プロローグ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
親愛なるお父様、お母様
何やかんあり、娘は色んな責任を背負わされていますが頑張って労働に従事しました。
朝から夕方までもうクタクタ…なのにこれから罰として窓拭きしなければなりません。最初は所詮窓拭きと娘は侮っていましたが、さすが異世界ですね。窓が高くて予想外です。途方に暮れています。
***
「あ〜しんど…」
馬鹿でかい敷地内を有する学園だけあって一つの区画を掃除するだけでも多大な時間がかかったためにあっという間に放課後を迎えてしまった。
人がいないのをいいことに食堂の真ん中のベンチとテーブルを占拠して体を預けてぐったりと私とグリムは項垂れていた。
「1日中掃除してもうクタクタなんだゾ……それなのに、これから窓拭き100枚だなんて……」
「愚痴るな。虚しくて余計疲れる…」
横のテーブルに積まれた雑巾の山がまだまだ労働が続くことを知らしめて来て辛い。
あまりのマンモス校すぎて食堂も馬鹿広いし、天井も高い。窓も横にも縦に長いし、とても拭きにくそうだ。てか上の方はどうやって掃除すりゃいいんだ。
「それにしてもあのエースってヤツ、遅いんだゾ。オレ様を待たせるとはいい度胸だ!イライラ!」
生徒も教師も食堂のスタッフもすでに帰っただろう静かな空間にグリムの声だけよく響き渡る。
再び訪れる静寂に私は頬をテーブルに擦り付けながら時計を見上げた。
学園長からの罰である窓拭きをするべく、集合場所で後1人が揃うのを待っているのである。
しかし待ち始めてからもう結構経ってるような……
「…もう帰ってたり…なーんて」
「…………」
「…………」
「………」
「………」
それからしばらく経ったが一向にエースが現れる気配はなく、ついにイライラが有頂天へ達したグリムがテーブルへ乗り上げながら怒り始めた。
「いくらなんでも遅すぎるんだゾ!?まさかアイツ、本当に逃げたんじゃないだろーな!」
「……逆にちゃんと来ると信用できる人間だったっけ?」
思い返せばわざわざからかうために知らない人に話しかけてくるような性格の悪さだ。来るはずがない。何で素直に待ってたんだろうな、私ら。
「罰をオレ様たちだけに任せて逃げるなんて許さないんだゾ!」
うんうん、何だかグリムと初めて意見が一致した気がするわ。
勝手に退学になるのは関係ないしどうでもいいけど、私らが頑張った後に何もしてない奴だけ許されてのうのうと学生のままでいられた場合が胸糞悪すぎる。これから各地で掃除するたびに奴が青春を謳歌してる姿を見る機会があると思うとムカつきすぎる。
労働の疲れも忘れて私とグリムはエースを引っ捕えるべく颯爽と食堂を後にした。
それから何となーくエースが居そうな教室へカチコミをかけたグリムの後に続いたが、エースどころか生徒1人見当たらない。
がっくりと途方に暮れていたら教室に飾られていた絵画が喋り出し、グリムと共にゴーストと遭遇した時くらい驚いたが話してみれば大分話の通じるタイプの不思議な存在であったために快くエースの情報を提供してくれた。
私の常識がサクッとぶっ壊されていくのも衝撃だったけど、壁に喋る目があるなんて便利な存在でもあり学生は常に動向を見張られると思うと震える。
「寮への扉は東校舎の奥さ」
「よし、幸緒!追いかけるんだゾ!」
行き先まで丁寧に教えてくれた紳士の絵画に手短に礼を言って、私も教室を飛び出したグリムについて行く。
ナイトレイブンカレッジの校舎は外見通り中も一々広くて労働終わりの疲れた身体に全力疾走は負担が大きい。心臓がヤバい。
しかし全力疾走は無駄ではなかったようで別の階層へ続く扉がいくつもある部屋にさしかかったところに性懲りも無く帰宅しようとしているエースを発見した。
「こーーらーーー!!!」
「げっ!!見つかった!」
「ぜぇ…ぜぇ…ま、待てぇい…ひぃ…」
「1人だけ抜け駆けはさせねーんだゾ!」
「待てって言われて待つわけないっしょ!お先!」
やっとの思いで捕まえられそうな距離まで来たのだが、すんでの所で逃げられてしまう。正直私の足では追いつけないが、グリムが謎に元気だから捕まえてくれそう。さっすが魔物!体力も足の速さも人間の私より優秀!
