真紅の暴君
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今日からオンボロ寮に所属する!と豪語したエースと、早すぎる再会を果たした私達はとりあえず愚痴りたくて仕方ない様子の彼をまだ片付けの済んでいないリビングへと通し、3人は座れる比較的綺麗なソファーに座って話を聞くことになった。
エースの首輪にはグリムも覚えがあるようで、これを装着されると魔法が使えなくなると言う。魔法世界で魔法封じなんてメタ的なものがこんな最序盤で登場していいんか?と物語の初めに出てくるにはチート技すぎて衝撃だったが、エースが首輪を付けられた経緯は死ぬほどくだらなかった。
「タルトを食ったから???エッ…それだけ?もっと他にすごいことしたんじゃないの?」
「そーだよ!それだけ!」
夜中にお腹を空かせたエースは寮のキッチンで冷蔵庫を漁り、3ホールもあったタルトの一切れを盗み食いしたら目撃していた寮長に首を刎ねられたんだとか。
「…おふぅいずゆあーへっど?何…なん…て??」
「寮長のユニーク魔法。この首輪に魔法封じのデバフ効果があんの」
「ユニーク…魔法…」
早速知らない専門用語が出て来て気が遠くなるが、とりあえずはハーツラビュル寮長だけが使える固有魔法だと思うことにした。
しかし昨日の今日で何事かと思えば、クッソしょうもない愚痴を聞かされて私もグリムも呆れから中々言葉が出ない。
「…………」
「……ん〜…何つーか…」
「どっちもどっちなんだゾ」
「たかがタルトを盗み食いしただけで魔法封じされるのはおかしくね!?」
エースからすれば寮長が横暴すぎて酷くない!?たかだか一切れのタルトにつよつよ魔法使って心狭いわ〜と共感を求めている雰囲気をヒシヒシと感じるが、
「いや、寮長どうこう以前にまず断りなく人のモンに手を付けてるのは、普通に引く」
「ぐぬぬ…」
自身の盗み食いを棚に上げて、寮長の愚痴を言ってる様子からもエースは現行犯でシメなきゃ食い尽くし系とかの素質を開花させてしまう恐れもあるからその寮長のお仕置きは一理あるとも思ってしまった。
「ハッ!もしかして……3ホールもあったならパーティー用かもしれないんだゾ。誰かの誕生日とか」
「おいおい、急に名探偵かよ。冴えてんじゃん」
「誕生日ィ?」
グリムのそれっぽい考察に納得してた私達とは対照的になおもむくれるエースはまだ何か言いたげだ。聞き分けのない小学生かよ。
「大体さ、エースはタルト食べたこと謝ったの?」
「う……オレ、幸緒なら絶対に寮長が横暴だって言ってくれると思ってたんだけどぉ?」
「なん…だと?おいおいおいおい、失礼だな。私は中立の立場だから公平に見れる人間だぞ。片方の言い分だけ聞いて判断しないんだからね!勘違いしないでよね!」
エースの発言は私を友達だから共感してくれると思ってのと言うより、ドワーフ鉱山で感情を曝け出しまくったせいか、自分と同じタイプの人間だと判定されてる部分が見受けられて私は即座に反発した。
なおも不満げに唇を尖らせるエースに私はこんこんと食い物の恨みは恐ろしいことを事例を交えて語り聞かせたが、あまり効果はなかった。てかそんな話を聞いたら同じく夕飯を食べていない私も真夜中だと言うのにお腹減って気力がなくなってきた。グリムもツナ缶がどうとか言ってるし、こんな時間に食べ物の絡んだしょうもない話を聞いたおかげでとてつもない空腹でお腹が鳴りそうだった。
「はぁ〜…もういいや。とりあえず明日謝ろうか。ちょっと厳しい寮長っぽいけど、真摯に話せばわかってくれるでしょ」
