荒野の反逆者
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まるで白黒テレビのような視界に映るのは見知らぬ乾いた大地とどこまでも続く荒野。
ドラゴンボールの背景かってくらい味気ない岩壁だらけの荒野に立っているようだった。
この脈絡のない不思議な感じは以前も覚えがあるからすぐに夢だこれ、と気が付いた。
不意に地面に突き刺さったような斜めに突き出した岩壁の上にライオンと猿…猿?マントヒヒ?パタスモンキー?ヤバい、猿の知識が乏しすぎてわからない…とりあえず何かの猿がゆっくりと岩壁の先っちょへ登っていく。
後からメスライオンが合流したかと思えば寄り添っい合ったライオン達は夫婦のようで、2匹の間から猿が小さな小ライオンを抱き上げておもむろに天に掲げ始めた。
白黒だった視界に雲間から光が差し込み、照らされた小ライオンから周りへと鮮やかに色が広がるような光景は神々しく幻想的で目が離せない。
「?…こんなワンシーンをどこかで見たような…何だっけ…」
既視感に引っ掛かりを感じながらも神聖な儀式を行なっているようなそんな様子を眺めていると、だんだんと視界の端から黒いインクで塗りつぶされていくように暗転して私はふっと意識を手放した。
次に目を開けると映ったのはもはや見慣れた壁紙の剥がれかけた薄汚れた天井と鋭い角度で窓から差し込む眩しい朝日。
直前に見ていたはずの夢の内容はあっという間に朧げになりながらも、以前見てたアリスの夢からまた随分と雰囲気変わったなと微睡む頭で思っていると、大の字で足の間で寝ていたグリムが気持ちよさそうに大音量の寝言をヨダレと一緒に垂れ流してくれたから二度寝する気も起きなくなった。
「……あーーっ!うるせぇっ!!」
「ふなぁっ!?」
だんだんとイライラが募り、怒り任せてドンっと持ち上げた両足でベッドを揺らすとスプリングでちょっと跳ねたグリムがハッと目覚めてキョロキョロと辺りを見回し夢かと落胆してた。よほど都合の良い夢を見ていたことがよくわかる。
「なんだぁ〜夢かぁ……リドルなんかメじゃない最強魔法士になれたと思ったのに、ガッカリ」
「おはよ。夢の中じゃ大活躍だったみたいだな…まっ、実現出来るように頑張ってくれよな」
「おうっ!将来大魔導士になるオレ様に任せとけ!今日も一日頑張るゾイ!」
「ちょれ〜わコイツ」
そんなこんなで支度をして今日も学園に通う。
早いもんで1ヶ月くらい経ってしまい、もう学園生活にも小慣れたものだ。
ゴースト達のヘアケアサポートに加えて食費を確保できたことによって食材も揃えられて、コンロもグリムに火をつけてもらうことで湯を沸かすくらいはできるので紅茶とパンで迎える優雅な朝食…授業のない日に食べられそうな雑草をグリムが分けてくれた時の事を思えば驚くほど生活水準が上がったと実感する。
食べ終わった頃にドアをノックしつつ、勝手に中へ入ってくるエースとデュースの顔を拝んで一緒に登校…最近この流れが多い。というか、ほぼ毎回こうだ。
なんか…出会った時は想像出来なかったくらいに一緒にいる時間が長い。
入学式の一件の後で散っ!と散り散りになっても不思議じゃなかったのに、登校日は毎日…何なら休みの日でも遊んでることが多くて思ってたよりも真っ当に友達してる。
当たり前だけど彼らには私やグリム以外に友達がいない訳でもないので、むしろこんなに一緒に過ごしてくれる理由が謎だ。
入学式からハーツラビュル寮の件まで色々手伝ったから私達にある意味恩義でも感じて傍にいるのか、はたまた私達に対する親愛度でも爆上がりしすぎたか…こいつらに限って後者はないか。
そんな訳で今日も他愛ない話をしながら学園に向かい、いつも通り授業を受けてあっという間に昼休みがやってきた。
「ゔ〜。トレインセンセーはオレ様を眠らせる魔法を使ってるとしか思えないんだゾ」
「お前、授業が始まって5分で寝ただろう」
「朝の意気込みは何だったんだよ。あまりにクソ雑魚すぎん?」
