Hug me Kiss me Everyday!
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はじめは憧れ、だったと思う。
とても自由で、奔放で。誰にも縛られないような振る舞い。
でも、だからこそ、その姿はこの不思議な世界の中でも一等輝いていた。
私のことを 小エビちゃん、小エビちゃん と呼び、抱きしめる。
最初は強く。だんだんと優しく。
その力加減は、嫌でも愛しさを芽生えさせた。
堕ちてはいけないと言い聞かせても一瞬で引き戻されそうになる心を叱咤して、今日も私は彼の誘惑を断るのだ。
「小エビちゃん、めっちゃ好き!」
『ありがとうございます〜』
「ねぇなんで信じてくれないわけ?」
『信じてますよ、だから、ありがとうございますって』
「そういうんじゃないって言ってんじゃん!」
慣れてしまったこのやり取りをしながら、今日も今日とて一日を始める。
傍に控えるのはアズール先輩とジェイド先輩。一方、こちらの味方であるはずのエースとデュース、それからグリムは、この三人の姿が見えるや否や、我関せずと走り去ってしまった。
別に怖くはないのに、と、なんども話して聞かせたのだけれど、頭にイソギンチャクを生やされたあの事件のことが忘れられないようだ。
確かに、いつ鳴るともしれない「ギュインギュイン」という音は、耳に残る嫌なものなのかもしれないが、きちんと向き合えばいい人たちなのにと少し残念に思う。
「あなたも凝りませんねぇ」
『凝りないのはフロイド先輩でしょう…。ジェイド先輩も見てるだけじゃなくて何か一言お願いしますよ』
「嫌ですよ、こんなおもし…兄弟の恋路を邪魔するなど」
『…とっても兄弟想いなんですねぇ!じゃあアズール先輩は、』
「契約していただけるなら何なりと?」
『…お二人のそういうさっぱりしたところ、尊敬してますし、好きです』
「ねぇ俺のことはぁ?!俺のことも好きでしょ小エビちゃん!!」
『はい、好きですよ?』
「も〜違くて〜!そういう好きじゃねぇし!!」
グリグリグリとシーグリーンの髪が目の端で揺れる。
この身長差でそれをやるのもすごいと思うが、小さな頭が首筋を揺れるのが少しくすぐったい。
キンコンカーン…と聞き慣れた鐘が鳴る。
『ほら、予鈴ですよフロイド先輩。フロイド先輩はやればできる天才だって、ジェイド先輩が言ってました。先輩のっ、かっこいいとこ、見てみたい〜♩』
「小エビちゃんと一緒の授業じゃねーし、誰に見せんだよ。意味ねぇもん!」
「仕方ないですね。フロイドが空を飛べたら、僕が写真に収めてお見せしますから」
「………そしたら小エビちゃんほめてくれる?」
『もちろんですよ、それから、私からのハグでお祝いします。でもきちんとした体制で飛べたらですよ』
「よっし、行こうジェイド」
去り際に、ジェイド先輩が「ありがとうございます」と小さな声でお礼を言ったのに苦笑を返せば、すでに遠くにいたフロイド先輩が、絶対だかんねー!と叫んできた。
それに対して小さく手を振ってから、自分も教室へ向かう。
「フロイドの気まぐれは、いつまで続くかわかったもんじゃない。」
本人も言っていたし、周りの人もみんなそういう。
「気持ちにムラさえなければあいつは」って。何度聞いたかわからない。だから私のことだって、気まぐれに決まっている。
アズール先輩事件の時も、スカラビア監禁事件の時も。しばらく近い距離にいたから、「面白い」ことと「だから好き」なことを混同しているだけだ。
