芋惚れわんわん
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それから犬千代と二人で焼き芋作りの準備をした。
焚き火を燃やして、灰と熾火(おきび)を用意する。
塩をまぶした薩摩芋に、灰をかぶせてしばらく待つ。
座り込んで焼き具合を見守っていると、風で舞い上がった灰が目に入って少しチクチクした。目を擦っている私に、
「おい、大丈夫かよ」
隣で作業していた犬千代がすぐに心配してくれる。
「うん、大丈夫。なんか、子供の頃にお父さんとみんなで焼き芋を作ったのを思い出すね」
「……そうだな。親父さんの焼き芋は絶品だった。あー、最後に食ったのいつだっけか……」
どこか切なげに熾火を見つめて瞳を揺らす犬千代。
(お父さんの話題を出すと、犬千代はいつもこんな目をする)
私は作業する手を止めて、犬千代を見つめた。
「犬千代、いま、何を考えてるの?」
「……んなの、親父さんのことに決まってんだろ」
(やっぱり……)
パチっと乾いた音がして、犬千代が目を見開く。
不意打ちで私は犬千代の冷たい頬を両手で包み込んだ。
「おい、いきなり何すん……」
「私ね、お父さんとの思い出をこうして犬千代とまた一緒に思い出すことができて、嬉しいよ」
「え……」
小さい子に語りかけるように私は言葉を紡いだ。
「戦場で散ってしまったお父さんのことを思うとやっぱり哀しい。でも、お父さんの人生は、最期の「戦場」だけじゃなかった。お母さんと小料理屋を切り盛りして、私と弥彦を大切に育ててくれた。もちろん、犬千代のことも……私と犬千代と弥彦と……みんなで過ごした時間が『お父さん』の人生だよ。私がこうして懐かしんだり、思い出に浸ってしんみりできるのも、犬千代の前だからなの。だから、犬千代が生きててくれて、そばにいてくれてよかった」
「お前……」
はっとしたように犬千代は息を呑んだ。
(私の気持ち、ちゃんと犬千代に届いたかな)
犬千代の頬を温めてきれなかったまま、そっと手を離した。
すると、吹っ切れたように、犬千代は前髪を掻き上げて私を見下ろした。
「お前の言う通りだな。お前が親父さんを悼むときは、いつだって俺が隣にいてえ。お前の泣く場所は俺でありてえ――死んだ親父さんの代わりにお前は俺が守る。この命に変えても」
「犬千代……」
闘志と熱を孕んだ犬千代の視線に射抜かれて、世界が二人だけになる。
「……寒くねえか?」
一瞬にして甘い濃度が増した空気感。私と犬千代は自然と顔を寄せ合っていた。
(あ……)
と思ったときには、唇を掠め取られていた。
「……っ、いぬち――」
私の戸惑った声を塞ぐように、また口づけられる。
ふわりと唇を包む柔らかい感触。乾燥していた唇は、すぐに犬千代の官能的な口づけで湿らされた。
一瞬で、寒さなんて遠のいてしまう。秋の風がさらさらと紅葉を揺らす音さえ聞こえない。
絡んだ舌は熱くて、何度も執拗に求められたらそれだけで全てがとろけそう。
最後にちゅっと優しく甘い音を響かせて、犬千代が顔を離した。
「――やっと、いちゃつけたな。さっきは、秀吉たちの邪魔が入ったから……断念した」
艶やかに濡れてしまった私の唇に、指の瀬でつんと触れて、誘惑してくる犬千代。
「……っ、あのときも口づけする気だったの!?」
「無防備に近づいてきたお前、すげえ可愛いかったし……我ながら、よく耐えたぜ」
ぼそっと呟いて、私を抱き寄せる犬千代。広い腕の中は温かくて居心地がよくて、だけど腰元をきつく締め付けられてドキドキした。
(胸の鼓動が聞こえてしまいそう。急にこうやって素直になるの狡い……いきなり甘えてくるのも……)
密着して、高鳴る胸をどうにもできないまま私は目を閉じた。
幼馴染で、大好きなお兄ちゃんだったのに、いつからこんなに愛おしくてたまらなくなっていたんだろう。
この逞しくて、だけどいつ失ってもおかしくな腕に抱かれる日がくるなんて。
「なんか、いま無性にお前と……」
「え?」
「……いや、お前、身体も冷えてるだろ。一度、部屋に戻るか?」
「え、私は大丈夫だよ。それに、火から離れると危ないし」
ちらっと、灰の山を見てからもう一度視線を犬千代に戻す。
すると、男の欲を煌めかせた犬千代の瞳とぶつかった。思わず、ドキっとして息が止まる。
「そうだよな。あのさ……芋が焼けたら、お前がよければだけど、俺の部屋に来ねえ?」
「!? それはどういう……」
(この話の流れだと……あれしか思い浮かばない!)
