閑話(単話)
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式典…祝賀・記念などを一定の形式に従って行う行事。また儀式のことを言う。
一体何をするのか、内容は全くわからないがナイトレイブンカレッジではよく行われるらしく制服とは別に専用の式典服まである。
私の通う高校では休み前の終業式なんかに校長先生が長話するあれや、たまに朝に全校生徒が集められるやつも当たるのかな?入学式も卒業式も基本的に制服で済ませてしまうので式典専用の衣服があるのが衝撃的だ。
日本育ちで日本事情しか知らないけど、もしかしたら海外では一般的なのだろうか?
式典服に着替えて姿見を見るが、こんな黒くて丈の長いフード付きの服装の奴らが何人も集まる様はどう見ても怪しい教団の儀式の現場でしかない。
この世界に迷い込んで最初に見たのがそれだったから、本当に変な教団にでも連れ去られたんじゃないかと戦慄してたのが懐かしい。
「ファンタジーって感じでかっこいいけどねー」
学生服はアニメにありがちなちょっと浮世離れした制服って感じで元の世界ともさほど大差なかったけど、黒い布地に金の刺繍があしらわれているローブ付きの丈も長い式典服は魔法のある異世界であることを感じられてとってもいい感じだ。袖を通せば、礼服を着てるように何だか身が引き締まる思いがしてちょっとドキドキする。
「ポニテはフードをすると形崩れるから嫌なんだよなぁ」
制服の時とは勝手が違うため、式典服を着る時はどんな髪型にしようかなと鏡を見ながら迷っていると当然のようにドアをすり抜けて部屋に侵入してくるゴースト達が周りを漂いながら話しかけてきた。
「ヒッヒッヒッ〜!幸緒〜、いつもの奴らが来てるぜ〜」
「いつものって…あー、エースとデュース?…そう言えばあいつらいつも来てるな。知らせてくれてさんーきゅ」
式典は夜のイベントとのことでそんな行事は初めてだとソワソワしていたら、エースに一緒に行ってやるよと言われたから迎えに来てくれたのだろう。その時はエースだけだったが、この流れならば多分デュースもいるな。
「勝手に入って来て、談話室で待ってるってよ〜」
「当然のように不法侵入…我が家のセキュリティどうなってんの」
「鍵壊れてるからねぇ〜、入り放題さ。ヒッヒッヒッ!」
「安全面〜〜」
田舎の鍵をかけない家かってくらいガバガバセキュリティに不安を覚えたのも束の間、盗むような高価な物などないし、外観からして廃墟にしか見えないからまず人が立ち寄らないんだった。
ならいいかと髪型をどうしようか再び悩んでいると鏡に映るゴースト達がブラシや櫛を手にワクワクした目で私を見ていた。
「今日はフードするかもだから、いつもと違う髪型にしたいんだ…いいのある?」
「ヒッヒッヒッ!任せといてよ〜!」
「幸緒は髪が長いからいじり甲斐があって腕がなるわい!」
「ナウくてヤングな可愛い髪型にしてやるぞ〜!」
「やった〜サンキュー!」
暇な時はグリムを含めて遊んだり、掃除を一緒にやったりと割とオンボロ寮では嫌でも関わる機会が多いのでおよそ3週間も一緒に生活すればこんな風にお喋りしながら髪を任せるくらいにはゴースト達とも仲良くなった。
しかもこのゴースト達やたら手際がいいので自分でやるよりも髪が絡まず、ストレスがないと来た。
生前からなのか、ゴースト生活が長く暇すぎて技術がついたのか、それともゴーストになって髪もないから私の髪を大事にしてくれるのか…彼らに対しての謎は深まるばかりだが、この世界に来てからろくなケアも出来てない髪の毛を絡ませることなく解いてくれるので本当に助かっている。
丁寧にブラッシングされる様子をイスに座って鏡で見ていると、自分はさながら使用人を侍るいいとこのお嬢さんにでもなったように錯覚するのでとても気分が良い。
誘拐・追い剥ぎ・いわれなき無能判定からの蔑みなどなど…地獄のような異世界召喚に極貧生活を強いられて当初はもう最悪でしかなかったけど、最近は先生方の助けもあって三食ご飯を食べられるようになったし、相変わらずナイトレイブンカレッジ生にはよくバカにされ喧嘩も吹っ掛けられるけどハーツラビュルの先輩達や友人のおかげで事なきを得ている。