「昼飯なに食べよっかな〜♪……って、あれ?なんか今日やたら食堂が混んでるな」
もはや日常と化してきた学園生活に今日はちょっとした変化があった。
食堂の一画に人だかりができていたのだ。
何でも月一で来る出張パン屋さんだそうで、俺が俺がと群がる生徒がウゴウゴしてて、あの中にタックルしてってまでパンを買う勇気はとても私にはない。
しかし私の相方であるグリムは違ったらしく何やら大人気の惣菜パンに見事に心を奪われたらしく、横入りは当然として大人気のDXメンチカツサンドの購買権を図々しく主張した。
当然こんな非常識なグリムに横入りされた生徒のハーツラビュル寮生は激怒した。
その後ろに並んでいた生徒も伝染するように騒ぎ出し、パン屋さんの前で乱闘騒ぎが起こり、グリムの監督責任のある私は頭を抱えるが、どうもこんな騒ぎは日常茶飯事なのかパン屋さんのゴーストはにこやかに笑みを浮かべるだけで注意するでもない。これはきっと許容されていると私は即座に判断して横にいた呆れている2人の友人の肩に手を置き、協力を仰ぎ並んでいた生徒を暴力で諌め黙らせる方向へ舵を切った。
ほぼ日常的にアクシデントが起こるので、もはやバトルも慣れたもんである。
名門校ナイトレイブンカレッジの生徒に選ばれる素質はやはり秘めているためか、度々面倒な事態に巻き込まれて経験値を得たからか、1ヶ月も経てばそこらの雑兵のような一般のナイトレイブンカレッジ生をいなすのは容易い。何より唐突に始まるバトルに相手がついてこれない内に開幕目眩しのゴーストカメラフラッシュを喰らわせ、デバフをかけた後は2人と1匹の魔法で叩く…リドル先輩との決闘に活かせなかった早撃ちがこんなどーでもいい場面で活躍するのはどうかと思うが、静かになったのでよしとした。
本来なら勃発することのない喧嘩に手を貸して相手を負かしたことにデュースは些か申し訳なさそうに床にのびている先輩に謝っている後ろで、グリムはDXメンチカツサンドとやらをゲットして上機嫌に小躍りしてるし、ちゃっかり便乗するエースもパンを購入しているような真反対の行動を見てるとホントなんで一緒につるんでられるのか疑問に思う。
何はともあれそろそろ移動をと思ったらいまだにパン屋の前で喜び勇んでいるグリムの背後から、やけに独り言の多いケモ耳族の生徒がやって来た。
制服は大きめなせいかブレザーの袖を折り込んでいてズボンも裾を折り込んでることからサイズがあってないことが伺える。タレ目の大きめの灰色の瞳に余裕の伺える柔らかい表情で茶髪の外はねしてる癖っ毛から覗くケモ耳は丸っこくふわふわしてて愛らしさがあるが、喋り方のせいか表情のせいか…妙に胡散臭さを感じる。
どうもDXメンチカツサンドを買いに来たらしいが完全に出遅れてしまったらしくブツブツと嘆いていたが、小躍りするグリムが掲げていたDXメンチカツサンドを見るなり目を細めてニヤァっと妖しく笑った。
「おっ。そこの君。すごいッスねぇ。超人気のDXメンチカツサンド、ゲットできたんスか」
まさか…強奪か!?と思ったがさすがに杞憂だった。
彼は自分が持っている見るからに小さな可愛らしいあんぱんとグリムのカツがはみ出るようなボリューミーな惣菜パンを交換しようと交渉を試みた。明らかに成立しないわらしべ長者をしようとしていてグリムが頷く訳もないが、文句を言う割にグリムは急かされるまま…実にあっさりとDXメンチカツサンドを手渡していた。
「嘘だろグリム…ここに来てんな解釈違いな行動するなんて…どういう心境の変化…」
天変地異が起きるレベルであり得ない場面を目の当たりにして、私達はグリムのあり得ない慈悲ある行動に驚きのあまりケモ耳の彼が立ち去るのを素直に見送ってしまった。
その後、グリムはDXメンチカツサンドを失った腹いせに交換したあんパンどころか私が確保したパンすら掠め取り平らげた後に先ほどの自分の動きが納得いかないと文句を垂れていた。
「それにしても、さっきはどうしたんだ?そんなに文句を言うなら交換してやらなきゃよかっただろう」
