覚醒、友の意志を継げ
あらすじ(アニメのナレーションのように読んでください)
クレイドルを征服しようと企むアモン。
その企みを阻止しようと立ち上がる赤と黒の両軍。
魔法の塔の最上階でついにアモンとの決着をつける時がきた。
だが、ダリムらによってレイ、シリウス、ルカ、セスは魔法の檻に閉じ込められてしまった。
アモンは圧倒的な魔法力を持ち、ランスロットは最後の切り札の「禁忌の魔法」で自分共々アモンを葬ろうと試みるが、無駄に終わった。
残虐非道なアモンの攻撃。
アリスの助けでそのピンチを脱してきたフェンリルだったが、激闘の末、仲間を盾に取られたフェンリルに残されたのは、最後の一発だった。
タイトル
【覚醒、友の意志を継げ】
《レイ目線》
「おい、待て、フェンリル! アモンにそれ以上、手を出すな!」
殺される、そう俺の勘が叫んでいた。
けど、目の前のフェンリルは大敵を前に、一歩も引く気はないようだった。
フェンリルが対峙するのは魔法最高権力者アモン。
魔法攻撃を何発もくらい、フェンリルの戦闘服はあちこち焼け焦げていた。
おそらく、全身負傷している。
けど、フェンリルは斜に構えて笑ってみせるだけだった。
「ノープロブレム、相棒。それにもうちょいで勝てそーだぜ。いい加減、そこから出してやるから待ってろよ。オッサン、ルカ、セスもな」
それは嘘だ。
ボロボロの身体で、残り一発しかない拳銃が手から滑り落ちそうになるのを必死に堪えてる。
とっくにフェンリルは限界を超えてる。
圧倒的不利な戦局。
仲間の俺たちがいない状況で、サシで絶対に勝てる訳がなかった。
「それに言っただろ、レイ。俺がお前の代わりに闘うって」
過去に交わした約束。
けど、こんなときにそれを出すなんて反則だろ。
「馬鹿、俺の代わりにお前が闘って死んだら意味がねぇだろ」
俺の言葉は、意地になってるフェンリルにはもう届かない。
攻撃できない俺たちをアモンが嘲笑う。
「虚勢はそれくらいにしろ黒のエース。黒のキングとクイーン達は、そこで大人しく見ているがいい。目障りなエースが朽ち果てる様をな」
(くそ、なんでこんなときに俺は何もできねえんだ。俺はなんのためにキングになった?)
体中の神経を研ぎ澄ませても、あの爆発しそうな力の源がどこにあるか掴めない。
無駄だとわかっていても、剣の柄に手をかけた。
「おっと、妙なことするのはナシね。物理攻撃はこの檻には効かない。どうせ君たちが力を合わせた所でアモン様は倒せない。ここで力の残っていないエースの最期を見届けてあげなよ」
耳障りに笑うのは、俺たちを罠に嵌めた上級魔法学者ダリムだ。
「畜生…ルカ、もう一度だ」
「うん、やってみる」
ルカが力任せに檻を大剣で薙ぎ払ったが、やはりびくともしない。
「……くそ、俺があの力を出せば、こんな奴、すぐにぶっ倒せんのに」
「レイ、早まるな。そんなことしたら、お前まで死ぬぞ」
俺が悔しげに吐き捨てると、険しい顔でシリウスが俺を諌めてきた。
「わかってる。けど、このままじゃ、フェンリルが……」
はっとしたようにルカが目を見開く。その顔は強張っていた。
「まさかフェンリルは、レイや俺たちの怒りに賭けようとしてるんじゃ……」
「どういう意味だ」
「ーーボス、それはね、フェンリルが自分の死でアタシたちの力を最大限に引き出そうとしてるってことよ。あの戦闘馬鹿…たぶん死ぬ気よ」
ここにいる全員に最悪の予感が走る。
聞いていたフェンリルが薄く笑う。
「ただじゃ、死なねーよ。仲間もアリスも俺が助けて、んで、アモンをぶっ倒す。この最強ラッキースター、フェンリル・ゴッドスピードがな」
ふと、俺の脳裏に、過去の映像が走馬灯のように流れこんできた。
初めて寄宿学校で出会ったフェンリル。
『なあ、どうやら、お前に勝てるのは俺しかいねーみてーだな。俺はフェンリル。お前、名前は?』
喧嘩ふっかけてきた上級生を全員ぶっ倒して、最後に残ったフェンリルと散々殴り合ったあと、俺たちはダチになった。
『レイ、なんでそんな大事なこと黙ってたんだ。なんで言ってくれなかった? 俺はお前のなんなんだよ。俺は相棒だろ?』
あの忌まわしい「闇に葬り去られた一日」の後、駆け寄ってきたフェンリルが俺の胸ぐらを掴み、悲痛に顔を歪ませて言った。
なんで、お前のほうが辛そうな顔してんだよって、思うくらい。
『俺の相棒はこんなもんじゃねえはずだ。そうだろ、レイ。俺を幻滅させんな…』
キングになった俺が迷いそうになったとき、いつだってフェンリルは俺を叱咤してくれた。
『おーい、レイ。メシ食い行こうぜ』
喧嘩友達から立場がキングとエースに変わっても、ダチの頃と変わらないフェンリル。
その好戦的な瞳に、ぎらついた光を宿して、戦いの最前線に立つ。
その背中を見るのが、お前が隣りにいるのが、いつからか当たり前になってた。
お前といると、心がわくわくして、気づけば――笑ってた。
「フェンリル、俺は許さねえよ。こんな下衆野郎に、相棒のお前がやられるなんて」
俯いていた俺は、腹の底から怒りを覚えて、殺気を込めてアモンを睨みつけた。
同じくアモンを見据えていたフェンリルが拳銃を構える。
「おいおい、どーした? 早くやろーぜ、アモン。来ねーなら、こっちから行くぜ」
「愚かな。黒のエース、さらばだ。――死ね」
アモンが振りかざした手から立て続けに魔法攻撃が放たれた。
フェンリルの拳銃が黒光りする。
銃口から火を噴いた最後の一発。
アモンのフードを撃ち抜いた。
(フェンリル、お前の死に場所はここじゃねえ!)
