荒野の反逆者
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かくしてサバナクローのだだっ広いコートに連行された私達は完全に見くびられているため、最初のアタック権限を与えられてゲームが始まった。
ぶっちゃけ今朝ゴースト達と一緒に遊んだのが初めてなものだから、ルールもフォーメーションも曖昧な感じでしか理解していない私は雰囲気で参加している。
魔法でディスクを浮かせるグリムを守るようにエースとデュースが先頭にケイト先輩は上空からフォロー出来るようにホウキに乗ってグリムの背中を見守るような配置で、無能力の私はとりあえず左側を走って相手の動きを見ながら皆にガヤを飛ばす係だ。果たして私は必要なのだろうか…しかしやるからには頑張らねばと気合いを入れて走り出した。
目指すは立ち塞がるサバナクローの皆様が守るゴールリングなのだが…サバナクローさん、レオナさんを残して全員ホウキに乗って上空から魔法の弾幕を放ってくる。
確かにゴースト達とやった時もこんな感じだったけど、ここまで弾幕系シューティングなスポーツだとは思わなかった。
「グリムグリムグリムっ左っ!あっ右も!上上上から来てるっ!」
「そんな慌てなくて大丈夫。グリちゃんのこと、ちゃんと守ってあげるから♪」
こんなん避けきれん!と慌ててるとケイト先輩がそう言って、ホウキに乗ったままグリムの上空へ上がりくるくると手元で遊ばせたマジカルペンを構えた。
そして先行していたエースとデュースがスピードを緩めることなく防衛魔法でグリムを守り見事弾幕を防ぎ、弾幕が一瞬途切れた所でケイト先輩の早撃ち魔法が前に出過ぎていたサバナクロー寮生の1人を打ち抜き、彼はバランスを崩し私達の後方へ吹き飛んで行った。
「ケイト先輩すごーーいっ!カッコいいぞお前ら!やるじゃん!ヒューヒュー♪」
「そ、そうか?よし、この調子で頑張ろう!」
「ふふん♪ま、これくらい当然っしょ」
「よーし!オレ様がこのままゴールを決めてやるんだゾっ!」
人数足りない上に寄せ集めのチームなのに優秀だと素直に手を叩いて褒めたのがいけなかった。
コイツら、基本的に調子乗り出すと集中力が切れるのか途端にプレーが杜撰になる傾向がある。
そうすると不思議なことにーーー
「よし、攻めに転じるぞ!ソレッ…あれっ?」
「あいたっ」
魔法で相手を撃ち落とそうとしたデュースの放った魔法が急カーブして私にヒット、
「デュースの下手くそ〜。こうやるんだよっ!」
「いっっって!ちょっおまっ」
エースの放った魔法は相手に弾かれたと思えばまたも私にクリーンヒット、
「なーにやってんだお前ら!ノーコンすぎ……ふなあっ!?」
「ウ゛ッ!!!」
果てはディスクを操っていたグリムが集中力を切らしてよろけたせいで、宙でギュンギュン回っていたディスクがドスっと鳩尾に食い込んで結局3コンボ喰らった。
「…オエーッ…ハァハァ…このっっ、馬っっ鹿野郎ぉおっ!!だからフレンドリーファイアやめろつってんだろ!」
序章の廃鉱山から何の学びも得ていないどころか、ちょっと魔法の威力上がっててめちゃくちゃ痛いし、走ってた疲れも加味されて私はコートに倒れ伏した上にちょっと吐いたし、ケイト先輩とサバナクローの皆様の前でいらん恥を晒されてキレない理由がない。リドル先輩並みに真っ赤な顔で中指立てて怒鳴り散らしながら殴りかからん勢いの私はケイト先輩に羽交い締めで止められるし、突然始まった内輪揉めにはあれだけオラついていた野生味溢れるサバナクローの皆様もさすがにドン引きだよ!