「ちげーんだゾ!なんか、アイツが手を差し出したらオレ様も勝手にアイツと同じ動きをしてて……それで、気付いたらパンを交換してたんだ」
「???つまりどーゆーことだよ…?」
「ああ、その気がなくても思わずノッちゃった〜みたいなことたまにあるよね」
「そーゆーこと…するか??グリムが」
「そういうんじゃなくて……ううん、うまく説明できねぇんだゾ〜!」
泣き喚くグリムの様子的にやはりさっきの交換は本意ではなく、自身も何故あんな行動を取ったのか理解出来ないようでDXメンチカツサンドが小さなあんぱんに変わったことに納得がいかないグリムは横でパンを食べているデュースに乞食しながら襲いかかっていた。
エースの言わんとしていることも何となくわかるけど、やはり強欲なグリムが雰囲気に流されるとはとても思えないのでさっきの現象は何だったのか謎は深まるばかりだ。
(…それにさっきのケモ耳の生徒、どっかで……いや気のせいかな。うん)
もう当然のようにケモ耳族が周りにいる生活に慣れてしまったので、今更どこで見かけたケモ耳さんかは思い出せない…今朝の妙な夢といい、何だかいつもの日常が変化してゆくの感じる。
***
今日は久方ぶりに学園長にお呼ばれしていた。
個人的用事ではないようなので、何の話なのかとソワソワしながらいつものメンバーで学園長室へと向かいそのドアをノックして入室した。
「みな揃っていますね。では、早速本題に入りますが……先日のハーツラビュル寮の一件が一段落ついたので君たちにもきちんと話をしておこうと思いまして」
(あー、あの騒動の話か…本当痛い思いして大変な事件だった…)
「魔法士になるからには、ローズハートくんが陥った暴走状態については詳しく知っておく必要があります」
「オーバーブロット、でしたっけ」
リドル先輩がバチギレした時のあの変化のことだろう、そう言えばケイト先輩がそんなことを言っていたなとデュースの発言で当時のやり取りを思い出した。
「オレも兄貴から話を聞いたことくらいはあったけど…ブロットが溜まりすぎるとまさかあんな風になるなんてなぁー」
神妙に頷く学園長にエースも何だか訳知り顔で話に加わっていく。
しかし異世界から来た私が何の話か理解できないのは当然として、この世界の住人であるグリムも?を浮かべているのはどう言うことなの。モンスターだから知らんの?それにしては魔法士になりたいと大口叩いてるわりに知らんことが多すぎるだろ。
「そうでした。幸緒くんとグリムくんにはそこから説明が必要でしたね…では教えてさしあげましょう。私優しいので」
「ア、ハイ…ァザッス…」
何とも恩着せがましい学園長によるブロット講座が開催されるのを不服ながらも一先ず素直に受け入れ、ブロットとは何ぞやと話す学園長の声に耳を傾けた。
そもそもこの世界の魔法は、よくあるRPGのようにMPを削って魔法を発動させる仕組みとは少し仕様が異なるらしい。
魔力は当然あって使用する度に消耗するのは私の知ってる魔法のルールと一緒だがそこに魔法を出力した分だけ排出される廃棄物があり、それこそがブロットなるものらしい。学園長いわく、自動車が燃料を燃やして吐き出した排気ガスのようなものだそうだ。
「へー…じゃあ、車みたいに魔法使うとブロットって言う排ガスが出る訳ですね」
「その通りです。有志以来、現在に至るまでブロットについてはさまざまな研究が進められていますが、その存在はいまだ謎が多い。1つだけハッキリわかっているのは非常に毒素が強く、溜めすぎると魔法士の心身を害するということだけ」
なるほど、それで魔法を使いまくっていたリドル先輩はブロットを溜め込みすぎた挙句に大爆発してあんなことになったのかと腑に落ちた。変なモヤみたいに漏れ出ていた黒い霧はリドル先輩産のブロットだった訳だ。
しかし魔法を使うと魔力は消費される上にブロットなんて言う老廃物が溜まっていくなんて汚…いや何とも身体に悪くてロマンのカケラもない現象だろう…魔法を使う度に代償が付きまとうなんて現実突きつけないで欲しかった。まぁ、無能力者の私には関係ないけど!