俺の中で、何かが焼き切れた。
握りしめていた拳に見えない熱が瞬時に集まる。
「まずいな。アモン様、早くエースに留めを!」
焦ったダリムの声。
けれど、俺はもう止まらなかった。
ありったけの力が爆発し、ダリムごと檻を切り裂く。
その直後、世界の音が全て消える。
俺から放たれた光に、なにもかもが飲み込まれホワイトアウトする。
檻が破れ、自由になった身体で俺たちはフェンリルの元へ走った。
光と煙幕で何も見えない。でも、その先にフェンリルがいる。
身体が重い、なんでこんなに足が遅いんだ? 早くしねえと、フェンリルが死んじまう。間に合えよ、くそ。
残響の中、やっとフェンリルの姿が見えた。俺と目が合うと、フェンリルはにやりと微笑んだ。――まるで、勝ち誇ったように。
「レイ、あとは頼んだ――あいつのことも」
その直後、何かがフェンリルの身体を貫いた。
背後でシリウスとルカが息を呑む。
ショックで顔をひきつらせているセス。
「フェンリル…!!」
悲鳴をあげたのは、あいつが惚れてる女――アリスだった。
その瞳は、涙が溢れていた。
ゆっくりとフェンリルの身体が宙を舞い、弧を描いて落ちていく。
胸から花びらのような血を撒き散らして。
それは、薔薇よりも濃い、赤い死の色。
地面に叩きつけられ、フェンリルの身体は一度だけ、跳ねた。
それから、動かなくなる。
(フェン、リル…?)
いたずらに風が巻き上げ、そこにいた俺たちの髪と軍服を儚く揺らす。
「たったいま、黒のエースは死んだ」
ぼやけた視界の端で、辛うじて立っていたアモンがせせら笑う。
大の字でくたばってるフェンリル。
膝をつき、俺はフェンリルの頭を搔き抱いた。
瞳を閉じたフェンリルは、あまりにもあどけなくて、ただ眠ってるように見えた。
「おい、嘘だろ…? 俺は騙されねえよ」
手で口と鼻を覆ってやる。
息が出来なくて苦しいって、飛び起きるのを期待して。
フェンリルの長い睫毛は、ぴくりとも動かない。
「んだよ。さっさとギブアップしろって。死んだフリなんて馬鹿な真似はもう……」
本当は怖くてたまらなかったけど、痛ましい胸の傷に耳を寄せた。
心臓の音が聞こえることを祈った。
……
景色が全てセピア色に変わる。
ああ、こいつ……もう、ここに居ねえのかよ。
そう、思った瞬間。
俺の瞳から、涙が流れてた。
「フェンリル……っ、なんで……だよ。お前は最強のラッキースターじゃなかったのかよ」
全身が震える。こんなに怒りで震えたのは生まれて初めてだった。こんなに誰かを憎いと思ったのも。
「おお、黒のキングが泣くとは。黒のエースめ、最後に面白いものを見せてくれた。だが、悲しむことはない。すぐにお前達も死ぬのだ。本当のフィナーレはこれからだ」
「俺は、俺が許せねえ……!」
フェンリルを横たえ、剣を抜き放ち、俺はアモンに向かって疾走した。
俺に続くように、シリウス、ルカ、セスが駆けてくる。
自らの全てを賭けて。
たとえ、勝ち目のない戦いだとしても、俺は友の意志を継ぐ――黒のキングとして。
自由は黒き翼の元に。
クレイドルを征服しようと企むアモン。
その企みを阻止しようと立ち上がる赤と黒の両軍。
魔法の塔の最上階でついにアモンとの決着をつける時がきた。
だが、ダリムらによってレイ、シリウス、ルカ、セスは魔法の檻に閉じ込められてしまった。
アモンは圧倒的な魔法力を持ち、ランスロットは最後の切り札の「禁忌の魔法」で自分共々アモンを葬ろうと試みるが、無駄に終わった。
残虐非道なアモンの攻撃。
アリスの助けでそのピンチを脱してきたフェンリルだったが、激闘の末、仲間を盾に取られたフェンリルに残されたのは、最後の一発だった。
タイトル
【覚醒、友の意志を継げ】
《レイ目線》
「おい、待て、フェンリル! アモンにそれ以上、手を出すな!」
殺される、そう俺の勘が叫んでいた。
けど、目の前のフェンリルは大敵を前に、一歩も引く気はないようだった。
フェンリルが対峙するのは魔法最高権力者アモン。
魔法攻撃を何発もくらい、フェンリルの戦闘服はあちこち焼け焦げていた。
おそらく、全身負傷している。
けど、フェンリルは斜に構えて笑ってみせるだけだった。