「黙って私の指示通りに動けっ!この三馬鹿がよーっ!!」
オラ走れよ!と怒りに任せてグリムにディスクを投げ渡し、何事もなかったように試合を再開した。
この時のサバナクローの皆さんはと言えば、手を下す前に勝手に自滅する敵チームの体たらくと仲間に対して中指立てて罵詈雑言を浴びせる私のバチギレっぷりにさすがに嫌味を言うのも憚られたのか、ただ絶対的な余裕があるだけかもだが見逃して付き合ってくれた。
進行を妨害しに来たのはホウキに跨ったサバナクローの寮生でまたも魔法の弾幕を放って来る。一度デュースに防衛魔法で壁を張らせ、割れるまでの間相手の行動パターンを観察する。
「(基本的に炎魔法の弾幕、若干左右にブレてるのはホウキに乗るのが苦手か…)デュースはとにかくガードに専念しといて、ケイト先輩、相手の魔法を相殺してください!グリムは弾幕が止んだら突っ切れ!」
「わ、わかったんだゾ!」
「オッケー♪」
指示通りにケイト先輩がグリムに向かう相手の放った弾幕を的確に相殺してもらったことで、壁を張ったデュース達に空を飛ぶサバナクロー寮生の下を潜るように一気に突き進んでもらった。
「エースそこ!!そいつを風魔法で吹き飛ばせ!」
「はいはいっと!」
「おわわわっ!!」
ちょうど追い抜かした瞬間慌ててディスクを持つグリムを追うために隙を見せたサバナクロー寮生へとエースの風魔法で突風を起こさせ、方向転換しようとした相手のバランスを崩させそのまま回転しながら吹き飛んでもらった。
「へぇ〜、なかなかやるねぇ。じゃあ、これは防げるッスか!」
ホウキに2人乗りの状態で現れたかと思えばラギーと呼ばれていたサバナクローにして可愛げのある人が器用にホウキに足を引っ掛けたまま逆さ乗り状態で火魔法の弾幕を放ってきた。
「ふぁっ!?デュース壁壁壁!壁張って!」
「うっ!手数が多い…あまり長くは持たないぞ!」
ホウキの操縦を別に任せ、自身は両手がフリーだから先ほどまでのサバナクロー寮生と違って明らかに弾速が違う。威力はどうやらそこまでじゃなさそうだけれど、避けられる早さでもないしこのままではデュースの魔法障壁が容易く打ち砕かれてしまう。
「(魔法は途切れないけど…発生場所は一定であまりブレがない…)デュースは壁を維持したまま、そのまま走って!エース!水魔法で相殺を試みて!質より量で向かい打てぃ!」
逆さ乗りでもホウキに乗っている以上は行動を制限されている相手は無茶な動きはできないはず、アクロバティックですごい技だけども動きは案外単調なものでグリムを守るデュースへ向かって来るだけならばそこに合わせてエースの水魔法(弱)の連発するように指示を出せば相殺できる。ポケモン世界並みに技の相性がはっきりしてる世界なので、炎は当然水に弱くジュッとわずかな音と水蒸気による煙を立てて火球はかき消えた。
火球を放ち続けるラギーさんに必死に喰らいつくように何度もエースに水魔法で相殺させてを繰り返していくと、いつの間にか相手と私達の間は水蒸気で視界が悪くなった。
「もお〜〜っ限界!!」
「お疲れ!今ですっケイト先輩!ホウキ操縦してる方の妨害をお願いします!」
「はいはーい♪けーくんにお任せあれ!」
「なっ!?うおあっ!?」
「うわわっ!危なっ!」
上空で影を薄くして見守っていたケイト先輩にこちらの姿を捜すのに気を取られていた相手方へと別方向からの奇襲を仕掛けてもらえば、ホウキを操縦していたサバナクロー寮生は突如上空から降って来る弾幕に動揺してバランスを崩した。
当然操縦を任せっきりにしていたラギーさんもさすがに悠長に魔法を放ってる場合ではなくなり、グラグラ蛇行しながら2人は霧の中へと消えた。
そのまま霧を突っ切ればついに間近へと迫ったゴールポストへ後はグリムがディスクを放り込めばという段階まで差し迫った瞬間、霧を払うような突風ーーーと言うには重すぎる衝撃を受けて吹っ飛ばされた。
最初は何が起きたのか分からなかったが、地面に転がる私達を見下ろしながらグリムから奪ったディスクを悠々と手元で遊ばせているレオナさんを見て理解した。たった1人のあの衝撃波みたいな広範囲な魔法だけで私達の戦線は一瞬で瓦解し、ディスクを奪われてしまったのだと。
