才蔵さんに初心過ぎる幸村様が恋愛指南される話
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女を知れとは。
御屋形様にも参ったものだ。
宴の席で、俺が初心なのをからかわれるのが当たり前になっていた。
おなごとの経験がないことを恥じてはいない。
が、月日が経つと、自分でもそろそろ……と思わなくもない。
興味はある。だが、機会がない。
あの兄上でさえ、恋愛経験があるのだ。
俺も心得があっても良いだろう。
だが!!!!!
機会があったとしても、自信もない!!!!!
機会がないせいだと言い訳していたが、それももう通用しない歳になってしまった!!!!!
『今度こそ、男になれよ、幸村』
昨晩、御屋形様に肩を叩かれた言葉が胸にのしかかる。
とうとう俺もおなごと……!?いやいやいや。
早朝の鍛錬後、額の汗を手拭いで押さえながら、俺はぶつぶつ独り言を呟いた。
「手を握ることも抱擁もしたことがないというのに女を知れとは、無茶振りにも程がある。御屋形様から女を紹介してやると言われ、それを断り続けてはや……何年だ?!」
必死の形相で指折り数えていると……
「何、難しい顔してんの?」
屋根の上からひらりと降りた忍び。朝日を背に、銀色の髪が輝く。
「才蔵か。まさか、いま帰ってきたのか?」
「まあ、そんなとこ」
なんでもないように返して、才蔵は俺を意味ありげに見てきた。
その視線がなんか痒い。
「で、接吻がなんだって?」
「どわっ!!」
思わず、ずっこけそうになる。
「せ、接吻のことはまだ言っていない!盗み聞きとは悪趣味だぞ、才蔵」
「だったら、心の声をそのまま喋る癖なんとかしてくれる?」
「そ、そうだったな。誰もいないと思って油断した俺が悪いな」
「で、どうする訳。信玄さんからのアレ、今晩でしょ?」
「うっ……! それを誰に聞いた?」
「佐助あたり」
口元だけで笑い才蔵が面白そうに俺を見る。
その肩を俺はすごい勢いで掴んでいた。
「才蔵!」
「!」
「俺に、恋愛指南をしてくれないか?」
「……はぁ、何を言い出すかと思えば。幸村にたった一朝一夕でできる訳ないでしょ」
「だが、もう今更断れないのだ。御屋形様はその気だ。それに、俺自身がこの状況を打破したい」
「いったい何と戦ってんだか」
呆れる才蔵の胸ぐらを掴み、グラグラに揺すりまくった。
「頼む!才蔵!才っ……」
「うるさい。わかったから」
俺の唇に人差し指を押し付けて、制する才蔵。
魅惑的な紅の瞳が近づく。
「団子、十人前ね」
「お、おお!!」
俺は縋るように才蔵の手を握った。
「よろしくお頼み申す!」
「暑苦しい」
手を払いのけられ、ペチっと額を打たれる。
こうして俺と才蔵の密室の恋愛指南が始まったのだ。
才蔵いわく、「がっつくな」ということだった。
たしかに、俺の性格からして、勢い余っておなごに触れたらむしろ傷を負わせるかもしれん。
縁側に並んで腰を下ろし、才蔵は苦笑した。
「口で説明してもわからないだろうから、実践ね」
「……?」
「……」
ただ晴れた空を無言で眺めている。これはなんの意味があるのだろうか。
おなごと良い雰囲気になるためと言っていたが。
沈黙の間に、なぜか俺の鼓動がどんどん大きくなっていることに気づいた。
ドクドク、ドクドク……
喋らない才蔵に不安を煽られる。盗み見ると、才蔵は俺を無視して、空を飛び回る鳥たちを見つめていた。
引き結ばれた唇がなにか言ってはくれないかと、気になって仕方ない。
俺は生理的に高鳴る鼓動を止められず、さらに才蔵の薄い唇から目が離せなくなっていた。
気まずいとはまた違う。もどかしい間だった。
ほかに何もできないから才蔵を盗み見るしかない。
才蔵の横顔は、当たり前だか端正で類を見ない色男だと思う。いまお前は何を考えて……
ふと、肩と肩が触れ合った。
ドキっとして、俺は弾かれたように顔をあげた。
その瞬間、才蔵と視線が絡む。
ビリビリと何かが身体の中で迸る。
細く長い指が俺の髪を甘やかすように撫でていく。反射的に頬に熱がのぼる。
才蔵の鋭く強いまなざし。色香を帯びて近づいた唇が、俺の唇を掠める……ことはなかった!