ゴースト達ともこうして穏やかに過ごせる時間が心地良くてふふっと笑みを零し、何気ない小さな幸せを噛み締めた。
「えっへへへ〜」
「おやぁ?随分嬉しそうじゃのぉ〜」
「良いことでもあったのか〜い?」
「まぁ〜ね?こうしてのんびり出来るし、最近暮らしが快適になって来たからねー!」
「(相変わらず環境は変わってないんだよなぁ〜)そうかいそうかい…」
「(シャワーもキッチンもお湯も出ないし、火もつかないんだよなぁ〜)うんうん、よかったね〜…」
「(この前は腐りかけの床板を踏み抜き落ち掛けてあんなに泣き喚いてたのになぁ〜)…健気じゃのぅ〜」
「でしょ〜〜」
周りの生徒達と比べればとても学生が送り込まれる生活環境でないことは明白なのだが、最初が劣悪すぎたために今の状況ですら満足出来る私にゴースト達が哀れみの目を向けていたことに私は微塵も気づかなかった。
「よ〜し!完成だよぉ〜」
「お〜〜…これは…っ!」
そんなこんなで完成した髪型は緩く編み込んだふんわりとした三つ編み。
ゴースト達にとってはこれがナウくてヤングなのは歴史を感じるが、古臭さを感じさせないアレンジとして赤いリボンを編み込んでくれたり、所々に花を散らしたりと言葉通り可愛らしく仕上がっていた。
「マジで可愛いぞっ!!」
「気合い入っちゃったからね〜!」
「腕によりをかけてしまったのぅ〜!」
「ヒッヒッヒッ〜、普遍的な可愛さに流行も逃さない…ゴーストだって時代に適応しているのさ〜」
「ゴーストってすげーっ!!」
この学園では女子であることを隠さなければいけないと学園長との約束が頭を過るが、今日の私は女子力上がりすぎて首から上はどう見ても乙女であることに大変自信がついて他人に見せびらかしたい衝動を抑えられない。
「おっしゃー!早速エースとデュースに見せてくるわ!ありがとー!」
女子バレを防ぐ理性など働く隙も無いくらいにウキウキで私はゴースト達に満面の笑みで感謝を伝え、階段を駆け降りた。
リビングから聞こえる気だるげな会話に少し身なりを整えて扉の前から声を掛けてみた。
「エース君っ、デュース君っ、お迎えサンキューですっ!」
「おう、やっと準備できた?」
会話をやめた2人がこちらに注目しているタイミングを見計らい、私はバァンッと扉を開いてクルッと横に一回転して三つ編みを見せ付けるポージングを取りながら部屋に入った。
「じゃーーーんっ!見て見てこれっ!ゴースト達が結ってくれたんだよ!」
「「………」」
今日の私が思いの外可愛いせいか、ただ単に私の勢い気圧されて驚いてるだけなのか、2人はとてもビックリしたような顔をして固まっている。
「ねぇ、なんか言うことあるでしょっほらほら!」
そんな2人の前で改めてドヤ顔で可愛い三つ編みアレンジされた髪を見せつけていると、しばらくは無言のまま顔を見合わせた2人がすくっと立ち上がり左右から私をマジマジと観察し出した。
「ほぅ…」
「ふぅん…」
「えっ…何か思ってたんとちゃう…」
ただ『可愛い』という言葉を引き出したかっただけなのに、無表情で品定めされるとは思わず戸惑っていると急にエースが髪に触れてきた。
「幸緒さぁ…」
「えっ…」
えっ、何コレ少女漫画のようにドキッとする展開か!?とドキドキしていたのも束の間、エースはおもむろに可愛らしく髪に散らされていた花をブチブチ毟りやがった。
「花畑にでも寝っ転がって来たのかよってぐらいめっちゃ花ついてんだけど(笑)」
と、依然花飾りを毟りながら、笑い混じりに言い放つノンデリっぷりには言葉も出ないほどに驚愕した。
「おいおい、髪にリボン巻き込んでるぞ。おっちょこちょいだな、幸緒は」
「!?!?!?」
さらに反対からデュースもガッと髪を掴み、せっかく編み込んであったリボンを引き抜きやがった。
ゴースト達があんなに可愛くしてくれたのに、この2人のあまりにデリカシーの無い行動に髪はグチャッとした飾り気のない三つ編みオンリーにされてテーブルにポイポイ放られた花飾りとリボンを見て、私は顔を手で覆い膝から崩れ落ちてさめざめと泣いた。
嘘やん…こんな酷い仕打ちある?男子校とは言えせっかくのアレンジをものの一瞬で台無しにされるいわれある??