先ほど蹴散らしたサバナクローのメンバーも続々と復活してしまい、予測していたとは言え圧倒的な戦力差に私はケイト先輩に手を差し伸べられるまで呆然と地べたを這いつくばっていた。
「ちくしょ〜っ!ディスクを奪われなければもう少しでシュート決められたのに…」
「はっ。遊んでやってんのがまだわかんねぇのか?」
悔しげに呻くグリム達に対して、嘲笑っていたレオナさんが突然大きく振りかぶったかと思えばとんでも無い速さで放たれたディスクが頭上を超えて遠く離れていた私達のゴールリングを潜って行った。誰も反応出来ないどころか、ミラクルすぎるロングシュートを決められたことに気づいた頃には点を取られていたと全員ジョジョのポルナレフ状態だった。
そこからの試合展開はレオナさんの言葉通り手加減されていたことを痛感する。
レオナさんは最後の砦として強すぎるのはもちろんなのだが、さっきまで1人ずつ攻めてきていたサバナクロー寮生がまとめて攻めかかって来るようになって、皆対応に追われてグリムを守りきれずに簡単にディスクを奪われてしまう。その後は慌てて守りに入るも圧倒的に相手の動きが速いし、チームワークもいいのでさっくり抜かれて得点を許してしまう。
最初こそ指示を出す余裕もあったし、相手1人に対してエース達と言う手札も多く使えて戦略なんかも考えられたけれど、1対1になってしまえば単純な実力と経験がもの言うのでケイト先輩以外ペーペーな私達がかなう訳ない。
「ひぃ、はぁ……」
「はぁ、はぁ……うっそだろ……1点も入れらんねー」
「なんて隙のないフォーメーションだ……」
「はぁ……レオナくん……昔から天才司令塔って言われてただけあるね。ちょっとこのメンツじゃ太刀打ちできねーわ……っ」
ワンゲーム終わる頃には皆泥だらけのズタボロで息も絶え絶え、私はもう立ち上がれない。
元々同じ人数で対戦するのだから、こうなるのは当然っちゃ当然なんだけど…大体がわざと魔法をぶつけて足払い、堂々とダメージを与えてくる、吹っ飛ばすくらいの体当たりをかまされるなどのラフプレーのせいだ。私の世界のスポーツならとっくに反則取られるくらいには悪質だった。そんなことしなくても点数差はどんどん開くし、ディスクを奪う場面でもないのにして来るあたりただの嫌がらせでしかない。単純に性格が悪い!!
「おら、どうしたァ?もう終わりか?」
「シシシッ!さっきの威勢の良さはどうしたんスか?」
「ほら、立てよ草食動物ども」
「はぁ〜〜〜〜〜…もういい加減にしてくださいよ…」
「ちょっ…幸緒ちゃん…?」
「こっちは実質4人で元から人数差ある上に素人3人いる相手を痛めつけて気持ちよくなっちゃうとかクッッッソダサいんですけど〜〜!!?」
「あ…?」
「だーーから素人相手にふんぞり返って馬鹿みたいだっつってんですよ!」
「幸緒ちゃん!?ストップストップ!」
「!?コイツ!真っ先に伸びてるくせにクソ生意気なっ!」
「君…よくこの状況で噛みつけるッスね。度胸があるんだか考え無しなだけなんだか」
「おいお前!それ以上言ってみろ!タダじゃおかねーぞ!」
「うるせーーーっ!!言動もみみっちいし、弱いものいじめを得意げに誇ってんのも小物臭いんだよ!知性を感じないんだよアンタら!動物と変わんねーならグリム以下だ馬ーーー鹿っ!」
初対面のグリムはともかく、今のグリムは馬鹿だし傲慢でほら吹きな一面はあるけど多数対一みたいな弱いものいじめはしないし、むしろ空気読まずに格上に挑みに行っちゃうくらい向こう見ずだ。とりあえず挑戦するのはグリムの美点だし、獣ながらもペンでノートを取るグリムは人間になろうと頑張ってるってのに、この獣人達と来たら立派な人間の手足を持っていながら…!そう思うと余計にムカついてケイト先輩の制止の声も振り切って暴言が出てしまった。
リドル先輩の時にもついつい言いたいだけ言ってしまった訳だけど、当然その後いい結果になったわけもなくーーー突然身体が浮いた。
「ふぁっ!?」
「キャンキャンよく吠える草食動物だ」
どうやら以前デュースがエースにしたように、私はレオナさんによって魔法で浮かされてるようだ。殴られる想定はしていたけど、身体を浮かされるとは想像もしていなかった…この浮遊感不安になるし気持ち悪いよ!
