昼も夜もあなたのしもべ
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私は謙信様の御前でこれでもかというほど頭を下げていた。
「本当に本当にすみませんでした! でもどうか切腹だけは…!」
謙信様の怪我した腕には痛々しく包帯が巻かれている。
(まさか、謙信様が私を庇ってくださるなんて思わなかった。でも…)
私が青ざめていると、謙信様は煩わしそうに私を見据えた。
「黙れ。誰が切腹しろと言った。大げさな女だ。だが、片手が使えないのは不便だ。すみれ、俺の右手になれ」
それは思いがけない謙信様からの命令だった。
それから、私は謙信様のそばで小姓のように身の回りのお世話をした。いろんな謙信様を見ることができて、意外と楽しく日々は過ぎた。
そんなとある夜。私が寝巻き姿で夜空を眺めていると、偶然謙信様と鉢合わせた。
「眠れぬのか?」
「謙信様もですか……?」
月明りの下で見下ろしてくる謙信様は、ぞっとするほど美しい。けれど、諸刃のような危うさも感じた。
「すみれ、明日、お前に暇をやろう。息抜きに城下町に出向くといい。護衛には佐助をつけてやる」
「本当ですか? ありがとうございます!」
私がぱっと笑顔になると、謙信様は眩しそうに色違いの瞳を細めた。
「お前は実に他愛ないことで笑うな」
「え?」
「……俺とともに来い。お前に仕事だ」
通されたのは、謙信様の寝室だった。
しかも、謙信様は私を褥に座らせた。
「お前が他の男にやるように、俺に尽くせ。その愛らしい唇でな」
「そ、それは…ど、どういう意味ですか?」
聞き返してしまったけど、この状況ならひとつしかない。
「決まっているだろう。夜伽だ」
「む、無理です! そんなこと!」
真っ赤になって私は立ち上がろうとした。
「何を慌てている。まさか、経験がないのか?」
訝しげに眉をひそめる謙信様。返す言葉が見つからない。
「……っ、とにかく私は謙信様にそういう事はできません」
「俺から逃げることは許さん」
けれど、謙信様に手首を取られ、すごい力で褥に組み敷かれる。
「きゃっ……」
目を開けると、謙信様の顔がすぐ目の前にあった。
形の良い唇が妖しく弧を描く。
「生娘でも構わん。お前はそうしてじっとしていろ。俺の好きなようにするだけだ」
「待ってください。謙信様は怪我をしてるんじゃ……」
でも、腕は自由に動いていた。もう治っていたの?
「この通り、お前を抱くのに支障はない」
不意に、首筋に口づけが落とされる。
うそ。謙信様がこんなことするなんて。
ドキドキして、呼吸ができない。
謙信様の硬い腕に閉じ込められて、身動きがとれない。
謙信様から薫る良い香りが私の心を惑わせる。
私はこのままどうなってしまうのか。
これから起きるかもしれない破廉恥なことを想像して、ドキドキで卒倒しそうになりかけたとき…
「お取込み中に、すみません。謙信様、斥候からの至急の知らせです」
聞き慣れた声が天井裏から聞こえた。
「佐助か……」
視線だけ動かして謙信様は答えた。
着物に手をかけられていた私は赤面して佐助君の姿を探してしまう。
でも、謙信様に顎を取られて仰ぎ向かされた。
目が合った瞬間に胸がとくんと弾む。
「いまのお前は、なかなかそそるな。……だが、無粋な忍のせいで興が冷めた」
謙信様は毒つくと、私を解放した。
急に体が寒くなる。
それに心が寂しかった。
音もなく床に降り立った佐助くんが私に寄り添う。
「すみれさん…大丈夫? でも、未遂でよかった」
「佐助くん…っ!」
未遂とか言わないで。余計に恥ずかしい。
すると、面白くなさそうに謙信様は私に言った。
「何をしている。すみれ、お前は部屋に戻れ」
「え……」
チクっと胸が痛んで、動けない。
もう私を抱きしめてくれない謙信様の腕に縋りたくなってる自分がいた。
「どうした」
謙信様は、呆然としている私をじっと見下ろした。
「あの……」
「また明日、ここに来い」
「……はい」
あっさりと別れの言葉を言われて、私はがっかりしながら部屋をあとにした。
謙信様に、本当は私……。
胸に手を当てて、この鼓動の意味を考えてしまった。
でも、さっき謙信様は明日も来るようにと言っていた。
胸が騒ぎ出す。私は期待に火照る頬を両手で包み込んだ。
すみれが去ったあと、佐助は呆れた顔で言った。
「それにしても驚きましたよ。すみれさんに何をさせるつもりだったんですか?」
「ただの戯れだ」
戯れにしては、我ながら質が悪い。
謙信は己の手を見つめた。
柔らかい温もりに、美しい髪。しっとりとした肌。
(あの者は、抱き心地が良すぎた)
恥じらう彼女も、屈託無い笑顔の彼女も、愛らしくてならない。
「次は、本気で俺の物にしてしまうかもしれん」