しかもこの2人、私がオシャレをしたと思っていない…あのアレンジを台無しにしたことを間違ったことを何ひとつしていないと思ってる顔をしている…特にデュースの曇りなき眼よ…何なのマジで。
「ヒドイっ!何でこんなことすんのっ…くうっ!!」
「おいおい〜、何泣いてんだよ〜。だってこれから式典だぜ?浮かれちゃダメっしょ〜」
「そうだぞ。初めての式典で浮かれる気持ちもわかるが…優等生としては幸緒には正しい道を歩んでほしいから!」
「でも!どうせフードで隠れるんだから、わざわざ毟らなくてもいいじゃんか!?」
「「………(ニコッ)」」
「な、何だコイツら〜〜っ!?!?」
それっぽいことを言っていたが、わざわざあんな過激な行動をする必要はなかったと突き詰めると、何も言わずにただ笑みを浮かべて誤魔化す2人に私は底知れない恐怖を感じた…わからない…一体何を考えているの…ナイトレイブンカレッジ生怖すぎっ!
「まぁまぁまぁ…落ち着けって。そんなことよりさー」
「そんなこと!?」
「お前メイクしてないじゃん?ダメだろ」
あっさり流されたことに怒りを感じていたが、エースの思わぬ発言に呆気に取られてしまった。
「……メイク?そんなモンしてないが?」
私にメイク道具を揃える金があるはずもないし、常識的に考えてメイクって学校だと禁止されているからしない方が自然だと認識していた。
ハーツラビュルがそう言う特殊な寮だから2人は何か変な化粧をしてるなと思っていたが、今日の2人はよく見てみると、何だかいつもと違う…エースのハートの化粧が赤でなく黒だったり、全体的に黒基調でシックな感じだ。
「まっ、そんなことだろうと思って…じゃ〜ん!持って来ました〜ケイト先輩から借りたメイクセット!俺って超優秀〜♪」
「自分のじゃねーのかよ」
ボックスタイプのでけーメイクポーチ(めちゃくちゃデコってある)をドンと置いたかと思えば、まずはスキンケアからと洗顔とタオルを渡されて流されるままあれよあれよと顔を洗って化粧水で肌を整えさせられた。顔にかからない様に前髪をピンで留めて、ファンデーションをのせたりで下地の準備が完了したところでソファーに座らせられて、鏡と黒いアイライナーを渡された。
「えっ…これどうすんの?」
「化粧すんに決まってんでしょ。ちゃんと整えないとリドル寮長に怒られるぜ」
「何でや。私、関係ない寮やん…」
「所属寮関係なく、式典には相応しい装いがある。ルールを守らなければ寮長に首をはねられかねないな」
「…マジ?馬鹿みたいに化粧してんのハーツラビュルだけじゃないの?」
「お前のハーツラビュルの印象さぁ…」
何かトランプのスート的な化粧してんのはハーツラビュル独自の文化とばかり思っていたが、この学園全体が…男子校のくせに化粧推奨とか…は?女子力高めか??