「お前、指示役なんだろ?見晴らしのいいところに置いてやるよ」
「はぁっ!?ひゃーーっ!!グエッ!!」
突然そんなことを言い放ち、ニヤリと嫌な笑みを浮かべたレオナさんにより私の身体はギュンと後方のゴールリングへ吹き飛んだかと思えば急に重力が戻って来て地面に落ちかけたところを後追いして来たディスクがガッと私のブレザーの襟ごと大きいゴールリングの上部に突き刺さった。
そのおかげで落下せずに済んだけども…私はいつかのようにまた足のつかないところに引っ掛けられて身動き取れずに左右にぶらぶら揺れる羽目になった。そんな私の顔の横をギャンッと風を切って奥の小さなゴールリングに凄まじい速さのディスクが投げ込まれた。
「?!」
「そこならコートも一望できて指示も出しやすいだろ?動き回る必要もねぇしよかったな。…あぁ、礼はいいぜ。こっちも歯応えのある遊びが出来そうだからなァ」
「さすがレオナさん!ゴール決めるのが難しくなっちまったが、これはやりがいがありそうだぜ!」
「ヒャハハッ!ハンデをくれてやるんだからレオナ寮長の優しさに感謝するんだな!」
「あーあー可哀想…まぁ、せいぜい当たらないように気をつけるんスね。シシシッ!」
まさか私が吊り下げられた状態でゲームを再開しようとしていておったまげた。それをハンデとまで言い切るし、この後ディスクをシュートされる度にぶつけられる可能性を思えばさきほどの勢いを乗せたディスクを喰らった時の痛みなんかもう想像しただけで恐ろしくて震える。
「ちょっとレオナくん!それはさすがにやりすぎ…ちょっ!?」
さすがのこの状況にはケイト先輩をはじめ、疲れ切っていた皆も流石に抗議してくれたけどもその度にレオナさんが放ったディスクが私の顔の横を通過してゴールリングに投げ込まれる。話をする気が微塵もないと言うのがよーくわかった。
「ほら、立てよ草食動物ども。もうワンゲームといこうぜ」
悔しげながらも立ちあがろうとする皆に対してそう言い放つレオナさんに私も拒否権などないのだとしっかり味わされて、いつ鈍い痛みがこの身を襲うかと恐怖で萎縮して項垂れるしかなかった。
もうダメだ…おしまいだぁ…と旧ブロリーにボコボコにされたベジータの心境で世を儚むフェーズへ移りかけた時だった。
「なにしてんスか、あんたら」
悪夢のようなゲームが始まろうとしていたコートに入って来たのはなんと先ほど立ち去って行ったはずの白い大きな耳とフワフワ尻尾を携えた逞しい後ろ姿、ジャックだった。
突然割って入って来た同じ寮のメンバーにはさっきまで汚く笑っていたサバナクロー寮生も少し面食らったのか少し反応が鈍くなったように見える。
「ん?縄張りに踏み込んだ奴らとちょっと遊んでやってるだけだろ」
「ちょっと…?」
チラリとエース達からゴールリングに吊り下げられた私まで見やってからジャックは再び、レオナさんへと視線を戻した。
「初心者いたぶってなにが楽しいんスか」
同じ寮の人だからハーツラビュルの時みたいに同調するのかと思えばどうやら違うようで私からは顔は見えないけど、ひどく冷めたジャックの声だけで相当呆れているのが伝わって来る。
「なーにぃ?ジャックくん。正義のヒーローみたいでカッコいいッスねぇ。シシシッ!」
「俺はただ、みっともなくて見てられねぇって言ってるだけっす」
ジャックは確か私達と同じ1年生で先ほど会話した時もぶっきらぼうだなと思いはしたけど、どうもそれは先輩に対しても変わらず、ハッキリとした口調でそう言い放った。
「……。はっ、しらけること言うぜ」
