一章


 
 ずっと昔からここで暮らしていたような気がした。けれど、それは審神者の気のせいだ。なぜなら確かな力強さをもって審神者を目覚めさせたこの光は、本丸に引っ越してから彼女が目にする初めての朝日だから。
 朝日を透かして欄間が見える。早起きの蝉たちがもう鳴いている。眠気はすっかり覚めたが、眩しさに耐えきれずに掛け布団の中に潜り直した。頭まで引っ込めてすぐ、誰かの体のどこかを蹴ったのが分かった。和室十二畳ぶん余すことなく敷き詰められた布団は海のように広々としていて快適に眠れそうだったのだが、実際に本丸の全員で大雑把に眠るとなると体の大きな刀剣男士が幅をとり、こうして誰かを蹴飛ばしてしまうことが多々あるくらいには窮屈だったのだ。
 本丸で迎える初めての朝。新たな世界に踏み出すはずの一歩目で誰かを足蹴にしたことに、審神者は声をたてて笑った。新しさへの期待は全身からあふれ出るばかりだった。声は布団の中だけで反響し、音が止んでから、遠くで鳩の鳴き声と水音が聞こえた。
 空調はタイマーの指示で深夜には働くのをやめていて、夏季相当の暑さが布団の中に押し寄せる。暑さごと持ちあげながら体を起こし、そのまま布団の上に座って伸びをした。一面に広がっている厚い掛け布団や薄い毛布や枕は色も種類もバラバラで、無秩序に広がった寝具が荒れた波を思わせる。波にも、岩礁みたく眠っている刀剣男士にもつまずかないよう注意しながら進む。一歩、二歩と渡ったところで、しかし早くも足をとられた。体の小さな審神者には高すぎる波だった。倒れ込んだ審神者の胸に布団越しの固い塊がぶつかる。うめき声が下から聞こえた。
 岩と化していた刀剣男士の誰かが審神者の体の下で動き、その動きに合わせて審神者はまた荒波に放り出される。岩に目をやると、それは髪をぼさぼさにした蛍丸だった。
「おはよう」寝転がったままの審神者が始まりの挨拶をする。
「重いよ」蛍丸はあくびをし終えた口の形で言った。「今何時」
 時計を見る。「六時半」その返事を無表情で流した蛍丸は立ち上がって、器用に波と審神者を乗り越えていった。慌てて蛍丸に着いていく。
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