荒野の反逆者
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グリムと私だけだったパーティーにハーツラビュルのメンバー(トレイ先輩以外)が加わり、探偵団を結成した私達は階段から落ちてしばらくは松葉杖生活を余儀なくされたトレイ先輩の恨みを晴らすべく、次なる犠牲者(予定)の元へと向かった。
まず最初の候補はナイトレイブンカレッジでもっとも美意識が高いと噂されるポムフィオーレ寮の副寮長さんこと3年生のルーク・ハント氏。
もっふもふな羽根つきのおしゃれな帽子を被ったボブカットのサラッサラなおかっぱ金髪に、にこやかな表情を決して崩さない深緑の狐目ハンサムさんだ。背筋がピンと伸びてて立ち姿が美しいが見た目的に特別体格がいいわけでもなく、細身で背丈もケイト先輩と同じくらいだ。
「ルーク先輩は去年も試合で活躍していた優秀な選手だよ。でも、あの人はちょっと変わっているというか…」
「お。あそこに座ってるのそうじゃないか?」
「ウワッ。なんかめっちゃキラキラしてる……」
「まず寮が綺麗すぎる…うちの寮って」
「やめるんだゾ!悲しくなるようなこと言うんじゃねぇ!」
私達はバレないようにひっそりと護衛対象を見守るためとは言え、薄く開いた扉の隙間から談話室の中を覗くために皆して団子のように連なりながら、ひしめき合いコソコソと話す様は見つかれば不審者扱い不可避である。一応私には監督生の役目として学園に所属する生徒の写真をゴーストカメラに納めるという、大義名分があるので言い訳ができる…はずだ。
しゃがみ込み、グリムの頭に顎を固定して私はミステリーショップで購入した双眼鏡でマジマジとターゲットを監視しながら、その周りも見渡す。
ターゲットの近くには豪勢な椅子に座るハリウッド女優のようにスラッとした頭からつま先まで全身整った色素薄めのクソ美人さん(いい匂いがしそう)と、私の女の子としてのプライドを塵に帰したどの角度から見てもクソ可憐な美少女(♂)の姿が。会話はよく聞き取れないけど、あの美少女…声質的にやっぱり美少年だったんだ…と改めて女の私より可愛すぎオーラでまた不意にダメージを負ってしまった。ちなみに肝心のターゲットはなんか会話中に「マーヴェラス!」「ボーテ!」とちょいちょいフランス語が飛び出すリドル先輩の言うようにちょっと様子がおかしいお兄さんで、自信満々に紹介してくれるケイト先輩とは対照的にめちゃくちゃ呆れた様子のグリムが自分だったらあれは狙わないと首を振った。雰囲気的に私もなんか…あの人、1人でも全然大丈夫そう…と思ったので、一応ゴーストカメラで何枚か写真を撮った後にさっさと見切りをつけてケイト先輩に次の護衛対象の元へ行こうと促した。
結果:ポムフィオーレ寮での収穫はゴーストカメラで撮った女王様とその側近2人がティータイムを楽しむえらく絵になる3人組の写真が数枚。女の私より可愛い男の子をまざまざと見せつけられてショックを受けただけに終わった。
***
次のターゲットはオクタヴィネル寮の双子の生徒、2年生のジェイド・リーチ氏とフロイド・リーチ氏。
学校の中庭を2人揃って歩いているのをケイト先輩の選手レビューを聞きながら、私達は離れた木の影からコソコソと観察する。
「連携攻撃が強力で、対戦相手の寮が手を焼いてたと情報アリ」
「わっ!まるきり同じ顔が2人いるんだゾ」
「つか……あの2人、周りの生徒が小さく見えるくらいスゲー背がデカくない?」
「ヒョロヒョロしてるけど、ノッポで強そうなんだゾ」
先ほどのルーク氏と比べると2人は長身でとにかくデカい。グリム3匹分くらいありそう…遠目で見てもそれだけデカい。ガタイもまぁまぁいい。これは確かに有力選手だと言われるのも納得の2人だった。
「じゃあ、あの2人をマークしますか?」
デュースが先輩達にそう聞くとリドル先輩はどうも双子のフロイド氏の方が大層苦手らしく、苦々しい顔をして渋る。単純に近づきたくない素直な感想とこの双子を狙うなら最後にすると豪語するほど厄介な人物らしい。
双子のためによく似た端正な顔していて、灰と金のオッドアイに、緑色のような青色のような浅葱色の整ったアシンメトリーの短髪に差し色の黒よりのグレーのちょろ毛がやけに特徴的だが、全然見分けがつかない…どっちがフロイド氏なの。
しかしよーく見たらなんかの鱗みたいなピアス?イヤリング?を付ける耳が逆だったり、分け目が逆だったり…後タレ目と吊り目かなと食い入るように観察してそんな微妙な違いを発見したりしたのだが、その吊り目のオッドアイがばっちりこちらを捕捉してきて双眼鏡越しにニッコリと微笑まれた瞬間、背筋がゾワっとして情けない悲鳴を漏らし双眼鏡を取り落としてしまった。50mくらい距離あるのに…え、バレてるっ?こっっわ!
