Sweet Dreams
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ピピピピピ ピピピピピピ
いつも通りの朝。目覚ましが鳴り、それを止めようと必死で身体を動かす。
が、普段よりもずいぶん軽い身体に違和感を覚えた。
意識は朦朧としているが、気だるさは全くない。
そういえば、昨日はお味噌汁を作っていたら、ジェイド先輩がきてー・・・
『ん…?ジェイド先輩?』
そうだ。昨日はジェイド先輩がうちの寮でお味噌汁を食べて帰ったのだった。
でもおかしいな。見送りまでした記憶がない。
それになんで私…こんなにもぐっすり…?
「ふな~!ユウ、朝だぞ~…って、もう起きてるんだゾ?!」
『あぁ、グリム、おはよう。ねぇ、昨日私ってどうしてたのかな』
「俺様はぐっすり寝てたからわからないんだゾ。いつもみたいに遅くまで起きていたんじゃないのか?」
『それがね、昨日は夜食を作ってて…って、わ!悠長なこと言ってる場合じゃなかった!グリム、朝ごはんの準備して!遅れちゃう!』
「ふな?!朝のツナ缶が食べられないのは嫌なんだゾ!先に厨房で待ってるんだゾ!」
ものすごい勢いで出て行ったグリムに苦笑しながら、私も大急ぎで準備をする。
夜によく眠れないこともあって、割とギリギリの時間まで寝ている私は、今日も今日とて、いつもより少し余裕があるくらいで、特別早い時間なわけでもない。
準備を終えて、ご飯を食べて、身だしなみをチェック。
すぐにオンボロ寮を飛び出した。
カレッジ自体は目の前にそびえ立っているのに、なんでこんなに遠回りしなければならないのかと、森を抜け、鏡の間を通り、メインストリートを通過。
それから、カレッジの入り口をぬけ、回廊を走り抜けているところで、ふと、中庭を挟んだ向こう側に長身を発見した。
『あ』
この学園でもあれほどの長身は数えるほどしかおらず、その中でも緑色の髪といえば、ジェイド先輩かフロイド先輩しかいない。ただ、遠目でもその立ち振る舞いで、それがフロイド先輩ではなく、ジェイド先輩だと判別できるあたり、私も大概である。
昨日のことを聞きたいのだけれど、あまり会いたくない気持ちもやっぱりあって、一瞬ためらってその場に立ち尽くす。肩の上でグリムが何か言っているけれど、なぜか私の耳にはその言葉は届かなかった。
こちらを向いて。向かないで。
相反する気持ちが私の中で対立する。
時間にして5秒あったかなかったかだろうけど、世界の時が止まってしまったかのよう。
(やだな。まだこんなにも目で追って…。嫌いになるって決めたのに。)
そんな私の苦い想いにひかれるように、ふぃ、とこちらに視線を向けたジェイド先輩に、ドキリと胸が高鳴る。
パッと目をそらしたが、気づかれただろうか?