いつか帰らなければならない元の世界がある限り、一線を引かなければいけないのは仕方のないことだと割り切ってはいるが、相棒もでき、友達もでき、仲間もでき…と、思い出の1ページが増える中で、これ以上を望むことも求めることもしてはいけないという考えに拍車がかかるのは、理解して欲しいところなのだけれど。
「小エビちゃん」と私を呼ぶフロイド先輩は。
金魚ちゃん。蟹ちゃんに鯖ちゃん。ラッコちゃん、アザラシちゃん。挙げ句の果てには石鯛先生。
「親しみを込めて海の生物の名前をつけるんです」とジェイド先輩は言うが、一方で、フロイド先輩は、本当に近しい人たちのことはきちんと名前で呼んでいるのだ。
「アズールはアズールでしょ?」
「ジェイドなら絶対当てるよ。」
わかるでしょう、その無意識の線引き。私はそちら側にはいけない。
その好きは私のとは違うから、気づいてもらったほうがいいし、気づかせないといけない。
『ハーァ…どうしたもんかなぁ…』
好き、好き、好き。日に日に大きくなる勘違いの恋心。
嬉しい言葉を事あるごとにもらってしまっては、私の心臓がいつまで持つかわからない。
『私だって、本当は…』
この胸の痛みは、いざという時に私を守ってくれる、いわば保険で、それから相手の幸せにつながる願いだから。
絶対に口にしてはいけない。この二文字の言葉は胸にしまって、いつも通りの顔で、態度で、彼を迎えよう。今は頭を切り替えて、目の前の授業に集中だ。
生活も学習もスペシャルハードモードなんだから気を抜くわけにはいかないと、早くも寝落ちそうにしているグリムその他を横目に一人黒板に対峙した。
*
そんな授業も終わり、休み時間。背伸びをすると、こき、と肩が鳴った。
と同時に、学園長から借りているスマートフォンがブルッと震える。
『?』
親しい仲間は目の前にいる。こんな時間に連絡をしてくるのは誰だろう?
画面を見ると、コミュニケーションアプリの通知だった。そこ表示されていた名前に、少なからず驚く。
『え?ジェイド先輩?』
なぜだ。連絡先を交換した覚えはないのだが。と思いながらもアプリを開くと、そこには「飛びました」の一言に添えて、フロイド先輩が箒で空高く飛び上がっている写真があった。
『わ!すごい!』
「どうしたんだゾ?」
『みてグリム!フロイド先輩が空飛んだ!』
「「へ?」」
『デュースもエースも、見てほら!』
「お前さあ」
「うん、本当に」
『え?』
「「フロイド先輩のこと、好きだよなぁ」」
『!?』
え、いや、これは、その…と吃ると、あーもういいいい!、と止められた。
「何度も言ってっけど、あの人だけはやめとけって」
「そうだぞ。お前の人生をとやかく言うつもりはないけど、マブには幸せになってほしいってもんだからな」
『え…だ、ちが、これは、そう言うんじゃなくて、』
「あの人はやれないわけじゃなくて、やろうとしてないだけなんだって。騙されんなー?」
『でも、でもいつもやらないことを突然やれるのだってすごいよね!?』
「わかったわかった…別に俺たちもお前を苛めたくて言ってるわけじゃないんだ。ただ、本気にするなよ?」
「こ え び ちゃーーーーーーーーーんっ!!」
そんなことを言いながら廊下へ出た瞬間、だった。
大きな声とともに、大きな姿がこちらに向かって走ってきたと思ったら。
ふわりと自分の身体が持ち上げられて、そのままぐるぐる、と2、3回回った。
それが止まって、目の前でニーッと笑ったのはもちろんフロイド先輩で。
「見たぁ!?飛んできたよぉ!」
距離的には普段よりも離れているはずなのに、いつもよりもドキドキするのはどうしてだろう。
走ってきてくれたのだろう、汗ばむ体温が伝わったからなのか。
それともその嬉しそうな表情からなのか。
「教科書に載ってるみたいなキレーな飛び方だったでしょ!」
『みっ…みま、した…!見ましたから、下ろしてっ!!』