「あ〜〜〜〜〜。金魚ちゃんだ〜〜〜!」
「うっ!見つかった!」
「金魚ちゃん、こんなところでなにしてんの?かくれんぼ?楽しそうだね」
双眼鏡を拾ってる間にどうやらタレ目の方がリドル先輩の存在に気付き、ヘラヘラしながらすごい速さで駆け寄って来た。近くで見るとより一層デカい!
リドル先輩の嫌々そうな反応的にタレ目の方が件のフロイド氏らしい。
「なんか変なヤツなんだゾ」
「わー、しゃべる猫だ!おもしろ〜い。ねぇねぇ、ギュッて絞めていい?」
「し、絞める!?やめるだゾ〜!」
ヘラヘラと軽そうな笑みを浮かべながら何だか気の抜けるようなおっとりした口調でリドル先輩に独特なあだ名を付けてるようで不思議ちゃんの気を感じるが、そこはかとない狂気も感じて私はその場でタジタジているグリムをサッと抱き上げて咄嗟に距離を取った。
「おや、ハーツラビュル寮のみなさんお揃いで」
一方のつり目の方、少し遅れてやって来たジェイド氏は随分愛想が良く口調もピシッとした立ち姿が紳士のそれですっごいしっかりしてて対照的な双子だ。
「もしや、マジカルシフト大会に向けての敵情視察ですか?」
「えーと、これにはいろいろワケが……」
「スパイ行為を見逃すわけにはいきませんねぇ。何故僕たちを監視していたのか、理由を詳しくお聞かせ願えますか?」
笑顔ですごく口調は丁寧なのに、全身から放たれる威圧感が穏やかに話しを聞く気皆無でやっぱり性根はそっくりな双子なような気がして来た。
身の毛がよだつような危機感を感じているのは私だけではないようでリドル先輩の退却宣言を受けて彼らに背を向け、私達はダッと一斉に駆け出した。
しかし「待って〜」なんて一見可愛い声掛けしながら、背後からドスドス追いかけてくる重い足音と威圧感たっぷりの巨体で追いかけられるのなんて恐怖でしかない。
横並びで逃げる私達1年生3人は特に炭鉱で謎の化け物とチェイスした時の悪夢を呼び起こされて、私はひどく動悸がするし、しかも私ってばただでさえ足が遅いのについグリムを抱えてしまったから余計な負担を負ってしまった。必然的に殿になるし、抱っこしたグリムは背後から追いかけてくる双子がよく見えてしまうが故に、耳元でギャンギャン騒いでうるさいし、爪が食い込んで痛いのよ!
