プロローグ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
魔法といえば、本や漫画、アニメに映画などなど色んな創作物で目にする機会がある。
例えば火種もなく火を起こしたり、何の変哲もないほうきで空を飛んだり、一度行ったことのある場所に瞬間移動したり、怪我を一瞬で完治したりなどなど、とにかくすごく便利なまさに夢の力ってイメージがあった。
私のいた世界では空想上の力だけども…この世界では魔法が存在するのは目の前にいる彼らのおかげで身をもって体験しているし、やたら癖はあるけどまぁ魔法の才能があるのだから、しょぼくても色んな属性を使えればかなり戦力になるだろうと思っていた。
ところがどっこい魔法が使える世界でもそう上手くいかないのが世の常なのか、ちゃんとした魔法を発動させるにはちゃんと条件がいるみたいなのだ。
魔法はまさに頭の中の妄想を現実に創造するもの、そう…簡単なわけがない。第一にイメージを現実のものとするための集中力が必要である。
例えば学校のような安全な場所でなら雑念などせいぜい先生にちょっと急かされるくらいで思う存分集中できることだろう……しかしこの何処から何が出てくるかわからない薄暗い場所で、すでにヤバめの敵と対面しても余裕こいて魔法をイメージするなんてよっぽど図太いか、常に冷静な人じゃなきゃ無理がある。しかも夜明けまでの時間制限付きで焦らないわけがない。
さらに彼らは先日入学したてでまぁ授業も受けてないわけで、ナイトレイブンカレッジはこの世界でも珍しい魔法養成学校でさらに名門校らしい。素養がないと入れないのだと…つまりこの学校に入る前は割と普通の中学生だったのだ…当然習得してないものは使えない。もちろん得意不得意は魔法にも該当するんで現状、レパートリーは少なめな模様…一応得意な魔法は割とバンバン打てると言うが当然体力使うらしいので色んな要因で威力にはブレが生じるみたいだ。
だから魔法でまるっと解決!とは行かないと言うことだ!
「その明らかにガッカリした顔、やめてくんない?」
せめて卵からヒヨコくらいにはなって欲しかったと態度が顔に出ていたんだろう、エースが唇を尖らせ不満げに私を見る。
デュースやグリムも何とも言えない顔をしているから、流石に態度が露骨だった。
「思ったより魔法が万能じゃないのが、夢がないなって思っただけだよ。でもそうなると今使えるのは…」
エースの風魔法、グリムの炎にデュースは鍋か…後は頑張れば人を浮かせられるから一応4つの魔法が使えるわけだ。
まず彼らが落ち着いて魔法を使えるように状況を整えねばならない。
ゲームでも魔法職は後衛に配置するもんだし、恐ろしいけども足止めは無能力の私が担当するしかない。しかし紙耐久の私では壁役になるほどの頼もしさがない。せいぜい囮として挑発しながら逃げ回るのが関の山か…いや、それじゃダメだろうなぁ。
大人しく話をしてくれたのは…まぁ、私の奇行に気圧されたのが主な理由だと思うから、ここから私の指示をしっかり聞いてもらうにはそれだけやる価値のある作戦だと納得させなければならないと思う。囮になるから棒立ちで集中して魔法を使ってくれって言ってもまず信じらんないし、壁として薄すぎてあまりに頼りない。それに落ち着いて魔法を放ったからってあの怪物に通じるかは試してないからわかんないし…。
「…まずあの洞窟でアレ相手にするのは不毛だ。狭いし逃げ場も私達は後退するしかなくなるのに対してあいつは魔法石を守りながら闘える状況だから不利だ。だからまずはあいつを外に誘き出して有利な状況で叩く」
とりあえず今まとまってる考えを口頭で説明しながら近くにあった枝を拾って何となく図解説明も始めた。そうしていると自分でも改めて状況を整理しやすくなってより考えをまとめられた。
あの怪物を外まで誘い出せれば目的の魔法石ともぐっと引き離せるし、入手しやすくなるだろう。それにこの開けた場所なら相手の攻撃も避けやすくなるし、誘き出して不意打ちで左右囲んで叩く作戦…完璧では?釣り野伏せってやっぱ優秀な戦術だわ!
