荒野の反逆者
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ジャックが放課後の修行に参加してくれる様になった作戦決行日まで何日か前のこと。
明らかに魔法技術も体力面も最初からわりと強いジャックが来たことで高い高ーいプライドを刺激されたグリム達は負けじと修行に励んでいた。
かく言う私も最低限の体力を身につけねばと出来る限り修行に付き合っていた。当然ジャックにも醜態を晒して大層呆れられてしまったのだが…彼は呆れるだけでは終わらず、何故か絶対私に体力をつけさせると息巻いて来たのだ。一体何をされるのかと思えば毎日寝る前にやれ!とストレッチの内容が細かく記されたメモを押し付けられ、翌日の朝早くにオンボロ寮に不法侵入されて叩き起こされそのまま朝のジョギングに連行されるし、タンパク質を取れと食事メニューにも口出しされたりで初めの素っ気なさは何だったのかと問いたくなるくらい遠慮なく扱かれた。まさかいつメンじゃなくてジャックにいじめ抜かれるとは思わなかった…善意100%でより辛い。
そんなこんなで修行の方針が決まったとある日の放課後、魔法薬学室にてクルーウェル先生の手伝いとして授業終わりの片付けをしていた。
落ち着いて作業してて気づいたけど、このまま皆と同じ様に体力つけてもちょっと動きが機敏になっただけのか弱い女子高生にしかならないんでは?と。動けないよりは動ける方がいいし、非戦闘員だから無理のない範囲でサポート出来れば上出来だろうけど…とふと授業で使われた薬品の入った瓶を棚に片付けながら思ったのだ。
戦闘に役立つ魔法薬を作ればRPGゲームでアイテムを使う様に皆の体力維持とかバフデバフとか色々出来んじゃん!と閃いたのだ。
「これだーーーっ!!」
アイテムなら魔力関係なく使えるし、魔力なしでも工程さえ何とかなれば作れる魔法薬もあるので材料さえあれば私でも製作できる!興奮のあまりデカい声に出ていたらしく、近くで作業をしていたクルーウェル先生にペシッと教鞭で軽く頭を叩かれて注意された。
「まったく!これだからしつけのなってない駄犬は…」
「す、すんません。ちょっと興奮して、つい…ヘヘッ」
「ふむ、さっきまでは間の抜けた顔をしていたくせに今は随分と…」
「おっ。キリッとした凛々しい顔してますかね」
「ああ、褒美を前にして涎を垂らす犬のようにだらしない顔をしているな」
「ひ、ひどい言われようだ…まぁいいや!それで先生、お願いがありますっ!」
「ふぅん…まぁ、いいだろう。言ってみろ」
よく教鞭で生徒を躾けてるクルーウェル先生であるが、どんな相談でもちゃんと聞いてくれるから良い先生だ。特に隠すこともないので近づく作戦決行日に向けて荒事になった際に使える魔法薬(私が作成できるもの)をいくつか用意しておきたいことと、また作成するための道具やスペースを借りれないかと土下座する勢いで頭を下げて頼み込んだ。
「もちろん道具は大事に大事に扱いますし、お片付けもしっかりします!今まで以上にお手伝いも沢山しますのでどうかっ!」
「…受け持ちの仔犬にここまで懇願されては担任としては応えないわけにはいかないな」
「やったーーっ!ありがとうございますっ!先生サイコーっ!!」
「おっと、あまり浮かれるんじゃないぞ。お前の働きは評価するが、ルールはしっかり設ける。ちゃんと守るように!」
「はいっ!」
火や割れ物を扱うし、壁一面に素材の入った瓶が並ぶ魔法薬学室を使用させてもらう以上は自分を守るためにもルールは遵守せねばなるい。しかしクルーウェル先生は見た目の割に本当に面倒見がいい…何でもかんでも肯定するわけでもないけど頭ごなしに否定もしない、生徒の話を聞いてくれた上でちゃんと力になってくれるのだから出来た大人だ。同じ先生をしている身内の従兄弟の幸晴君にも見習ってほしいくらいである。引きこもりを脱却して自立しただけでも立派なのだけど常に無気力・サボり癖・いい加減な指導…と尊敬できない三拍子を備え身内としてもとりあえず責任感は一応存在する!くらいしか擁護できない先生だから、この学園の先生達の意外と頼り甲斐のある一面を目の当たりにする度に引き合いに出して比べてしまう。特にクルーウェル先生はその筆頭だ。
口頭の説明で終わるかと思って1人で使う際に間違いがないようにとメモを取っていたのだが、クルーウェル先生は私でも製作可能なレシピの揃う本を譲ってくれた上に実際に使う際のレクチャーまでしてくれた。手厚い!
