はじまりはここから
「ポケモンは好きですか?」
宝探しという課外授業で目指す場所がなかった私。
ペパーが、ネモが、ボタンが、このパルデアにこんな場所があるんだよ、と教えてくれた。
ヌシがいる場所に行ってみよう。幻のスパイスってどんなものなんだろう。
スター団のアジトに行ってみよう。どんな人が何故そこにいるのか知りたいから。
ジムバッジを集めてみよう。ネモが本気で私と戦ってくれるのなら。
宝が何なのかわからなくてないものを探すような気持ちだった私に三人が教えてくれた三つの目標。
そのおかげで私はこの広いパルデアで途方にくれずに済んだ。
アカデミーからとりあえず一番近いジムに行ってみようと思ったらそこに辿り着くまでにもたくさんのポケモンとの出会いがあった。
知らない景色にわくわくした。道のない道を歩いて少し遠回りにジムを目指した。
初めてのジムバトル勝った時の興奮はきっとずっと忘れない。
ここに辿り着くまでに強くなった仲間たちを認めてもらえた。もっと強いポケモンに挑める私になれた、そう思えた。
だからペパーに教えてもらったヌシがいる場所を目指すことができた。
少し怖かったけどバッチを見ると頑張れる気がした。
ヌシは大きくて強かったけれど1人じゃなかったから私たちならきっと大丈夫と思えた。
ペパーの作ってくれたサンドウィッチはとても美味しくて、喜ぶミライドンを見て少し仲良くなれたことが嬉しかった。
スマホロトムに授業の連絡が来たのはそんな頃でアカデミーに授業を受けに戻った。タクシーって便利だなあって初めて思った。
授業は面白くて好き。
先生達が教室に揃った私達を見て嬉しそうに笑ってくれるから。
知らないことを学んで勇気を出して答えを発表した時に正解なら先生が褒めてくれる。
間違っていても正しい答えを教えてくれる。
みんなの好奇心に満ちた教室の空気がすぐに大好きになった。
新しい授業を受けられるようになるたびに嬉しくて、そんな時にふと思った。
アカデミーにこない生徒のことを。
風紀を乱すスター団をどうにかしなきゃなんて強い思いは正直なかったし、カシオペアの言ってることはわからないことも多くて。
わからないことを知る為には会いに行かなきゃって思った。
カシオペア、そう名乗ったあの子が私に声をかけてくれて、きっとその時は私以上に知りたいという気持ちがあったであろう人が協力してくれた。
不思議な三人組の進んだ道。
私は最初流されている感があったけれど進んで良かった。そのことに気づくのに少し時間はかかったけれど。
三人が教えてくれた道は誰かの大切なものに触れていく道だったと思う。
幻のスパイスを探す道も簡単な道じゃなかった。
ヌシはどんどん強くなるしスパイスのある場所に辿り着くのも大変だった。
でもペパーの大切な家族が元気になっていくのが嬉しくて笑顔を見るたびに疲れも吹き飛んじゃって。
私はいつだって誰かのキラキラと眩しいとても大切なものを見せてもらっていた。
三つの道から始まって最後の道。
ネモが教えてくれたチャンピオンへの道。
不思議とネモに声をかけてもらうたびに自分はもっと強くなれると思えた。
たくさんのことを教えてくれて最初から近くにいるようで本当は遠いところにいる友達。
遠いゴールで彼女はいつも笑って応援してくれた。
こっちにおいで、もっと楽しいよとずっと声をかけ続けてくれた。
バトルが楽しい、強くなることが嬉しい。
それを教えてくれたネモのいる場所を目指して私はこの道を進んだ。
私は八つのバッチを集めてポケモンリーグに挑んだ。
いきなり面接が始まって正直ビックリした。
面接官はジムチャレンジ中に何度か出会った人。
『まいど!チリちゃんやで』