「1人だけずるいんだゾ〜!オレ様だってサボりたいんだゾ!」
「!?おま、おま…ほ前らっ!!責任から逃げるなっ!馬鹿ーーっ!!」
グリムに頼ろうとした私が本当に馬鹿だった。このままではいかんと力尽きそうになった身体に鞭打ちながら、2人から引き離されないようにがむしゃらに走った。
しかしこのままではジリ貧…!下手したらエースどころかグリムにも撒かれて1人寂しく泣きながら窓拭きする光景が目に浮かぶ。どうにか!どうにかしなければと焦っているとエースの向かう先にまだ残っていたらしい1人の学生が私達の喧騒に反応して足を止めて訝しげに振り返った。
「どいたどいた!」
「えっ、お、おうっ!?」
エースに気圧されて思わず、退こうとする青髪の真面目そうなその子に私は精一杯の力を振り絞って叫んだ。
「その人ぉはぁっ!!責任から…罰則から…逃げようとしてる悪い奴なのおっっ!!捕まえてーーっ!!」
「何っ!とんだ悪い奴じゃないか!…えーっと、人を捕まえるには…」
どうやら正義感の強い生徒らしい青髪の子は捕獲には協力的で安心したが、どうやって捕まえるか考え出してしまった。あ、この人役に立たないかも!
「何でもいいからぶちかますんだゾ! 早く!」
ここでグリムの叱咤が飛んだおかげでハッと反応した彼は魔法が使えたのか、宙から召喚した鍋が見事エースを捕らえた。
「ぐえぇっ!」
芸人の上にタライが落ちるようにエースを下敷きにした大きな鍋はそりゃ重量もありそうで中々痛そうだ。そんな鍋の下で潰れたカエルのように伸びているエースを見てグリムはめちゃくちゃ嬉しそうにはしゃいでる。この両者とも醜い様を目の当たりにすると自分は決して情けない醜態を晒す人間にはなるまいと決意を強く持ったのだった。
「まさか大釜が出るとは…ちょっとやりすぎたか……?」
「大丈夫!君が気に病むことは何もないから!むしろ捕まえてくれてありがと。まじ助かったわ…ふぃ…疲れた…」
「そうか?それならいいか」
もう走り疲れてその場に膝をついて倒れ込む私を大丈夫か!?と心配してくれる声に片手を上げて応えつつ、もう体力の限界だったので床に寝そべって体を休めた。
「あいたた……」
すると私よりも回復が早かったらしいエースが大釜の下から這い出て来た。あんな重そうな鍋の直撃を受けたのに割と元気そうだし、不貞腐れた様子を見るに反省はしていないんだろう。
「いーじゃんかよ。窓拭き100枚くらいパパッとやっといてくれたってさー」
「パパッと出るわけあるかお馬鹿っ…出来たとしても私達の頑張りでアンタがのうのうと学園生活を送ると思うと憎しみが…とても耐えられないね!」
「罰で窓拭き100枚って……一体君たちはなにをやったんだ?」
私達の会話を聞いた青髪の子が呆れ顔でそう聞いてくるが、疲れ切ってる私は何も言えずじっとりとした視線をエースに送れば彼はちょっとバツが悪そうに頭をかきながら理由を答えた。
そう言えばグレートセブンと言われてる石像について私は馴染みがないからパッとしないのだが、青髪の彼が炎上させたことにものすごく驚いて呆れてる様子を見るに結構重大な不祥事らしい。しかし私は尻を燃やされた挙句に連帯責任を負わされただけだけども。
くどくどと説教を垂れて来た青髪の子が鬱陶しくなったのか、機嫌悪そうにエースが悪態をついて青髪の子の名前を聞いてる。そう言えば世話になった割に全然知らない人だったわと改めてしっかり顔を見てみる。
青い髪に青い瞳、エースと同じように左目にスペードの化粧…これ 流行ってんの?遠目に見た時殴られて出来た青あざかと思ったわ。まぁ、これに関してはエースを見た後だったからまだ簡単に受け入れられそうだ。
「僕はデュース。デュース・スペード。クラスメイトの顔くらい覚えたらどうだ?…えーっと…」
「お前も覚えてねーじゃん」
「………」