いや…この距離だ。気づくわけない。大丈夫。私はジェイド先輩ほど目立つ容姿はしていない。
変に大袈裟な動きをせずに普通にすれば大丈夫。
(よかった、この学園が広くて。あちらの回廊がかなり遠くにあって。)
と心を落ち着かせる。
時間にも割と余裕があったし、教室までもあと少し。
ここからはゆっくりいけばいいかと、急ぎ足を緩めた。
暖かい朝日が差してくる回廊を歩いていると、もうすぐ春なんだなぁ、と思う。ウインターホリデーやビーンズデーも終わり、春がきたら、その次は何があるんだろう。
じゃれあって通り過ぎていくクラスメイトたちの声。
その中にデュースとエースを見つけて、一直線にグリムが飛んで行く。
「待って、私も行く!」と声をかけようとしたとき。
パシ、と私の手首が何かに掴まれた。
咄嗟に振り返ると、そこにはジェイド先輩がいた。
『!?』
「おはようございます、ユウさん。」
『えっ?!いま、だって、ジェイド先輩、あっちに』
「ユウさんの情熱的な視線にひかれてやってきました。」
カッ!と頭に血が上って、顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。
意地悪だ。そんなこと、わざわざ言わなくてもいいのに。
『ジェイド先輩、私をからかって面白いですか…?』
「まさか。からかってなどいませんよ。ご挨拶に伺っただけです。そんなに警戒しないでください」
『…そう、ですか…。それは、すみません、でした…』
些細なことでも期待してしまう自分が嫌になる。
もう止めようと何度心に決めても、こうして一度近づかれるだけで、気持ちが変わっていないことに気づかされる。
これは自己保身のための諦めなのだから。
どうせ叶わぬ恋ならば、初めからなかったことにした方が。
誰でも自分のことは可愛いのだ。
「昨晩はよく眠れましたか?」
『え?』
「おや?昨晩のことは記憶にありませんか?」
『えっと…ジェイド先輩と味噌汁を食べたのは覚えているんですが…』
この言い方、もしかして、私は何か重要なことを忘れているのではなかろうか。
少し不安になって、おず…とジェイド先輩の方を見ると、顎に指を当てて、何かを思案している。
嫌な予感がする。こういう時のジェイド先輩は、あまりいいことを考えていないのが常だ。
怪訝な顔で見守っていると、突然その手を私の顎に持ってきて、くい、と上を向かされた。
『?!』
「なるほど」
近い!!と叫びそうになるところをすんでで抑えて硬直したが、そんな私にはお構い無し。
ジェイド先輩は、にっこりと笑みを湛えて言った。
「今日は顔色がよろしいようで何よりです」
『へ?』
「いえ、こちらの話です。そういえば、あのあと、ミソについて調べてみましたが、随分使い勝手が良い調味料なのですね」
『あ、え、…あぁ、えっと、そうですね。味噌は和風…私の故郷の料理だけでなくて、パスタなんかにも意外とよく合うので、そちら方面であれば、モストロ・ラウンジでも使えるかもしれないですね』
「はい。なので、また週末にでも、オンボロ寮にお伺いしますね」
「は?この人何言ってんだ。」という目をあまりにも自然に向けてしまってちょっと後悔。
視線の先には、どこかワクワクでキラキラした表情のジェイド先輩がいたのだから。
「ユウさんがモストロ・ラウンジに来てくださらないなら僕がオンボロ寮に行きます、と昨晩申し上げたはずですが?」
忘れたとは言わせませんよ、と脅迫まがいのにこやかな笑顔を向けられては、うなづく道しか残されていない。
コクコクコク。あらん限りの力でうなづけば、私の顔から手を離し、満足そうにして「それはよかった」と言う先輩。
そんな約束してたのね。言われてみれば、これ以上やめてください、と言えなかった自分の気持ちが、朧げにだが、思い出された。
「それから」
そこで一息ついたと思えば、ジェイド先輩はわざわざ私の耳元でこんなことを言った。
「昨晩のことは、秘密ですからね」
たったこれだけのことにドキドキしてしまうなんて。
悔しいけど、やっぱりジェイド先輩への気持ちは簡単に消せるものでもないことを自覚する。
耳をくすぐる声と、微かな残り香に軽く目眩がする。
予鈴が鳴ったと同時に、周りの喧騒が戻ってくる。
隔絶された二人の世界は、幕を閉じてしまった。
「あぁ、授業に遅れてしまいますね」
『っ…、…ですね…』
「それでは。ユウさん、また、ご連絡しますから」
『はい…』
何事もなかったかのように私とは反対方向に歩いて行ったジェイド先輩が振り向くことはなかった。
『ずるい…なんで…』
思わせぶりなことはしないで欲しかった。
忘れさせて欲しかったのに。
どうして今更こんなことになっているのか、私には全く理解ができない。
私の気持ちだけ筒抜けで、ジェイド先輩の気持ちがわからないのは不公平だ。
期待して、いいのだろうか。
それとも。
本鈴が鳴るまであと五分。
回廊のど真ん中で思考停止した私は、次の授業でトレイン先生にこってり絞られることになるかもしれない。
いつも通りの朝。目覚ましが鳴り、それを止めようと必死で身体を動かす。
が、普段よりもずいぶん軽い身体に違和感を覚えた。
意識は朦朧としているが、気だるさは全くない。
そういえば、昨日はお味噌汁を作っていたら、ジェイド先輩がきてー・・・
『ん…?ジェイド先輩?』
そうだ。昨日はジェイド先輩がうちの寮でお味噌汁を食べて帰ったのだった。
でもおかしいな。見送りまでした記憶がない。
それになんで私…こんなにもぐっすり…?