第一印象は綺麗な人。
二度目に会った時にはきっとこの人はきっとすごく強いんだろうなと思った。
ネモやハッサク先生と同じ。目の前にいるのに今は挑めない遠いところにいる強い人。
でも、やっとここまでこれた。私はこの人に挑める場所まで来た。
ジムバッチはリーダー達が私を認めてくれた証。強さの証。
ここまで来た私をありのままを伝えよう。
小さく深呼吸して私は面接官の前の席についた。
質問はシンプルだった。
どうやってここに来たのか。
何の為にここに来たのか。
何故チャンピオンになりたいのか。
最も印象に残っているジムの思い出。
初めて出会ったポケモン。
私は質問に答えるうちに緊張がほぐれていくのがわかった。
もっと聞いて欲しいと思った。
こんなに幸せな気持ちになれる面接は初めてだった。
だって私の心、大切な思い出を聞いてくれているのだから。
チャンピオンになる為に必要な正しい答えはわからなかったけれど私はありのまま答えることができる問いかけがすごく嬉しかった。
そして最後の質問。
「ポケモンは好きですか?」
緩んでいた自分の顔がえ、と一瞬固まった。
だって答えは決まっている。
私が一言答えるとチリさんは目を閉じてしばらく黙ってしまった。
初めて面接で焦った瞬間だった。
それ以外にないと思って答えたけれど間違った?いやそんなはずはない。これが間違っているならチャンピオンとは何を意味するのか。
ぐるぐると考える私を見て彼女は初めて笑ってくれた。
面接中のお仕事の笑顔ではなくジムチャレンジ中に出会った時に見せてくれたあの優しい笑顔で。
「お疲れさん」
「え、はい」
私はまだ少し混乱していてその言葉の意味が面接の合否どちらを意味するのかわからなかった。
「おめでとさん。一次試験、面接テスト合格や」
「ありがとう…ございます」
まだ一戦もバトルをしていないのにどっと押し寄せる何かがあった。
実技テストの為に奥の部屋に進むように指示をもらった私は立ち上がって進もうとして足を止めた。
これまで聞いてくれた彼女にどうしても伝えたかった。
きっとこの面接は挑戦者みんな同じ質問を受けているんだと思う。
彼女も仕事として私の話を聞いてくれて、先に進むことを許してくれたんだってわかっているけれど。
これ以上のやり取りは必要ないってわかっているけれど聞いて欲しかった。
「チリさん」
「ん、なんや」
私がそのまま奥の部屋に進むと思っていたのだろう。
ほんの少し驚いたような表情でこちらを見てくれた。
「私、ポケモン大好きです」
「さっき言うてたやんか。どないした?」
「それだけじゃ足りないなって思ったので……初めてポケモンと一緒にパルデアの色んな場所に行って色んな人と出会ってポケモンと比べられない大好きなものが増えたんです」
「言っても良いですか」という気持ちで目を合わせると彼女も目を合わせて笑ってくれた。
気のせいかもしれないけれど「言うてみ?」って声が聞こえるような表情だった。
「友達やアカデミーの先生達、ジムリーダーや街の人たち。みんながポケモンと一緒に生きてる姿を見てるとすごく幸せな気持ちなるんです。だからポケモンは大好き。同じくらいポケモンと仲良く生きていく人たちも大好きなんです。すみません!以上です」
言い切って私は頭を下げた。
ただ言いたいことを言ってしまった。
速やかに奥の部屋に進もう。余計なことを言って面接合格が取り消しならないと良いけれど。
「ふーん、ポケモンだけやなくてヒトも好きやってことやね」
「はい」
「チリちゃんも?」
「え」
「チリちゃんのことも大好きなんかなあって?」
顔を上げるとニコーっと笑うチリさんが自分を指差していた。
チリさんのこと大好き?