「…そーは言っても、どーやってあいつを誘き出すわけ?魔法石から離れてくれる確証もないじゃん」
それっぽい作戦を発案したことで悦に浸っているといつの間にか枝を持って参戦したエースが私の図を突きながら当然の疑問を突き付ける。この子がこの場で一番説得する難易度高そうなんだよね…そして反論の余地がないぜ!
「それはそうなんだけども…まぁ、勘でしかないけど魔法石への執着異常だったからそこをうまく刺激して怒らせれば絶対邪魔者を排除しにくるタイプだと思うんだ。てか何が何でも出て来てもらうけど」
初っ端から勘と根性論のゴリ押しで信頼を得られるとは思わないが、現状相手の出かたなんて考えたってわからないのだからそれは対面した時にどうにかするしかないのだ。
「連れ出すって…1人で行く気なのか?」
「うん…いや、やっぱ囮役は私とグリム」
万が一捕まってやられるのを想定するとせめてもう1人は囮役がいないと不安だ。それに1人だと他3人を警戒して追いかけて来ない可能性もあるから2人いればより積極的に潰しに来る可能性も上がる気がする。
「ふなっ!?オレ様が囮役!?嫌なんだゾ!」
「この2人はダメージ負ってるんだから無傷の私とアンタが行くのが必然でしょうが」
「ふな〜〜っ!!」
囮役になることをめちゃくちゃ嫌がるグリムだったが、釣り野伏せの囮役は釣った後に即攻撃を仕掛ける柔軟性がいる。オンボロ寮のゴースト戦での身のこなし的にグリムが適任だと思ったんだから大人しく従って欲しいもんだ。
「グリムはいいとして、君はその大丈夫なのか…走るの苦手そうだし、やっぱり俺が代わりに…」
「不安なのもわかるし、心配してくれてありがと。でもそれじゃダメなんだ。だってデュースにはとびっきりの大鍋を出してもらわなきゃいけないんだからね。現状一番ダメージ期待できる魔法なんだから、どっしり構えといてよ」
「そ、そうか…そうだな。わかった!どデカい大鍋を出してみせるからな!」
「期待してる。私達も頑張るから絶対外さないでよね」
「うっむ…もちろん!必ず当ててやるさ!任せてくれ」
一瞬プレッシャーを感じで微妙な顔をしていたものの、直ぐに胸を張って真っ直ぐに寄越してくれた眼差しは一点の曇りもなく不安を拭い去る力強さを感じ、強張っていた顔が緩んで思わず笑みが零れた。
この状況下に置かれた時点で私は彼らのことを信じてあの化け物と対峙することを決意していたけども、自分のことを信じて力を貸してもらうことがこんなに頼もしく嬉しく思うとはね。
私が信頼を寄せるのはもちろんだけどやっぱり信じてもらわないとな…改めてまだ訝しげな態度のままのエースを見つめる。
「…何だよ」
居心地悪そうにしているエースは私の視線に訝しげにジトっとした視線で返してくる。
ダメージソースがデュースの大鍋だけじゃまだ不安が残るからエースにも是非頑張っていただきたいが…風魔法をどう扱うか、悩んでいた。
単体攻撃ではあの怪物にはそよ風程度だし、使うにしても攻撃を少し逸らしてこちらの被弾率やダメージを減らせたら御の字かな…暴風レベルならどう使っても強いけど、それ以下の風ってなると…応用すれば何となるだろうか?ならばどう扱うかと考えながら他に何かないかと視線をふとエースから周りの景色と移した時だった。
「…廃鉱山…炭鉱…っ!」
「!い、いきなりどうしたんだゾ!?」
突然ガバッと飛びつくように積み上げられた箱を漁り出した私を見て隣に座っていたグリムが素っ頓狂な声を上げる。ざわつく声を無視して置いてある箱をいくつも確認して、ついに目的のものを見つけられた私は頭の中で朧げに描いていた作戦のピースが揃ったことでようやく活路を見出せた気がした。
早く皆に共有したくなってまたグリムの隣まで滑り込み、手頃な木の棒で図を描きながら口頭でも熱く説明する。
