Hug me Kiss me Everyday!
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「というわけでぇ、お付き合い始めましたぁ」
病気も癒えて数日後。私はモストロ・ラウンジを訪れていた。もちろん、隣に並ぶのはフロイド先輩だ。
どうしても、二人揃って言いたいなんて、可愛いお願いされては断れないというもの。
でも、ここ、オクタヴィネル寮の寮服でそんな報告会をされると、こちらも心が追いつかない。まるで結婚式のようだ。
「良かったですねぇフロイド」
「お幸せに」
「絞られた時はマジで許さねぇと思ったけどさ、結果オーライかな〜。あんがと二人とも」
「ユウさんがフロイドを選ぶとは」
「本当にフロイドで大丈夫なのですか?」
『アゥ』
「それ本気で祝ってんの?」
圧が強い二人に詰め寄られて仰け反ったところを、フロイド先輩が抱きとめてくれる。
いつでもどこでも、抱きしめられるなんて日常茶飯事だったはずなのに、なぜ今日はこんなにも恥ずかしいと思うのか。
言葉というのは不思議なものである。当たり前が当たり前でないと思わせるのに十分な「付き合う」というフレーズに動揺を隠せない。
背中にフロイド先輩の大きな体を感じて、真っ赤になってしまった顔を手で覆って、うう…と声をあげて一人悶絶だ。
「あれ?小エビちゃん恥ずかしがってんの?」
『…っ…!だ、だって』
「今更じゃん?いっつも絞めに行ってたのに」
『これまでとは違うじゃないですか!!』
「え〜?」
後ろから顔を覗き込まれて、この間、想いが通じた日のことがフラッシュバックする。
熱い、唇に、それから、甘い…
カッ!とさらに沸騰する身体は、もはや両の手だけでは隠しきれない。
「?」
「…もしかしてフロイド」
「あ?」
「早速キスでもしましたね?」
『!?!?!!』
「んな!!」
「ってなんでアズールが反応すんだよ!」
アズール先輩に向かってギャーギャーと喚くフロイド先輩が離れた隙を狙って、ジェイド先輩が私に近づいてきた。
「ユウさん」
『ひゃい…』
「フロイドは、ああ見えて甘えたなところがあるもので大変かもしれませんが、」
『…ハィ』
「フロイドといると何が起こるか分からなくて楽しいですよ。どうかよろしくお願いしますね。」
『ふふ…兄弟思いですね』
「…そうですね…唯一の兄弟なので」
『私…いつか帰れることになったとしても、絶対にフロイド先輩に悲しい想いはさせません。フロイド先輩が私に飽きたとしたならともかく、私は、絶対にフロイド先輩を置いて行ったり、離れたりしません。どうか、安心してください』
腹を据えた女は強いんですよ、と笑って見せれば、ジェイド先輩もつられて笑顔を見せた。
先輩のそんな表情を見るのは初めてで、そしてそれは、フロイド先輩とどこか似ていて。少し驚くと同時に恥ずかしくなってしまう。
全然違うと思っていた双子だけれど、似ているところを見つけて、なんだか嬉しくなった。
「小〜エ〜ビ〜ちゃ〜〜〜ん?!」
『は!!』
「ジェイドといい雰囲気になるの禁止!!」
「おやおや…嫉妬深いんですねフロイドは」
「いくらジェイドでも絶対小エビちゃんには手ぇ出させないからな」
『ふ、フロイド先輩、落ち着いて』
「小エビちゃんも小エビちゃんだから。俺、小エビちゃんに飽きたりしないし」
『わかってます、わかりましたか…え?』
突然の声色に心が跳ねる。
ぴた、と止まった私に目線を合わせるように、わざわざかがんでくれたフロイド先輩は、それから私の手を握って言った。
