アルのドタバタお見合い劇(アルバート×ゼノ様)
アルバートは、
見合いの席で無機質な仏頂面をキメこんでいたが、
内心はものすごくソワッソワしていた。
(まずい、早くなんとかせねば。この見合いを破断に…!)
ブルクハルト家嫡男のアルバートは結婚適齢期だ。
何度も断ってきたが、「ブルクハルト家を断絶させるつもりか!? 跡継ぎをはよ!」と、
親戚一同に責め立てられ(いたのか、親戚)
とうとう断りきれず強制的に見合いの席に同席させられてしまったアルバートだった。
(だが、俺にはゼノ様が……)
この日まで、アルバートなりに悩んで悩んで悩み抜いて、この場所(顔合わせの食事会)にやってきた。
もちろん、断るために。
(ゼノ様、俺は漢になります!)
見合い相手に誠意を持って臨もうと、アルバートは開口一番に断った。
が、うまい具合にスルーされてしまった。
オードブルのときには、スマートに席を立とうと思っていたのに、
グイグイくる仲人(アルバートの親戚のおじさん的な人で苦手なタイプ)と、
天然すぎる見合い相手のせいで、タイミングを完全に逃してしまった。
コース料理がどんどん運ばれてきて、とうとうメインディッシュまで来てしまった。
(くっ……俺としたことが……は、この肉はまさか!?)
ナイフとフォークを持ったアルバートは、肉料理(野うさぎ)を食べられないでいた。
(うっ……吐き気が……)
ベンジャミンのことを思い出して青ざめたアルバートは、眼鏡の中でそっと視線を上げた。
対面に座っているのはどこぞの公爵家のご令嬢だ。
彼の見合い相手だった。
「アルバートさん、どうかなさったのですか?」
(ちょうど体調不良になったことだ。ここで中断させてもらおう…うぷっ)
「大変申し訳ありませんが、先程から申し上げている通り、この縁談はなかったことに……」
そう切り出すと、それまでにこやかだったムードが一瞬にしてぴりっと凍る。
が、アルバートはそこには無頓着で(空気読めない)、真顔で席を立とうとした。
その時、アルバートの顔を突然ピンク髪の青年が覗き込んできた。
「お茶のおかわりはいかがですか? アルバート様」
明るいウェイターの声が不穏な空気に花を咲かせた。
が、驚いたことにそれはアルバートの見知った人物だった。
「な……っ!なぜ貴様がここに!?」
「まあ、細かいことはいいからいいから。はい、アルの好きなアールグレイティーね」
「別に好きと言った覚えはない」
「あ、間違えた。これってうちのプリンセスが好きな紅茶だった(てへぺろ)」
アルバートのティーカップになみなみと紅茶を注いで、ユーリはわざとらしく微笑んだ。
おかげで、また退出するタイミングを奪われた。
(くそ、ユーリのやつ。余計なことを……!俺のことを面白がっているな。とにかく、早く縁談を終わらせなければ……早く一刻も早く……)
アルバートはますますソワソワしてきた。
なぜなら、デザートが運ばれてしまったからだ。それをご令嬢と仲人は和気藹々でつついている。
アルバートは端的に言った。
「それでは、何度も申し上げた通りの理由により、俺はこれで失礼させていただきます」
椅子を引いて腰をあげようとしたとき、
また小悪魔なウエイターが現れた。
「あれ、なんだか外が騒がしいような……ねえ、アル」
「?」
ユーリに言われて気づいた。
たしかに、この建物の外から、地響きが聞こえてくる。
どうやら、馬の蹄の音らしい。
迫りくるパッカパッカ音にアルバートはピンときた。
「この駆けてくる音は……もしや……!」
緊張のせいでしばらく息を止めていると、
馬の嘶きが聞こえ、誰かが馬上から叫ぶ声が聞こえた。
「ここだ。全軍、止まれ」
直後、中央の扉が仰々しく開いた。
眩しい後光をバックに、黒いマントが華麗に翻る。
「その見合い、待たれよ」
威厳ある低音ボイスに、トレードマークの眼帯。
突然のシュタイン国王の登場に、
令嬢と仲人は、驚き慄いた(というか、ポカーン)。
しかし、アルバートだけひとり胸アツになっていた。
まさか、まさか、来てくれるとは。
馬に乗ってこの見合いをぶち壊しに来てくれるとは。
主は、苛立ちを抑えた声で高らかと言い放った。
「事情は知らぬが、アルバートは俺の部下だ。俺の許可なしに勝手に話を進めることは許さん」
まるでアルバートを自分の所有物のように主張する(ジャイアニズム俺様主義)主に、アルバートは悦びで腰から砕けそうになるのをなんとかこらえた。
目の前のその王は、真剣そのものだったからだ。