「…てことで、皆の協力が必要だからさ。特にグリムとエースにはいっぱい魔法使ってもらいたいからよろしく!」
自分的に完璧な作戦を思いついたからか、夜のテンションなのか、学園を追い出される瀬戸際だってのにこの世界に来て一番いい笑顔を浮かべていることだろう。
完全に緊張感を失った私が底抜けに明るくなった様子に困惑していた面々だったが、絆されてくれたのか釣られたのか、一番怪訝そうな反応をしていたエースでさえも最初に見せていた調子でようやくふっと表情を緩めてくれた。
「運要素が多いのが気になる作戦だけど…いいね。やってやろうじゃんか」
さーてやるか、と気合十分に伝えた作戦の下準備に入るエース達の背中を見て、ここまで目的は一緒でも何をするにしてもギスギスしてバラバラにしか行動できなかったパーティーが初めてまとまったのが出会ったばかりにも関わらずとても感慨深くなった。
「よーし、今出来ることは全部やったな…時間は有限だし、そろそろ始めようか、グリム」
戦の下準備をすませ、囮役のグリムと私はあの怪物をおびき寄せるために再び炭鉱へ潜ろうとしたが、黙りこくって下を向いたままのグリムが半歩後ろで立ち止まっている。
「……なぁ…… 幸緒……本当にこの作戦で大丈夫なのか……こわ、不安なんだゾ」
「今更何………大丈夫だよ、グリム。さっきまではさ、焦ってちゃんと闘えなかっただけなんだから、今の皆の力を最大限生かせるこの作戦ならきっと上手くいくよ…それに大魔法士?になる予定ならこんな所で怖気付いてらんないでしょ?」
しゅんとしていたグリムと目線を合わせるようにしゃがんで、出来るだけ優しく元気づけてやろうとそう笑いかけると不安がっていたグリムはやがてパッと自信に満ちたイタズラっぽい笑みを浮かべて頷いた。
「じゃっ、2人はここで待機しててね…作戦通りに」
「ま、気楽に行こうぜ。誘い出せさえすれば、後はフォローしてやるよ」
2人と一旦別れて、化け物を誘き寄せるために私とグリムは再度炭鉱へと足を踏み入れた。
捜すには結構手間取るかと思っていた矢先、少し奥へ入った所で例の怪物を発見できた。
怪物と交戦できるくらいの広い空間で大きな図体を屈め、光の方へ身を寄せている。距離もあるため、まだこちらに気付いてない様子。
「グリム、あんた一回アイツを挑発したら後はそっちの道から全力で戻って、食いつき悪そうなら私が気を引いてこっちの道から誘い出すからさ」
「お前1人だと危ないんだゾ!本当に大丈夫なのか?」
「思ったより近かったから大丈夫でしょ。それにあんなに油断してる所に二方向から挑発したらすっごい怒って、必ず始末しにくると思うんだよね」
二股に分かれている道は結局入り口付近で合流してるので、グリムには一回挑発してもらったらさっさと戻ってエースやデュースと共に待ち受けていてもらえれば、最大火力も期待できるだろう。
「大丈夫!こんなとこで死ぬ気ないもんね!てかグリムが捕まる方が後の作戦的に困るし、先に戻って待ち伏せといてよ。ねっ」
ポンポンとついつい猫にするようにグリムの頭を撫でてしまった。プライドの高い奴だから怒られるかと思いきや、思いの他素直に撫でられて静かに頷く。それが意外で驚いたが、案外こちらが心を開けば相手にも聞いてもらえるもんだなと…思えばテキトーな対応しかしなかったから話も碌に聞いてもらえなかったんだなとしみじみ思う。
「じゃぁ頼むよ、グリム!」
「おう!オレ様がこの作戦を成功させてやるんだゾ!」
そうして私はその辺りに捨ててあるツルハシを持って柱の影に身を隠し、グリムはバッと背を向けている怪物の前へ躍り出た。
「やい、バケモノ!コ、コココッチなんだゾ!」
慌てて振り返る怪物に対してグリムは実に気に障りそうな小賢しい動きで最後には舌を出し、尻を叩いて挑発を終えると怒り狂った怪物が動くのと同時にビビりながら走り出した。