次に肝心の材料をどう集めるかと頭脳を回転させていると、先生からある話を持ちかけられた。
それは先生が管理している素材(希少なものを除く)を使って私に魔法薬製作を依頼することで、先生が必要とする魔法薬を納品する傍らで私が個人使用する魔法薬を作るのを許容してくれると言う交換条件だ。あまりにも私に都合の良い話じゃね?と思いきや、レシピの魔法薬は全部クルーウェル先生が必要としている魔法薬であるために用意する手間を省けると言うまたしてもwin-winの提案なようだ。
「先生!私頑張ります!」
何だかどこぞのアトリエシリーズみたいなクエスト来たな!と密かにテンションを上げながら私はクルーウェル先生と固い握手を交わし、快く依頼を受けることにした。
「ふっ、期待しているぞ」
こうして私のサポート力強化が約束されたわけであるが、もう一つ収穫があった。
こちらは魔法強化に繋がるいい感じの教材はないかとふらりと立ち寄った図書室で偶然同じ本棚を眺めていたリドル先輩と鉢合わせた時のこと。
「リドル先輩だ!こんにちはー!」
「幸緒…図書室では静かに」
あまり遭遇率の高くない知り合いに会ったテンションでつい大きな声が出ていた。呆れて目を細めるリドル先輩に人差し指を唇に添える仕草を取られて嗜められてしまった。
「エヘッ…スィマセン」
「わかればよろしい。しかし君1人かい?最近エースとデュースの帰りが遅いから、てっきり一緒だと思っていたが」
「あー、エース達ならグリムとジャックとでオンボロ寮で魔法技術向上のお勉強中です。私はちょっといい教材がないか探してるんです」
「ふうん、早くもテスト勉強に励んでいるとは…感心したよ」
「アッ…アッ…テスト勉強じゃ……そのぉ…」
「ん?違うのかい?」
思いがけない方向へ勘違いさせてしまい申し訳なさと気まずさが襲うが、変に誤魔化した時の方が後が怖そうだと感じた私は正直にリドル先輩に図書室に来た理由を話した。
「なるほど…正直がっかりはしているけど、それも僕の早とちりしたせいだね。しかし決行日に向けて事前に備えておこうという姿勢は評価しよう」
「あ、ざっす!よかった…万が一ってこともあるかと思うんで、そんな時に対応できる手段が増えたら安心ですからね。で、当日までに習得できる魔法とかないかなって探してるんですわ」
「…忠告しておくけど、魔法は一朝一夕で使いこなせるものではないよ。素人ならともかく、ここでは練度を上げなければ通用しない相手の方が多いことを肝に銘じておくといい」
「そっすよねぇ…やっぱ時間と努力が必要かぁ」
「いや、新しいものを取り入れる考えは悪くない。そうだね…うん、ここは僕が教材を見繕ってあげようか」
マジレスされてしょぼくれていた私にそう得意げに笑ったリドル先輩は足早に立ち去ったかと思えば、すぐに何冊かの本を抱えて戻ってきた。
「それは…」
「強化魔法の教材だよ。内容も比較的に分かりやすいものを選んだから、これならエース達でも覚えられるだろう」
「強化…魔法」
初めて聞くタイプの魔法に小首を傾げていると、リドル先輩は魔法に疎い私にもわかるように解説してくれた。攻撃タイプの魔法はグリム達もよく使うけど、響きからして大体どんな魔法かは想像出来る強化魔法なるものが存在するとは初耳だった。
一番上の本を軽くパラ読みすれば攻撃力、防御力、素早さを上昇させる身体強化系の魔法があるようだ。ドラクエで言えばバイシオンにスカラ、ピオラは割と序盤に使える補助魔法であり、ゆくゆくは全体にかけられるようになる重要な魔法だ。そう思えば今の内に覚えさせておきたい。
「相手に影響を与える魔法は練度を上げなければ成功率も低い。その点自分にかける魔法ならばまず狙いを外すこともないし、努力次第では短期間でも結果が出やすい魔法でもある」
「なるほど…当日までとにかく鍛えまくればその分身につくってわけですね!」
「そういうことになるね。今の君達にちょうどいいだろう?」
私の悩みをさっくりと解決したリドル先輩は背丈も似通っていて可愛い見た目ながらも、頭の回転が早くて本当に賢い人なんだなと改めて思い知らされた。本人も自分の優秀さを誇らしげにドヤ顔を浮かべていて何だかすごく楽しそうで、素直に頷きまくって礼を言えば先輩はますます嬉しそうに目を細めて笑みを深めた。学園の規則や特に女王の法律関係の話を持ち出してくる時は本当に頭のおかしな行動でも恥ずかしげもなく実行するヤベ〜一面は今も健在ながらも、こうして世話を焼いてくれたり最近は素の笑顔を見せてくれる機会もあって仲良くなれた実感を得て嬉しく思う。
「リドル先輩…ありがとうございます」
リドル先輩の優しさに報いるためにもグリム達には何としても強化魔法を覚えてもらわなければと本を受け取りながら私は決意を新たにした。
こうしてただLvを上げるだけだった修行に追加DLCが導入されたことで皆のスキルツリーが開拓されたとウキウキでオンボロ寮に戻って報告したのにエースとグリムはやることが増えてウンザリした顔を隠しもしない。私が優秀な魔法士への新たな成長の可能性を開いてやったっつーのになんて反応が悪いんだろう!遺憾だ!