優等生っぽい雰囲気はあるんだけどなんか、なんか抜けてそうな、絶妙に肝心なところでドジを踏んでしまいそうな雰囲気を感じる。しかし彼は概ね言ってることは正論ばかりだし、間違ってないのでエースも不満げながら観念したようだ。
はぁ…ようやく窓拭き開始か…これからかぁ…うゎしんど。
「んぁ…あれ…あのお喋りな猫はどこに?」
「あっ! 毛玉がいない!」
そう言えばやけに静かだと思えば姿をくらませたグリムをキョロキョロと探し回っていると、ふと窓からいつの間にか校舎を出て外に駆けていく灰色の毛玉が見えた。してやったりと言ったニヤけた横顔からどうやら出し抜かれたらしい。
「あんにゃろ〜オレを身代わりにしたな!?」
「…さっきまでのアンタの姿なんすけど」
「うっさいなー!とにかくあの毛玉捕まえるぞ、そっちの青いの!」
チラッとこちらを振り返ったエースは即座に私には戦力外通知を言い渡し、グリム逃走の責任をデュースに押し付けて見事捜索の手伝いに連れ立って行った。いや、行っちゃうのかよ。
ザコ認定は正直悲しいものがあるが、窓の外で彼らが元気に魔法を放ちながら追いかけっこをする様子を見て確かに私にはついていけないと納得せざるおえない。
「おっ捕まえられそう…おん?もめとる…逃げられてるし、全然息合わないな、あの人たち」
ようやく立ち上がり歩き回れるだけの体力を取り戻した私はグリム達が校舎の方に戻ってくるのを見計らい窓辺から離れて、一応外に出てみようと動き出した。
道すがら飾ってあった絵画に道を尋ねながら階段を降りたところでちょうど外から校舎へ逃げ帰って来たらしいグリムと鉢合わせた。
「げぇっ!待ち伏せなんてセコいんだゾ!」
「うっさい馬鹿っ!いい加減、自分の行動の責任とって窓拭きしろっ!!」
ばっと手を広げて通せんぼしながらジリジリと詰めて行くと、気圧されてくれたらしいグリムはこちらを伺いつつパッと後退した。勢いよく走り出そうとした時に反対側からエース達が追いついて来て、グリムは慌てて開いていた扉を潜って食堂へ逃げ込んだ。
結果的に目的地へと帰ってこれたのはよかったが、それからが大変だった。
「へっへっへ!捕まえられるもんなら捕まえてみろ〜だゾ!」
グリムの奴はなんと天井から吊り下がったシャンデリアの上に上がってしまったのだ。高い上にゆらゆらして埃が雪のように舞って汚い。
こんな時こそ魔法をと期待を込めて横の2人を見やれば何とも微妙な表情で顔を逸らすだけ、結局3人集まっても何も出来ないままこうして煽られている状態が続いてるわけだ。
「何か魔法でどうにか出来ないの?飛んだりとか」
「飛行術はまだ習ってないし…」
「へー…なーんだ。あの学園長、優秀な魔法士養成学校だとか言ってたけど魔法が使えるレベルって一般人に毛が生えた程度かぁ」
別に煽るつもりはなく、映画やアニメなんかで見るような超ド迫力の魔法は見れないのだと悟って残念に思っただけなのだけども、どうやらこの発言は2人のプライドを傷つけたらしい。デュースはより一層考え込み、エースはなんか文句言いたげにこっちを睨んでくる。
「お前さー、さっきから聞いてれば言いたい放題言い過ぎじゃない?魔法も使えないくせにっ」
「そりゃ一般人だし、魔力ない認定されてるし、使えなくて当然なんですけど」
「だーかーらー!そんな一般人がこの学園にいるのがおかしいでしょうが!」
「その理由は私が聞きたいくらいだっての!てかこちとら早く帰りたいつーの!」
「はっ、そうだ!お前を投げればいいんだ!」
「はぁ!?」
エースと口論を繰り広げていたその時、何か閃いたらしいデュースが流れるようにエースにマジカルペンなるものを向けてとんでもない発言をして来た。
すごい魔法見たいなとは思ってたけど、慌てて抵抗するエースをフワッと浮かせて人間ロケットを発射する気満々のデュースの様子は気が触れてるとしか言いようがない。
「しっかり捕まえろよ。よく狙って……いくぞ!」
マジかこの人。それを放った後の被害とかまるで考えてないのかな?頭上で光るシャンデリアがあんなに眩しいのに?