「……っ」
「くくく、いま俺に接吻されたくなってたでしょ?」
「なっ!んな訳あるか!」
図星すぎて、切腹したい。才蔵相手に、俺はー!!
「基本的に幸村は喋り過ぎだから。少し黙ってるだけで良い雰囲気は出せるよ。まあ、問題はその後だろうけど」
「そ、そうか。俺に必要なのは、黙ることだな。それならできそうだ。俺は地蔵になる」
「あのね、黙ってるだけじゃ駄目。目を見つめて、女が喜ぶ触れ方で隙を突かないと」
それは先程、才蔵が俺にやってみせた一連の所作のことだ。
男の俺でも間違えてときめいたのだ、おなごなら効果覿面だろう。
む、待て、俺にできるのか?
ズーーーーン。
「才蔵、お前は……いったいどこでこんなことを学んだのだ?」
恨めしいくらいだ。
「それより、次は幸村の番。練習で俺を押し倒してみなーーできるならね」
挑発的に微笑んだ才蔵。いや、無理だろう!
だがしかし、練習したいと言い出したのは俺だ。
御屋形様にも目にもの見せてさしあげねば!
俺は腹を括って、才蔵に向き直った。
「御免!」
「!」
「て、て、手を繋いでもよいだろうか?」
「ぶっ……」
「わ、笑うな!」
「いや、幸村らしいと思って。はい、どうぞ」
差し伸べてくれた才蔵の手を取る。
繋ぎ方すらわからない。
子供の頃、最後に手を繋いだのは兄上とだったか。
才蔵の指先は、任務のあとだからか引っ掻き傷のようなものがあった。この男には珍しい。
「おい、お前、ここに傷をこしらえているぞ?」
「ああ、それね。たいした事ないよ」
「そうは言っても。こうすると、血が滲む。処置が必要だな」
「ちょっと、なに人の傷痕を馬鹿力で押してんの」
滲んだ血をなんとかしてやりたくて、無意識に俺は唇を寄せていた。
舌で軽く舐めとると、才蔵が息を呑んだ。
「幸村……」
真田のために、実際よく働いてくれている。
才蔵には感謝しているのだ。
この手で、真田のためにどれだけ命を殺めてきたのか。
どこか慈しむように才蔵の手を優しい包み込み、ふと視線を上げた。
あ……こんなに近くに才蔵の顔が……
困ったような、嫌がってるような才蔵の顔。
だが、その瞳には別の感情が垣間見えた気がした。
「よし、これで少しはマシだろう」
「余計なことしないでくれる」
「すまん。ついな」
「ほんと、無自覚にそういう事するんだから」
「は?」
「いいから。手を繋ぐの?繋がないの?」
「そうだったな。こうか?」
「それ、握手」
「こうか?」
「力強すぎ。骨砕けるから」
「おおっ、ど、ど、どう握れば」
「あー、もう……」
いきなり才蔵に手を取られ、指が全て絡むように握られる。
重力に引っ張られるようになぜか俺の視界はぐるりと周り、背中が床とくっついた。
な、なんだ??
「こうするんだよ……」
状況がよくわからない俺を見下ろして、才蔵が妖しく囁く。
合わさるように握られた手は、床に縫い付けられ、下半身は才蔵に跨がれて身動きがままならない。
「さ、才ーー……」
だが、俺の言葉はそこで途切れた。
…………
何が起きたのかわからない。俺は目を見開いた。
ゆっくりと顔を上げた才蔵は、眉根を寄せて微笑した。
「はぁ、何してんだか」
「???」
俺は目をパチクリさせて、才蔵の顔を見つめていた。
★
「御屋形様!この幸村、今宵、男になり申す!」
「幸村、今宵の宴だが延期になった。悪いな」
「うおーー!!!!!」
おわり
御屋形様にも参ったものだ。
宴の席で、俺が初心なのをからかわれるのが当たり前になっていた。
おなごとの経験がないことを恥じてはいない。
が、月日が経つと、自分でもそろそろ……と思わなくもない。
興味はある。だが、機会がない。
あの兄上でさえ、恋愛経験があるのだ。
俺も心得があっても良いだろう。
だが!!!!!