「馬鹿、……何すっかくらい、わかんだろ」
眉間に皺を寄せて、犬千代が訴えてくる。
「わ、わからないよ……っ」
(わかるけど、わかるなんて言えない!)
「だから、お前のことあっためてやりてえって……って、言わせんな!」
焚火みたいに顔をを真っ赤にしたのは、私の方だった。
犬千代の着物をぎゅっと握り締めることしかできない。
「んだよ、これ。かっこ悪る……」
前髪をくしゃりと握り締めて、さっき言ったことを後悔してる犬千代。
でも、諦めた訳じゃなくて、色っぽさを帯びた流し目で恨めしげに言った。
「で、返事はどっちだ? 早く、言え……よ。これ以上は俺がいたたまれねえだろ」
さらにぎゅっと私を抱きしめて、照れ隠しにぶっきら棒な言い方をする。
そんな犬千代が好きで好きでたまらない。
(そんなのもちろん……)
「……うん、行く」
即答されると思わなかったのか、犬千代は一瞬きょとんとした。それから、頬を紅葉色に染めて唇を引き結ぶ。
「……よし」
*
焚き火を燃やして、灰と熾火(おきび)を用意する。
塩をまぶした薩摩芋に、灰をかぶせてしばらく待つ。
座り込んで焼き具合を見守っていると、風で舞い上がった灰が目に入って少しチクチクした。目を擦っている私に、
「おい、大丈夫かよ」
隣で作業していた犬千代がすぐに心配してくれる。
「うん、大丈夫。なんか、子供の頃にお父さんとみんなで焼き芋を作ったのを思い出すね」
「……そうだな。親父さんの焼き芋は絶品だった。あー、最後に食ったのいつだっけか……」
どこか切なげに熾火を見つめて瞳を揺らす犬千代。
(お父さんの話題を出すと、犬千代はいつもこんな目をする)
私は作業する手を止めて、犬千代を見つめた。
「犬千代、いま、何を考えてるの?」
「……んなの、親父さんのことに決まってんだろ」
(やっぱり……)
パチっと乾いた音がして、犬千代が目を見開く。
不意打ちで私は犬千代の冷たい頬を両手で包み込んだ。
「おい、いきなり何すん……」
「私ね、お父さんとの思い出をこうして犬千代とまた一緒に思い出すことができて、嬉しいよ」
「え……」
小さい子に語りかけるように私は言葉を紡いだ。
「戦場で散ってしまったお父さんのことを思うとやっぱり哀しい。でも、お父さんの人生は、最期の「戦場」だけじゃなかった。お母さんと小料理屋を切り盛りして、私と弥彦を大切に育ててくれた。もちろん、犬千代のことも……私と犬千代と弥彦と……みんなで過ごした時間が『お父さん』の人生だよ。私がこうして懐かしんだり、思い出に浸ってしんみりできるのも、犬千代の前だからなの。だから、犬千代が生きててくれて、そばにいてくれてよかった」
「お前……」
はっとしたように犬千代は息を呑んだ。
(私の気持ち、ちゃんと犬千代に届いたかな)
犬千代の頬を温めてきれなかったまま、そっと手を離した。
すると、吹っ切れたように、犬千代は前髪を掻き上げて私を見下ろした。
「お前の言う通りだな。お前が親父さんを悼むときは、いつだって俺が隣にいてえ。お前の泣く場所は俺でありてえ――死んだ親父さんの代わりにお前は俺が守る。この命に変えても」
「犬千代……」