「強化魔法……とりあえず今より強くなれるって話だな!」
対してデュースは素直な反応を返してくれるからやはり光…ちょっとあまり理解してない感あるけど向上心だけはあるんだもんな。
「ああ、強化魔法か。俺は使えるぜ」
そんな中ジャックが攻撃力向上の自バフをすでに習得済みであることを何でもないように零した一言で判明、一気に場の空気が変わった。
「ふ、フーンッ!そんなモン、オレ様にかかれば一瞬でモノにしてやるんだゾ!」
「まぁね…脳筋一辺倒のデュースと違って俺は器用だし?これくらい余裕だし」
「お、お前ら…」
「おう!俺たちも負けていられないな!」
手のひらクルクルかよ…都合のいい連中だと冷ややかな目で見つつも、改めてジャックがいい刺激を与えている様子に誘って良かったなとしみじみ思う。
強化魔法まで網羅しているし、ドラクエ6のまさかの序盤に仲間になってくれたテリーみたいな頼り甲斐がある。
「よーし、私も頑張って錬金すっから!皆、治験に付き合ってくれよな!」
何はともあれやる気になった皆に当てられた私もドンっと自作の魔法薬の入った瓶をテーブルに置いて笑顔で宣誓した。円陣までは行かずともオーッ!と各々声を上げてくれると思っていたのに、治験…?えっ治験?と戸惑いの声が漏れ聞こえてくる。
「ほら、私の作った魔法薬が実戦でも問題なく使えるようにしないと意味ないじゃん?だから確認がてらに治験するから…皆の身体でね♡よろしく!」
両手を組んでお願いのポーズで可愛く宣言した私に皆は何とも言えない顔でしばらく硬直した後、隣の人の顔を窺ってお前がやれよと押し付け合いを始めた。私の錬金技術を余程信頼出来ないせいで、結局一日の終わりに開催される大乱闘でドベの人に実験台になってもらうことで話はついた。つまり今日は昨日の敗者であるグリムに試すわけだが…涙目になるグリムだけでは可哀想だし、実験台は複数試してデータを取る方が良いと判断して過去の対戦結果の敗者のエースとデュースにも公平に試すことにした。
それから決行日までは基礎体力作りに加えて魔法技術向上に強化魔法習得を頑張ってもらう傍で、振りかけるタイプの魔法薬を浴びてもらって効果の程を確かめながら私の魔法薬作りの向上にも協力してもらっていた。
初めは効果は何となく感じるものの薬品が臭いだの、ベトベトするだの、ちょっと気分が悪くなっただのとクレームがすごかったけどもXデー前日には何とか不満点を改善して魔法薬の効果の実感を得られるような魔法薬を作れるようになった。またジャックのスパルタ肉体強化の成果もあってか体力も地味についた気がする。
私ですら成長を実感してるくらいだから修行に励んだグリム達の成長具合は中々のものであった。
体力はもちろんのこと、魔法の威力も修行前と比べれば威力の変化を如実に感じられるほどであり、強化魔法も効果の差はあれども全員自バフをかけられるようになった。
もっとも皆が強くなったと確信出来る理由として一日の終わりに開催する大乱闘で中々に良い試合をするようになったのである。総じて優秀なジャックの勝率が一番高かった試合結果が後半に差し掛かれば皆の性格を逆手にとって狡賢く勝利するエース、とんでもない粘り強さを見せて真正面から勝利を掴むデュース、混戦してるところに突撃してまとめてミラクルKOをかます豪運のグリムなどなど各々の性格や持ち味が戦闘によく反映されて確実に力をつけている結果が伺える。
体感的に10Lvくらいがさっと上がったように感じるし、これなら急なボス戦にも慌てず挑めるだろうと前日の夜は身体を休めるためにも早めに解散した。
〜親愛なるお父様、お母様〜
当初は獣との突然の貧困生活を強要され、他寮のいざこざに巻き込まれて大怪我したりと大変でしたが、最近は頼りになる先生のおかげで人間として最低限の生活を送れるようになりました。
学生としては知らない教科ばかりで正直全くついていけません!でもグリムもアホだから危機感を全く感じません…それどころかどうせ帰るんだからいいかって気持ちがあってやる気が出ないのです。
それに学園長直々の依頼で事件解決のために今は奔走中です。この世界で人気のスポーツの大会を学園が開催するにあたって、不正で優勝をしようとしているけしからん輩の集まる寮に明日は天誅を下す予定なのです!筋肉集団ばかりのくせに試合をせずに不戦勝で勝ち上がろうとしてるのが非常に小賢しく浅ましくて許せません!