機会があったとしても、自信もない!!!!!
機会がないせいだと言い訳していたが、それももう通用しない歳になってしまった!!!!!
『今度こそ、男になれよ、幸村』
昨晩、御屋形様に肩を叩かれた言葉が胸にのしかかる。
とうとう俺もおなごと……!?いやいやいや。
早朝の鍛錬後、額の汗を手拭いで押さえながら、俺はぶつぶつ独り言を呟いた。
「手を握ることも抱擁もしたことがないというのに女を知れとは、無茶振りにも程がある。御屋形様から女を紹介してやると言われ、それを断り続けてはや……何年だ?!」
必死の形相で指折り数えていると……
「何、難しい顔してんの?」
屋根の上からひらりと降りた忍び。朝日を背に、銀色の髪が輝く。
「才蔵か。まさか、いま帰ってきたのか?」
「まあ、そんなとこ」
なんでもないように返して、才蔵は俺を意味ありげに見てきた。
その視線がなんか痒い。
「で、接吻がなんだって?」
「どわっ!!」
思わず、ずっこけそうになる。
「せ、接吻のことはまだ言っていない!盗み聞きとは悪趣味だぞ、才蔵」
「だったら、心の声をそのまま喋る癖なんとかしてくれる?」
「そ、そうだったな。誰もいないと思って油断した俺が悪いな」
「で、どうする訳。信玄さんからのアレ、今晩でしょ?」
「うっ……! それを誰に聞いた?」
「佐助あたり」
口元だけで笑い才蔵が面白そうに俺を見る。
その肩を俺はすごい勢いで掴んでいた。
「才蔵!」
「!」
「俺に、恋愛指南をしてくれないか?」
「……はぁ、何を言い出すかと思えば。幸村にたった一朝一夕でできる訳ないでしょ」
「だが、もう今更断れないのだ。御屋形様はその気だ。それに、俺自身がこの状況を打破したい」
「いったい何と戦ってんだか」
呆れる才蔵の胸ぐらを掴み、グラグラに揺すりまくった。
「頼む!才蔵!才っ……」
「うるさい。わかったから」
俺の唇に人差し指を押し付けて、制する才蔵。
魅惑的な紅の瞳が近づく。
「団子、十人前ね」
「お、おお!!」
俺は縋るように才蔵の手を握った。
「よろしくお頼み申す!」
「暑苦しい」
手を払いのけられ、ペチっと額を打たれる。
こうして俺と才蔵の密室の恋愛指南が始まったのだ。
才蔵いわく、「がっつくな」ということだった。
たしかに、俺の性格からして、勢い余っておなごに触れたらむしろ傷を負わせるかもしれん。
縁側に並んで腰を下ろし、才蔵は苦笑した。
「口で説明してもわからないだろうから、実践ね」
「……?」
「……」
ただ晴れた空を無言で眺めている。これはなんの意味があるのだろうか。
おなごと良い雰囲気になるためと言っていたが。
沈黙の間に、なぜか俺の鼓動がどんどん大きくなっていることに気づいた。
ドクドク、ドクドク……
喋らない才蔵に不安を煽られる。盗み見ると、才蔵は俺を無視して、空を飛び回る鳥たちを見つめていた。
引き結ばれた唇がなにか言ってはくれないかと、気になって仕方ない。
俺は生理的に高鳴る鼓動を止められず、さらに才蔵の薄い唇から目が離せなくなっていた。
気まずいとはまた違う。もどかしい間だった。
ほかに何もできないから才蔵を盗み見るしかない。
才蔵の横顔は、当たり前だか端正で類を見ない色男だと思う。いまお前は何を考えて……
ふと、肩と肩が触れ合った。
ドキっとして、俺は弾かれたように顔をあげた。
その瞬間、才蔵と視線が絡む。
ビリビリと何かが身体の中で迸る。
細く長い指が俺の髪を甘やかすように撫でていく。反射的に頬に熱がのぼる。
才蔵の鋭く強いまなざし。色香を帯びて近づいた唇が、俺の唇を掠める……ことはなかった!