彼の思考が怖くて怖気ついてる間に射出されたエースは勢いよく宙を舞い、その速度に逃れる間もなかったグリムと衝突して空中爆発した。二つの断末魔が消えた瞬間、シャンデリアの光が消えてガラスが落ちて割れる大きな音と床に落ちた衝撃で食堂内は埃と煙で覆われてしまった。
けぶる視界の中べちゃっと床に落ちたエースとグリムの呻き声がしたので、とりあえず命に別状はなさそうでよかった…と安堵した。
「しかしなぁ〜〜大惨事ダァ」
「しまった!捕まえた後の着地のことを考えてなかった…!」
「おっま…バッッッカじゃねぇの!!!????」
今日一番の大きな声を出したエースだったが、これは流石に同意せざるおえない。しかもこの展開ちょっと前にも覚えがある。
「グリムは捕まえたけど、シャンデリアぶっ壊したのが学園長に知れたら…」
烈火の如く怒るエースが猛烈な速さでフラグを立てていくので、ヤバい!早く逃げ出さないと!と私は食堂の扉へ向かおうと身を翻した瞬間、仮面越しに黄色く光る目とがっちり視線があってしまった。ダメだこりゃ。
「あ……学園長………」
「あ〜な〜た〜た〜ち〜は〜〜〜ッ一体なにをしているんですか!!!!」
学園長の放った怒号により、食堂に舞っていた埃すらその圧に吹き飛ばされて行くほど響いた声は食堂内のあらゆるものを震わせたのだった。
何やかんあり、娘は色んな責任を背負わされていますが頑張って労働に従事しました。
朝から夕方までもうクタクタ…なのにこれから罰として窓拭きしなければなりません。最初は所詮窓拭きと娘は侮っていましたが、さすが異世界ですね。窓が高くて予想外です。途方に暮れています。
***
「あ〜しんど…」
馬鹿でかい敷地内を有する学園だけあって一つの区画を掃除するだけでも多大な時間がかかったためにあっという間に放課後を迎えてしまった。
人がいないのをいいことに食堂の真ん中のベンチとテーブルを占拠して体を預けてぐったりと私とグリムは項垂れていた。
「1日中掃除してもうクタクタなんだゾ……それなのに、これから窓拭き100枚だなんて……」
「愚痴るな。虚しくて余計疲れる…」
横のテーブルに積まれた雑巾の山がまだまだ労働が続くことを知らしめて来て辛い。
あまりのマンモス校すぎて食堂も馬鹿広いし、天井も高い。窓も横にも縦に長いし、とても拭きにくそうだ。てか上の方はどうやって掃除すりゃいいんだ。
「それにしてもあのエースってヤツ、遅いんだゾ。オレ様を待たせるとはいい度胸だ!イライラ!」
生徒も教師も食堂のスタッフもすでに帰っただろう静かな空間にグリムの声だけよく響き渡る。
再び訪れる静寂に私は頬をテーブルに擦り付けながら時計を見上げた。
学園長からの罰である窓拭きをするべく、集合場所で後1人が揃うのを待っているのである。
しかし待ち始めてからもう結構経ってるような……
「…もう帰ってたり…なーんて」
「…………」
「…………」
「………」
「………」
それからしばらく経ったが一向にエースが現れる気配はなく、ついにイライラが有頂天へ達したグリムがテーブルへ乗り上げながら怒り始めた。
「いくらなんでも遅すぎるんだゾ!?まさかアイツ、本当に逃げたんじゃないだろーな!」
「……逆にちゃんと来ると信用できる人間だったっけ?」