「約束、守ってよ」
そっと私を下ろして、嬉しそうな瞳でこちらを見つめるフロイド先輩。
まだぁ?と、心なしか両手を広げてくれている気さえする。
ここで変に詰まっては、意識しているのがバレバレだ。なんとしてでも平静を装ってミッションをこなさなければならない。
『わかりました、じ、じゃあ、お祝い、です』
「ん!」
ふぅ、と吐いた息は、呆れではなく意識を解放するためのものだ。
失礼します、と呟いて、縦に大きくも横には細い体に、ぎゅ、と腕を回した。
体操着のままだからか、薄いシャツから感じる体温とか、ふと香る石鹸か何かの匂いとか。
いろんなものが私を満たしていく。正直気が気じゃなくて、すぐに離れようとしたけれど、そんな中、ふわりと私に回された腕。
『!?ふょ!?』
「いいね」
『え!?』
「ギュってするんじゃなくて、されるのって、いいね〜」
『あのっ』
「やっぱ俺、小エビちゃんのこと、好きだわ」
『!!』
「ねぇ、俺のこと好きになってよ、小エビちゃん」
『っ、』
甘い囁きに狂わされる距離感。
でも。好きなだけじゃ、どうにもできないこともあるんですよ、フロイド先輩。
私は、そっと先輩の身体を押して、その拘束を解いた。
苦しいなぁ。海の中で息をしているみたい。
それでもね、先輩。私は、先輩には世界一幸せになって欲しいんです。
だから、私は、笑って言わなくちゃいけないの。
『先輩のことは、好きですよ』
ね、先輩。好きです。大好きです。だからもう、その言葉は私には言わないで。
いつかきっと、先輩には、この世界で暮らす素敵な相手が見つかるから。
「チェ…またそれかよ」
『はい!お祝いは終わり!次の授業も頑張ってくださいね!』
追いついてきたジェイド先輩が何か言いたげに口を開いたけれど、ぺこ、とお辞儀だけ返しておいた。
「小エビちゃんのばか!」
『ばかって…ふふ、どうせばかですよー!次の授業も、頑張ってくださいね!』
それだけ言って、いつものように先に行ってしまったみんなを追いかけるために、フロイド先輩に背を向けた。
「そんなの、そんな顔で言われたって…信じられるわけねーじゃん…」
その小さなセリフは、私の耳には届かなかった。
とても自由で、奔放で。誰にも縛られないような振る舞い。
でも、だからこそ、その姿はこの不思議な世界の中でも一等輝いていた。
私のことを 小エビちゃん、小エビちゃん と呼び、抱きしめる。
最初は強く。だんだんと優しく。
その力加減は、嫌でも愛しさを芽生えさせた。
堕ちてはいけないと言い聞かせても一瞬で引き戻されそうになる心を叱咤して、今日も私は彼の誘惑を断るのだ。
「小エビちゃん、めっちゃ好き!」
『ありがとうございます〜』
「ねぇなんで信じてくれないわけ?」
『信じてますよ、だから、ありがとうございますって』
「そういうんじゃないって言ってんじゃん!」
慣れてしまったこのやり取りをしながら、今日も今日とて一日を始める。
傍に控えるのはアズール先輩とジェイド先輩。一方、こちらの味方であるはずのエースとデュース、それからグリムは、この三人の姿が見えるや否や、我関せずと走り去ってしまった。
別に怖くはないのに、と、なんども話して聞かせたのだけれど、頭にイソギンチャクを生やされたあの事件のことが忘れられないようだ。
確かに、いつ鳴るともしれない「ギュインギュイン」という音は、耳に残る嫌なものなのかもしれないが、きちんと向き合えばいい人たちなのにと少し残念に思う。
「あなたも凝りませんねぇ」
『凝りないのはフロイド先輩でしょう…。ジェイド先輩も見てるだけじゃなくて何か一言お願いしますよ』
「嫌ですよ、こんなおもし…兄弟の恋路を邪魔するなど」