「ノープロブレム、相棒。それにもうちょいで勝てそーだぜ。いい加減、そこから出してやるから待ってろよ。オッサン、ルカ、セスもな」
それは嘘だ。
ボロボロの身体で、残り一発しかない拳銃が手から滑り落ちそうになるのを必死に堪えてる。
とっくにフェンリルは限界を超えてる。
圧倒的不利な戦局。
仲間の俺たちがいない状況で、サシで絶対に勝てる訳がなかった。
「それに言っただろ、レイ。俺がお前の代わりに闘うって」
過去に交わした約束。
けど、こんなときにそれを出すなんて反則だろ。
「馬鹿、俺の代わりにお前が闘って死んだら意味がねぇだろ」
俺の言葉は、意地になってるフェンリルにはもう届かない。
攻撃できない俺たちをアモンが嘲笑う。
「虚勢はそれくらいにしろ黒のエース。黒のキングとクイーン達は、そこで大人しく見ているがいい。目障りなエースが朽ち果てる様をな」
(くそ、なんでこんなときに俺は何もできねえんだ。俺はなんのためにキングになった?)
体中の神経を研ぎ澄ませても、あの爆発しそうな力の源がどこにあるか掴めない。
無駄だとわかっていても、剣の柄に手をかけた。
「おっと、妙なことするのはナシね。物理攻撃はこの檻には効かない。どうせ君たちが力を合わせた所でアモン様は倒せない。ここで力の残っていないエースの最期を見届けてあげなよ」
耳障りに笑うのは、俺たちを罠に嵌めた上級魔法学者ダリムだ。
「畜生…ルカ、もう一度だ」
「うん、やってみる」
ルカが力任せに檻を大剣で薙ぎ払ったが、やはりびくともしない。
「……くそ、俺があの力を出せば、こんな奴、すぐにぶっ倒せんのに」
「レイ、早まるな。そんなことしたら、お前まで死ぬぞ」
俺が悔しげに吐き捨てると、険しい顔でシリウスが俺を諌めてきた。
「わかってる。けど、このままじゃ、フェンリルが……」
はっとしたようにルカが目を見開く。その顔は強張っていた。
「まさかフェンリルは、レイや俺たちの怒りに賭けようとしてるんじゃ……」
「どういう意味だ」
「ーーボス、それはね、フェンリルが自分の死でアタシたちの力を最大限に引き出そうとしてるってことよ。あの戦闘馬鹿…たぶん死ぬ気よ」
ここにいる全員に最悪の予感が走る。
聞いていたフェンリルが薄く笑う。
「ただじゃ、死なねーよ。仲間もアリスも俺が助けて、んで、アモンをぶっ倒す。この最強ラッキースター、フェンリル・ゴッドスピードがな」
ふと、俺の脳裏に、過去の映像が走馬灯のように流れこんできた。
初めて寄宿学校で出会ったフェンリル。
『なあ、どうやら、お前に勝てるのは俺しかいねーみてーだな。俺はフェンリル。お前、名前は?』
喧嘩ふっかけてきた上級生を全員ぶっ倒して、最後に残ったフェンリルと散々殴り合ったあと、俺たちはダチになった。
『レイ、なんでそんな大事なこと黙ってたんだ。なんで言ってくれなかった? 俺はお前のなんなんだよ。俺は相棒だろ?』
あの忌まわしい「闇に葬り去られた一日」の後、駆け寄ってきたフェンリルが俺の胸ぐらを掴み、悲痛に顔を歪ませて言った。
なんで、お前のほうが辛そうな顔してんだよって、思うくらい。
『俺の相棒はこんなもんじゃねえはずだ。そうだろ、レイ。俺を幻滅させんな…』
キングになった俺が迷いそうになったとき、いつだってフェンリルは俺を叱咤してくれた。
『おーい、レイ。メシ食い行こうぜ』
喧嘩友達から立場がキングとエースに変わっても、ダチの頃と変わらないフェンリル。
その好戦的な瞳に、ぎらついた光を宿して、戦いの最前線に立つ。
その背中を見るのが、お前が隣りにいるのが、いつからか当たり前になってた。
お前といると、心がわくわくして、気づけば――笑ってた。
「フェンリル、俺は許さねえよ。こんな下衆野郎に、相棒のお前がやられるなんて」
俯いていた俺は、腹の底から怒りを覚えて、殺気を込めてアモンを睨みつけた。
同じくアモンを見据えていたフェンリルが拳銃を構える。
「おいおい、どーした? 早くやろーぜ、アモン。来ねーなら、こっちから行くぜ」
「愚かな。黒のエース、さらばだ。――死ね」
アモンが振りかざした手から立て続けに魔法攻撃が放たれた。
フェンリルの拳銃が黒光りする。
銃口から火を噴いた最後の一発。
アモンのフードを撃ち抜いた。
(フェンリル、お前の死に場所はここじゃねえ!)