「おらぁっ!こっちだ、バケモノっ!」
柱の影で身を隠していた私は怪物の姿を見とめた瞬間にグッと握っていたツルハシを投げつけ、不意をついてやった。
全力で投げたツルハシは奴の胴体に当たったものの、全くダメージを負う様子もない。
「グルッ!?コッチニモ…ドロボウ……ワダサヌ…オデノ…オデノ!!」
グリムから注意を引くには十分だったようで別方向にもう1人敵が潜んでいることに驚きながらも走り去ったグリムを追うのをやめ、近くにいる私にターゲットを絞った怪物が持っていたツルハシを大きく振り上げた。
「当たるかばぁうっ、ヒィーッ!!」
予想していた攻撃を洞窟内の柱を間に挟むことで避けるのには成功したが、まさか壁にした柱がドガァッと激しく砕け散る様を目の当たりにして慌ててグリムとは別の道から出口へ全力で駆け出した。
あまりの破壊力に悪態も付けぬほどめちゃくちゃビビったが、ツルハシをぶん回して暴れながら追ってくる怪物の足が遅いお陰で平均を下回る私の足の遅さでも何とか出口に辿り着き、無事に炭鉱から飛び出した。
チラッと振り返れば怪物もしっかり私を始末する気で追いかけてる様子で普通に炭鉱から出て来た。
「デテイケ!デテイケ!!」
追い払うのが目的で引き返したらどうしようかと思ったけど、二度目の邂逅と私の足が遅いことでギリギリ追い付かれない絶妙な距離を保ってるせいか、鬼ごっこ系ゲームの追跡者くらい絶対に狩るという強い執着心を感じる。
私は直ぐ様視線を怪物から正面に向け、薄暗闇の中に予め地面に撒いたほんのりとオレンジ色に光る目印で描いた土俵を思わせる円形をしっかりと確認して怪物を誘導しながらその円の中に入った。
「今だっ!エース!グリムっ!」
「オッケー、お任せ!いくぜ、特大突風!」
「アーンド・グリム様ファイアースペシャル!ふな゛〜〜〜〜〜っ!」
「ぉわぁあーー!」
怪物が私の後を追ってしっかりと輪の中に入ったのを確かめた後に大声を出した私はさながらダイブするように円から脱出した瞬間、エースとグリムによって背後から巻き起こった炎を纏った突風に押し出されるように地面を舐める羽目になった。
しかし背後まで迫っていた怪物は私を捕える直前に、現エース最大風力の突風と現グリム最大火力の炎を合わせることで発生した炎の渦で逆に捕えられたのだ。さらに先ほど目印にもなった鉱山で見つけた隠し玉の石炭が目論見通りに赤く燃え上がりながら風の中をグルグルと暴れ回って動揺する怪物の進路も退路も塞いでる。
私の知っている炭鉱ならば石炭もあるはずと浅い知識ながら石の詰まった木箱を探し回った所、箱いっぱいの石炭を沢山見つけたのだ。廃鉱山だから回収されてるかと思ったから運が良かったのか、それかクズ石のような扱いを見るにこの世界では石炭はあまり必要とされていないのかもしれない。石よりも軽く、エースの風魔法でも容易に浮かせられそうでグリムの炎によって熱を加えればかなり高温になる石を利用することで2人の合わせ技を強化できると思ったのだ。仮にエースの風魔法で浮かなくても足元に敷いた熱々の石がグリムの炎をより強化にしてくれるだけでも上々だろう。
「グアアアア!!?」
結果は期待以上の威力を発揮したステルスロック+炎の渦!完璧!と思いきや、かなり高温に晒された石炭がなんと炎の渦の中で時々破裂しては敵味方関係なく降り注いでくるのでこちらも避難しないといけない危険さは誤算だった。やっぱり甘い知識で取り扱っていいもんじゃないと思い知らされたが、下準備にグリムとエースの合体技が成功するかの前段階で石炭の山を燃やすのに効率よく火を巡らせるために2人に頑張っていただいた甲斐もあり、一個一個は軽いながらも熱い石を身に受ける怪物は過去最高に怯んでいて隙だらけだ。くっそ大量に出た石炭の臭い煙を浴びた甲斐があったな!