そんなダメージと疲れに少しずつスピードが落ちてきてこのままでは捕まってしまう!と目を硬く閉じた時、突然背後から背に添えられた手のひらに驚き振り向くと運動着姿のケイト先輩がニコッと微笑みながら優しく背を押して逃走のフォローしてくれた。おかげで私は落ち着きを取り戻し、双子に捕まることもなく、そんなこんなで無事に危険な双子を撒きメインストリートまで逃げ切ることができた。
まだ全然犯人と邂逅する前なのに、肩で息をするほどの状況になるなんて思わず抱っこしていたグリムを放り投げ、偉人の銅像にもたれ掛かりながら乱れた息を整えた。
とりあえずあのオクタヴィネルの双子は直ぐに狙われて怪我をするタイプでは絶対にないだろうし、したとして片方が無事なら地の果てまで報復に来そうなのでお利口な犯人ならば避けるだろうと結論が出た。
「じゃあ、そろそろ日が暮れそうだし次は本日最後のけーくんチェック。サバナクロー寮のジャック・ハウルくん。1年生。運動神経抜群で、ありとあらゆる運動部からスカウトが殺到してるって噂」
「1年生かぁ。同い年なら今までよりずっと接しやすいかも」
もう放課後でこの時間ならば寮に戻ってる可能性を示唆するデュースの意見もあり、最初のポムフィオーレと同じようにサバナクロー寮へ行こうかと方針がまとまるが、ここでリドル先輩が寮長としての仕事のためにパーティーを外れることに。
相変わらずリドル先輩はルールに厳しいようではあるが、グリムに指摘されて少し言い淀む様子やケイト先輩のフォローからして今のハーツラビュルは以前よりもずっと環境が良くなったみたいでちょっと安心する。ハーツラビュルへ帰って行くリドル先輩を皆で見送り、私達はサバナクロー寮に続く鏡舎へ向かった。
そういえばさっきまで私の背を押してくれていた運動着姿のケイト先輩、いつの間にかいなくなってる。…追いかけられてる時にどっかでポンっと音がしたから捕まって消えちゃってたのかなと思い、ケイト先輩のそばに駆け寄りそっと服の裾を摘んだ。
「ん?どしたの?」
「あの、さっき…スプリット・カードで助けてくれましたよね。分身…」
「あー、それね!幸緒ちゃん、かなーり距離近くてヤバかったもんね。何事もなくてよかったよかった〜」
ケロッとした表情でそう手を振るケイト先輩だけど、以前分身を維持するのは疲れるって言っていたのを覚えてる。私をフォローするためだけにわざわざユニーク魔法を使わせたのはちょっぴり申し訳ないが先輩の分身にはオンボロ寮の屋根修繕時にも助けられたこともあるし、今回はああやって寄り添ってくれたことですごく安心できて嬉しかった。
「また先輩の分身さんが身代わりになってくれたんですよね?それで、あの、お礼言えてなかったんで…改めて助けていただき、ありがとうございました」
「…あー、いーのいーの。そんなかしこまんないで。先輩として可愛い後輩にカッコいいとこ見せたかったしね♪」
丁寧に頭を下げて礼を言えばナイトレイブンカレッジ生の習性か、一瞬固まった後に先輩はいつものチャラさを取り戻し、ウィンクしてそうおちゃらける。今回もしっかり礼も伝えられたし、この話は終わりだなと摘んでいた裾を放して離れようとしたら、ニコニコ笑顔のケイト先輩にたった今放した腕の袖口を摘み返された。え、やり返し?
「で、カッコよかった?」
「へっ?」
「ほら、リドルくんの一件ではダサいとこばっかり見せちゃったでしょ?ちょっとはけーくんのこと見直してくれたかな〜って」
「あー」
急にどうしたのかと思ったが、ケイト先輩はあのハーツラビュル騒動でのことを結構気にしていたみたいだ。私は言われるまで全然気にしてなかったけどあの時の先輩は完全にキャラ保てていなかったな、そう言えば。それに手伝わされてばっかりで結構イライラをぶつけていたから、先輩に対する私の態度も相当褒められたものじゃなかったなと今更思い返す。
見直すも何もとっくに先輩のことは頼りにしてるつもりだったのだけど、言葉にして欲しそうな期待の眼差しを向けられては言わないわけにはいかない。
「かっ……」
素直にカッコよかったです、と言おうとケイト先輩の顔を見上げて気づく。彼の背後でニマニマしながらこちらを見据えるエースとデュース、そしてグリムの嫌らしい笑顔を。