「はぁ、わかったよ。謝ればいいんでしょ……監督生が提案したんだから一緒に来いよな」
「いいよぉ。短いバイト経験ながら謝罪には自信あるからね。明日は一緒に謝ってあげよう!」
「短いバイト経験から得た謝罪スキル…それって暗に仕事出来なかった…てこと?」
「うるさい!無駄にお腹も空いたし、早く寝るぞ!」
深夜のテンションで会話がおかしくなってきた頃に翌日に備えて寝ようと言ったところでエースが寝場所提供を求めて来た。いくら寮長にムカついたからってこの廃墟に泊まる気満々なのはハートが強いわぁ…。
しかし我らもこの寮に来てようやく一日経過したくらいで自室以外の部屋まで掃除してる暇もなかった。眠気からか偉く冷静なグリムが泊まるなら自分で掃除して寝床確保するように促したがエースはめちゃくちゃ嫌そうな反応を見せた。おいおいおいおい、わがまますぎだろ。ちょっとは謙虚な態度を見せられないのか、ナイトレイブンカレッジ生は。
「幸緒〜、部屋に泊めてよ。オレ、スマートだから幅取らないしさ。ねっ」
「…なん…だと…」
このクッソ軽いチャラ男みたいなお願いするあざとい姿を見て、私は気付かされた。
…マジで女の子として認識されてないんだな、ということに。
確かにね?体操服はオーバーサイズで体型分かりにくいし?胸もないってことはないはずなんだが…悲しいことに寸胴体型だから気づかれてないのかな?それでも今は髪も下ろしてるし、昼間よりも女の子度上がってるはずなのに気づかんかなぁ〜〜〜。
逆に気付いてて下心あっての発言ならエースはとんだ変態野郎だ。どっちにしろ私の女の子としてのプライドがズタズタだった。
黙ってリビングを後にした私は比較的綺麗な毛布と枕を抱え、戻ってきて宣言した。
「今より私の部屋はエースの立ち入りを禁じたから、ここが今日のお前の寝床だ」
「ちぇ、ケチ」
うるせぇ!クソして寝ろ!と吐き捨てるように言って毛布と枕をエースに叩きつけ、ぶーぶー文句を垂れるのを無視して私は寝室へ戻って再びベッドに潜り込んだ。
……そう言えばこの寮ゴーストがいることを言い忘れたなと思った頃、エースの悲鳴が聞こえたような気がしたが私は逃げるように目を閉じて眠りに落ちていった。
そうしてぐっすり寝た私はドワーフ鉱山でハッスルしすぎた結果、全身筋肉痛で朝を迎えた。ギシギシと悲鳴を上げる筋肉の痛みで冷静さを取り戻したことで、そう言えば女の子とバレてはまずいのだったと昨夜の学園長とのやり取りを思い出した。
むしろバレないのはいい傾向なのだと不本意ながらも受け入れることにし、悲鳴を上げる筋肉達に従ってこのまま寝ていたい気分だったが、エースとの約束もあるし、さすがに初日からおサボりはマズいと気合いでベッドを這い出て身支度を始めた。
顔を洗った後、髪ゴムで日本人特有の黒く長い髪を耳の後ろで結って一纏めに、学園長から貰った真新しい制服に着替えて少し曇った姿見の前に立った。
埃を被った鏡に映る姿はズボンは裾を折り、ブレザーの少し袖が余るくらいにはサイズ大きめの制服を着ているせいか、寸胴なせいか、確かに体型が曖昧で男の子に見えるかもしれない。
サイドの横髪を編み込んで後ろに纏めたポニテも女子力アピールのつもりが、編み込んだ横髪が中途半端に短いから後ろの結び目でピョンピョンはねていて完全に淑やかさが死んだ。
「…でも私、顔可愛いよね?比較的可愛い方の顔してるよね?」
鏡を引っ掴んでマジマジと自分の顔を見る。ちょっとつり目でありながらもしっかり二重だし!童顔で可愛い方だろ??そうだよね??女の子の顔してるよね??