「おいジャック!てめー1年のくせに生意気だぞ!」
「……あんたらこそ、上級生のやることじゃないんじゃないすか」
「あんだとぉ!?お前もやられたいんかよ!」
高圧的に詰め寄る先輩にも怯まずに言い返すものだから、私達そっちのけでサバナクローの内ゲバが勃発しそうになってる。
「は。1年坊。威勢がよくて結構なことだ。まあいい、もう飽きた。お前らを相手にしたってなんの意味もない。行くぞ、ラギー」
「ウィーッス」
内輪揉め回避のためか、本当に興味を失っただけかはわからないが急にそう全てを投げ出したレオナさんはラギーさんを引き連れてさっさと立ち去って行った。
「てめーら、今度勝手に縄張りに入ったらただじゃおかねぇからな!」
レオナさんの後に続くようにヒャッハー系のサバナクロー寮生も散って行って、私達はこれ以上は痛めつけられないで済んだようだった。
「うぅう…酷い目にあった…。皆…先輩、大丈夫ですか?」
「いやいやいや、お前が一番大丈夫じゃないだろ。人の心配してる場合かよ」
「あはは、かっこ悪いとこ見られちゃったねー。幸緒ちゃん、今降ろしてあげるね」
エースにツッコまれつつ、優しいケイト先輩によって無事に大地へと帰還できた私は安心感で少し涙が出そうになった…怖かった…マジで。
真横を通り抜けたディスクの風圧を受けせいで頬がチリチリすると思っていたらしっかり掠めてたようで頬を少し切っていたらしく、血が滲んでるとケイト先輩が一先ず清潔なハンカチで拭ってくれた。血がシミになるのも気にせずにさっと拭ってくれるスマートな姿に感心する一方で余計に場を拗らせてこんな事態にしてしまって申し訳なくなった。
「ケイト先輩、ありがとうございます…忠告無視してごめんなさい…」
「本当にね!?うちの学園って基本的に危ない人ばかりだから、今後はあんな風にキレないってけーくんと約束してね?」
「ぁぃ…指きりします…」
「ユビキリ?」
「日本だとこうして小指を絡ませて約束するんです。ゆーびきりげんまん…」
「へぇ〜歌もあるんだ。面白い文化だね♪」
「嘘ついたら針千本飲ます、指切った…てことで破ったら針千本飲みます」
「歌詞怖っ!!いや、破ったとしても絶対飲まなくていいからね!?」
初めは和やかに小指を絡ませていたのが不穏すぎる指きりの歌詞で必死になるケイト先輩の様子を見るに日本では物の例えではあるが、この世界の住人には伝わらないニュアンスなのか、本当に約束破ったら針千本飲むと思ってるんだなと思わせる反応が面白くて先程までの恐怖心は無くなって笑みが溢れた。
そんなわちゃわちゃしてる間に多少体力を取り戻したらしいデュースがジャックに声を掛けていた。
「ジャック、だったな。助かった」
「別に。お前らを助けたわけじゃねぇ」
プイッとそっぽを向くジャックには誰に対してもこう…不器用というか、ぶっきらぼうな感じなだけの人なんだろうと少し彼の人となりがわかってきたような気がする。
「はぁ、めっちゃ泥だらけ。今日のところは寮に戻ろうぜ」
「オレ様も腹が減ったんだゾ」
「んじゃ、ジャックくん。俺たちは帰るけど、怪我には気を付けるんだよー」
「お前らに心配される筋合いねぇっつってんだろ。さっさと帰れ………」
ぞろぞろと退散するエース達、そしてケイト先輩を鬱陶しそうにしながらも何だか物言いたげに見送るジャックの背中を指で突くと彼は訝しげにこちらに振り返った。
「…何だ?」
「…ううんと、特に用はないんだけど…さっきは助けてくれてありがとう」
「だから俺は助けたわけじゃ…」