「俺がどんだけ待ったか知らないからそーゆーこと言えんだよ小エビちゃんは。俺、絶対飽きたりしねぇから。海に戻る気もねぇし。割とこの足動かすのも面白いし、そしたら小エビちゃんとずっと一緒に入れるし、あ…まぁ来たいなら海に来てもいいけどさ…」
『フロイド先輩…』
「ねぇ小エビちゃん、教えてよ。小エビちゃんは何をそんなに怖がってんの?俺に言えないこと?」
『こ、怖がってなんて、』
じっ…と見つめてくる瞳は、有無を言わさぬ力を持って、私を射る。
あまりにも真剣なその瞳にとらわれて、とうとう逃げられなくなった私は、ポツポツと気持ちを吐き出した。
『さっき…フロイド先輩を置いてったりはしない、って言ったけど…それから前にも、もしかしたら、いつか帰れる日が来たり…そうじゃなくても突然いなくなったり、するかも、って話したじゃないですか…。そうしたら、私…私は普通の人間だから…。魔法もないし、力もないし…どうやってここに戻ってこればいいのかなって』
「…」
『不安なんです…幸せになればなるほど、フロイド先輩に悲しい想いはさせないって思うほど、どうすればいいのかなっていう気持ちも大きくなって』
随分と上から目線な考えではあるけれど、せっかく想いも通じてコイビト同士になったのだ。
これから起こるだろう楽しいことばかりを考えるわけにもいかなくなってしまった。
手に入れた幸せが、当たり前になる日もそう遠くはないだろう。幸せが続くことが普通になって、挙句に突然壊れたら、私は、フロイド先輩は、どうなってしまうんだろう。
「あー?そんなこと悩んでたの、小エビちゃん?」
『そんなこと?!私がどれだけっ』
「もしかして、ずっと悩んでたことって、それ?飽きるとか飽きられるとかより、それの方が大きかった?俺が告っても反応なかったのもそのせい?」
『っ…はい…そうですよ…っ』
「ま、実はさ、俺も色々考えたからあんま強く言えねぇけど」
『え、ッ!?』
手を握っていたフロイド先輩の大きな手が離れた刹那、自分の身体がふわりと宙に浮いたのを感じて、抱き上げられたんだと気づく。
「もし小エビちゃんがどっか行っちゃったとして、そしたらさ、海飛び出して、なんなら空も飛び越えて、何処へだって会いに行くよ俺。それで、小エビちゃんを絶対見つける。異世界でもなんでも構わねぇ。探し出して、世界中に、この子は俺のだー!って抱きしめてあげる。」
『!!』
「ねぇ、俺だけのお姫様にしてあげる、愛してるよって」
『ふ、ぇ…っ』
「!?エッ!?ちょ、なんで、ここ泣くとこ?!ちがくね!?」
『だってぇ〜〜…フロイド先輩のばかぁ〜〜〜』
「ええ?!!!な、泣かないで小エビちゃん、困る、えぇ…!?」
涙が止まらない。ごめんなさい、今からお仕事なのに、寮服汚れちゃう。
でも、許してほしい。そんな嬉しいこと言ったフロイド先輩が悪いのだ。
ぐり、と、いつも私がされるように、今日は私がフロイド先輩の首筋に顔を埋めて押し付けた。
「へ…?」
『あっ、ありがと、ございますぅぅっ!!』
「ん?」
『だ、大好き、ですっ私も、フロイド先輩、好きです〜!!』
「!!」
伝えたい言葉があって、伝えたい人がいる。こんなに素敵なことがあるだろうか。
フロイド先輩に出会えてよかった。きっと私は、この先何があっても先輩と過ごした時間を後悔することはない。
「ねぇ小エビちゃん、顔見せてよ」
『グスッ…無理です…』
「いいじゃん」
『ゃ…だって…今絶対、すんごい顔してるから…』
「ねぇユウお願い」
『!?…こ、こんな時、だけっ…』