思い返せばわざわざからかうために知らない人に話しかけてくるような性格の悪さだ。来るはずがない。何で素直に待ってたんだろうな、私ら。
「罰をオレ様たちだけに任せて逃げるなんて許さないんだゾ!」
うんうん、何だかグリムと初めて意見が一致した気がするわ。
勝手に退学になるのは関係ないしどうでもいいけど、私らが頑張った後に何もしてない奴だけ許されてのうのうと学生のままでいられた場合が胸糞悪すぎる。これから各地で掃除するたびに奴が青春を謳歌してる姿を見る機会があると思うとムカつきすぎる。
労働の疲れも忘れて私とグリムはエースを引っ捕えるべく颯爽と食堂を後にした。
それから何となーくエースが居そうな教室へカチコミをかけたグリムの後に続いたが、エースどころか生徒1人見当たらない。
がっくりと途方に暮れていたら教室に飾られていた絵画が喋り出し、グリムと共にゴーストと遭遇した時くらい驚いたが話してみれば大分話の通じるタイプの不思議な存在であったために快くエースの情報を提供してくれた。
私の常識がサクッとぶっ壊されていくのも衝撃だったけど、壁に喋る目があるなんて便利な存在でもあり学生は常に動向を見張られると思うと震える。
「寮への扉は東校舎の奥さ」
「よし、幸緒!追いかけるんだゾ!」
行き先まで丁寧に教えてくれた紳士の絵画に手短に礼を言って、私も教室を飛び出したグリムについて行く。
ナイトレイブンカレッジの校舎は外見通り中も一々広くて労働終わりの疲れた身体に全力疾走は負担が大きい。心臓がヤバい。
しかし全力疾走は無駄ではなかったようで別の階層へ続く扉がいくつもある部屋にさしかかったところに性懲りも無く帰宅しようとしているエースを発見した。
「こーーらーーー!!!」
「げっ!!見つかった!」
「ぜぇ…ぜぇ…ま、待てぇい…ひぃ…」
「1人だけ抜け駆けはさせねーんだゾ!」
「待てって言われて待つわけないっしょ!お先!」
やっとの思いで捕まえられそうな距離まで来たのだが、すんでの所で逃げられてしまう。正直私の足では追いつけないが、グリムが謎に元気だから捕まえてくれそう。さっすが魔物!体力も足の速さも人間の私より優秀!
「1人だけずるいんだゾ〜!オレ様だってサボりたいんだゾ!」
「!?おま、おま…ほ前らっ!!責任から逃げるなっ!馬鹿ーーっ!!」
グリムに頼ろうとした私が本当に馬鹿だった。このままではいかんと力尽きそうになった身体に鞭打ちながら、2人から引き離されないようにがむしゃらに走った。
しかしこのままではジリ貧…!下手したらエースどころかグリムにも撒かれて1人寂しく泣きながら窓拭きする光景が目に浮かぶ。どうにか!どうにかしなければと焦っているとエースの向かう先にまだ残っていたらしい1人の学生が私達の喧騒に反応して足を止めて訝しげに振り返った。
「どいたどいた!」
「えっ、お、おうっ!?」
エースに気圧されて思わず、退こうとする青髪の真面目そうなその子に私は精一杯の力を振り絞って叫んだ。
「その人ぉはぁっ!!責任から…罰則から…逃げようとしてる悪い奴なのおっっ!!捕まえてーーっ!!」
「何っ!とんだ悪い奴じゃないか!…えーっと、人を捕まえるには…」
どうやら正義感の強い生徒らしい青髪の子は捕獲には協力的で安心したが、どうやって捕まえるか考え出してしまった。あ、この人役に立たないかも!