自分に問いかけて出た答えをそのまま口にした。
「きっと好きになると思います」
「きっと?」
バトルの楽しさを最初に教えてくれたのはネモ。
ネモはとても強いから挑むにはコツコツと強くなるしかなくて。
リーグに辿り着くまでにたくさんのトレーナーとバトルをした。
またバトルをしようと声をかけてくれた人がいた。ポケモンに「お疲れ様、ありがとう」と笑っている人がいた。
みんなポケモンが好きなんだ。
だからバトルって楽しいんだ。きっと本気のネモと戦ったら私はネモのことをもっと好きになる。
バトルはどれだけポケモンが大好きか伝えられる。相手のポケモンを想う気持ちを知ることができる。
だから
「私のいっぱいの大好きを込めてチリさんに挑みます。だからチリさんの大好きを私に教えてください」
チャンピオンになるための面接にポケモンが好きか?と聞くことが決まっているのならきっとこの大好きな気持ちも強さになるはずだから。
四天王の強さもきっとポケモンへの大きな愛情があるからだと思うから。
伝えたいです。知りたいです。
きっとその先にあなたをもっと好きになる未来がある。
「思てた以上に熱いんやなあ。そこまで言われたらチリちゃん負けへんで?元々勝つつもりやけど」
「私も負けられません」
「ほな準備して奥に向かいや。四天王との連戦は甘ないで」
「はい、ありがとうございました!」
もう一度頭を下げて私は部屋へと向かう。
入ってしまった部屋の奥の扉を見て深呼吸をする。
この部屋を出るのは四天王全員に勝ったときなんだ。
もうすぐだよ、ネモ。
後ろからやってきたチリさんに驚いて
「て、ええ!?最初はチリさんなんですか?」
「せやでー」
と言うやり取りになるのはこの後すぐ。
(多分、本当の始まりはここから)
なんやあの子は。
『きっと好きになると思います』
『チリさんの大好きを教えてください』
四天王としてポケモンへの愛情でも負けるつもりはこれっぽちもない。
ただ、あの子の目が今までの挑戦者とは違う輝きに見えた。
戦った相手をもっと好きになれるのが嬉しいとキラキラして。
挑戦者のくせにまるでこちらに両手を広げているような。
これから自分はあの子に心の中をさらけ出すことになるのか、いやポケモンバトルでお互いのポケモンへの愛情をぶつけるのはよくあることや。
あることやねんけど。
「なんやねん……この微妙に恥ずかしい感じは」
パンと軽く頬を叩いて気合いを入れ直す。
相手はトップも期待してるトレーナー油断はできん。
「チリちゃんの本気の大好きぶつけたろうやないか」
宝探しという課外授業で目指す場所がなかった私。
ペパーが、ネモが、ボタンが、このパルデアにこんな場所があるんだよ、と教えてくれた。
ヌシがいる場所に行ってみよう。幻のスパイスってどんなものなんだろう。
スター団のアジトに行ってみよう。どんな人が何故そこにいるのか知りたいから。
ジムバッジを集めてみよう。ネモが本気で私と戦ってくれるのなら。
宝が何なのかわからなくてないものを探すような気持ちだった私に三人が教えてくれた三つの目標。
そのおかげで私はこの広いパルデアで途方にくれずに済んだ。
アカデミーからとりあえず一番近いジムに行ってみようと思ったらそこに辿り着くまでにもたくさんのポケモンとの出会いがあった。
知らない景色にわくわくした。道のない道を歩いて少し遠回りにジムを目指した。
初めてのジムバトル勝った時の興奮はきっとずっと忘れない。
ここに辿り着くまでに強くなった仲間たちを認めてもらえた。もっと強いポケモンに挑める私になれた、そう思えた。
だからペパーに教えてもらったヌシがいる場所を目指すことができた。
少し怖かったけどバッチを見ると頑張れる気がした。
ヌシは大きくて強かったけれど1人じゃなかったから私たちならきっと大丈夫と思えた。
ペパーの作ってくれたサンドウィッチはとても美味しくて、喜ぶミライドンを見て少し仲良くなれたことが嬉しかった。
スマホロトムに授業の連絡が来たのはそんな頃でアカデミーに授業を受けに戻った。タクシーって便利だなあって初めて思った。
授業は面白くて好き。
先生達が教室に揃った私達を見て嬉しそうに笑ってくれるから。
