第1話
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* * *
それからボク達は、近くの茶屋に来ていた。隣に座ってる敦君はガツガツと、物凄い勢いで茶漬けを食べている。
……本当に三十杯平らげてしまうのでは?男の子ってすごい。
「おい、太宰。それに花圃、早く仕事に戻るぞ。」
『そう云えば、今日は未だ一つ仕事が残ってましたね』
「あぁ、そうだ。だのに太宰、貴様というやつは、仕事中に突然「良い川だね」とか云いながら
川に飛び込む奴がいるか!おかげで見ろ、予定が大幅に遅れてしまった」
「国木田君は予定表が好きだねぇ」
「これは予定表ではない!!理想だ!!我が人生の道標だ」
国木田さんが机に叩き付けたのは、一冊の手帳。その表紙には、「理想」と書かれている。
「そしてこれには『仕事の相方が自殺
「ぬんむいえおむんぐむぐ?」
口に目一杯茶漬けを頬張ってる敦君が国木田さんに問う。……ちょっと待って、何て言ってるの?
「五月蠅い、出費計画の
「んぐむぬ?」
「だから仕事だ!!俺と太宰と花圃は軍警察の依頼で猛獣退治を──」
「君達なんで会話できてるの?……花圃ちゃん解る?」
治もボクと同じだった。否、全然解らない。
* * *
「はー、食った!もう茶漬けは十年見たくない」
「お前……。人の金でこれだけ食っておいて、よくもまあぬけぬけと」
茶漬けを食べ終わった敦君。山積みになっている椀を数えたら、きっかり三十杯だった。
食欲ってすごーい(棒読み)。
「いや、ほんっとーに助かりました!
孤児院を追い出され横浜に出てきてから、食べるものも寝るところもなく。
……あわや斃死かと」
「ふうん。君、施設の出かい」
「出というか……追い出されたんです。経営不振だとか、事業縮小だとかで」
『うわぁ……』
この横浜に、無一文で追い出すなんて……。その孤児院、焼き払いたい。←
「それは、薄情な施設もあったものだね」
「おい太宰、花圃。俺たちは恵まれぬ小僧に慈悲を垂れる篤志家じゃない、
仕事に戻るぞ」
えぇ、この子放っておくんですか、国木田さん?あんな身の上話聞いた上で?
薄情者ですか?
「善いんですよ、花圃さん。……それで、お三方は何の仕事を?」
「なァに……探偵さ」
……治、そんなキメ顔で君が言っても胡散臭いだけだよ。敦君なんて、ポカンとしちゃってるし。
『一口に探偵と云っても、ペット探しや不貞調査じゃないよ』
「あァ、斬った張ったの荒事が領分だ。異能力集団『武装探偵社』を知らんか?」
そう、ボクたちは知る人ぞ知る、『武装探偵社』。
軍や警察に頼れないような、危険な依頼を専門とする探偵集団。
昼の世界と夜の世界、その
ボクを含め、その社員の多くが異能の力を持つ、『能力者』だ。
ふと、治の視線の先を見ると、それは鴨井だった。まさかコイツ……。
「あの鴨井、頑丈そうだね……。たとえるなら、人間一人の体重に耐えられそうな位」
『やっぱりか、聞きたくなかった』
「立ち寄った茶屋で首吊りの算段をするな」
「違うよ、首吊り健康法だよ。知らない?」
そんな健康法あってたまるか。これ絶対国木田さん信じるやつじゃん……。
「何、あれ健康にいいのか?」
ほら、信じちゃったよ……。手帳にメモしてるし……。
『国木田さん、それ太宰の嘘ですよ』
本当のことを告げると、国木田さんは万年筆をベキッとへし折った。そして治に掴み掛かった。
ホントこういう真面目な人をからかうのが好きだなぁ、コイツは。
「そ、それで探偵のお三方の、今日のお仕事は」
「虎探し、だ」
「……虎探し?」
それ、確か軍警からの機密だったはずですけど……。一般人に言っていいの?