「大きな力にはリスクが伴う。どんなに優れた魔法士も、無尽蔵に魔法を使えるわけではないんです」
「つまり魔法を使えば使うほど不健康になるってことなんだゾ!?」
「いいえ、そうとも限りません。ふぅむ。こればかりは説明するより見せたほうが話が早そうですね。ゴーストのみなさん、お仕事ですよ!」
勝手に話を進める学園長がパンパンッ!と手を叩くと、スゥーと壁をすり抜けてふよふよともはや見慣れすぎたゴーストさん達が集まって来た。
「やぁやぁ。お呼びかね、学園長」
「え?な、なになに?」
「ひとつ、この若人たちに胸を貸して鍛えてやってください」
「えぇ?」
「よしきた。いっちょ揉んでやりますかな」
「何もよしきてないが?勝手に話進めないでもらえません??」
「さあ、君たちマジカルペンを構えなさい。学園長の特別授業はまだまだ続きますよ」
なんか学園長はかっこいい風に言ってるけど、目と目が合ったら即バトルのポケモンかってくらい強制的に年寄り臭いゴーストとの戦闘が始まってしまった。
ブロットの危険性についての話を聞いた直後に実践で魔法を使わされるの普通に嫌すぎない??
グリム達の士気も低空飛行していてあまりに覇気がない。しょうがないからブロット関係ない私がとりあえずゴースト達の動きを察知して有利な属性の攻撃を出すように適切な指示出しを行うことによって最低限の魔法使用回数に収めて、襲いかかって来たゴースト達を退けた。しかしながらそれでも結構魔法を使わせてしまった…ブロットの話を聞いてからでは大丈夫かなと心配しながら皆の様子を見ていたけど、何ともなさそうでケロッとしている。
「…??んだよ、普通に元気そうじゃん…心配しすぎたわ」
「何で不満げなの?そのまま労わってといてよ」
「オイ学園長!ブロットの話と、ゴーストとの戦いなんの関係もなくねぇか!?」
「グリムくん、首輪についた魔法石を見てごらんなさい」
学園長に言われて私もグリムの首輪の宝石をまじまじと覗き込んだ。透き通った薄紫色の綺麗な輝きがいつの間にか曇って何だか薄汚れてちょっと黒ずんでる。驚いたグリムが慌てて肉球でキュッキュッと拭いてもとれないので、どうやら魔法石の外側からついた汚れではないようだ。
「魔法石についているインクを垂らしたような黒いシミ。それこそが魔法を使ったことにより生じたブロットです」
「へぇ〜これが…」
「あっ、よく見ると俺のマジカルペンにもうっすらシミが……!」
「うえぇ、なんか汚ねぇんだゾ!」
「うっっわ…えっこれ取り返しつかない系統のやつだったり…?」
「いいえ」
「戻るんか〜い」
何かと脅してくるからよっぽどデメリットがデカいのかと思えばそんなことなかった。
しっかり休めば時間経過と共にブロットも消えるそうだ…その辺はRPGの宿屋とかで休めば体力とMPが回復するシステムと一緒なのかよ。
しかしこのグリムの首輪の魔法石やマジカルペンの魔法石はこのブロットが直接術者の身体に蓄積されないように肩代わりしてくれる超重要なアイテムだったとは…グリーフシードみたいだ。
「皆いちいちペン振ってるのダセェなと思ってたけど…魔法を唱える補助と生徒の命も守ってる優秀なお道具だったんだねぇ。感心した」
「幸緒…今まで僕たちのことをダサいと思っていたのか…」
「あっ…いや違くてぇ、こう言うのって杖が定番って先入観があってぇ…あ〜〜〜、酷いこと言ってごめんね…?」
悪気なく日頃気になっていたことをつい口の端からポロリと零したせいで、隣にいたデュースを傷付けてしまった私は学園長やグリムとエースが話を続けている最中に、必死に弁明したり励ましたりとデュースのご機嫌を取っていてほとんど話を聞き流した。