ズルイズルイと思っても、その声色には逆らえない。
恐る恐る顔をあげると、ニコニコと笑うフロイド先輩の顔が近づいてきて、あ、キスされる、そう思った瞬間。
「フロイド、ユウさん」
「っお前たち…!!」
地を這うような声がかかった。
『!?!?!??!?!』
「…チ…邪魔すんなよ二人とも」
「っいい加減にしなさいっっっっっっっ!!」
「フロイド、僕はフロイドの幸せは願いますが、惚気をみせつけられたいとは思っていませんよ」
「空気読めよぉ」
『あああああすみませんんんん!!』
もう本当に3m離れているかいないかの距離にいたアズール先輩とジェイド先輩の存在を忘れるなんて、どうかしてる。
恋は盲目、ではないけれど、ドロドロに甘い空気に酔っていたのは言い訳にならなかった。
「30分」
「「はい?」」
「開店までには戻るからぁ〜〜」
『びゃ?!』
「ちょ!フロイド!!」
アズール先輩の制止も虚しく、両手で支えられていた私の身体を、ガッと肩に担ぎ上げ、そのまま走り出したフロイド先輩。
階段を飛び越えて一目散にラウンジの外まで走ったと思えば、そのまま人目のつかない暗がりまで私を連れてきて、そっと床に下ろした。
ここがどこかはわからないが、まだオクタヴィネル寮の中のようだ。静かな水音がコポコポと耳に届く。
「ユウ」
『ひ』
キョロキョロ見回していた私を二本の腕で、というよりも、私に覆い被るように壁に追い詰めたの先輩。
その顔はとても楽しそうに笑っている。
ぐ、と身体を曲げて私に顔を近づけたと思ったら、私の顎をくい、と持ち上げて、逃げられないように見つめさせる。
『ふ、ろい、ど、先輩…』
「こういう時はぁ〜黙ろっか」
『っ、んぅ、』
「ん、」
重なった唇。入り込んできた舌。舐めまわされる咥内。
ちゅ、ちゅ、と何度も何度も行われる行為は、音こそ可愛いものの、私の気持ちをかき乱す麻薬のよう。
漸く離れた頃には私の足腰は全く立たず、フロイド先輩の寮服をギュゥと握りしめるので精一杯。
ほとんどの体重は、その細くて、でもたくましい腕に支えてもらっていた状態だった。
「あは、可愛いね〜小エビちゃん。これからい〜っぱいキスして、慣れようねぇ」
『っはぁ…ぅぅ…なれるわけ、ない、こんなの…はぅ』
「ダイジョーブダイジョーブ!俺がずーっとしてあげるからね〜」
『っひ…!!』
極め付けに触れるだけのキスを送られて、平常心が保てる訳もない。
あはは、と笑われるのがどうにも悔しくて、ぐぬぬ、と唸りながら、ふと、仕返しを思いつく。
もはやほぼ0%の力を振り絞り、グッとストールを引っ張った私はフロイド先輩の耳元で一言。
『そんなにしたいなら、私のこともちゃんと、からかうことなしに、名前で呼んでくださいね…フロイド』
「、は」
普段見ることができない、ぽかん、と開いた目と口。
それからしばらく、じわじわと赤くなった顔と耳を片手で覆って、小エビちゃん反則、とポツリとこぼされた言葉に、優越感を覚えた。
『フ〜ロイドっ』
「…クッソ…やられた…」
『へへ〜!』
「覚えてろよ…」
モストロ・ラウンジの開店時間まで、あと何分残っているだろう。
もう少し、二人でじゃれあっていても怒られないだろうか。
あなたの傍から、ずっと離れない。
微笑みかけてほしいの、私にだけ。
一緒に歩いて、走って。
あなたと二人で物語を紡ぎたい。
何かが起こって、私の世界が変わってしまっても。
必ずまた、会いにいくから、あなたに。
『フロイド先輩。大好き。ずっと離さないでくださいね』
「ぜ〜ったい離さねぇから、ずっと傍にいてよねぇ、ユウ!」