その独り言は、佐助には聞こえなかった。
「本当に本当にすみませんでした! でもどうか切腹だけは…!」
謙信様の怪我した腕には痛々しく包帯が巻かれている。
(まさか、謙信様が私を庇ってくださるなんて思わなかった。でも…)
私が青ざめていると、謙信様は煩わしそうに私を見据えた。
「黙れ。誰が切腹しろと言った。大げさな女だ。だが、片手が使えないのは不便だ。すみれ、俺の右手になれ」
それは思いがけない謙信様からの命令だった。
それから、私は謙信様のそばで小姓のように身の回りのお世話をした。いろんな謙信様を見ることができて、意外と楽しく日々は過ぎた。
そんなとある夜。私が寝巻き姿で夜空を眺めていると、偶然謙信様と鉢合わせた。
「眠れぬのか?」
「謙信様もですか……?」
月明りの下で見下ろしてくる謙信様は、ぞっとするほど美しい。けれど、諸刃のような危うさも感じた。
「すみれ、明日、お前に暇をやろう。息抜きに城下町に出向くといい。護衛には佐助をつけてやる」
「本当ですか? ありがとうございます!」
私がぱっと笑顔になると、謙信様は眩しそうに色違いの瞳を細めた。
「お前は実に他愛ないことで笑うな」
「え?」
「……俺とともに来い。お前に仕事だ」
通されたのは、謙信様の寝室だった。
しかも、謙信様は私を褥に座らせた。
「お前が他の男にやるように、俺に尽くせ。その愛らしい唇でな」
「そ、それは…ど、どういう意味ですか?」
聞き返してしまったけど、この状況ならひとつしかない。
「決まっているだろう。夜伽だ」
「む、無理です! そんなこと!」
真っ赤になって私は立ち上がろうとした。
「何を慌てている。まさか、経験がないのか?」
訝しげに眉をひそめる謙信様。返す言葉が見つからない。
「……っ、とにかく私は謙信様にそういう事はできません」
「俺から逃げることは許さん」
けれど、謙信様に手首を取られ、すごい力で褥に組み敷かれる。
「きゃっ……」
目を開けると、謙信様の顔がすぐ目の前にあった。
形の良い唇が妖しく弧を描く。
「生娘でも構わん。お前はそうしてじっとしていろ。俺の好きなようにするだけだ」
「待ってください。謙信様は怪我をしてるんじゃ……」
でも、腕は自由に動いていた。もう治っていたの?
「この通り、お前を抱くのに支障はない」
不意に、首筋に口づけが落とされる。
うそ。謙信様がこんなことするなんて。
ドキドキして、呼吸ができない。
謙信様の硬い腕に閉じ込められて、身動きがとれない。
謙信様から薫る良い香りが私の心を惑わせる。
私はこのままどうなってしまうのか。
これから起きるかもしれない破廉恥なことを想像して、ドキドキで卒倒しそうになりかけたとき…
「お取込み中に、すみません。謙信様、斥候からの至急の知らせです」
聞き慣れた声が天井裏から聞こえた。
「佐助か……」
視線だけ動かして謙信様は答えた。
着物に手をかけられていた私は赤面して佐助君の姿を探してしまう。
でも、謙信様に顎を取られて仰ぎ向かされた。
目が合った瞬間に胸がとくんと弾む。
「いまのお前は、なかなかそそるな。……だが、無粋な忍のせいで興が冷めた」
謙信様は毒つくと、私を解放した。
急に体が寒くなる。
それに心が寂しかった。
音もなく床に降り立った佐助くんが私に寄り添う。
「すみれさん…大丈夫? でも、未遂でよかった」
「佐助くん…っ!」
未遂とか言わないで。余計に恥ずかしい。
すると、面白くなさそうに謙信様は私に言った。
「何をしている。すみれ、お前は部屋に戻れ」
「え……」
チクっと胸が痛んで、動けない。
もう私を抱きしめてくれない謙信様の腕に縋りたくなってる自分がいた。
「どうした」
謙信様は、呆然としている私をじっと見下ろした。
「あの……」
「また明日、ここに来い」
「……はい」
あっさりと別れの言葉を言われて、私はがっかりしながら部屋をあとにした。
謙信様に、本当は私……。
胸に手を当てて、この鼓動の意味を考えてしまった。
でも、さっき謙信様は明日も来るようにと言っていた。
胸が騒ぎ出す。私は期待に火照る頬を両手で包み込んだ。
すみれが去ったあと、佐助は呆れた顔で言った。
「それにしても驚きましたよ。すみれさんに何をさせるつもりだったんですか?」
「ただの戯れだ」
戯れにしては、我ながら質が悪い。
謙信は己の手を見つめた。
柔らかい温もりに、美しい髪。しっとりとした肌。
(あの者は、抱き心地が良すぎた)
恥じらう彼女も、屈託無い笑顔の彼女も、愛らしくてならない。
「次は、本気で俺の物にしてしまうかもしれん」
その独り言は、佐助には聞こえなかった。
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