「ゼノ様……(きゅーん♥)」
主が何に突き動かされて、こんな行動を取ったのか、アルバートは知るよしもない。
「アル、俺について来い。話はそれからだ」
内に自覚していない嫉妬と怒りを秘めた主は、令嬢と仲人に冷淡な一瞥をくれると、ユーリに視線を送った。
「征くぞ」
「はい、ゼノ様」
ウェイター服を手品のように脱ぎ捨てると、ユーリはシュタインの騎士に早変わりした。
軽やかに駆けて、当然のようにゼノの斜め後ろに控える。
ライバルに先を越されて、アルバートは主とユーリの後を追おうとした。
しかし、はたと我に帰り、決意するように拳を握りしめた。
まだ、「国王のおなーり衝撃と軍を率いて見合い相手を連れ去られる事象」から我に帰れていない令嬢と仲人に向かって、
アルバートは振り向きざま言った。
「ということですから、やはりこの縁談はなかったことにしていただけますか? 俺にはずっと前から心に決めた人がいます。ですから、俺は貴女とは結婚できません」
キリっと決め台詞も決まり、アルバートの眼鏡のレンズもキラっと光った(キラキラづくし)。
「ぷっ、ゼノ様いまの見ました? アルったらかっこつけてるよ」
「……」
肩越しにアルバートのことを見ていたゼノは、あるかなしかの笑みを浮かべた。
(アルを攫うのも悪くない……)
満足げにゼノは馬に跨った。
お騒がせな王と騎士団が去った後。
令嬢は、ようやく我にかえった。
「あら、もしかして、アルバート様の言っていた心に決めた人というのは……ゼノ様? きゃあ♥」
令嬢は、辛くも覚醒した。
♥
シュタイン城に戻ると、アルバートは身を引き締めて主の執務室を訪れた。
(ゼノ様にまずはお詫びしなければ、それから感謝の気持ちを伝えて…それから…)
興奮覚めやらずのアルバートは肩で息をしていた。
執務室に入ると、
窓辺によりかかるようにして星空を眺めているゼノの姿が。
「ゼノ様…」
「お前が見合いをすると聞いて、普段の俺なら冷静さを欠くことなどありえないが、……自分でも驚くほど動揺した」
「……!?」
「お前の幸せを思うのならば、見守るべきだったのだろう。だが、気づけば身体が勝手に動いていた。権力を使って、衝動的にお前の見合い壊してしまった。アル、俺は国王失格か?」
傷ついた子犬のように眉根を寄せたゼノの目の前で、アルバートは膝を折った。
「ゼノ様に非などありません。非は経緯をきちんとお伝えしなかった俺にあります。申し訳ございません。全て終わらせた上でご報告するつもりでした。ゼノ様のお心を煩わせるつもりはなかったのですが……まったくもって短慮でした」
「……いや、お前を責めているわけではない。俺も知らなければそれはそれでよかった。だが、たまたま耳に挟んでしまったからな(ユーリからの密告)ただ……」
ただ、この胸にすくうモヤモヤした感情を、
堪えきれない感情をどう処理したらいいのかわからない。
こんな感情、今まで持ったことすらない。
だが、王である前に、主である前に、
アルバートのことに関しては、自分の心に嘘をつきたくなかった。
ゼノは珍しく自嘲した。
「ユーリに言わせると、この感情は嫉妬から来るそうだ」
「嫉妬、ですか?」
「ああ」
頷いたゼノは、アルバートの頬に手を添えた。
触れられただけで、身体に熱が灯る。嬉しい熱だった。
「部下に教えられるとは、俺もまだまだだな」
苦笑するゼノが、主だというのに可愛くて、アルバートは赤面した。
「すみません。不謹慎ですが、ゼノ様が嫉妬してくださったことは嬉しいです……」
「そうか……?」
「はい。俺もゼノ様にもし同じようなことがあったら、とてつもなく相手の女性に嫉妬していたと思います」
触れたい。純粋にそう思って、アルバートは立ち上がった勢いで、主を抱きしめた。
「ゼノ様……ありがとうございます。俺を攫ってくれて」
「……ああ、俺はお前を攫った。そしてお前は俺の元に戻ってきてくれた」
ゼノはアルバートの肩に頬を預けて、安心したように目を閉じた。
ここにはいないユーリが、意味深な笑いを浮かべているような気がして、アルバートは悔しくなった。
「……俺の心も、身体も……ゼノ様のものですから」
そして、
燃える(萌える)夜。
「今夜のゼノ様はいつもより……?」
「……アル、言うな//////」
「あ///…すみません」
おわり
見合いの席で無機質な仏頂面をキメこんでいたが、
内心はものすごくソワッソワしていた。
(まずい、早くなんとかせねば。この見合いを破断に…!)
