第1話
夢小説設定
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* * *
国木田さんと別れ、倉庫街へ来たボクたち。ボクと治は隣り合ってコンテナに背中を預け、少し離れたところに敦君は膝を抱えて座っている。
治は愛読書の『完全自殺読本』を読んでいる。確か内容全部暗記してるって言ってた筈だけど……。
読んでるのがアレなのはタイトルで解るのか、チラッと敦君を見るとドン引きしてた。そのままの君でいてね。
「……本当にここに、現れるんですか?」
『本当だよ』
ボクの言葉を信じ切れないのか、じっとボクたちを見る敦君。
「心配いらないよ、虎が現れても私たちの敵じゃない。こう見えても『武装探偵社』の一隅だ」
『そうだよ、いざとなったら治も君もボクが守るから!』
「いや私にも守らせてよ花圃ちゃん」
なんでだよ、守られてばっかじゃ格好つかないし。どっちかというとボクも闘いたいし。
そんなボクたちのやり取りを見て、敦君が苦笑する。
「はは、凄いですね自信のある人たちは。僕なんか、孤児院でもずっと“駄目な奴”って言われてて──
そのうえ、今日の寝床も明日の食い扶持も知れない身で。こんな奴がどこで野垂れ死んだって、
いや、いっそ喰われて死んだほうが──」
『敦君』
敦君の
突然声を掛けられて敦君は目を丸くしてる。でも今は別に関係ない。ボクは敦君の近くまで歩み寄る。
『そんな悲しくなるようなことを言わないでくれ。ボクは君と会ってまだ君の事をよく知らない。
でも、ボクにとって君は必要な人間だ。だから、そうやって自分を卑下しないで呉れ給え』
勢いに任せて、自分の気持ちをそうぶつける。そうでもしないと、彼には伝わらない。
気付けば、敦君の両手をしっかりと握っていた。それに気付いた敦君は顔を真っ赤にしている。
『ああっ、ごめん!勝手なことばっかり云って、こんな事までしちゃって』
「い、いえ大丈夫です!寧ろそう云うこと全然言われたことなかったので、ちょっと嬉しいです」
そんなボクたちのやり取りを見ていた治が、フッと笑っていた。先刻は厳しい表情をしていたから良かった。
……ッとそろそろかな、アレが現れるのは。治も天井を見上げる。
天窓の月は、まだ雲に隠れている。
「
治がそう言った途端、雲が晴れる。そこには、白銀の光を湛える綺麗な満月があった。
ガタンと何処かで大きい音がした。敦君が後ろを振り返るが、何もない。
「今……そこで物音が!」
「そうだね」
「きっと奴ですよ太宰さん、花圃さん!」
『違うよ。風で何か落ちただけ』
ボクたちはそう云うけど、敦君は聞かない。それどころか、より一層怯えて身構える。
「ひ、人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」
「座りたまえよ敦君。虎はあんな処からは来ない」
「ど、どうして判るんですか!」
「そもそも変なのだよ、敦君」
パタンと本を閉じる治。いよいよだ、虎の正体がこれでハッキリする。
「経営が傾いたからって、養護施設が児童を追放するかい?大昔の農村じゃないんだ」
『うん、そもそも経営が傾いたなら、一人二人追放したところで、どうにもならない。
半分くらい減らして他所の施設に移すよ』
「二人共、何を云って──」
そう言った直後、天窓から差し込んだ月の光が敦君を照らす。
瞬間、彼の瞳が人間のモノからネコ科のソレへと変わる。
「君が街に来たのが2週間前、虎が街に現れたのも2週間前」
敦君の姿が、月の逆光でシルエットになる。そしてそれは、ゆっくりと人間から異形の姿に変化する。
『君が鶴見川にいたのが4日前、同じ場所で虎が目撃されたのも4日前。偶然にしては出来過ぎている』
「国木田君が云っていただろう、『武装探偵社』は異能の力を持つ輩の寄り合いだと。
巷間には知られていないが、この世には異能の者が少なからずいる」
『その力で成功する者もいれば──力を制御できず身を滅ぼす者もいる』
「大方、施設の人は虎の正体を知っていたが、君には教えなかったのだろう。
──君だけが解っていなかったのだよ。君も『異能の者』だ」
「『現身に飢獣を降ろす月下の能力者』」
そう言い切って見ると、敦君の姿はもはや人間ではなく、一頭の白虎へと変化していた。