…気のせいか敦君の声の
『最近、街を荒らしている“人食い虎”』だよ。倉庫を荒らしたり、畑の作物を食ったり好き放題』
「あァ、最近この近くで目撃されたらしいのだけど──」
ガタッ
その音は、敦君が椅子から転げ落ちた音だった。うっすら冷や汗もかいている。
「ぼ、ぼぼ、僕はこれで失礼します」
「待て」
腰を抜かしながらシャカシャカと逃げようとする敦君。だが、それを国木田さんが猫みたいにガシッと掴み上げる。
「む、無理だ!奴──奴に人が敵うわけない!」
「貴様、“人食い虎”を知っているのか?」
「あいつは僕を狙ってる!殺されかけたんだ!この辺に出たんなら、早く逃げないと──」
敦君が言い終わる前に、国木田さんが首からパッと手を放す。そして敦君の右手首をガッと掴み、足を素早く払う。
そして敦君をそのまま床に押さえつける。とても痛そうだ。
「云っただろう、武装探偵社は荒事専門だと。茶漬け代は腕一本か、もしくは凡て話すかだな」
「…………っ!」
流石にこれは不味い。これじゃ脅迫になりかねない。
『国木田さん、やり過ぎです。それ、もう尋問ですよ』
「花圃ちゃんの云う通りだよ、国木田君。君がやると、情報収集が尋問になる。
社長にいつも云われてるじゃないか」
「………ふん」
ボクたちが言うと、国木田さんは渋々敦君を離した。野次馬もだいぶ集まってるから危なかった。
取り敢えず、虎について敦君から聞かなきゃ。
『………で、聞かせてくれないかな?』
「…………うちの孤児院は、あの虎にぶっ壊されたんです。畑も荒らされ、倉も吹き飛ばされて──
死人こそ出なかったけど、貧乏孤児院がそれで立ち行かなくなって、口減らしに追い出された」
追い出されるとき、彼は職員の大人たちに穀潰しだの、どこにもお前の居場所はないだの、
極め付けにはこの世の邪魔なんて言われたとの事。
「…………」
「……そりゃ災難だったね」
『酷い……』
「それで小僧、“殺されかけた”と云うのは?」
「あの人食い虎──孤児院で畑の大根食ってりゃいいのに、ここまで僕を追いかけてきたんだ!」
敦君曰く、孤児院を出てから、鶴見川のあたりをふらふらしていた時、ふと近くの粗大ゴミの姿見を覗いたとき
自分の顔が映ると同時に、虎の顔を見た──と。
「あいつ、僕を追って街まで降りてきたんだ!空腹で頭は朦朧とするし、どこをどう逃げたのか」
「それ、いつの話?」
「院を出たのが2週間前、川であいつを見たのが──4日前」
「確かに、虎の被害は2週間前からこっちに集中している」
『それと、4日前に鶴見川で虎の目撃証言もあります』
………ん?敦君の証言と同じだ。てことは、まさか……。
チラッと治に目を向けると、考え込んでいた。気付いたかな?
「敦君、これから暇?」
物凄い良い笑顔で聞いた治。……嫌な予感しかしない。
「……猛烈に嫌な予感がするのですが」
うん、それ当たり。災難だなあ。
「君が“人食い虎”に狙われてるなら好都合だよね。虎探しを、手伝ってくれないかな」
「い、いい、嫌ですよ!それってつまり“餌”じゃないですか!誰がそんな「報酬出るよ」」
あ、報酬に反応した。まぁ無一文だもんね……。
「国木田君は社に戻って、この紙を社長に」
「おい、三人で捕まえる気か?まずは情報の裏を取って──」
「いいから」
『大丈夫ですよ、太宰の異能があれば大体解決しますから』
ボクがそう云うと、国木田さんは引き下がってくれた。ありがとうございます。
「ち、ちなみに報酬はいかほど?」
「こんくらい」
治が敦君に別のメモを見せる。その額に敦君は固まった。
お金ってすごい。