「オマエ〜…いつまで鏡見てるんだ?先下行ってるんだゾ」
「あ、待ってグリム!私可愛いよね!!?」
「そんなんオレ様、知らねーんだゾ…でも昨日の服よりその制服のが似合ってるんだゾ」
不安に苛まれすぎて人間の美醜が理解できるかもわからないモンスターのグリムに追い縋るように訊ねると、やはり美醜についてはわからないようだったがとても純粋な笑顔でそう褒めてくれたので失われかけた女の子としてのプライドが保たれた。
「っっ!グリム〜〜っ!!」
ギュッッ
「にゅぁあっ!!オイ、抱きつくな!離すんだゾ!」
バリィッ
「いってぇっ!!」
感情のままに思わずグリムを抱き締めたらとても激しい抵抗にあった。手の甲に引っ掻き傷を貰ったことでしゅんとしてようやく落ち着いた私に対してもグリムはプンスカ怒っていたが、消毒した傷を絆創膏で隠した後にグリムと一緒にリビングへ向かった。
途中でゴースト達が制服を着ている私とグリムの首輪に気づき、褒めてさらに自己肯定感を上昇させてくれて筋肉痛だと言うのにスキップしてしまうくらいには浮かれた。リビングの手前でチクチク言葉を投げ合う聞き覚えのある声がしてリビングを覗くとエースとデュースがまたもめていた。
あんまり放っておくと殴り合いの喧嘩に発展しそうで、先住民のゴースト達も迷惑してるみたいだったから止めに入った。
落ち着かせてから話を聞けば、昨夜の件を知ったデュースは一応心配してわざわざオンボロ寮へ探しに来てくれたようだった…結局顔を合わせたら喧嘩してるけど、心根の優しい奴ではあるんだよな。
しかしデュースの話によると、ハーツラビュルの寮長は今朝も規則違反の寮生の首を刎ねてたそうだから相当荒ぶってらっしゃる。これは…謝罪が通じるか怪しくなって来たな!
ここで話していても仕方ないので、とりあえずはオンボロ寮から出て私達は学園に向かった。
先を行くエースとグリムを後ろから追う形で歩いていると、隣を歩いていたデュースから視線を感じて目が合う。
「…どしたん?」
「いや…制服大きめだなと」
「あーそれな。まぁ、成長期だからな!時期に馴染むよ」
「あははっ!そうだな……」
またもじっと見てくるのでもしかしてやっぱりこの格好は変なんじゃないかと、再び不安になって来た。
「…えっ何?何か変か?」
「いや、変じゃないぞ!こう…きちんとしてて昨日と印象変わるなと思ったんだ。その髪型とか、制服よく似合ってるぞ」
「!!!そうだよねっ!似合うよね、可愛いよねっ、私!えっへへへへっ、さーんきゅっ!」
突然の自己肯定感upイベントにテンション爆上がりした私はえへへへへとモジモジ挙動不審な動きをした後に、照れ隠しのようにバシバシとデュースの背を叩いた。あまりの有頂天ぶりにデュースは引いてたようだったが、気にならないくらいに私は浮かれた。やっぱり、同じナイトレイブンカレッジ生でも青い方が性格いいな!私の好感度は確実に青の方が高い。
爽やかな朝の登校途中で調子に乗ったグリムが誰に聞かせたいのか、生徒になった自慢話や、昨日の恨み節たっぷりに無能なエースを罵る姿に浮かれた私はニコニコと上機嫌で頷いた。
魔法の使えないエースは好き勝手に言うグリムと私に対して腹を立てていたが、さながらプライドの高い女騎士のようにぐぬぬと呻いて悔しがるしかなかった。
それを見兼ねたデュースが授業を受けるにも魔法封じを受けていては話にならないからと、一度寮へ戻って何とか首輪を外してもらおうと提案した。
グリムも他寮に興味津々でそろそろエースも可哀想になって来た頃合いで、謝るなら早めの方がいいと同意出来るので素直に同行することにした。
何とオンボロ寮以外の寮は例のエースお掃除おサボり事件でもお馴染みの全く別の場所へ移動できる魔法の鏡のある鏡舎から移動するのだそうだ。
そしてワープ先のハーツラビュル寮を見て驚いた。
何ともメルヘンな雰囲気と言うか、ハートをモチーフにしてる赤を基調としたお洒落で可愛らしいお城みたいなどデカい寮を見て規模の違いと豪勢さに度肝を抜いた。
「うわっ…私達の寮、しょぼすぎ…?」
「……比べるまでもないんだゾ」
寮を囲むように広がる見事な緑の庭園は目隠しの庭木がしきりになっていて、迷路のような不思議な空間を作っていた。
少し背の高い庭木はハートやスペードの形に手入れされていて、観光地みたいな馴染みのない不思議な景色の中、自然物ばかりの景色に似つかわしくない赤いペンキが芝生を汚しており、
「やばいやばい。急いで薔薇を赤く塗らないと」
その先で焦りながら白い薔薇を赤く塗ってる人がいた。こ、この光景は…!