(※)最後の部分は、Part of your world -reprise のオマージュです
病気も癒えて数日後。私はモストロ・ラウンジを訪れていた。もちろん、隣に並ぶのはフロイド先輩だ。
どうしても、二人揃って言いたいなんて、可愛いお願いされては断れないというもの。
でも、ここ、オクタヴィネル寮の寮服でそんな報告会をされると、こちらも心が追いつかない。まるで結婚式のようだ。
「良かったですねぇフロイド」
「お幸せに」
「絞られた時はマジで許さねぇと思ったけどさ、結果オーライかな〜。あんがと二人とも」
「ユウさんがフロイドを選ぶとは」
「本当にフロイドで大丈夫なのですか?」
『アゥ』
「それ本気で祝ってんの?」
圧が強い二人に詰め寄られて仰け反ったところを、フロイド先輩が抱きとめてくれる。
いつでもどこでも、抱きしめられるなんて日常茶飯事だったはずなのに、なぜ今日はこんなにも恥ずかしいと思うのか。
言葉というのは不思議なものである。当たり前が当たり前でないと思わせるのに十分な「付き合う」というフレーズに動揺を隠せない。
背中にフロイド先輩の大きな体を感じて、真っ赤になってしまった顔を手で覆って、うう…と声をあげて一人悶絶だ。
「あれ?小エビちゃん恥ずかしがってんの?」
『…っ…!だ、だって』
「今更じゃん?いっつも絞めに行ってたのに」
『これまでとは違うじゃないですか!!』
「え〜?」
後ろから顔を覗き込まれて、この間、想いが通じた日のことがフラッシュバックする。
熱い、唇に、それから、甘い…
カッ!とさらに沸騰する身体は、もはや両の手だけでは隠しきれない。
「?」
「…もしかしてフロイド」
「あ?」
「早速キスでもしましたね?」
『!?!?!!』
「んな!!」
「ってなんでアズールが反応すんだよ!」
アズール先輩に向かってギャーギャーと喚くフロイド先輩が離れた隙を狙って、ジェイド先輩が私に近づいてきた。
「ユウさん」
『ひゃい…』
「フロイドは、ああ見えて甘えたなところがあるもので大変かもしれませんが、」
『…ハィ』
「フロイドといると何が起こるか分からなくて楽しいですよ。どうかよろしくお願いしますね。」
『ふふ…兄弟思いですね』
「…そうですね…唯一の兄弟なので」
『私…いつか帰れることになったとしても、絶対にフロイド先輩に悲しい想いはさせません。フロイド先輩が私に飽きたとしたならともかく、私は、絶対にフロイド先輩を置いて行ったり、離れたりしません。どうか、安心してください』
腹を据えた女は強いんですよ、と笑って見せれば、ジェイド先輩もつられて笑顔を見せた。
先輩のそんな表情を見るのは初めてで、そしてそれは、フロイド先輩とどこか似ていて。少し驚くと同時に恥ずかしくなってしまう。
全然違うと思っていた双子だけれど、似ているところを見つけて、なんだか嬉しくなった。
「小〜エ〜ビ〜ちゃ〜〜〜ん?!」
『は!!』
「ジェイドといい雰囲気になるの禁止!!」
「おやおや…嫉妬深いんですねフロイドは」
「いくらジェイドでも絶対小エビちゃんには手ぇ出させないからな」
『ふ、フロイド先輩、落ち着いて』
「小エビちゃんも小エビちゃんだから。俺、小エビちゃんに飽きたりしないし」
『わかってます、わかりましたか…え?』
突然の声色に心が跳ねる。
ぴた、と止まった私に目線を合わせるように、わざわざかがんでくれたフロイド先輩は、それから私の手を握って言った。