気づいた瞬間に何だかこのやり取りがとても恥ずかしいものに思えて、照れ臭さにぼっと頬が熱を帯びて熱くなった。しかし焦って恥ずかしがっては奴らの思う壺であるため、グッと口を引き結び平気なフリをした…まではいいものの、コイツらに揶揄われたくないがためにケイト先輩を無視する訳にもいかず、私は怒ってるような微妙な表情で赤らんでるだろう顔を上げて先輩を見上げる。
突然挙動不審になった私に対してちょっと困惑気味で困ったように笑う先輩から目を逸らしてながら、
「かっ……こよかった、です」
俯きながら消え入りそうな蚊の鳴くような声で呟いた言葉はしっかりケイト先輩には伝わったようで、ぱあっと花が咲くようにニコニコと上機嫌に笑う先輩はパッと袖口を放したかと思えば高速で何度も私の頭を撫で始めた。
「ちょっ?!んなっ、なっ…!?」
「可愛い〜〜っ!本当ナイトレイブンカレッジ生とは思えない反応〜。後輩がこんなに可愛くて先輩めっちゃ嬉し〜♪」
「また頭をっ…こ、子供扱いやめっ…ちょっ、まっ、撫ですぎぃっ!」
「ちょっとちょっとケイト先輩!」
最早愛犬でも可愛がるように額がくっ付きそうになるくらいの距離でよーしよしよし!と両手で頭を撫で出したケイト先輩に困惑しすぎてされるがままになっていると、エースの抗議の声と共に背後からガッと両腕を力強く掴まれベリッと先輩から引っぺがされた。
困った時に助けてくれるエースとデュースに熱い友情を感じていたのも束の間、左側から身を乗り出したエースがプンプンしながらケイト先輩に食ってかかった。
「幸緒ばっか可愛がっちゃってズルい!!まず同じ寮の後輩である俺たちを可愛がってくださいよ!」
「そっちかーーいっ!」
友達の私のために怒ってくれてるんじゃなくて、ケイト先輩に可愛がられる私に嫉妬しての怒りかよ!と思わずエースの脇腹をはたいてツッコんでしまった。
確かに可愛がられるのは嬉しい方の反応ではあるし、乙女なので可愛いって言って欲しい願望はむしろある。………でもな〜〜ペットとか弟妹に対する可愛いは違うんだよなぁ〜!
このエースのしょうもない発言には「おい、エース!その要求は浅ましすぎるぞ!」と私の横でデュースも苦言を呈すレベルの見苦しさであったが、トレイ先輩はそんな可愛い子ぶる後輩に対して寛大に微笑みを浮かべていた。
「そーだね〜。エーデュースコンビも可愛いは可愛いけど…君たちは基本的に下心ありきじゃない?幸緒ちゃんは良くも悪くも態度に出ちゃうところが猫ちゃんみたいで可愛い♪」
「可愛い〜!?幸緒が〜!?たまにすっげー冷たい目をするリドルの次くらいに怒りんぼのコイツが〜!?」
「それはオメーが問題ばかり起こして私が迷惑してるから…て、もうこの話はいいでしょ!やめやめ!早く行きましょ!」
皮肉ばかり言うグリムの口を塞ぎ、ただでさえ顔から火が出そうなほどなのにこれ以上ケイト先輩に揶揄われてはたまらんと強引に話を打ち切り、背後の3人と目を合わすことなくグリムを抱えたまま鏡舎へ急いだ。
***
鏡を超えた先に広がるのは照りつける太陽と木々の少ない黄土色の大地、そこから覗く岩盤やその辺に転がる謎の巨大生物の骨が広がる風景はたまに動物系の番組で見るサバンナの光景を思い出させる。
「おぉ〜。ここがサバナクロー寮か」
「ゴツゴツした岩みてぇな建物だ!あそこにあるでけー骨、なんの骨だ?」
「ウチの寮とは全然雰囲気が違うな」
「それなー。なんか、超野性味を感じるっていうか?もう空間そのものがワイルドだよね〜」
ハーツラビュルの世界観にすっかり慣れきっていたから、この…作品変わった?てくらい方向性の違う世界観と季節も変わったような乾燥した暖かい環境にただただ呆然としてしまう。また世界が広がっちまったよ。
「で、ジャックだっけ?どんな奴なんスか?」
「褐色肌に銀髪。狼っぽい耳とフサフサの尻尾がトレードマークらしい」
「フサフサの尻尾……おっ。アイツじゃねーか?1人で庭走ってるヤツ!」
グリムが指差した先にはランニング中のどこかで見覚えのある大きな白い耳とフサフサな尻尾を揺らして走るケモ耳男子の姿。
「ビンゴ!グリちゃんお手柄。特徴ピッタリ。彼に間違いない」
「っつーか、さっきの双子に引き続き、体デカっ!」
遠目から見ても背の高さ、そして先ほどの双子と違うのは太陽の下で輝く圧倒的な筋肉。制服の上からでもわかる筋骨隆々の上腕二頭筋や大胸筋を目にしてはエースの驚く声にも納得して私も頷いてしまう。と言うか前に食堂で見たケモ耳族じゃん…あの体格差で同学年ってマ?