『…とっても兄弟想いなんですねぇ!じゃあアズール先輩は、』
「契約していただけるなら何なりと?」
『…お二人のそういうさっぱりしたところ、尊敬してますし、好きです』
「ねぇ俺のことはぁ?!俺のことも好きでしょ小エビちゃん!!」
『はい、好きですよ?』
「も〜違くて〜!そういう好きじゃねぇし!!」
グリグリグリとシーグリーンの髪が目の端で揺れる。
この身長差でそれをやるのもすごいと思うが、小さな頭が首筋を揺れるのが少しくすぐったい。
キンコンカーン…と聞き慣れた鐘が鳴る。
『ほら、予鈴ですよフロイド先輩。フロイド先輩はやればできる天才だって、ジェイド先輩が言ってました。先輩のっ、かっこいいとこ、見てみたい〜♩』
「小エビちゃんと一緒の授業じゃねーし、誰に見せんだよ。意味ねぇもん!」
「仕方ないですね。フロイドが空を飛べたら、僕が写真に収めてお見せしますから」
「………そしたら小エビちゃんほめてくれる?」
『もちろんですよ、それから、私からのハグでお祝いします。でもきちんとした体制で飛べたらですよ』
「よっし、行こうジェイド」
去り際に、ジェイド先輩が「ありがとうございます」と小さな声でお礼を言ったのに苦笑を返せば、すでに遠くにいたフロイド先輩が、絶対だかんねー!と叫んできた。
それに対して小さく手を振ってから、自分も教室へ向かう。
「フロイドの気まぐれは、いつまで続くかわかったもんじゃない。」
本人も言っていたし、周りの人もみんなそういう。
「気持ちにムラさえなければあいつは」って。何度聞いたかわからない。だから私のことだって、気まぐれに決まっている。
アズール先輩事件の時も、スカラビア監禁事件の時も。しばらく近い距離にいたから、「面白い」ことと「だから好き」なことを混同しているだけだ。
いつか帰らなければならない元の世界がある限り、一線を引かなければいけないのは仕方のないことだと割り切ってはいるが、相棒もでき、友達もでき、仲間もでき…と、思い出の1ページが増える中で、これ以上を望むことも求めることもしてはいけないという考えに拍車がかかるのは、理解して欲しいところなのだけれど。
「小エビちゃん」と私を呼ぶフロイド先輩は。
金魚ちゃん。蟹ちゃんに鯖ちゃん。ラッコちゃん、アザラシちゃん。挙げ句の果てには石鯛先生。
「親しみを込めて海の生物の名前をつけるんです」とジェイド先輩は言うが、一方で、フロイド先輩は、本当に近しい人たちのことはきちんと名前で呼んでいるのだ。
「アズールはアズールでしょ?」
「ジェイドなら絶対当てるよ。」
わかるでしょう、その無意識の線引き。私はそちら側にはいけない。
その好きは私のとは違うから、気づいてもらったほうがいいし、気づかせないといけない。
『ハーァ…どうしたもんかなぁ…』
好き、好き、好き。日に日に大きくなる勘違いの恋心。
嬉しい言葉を事あるごとにもらってしまっては、私の心臓がいつまで持つかわからない。
『私だって、本当は…』
この胸の痛みは、いざという時に私を守ってくれる、いわば保険で、それから相手の幸せにつながる願いだから。
絶対に口にしてはいけない。この二文字の言葉は胸にしまって、いつも通りの顔で、態度で、彼を迎えよう。今は頭を切り替えて、目の前の授業に集中だ。
生活も学習もスペシャルハードモードなんだから気を抜くわけにはいかないと、早くも寝落ちそうにしているグリムその他を横目に一人黒板に対峙した。
*
そんな授業も終わり、休み時間。背伸びをすると、こき、と肩が鳴った。
と同時に、学園長から借りているスマートフォンがブルッと震える。
『?』
親しい仲間は目の前にいる。こんな時間に連絡をしてくるのは誰だろう?