そんな個人的感情もさることながらお世話になったトレイ先輩が怪我をさせられたし、最近友達になったジャックが良くも悪くも真っ直ぐな子で不憫でならんのです。そんな寮に所属している彼が今後はいい環境で笑顔で過ごせるようになれたらいいなと思うから、明日はスパッと事件を解決して学園の治安も良く出来たらと祈るばかりです。
だからお父さんとお母さんの元に帰るのはこの件を片付けた後になるからまだ少し時間がかかりそうだけど、私は元気に強く生きてるから心配しないでね!
おじいちゃんおばあちゃん、それに幸春くんや幸影くん共々、皆健康で過ごせてますよう異世界から心より願ってます。
〜皆の幸緒より愛を込めて〜
「んひひっ…筆がノってるわ!」
「夜中にボソボソうるせーんだゾ。早く寝ろっ」
久々に父と母宛に現状報告と決意表明の文をしたためながら机の前でニヤけていると既にベッドで丸まっていた眠たげなグリムにド正論をかまされ、現実に引き戻された私は静かにペンを置いて大人しくベッドへ潜り込んだ。
***
視界に広がるモノクロの景色の中、知らない洞穴の中で前に見た夢に出て来た片目に傷のある黒いライオンが気怠そうに寝ている。その前では何か骨に拘束された偏屈そうな顔をした謎の鳥が放置されており、どういうシチュエーションかわからなすぎて混乱している所に痩せ細った何匹かのハイエナが入室して来た。
どうも前回企てていたクーデターが成功してシンバという王様を排除した後らしい。しかしハイエナ達は空腹に喘いでて生活が豊かになったようには思えない。そしてそれもこれもお前の統治を受けるようになってからこうなったと口々に漏らし始める。選挙なんかで自分の意思で投票しに行って頭をすげ替えたくせに前の政権の方がマシだったとすぐ手のひらを返すタイプの国民性をしている。
片目に傷のあるライオンは前王と比べられたことに対して別に支持してなんて頼んでないんだからね!と激おこで責任をなすりつけ合う地獄のワンシーンを見せつけられて私は非常に嫌な気持ちにさせられる。
ライオンは俺の言うことさえ聞いていれば何も心配ないとか前回耳心地のいいことばかり言ってこんなキレ方するのは王として無責任すぎると思うが、指示待ちすぎるハイエナ達にも同情できない。空腹ならソイツでも喰ってろとか雑に扱われる鳥さんだけが不憫でならなかった。
お互い他責思考のままで待ち受けてる結末なんて明るくないのは想像に難くない。暗くなる視界の中でこの獣達がお互い歩み寄ってもっと話し合えるような関係性ならば結末も少しは違ったのかなとどうにもならない可能性を考えてしまった。
次にボヤける視界に入ったのは最早見慣れた薄汚い天井を背景にボヤ〜とした白い大きなケモ耳を揺らす謎のシルエットと目が合った。
「おい……起きろ」
「……ふがっ」
グリムにしてはデカすぎる…とぼんやりと思いながらじっと見つめること数秒、次第に視界がクリアになってそれが無愛想な顔で私を見下ろすジャックであることを認識した頃には頭はハッキリとしていた。グリムは私の足元で欠伸をしながらモソモソと起き上がって来た。
「んぁ…おはよ」
「ほぁ?なんでオマエがウチにいるんだゾ…」
「朝のランニングついでだ。今日はマジカルシフト大会当日。寝坊されちゃたまらねぇからな」
「……」
最早いつものことなんだけど当然のように部屋まで不法侵入されて、田舎の家かってくらいに誰彼構わず自由に出入りし放題のこの家で暮らしてると本当に私にはプライバシーが存在しないんだなと実感する。おかげで直後に見ていた夢の内容はもう朧げにしか覚えていない。
今日は大会当日で気を利かせて私の朝の体力育成を免除してくれてるのを察する時間帯の訪問だから本当にただ叩き起こしに来ただなんだろう。悪気はないし、むしろ良かれと思っての行動なんだろうけども己のパーソナルスペースを大事にしているジャックには私のことももっと気を遣って欲しかった。乙女なんですよ!私は!