「何でもいいからぶちかますんだゾ! 早く!」
ここでグリムの叱咤が飛んだおかげでハッと反応した彼は魔法が使えたのか、宙から召喚した鍋が見事エースを捕らえた。
「ぐえぇっ!」
芸人の上にタライが落ちるようにエースを下敷きにした大きな鍋はそりゃ重量もありそうで中々痛そうだ。そんな鍋の下で潰れたカエルのように伸びているエースを見てグリムはめちゃくちゃ嬉しそうにはしゃいでる。この両者とも醜い様を目の当たりにすると自分は決して情けない醜態を晒す人間にはなるまいと決意を強く持ったのだった。
「まさか大釜が出るとは…ちょっとやりすぎたか……?」
「大丈夫!君が気に病むことは何もないから!むしろ捕まえてくれてありがと。まじ助かったわ…ふぃ…疲れた…」
「そうか?それならいいか」
もう走り疲れてその場に膝をついて倒れ込む私を大丈夫か!?と心配してくれる声に片手を上げて応えつつ、もう体力の限界だったので床に寝そべって体を休めた。
「あいたた……」
すると私よりも回復が早かったらしいエースが大釜の下から這い出て来た。あんな重そうな鍋の直撃を受けたのに割と元気そうだし、不貞腐れた様子を見るに反省はしていないんだろう。
「いーじゃんかよ。窓拭き100枚くらいパパッとやっといてくれたってさー」
「パパッと出るわけあるかお馬鹿っ…出来たとしても私達の頑張りでアンタがのうのうと学園生活を送ると思うと憎しみが…とても耐えられないね!」
「罰で窓拭き100枚って……一体君たちはなにをやったんだ?」
私達の会話を聞いた青髪の子が呆れ顔でそう聞いてくるが、疲れ切ってる私は何も言えずじっとりとした視線をエースに送れば彼はちょっとバツが悪そうに頭をかきながら理由を答えた。
そう言えばグレートセブンと言われてる石像について私は馴染みがないからパッとしないのだが、青髪の彼が炎上させたことにものすごく驚いて呆れてる様子を見るに結構重大な不祥事らしい。しかし私は尻を燃やされた挙句に連帯責任を負わされただけだけども。
くどくどと説教を垂れて来た青髪の子が鬱陶しくなったのか、機嫌悪そうにエースが悪態をついて青髪の子の名前を聞いてる。そう言えば世話になった割に全然知らない人だったわと改めてしっかり顔を見てみる。
青い髪に青い瞳、エースと同じように左目にスペードの化粧…これ 流行ってんの?遠目に見た時殴られて出来た青あざかと思ったわ。まぁ、これに関してはエースを見た後だったからまだ簡単に受け入れられそうだ。
「僕はデュース。デュース・スペード。クラスメイトの顔くらい覚えたらどうだ?…えーっと…」
「お前も覚えてねーじゃん」
「………」
優等生っぽい雰囲気はあるんだけどなんか、なんか抜けてそうな、絶妙に肝心なところでドジを踏んでしまいそうな雰囲気を感じる。しかし彼は概ね言ってることは正論ばかりだし、間違ってないのでエースも不満げながら観念したようだ。
はぁ…ようやく窓拭き開始か…これからかぁ…うゎしんど。
「んぁ…あれ…あのお喋りな猫はどこに?」
「あっ! 毛玉がいない!」
そう言えばやけに静かだと思えば姿をくらませたグリムをキョロキョロと探し回っていると、ふと窓からいつの間にか校舎を出て外に駆けていく灰色の毛玉が見えた。してやったりと言ったニヤけた横顔からどうやら出し抜かれたらしい。
「あんにゃろ〜オレを身代わりにしたな!?」
「…さっきまでのアンタの姿なんすけど」
「うっさいなー!とにかくあの毛玉捕まえるぞ、そっちの青いの!」
チラッとこちらを振り返ったエースは即座に私には戦力外通知を言い渡し、グリム逃走の責任をデュースに押し付けて見事捜索の手伝いに連れ立って行った。いや、行っちゃうのかよ。
ザコ認定は正直悲しいものがあるが、窓の外で彼らが元気に魔法を放ちながら追いかけっこをする様子を見て確かに私にはついていけないと納得せざるおえない。
「おっ捕まえられそう…おん?もめとる…逃げられてるし、全然息合わないな、あの人たち」