知らないことを学んで勇気を出して答えを発表した時に正解なら先生が褒めてくれる。
間違っていても正しい答えを教えてくれる。
みんなの好奇心に満ちた教室の空気がすぐに大好きになった。
新しい授業を受けられるようになるたびに嬉しくて、そんな時にふと思った。
アカデミーにこない生徒のことを。
風紀を乱すスター団をどうにかしなきゃなんて強い思いは正直なかったし、カシオペアの言ってることはわからないことも多くて。
わからないことを知る為には会いに行かなきゃって思った。
カシオペア、そう名乗ったあの子が私に声をかけてくれて、きっとその時は私以上に知りたいという気持ちがあったであろう人が協力してくれた。
不思議な三人組の進んだ道。
私は最初流されている感があったけれど進んで良かった。そのことに気づくのに少し時間はかかったけれど。
三人が教えてくれた道は誰かの大切なものに触れていく道だったと思う。
幻のスパイスを探す道も簡単な道じゃなかった。
ヌシはどんどん強くなるしスパイスのある場所に辿り着くのも大変だった。
でもペパーの大切な家族が元気になっていくのが嬉しくて笑顔を見るたびに疲れも吹き飛んじゃって。
私はいつだって誰かのキラキラと眩しいとても大切なものを見せてもらっていた。
三つの道から始まって最後の道。
ネモが教えてくれたチャンピオンへの道。
不思議とネモに声をかけてもらうたびに自分はもっと強くなれると思えた。
たくさんのことを教えてくれて最初から近くにいるようで本当は遠いところにいる友達。
遠いゴールで彼女はいつも笑って応援してくれた。
こっちにおいで、もっと楽しいよとずっと声をかけ続けてくれた。
バトルが楽しい、強くなることが嬉しい。
それを教えてくれたネモのいる場所を目指して私はこの道を進んだ。
私は八つのバッチを集めてポケモンリーグに挑んだ。
いきなり面接が始まって正直ビックリした。
面接官はジムチャレンジ中に何度か出会った人。
『まいど!チリちゃんやで』
第一印象は綺麗な人。
二度目に会った時にはきっとこの人はきっとすごく強いんだろうなと思った。
ネモやハッサク先生と同じ。目の前にいるのに今は挑めない遠いところにいる強い人。
でも、やっとここまでこれた。私はこの人に挑める場所まで来た。
ジムバッチはリーダー達が私を認めてくれた証。強さの証。
ここまで来た私をありのままを伝えよう。
小さく深呼吸して私は面接官の前の席についた。
質問はシンプルだった。
どうやってここに来たのか。
何の為にここに来たのか。
何故チャンピオンになりたいのか。
最も印象に残っているジムの思い出。
初めて出会ったポケモン。
私は質問に答えるうちに緊張がほぐれていくのがわかった。
もっと聞いて欲しいと思った。
こんなに幸せな気持ちになれる面接は初めてだった。
だって私の心、大切な思い出を聞いてくれているのだから。
チャンピオンになる為に必要な正しい答えはわからなかったけれど私はありのまま答えることができる問いかけがすごく嬉しかった。
そして最後の質問。
「ポケモンは好きですか?」
緩んでいた自分の顔がえ、と一瞬固まった。
だって答えは決まっている。
私が一言答えるとチリさんは目を閉じてしばらく黙ってしまった。
初めて面接で焦った瞬間だった。
それ以外にないと思って答えたけれど間違った?いやそんなはずはない。これが間違っているならチャンピオンとは何を意味するのか。
ぐるぐると考える私を見て彼女は初めて笑ってくれた。
面接中のお仕事の笑顔ではなくジムチャレンジ中に出会った時に見せてくれたあの優しい笑顔で。
「お疲れさん」
「え、はい」
私はまだ少し混乱していてその言葉の意味が面接の合否どちらを意味するのかわからなかった。
「おめでとさん。一次試験、面接テスト合格や」
「ありがとう…ございます」
まだ一戦もバトルをしていないのにどっと押し寄せる何かがあった。
実技テストの為に奥の部屋に進むように指示をもらった私は立ち上がって進もうとして足を止めた。
これまで聞いてくれた彼女にどうしても伝えたかった。
きっとこの面接は挑戦者みんな同じ質問を受けているんだと思う。