「わかってるよ。それでも私は本当に助かったからお礼を伝えたかったの。そんだけ」
「………」
「じゃあ、またね」
怒ってるわけではないのだろうけど、彼はムッとしたままだったから結局さっき去り際に言ってた狙われない理由とか本当は聞きたいことは沢山あったけれど、グリムに急かされるし今は答えてくれなさそうだからと今日は疲れもあり早々に私はサバナクローを後にした。
***
サバナクローから戻った後はボロ雑巾かってくらい小汚くなったので私は学園長室へと乗り込み、温かいシャワーを借りてさっぱりした後に学園長から頬の手当を受けて1日を終えた。
その夜、グリムのクソうるせーいびきと無駄に受けたフレンドリーファイア、体力の限界まで身体を酷使した代償の筋肉痛が酷くて全然寝付けずに目を覚ましてしまった。
「身体中いてぇ…はぁ…ちょっと夜風にでも当たるか」
足の間で眠るグリムをひっくり返してうつ伏せにしてからベッドを抜け出し、イスに掛かっていたブランケットを羽織って静かに部屋を出た。
オンボロ寮を出れば当然深夜なために夜のとばりに覆われた暗い夜空の真上に薄明かりを放つ月が雲に遮られながらチラチラと顔を覗かせているそんな夜だった。
「は〜あ…探偵団結成した初日にクソいじめに遭うとかどうしてあんなことに…」
振り返れば朝から学園長に脅されてから一般生徒に喧嘩売られたり、怖い双子と鬼ごっこしたり、最後には脳筋気味なサバナクローの生徒達にいいように遊ばれて…振り返れば振り返るほど本当にろくな1日じゃないな。
まぁ、ジャックが同調圧力に屈するタイプじゃなさそうなしっかりした子だったと知れたのはいい点だったが、ハーツラビュルとは別の意味で劣悪そうなあの環境に置かれたままで彼は大丈夫なのかなと少し心配にもなる。それともナイトレイブンカレッジってどの寮もあんな感じだったり…?
そもそも私は事件の調査をしてるのであって、とある寮の内情が何だか不穏そうだからって事件と関係なければ首を突っ込む理由はどこにもない。しかしながら内ゲバが勃発しそうになった場面にも居合わせたし、なんならその原因でもある訳だし?自分たちのせいで彼の学園生活に悪影響を及ぼすのはいただけない。
それに明日からも事件の調査はしなければいけないから今日みたいに酷い目に遭うかも知れないと思うと吊るされた時のことを思い出して、絆創膏で覆われてる頬の傷が疼く。
「うぅ〜…モーッ!…はぁ〜あ…早くおうち帰りたい…」
思いを馳せることが多すぎて頭を抱える以上に掻きむしってついには現実逃避的にホームシックになった。深夜だし、元々人気のないオンボロ寮だから誰にも見られていないのをいいことにその辺の鉄柵に掴まり項垂れながらそんな弱気満載の独り言を延々と垂れ流していた。
「一体いつになったら帰れるんや、私は……」
そして人がいない開放感からか、私は(この鉄柵のひしゃげ具合…この隙間、頭通りそうだな)なんてクッッソくだらないアホなことを考えて試しにと行動に移してしまった。
まぁ、ちょっと入りそうでやっぱり入らない…絶妙な隙間だな〜なんてぼんやり思いながら鉄柵に頭を押し付ける謎行動をとっていたら、
ガサガサッ!
「ひゃわっ!?あ゛ッ?!イッッターーイッ!!」
突然背後から響く大きめの物音にビビりすぎて変な悲鳴を上げながらビクッと飛び上がってしまった。その拍子に鉄柵の上部の鉄枠にガンッとしたたかに頭をぶつけた痛みで情けない悲鳴が漏れるし、鉄柵の入りそうで入らなかった隙間に頭捩じ込んじゃったよ!!