ようやく立ち上がり歩き回れるだけの体力を取り戻した私はグリム達が校舎の方に戻ってくるのを見計らい窓辺から離れて、一応外に出てみようと動き出した。
道すがら飾ってあった絵画に道を尋ねながら階段を降りたところでちょうど外から校舎へ逃げ帰って来たらしいグリムと鉢合わせた。
「げぇっ!待ち伏せなんてセコいんだゾ!」
「うっさい馬鹿っ!いい加減、自分の行動の責任とって窓拭きしろっ!!」
ばっと手を広げて通せんぼしながらジリジリと詰めて行くと、気圧されてくれたらしいグリムはこちらを伺いつつパッと後退した。勢いよく走り出そうとした時に反対側からエース達が追いついて来て、グリムは慌てて開いていた扉を潜って食堂へ逃げ込んだ。
結果的に目的地へと帰ってこれたのはよかったが、それからが大変だった。
「へっへっへ!捕まえられるもんなら捕まえてみろ〜だゾ!」
グリムの奴はなんと天井から吊り下がったシャンデリアの上に上がってしまったのだ。高い上にゆらゆらして埃が雪のように舞って汚い。
こんな時こそ魔法をと期待を込めて横の2人を見やれば何とも微妙な表情で顔を逸らすだけ、結局3人集まっても何も出来ないままこうして煽られている状態が続いてるわけだ。
「何か魔法でどうにか出来ないの?飛んだりとか」
「飛行術はまだ習ってないし…」
「へー…なーんだ。あの学園長、優秀な魔法士養成学校だとか言ってたけど魔法が使えるレベルって一般人に毛が生えた程度かぁ」
別に煽るつもりはなく、映画やアニメなんかで見るような超ド迫力の魔法は見れないのだと悟って残念に思っただけなのだけども、どうやらこの発言は2人のプライドを傷つけたらしい。デュースはより一層考え込み、エースはなんか文句言いたげにこっちを睨んでくる。
「お前さー、さっきから聞いてれば言いたい放題言い過ぎじゃない?魔法も使えないくせにっ」
「そりゃ一般人だし、魔力ない認定されてるし、使えなくて当然なんですけど」
「だーかーらー!そんな一般人がこの学園にいるのがおかしいでしょうが!」
「その理由は私が聞きたいくらいだっての!てかこちとら早く帰りたいつーの!」
「はっ、そうだ!お前を投げればいいんだ!」
「はぁ!?」
エースと口論を繰り広げていたその時、何か閃いたらしいデュースが流れるようにエースにマジカルペンなるものを向けてとんでもない発言をして来た。
すごい魔法見たいなとは思ってたけど、慌てて抵抗するエースをフワッと浮かせて人間ロケットを発射する気満々のデュースの様子は気が触れてるとしか言いようがない。
「しっかり捕まえろよ。よく狙って……いくぞ!」
マジかこの人。それを放った後の被害とかまるで考えてないのかな?頭上で光るシャンデリアがあんなに眩しいのに?
彼の思考が怖くて怖気ついてる間に射出されたエースは勢いよく宙を舞い、その速度に逃れる間もなかったグリムと衝突して空中爆発した。二つの断末魔が消えた瞬間、シャンデリアの光が消えてガラスが落ちて割れる大きな音と床に落ちた衝撃で食堂内は埃と煙で覆われてしまった。
けぶる視界の中べちゃっと床に落ちたエースとグリムの呻き声がしたので、とりあえず命に別状はなさそうでよかった…と安堵した。
「しかしなぁ〜〜大惨事ダァ」
「しまった!捕まえた後の着地のことを考えてなかった…!」
「おっま…バッッッカじゃねぇの!!!????」
今日一番の大きな声を出したエースだったが、これは流石に同意せざるおえない。しかもこの展開ちょっと前にも覚えがある。
「グリムは捕まえたけど、シャンデリアぶっ壊したのが学園長に知れたら…」
烈火の如く怒るエースが猛烈な速さでフラグを立てていくので、ヤバい!早く逃げ出さないと!と私は食堂の扉へ向かおうと身を翻した瞬間、仮面越しに黄色く光る目とがっちり視線があってしまった。ダメだこりゃ。
「あ……学園長………」
「あ〜な〜た〜た〜ち〜は〜〜〜ッ一体なにをしているんですか!!!!」
学園長の放った怒号により、食堂に舞っていた埃すらその圧に吹き飛ばされて行くほど響いた声は食堂内のあらゆるものを震わせたのだった。