「ふな~!ユウ、朝だぞ~…って、もう起きてるんだゾ?!」
『あぁ、グリム、おはよう。ねぇ、昨日私ってどうしてたのかな』
「俺様はぐっすり寝てたからわからないんだゾ。いつもみたいに遅くまで起きていたんじゃないのか?」
『それがね、昨日は夜食を作ってて…って、わ!悠長なこと言ってる場合じゃなかった!グリム、朝ごはんの準備して!遅れちゃう!』
「ふな?!朝のツナ缶が食べられないのは嫌なんだゾ!先に厨房で待ってるんだゾ!」
ものすごい勢いで出て行ったグリムに苦笑しながら、私も大急ぎで準備をする。
夜によく眠れないこともあって、割とギリギリの時間まで寝ている私は、今日も今日とて、いつもより少し余裕があるくらいで、特別早い時間なわけでもない。
準備を終えて、ご飯を食べて、身だしなみをチェック。
すぐにオンボロ寮を飛び出した。
カレッジ自体は目の前にそびえ立っているのに、なんでこんなに遠回りしなければならないのかと、森を抜け、鏡の間を通り、メインストリートを通過。
それから、カレッジの入り口をぬけ、回廊を走り抜けているところで、ふと、中庭を挟んだ向こう側に長身を発見した。
『あ』
この学園でもあれほどの長身は数えるほどしかおらず、その中でも緑色の髪といえば、ジェイド先輩かフロイド先輩しかいない。ただ、遠目でもその立ち振る舞いで、それがフロイド先輩ではなく、ジェイド先輩だと判別できるあたり、私も大概である。
昨日のことを聞きたいのだけれど、あまり会いたくない気持ちもやっぱりあって、一瞬ためらってその場に立ち尽くす。肩の上でグリムが何か言っているけれど、なぜか私の耳にはその言葉は届かなかった。
こちらを向いて。向かないで。
相反する気持ちが私の中で対立する。
時間にして5秒あったかなかったかだろうけど、世界の時が止まってしまったかのよう。
(やだな。まだこんなにも目で追って…。嫌いになるって決めたのに。)
そんな私の苦い想いにひかれるように、ふぃ、とこちらに視線を向けたジェイド先輩に、ドキリと胸が高鳴る。
パッと目をそらしたが、気づかれただろうか?