「……っ」
「くくく、いま俺に接吻されたくなってたでしょ?」
「なっ!んな訳あるか!」
図星すぎて、切腹したい。才蔵相手に、俺はー!!
「基本的に幸村は喋り過ぎだから。少し黙ってるだけで良い雰囲気は出せるよ。まあ、問題はその後だろうけど」
「そ、そうか。俺に必要なのは、黙ることだな。それならできそうだ。俺は地蔵になる」
「あのね、黙ってるだけじゃ駄目。目を見つめて、女が喜ぶ触れ方で隙を突かないと」
それは先程、才蔵が俺にやってみせた一連の所作のことだ。
男の俺でも間違えてときめいたのだ、おなごなら効果覿面だろう。
む、待て、俺にできるのか?
ズーーーーン。
「才蔵、お前は……いったいどこでこんなことを学んだのだ?」
恨めしいくらいだ。
「それより、次は幸村の番。練習で俺を押し倒してみなーーできるならね」
挑発的に微笑んだ才蔵。いや、無理だろう!
だがしかし、練習したいと言い出したのは俺だ。
御屋形様にも目にもの見せてさしあげねば!
俺は腹を括って、才蔵に向き直った。
「御免!」
「!」
「て、て、手を繋いでもよいだろうか?」
「ぶっ……」
「わ、笑うな!」
「いや、幸村らしいと思って。はい、どうぞ」
差し伸べてくれた才蔵の手を取る。
繋ぎ方すらわからない。
子供の頃、最後に手を繋いだのは兄上とだったか。
才蔵の指先は、任務のあとだからか引っ掻き傷のようなものがあった。この男には珍しい。
「おい、お前、ここに傷をこしらえているぞ?」
「ああ、それね。たいした事ないよ」
「そうは言っても。こうすると、血が滲む。処置が必要だな」
「ちょっと、なに人の傷痕を馬鹿力で押してんの」
滲んだ血をなんとかしてやりたくて、無意識に俺は唇を寄せていた。
舌で軽く舐めとると、才蔵が息を呑んだ。
「幸村……」
真田のために、実際よく働いてくれている。
才蔵には感謝しているのだ。
この手で、真田のためにどれだけ命を殺めてきたのか。
どこか慈しむように才蔵の手を優しい包み込み、ふと視線を上げた。
あ……こんなに近くに才蔵の顔が……
困ったような、嫌がってるような才蔵の顔。
だが、その瞳には別の感情が垣間見えた気がした。
「よし、これで少しはマシだろう」
「余計なことしないでくれる」
「すまん。ついな」
「ほんと、無自覚にそういう事するんだから」
「は?」
「いいから。手を繋ぐの?繋がないの?」
「そうだったな。こうか?」
「それ、握手」
「こうか?」
「力強すぎ。骨砕けるから」
「おおっ、ど、ど、どう握れば」
「あー、もう……」
いきなり才蔵に手を取られ、指が全て絡むように握られる。
重力に引っ張られるようになぜか俺の視界はぐるりと周り、背中が床とくっついた。
な、なんだ??
「こうするんだよ……」
状況がよくわからない俺を見下ろして、才蔵が妖しく囁く。
合わさるように握られた手は、床に縫い付けられ、下半身は才蔵に跨がれて身動きがままならない。
「さ、才ーー……」
だが、俺の言葉はそこで途切れた。
…………
何が起きたのかわからない。俺は目を見開いた。
ゆっくりと顔を上げた才蔵は、眉根を寄せて微笑した。
「はぁ、何してんだか」
「???」
俺は目をパチクリさせて、才蔵の顔を見つめていた。
★
「御屋形様!この幸村、今宵、男になり申す!」
「幸村、今宵の宴だが延期になった。悪いな」
「うおーー!!!!!」
おわり