「赤いペンキ…薔薇の木…うっ…風邪の日に見る夢ッ」
「どうした?発作か?」
お伽話のような夢の光景が現実で繰り広げられてくらりと眩暈がしたが、それからそのハーツラビュル生の人は不思議な言動をするものの、マジカメとか言うこの世界のスマホで『10億マドルのシャンデリアをぶっ壊して退学になりかけたルーキー』として一緒に記念撮影したかと思えば、流れるような自己紹介の後に被写体に特に許可を取ることなく素早SNSの海へ投稿する異世界っ子の軽さに震えた。
「あ、君、噂のオンボロ寮の監督生になったコだよね。よくあんなとこ住めるね〜!暗そうだしマジカメ映え最悪ってカンジ。ホント同情する〜」
「え〜…いやぁ、好きで住んでるわけじゃ無いんですけどね」
「コイツ、さっきからちょいちょい失礼なんだゾ」
「それな…てかオンボロ寮の監督生って昨日の夜決まったばっかなのに、噂の広がり早すぎんか?怖いんだけど」
長い前髪は後ろでハーフアップっぽいデコ出しに緩くウェーブのかかったオレンジ色の髪、デュースやエースと同じく左頬に赤いダイヤの化粧、憂いを帯びたようにも見える優しげな垂れ目のそのハーツラビュル生こと3年のケイト・ダイヤモンド先輩は服装も白を基調としながらもトランプ柄を散りばめたような柄がよく目立つ出で立ちと発言から明らかにモブ生でない存在感を放ってる。
白薔薇に色を塗るどころか、果てはクロッケー大会用のフラミンゴに色をつけるとか言い出してもう私の常識が通じなさすぎて意識が飛びそうになったけど、どうもエースやデュースにも馴染みのない事柄らしくて少し安心した。この世界に置いて当然のルールじゃなくてホッとした。
話を整理すると、ここハーツラビュルでは明日パーティーを開催する。
→パーティーの日の薔薇は赤が通例(最初から赤い薔薇を植えとけ)
→パーティーのクロッケー大会にフラミンゴいるし、色も塗る(もう何もわかんない)
→明日のパーティーは誰の誕生日でも無い、寮長の気分次第で突発開催されるハーツラビュル寮伝統の「なんでもない日」のおめでとうパーティー(エースが食べたタルトはこのためのものなんだと)
……うん、説明されても、頭で整理しても???以外浮かんでこない…なんか、すっごい耳を滑る話だった。
兎にも角にもパーティー準備で忙しくしてるケイト先輩は正装でペンキ扱ってんの勇気ありすぎるし、こちらに話をさせる隙も与えずに時間がないからとグリムとデュースには魔法で白薔薇の色塗りを命じる。さらに魔法が使えない私とエースにまでペンキ缶と刷毛を押し付けてくるので、その圧に屈して仕方なく作業を手伝うハメに…いや、何でや。
筋肉痛の身体に鞭打って薔薇を塗ってる間、魔法唱えるのに躍起になったデュースやグリムは失敗、成功、失敗、失敗、炎上と作業効率的に全く役立たずだったのだが、何やかんや楽しそうで現在無能のエースはその様子を恨めしそうに見てはボヤきながら気怠げにペンキを塗りたくってた。
途中でまたもやハーツラビュルの謎ルールを教えてくれるケイト先輩であったが、クロッケーにはバットに7色のフラミンゴにボールにハリネズミを使うだとか動物愛護団体が聞いたら発狂しそうな内容や、季節別で薔薇の色を赤と白で使い分けるだとか、やたらと動物や植物に厳しいおかしなルールの発祥元は先日グリムが燃やしたグレート・セブンの像ハートの女王だそうだ。
今の寮長が伝統を重んじるとかでケイト先輩はこうして仕事に追われてるんだそうな。大変だね…。
しばらく作業を続け、やる気のないエースにグリム達が7割くらいは魔法を失敗する中で手作業の私が一番仕事してるのおかしくね?と悟り始めた頃、隣で白薔薇を塗っていたエースもこの状況の異質さに気づき、私達は寮長に謝罪をして寮長に首輪を外してもらうと言う本来の目的を思い出した。
寮長に話があると言えばケイト先輩は突然お詫びのタルトを持ってるか訊いたかと思えば、ないと知るといままでの軽さはどこへやら突然ハーツラビュルの謎ルールを展開して来た。意味不明なハートの女王の法律を語たりその法律に反してるのでと、とんでもないディフェンス力で私達は訳分からんまま力づくで追い返されてしまった。
「それじゃあ、タルト持って出直してきてね♪ばいばーい」
一見人畜無害そうだったのに、力なき一般人の私に対しても容赦ない強烈な風魔法で吹っ飛ばして来たから、やっぱナイトレイブンカレッジ生って悪だわ。
突然の戦闘に無能なエースはともかく、デュースやグリムの攻撃が直撃したと思えばポンと被弾したケイト先輩は消えて新たな先輩がわらわら湧いてくる無限ループに歯が立たないし…軽い言動や飄々とした態度から想像できない鮮やかな魔法の手並みと影分身の使い手なんて、序盤で出会う敵にしてはレベル差がありすぎる。
私もどうにか対抗しなければと思ったが、カメラのシャッターを押すのが精一杯で、フラッシュを焚く以外は何も出来なかった…。しかし今更ながら、学園内の争いで生徒に果たして暴力で対抗していいものだろうか?