「デュース!今だよ、一番キツい奴をお見舞いしてやれ!」
自身を落ち着かせるように深呼吸していたデュースにトドメを促せば彼はイメージを練るため集中して静かに目を閉じて呟いた。
「…俺が知る中で一番大きく……重たい……いでよ、大釜!!」
炎の竜巻がフッと消え去った瞬間、デュースの特大大釜が見事動揺していた怪物の頭上から現れてガラスの脳天に直撃して怪物ごと押し潰した。
「オイ、見てみろ幸緒!バケモノがさっきのエースみたいに大釜に押しつぶされて、ペッタンコになってるんだゾ!」
「さっきのオレみたいってのは余計だっつの!ったく、今日はマジいいとこナシじゃん」
「油売ってる場合かお馬鹿っ!アイツが寝てる内に魔法石回収回収ーっ!」
もはやアドレナリンが出過ぎて再び全力ダッシュで洞窟内に飛び込んだ私達は一応道標に撒いていたクズ石に沿って迷うことなく目的の魔法石まで到達できた。ここまではスムーズだ。
しかしようやくお目にかかれた魔法石は七色の光を放つ美しさに感動する暇もない私達を喜ばせるどころかまさかの絶望に突き落として来た。
「ちょっ…これマっ!?半分くらい埋まってるんですけどー!?」
ここに来て発掘作業というロスタイムが発生したお陰で外で元気に喚いている怪物の様子を慌てて見に行ったデュースとエースが実況をしているのを聞きながら、私とグリムは急いでその辺にあったスコップを手に取り魔法石を掘り出す羽目となった。
「急げ急げ急げ!」
大釜!大釜!と馬鹿の一つ覚えのように大釜召喚するデュースにツッコミを入れるエースのまるで漫才みたいな緊張感のないやり取りを聞きながら、そろそろ取れそうな魔法石を力づくで引っ張るが後少しで取れない焦燥感で冷や汗が止まらない。そんな時グリムがほりほりしていた根元に炎を吐いて半ば無理矢理に魔法石を引っこ抜くのに成功した。まぁ…傷ついてないなら多少燃やしてもいいよな!
「よし、取れたっ!さっさとずらかるんだゾ!」
「おうっ!撤退撤退撤退っ!」
中々重みのあるボール大の魔法石を抱えて私とグリムは急いで出口で待っている2人の元へ駆けつけ、まだ何とか大釜を払い退けて立ち上がろうとしている怪物に追いつかれる前にワープ地点の鏡へと急いだ。
「オ゛レ゛ノ……ダアアアアアアアアア!!!」
しかし直ぐ脇を通り抜ける前に魔法石を抱える私を見て咆哮をあげる怪物の威圧感に気圧されて一瞬立ち止まってしまう。気持ち的にはラグビーのボールを抱えて走る選手や、モンハンで竜の巣から卵を盗み出すクエストを受けてる気分でとても冷静さを維持できなくて慌てて走ったものの復帰して追いかけてくる怪物との距離は大分近い。
「ウウ…ウウウッ…!イジ…カエセェエ……ッ!!」
しかも魔法石への執着ブーストかかってんのか、足早くなった気がする…てか最早並走してるよ!