俺の中で、何かが焼き切れた。
握りしめていた拳に見えない熱が瞬時に集まる。
「まずいな。アモン様、早くエースに留めを!」
焦ったダリムの声。
けれど、俺はもう止まらなかった。
ありったけの力が爆発し、ダリムごと檻を切り裂く。
その直後、世界の音が全て消える。
俺から放たれた光に、なにもかもが飲み込まれホワイトアウトする。
檻が破れ、自由になった身体で俺たちはフェンリルの元へ走った。
光と煙幕で何も見えない。でも、その先にフェンリルがいる。
身体が重い、なんでこんなに足が遅いんだ? 早くしねえと、フェンリルが死んじまう。間に合えよ、くそ。
残響の中、やっとフェンリルの姿が見えた。俺と目が合うと、フェンリルはにやりと微笑んだ。――まるで、勝ち誇ったように。
「レイ、あとは頼んだ――あいつのことも」
その直後、何かがフェンリルの身体を貫いた。
背後でシリウスとルカが息を呑む。
ショックで顔をひきつらせているセス。
「フェンリル…!!」
悲鳴をあげたのは、あいつが惚れてる女――アリスだった。
その瞳は、涙が溢れていた。
ゆっくりとフェンリルの身体が宙を舞い、弧を描いて落ちていく。
胸から花びらのような血を撒き散らして。
それは、薔薇よりも濃い、赤い死の色。
地面に叩きつけられ、フェンリルの身体は一度だけ、跳ねた。
それから、動かなくなる。
(フェン、リル…?)
いたずらに風が巻き上げ、そこにいた俺たちの髪と軍服を儚く揺らす。
「たったいま、黒のエースは死んだ」
ぼやけた視界の端で、辛うじて立っていたアモンがせせら笑う。
大の字でくたばってるフェンリル。
膝をつき、俺はフェンリルの頭を搔き抱いた。
瞳を閉じたフェンリルは、あまりにもあどけなくて、ただ眠ってるように見えた。
「おい、嘘だろ…? 俺は騙されねえよ」
手で口と鼻を覆ってやる。
息が出来なくて苦しいって、飛び起きるのを期待して。
フェンリルの長い睫毛は、ぴくりとも動かない。
「んだよ。さっさとギブアップしろって。死んだフリなんて馬鹿な真似はもう……」
本当は怖くてたまらなかったけど、痛ましい胸の傷に耳を寄せた。
心臓の音が聞こえることを祈った。
……
景色が全てセピア色に変わる。
ああ、こいつ……もう、ここに居ねえのかよ。
そう、思った瞬間。
俺の瞳から、涙が流れてた。
「フェンリル……っ、なんで……だよ。お前は最強のラッキースターじゃなかったのかよ」
全身が震える。こんなに怒りで震えたのは生まれて初めてだった。こんなに誰かを憎いと思ったのも。
「おお、黒のキングが泣くとは。黒のエースめ、最後に面白いものを見せてくれた。だが、悲しむことはない。すぐにお前達も死ぬのだ。本当のフィナーレはこれからだ」
「俺は、俺が許せねえ……!」
フェンリルを横たえ、剣を抜き放ち、俺はアモンに向かって疾走した。
俺に続くように、シリウス、ルカ、セスが駆けてくる。
自らの全てを賭けて。
たとえ、勝ち目のない戦いだとしても、俺は友の意志を継ぐ――黒のキングとして。
自由は黒き翼の元に。
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