画面を見ると、コミュニケーションアプリの通知だった。そこ表示されていた名前に、少なからず驚く。
『え?ジェイド先輩?』
なぜだ。連絡先を交換した覚えはないのだが。と思いながらもアプリを開くと、そこには「飛びました」の一言に添えて、フロイド先輩が箒で空高く飛び上がっている写真があった。
『わ!すごい!』
「どうしたんだゾ?」
『みてグリム!フロイド先輩が空飛んだ!』
「「へ?」」
『デュースもエースも、見てほら!』
「お前さあ」
「うん、本当に」
『え?』
「「フロイド先輩のこと、好きだよなぁ」」
『!?』
え、いや、これは、その…と吃ると、あーもういいいい!、と止められた。
「何度も言ってっけど、あの人だけはやめとけって」
「そうだぞ。お前の人生をとやかく言うつもりはないけど、マブには幸せになってほしいってもんだからな」
『え…だ、ちが、これは、そう言うんじゃなくて、』
「あの人はやれないわけじゃなくて、やろうとしてないだけなんだって。騙されんなー?」
『でも、でもいつもやらないことを突然やれるのだってすごいよね!?』
「わかったわかった…別に俺たちもお前を苛めたくて言ってるわけじゃないんだ。ただ、本気にするなよ?」
「こ え び ちゃーーーーーーーーーんっ!!」
そんなことを言いながら廊下へ出た瞬間、だった。
大きな声とともに、大きな姿がこちらに向かって走ってきたと思ったら。
ふわりと自分の身体が持ち上げられて、そのままぐるぐる、と2、3回回った。
それが止まって、目の前でニーッと笑ったのはもちろんフロイド先輩で。
「見たぁ!?飛んできたよぉ!」
距離的には普段よりも離れているはずなのに、いつもよりもドキドキするのはどうしてだろう。
走ってきてくれたのだろう、汗ばむ体温が伝わったからなのか。
それともその嬉しそうな表情からなのか。
「教科書に載ってるみたいなキレーな飛び方だったでしょ!」
『みっ…みま、した…!見ましたから、下ろしてっ!!』
「約束、守ってよ」
そっと私を下ろして、嬉しそうな瞳でこちらを見つめるフロイド先輩。
まだぁ?と、心なしか両手を広げてくれている気さえする。
ここで変に詰まっては、意識しているのがバレバレだ。なんとしてでも平静を装ってミッションをこなさなければならない。
『わかりました、じ、じゃあ、お祝い、です』
「ん!」
ふぅ、と吐いた息は、呆れではなく意識を解放するためのものだ。
失礼します、と呟いて、縦に大きくも横には細い体に、ぎゅ、と腕を回した。
体操着のままだからか、薄いシャツから感じる体温とか、ふと香る石鹸か何かの匂いとか。
いろんなものが私を満たしていく。正直気が気じゃなくて、すぐに離れようとしたけれど、そんな中、ふわりと私に回された腕。
『!?ふょ!?』
「いいね」
『え!?』
「ギュってするんじゃなくて、されるのって、いいね〜」
『あのっ』
「やっぱ俺、小エビちゃんのこと、好きだわ」
『!!』
「ねぇ、俺のこと好きになってよ、小エビちゃん」
『っ、』
甘い囁きに狂わされる距離感。
でも。好きなだけじゃ、どうにもできないこともあるんですよ、フロイド先輩。
私は、そっと先輩の身体を押して、その拘束を解いた。
苦しいなぁ。海の中で息をしているみたい。
それでもね、先輩。私は、先輩には世界一幸せになって欲しいんです。
だから、私は、笑って言わなくちゃいけないの。
『先輩のことは、好きですよ』
ね、先輩。好きです。大好きです。だからもう、その言葉は私には言わないで。
いつかきっと、先輩には、この世界で暮らす素敵な相手が見つかるから。
「チェ…またそれかよ」
『はい!お祝いは終わり!次の授業も頑張ってくださいね!』
追いついてきたジェイド先輩が何か言いたげに口を開いたけれど、ぺこ、とお辞儀だけ返しておいた。
「小エビちゃんのばか!」
『ばかって…ふふ、どうせばかですよー!次の授業も、頑張ってくださいね!』
それだけ言って、いつものように先に行ってしまったみんなを追いかけるために、フロイド先輩に背を向けた。
「そんなの、そんな顔で言われたって…信じられるわけねーじゃん…」
その小さなセリフは、私の耳には届かなかった。
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