったフロイドの背中を見ながら、僕は自嘲するような薄笑いをした。
「フロイドにあそこまで言われたのはいつぶりでしょうね」
ユウさんがこの状況をどう捉えたらいいのか困っていることはわかってはいたが、面と向かって断られないのをいいことに甘えていたのは事実だ。
そして、こうして「二人」でいる時間が増えたことで、次第に自分の気持ちにも整理がついてきたのも確かなことで。
過去に戻れるならば、以前、ユウさんに放った辛辣な言葉を取り消したいくらいの気持ちではあったが、そんなことはいくら魔法使いでもできない。真摯な対応をするしかないのだろうが、いかんせん、自分の気持ちに正直になって、自分が動いた経験が限りなく少なく、どう切り出したらよいのかがわからない状態だったのだ。
「僕もまだまだですね…」
伊達にアズールの補佐を務めてきたわけでも、フロイドの自由奔放な行動についてきたわけでもないのだけれど。
「帰りたくないと思うくらいには、想っているんですよ…」
本当に、心の移り変わりとは面白い。まさかこの僕が、自分の心変わりに戸惑うとは。
ユニーク魔法では、自分の心を曝け出すことはできないのなら。
「わからない」を「わかる」に変えられる存在に頼るのも悪くないだろうか。
(ユウさんは、まだ、僕を想ってくれていますか?)
そうして今日も、僕はオンボロ寮に足を踏み入れる。
いつもと違うことは、この気持ちと、手に持った一つのプレゼント。
ただそれだけ。