「あれは運動部がみんなスカウトしたがるわけだね」
「あのたくましさは格闘技に向いていそうだな」
「同学年なら話しかけ易いと思ったけど…いや〜…威圧感、ありますねぇ…声かけにきぃ〜」
「オッケー、ダイジョウブ、リラ〜ックス!いきなり噛みついてきてもさっきみたいに守ってあげるからさ♪」
「…………えっ私が声かけるの前提なんすか!?何故っ」
ポンポンとケイト先輩に肩を叩かれながらそう言われて数秒の沈黙の後に反射で抗議するとケイト先輩はエースやデュースと顔を見合わせては「ねっ」て感じで笑顔で頷き合ってる。全然理由にならんが!?
しかしそんな3人に再び抗議しようとした私はトラブルメーカーの獣が勝手に例のケモ耳男子に向かっていたことに全く気が付けなかった。
「オイ、そこのツンツン頭!」
「……あ?」
「オマエが悪い奴に狙われてるかもしれねぇから、オレ様たちが守ってやるんだゾ!どうだ、嬉しいだろ!」
「あっグリム!やべっ…」
小さいくせに尊大な態度で自分より大きなターゲットのジャックにそう声を掛けるグリムに気がついた頃には時すでに遅し、怪訝そうな仏頂面が明らかに怒りを帯びていた。
「なんだ?てめーは。走り込みの邪魔すんじゃねぇよ」
「あ〜あ〜、だからさっさと幸緒が行けばよかったのに」
「えっ、これ私のせい??」
間髪入れずに即私に全責任を押し付けてくるエースにそう言われてモヤってる間、真っ先に飛び出したケイト先輩が慌てながらも的確にグリムの口を塞ぎ、身動き出来ないように羽交締めにした。
「やー、ゴメンゴメン。ちょっとオレたちの話聞いてもらっていーかなー?」
軌道修正するためにケイト先輩は人懐っこい笑みを浮かべながら警戒心剥き出しのジャックにそう訊ねた。
「いきなりなんなんだ、てめーら。この俺を守る、だと?」
相変わらず迫力のある金色の鋭い眼光で睨み付けてくるが、立ち去る様子はなく一先ずは話を聞いてくれそうな雰囲気だったので、すかさずデュースとエースが暴れるグリムを押さえつけるケイト先輩の前に出て経緯を説明した。最近の不審な事件についてとそれを調査している件まで、一応話を聞いてくれてるんだろう無言ながらも大きくそばだてた耳がわずかに揺れる。
「それと俺になんの関係が?」
「単刀直入に言うと、次に狙われそうな選手候補をマークして犯人が現れるのを待とうって作戦デス。どお?ちょっとオレたちに協力してくんないかな?」
「…………」
ケイト先輩の提案にジャックは今まで威嚇するように見開いていた目を細めた。もしかして交渉成立する流れか…?と思えたのは一瞬で、またもギラリと鋭い眼光で睨まれた。
「断る。俺は1人でなんとか出来るしお前らに守って貰う必要はねぇ」
「で、でもさ、もしも1人でいる時に大怪我なんかしたらどうすんです?」
このままではあかん!と颯爽と皆の前に出たものの、間近にする圧倒的体格差と鋭い眼光に晒されて開いた口から零れ出たのは情け無くも若干裏返った声だった。
「…あ?」
「何もなきゃそれでいいけど、万が一怪我したならそばに誰かいた方が手当も直ぐ出来るしいいと思うのよ。私たち、君の邪魔したいわけじゃなくて、だからせめて遠くから見守るのを許してほしいん、ですが」
「…………」
干渉されるのをめちゃくちゃ嫌がる態度からもう協力してもらうのは無理だろうけど、このまま放っておいて怪我させてしまっては堪らないこちらの気持ちも理解してほしくて、ちょっと震えながらも分かれよ!と目を細めてガンを飛ばすジャックに負けじと視線を合わせた。しばらく睨み合っている時間がやけに長く感じたが、不意に彼は視線を逸らしてふぅと息を吐いた。