「俺がどんだけ待ったか知らないからそーゆーこと言えんだよ小エビちゃんは。俺、絶対飽きたりしねぇから。海に戻る気もねぇし。割とこの足動かすのも面白いし、そしたら小エビちゃんとずっと一緒に入れるし、あ…まぁ来たいなら海に来てもいいけどさ…」
『フロイド先輩…』
「ねぇ小エビちゃん、教えてよ。小エビちゃんは何をそんなに怖がってんの?俺に言えないこと?」
『こ、怖がってなんて、』
じっ…と見つめてくる瞳は、有無を言わさぬ力を持って、私を射る。
あまりにも真剣なその瞳にとらわれて、とうとう逃げられなくなった私は、ポツポツと気持ちを吐き出した。
『さっき…フロイド先輩を置いてったりはしない、って言ったけど…それから前にも、もしかしたら、いつか帰れる日が来たり…そうじゃなくても突然いなくなったり、するかも、って話したじゃないですか…。そうしたら、私…私は普通の人間だから…。魔法もないし、力もないし…どうやってここに戻ってこればいいのかなって』
「…」
『不安なんです…幸せになればなるほど、フロイド先輩に悲しい想いはさせないって思うほど、どうすればいいのかなっていう気持ちも大きくなって』
随分と上から目線な考えではあるけれど、せっかく想いも通じてコイビト同士になったのだ。
これから起こるだろう楽しいことばかりを考えるわけにもいかなくなってしまった。
手に入れた幸せが、当たり前になる日もそう遠くはないだろう。幸せが続くことが普通になって、挙句に突然壊れたら、私は、フロイド先輩は、どうなってしまうんだろう。
「あー?そんなこと悩んでたの、小エビちゃん?」
『そんなこと?!私がどれだけっ』
「もしかして、ずっと悩んでたことって、それ?飽きるとか飽きられるとかより、それの方が大きかった?俺が告っても反応なかったのもそのせい?」
『っ…はい…そうですよ…っ』
「ま、実はさ、俺も色々考えたからあんま強く言えねぇけど」
『え、ッ!?』
手を握っていたフロイド先輩の大きな手が離れた刹那、自分の身体がふわりと宙に浮いたのを感じて、抱き上げられたんだと気づく。
「もし小エビちゃんがどっか行っちゃったとして、そしたらさ、海飛び出して、なんなら空も飛び越えて、何処へだって会いに行くよ俺。それで、小エビちゃんを絶対見つける。異世界でもなんでも構わねぇ。探し出して、世界中に、この子は俺のだー!って抱きしめてあげる。」
『!!』
「ねぇ、俺だけのお姫様にしてあげる、愛してるよって」
『ふ、ぇ…っ』
「!?エッ!?ちょ、なんで、ここ泣くとこ?!ちがくね!?」
『だってぇ〜〜…フロイド先輩のばかぁ〜〜〜』
「ええ?!!!な、泣かないで小エビちゃん、困る、えぇ…!?」
涙が止まらない。ごめんなさい、今からお仕事なのに、寮服汚れちゃう。
でも、許してほしい。そんな嬉しいこと言ったフロイド先輩が悪いのだ。
ぐり、と、いつも私がされるように、今日は私がフロイド先輩の首筋に顔を埋めて押し付けた。
「へ…?」
『あっ、ありがと、ございますぅぅっ!!』
「ん?」
『だ、大好き、ですっ私も、フロイド先輩、好きです〜!!』
「!!」
伝えたい言葉があって、伝えたい人がいる。こんなに素敵なことがあるだろうか。
フロイド先輩に出会えてよかった。きっと私は、この先何があっても先輩と過ごした時間を後悔することはない。
「ねぇ小エビちゃん、顔見せてよ」
『グスッ…無理です…』
「いいじゃん」
『ゃ…だって…今絶対、すんごい顔してるから…』
「ねぇユウお願い」
『!?…こ、こんな時、だけっ…』
ズルイズルイと思っても、その声色には逆らえない。
恐る恐る顔をあげると、ニコニコと笑うフロイド先輩の顔が近づいてきて、あ、キスされる、そう思った瞬間。