「ハッ!そーだったんだゾ!絶対に犯人とっ捕まえて、ご褒美にトーナメント戦にオンボロ寮をねじ込んでもらうんだゾ」
「オメーは一夜で記憶飛んだのかよ…まぁ、そうだね。頑張れ頑張れ」
「フン……じゃあ会場でな。二度寝すんじゃねぇぞ」
アラームの役割を果たしたジャックは颯爽と身を翻して部屋を出て行こうとした。
「あっ、わざわざ起こしに寄ってくれてありがとね、ジャック」
「おう」
手を振る私達をチラッと見て背を向けるジャックは相変わらずクールであったが、背中でブンブン揺れる尻尾を見るに案外感情豊かな愉快な奴なのかもとほっこりした。
***
それから身支度を済ませた私とグリムはしっかりと朝食を済ませ、迎えに来たエースとデュースと共にゴースト達に見送られながらオンボロ寮を発った。
「ふぁ〜〜〜!!見てみろ幸緒!食い物の出店がいっぱいなんだゾ!」
「おぅ、思ったよりずっとすごい規模だね〜。完全にお祭りだぁ」
まだ開始前であるが、大会当日とあって会場前の盛り上がりはそれはそれは賑やかなものだった。
コミケ開催してるビックサイトかっ!てくらいの人口でこの世界にこんな人沢山いたんやな…と至極当たり前のことを実感する。『井の中の蛙大海を知らず』をまさか体験することになるとは思わなかったな〜と昨日まではなかった沢山の出店に挟まれた大通りを歩きながら物珍しさに忙しなく辺りを見回してしまう。
詳しいことはわからないが、出店を構えるのはなんとナイトレイブンカレッジの生徒。腕の紋章やベストの色は薄紫色で正直馴染みのないものでどこかわからない。しかしなんだかこう…店先の生徒の柄が悪いというか、大規模なお祭りの時だけテキ屋をやる裏稼業の危ないおじさん達みたいな怪しげな雰囲気を醸している。てかナイトレイブンカレッジなんかに治安の良さを求める方がおかしな話だったな、平常運転だわ。
「ちぇ〜。結局選抜選手になれなかった……」
「同じく……」
「まだ落ち込んでんのかよ」
トレイ先輩が怪我したことで空いた選手枠を虎視眈々と狙っていたエースとデュースだったが、普通に選抜されなかったらしくしょぼくれていた。そりゃ幼い頃から英才教育を受けた帰国子女レベルの大型新人かキセキの世代でもない限り無理やろ…と内心思いながらも2人の気持ちを汲んで薄っぺらい励ましの言葉を投げかけ、背中をさすって慰めてやった。
「ま、選手枠はまた来年狙ってもろて。本番はこれからなんだからね、来年も無事に大会が開催されるように頑張ろう!」
「おう!僕たちには今日大事な仕事がある。気を引き締めよう」
「そーね。オレらはそっちを頑張りますか」
「あのタコ焼きって何なんだゾ?食べたい、食べたい!」
「あーとーで!ほら、行くぞ!」
フラフラと粉もんの屋台に誘われるグリムの襟首をむんずと引っ掴んで引きずって行くエースに続き、私とデュースも気合いを入れてジャック達の待つ集合場所へ足早に向かった。
実のところ、サバナクローの皆様が何をしでかすつもりなのかは明確にはわかっていない。
しかしサバナクローに所属するジャックが提供してくれた情報から大会当日に常勝寮のディアソムニアを襲撃することは確かである。痕跡を残さずにずる賢く有力選手に手を出していたサバナクローの皆様のことだからわかりやすく攻撃を仕掛けるとは思えない…事前に襲撃を防ぐのは不可能だ。
ここで優秀なリドル先輩がなら襲撃させたらええねん!と逆に止めずに解決しようという作戦を提唱したのだ。狙いがわかってる状況だからこそディアソムニア側に事前に話を通して協力を取り付け、襲撃時には警戒と避難をスムーズに済ませられるようにと対策を立てる上で作戦の要となる多重影分身ことスプリット・カードを使えるケイト先輩にめっちゃ分身して変装、ディアソムニア生になりすまして襲撃をやり過ごすのだ。ケイト先輩にめちゃくちゃ負担がかかる作戦で心配であるが、逆にケイト先輩がいなきゃ無茶な作戦だろう。リドル先輩も中々のチャレンジャーだ。