「いらねぇって言ってんだろ。それに……俺が狙われることは、多分……ない。じゃあな」
「えっ…ちょっ」
迷惑そうにさっくりと断られたのは予想していたけれど、去り際に小さく呟かれた声に新たな疑問が湧いて訊ねようとした時にはジャックはあっという間に背を向けて立ち去って行った。
「………」
「あー、行っちゃった」
「なんかぶっきらぼうでカンジ悪いヤツだったんだゾ」
「あの話の振り方じゃ、誰でもムッとするだろ」
「初対面でいきなり守るとか言われても意味分からんすぎるだろ。ターミネーターかってんだ」
「その例えも全然わかんねーんだけど」
「ッカ〜ッ!人間ってヤツは話し方ひとつでいちいちめんどくせぇんだゾ!」
喚くグリムとエースとデュースの会話を聞きながら、先ほど距離的に恐らく私しか聞き取れなかったジャックの言葉がどう言う意味を含んでいるか考えていたが、
「おい、お前らそこでなにしてんだよ」
立ち去ったジャックと入れ替わるように現れたケモ耳族の明らかにヒャッハー系のガラの悪い連中の登場で思考がショートした。
「ハーツラビュル寮のやつらじゃん」
「へへへ!赤いお坊ちゃまのおとりまきかぁ〜!」
「俺たちの縄張りにずかずか踏み込んできて無事に帰れると思ってねぇだろうなァ?」
とても知性を感じさせない言葉選びに喋り方、下品な笑い声にとある世紀末作品の名もなきモヒカン達が連想されるくらいには一発で対話出来ないタイプと解らされる。
「ウッ。このパターンは……」
「あ、もう帰るんで!お邪魔しました〜」
デュースもエースも面倒なことになると即座に身を翻して鏡の方へ向かおうとしたが、ケモ耳族はしっかりと動物由来の高い運動神経を持ち合わせていたようで易々と回り込まれて逃走は失敗に終わった。
「そう言わずに遊んでけって!」
「へへへ!狩ごっこしようぜ!もちろん獲物はお前たちだ!」
「ヒェッ〜〜!わかり易いイジメっ子発言!!」
「やめとけお前ら」
このままじゃ真っ先に足の遅い私が狩られる!と戦慄していたら聞き覚えのある気怠げながらもやたらいい声と2人分の足音が背後から近付いてくる。
「ヒェッ」
声からして何となーく嫌な予感を感じつつ、恐る恐る振り返って後悔した。そこに立っていたのはつい最近グリムとパンを交換したタレ目の可愛い目のケモ耳族の生徒、問題はその横に立っているモフモフ丸お耳の長髪褐色スカーフェイスの美形…いつだったか私がエルボーを喰らわせ、その腹いせに私を木に吊るしてきたその人である。グリムがタレ目のケモ耳さんに絡まれてる間に慌てて近くにいたエースとデュースを引き寄せその背に隠れるが、一歩遅く切れ長の瞳とバッチリ視線がかち合って震えた。
「あァ。よく見ればお前、植物園でこの俺の尻尾を踏んづけて肘入れた草食動物じゃねぇか」
「ヒイッ、ドウモッ」
しっかり覚えられてて過去の罪からは逃れられないのだと現実を思い知らされてしまった。
「なぁにぃ〜!?レオナさんの尻尾を!?」
「さらに肘を!?許せねぇな!」
「うぅ…クールポコやめてください」
「えっ、もしかしてあの人が前に肘を入れたっていう…?」
「ウン…」
「幸緒さー…本当あれだけで済んで良かったよな」
振り返るエースとデュースは見るからにヤバいタイプに絡まれてよくあの常軌を逸した行動を取れたなといつかの私の話を思い返して、改めて私を失望の眼差しで見てくるからより辛い。わかってるから…あの時は本当にどうかしてたんだ。