「……ん? そこにいるのは誰だ?」
涙目になりながら鉄柵に首を挟まれた非常に間抜けな格好で呻く私の耳に、私以外誰もいないはずなのに背後から聞き覚えのない低い声が鮮明に聞こえてまたもビクッと肩が跳ねた。暫しの沈黙の後、コツコツと響く足音が私の真後ろで止まってヌッと私を覆うように暗い影が落ちた。
「……ヒュッ」
恐る恐る頭上へ視線を上げればこちらをじっと覗き込むエメラルドグリーンの瞳と目が合った。
私の背後に立って顔を覗き込むように屈むのはナイトレイブンカレッジの制服に身を包んだとても背の高い男子生徒。直近で見た双子と同じくらいのデカさに変な声が漏れた。
闇夜によく映える白い肌にしっかり手入れされた艶やかな襟足長めの黒髪、何より綺麗なエメラルドグリーンの瞳は縦長の瞳孔が目立ち、少し尖り気味の耳といいちょっと普通の人っぽくない不思議な空気を醸してる。
「てか敷地内にいる!?ふ、不法侵入の不審者………いや、今は私の方が不審者だな!」
「…これは驚いた。お前、人の子か」
「アッハイ…」
言うほど驚いてなさそうな表情筋が死んでそうな冷たさを感じる無表情で見られると、距離も取れないこのクソ間抜けな状態でいる恥ずかしさと昼間のデカい双子に追いかけられた恐怖心で大分心臓がバクバク言ってる。暗闇で気付かなかったけど天を指す立派な黒いツノも生えてるし、人族じゃないのがわかってさらに警戒心が湧き上がるのに私は首を柵に囚われた状態…馬鹿すぎんだろ!!トラバサミの罠に掛かった獲物の気分だ…自分で勝手に掛かったんだけど!
「お前、ここに住んでいるのか?この館はもう長いこと廃墟だったはず」
「えっ…まぁ…不本意ながら、最近成り行きで住むようになりまして…」
「独りで静かに過ごせる僕だけの場所として気に入っていたのだがな」
「はぁ…」
一見魔王みたいな出立してるのになんか…警戒していた割に意外と会話できるな…今まで会った他種族の人って大体喧嘩腰だったから、なんか拍子抜けしてしまった。しかしやけにこのオンボロ寮に思い入れがあるのか、ちょっと寂しそうにされて何だか少し申し訳ない気分になる。学園長からこのオンボロ寮の寮生は私とグリムの他にいないと言われてるし、黄緑色のベストと左腕の腕章からも違う寮の人だろうけど…もしかして私達が住う前のオンボロ寮と繋がりでもあるのかな。
「あの〜…最近入居したもんですから、ご近所付き合いとか全くしてなくて…そのー、申し訳ないんですが…あなたが誰かも存じ上げなくてですね…お名前伺っても?」
突然攻撃してくる野蛮なタイプの他種族さんでもないし、色々考えた末にとりあえず名前でも聞いておこうかと出来る限り失礼にならないようにと目を左右に泳がせ、ぎこちない笑みを浮かべ手を揉みながら訊ねてみた。
「誰って……。僕のことを知らないのか?本当に?」
「えっ……?…??…???……いや〜…いやいやいや、今日初対面すよね…ねぇ?」
無表情が崩れるほどわかりやすく目を丸くして驚かれるものだから、実は会ったことある人か!?とツイステッドワンダーランドに来てからの記憶を大分掘り起こしてみたけれど、こんな長身でツノの生えた特徴的な人を忘れるわけがない。だから絶対知らない人だと確信を得てから確認するようにそう訊ねてみるが、質問を質問で返したのが良くなかったのかさらに衝撃を受けたような顔をする。
え、何…なんなん?会ったことないよな…?生き別れの兄弟とか、将来を約束した幼馴染だったりする?………いやいやいや異世界だからそんな身近な存在いるわけないだろ!てか元の世界でもそんな関係の人いないが!
「初対面だ」
「いや普通に初対面なんかい!じゃあ知りませんよ!」
「……ふぅん。そうか。それはそれは……珍しいな」
「?…えぇ??」
私、当たり前の反応しかしてないはずなのに存じ上げてないことが普通じゃないみたいな反応されて戸惑う。
初対面だけども、ツイステッドワンダーランドでは名を知らぬものはいない有名人っていう異世界ギャップか?だから自分の名前知らない人間は珍しいみたいな?それ故にちょっと面白いみたいに1人で笑ってるの?驕り高ぶりすぎじゃないの!?やっぱりナイトレイブンカレッジに通ってるだけあるな!