一般人の私は魔法が使えないし、そもそも学園長からはグリムが問題を起こさないようにと見張らさせられている身としては問題ごとは避けたいが、簡単に魔法を振るわれるこの環境ではやむを得ない時には抵抗出来るように備えないと、と危機感を覚えた出来事だった。
そんなこんなで特に収穫も無いばかりか、初日から授業に遅刻しかけたものの、嬉しいことにエース達と一緒の1-Aのクラスだったから周りの好奇の目などに晒されても力強かった。
一番最初の授業は白衣にゴム手袋にゴーグル装備の魔法薬学。かのアトリエシリーズのゲームみたく、不思議な液剤の入った釜に材料を投入してアイテムを作る仕組みの錬金術とほぼ変わりないらしく、異世界を味わえそうで結構ワクワクしていた。
「お前たちが今日から俺の担任クラスに入った新顔か。ふぅん、珍しい毛色をしているな。悪くない。日頃から手入れを欠かさないように」
担任でもあるデイヴィス・クルーウェル先生は白黒のツートンカラーの髪から縞模様の毛皮のコート、お洒落なベストにパリッとしたズボン。全体的にモノクロに赤がよく映えてとにかく教師とは思えない派手な出立ちだ。
教鞭をべしべしと叩きつけたり、生徒を犬扱いして躾ける発言からも滲み出る女王様感と言うか、あの変質者みたいな学園長がトップなだけあって、教師も個性的でやっぱ異世界ヤベェなと感心しながらもやはり最序盤の授業、調合実験の前に知識を身につけるために薬草や毒草の見分け方や名称を覚える所からで思ったよりも魔法要素が薄く拍子抜けしたものの、付いていけそうな希望を感じた。
「なるほど。……ところでキンシルイってなんだ?」
「…キノコのことでしょ。後はカビ?」
「げー、オレ、暗記系苦手なんだよなー」
「草なんか、美味いか不味いかだけわかればいいんだゾ」
次の授業は魔法史。
大きな黒板や教壇の位置が低く、段々に配置された机に生徒が座って授業を受ける様子は私の知る教室とは随分違いがある。
「私は魔法史の授業を担当する、トレインだ。こちらは使い魔のルチウス。君たちには、この世界に繁栄をもたらしてきた魔法についての歴史を学んでもらう」
「オ゛ァ〜〜〜〜」
慣れない教室と教科に戸惑っている私とは対照的に、朝は馬鹿みたいに張り切っていたグリムが座学が始まった瞬間に寝落ちした。やはり獣か…と呆れたが、しっかり話を聞いていた私も元いた世界とはまるで違う歴史に終始宇宙ねこ状態だった。
「この世紀の発見により魔法エネルギーは広く世界に知られることとなり、この年は魔法元年と呼ばれ」
「オ゛ァ〜〜〜〜 ファッ」
何というか……元いた世界とは歴史も文化も違いすぎて、私の中の常識が揺らぐ。今更ながら異世界なのに日本語として聞き取れてるし、私の言葉も書いた文字もどうやら通じてるみたいでご都合主義万歳であるが、謎は深まるばかりだ。
本当によくある異世界召喚や転生モノみたく、ゲームや漫画何とかに入っちゃったパターンなのか?それにしては私にスキル授けるとかの恩恵ないし…もしかして言葉通じるのが恩恵だったりする?