闘志と熱を孕んだ犬千代の視線に射抜かれて、世界が二人だけになる。
「……寒くねえか?」
一瞬にして甘い濃度が増した空気感。私と犬千代は自然と顔を寄せ合っていた。
(あ……)
と思ったときには、唇を掠め取られていた。
「……っ、いぬち――」
私の戸惑った声を塞ぐように、また口づけられる。
ふわりと唇を包む柔らかい感触。乾燥していた唇は、すぐに犬千代の官能的な口づけで湿らされた。
一瞬で、寒さなんて遠のいてしまう。秋の風がさらさらと紅葉を揺らす音さえ聞こえない。
絡んだ舌は熱くて、何度も執拗に求められたらそれだけで全てがとろけそう。
最後にちゅっと優しく甘い音を響かせて、犬千代が顔を離した。
「――やっと、いちゃつけたな。さっきは、秀吉たちの邪魔が入ったから……断念した」
艶やかに濡れてしまった私の唇に、指の瀬でつんと触れて、誘惑してくる犬千代。
「……っ、あのときも口づけする気だったの!?」
「無防備に近づいてきたお前、すげえ可愛いかったし……我ながら、よく耐えたぜ」
ぼそっと呟いて、私を抱き寄せる犬千代。広い腕の中は温かくて居心地がよくて、だけど腰元をきつく締め付けられてドキドキした。
(胸の鼓動が聞こえてしまいそう。急にこうやって素直になるの狡い……いきなり甘えてくるのも……)
密着して、高鳴る胸をどうにもできないまま私は目を閉じた。
幼馴染で、大好きなお兄ちゃんだったのに、いつからこんなに愛おしくてたまらなくなっていたんだろう。
この逞しくて、だけどいつ失ってもおかしくな腕に抱かれる日がくるなんて。
「なんか、いま無性にお前と……」
「え?」
「……いや、お前、身体も冷えてるだろ。一度、部屋に戻るか?」
「え、私は大丈夫だよ。それに、火から離れると危ないし」
ちらっと、灰の山を見てからもう一度視線を犬千代に戻す。
すると、男の欲を煌めかせた犬千代の瞳とぶつかった。思わず、ドキっとして息が止まる。
「そうだよな。あのさ……芋が焼けたら、お前がよければだけど、俺の部屋に来ねえ?」
「!? それはどういう……」
(この話の流れだと……あれしか思い浮かばない!)
「馬鹿、……何すっかくらい、わかんだろ」
眉間に皺を寄せて、犬千代が訴えてくる。
「わ、わからないよ……っ」
(わかるけど、わかるなんて言えない!)
「だから、お前のことあっためてやりてえって……って、言わせんな!」
焚火みたいに顔をを真っ赤にしたのは、私の方だった。
犬千代の着物をぎゅっと握り締めることしかできない。
「んだよ、これ。かっこ悪る……」
前髪をくしゃりと握り締めて、さっき言ったことを後悔してる犬千代。
でも、諦めた訳じゃなくて、色っぽさを帯びた流し目で恨めしげに言った。
「で、返事はどっちだ? 早く、言え……よ。これ以上は俺がいたたまれねえだろ」
さらにぎゅっと私を抱きしめて、照れ隠しにぶっきら棒な言い方をする。
そんな犬千代が好きで好きでたまらない。
(そんなのもちろん……)
「……うん、行く」
即答されると思わなかったのか、犬千代は一瞬きょとんとした。それから、頬を紅葉色に染めて唇を引き結ぶ。
「……よし」
*