「このままじゃ鏡のとこ着く前に追いつかれちゃうよ!アイツ結構弱ってるし、あんた達の魔法で何とか出来ない?!いや、何とかしてーっ!」
そんな無茶振りをして抱えていた魔法石をどうしようかと悩んだ後、咄嗟に着ていた上着の中へ潜り込ませてしっかりとジッパーを上げてお腹に密着させた。
そうしてせっせと戦闘態勢を整えてる間にエースとデュース、意外にもやる気満々のグリムが怪物の前に立ちはだかってくれた。
「あーっ、もぉ!やったろーじゃん!チビんじゃねーぞ、真面目クン!」
「お前こそ!」
「オレ様の真の力、見せてやるんだゾ!」
うだうだ言ってたのが嘘のようにやる気に満ちた背中が何と頼もしいことか!しかしここで完全に決着をつけるためにも魔法の使えない私でも皆が動きやすいように怪物の気を逸らすくらいの戦力にならねばと打ち捨てられていたツルハシを手に取った。
でも魔法石抱えながらでは動きづらいし、無闇に接近戦を挑めばやられるのは分かりきってる。なので投擲を繰り返して魔法がヒットする手助けをしようと、頑張るグリムの背後でせっせと投げつけられるツルハシやスコップ、シャベルなどを集めていた。幸い弱っている怪物を皆で囲むように袋叩きにしている状況で飛んでくる攻撃も何とかダメージを捌けるほどには戦況は優勢に思える。狙われていたデュースとエースがツルハシの横一線を何とか避けきり、攻撃後の隙だらけの怪物目掛けて力一杯にツルハシやスコップを投げつけた。
「ふなぁああ〜〜っ!」
「くたばれーー!」
火を吹きかけるグリムと共に背中を向けている怪物に口汚く罵りながら無我夢中でボコボコと物を投げつけていると、弱っていたはずの怪物が振り返ったと思えば激昂してグリムの炎を物ともせずにかき分けながら迫って来る。あまりのスピードに火を吹いていたグリムもシャベルを投げようとしていた私も咄嗟に動作を止めるだけの余裕しかなかった。
「許せ、グリムっ!」
「!?っぶな゛っ!!?」
このままでは振り上げられたツルハシがグリムに当たってぺしゃんこになる!と思い、前に立っていたグリムを思いっきり蹴飛ばした…までは良かったが無茶な体勢でシャベルを持ったまま、魔法石を気にして蹴りを繰り出したために私はバランスを崩して転びかけた。
グリムが立っていた場所に踏み込まないよう必死で堪えたその瞬間、さっきまでグリムが立っていた場所、私の眼前に振り下ろされたツルハシがズドンっと大きな音を立てて地面に穴を開けた。フワッと巻き起こった風に前髪が一瞬逆立った。
「あああああ、危ねぇー…」
危機一髪避けられた私はその振動でよろけてツルハシに寄りかかってひとまずひき肉ならなくてよかったと安堵した。両手で固く持っていたシャベルを転けないように思わずツルハシに引っ掛けてしまったのだが、ハッとこの距離はヤバいと怪物を見た。最初に見た時よりもガラスの頭に入ったヒビが広がってるようなと逡巡していた瞬間、深く突き刺さっていたはずのツルハシが引き抜かれた。
「ほあっ!?!?っぬぁああっ!!!」
離れようとする間も無く、力任せに持ち上がったツルハシに引っ掛かっていた私は途中で勢いに耐えきれずにシャベルから片手を離してしまった。するとすごい勢いで身体は上空へ投げ出された。
軽々と宙を舞う身体は周りの木々の先端まで届くほど舞ってバランスも取れないまま落下態勢に入ってしまう。
この高さは死ぬぅ!と思わずシャベルを抱きしめて体を丸める私の身体がふわりと吹いた風に包まれる心地がした。
不安定だった視界に真上にいる私を見ていた怪物とそんな怪物の気を逸らそうと躍起になっているデュースとグリム、そして風魔法で頑張って私を支えている苦悶の表情を浮かべるエースを捉えた。嘘でしょ!?あんま重いもんは浮かせられないって言ってたのに、フォローの鬼かよ!感動した!