無表情で一目で厳しそうである雰囲気ながらも、太々しい顔をした変な鳴き声の猫ちゃんを抱いている、歴史のトレイン先生の話は正直全然頭に入ってこないんだけど、ぼんやりしてると後々叱られそうだからとりあえず分からないなりに黒板に書いてあることや、先生の話した内容を出来るだけノートに書き留めた。
「ふぁ〜……」
「おぁ〜〜ドワーフ鉱山で……おぁ〜〜魔法エネルギーが……」
「…デュース、ちゃう。猫の声混じってるから。それ要らんねん」
「う゛〜〜。もっとバーン!って魔法使える授業がいいんだゾ〜」
その後は飛行術もとい体育の授業。
ほうきに跨って乗るタイプのまさに魔法使いと言えばといった内容に始まる前は不覚にも心躍らせていた。
「オレはバルガス。お前らモヤシ共の体力育成を担当してやることになった。優秀な魔法士は健全な肉体から!見ろ、毎日生卵を飲んで鍛えたこの筋肉!」
しかしまだ入学したてで、体育教師らしいがっしりとしたガタイに煌めく白い歯、見た目完全に凛々しいゴリラのバルガス先生が筋肉大好きな脳筋なのも相まって、まずは体力作りと言わんばかりにグラウンドの走り込み20週と腕立て伏せ100回を課せられた。
「うぇ……運動は嫌いじゃねーけど、先生が超苦手なタイプ」
「体力には自信がある」
「ぐるぐる走ってなにが楽しいんだあ〜!?オレ様はハムスターじゃねえんだゾ!」
「嘘…男子の運動量無理だって…半周でも辛いって…」
ただでさえ体力のない私は筋肉痛に耐えながら晴天の空の下、何周遅れかわからないくらいにフラフラぜいぜい息を切らして、今にも倒れそうになりながら何とか走り切り、腕立て伏せに移ろうとしたところ、昨日の夜から何も食べてないってのに激しい動悸と眩暈の末に地面に這いつくばってゲロってしまった。これには心配より先にドン引きするクラスメイトの視線が痛いほど突き刺さり、これより先の学生生活においてマイナスでしかないイベントに疲れて横たわったまま私は色んな感情に苛まれながらさめざめと泣いた。
戸惑いながらも心配してくれたデュースが水場まで付き添ってくれたり、後からきたエースが落ち着くまで背中をポンポンして慰めてくれたので、どうにか立ち直れた。バルガス先生にはノルマを達成できなかったことに苦い顔してたけど、さすがにゲロ吐いた生徒にかける言葉はなかったようだ。
意外と魔法らしい魔法の授業はないのね…なんてエースとデュースでさえ感じていた教室移動中、グリムが大胆にも初日から授業をばっくれようとしたために私の監督責任を早速問われる展開に引っ込んだ涙が今度は怒りによって悔し涙が出そうになった。
「何なんだ、あいつ…どうしてなんだよぉ〜!夢はどこ行ったんだ馬鹿ぁ!」
「早速逃亡とは……あいつ、懲りないな」
「プッ、監督生1日目にして監督不行き届きかよ。ね、グリムを捕まえるの手伝って欲しい?」
「うぐぐぐ………オネガイシマス…」
昨日と同じようにエースとデュースがグリムの捕獲に向かってくれたが、対価として昼飯代を持つことになってまた別の意味で泣けた。昨日学園長からしばらくの生活費を貰ったけども、ただでさえ少ない小遣いが…このままグリムを放っておけば無一文になるのも時間の問題だ。先に捕獲に行った2人の後を追いながら私は脱獄を事前に防ぐ方法に考えを巡らせた。
「やだやだー!つまんない授業は嫌なんだゾー!」
「うるさい馬鹿ッ!大体学校通いたがったのはアンタでしょうが!」
「くそー!オマエ、なんか今日厳しいんだゾー!」
「そんなん当たり前だろ!アンタが問題行動起こすと私も露頭に迷うんだからね!」
この学園ではグリムと私は言うなれば一心同体、一蓮托生の関係性なのだからやる気のなかった昨日とは訳が違う。それを分かってないグリムに苛立ちつつも、何を言っても通じる気もしないために強行手段として昨日密かに集めていた学園長が使った魔法愛のムチの残骸である紐を繋ぎ合わせてグリムの胴体に繋ぎ、私から離れられないように腕にしっかり繋いだ。うん、犬のリードだこれ。
周りから見れば異様な光景であるが、この愛のムチ紐が中々丈夫でその後グリムの授業脱獄を防ぎ無事に昼休みを迎えることとなった。