いや、葬式でも死化粧とかやるし…そう言った儀式的な関係に対しての化粧なのかもしれないと私は自分を納得させることにした。
「決まりならやるか…やる…か……」
「… 幸緒?」
「………」
鏡を見ながらアイライナーのペン先を瞼の縁に当てるのだが…コレがなかなか想像通りに線を引けない。まず目に入らないように瞼の縁にペン先を置くのが難しい…鏡を見ながらやると思うように手が動かせない上にプルプル震えてしまうのだ。
メイク…けして興味が無かったわけではない…昔お母さんのメイク道具をいじって怒られた経験もある。しかし学校では基本的にはメイク禁止の上にバイト先でも化粧は推奨されてない。従兄弟は引きこもりのお兄さんで当然化粧とは無縁であった。
たまに普段オシャレな友人とあの化粧品がどうとかの会話をする程度でメイクを実践する機会がほとんどないために、目に入りそうな瞼の縁の上にペンを滑らすなんてとんでもないと言う想いの方が強くて日和ってしまう。
「どうしたんだ、幸緒…さっきから微動だにしないぞ?」
「が…眼球に刺しそうで…動け…ないっ!」
「もしかして… 幸緒、メイクしたことないわけ?」
「ないわけでもないけど…どちらかと言うと経験ない方」
「結局ねーのかよ」
「お前の気持ち、僕にはよくわかるぞ。僕も化粧なんてナイトレイブンカレッジに入る前は全くしたことなかった…難しいよな」
震えすぎて疲れてしまったためにスッとアイライナーを持つ手を下げてしょぼくれてると、大いに共感して腕を組みながら頷いていたデュースが私の前に来るとヒョイとアイライナーを取った。
「化粧は今後、少しずつ慣れていけばいい。今日は式典まで時間もないし、僕が代わりにやろう!」
「えっ…そりゃ、助かるけど…いーんすか?」
「気にするな、優等生として当然の行動だ!…それに練習にもなる(ボソッ)」
「デュースに任せるって正気かよ?絶対不器用だってコイツ」
「自分でやったら怪我しそうだもん。それに鏡見ない分やりやすいでしょ!ねっ?」
「ああ!任せろ!」
私よりも格段にメイク慣れしてるだろうし、人にやる方が手も思うように動くやろと安易に考えた私は呆れるエースの横槍よりも、自信に満ち溢れてるデュースに全幅の信頼を寄せていた。
「そんじゃぁ、よろしく頼むわ!」
私の前で屈むデュースに恐らく作業がやりやすくなるだろうと目を瞑り、じっと動かないように静止する。暗闇で自分の表情はわからないが、恐らく変な顔をしていないはずだが…先ほどまでやる気に満ち溢れていたデュースの反応がない。
「………」
アイライナーを引かれる以前に何もされないので変だと思い、薄く片目を開けて様子を見るとデュースの何故だか呆然とした何とも言えない表情が視界いっぱいに飛び込んできた。…近ぇなっ!!