「ふんぬぬぬ〜〜〜っ!あ〜〜もう無理っ!!」
「!!エース!そのまま風向きを真下に向けて!」
「はぁっ!?この状況でなんつー無茶振りを…しょうがねーなぁ!どうなっても知らねーから!」
「サンキュー!何とかなるよ、多分っ!」
フォローをされている安心感からか、高い位置から怪物に向かって正しくシャベルを使ってやろうと思いついた私はただでさえ頑張っているエースにさらなる要求を伝えて安定性のある間に、刃の肩部分に両足をかけてシャベルに乗っかった。
グリップをしっかり掴み、真下の怪物へ向かっての落下態勢は準備万端だったが、まぁ当然ながら抵抗する姿勢を見せる怪物はこっちを見てツルハシを構えているから撃ち落とされる可能性が高いと目が合ってから気がついた。しかし幸い頼れる仲間の活躍により私と怪物の間にフッと現れた釜や足下に延々と吹きかけられる炎に翻弄された怪物がよろめき、わずかに隙が生まれた。
そんな最高のタイミングで緩やかに重力に従っていた私の身体はエースの風魔法の補助もあってさらに加速的に落下して行く。
「いっけえええーーっ!!」
落下の勢いと私の全体重を乗せたシャベルの刃が土を穿つように無防備な怪物のヒビの入ったガラスの顔面に突き刺さった。
「グォオオオオオオッ!!」
「んぐえええっ!!」
滑ったらどうしようなんて不安はしっかりとヒビに食い込み、ガラスをバリバリと割って行くシャベルの確かな手応えで杞憂で済んだのだが、落下の衝撃で思いっきりお腹に食い込んだグリップの反動ダメージに耐えられず私はうっかりシャベルを離してしまった。こうなってはとずり上がって首元から出て行こうとする魔法石を力ない腕で抱えながら落下の衝撃に備えていたが、私と地面のわずかな間に抜群のタイミングでずざぁーっとスライディングしてきたデュースに受け止められたため、追加ダメージを受けずに済んだ。
「おい、大丈夫か!?」
デュースの問いかけに頷きながら薄目で見た怪物はシャベルを突き立てられて苦しんでいるものの、シャベルの刃はガラスに刺さったまま宙ぶらりんの状態で後もうひと押しでトドメをさせなかったようだ。
「…あのシャベルに…大釜…トドメを」
ズキズキと身体中に響く痛みに耐えながら、シャベルを指差した私の意図が伝わったらしいデュースはキリッと凛々しい顔で頷き、片腕で私を抱えたまま怪物へマジカルペンをかざした。
何かこの抱き止められたまま敵を見据える状況ってすごくヒロインっぽくないか、私…と緊迫した状況でどうでもいいことを考えながら、ぼんやりと最後に召喚された大釜がエースの風魔法によって軌道修正しながら怪物に刺さっているシャベルをしっかりと押し込み、バリバリと砕け散ったガラス片がキラキラと月明かりに照らされる様を見届けた。今までの暴れっぷりが嘘のように力無く倒れた怪物から溢れ出た黒い液体が霧散するように空気に溶けて怪物は形を失くした。
「はぁ、はぁ……っ!」
「やっ……た?」
フワリと怪物が纏っていた衣服がぱさりと地面に落ちた瞬間、息遣いだけが響く静けさをサッカーでゴールを決めた瞬間の熱気を纏ったエースとグリムの歓声が引き裂いてそのノリのまま、感極まってガバッとデュースと私ごと抱き締めて来た。感動を分かち合うよりも先に私には魔法石のゴリゴリした硬い感触にお腹がさらなるダメージが入った。
「オレ様たちが勝ったんだゾ!」
「よっしゃあ!」
「やったあ!」
「痛い痛い痛い!痛いっつってんだろうがお馬鹿ぁっ!!」
「勝利のハイタッチなんだゾ〜!」
「「「イェーッ!!」」」
「マジか、コイツら…テンション高すぎる」
負傷している私を完全に無視して盛り上がってる3人は思いやりはともかく、ちょっと前からは考えられないくらいに意気投合してる。私を地面に投げ出して踊り始める始末だからもうホントただただすごいテンションだよ!