とりあえず人間十人十色で魔法の才覚もブロットの影響が出やすい出にくいとかも精神的に安定しているかにもよるらしく、結局のところストレスを溜めすぎたリドル先輩のようにオーバーブロットしてしまうパターンは非常に稀で大体の生徒はこの魔法石がブロットを肩代わりしてくれるから許容量を超えない限りはセーフと言うことだろう。
「長々と話しましたが、魔法の使用には常に危険が伴う、ということです。みなさんゆめゆめお忘れなきように」
「「「はーい」」」
魔法の危険性についての特別授業をやりきった学園長は満足気に私達をさっさと教室に戻るようにと話を切り上げようとしたので、学園長のその腕をガッと掴み囁いた。
「ちょっと待ってくださいよ…ねぇ学園長?私に報告することありますよね…ずっっっと待ってるんですけど?もう結構時間経ってるんですが一切進捗がないのはどう言うことなんです?」
逃すまいとぎゅ〜っと腕を両手で締め上げながら恨めし気に学園長を見上げれば仮面の中で光る目がサッと逸らされた。
「あ、あぁ〜〜〜。幸緒くんが元の世界に帰る方法ね」
「ちょっと!今思い出したみたいな反応何すか??えっ探してないんですか?骨折も治るくらい時間経ったのに??」
「いやいや!もちろん探していますとも。忘れてなんかいませんよ、いやですねぇ。最近ちょっと忙しくて」
「目が泳いでるんだゾ」
「う、嘘じゃありませんよ。今私は10月に行われる寮対抗マジカルシフト大会の準備で大忙しなんです。この後も寮長を集めた会議がありますし……」
「マジカルシフト大会〜〜?知るか!んな大会!!こっちは拉致されたも同然な状況なんですから早く家に帰してくださいよぉ!!」
知らない異世界用語が出て来たが私にはどうでもいい、もしこの異世界と私の世界の時間の流れが同じならばもう1ヶ月近くも行方不明になってるのは普通に心配かけるし、バイトも無断欠勤だし、今頃高校では初の学園祭の準備とかしてる時期だったのに…本来過ごせるはずだった女子高生としての青春の時間がじわじわ削られていく焦燥感により、溢れ出た怒りに任せて学園長の肩をガクガクと強く揺さぶってしまう。
「えっ、幸緒ってマジフト知らねーの?」
「は?」
唐突にマジで知らんのって感じの声色を出して驚くエースの反応に肩を掴む手から力が緩み、少し毟られた学園長の衣服の羽がはらはらと舞い落ちた。
「世界的に有名なスポーツだぞ。プロリーグもあるし、世界大会もある」
振り返るとエースどころかデュースも常識だとでも言いたげな顔をするもんだから、子供でも知ってる常識を知らないなんて如何に自分が無知であるかと突きつけられたようで愕然とした。
「何…だと…知らない私の方が異常なの?おのれ異世界」
「オレ様も知らねぇんだゾ!」
グリムがそう言って震える私を慰めるように足をポンポン叩くけど、暗に教養のないモンスターと同レベルであると言うのも人間としてのプライドを傷つけてくる。
「マジカルシフト……通称マジフトは7人ずつのチームに分かれて戦うスポーツ。ざっくり説明すると、1つのディスクを奪い合って相手の陣地にあるゴールに入れれば得点になる。んで、点を多くとった方が勝ち」
「ほーん…名称的にはアメフトっぽいのね(点の取り合い合戦的にはサッカー…人数的にはラグビーみたいだ)」
「アメフト?それは幸緒の地元のスポーツか?」
「いやー、地元のスポーツってほど馴染みあるわけじゃないけど…テレビでたまに話題になるくらいには有名かなぁ」
「ふむ。聞いたことがない名前ですが今度図書室で調べてみましょう。なにか手がかりになるかもしれないですし……」
アメフトが私の帰宅の手がかりになるとは到底思わないが、学園長が多少なりとも探す意思を見せたのでとりあえず安堵した。
「んー、でも幸緒がマジフトの試合に出るのはちょっと厳しいかもな」