私達も変装するもんだと思っていたが、そこはどんな攻撃を仕掛けられるかわからないために安全面を考慮されて、リドル先輩筆頭の鎮圧部隊としてサバナクローの皆様の様子を見張りつつ現行犯逮捕を手伝うことになった。ま、私は例の如く非戦闘員としてグリムへの指示出しや、証拠映像でも撮れればと学園長から貸し出されたスマホ装備の撮影係である。
いくらサバナクローの皆様が気持ちよく作戦が成功するから浮かれてるとは言え、人よりも気配に敏感なケモ耳族だ。大人数で行けばバレる恐れがあるのでメンバーはリドル先輩、エース、デュース、分身の役目を果たしたら後から合流予定のケイト先輩、ジャックに私とグリムにディアソムニアの3名だ。
(知らん人が3人も……いや、2人は見たことあんな)
偏見からディアソムニアの人が手伝ってくれるのは意外だなーと思っていたが、どうも例のマレウスさんに危害を加えようとは許せん!と大変お怒りの様子で察した。まぁ、そりゃ逆恨みで事件に巻き込まれる側からしたらたまったもんじゃないだろうし、正当な怒りだ。しかし緑髪の長身の男はあまりの怒りに顔を真っ赤にしてどデカい声で喚く喚く。こんなん連れて潜入先に行けねーよ!と思ってたらいつかの一見可愛すぎる美少女の年寄りくさい口調が特徴的な美少年のリリアさんとなんと最近階段から落ちてきた眠り姫状態だった白馬の王子様が彼を諭していた。
「あの階段から落ちてきた人、ディアソムニアの人だったんだね。知ってた?」
「…あ?いや、知らねぇ。…ま…無事みたいでよかったな」
「それな!安否確認できてよかったわ」
思わぬ再会にジャックとヒソヒソとそんな会話して笑っているとリドル先輩から静粛にするように号令がかかり、そろそろ選手入場となるそうでついに作戦決行の時が来て私達はリドル先輩に先導される形で人並みをかき分けてサバナクロー寮へ向かった。
遠くから聞こえる選手入場のアナウンスを遠くで聞きながら鏡の間に向かう際、やたらと嬉しそうな様で耳を立て尻尾を揺らし急足で駆けていく不審なサバナクロー生を見つけてしまった。
「あ……」
「幸緒?どうしたんだゾ?」
「いや…今向こうに」
「なーに呆けてんの!早くしないと置いてかれるぜ!」
賑やかなお祭りの喧騒とは裏腹にこれから起きる事態に不安が燻って仕方がない。あのサバナクロー生、見間違いでなければラギーさんだったと思う。選手入場も近いのに1人でどこに……
「…うー………やっぱ先行ってて!後から追いつくから!」
「幸緒!?」
やっぱり気になると私はその背中を見失う前に慌てて身を翻して走り出した。背中にグリム達の声を聞きながらも重要な証拠を得れるかもしれないとスマホの動画機能を起動しながら、必死にラギーさんと思われるサバナクロー生の背中を追った。
息も絶え絶えにコロシアム手前の屋台の影で立ち止まったその背格好を見てやはり見間違いでなく、いつかバチボコに私達を嘲笑っていたラギーさんその人だった。
ちょうど調子のいいアナウンスと共にケイト先輩扮するディアソムニア寮が選手入場でコロシアムに入るのを多くの見物客が見守っている様子を見て、ラギーさんは嬉しそうに笑って懐から取り出した怪しげな小瓶を栄養剤の様に一気に飲み干してげほげほ嘔吐てる。
中々にテンションが極まってるせいか、周りの喧騒もあって私には気付いてない様子で今なら不審な言動をスマホに残せるかもと私はもう少し音声が拾える様にと現在休憩中なのか、人の気配のない屋台の影から隠し撮りを試みたその時だ。
「さあ、ヌーの群れみたいにみんなで走れ!
