第1話
夢小説設定
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* * *
「ハァ……ハァ……」
『御免ね、ボクが動けなかったばかりに』
「ゲホッ……花圃さんが謝ることないですよ」
敦君の背中を擦りながら言うと、彼は許してくれた。優しいなぁ…。
取り敢えず岸に引っ張り上げたけど、如何しよう……。まぁ、報告するか。
携帯を取り出して、文字を打ち込む。此れで善し。
すると、先刻川を流れていた件の男が目を覚まし、ユラリと起き上がった。不気味すぎ。
「あ、あの…川に流されてましたけど……大丈夫ですか?」
「──助かったか。………………ちぇっ」
「え?(今、ちぇって云ったかこの人!?)」
「君かい、私の入水を邪魔したのは?」
「邪魔なんて…僕はただ助けようとしただけで──入水?」
『またかよ……』
ホント碌な事しないな、コイツ。今度は入水……。
ダメだ、自殺歴を確認してたら頭が痛くなってきた。やめよう。
「知らんかね、入水。つまり自殺だよ」
「は?」
コラコラ、困らせるな。敦君の口が開いたままじゃないか。
「私は自殺しようとしていたのだ。それを君が余計なことを──」
『自殺しようとしていたら、助けるのが道理だろう。普通』
「ん?──花圃ちゃんじゃないか!如何してこんなところに?」
『君を引き摺ってでも連れて来いと云われて捜してたんだよ。まったく、恩人に向かってその言い方はないだろう』
人としてブレていることを宣っていたから、少し窘めた。それでやっと、ボクの存在に気付いたようだ。
頼むから、人前で自殺をするんじゃない……。
「確かに花圃ちゃんの言う通りだ。人に迷惑をかけないクリーンな自殺が私の信条だ。だのに君に迷惑をかけた。
これは此方の落ち度、何かお詫びを──」
ぐうぅぅぅ
今の音は敦君の腹の虫だ。アレだけじゃやっぱ駄目か。
「……空腹なのかい?少年」
「じ、実はここ数日何も食べてなくて……」
ぐぅううう
「奇遇だな、私もだ。ちなみに財布も流された」
『ゲッ、マジか』
まぁ、あっても水で使い物にならないだろうと思うが。敦君はそうじゃないらしい。
「ええ?助けたお礼にご馳走っていう流れだと思ったのに」
「?」
「“?”じゃねえ!」
ドンマイ、敦君……。ボクは奢るつもりだけど。
『代わりにボクが奢ろうか?』
「い、いえ…。先刻の借りも返してないのに、そんな……「おォーい」」
対岸から、威勢のいい声がした。やっと来てくれたか。
「こんな処に居ったか唐変木!」
「おー、国木田君、ご苦労様」
『遅いですよ、国木田さん』
「花圃も居ったか。……なにが、ご苦労様だ!苦労は凡て、お前の所為だこの自殺
お前はどれだけ俺の計画を乱せば──」
「そうだ君、良いことを思いついた。彼は私の同僚なのだ。彼に奢ってもらおう」
「へ?」
「人の話を聞けよ!」
国木田さんの怒声を完全に無視。本当にお前という奴は……。
「君、名前は?」
「中島……敦ですけど」
「では、ついて来たまえ、敦君。何が食べたい?」
「はぁ……、あの……、茶漬けが食べたいです」
茶漬けかぁ……。欲がないけど、悪くないかな。
それを聞いて、ぷっと笑い出した。
「はっはっは!餓死寸前の少年が茶漬けを所望か!良いよ、国木田君に三十杯くらい奢らせよう」
「俺の金で勝手に太っ腹になるな、太宰!」
「……太宰?」
「ああ、私の名だよ」
風がブワリと吹き抜ける。それによって彼の砂色のコートがはためく。
「私の名は太宰。太宰治だ」
その日、きっと彼は運命に出会った。