「フロイド、ユウさん」
「っお前たち…!!」
地を這うような声がかかった。
『!?!?!??!?!』
「…チ…邪魔すんなよ二人とも」
「っいい加減にしなさいっっっっっっっ!!」
「フロイド、僕はフロイドの幸せは願いますが、惚気をみせつけられたいとは思っていませんよ」
「空気読めよぉ」
『あああああすみませんんんん!!』
もう本当に3m離れているかいないかの距離にいたアズール先輩とジェイド先輩の存在を忘れるなんて、どうかしてる。
恋は盲目、ではないけれど、ドロドロに甘い空気に酔っていたのは言い訳にならなかった。
「30分」
「「はい?」」
「開店までには戻るからぁ〜〜」
『びゃ?!』
「ちょ!フロイド!!」
アズール先輩の制止も虚しく、両手で支えられていた私の身体を、ガッと肩に担ぎ上げ、そのまま走り出したフロイド先輩。
階段を飛び越えて一目散にラウンジの外まで走ったと思えば、そのまま人目のつかない暗がりまで私を連れてきて、そっと床に下ろした。
ここがどこかはわからないが、まだオクタヴィネル寮の中のようだ。静かな水音がコポコポと耳に届く。
「ユウ」
『ひ』
キョロキョロ見回していた私を二本の腕で、というよりも、私に覆い被るように壁に追い詰めたの先輩。
その顔はとても楽しそうに笑っている。
ぐ、と身体を曲げて私に顔を近づけたと思ったら、私の顎をくい、と持ち上げて、逃げられないように見つめさせる。
『ふ、ろい、ど、先輩…』
「こういう時はぁ〜黙ろっか」
『っ、んぅ、』
「ん、」
重なった唇。入り込んできた舌。舐めまわされる咥内。
ちゅ、ちゅ、と何度も何度も行われる行為は、音こそ可愛いものの、私の気持ちをかき乱す麻薬のよう。
漸く離れた頃には私の足腰は全く立たず、フロイド先輩の寮服をギュゥと握りしめるので精一杯。
ほとんどの体重は、その細くて、でもたくましい腕に支えてもらっていた状態だった。
「あは、可愛いね〜小エビちゃん。これからい〜っぱいキスして、慣れようねぇ」
『っはぁ…ぅぅ…なれるわけ、ない、こんなの…はぅ』
「ダイジョーブダイジョーブ!俺がずーっとしてあげるからね〜」
『っひ…!!』
極め付けに触れるだけのキスを送られて、平常心が保てる訳もない。
あはは、と笑われるのがどうにも悔しくて、ぐぬぬ、と唸りながら、ふと、仕返しを思いつく。
もはやほぼ0%の力を振り絞り、グッとストールを引っ張った私はフロイド先輩の耳元で一言。
『そんなにしたいなら、私のこともちゃんと、からかうことなしに、名前で呼んでくださいね…フロイド』
「、は」
普段見ることができない、ぽかん、と開いた目と口。
それからしばらく、じわじわと赤くなった顔と耳を片手で覆って、小エビちゃん反則、とポツリとこぼされた言葉に、優越感を覚えた。
『フ〜ロイドっ』
「…クッソ…やられた…」
『へへ〜!』
「覚えてろよ…」
モストロ・ラウンジの開店時間まで、あと何分残っているだろう。
もう少し、二人でじゃれあっていても怒られないだろうか。
あなたの傍から、ずっと離れない。
微笑みかけてほしいの、私にだけ。
一緒に歩いて、走って。
あなたと二人で物語を紡ぎたい。
何かが起こって、私の世界が変わってしまっても。
必ずまた、会いにいくから、あなたに。
『フロイド先輩。大好き。ずっと離さないでくださいね』
「ぜ〜ったい離さねぇから、ずっと傍にいてよねぇ、ユウ!」
(※)最後の部分は、Part of your world -reprise のオマージュです