「ま…仲良くなって何よりだよ…」
「……あっ。ち、違う。別にこれは、そういうんじゃない!」
「そ、そーそー!変なこと言わないでくんない?」
「オッ、オレ様が大天才だから勝てたんだゾ!力を合わせたから勝てたわけじゃねーんだゾ!」
「えぇ…何だコイツら…」
「……って。言い訳すんのもダサいか。悔しいけど幸緒の作戦勝ち、かな」
唐突に天邪鬼を発動されたかと思えば急に素直に褒めて来て、さらに情緒不安定になったかと思えばツンデレになられて正直どう反応すればいいかわからなくなった。何なの。
「……ああ。幸緒が落ち着いて指示を出してくれたからこうして魔法石を手に入れられた」
「…ん?…そうだったかな?」
「これで退学させられずに済む……本当に良かった」
途中知らない美化された記憶が差し込まられているようなと引っ掛かったが、心底安堵した表情を見せるデュースを見てたら些細なことなんてどうでも良くなってしまった。
「皆が協力してくれたから成し遂げられたことだよね…ありがとう、信じてくれて」
「はいはい。よかったよかったー。マジ、無茶振りばっかでクッタクタのボロッボロ。早く帰ろうぜ」
改めて真面目に感謝を述べれば各々何とも可愛くない反応を示すけど、よく見れば耳を赤くして照れていたりと案外可愛らしい一面のある悪童達だと理解が深まって来た。
早々に帰宅を促すエースの言葉にようやく痛みの引いて来たお腹を案じながらも魔法石を上着から取り出して本日何度横たわっていたかわからない身体を起こした。途中、一度放り出したくせにまたも気遣ってくれる謎に優しいデュースの手を借りながら立ち上がり、ボロボロの私達は帰路へと着いた。
「それにしてもお前さー。魔法も使えないくせによくあんなとんでもない指示出したよな。耳を疑ったぜ」
「そう?ああなったからにはやるしかねーってあの時は思ったんだよね…スマブラ的にも浮いちゃったらこう反撃しながら戻るじゃん?そんな感じよ」
「??まぁそれが決定打になったんだから幸緒の判断は正しかったな、魔法なしにあの勇敢な行動に出られるのはすごかったぞ!」
「で〜しょ〜??もっと見直して褒めてくれていいぞ〜ホラホラ」
「コイツ!ついに調子乗り始めたんだゾ!」
ドワーフ鉱山へ来る時のギスギスした雰囲気は打ち解けた今や他愛無い会話に花を咲かせ、激闘の末に勝利を分かち合う仲間の絆が芽生えたせいか、傷ついた仲間に肩を貸すような男の友情を感じる……いや、私女子なんだけどね!
そう思うのは私が彼らをちゃんと同じように生きている存在だと認識したからか、それとも私が彼らの信頼に値する人間だと認められたからなのか、どちらにしろこの共闘の瞬間を、色んな思いをこの先も忘れずにいようと思った。
親愛なるお父様、お母様ーー
異世界で娘はめちゃくちゃ果敢に闘って強く生きています!
これからどう過ごして、いつ帰れるか、まだ全然わからないことばかりだけど…なんだかんだで信頼出来る人を見つけたからきっと大丈夫です!だから安心して、私の帰りを待っていてね!
心の中で両親に手紙を綴っていると、グリムが怪物の転がっていた衣服と一緒に落ちていた怪しい黒い石を美味そうに拾い食いする妙なイベントが発生して、やはり得体の知れない魔物なのね…と皆でドン引きする場面も挟みつつ、何事もなく鏡の元へ辿り着き、私達はとても晴れやかな気分での帰還を果たしたのだった。