「その件は本当に申し訳なかったです、けど……一応あの後吊るされて怖い目あったし、禊は済んだんじゃないかな〜って」
「あの程度で済むと思ってんのかよ」
「ゴメンで済んだら警察いらねぇんだよ!」
「あ、そっか。どこかで会ったと思ってたんスけど植物園だったッスね」
「えっ、あ…あの時現場に来た人」
どうにか遺恨は水に流せないかと私も一応酷い目にあったからそれで手打ちにしてくれまいかと期待したがそうは問屋が卸さない。特に取り巻きのケモ耳族が好戦的すぎる。変に因縁があるのをダシにめちゃくちゃ絡んでくる…今回ばかりはさすがに私の落ち度すぎて、全く関係ないケイト先輩に本当に申し訳ない。
「レオナさん、ラギーさん、やっちまいましょうよ!」
「ワンワン騒ぐんじゃねぇよ馬鹿ども。暴力沙汰なんか起こして、マジフト大会出場停止にでもなかったらどうする気だ?」
「縄張りを荒らしたヤツを見逃すんですかァ?食い出がありそうな獲物なのに〜」
速攻暴力に訴えかけられると覚悟していたが、意外にも理性的なリーダー格の男、レオナさんはブイブイ言っていた取り巻きを一声で制した。意外にもスポーツマンシップがあるのかと感心したのも束の間、
「誰も見逃すとは言ってねぇ。ここは“穏便”にマジカルシフトで可愛がってやろうぜ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべたかと思えば突然の昨日知ったばかりのよくわからんスポーツで決着をつける雰囲気を出されて私は困惑した。この世界、遊戯王みたいにどこでもデュエルするかの如くマジフトするのが日常的な世界なん?ただ単に私達の寄せ集め具合見て言ってるなら姑息すぎんだろ。
「試合中ならどれだけ魔法を使っても校則違反にはならねぇからな」
姑息な方だった。
「シシシッ!レオナさんってば意地悪ッスねぇ。こんな弱そうな奴ら、ワンゲームと持たないッスよ」
「ムムムッ!そこまで言われちゃ引き下がれねぇんだゾ!」
「おいバカやめろ」
今朝からマジフトをかじった程度のド初心者のくせしてちょっと煽られただけで相手の土俵に乗っちゃうんだから本当に考え無しな獣だよ、お前は。
しかし煽られて腹に据えかねていたのは獣だけじゃなかったようで、グリムが一番に乗り込んだ船には次々と乗船希望者が集まってくる。
「はぁ。断って帰れる雰囲気でもないな」
「おーし、いっちょやってやろうじゃん。ケイト先輩!選手選びの件、忘れないでよね」
「ばかばかばか絶対ろくなことならんってやっすい挑発に乗るなよ」
相手は屈強でいかにもスポーツ大好きっ!て感じの脳筋ばかりで対するこちらはまとも動けそうなのは3人、体格的に圧倒的不利な1匹、魔法も使えないのでマジで数合わせの置物にしかならない1人に魔法使える前提のスポーツ対戦挑むとか、最初から正々堂々勝負を挑んできてないのわかるじゃん!!乗るなよ!グリムの泥舟に!
この空気感には年長者として面倒を見ないといけないケイト先輩はしょうがないと付き合ってしまうのだが、横に首を振り続ける私へ振り返ると安心させるようにポンポン頭を撫でてくる。
「幸緒ちゃんは安全なところで見てて。相手チームの動きをよく見て、オレたちに教えてね」
「先輩…はい…あの、怪我しないように、気を付けてくださいね」
あまりに優しく諭されるものだから頭を撫でたことに怒る気にもなれなくて、結果は見えていてもこれ以上止めるのは野暮だ。しょうがないからせめて自分もだけど、ラフプレーする気満々の相手だからと皆が怪我をしないように指示出しを頑張ろうと心に決めた。