いや…この距離だ。気づくわけない。大丈夫。私はジェイド先輩ほど目立つ容姿はしていない。
変に大袈裟な動きをせずに普通にすれば大丈夫。
(よかった、この学園が広くて。あちらの回廊がかなり遠くにあって。)
と心を落ち着かせる。
時間にも割と余裕があったし、教室までもあと少し。
ここからはゆっくりいけばいいかと、急ぎ足を緩めた。
暖かい朝日が差してくる回廊を歩いていると、もうすぐ春なんだなぁ、と思う。ウインターホリデーやビーンズデーも終わり、春がきたら、その次は何があるんだろう。
じゃれあって通り過ぎていくクラスメイトたちの声。
その中にデュースとエースを見つけて、一直線にグリムが飛んで行く。
「待って、私も行く!」と声をかけようとしたとき。
パシ、と私の手首が何かに掴まれた。
咄嗟に振り返ると、そこにはジェイド先輩がいた。
『!?』
「おはようございます、ユウさん。」
『えっ?!いま、だって、ジェイド先輩、あっちに』
「ユウさんの情熱的な視線にひかれてやってきました。」
カッ!と頭に血が上って、顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。
意地悪だ。そんなこと、わざわざ言わなくてもいいのに。
『ジェイド先輩、私をからかって面白いですか…?』
「まさか。からかってなどいませんよ。ご挨拶に伺っただけです。そんなに警戒しないでください」
『…そう、ですか…。それは、すみません、でした…』
些細なことでも期待してしまう自分が嫌になる。
もう止めようと何度心に決めても、こうして一度近づかれるだけで、気持ちが変わっていないことに気づかされる。
これは自己保身のための諦めなのだから。
どうせ叶わぬ恋ならば、初めからなかったことにした方が。
誰でも自分のことは可愛いのだ。
「昨晩はよく眠れましたか?」
『え?』
「おや?昨晩のことは記憶にありませんか?」
『えっと…ジェイド先輩と味噌汁を食べたのは覚えているんですが…』
この言い方、もしかして、私は何か重要なことを忘れているのではなかろうか。
少し不安になって、おず…とジェイド先輩の方を見ると、顎に指を当てて、何かを思案している。
嫌な予感がする。こういう時のジェイド先輩は、あまりいいことを考えていないのが常だ。
怪訝な顔で見守っていると、突然その手を私の顎に持ってきて、くい、と上を向かされた。
『?!』
「なるほど」
近い!!と叫びそうになるところをすんでで抑えて硬直したが、そんな私にはお構い無し。
ジェイド先輩は、にっこりと笑みを湛えて言った。
「今日は顔色がよろしいようで何よりです」
『へ?』
「いえ、こちらの話です。そういえば、あのあと、ミソについて調べてみましたが、随分使い勝手が良い調味料なのですね」
『あ、え、…あぁ、えっと、そうですね。味噌は和風…私の故郷の料理だけでなくて、パスタなんかにも意外とよく合うので、そちら方面であれば、モストロ・ラウンジでも使えるかもしれないですね』
「はい。なので、また週末にでも、オンボロ寮にお伺いしますね」
「は?この人何言ってんだ。」という目をあまりにも自然に向けてしまってちょっと後悔。
視線の先には、どこかワクワクでキラキラした表情のジェイド先輩がいたのだから。
「ユウさんがモストロ・ラウンジに来てくださらないなら僕がオンボロ寮に行きます、と昨晩申し上げたはずですが?」
忘れたとは言わせませんよ、と脅迫まがいのにこやかな笑顔を向けられては、うなづく道しか残されていない。
コクコクコク。あらん限りの力でうなづけば、私の顔から手を離し、満足そうにして「それはよかった」と言う先輩。
そんな約束してたのね。言われてみれば、これ以上やめてください、と言えなかった自分の気持ちが、朧げにだが、思い出された。
「それから」
そこで一息ついたと思えば、ジェイド先輩はわざわざ私の耳元でこんなことを言った。
「昨晩のことは、秘密ですからね」
たったこれだけのことにドキドキしてしまうなんて。
悔しいけど、やっぱりジェイド先輩への気持ちは簡単に消せるものでもないことを自覚する。
耳をくすぐる声と、微かな残り香に軽く目眩がする。
予鈴が鳴ったと同時に、周りの喧騒が戻ってくる。
隔絶された二人の世界は、幕を閉じてしまった。
「あぁ、授業に遅れてしまいますね」
『っ…、…ですね…』
「それでは。ユウさん、また、ご連絡しますから」
『はい…』
何事もなかったかのように私とは反対方向に歩いて行ったジェイド先輩が振り向くことはなかった。
『ずるい…なんで…』
思わせぶりなことはしないで欲しかった。
忘れさせて欲しかったのに。
どうして今更こんなことになっているのか、私には全く理解ができない。
私の気持ちだけ筒抜けで、ジェイド先輩の気持ちがわからないのは不公平だ。
期待して、いいのだろうか。
それとも。
本鈴が鳴るまであと五分。
回廊のど真ん中で思考停止した私は、次の授業でトレイン先生にこってり絞られることになるかもしれない。