「なんでなんだゾ?」
「は??別に出る気もないけど…勝手に出禁にされるのも癪に障るな…」
「マジカルシフトは魔法を使ったスポーツなんだ。ディスクを運ぶのも魔法なら、守備も攻撃もすべて魔法で行う」
「どんだけ魔法を派手に魅せられるかってのも選手の見せ所だったりするんだよね♪」
「ふうーん…」
この世界ではよほど馴染みのあるスポーツなのか、デュースもエースも楽しそうにそう語る。
対して私は魔法世界のスポーツと言えばやはり『ハリーポッター』のクィディッチのイメージが強くて選手はホウキに乗って飛びながらボールを相手のゴールに入れたり、相手選手に打つけるラフプレーが横行し、スニッチとかいう黄金の羽虫を捕まえた方が高得点を取るような手に汗握るゲームを期待していたから、思いの外魔法を使用する以外はわりと地べたを這いずりながら行う泥臭いスポーツなんだ…ってちょっとテンション下がった。…そもそも私がプレイヤーになることは一生なさそうだし。
「そう!だからこそ、このナイトレイブンカレッジはマジカルシフト強豪校として世界に名を馳せているのです!」
「ウワッ…突然大きい声出さないでくださいよ」
背を向けていた学園長が突然意気揚々と大きな声でどれだけナイトレイブンカレッジのOBがマジフト選手として世界で活躍しているか、ナイトレイブンカレッジにとってマジフトの大会を行うことはテレビ中継とかされるレベルでいかに世界的に注目度のある行事であるかを熱く語り出してとてもうるさい。知らん世界のスポーツを熱く語られても、元の世界でもニュースで見るくらいしかスポーツに関心がない私には夏の甲子園的なイベントなのかな、くらいしか想像できない。
しかも学園長がテレビとか言うから…目立ちたがりのグリムが食いついてマジフト大会に出たいとか喚き始めるし、さらに焚き付けるように大会で活躍した選手は一躍時の人になる可能性を示唆して来るからますますグリムの興味が増していく。絶対私が面倒臭いからやめてほしいと思っていたら、学園長から寮対抗の大会のために2人しかいないオンボロ寮には出場資格なし!と烙印を押された。ま、魔法使えるのもグリムだけだから6人も足りないしな…よかった。
しかしどうしてもテレビに出てチヤホヤされたかったグリムは往生際が悪く、床上でじたばたとみっともなく駄々をこねる。
そんな相方を見ていると、私は朝のあの決意はマジでシャボン玉のように軽く弾けやすい意志からなる言葉だったのかとグリムに対する失望が加速していく。
さりげなく学園長からはマジフト大会にはお偉い来賓も沢山来るし出店も出るし、とにかく観戦に来るお客さんが沢山いるから裏方手伝ってほしいな?という空気も醸し出されるがあえて気付かないフリを決め込んだ。学園長は学園長で約束事をほったらかすくせに、無償で人を使おうとする気があるからな〜嫌な大人だよ。
「そんなわけで私はこれで!ああ忙しい、忙しい」
なんて忙しいアピールをしながら学園長はわざとらしく懐中時計を確認するなり、私達を置いて慌ただしく部屋を出て行った。
「さんざん期待させといてひでぇんだゾ〜〜〜………ふなぁ〜……」
「それはそう。…私も自分で帰る方法を探った方が早い気がしてきた」
生活が安定してきたことにすっかり安心しきっていたけど、実は何一つ解決してないんだよな〜…マジで。
異世界に来た理由もその時の状況も記憶にないはずなのに不思議なことに学園長に最初に言われた黒い馬車が迎えに来た、なんてあるはずのない変な記憶もあって謎だけが増えていく。
また変な夢も見るし、何で私はツイステッドワンダーランドに来たんだろう…異世界に迷い込むのに理由なんてないのかもしれないけど、使命でも下されたならさっさと果たして家に帰りたいと思う今日この頃だった。