ブルクハルト家嫡男のアルバートは結婚適齢期だ。
何度も断ってきたが、「ブルクハルト家を断絶させるつもりか!? 跡継ぎをはよ!」と、
親戚一同に責め立てられ(いたのか、親戚)
とうとう断りきれず強制的に見合いの席に同席させられてしまったアルバートだった。
(だが、俺にはゼノ様が……)
この日まで、アルバートなりに悩んで悩んで悩み抜いて、この場所(顔合わせの食事会)にやってきた。
もちろん、断るために。
(ゼノ様、俺は漢になります!)
見合い相手に誠意を持って臨もうと、アルバートは開口一番に断った。
が、うまい具合にスルーされてしまった。
オードブルのときには、スマートに席を立とうと思っていたのに、
グイグイくる仲人(アルバートの親戚のおじさん的な人で苦手なタイプ)と、
天然すぎる見合い相手のせいで、タイミングを完全に逃してしまった。
コース料理がどんどん運ばれてきて、とうとうメインディッシュまで来てしまった。
(くっ……俺としたことが……は、この肉はまさか!?)
ナイフとフォークを持ったアルバートは、肉料理(野うさぎ)を食べられないでいた。
(うっ……吐き気が……)
ベンジャミンのことを思い出して青ざめたアルバートは、眼鏡の中でそっと視線を上げた。
対面に座っているのはどこぞの公爵家のご令嬢だ。
彼の見合い相手だった。
「アルバートさん、どうかなさったのですか?」
(ちょうど体調不良になったことだ。ここで中断させてもらおう…うぷっ)
「大変申し訳ありませんが、先程から申し上げている通り、この縁談はなかったことに……」
そう切り出すと、それまでにこやかだったムードが一瞬にしてぴりっと凍る。
が、アルバートはそこには無頓着で(空気読めない)、真顔で席を立とうとした。
その時、アルバートの顔を突然ピンク髪の青年が覗き込んできた。
「お茶のおかわりはいかがですか? アルバート様」
明るいウェイターの声が不穏な空気に花を咲かせた。
が、驚いたことにそれはアルバートの見知った人物だった。
「な……っ!なぜ貴様がここに!?」
「まあ、細かいことはいいからいいから。はい、アルの好きなアールグレイティーね」
「別に好きと言った覚えはない」
「あ、間違えた。これってうちのプリンセスが好きな紅茶だった(てへぺろ)」
アルバートのティーカップになみなみと紅茶を注いで、ユーリはわざとらしく微笑んだ。
おかげで、また退出するタイミングを奪われた。
(くそ、ユーリのやつ。余計なことを……!俺のことを面白がっているな。とにかく、早く縁談を終わらせなければ……早く一刻も早く……)
アルバートはますますソワソワしてきた。
なぜなら、デザートが運ばれてしまったからだ。それをご令嬢と仲人は和気藹々でつついている。
アルバートは端的に言った。
「それでは、何度も申し上げた通りの理由により、俺はこれで失礼させていただきます」
椅子を引いて腰をあげようとしたとき、
また小悪魔なウエイターが現れた。
「あれ、なんだか外が騒がしいような……ねえ、アル」
「?」
ユーリに言われて気づいた。
たしかに、この建物の外から、地響きが聞こえてくる。
どうやら、馬の蹄の音らしい。
迫りくるパッカパッカ音にアルバートはピンときた。
「この駆けてくる音は……もしや……!」
緊張のせいでしばらく息を止めていると、
馬の嘶きが聞こえ、誰かが馬上から叫ぶ声が聞こえた。
「ここだ。全軍、止まれ」
直後、中央の扉が仰々しく開いた。
眩しい後光をバックに、黒いマントが華麗に翻る。
「その見合い、待たれよ」
威厳ある低音ボイスに、トレードマークの眼帯。
突然のシュタイン国王の登場に、
令嬢と仲人は、驚き慄いた(というか、ポカーン)。
しかし、アルバートだけひとり胸アツになっていた。
まさか、まさか、来てくれるとは。
馬に乗ってこの見合いをぶち壊しに来てくれるとは。
主は、苛立ちを抑えた声で高らかと言い放った。
「事情は知らぬが、アルバートは俺の部下だ。俺の許可なしに勝手に話を進めることは許さん」
まるでアルバートを自分の所有物のように主張する(ジャイアニズム俺様主義)主に、アルバートは悦びで腰から砕けそうになるのをなんとかこらえた。
目の前のその王は、真剣そのものだったからだ。
「ゼノ様……(きゅーん♥)」