「っ!?」
高らかにそう魔法を唱えたラギー先輩の身体から一瞬眩い光が放たれたかと思えば、彼は少し前方にいた見物客達へ手をかざしてゆっくりと歩き始めた。すると見物客がざわざわと響めき始めたかと思えば、信じられないことに全員がラギーさんと同じ様にさらに前へ前へと揃って行進を始めた。さらに前方にいた見物客も同じ様に行進、段々大きな波となって飲み込んでいくように人が巻き込まれて、砂埃と悲鳴を上げながら走り出した見物客の荒波は真っ直ぐにコロシアムへ入場しようとしていたディアソムニアの寮生へ雪崩れ込んで行く。
(こ、こんなの…大事故じゃん!ケイト先輩っ……)
目の前で起きたあまりの事態に分身体とは言え、ケイト先輩の安否が気になって零れそうになる悲鳴を抑えて震える手でスマホにラギーさんと凄惨な現場を撮り終え、私は見つからない様にそっと物陰に隠れながらラギーさんの様子を伺った。
ただの一般人を巻き込んで大事件を起こした意識はないのか、やたらとハイになりながらもどうやら相当無茶な魔法の使い方をしたのか、汗をびっしょりかきながらラギーさん未だ砂煙に覆われるコロシアムの方に背を向けてフラフラした足取りで鏡舎の方へと戻っていった。
「……け、ケイト先輩ーっ!!」
ラギーさんの背中をある程度見送った後、私は放たれた弾丸のように砂煙を巻き上げているコロシアムの方へと駆け出していた。
大きな声で何度も名前を呼びながら無事でいてくれと願いながら、最悪な惨状になってるのではと泣きそうな不安な気持ちに押しつぶされそうになる。
しっかり作戦を立てていたとは言え、こんな無差別テロみたいな事態になるなんて想像もしてなかったし、目の当たりにして怖くなった。
あれだけ多くの一般人に飛び込まれて…本当にケイト先輩は大丈夫だろうか?
それに巻き込まれた一般人だってただで済むとは思えない。どこかの花火大会で起きた人が多く集まりすぎて身動き取れなくなった末に圧死した人がいるなんて事件の新聞記事を今になって思い出す。
こんなことになるなら非力でも飛び出してラギーさんがユニーク魔法を使うのを妨害すればよかったと後悔で視界が滲む。
「ケイト先っ…うあっ!!」
視界を覆う砂煙を掻き分けるように進んでいたら足元を何かに掬われてどてっと情けなく転んでしまった。その拍子に肩掛けバックが弾んで開いた口からいくつかの魔法薬が音を立てて地面を転がってく。
「痛ぁ…」
顔面を打ちつけて鼻血が出た。そんな痛みよりもケイト先輩のこと、すぐ合流すると言って別れたグリム達のことを思い出してもうどうすればいいかわかんなくなる。
せめてもの証拠映像を持ってリドル先輩の元に行った方がいいんだろうけど、出来ることなんてないかもしれないけどこんな災害みたいな事態を目の当たりにした後に見てないフリしてサバナクローに向かうなんて無理だ。痛みからか、不安からかついにボロッと大きな涙が零れ落ちた。
「え…幸緒ちゃん!?ちょっ、大丈夫!?」
「け…ケイト先輩…」
突如煙の向こう側からバッと姿を現したのは心配していたケイト先輩その人だった。地面に這いつくばっている私を見てギョッとして慌てて駆け寄ってくるなり、手を貸して立たせてくれた。
「幸緒ちゃん、リドルくん達と一緒じゃ「ケイト先輩!怪我してないですか!?さっき、ラギーさんが魔法使ってて、あんな人いっぱい押し寄せて…け、怪我人が沢山出て」あ〜…ね。すっごく混乱してるみたいだからちょっと落ち着こっか」
パニックになる私を落ち着かせる様にポンポンと頭を撫でて、ハンカチを差し出すケイト先輩はいつも通り優しくニコッと明るい笑顔を浮かべて私の不安を拭ってくれた。涙と鼻血とさらに鼻水でぐしゃぐしゃの顔を綺麗なハンカチで汚すのは躊躇われたが、今日ばかりは先輩の優しさに甘えさせてもらった。
「はい、コレ。落とし物ね」
先輩は転がっていた魔法薬の小瓶をヒョイヒョイ拾うと顔を拭っている私の肩掛けバックに戻して、またニコッと微笑む。
「結果から言えば作戦は大成功!オレくん達のおかげで俺はこの通りピンピンしてるし、お客さんもみーんな無事!幸緒ちゃんが思ってる様な酷いことは起きてないから安心してね♪」
「マジ…?」
「マジマジ!ほら、煙すごいけど怪我してる人は全然見つからないでしょ?」
「本当だ…」
言われてみて初めてあれだけの騒ぎだったのに辺りには人っ子1人おらず、人が溢れた形跡に多少ゴミや物が散ってるくらいだった。よく考えればあんな人が溢れていたのに、砂煙がすごい割に全然人に辿り着けない時点で変だと気付くべきだった。