「お前、名前はなんという?」
「えっ………幸緒です」
被害妄想で自身の無知さを勝手に馬鹿にされたように感じ、おのれナイトレイブンカレッジ生め!と学園に闘志を燃やしていると唐突に名を聞かれ答えていいかしばし悩んだ後に素直に答えた。
こうして名前を名乗るのもちょっと久々だった。
あの入学式の騒動で名前は認知されてないが、学園では魔法が使えない謎の奴と魔物のコンビと全く嬉しくない意味で存在が知れ渡っていてよく喧嘩を売られるからだ。決して有名人気取りではない。
「幸緒?珍しい響きの名だ。僕は……いや。やめておこう」
「えーーーなんで!大事な個人情報教えたのであなたの名前も教えてくださいよ、フェアじゃないし…」
「僕に名を名乗れ、と?ふっ……聞かないほうがお前のためだ」
「っ!?くそっ、一方的に個人情報抜かれたッ!なんたる不公平!」
ここは普通にお互いの名前を教え合う場面じゃんかと思っていたのに、妙に勿体ぶられて結局私だけ身元を明かす結果となった。最初の冷たい印象の無表情はどこへやら、住所も名前も把握された挙句になんかやけに楽しそうに笑っている彼とは対照的に何一つ得るものがない私は正直者が馬鹿を見るんだなといまだに鉄柵にハマったままの無様な状態で項垂れた。
「ふっ…知ってしまえば、肌に霜が降りる心地がするだろう。世間知らずに免じて、好きな名前で呼ぶことを許す。いずれそれが後悔に変わるかもしれないが……」
ナチュラルに世間知らずと見下された上になんて意味深なことばかり言う人だろう…やけに偉そうだしラスボスなの?名前を呼んではいけないあの人なの?さらに困惑する私をみて、エメラルドグリーンの瞳を細める彼は一通り満足したように微笑むとふっとオンボロ寮へ視線向けた。
「ふぅ……それにしても……人が住み着いてしまったということはもうこの廃墟は廃墟ではない。残念だ」
「はぁ…なんかすんません」
本当に残念そうにするものだから、私は悪くないよなと思いつつもついつい謝ってしまう。こんな場所に住まわせた学園長が悪いから、直接抗議してくんないかな…私も廃墟よりもうちょい環境の整った家に住みたいし。
「また次の夜の散歩用の廃墟を探さなくては。では、僕はこれで」
「えっ、あっはい。さようなら……消えた!?」
なんかブツブツ1人で呟いていたと思えば唐突に帰る宣言をした次の瞬間にはパッと光が散るように彼の姿は跡形もなく消え去り、オンボロ寮には静寂が戻って来た。
瞬間移動系の魔法かなと自分を納得させつつも、結局何だったんだろうあの人…と謎は増すばかりだし、改めて思い返すと何かやたら意味深なことを言う上位存在っぽいが、最終的にただの廃墟好きの不審者だったと気付いた。
しかしそんな怪しい人に個人情報を教えてしまったことを悔やむよりも、鉄柵から首が抜けなくなっていた現状に危機感を覚えた私は1人ヒンヒン泣きながら頭を引っこ抜く作業に必死になっていた。
たまたまトイレに起きて来たグリムが私の泣き声を聞きつけ、外に出て来てくれて私の醜態を見て呆れながらも手を貸してくれた甲斐もあり、何とか鉄柵の拘束から解放された。無理に引き抜いたから髪は数本抜けるし、頭はぐちゃぐちゃになるし、鉄柵に引っ掛かった耳や頬が痛いしで今日は夜中まで散々な1日だった。
…夜の出来事は大体自分が悪いけど、グリムが来るまで誰かに見られるんじゃとか、鉄柵に首が挟まったまま一生抜けないんじゃないかとか思って、今日一怖い思い出となった。
…まぁ…あの人に見られちゃったんだけど、どうか言いふらすタイプのナイトレイブンカレッジ生じゃありませんようにとひたすら祈りながら、私はグリムと共に再びベッドに潜り込み眠りにつくのだった。