彼女も仕事として私の話を聞いてくれて、先に進むことを許してくれたんだってわかっているけれど。
これ以上のやり取りは必要ないってわかっているけれど聞いて欲しかった。
「チリさん」
「ん、なんや」
私がそのまま奥の部屋に進むと思っていたのだろう。
ほんの少し驚いたような表情でこちらを見てくれた。
「私、ポケモン大好きです」
「さっき言うてたやんか。どないした?」
「それだけじゃ足りないなって思ったので……初めてポケモンと一緒にパルデアの色んな場所に行って色んな人と出会ってポケモンと比べられない大好きなものが増えたんです」
「言っても良いですか」という気持ちで目を合わせると彼女も目を合わせて笑ってくれた。
気のせいかもしれないけれど「言うてみ?」って声が聞こえるような表情だった。
「友達やアカデミーの先生達、ジムリーダーや街の人たち。みんながポケモンと一緒に生きてる姿を見てるとすごく幸せな気持ちなるんです。だからポケモンは大好き。同じくらいポケモンと仲良く生きていく人たちも大好きなんです。すみません!以上です」
言い切って私は頭を下げた。
ただ言いたいことを言ってしまった。
速やかに奥の部屋に進もう。余計なことを言って面接合格が取り消しならないと良いけれど。
「ふーん、ポケモンだけやなくてヒトも好きやってことやね」
「はい」
「チリちゃんも?」
「え」
「チリちゃんのことも大好きなんかなあって?」
顔を上げるとニコーっと笑うチリさんが自分を指差していた。
チリさんのこと大好き?
自分に問いかけて出た答えをそのまま口にした。
「きっと好きになると思います」
「きっと?」
バトルの楽しさを最初に教えてくれたのはネモ。
ネモはとても強いから挑むにはコツコツと強くなるしかなくて。
リーグに辿り着くまでにたくさんのトレーナーとバトルをした。
またバトルをしようと声をかけてくれた人がいた。ポケモンに「お疲れ様、ありがとう」と笑っている人がいた。
みんなポケモンが好きなんだ。
だからバトルって楽しいんだ。きっと本気のネモと戦ったら私はネモのことをもっと好きになる。
バトルはどれだけポケモンが大好きか伝えられる。相手のポケモンを想う気持ちを知ることができる。
だから
「私のいっぱいの大好きを込めてチリさんに挑みます。だからチリさんの大好きを私に教えてください」
チャンピオンになるための面接にポケモンが好きか?と聞くことが決まっているのならきっとこの大好きな気持ちも強さになるはずだから。
四天王の強さもきっとポケモンへの大きな愛情があるからだと思うから。
伝えたいです。知りたいです。
きっとその先にあなたをもっと好きになる未来がある。
「思てた以上に熱いんやなあ。そこまで言われたらチリちゃん負けへんで?元々勝つつもりやけど」
「私も負けられません」
「ほな準備して奥に向かいや。四天王との連戦は甘ないで」
「はい、ありがとうございました!」
もう一度頭を下げて私は部屋へと向かう。
入ってしまった部屋の奥の扉を見て深呼吸をする。
この部屋を出るのは四天王全員に勝ったときなんだ。
もうすぐだよ、ネモ。
後ろからやってきたチリさんに驚いて
「て、ええ!?最初はチリさんなんですか?」
「せやでー」
と言うやり取りになるのはこの後すぐ。
(多分、本当の始まりはここから)
なんやあの子は。
『きっと好きになると思います』
『チリさんの大好きを教えてください』
四天王としてポケモンへの愛情でも負けるつもりはこれっぽちもない。
ただ、あの子の目が今までの挑戦者とは違う輝きに見えた。
戦った相手をもっと好きになれるのが嬉しいとキラキラして。
挑戦者のくせにまるでこちらに両手を広げているような。
これから自分はあの子に心の中をさらけ出すことになるのか、いやポケモンバトルでお互いのポケモンへの愛情をぶつけるのはよくあることや。
あることやねんけど。
「なんやねん……この微妙に恥ずかしい感じは」
パンと軽く頬を叩いて気合いを入れ直す。
相手はトップも期待してるトレーナー油断はできん。
「チリちゃんの本気の大好きぶつけたろうやないか」
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