「さっきのお客さん達ももうコロシアムの中に案内済み♪」
「そうだったんですか………」
それなら人がいないのも納得だし、ケイト先輩に関しても分身の性質は出会い頭で嫌と言うほど味わってよく知っているはずなのに、馬鹿みたいに勝手に恐怖で泣きじゃくって取り乱した挙句にこんな醜態を晒した事実を思い知らされた瞬間、とんでもない羞恥が私を襲った。
「………」
「ウンウン、その様子ならもう大丈夫だよね!とりあえずリドルくん達を手伝いに行かなきゃだから…歩きながら話を聞かせてくれる?」
「……うっす」
恥ずかしさでゆでダコのように赤くなっている私により一層ニコニコ笑顔のケイト先輩はまるで子供と逸れないよう手を繋ぐ親のように優しく私の手を引いて歩き出した。いたたまれなさすぎて俯きながらここに至るまでの経緯を語る私に先輩は急かすことも茶々を入れることもなく、静かに話を聞いてくれた。
「なるほどね〜…勝手に単独行動したのは褒められないけど、ばっちり証拠を掴んだなら結果オーライかも♪」
「アッハイ。アザッス…本当勝手してすんませんでした…」
「そんな謝んないで!…けーくん的には後輩に心配かけて複雑な反面、心配されるのは意外と悪い気しなかったし♪」
「そ、そうですか…ああぁあのっ!早くリドル先輩のもと向かわなきゃっすよね!ダッシュしましょ!」
これ以上この話題をつつかれると、とても心が持ちそうにないと判断した私は何事もなかったように振る舞い、逆にケイト先輩の手を引っ張る形で軽く走り出した。先輩も自然と合わせて走ってくれたからすっかり空気感を変えられたと安心し切っていたが、甘かった。
「幸緒ちゃん、駆けつけてくれてありがとね」
「っ!?」
ちょっと真面目なトーンで囁いたケイト先輩により不意打ちを喰らったせいで、やっと熱が引いた顔にまた熱が集中する。恥ずかしさと驚きでギョッとした顔で振り返った私の瞳に映ったのはいつもの軽い感じの笑顔を浮かべるケイト先輩ではなく、目を細めて何だか妖しい笑みをたたえたケイト先輩だった。
「オレね。幸緒ちゃんが探しに来てくれたの、結構嬉しかったりして〜♪」
「ファッ!?だ、だからぁーっ!もうその話は蒸し返さないでくださいってば!」
「え〜本心なのに…けーくんショック〜」
「えっ!?が、ガチ凹み…あっ…あ…」
絶対揶揄ってると思って強めに拒絶したら相変わらず声色は軽さを帯びていたのに、振り返ってみたらすっごい憂いに満ちた顔でシュンとしてて戸惑った。
自分の一言がまさかこんなに人を傷つけてしまうとは思わず、どうしていいかわからずにアワアワしてしまう。
「違くて!ケイト先輩の言葉を疑ってるわけじゃなくて…私がその……いや…あの、先輩の気持ち自体はめっちゃ嬉しいっていうか、その前に励ましてくれたのも嬉しいしいつも気遣いがありがたいってゆうか」
焦った結果、言い訳をすっ飛ばして早口オタクばりにケイト先輩に言われたことや思いやりが本当はとても嬉しいのだと、赤裸々に想いを羅列してとんだ恥を晒していることを自覚したのは小刻みに震えながら今にも吹き出しそうな笑いを堪えた先輩のニヤケ面に気付いた時だった。
「……〜〜っ!?!?」
その瞬間やっぱり揶揄われてんじゃねーか!!とすっかり騙されていたことへの怒りと恥ずかしさで顔が熱くなるし、もう頭に血が上りすぎてどうにかなりそうだ。そんな私を見て堪えきれずに吹き出して笑うし、どんなに頼りになる先輩でもやはりナイトレイブンカレッジ生を信じるべきでなかったと後悔した。
「もおーーっ!!本当そう言うとこですよ!!ホント嫌っ!やだもうっ!とにかく早く向かいますよ!もうっ!」
「あはははっ!幸緒ちゃんってば反応面白いからつい…んふふっ!ごめんね♪ふふっ…」
背後から漏れ聞こえてくる笑い声と引っ張る手が震えてるせいで振り返らないでも先輩がどんな顔をしているか想像出来て、いっそ殺してくれよー!と私の中の女騎士の部分が悲鳴を上げていてとても辛い。
ぶちギレリドル先輩並みに赤面しながらぐぬぬと呻く私を見ていたケイト先輩が実際は私の想像とは違って思いの外優しい笑みを浮かべているなんて事実には、到底気付けるはずもなかった。
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