主が何に突き動かされて、こんな行動を取ったのか、アルバートは知るよしもない。
「アル、俺について来い。話はそれからだ」
内に自覚していない嫉妬と怒りを秘めた主は、令嬢と仲人に冷淡な一瞥をくれると、ユーリに視線を送った。
「征くぞ」
「はい、ゼノ様」
ウェイター服を手品のように脱ぎ捨てると、ユーリはシュタインの騎士に早変わりした。
軽やかに駆けて、当然のようにゼノの斜め後ろに控える。
ライバルに先を越されて、アルバートは主とユーリの後を追おうとした。
しかし、はたと我に帰り、決意するように拳を握りしめた。
まだ、「国王のおなーり衝撃と軍を率いて見合い相手を連れ去られる事象」から我に帰れていない令嬢と仲人に向かって、
アルバートは振り向きざま言った。
「ということですから、やはりこの縁談はなかったことにしていただけますか? 俺にはずっと前から心に決めた人がいます。ですから、俺は貴女とは結婚できません」
キリっと決め台詞も決まり、アルバートの眼鏡のレンズもキラっと光った(キラキラづくし)。
「ぷっ、ゼノ様いまの見ました? アルったらかっこつけてるよ」
「……」
肩越しにアルバートのことを見ていたゼノは、あるかなしかの笑みを浮かべた。
(アルを攫うのも悪くない……)
満足げにゼノは馬に跨った。
お騒がせな王と騎士団が去った後。
令嬢は、ようやく我にかえった。
「あら、もしかして、アルバート様の言っていた心に決めた人というのは……ゼノ様? きゃあ♥」
令嬢は、辛くも覚醒した。
♥
シュタイン城に戻ると、アルバートは身を引き締めて主の執務室を訪れた。
(ゼノ様にまずはお詫びしなければ、それから感謝の気持ちを伝えて…それから…)
興奮覚めやらずのアルバートは肩で息をしていた。
執務室に入ると、
窓辺によりかかるようにして星空を眺めているゼノの姿が。
「ゼノ様…」
「お前が見合いをすると聞いて、普段の俺なら冷静さを欠くことなどありえないが、……自分でも驚くほど動揺した」
「……!?」
「お前の幸せを思うのならば、見守るべきだったのだろう。だが、気づけば身体が勝手に動いていた。権力を使って、衝動的にお前の見合い壊してしまった。アル、俺は国王失格か?」
傷ついた子犬のように眉根を寄せたゼノの目の前で、アルバートは膝を折った。
「ゼノ様に非などありません。非は経緯をきちんとお伝えしなかった俺にあります。申し訳ございません。全て終わらせた上でご報告するつもりでした。ゼノ様のお心を煩わせるつもりはなかったのですが……まったくもって短慮でした」
「……いや、お前を責めているわけではない。俺も知らなければそれはそれでよかった。だが、たまたま耳に挟んでしまったからな(ユーリからの密告)ただ……」
ただ、この胸にすくうモヤモヤした感情を、
堪えきれない感情をどう処理したらいいのかわからない。
こんな感情、今まで持ったことすらない。
だが、王である前に、主である前に、
アルバートのことに関しては、自分の心に嘘をつきたくなかった。
ゼノは珍しく自嘲した。
「ユーリに言わせると、この感情は嫉妬から来るそうだ」
「嫉妬、ですか?」
「ああ」
頷いたゼノは、アルバートの頬に手を添えた。
触れられただけで、身体に熱が灯る。嬉しい熱だった。
「部下に教えられるとは、俺もまだまだだな」
苦笑するゼノが、主だというのに可愛くて、アルバートは赤面した。
「すみません。不謹慎ですが、ゼノ様が嫉妬してくださったことは嬉しいです……」
「そうか……?」
「はい。俺もゼノ様にもし同じようなことがあったら、とてつもなく相手の女性に嫉妬していたと思います」
触れたい。純粋にそう思って、アルバートは立ち上がった勢いで、主を抱きしめた。
「ゼノ様……ありがとうございます。俺を攫ってくれて」
「……ああ、俺はお前を攫った。そしてお前は俺の元に戻ってきてくれた」
ゼノはアルバートの肩に頬を預けて、安心したように目を閉じた。
ここにはいないユーリが、意味深な笑いを浮かべているような気がして、アルバートは悔しくなった。
「……俺の心も、身体も……ゼノ様のものですから」
そして、
燃える(萌える)夜。
「今夜のゼノ様はいつもより……?」
「……アル、言うな//////」
「あ///…すみません」
おわり