この距離の近さはさすがに照れるし、凝視されると余計に恥ずかしい…と思わず表情に出てしまう。
「あの…デュース…?」
「…はっ!あ、ああ!悪いっ!なんか…つい…すまない…」
アイライナーを持ったまま固まってるデュースにこの空気に耐えきれずに声をかけるとハッとしたように稼働し始めたデュースがとても動揺しながらよくわからないジェスチャーを挟みながら謝ってくる。
「いや、いいよ。なんか逆にごめんって言うか…」
「いや…僕の方こそ…すまない」
「いやいや、私の方こそ面倒くさいことお願いしてごめんね…?」
「……(何だコイツら…何かムカつくな)」
ちょっと赤くなるデュースに私も照れ臭くなって何となく謝ってしまい、お互いに照れ照れする謎の空気感が出来上がり、真横で私達を見下ろすエースの絶望的に冷たい視線に全然気づかなかった。
「よし、取り乱して悪かったな。もう大丈夫だ。気を取り直して…やるぞ!」
「うん、よろしく!」
改めてメイクを再開してもらい、再び目を閉じると先ほどとは違って瞼の上にアイライナーのペン先をソッと置かれる感触がした。強くしないようにと慎重にしてくれたのだろう…不器用なのか、慎重すぎて震えるペン先がゆっくりと動くのと連動して集中してるんだろうか、だんだんと近付くデュースの息遣いが大分間近で感じられて、私は暗闇の中で得体の知れない謎の恥ずかしさに耐えていた。
「…こうして…後は……あっ!!」
「っ!?!?何っ!?事件起きた!?」
「ああっ!今動いたらダメだ!」
「えっごめん…」
間近で突然大きな声を出すデュースにビクッと身体を震わせる私にさらに大きい声を出したデュースにピタッと目を瞑ったまま身体を静止させた。
「だ、大丈夫だ!修正可能な範囲だから…ここを…こう……?は、反対側を同じようにすれば………??」
「えっ…大丈夫?どうした?」
「プッ…あははっ!やっぱ下手くそじゃん!貸せよ。俺がちゃちゃっと直してやるからさ♪」
目を瞑ってるせいで全く状況はわからないが、どうやらデュースはやらかしたようでエースに選手交代したようだ。
私の前で移動したような物音がして、ガッと大きな手で顎から頬をつままれた。
「ワッ!?何っ!?」
「ほら、動かない動かない。ジッとして」
固定するためだとは理解できるが、またも間近で囁かれる声と息遣いとその突然の強引さに心臓がとてもビックリしてる。
しかしデュースとは違ってサラサラと瞼の上を走るペンには迷いがなく、そっち方面には安心した。
「まあ、こんなもんだけど……こっちをもうちょっと(チョイチョイ)………これは…」
デュースのやらかしをカバーするためにバランスを考えてるのだろう…ちょいちょい左右の瞼を走るアイライナーの感触をただ真っ暗な視界の中で感じ取っているとだんだんとエースの口数が少なくなってくる。えっ、さっきのデュースと同じ現象起こってる?
「……」
「…エース?」
「んっ?ああ、はははっ!…何でもねーよ。もうちょいやるから目、開けんなよ」
デュースの二の舞にはならなそうな陽気な声で安心したが、何だかやけに楽しそうな声だ。
大人しく目を瞑ったままでいると別の化粧品を物色してるような物音がしてポンポンとブラシの柔らかい感触が瞼付近に当てられている。チーク?アイシャドウかな?
「おい…エース、お前…」
「まぁまぁまぁ見とけって」
「えっちょっ何っ…」
「大丈夫大丈夫!任せとけって!」
あまりにご機嫌そうなエースの言葉に一抹の不安を覚えるが、再びガッと頬を固定されてポンポンと瞼にブラシや何か色んな化粧品を使われ、頬や口の端にも何かの化粧品を塗られる…口の端なんて何だかベタっとして嫌な予感しかしない。
されるがままに化粧をされること数分…静寂の中にくすくすと…堪えるような笑い声が聞こえてくる。
頬を固定する指先の震えからエースから漏れ聞こえてると確信したが、どうやらデュースも笑ってるようだと気がついた瞬間、
「子分ー!帰ったんだゾーっ!オレ様のイカした式典服姿を崇め奉るんだゾ!」
バーンっと玄関のドアが開かれる大きな音がして、ダダダダっとリビングまで駆けてくる足音に上機嫌なグリムが部屋に入って来たのを音だけでも感じ取っていた。
今日ちょうど特注の式典服の用意が完了したと学園長から呼び出されたグリムはさっきまでそれを取りに行っていたのだが、このはしゃぎようだと無事に式典服を身にまとい帰宅したようだった。
「グリム…」
「ふなっ!?!?」
いまだに頬を固定されてるために律儀に目を開けずにグリムに声を掛けたのだが、帰ってきたのは驚愕の声だった。
「なっなななっ…何をやってるんだゾーー!幸緒を放すんだゾーーっ!!」
「うわっばかっ!これは違っ…いってぇ!!」
「待てグリムっ!話を…オワッ!」
「うるせー!見損なったんだゾー!!」
「えっグリム…どうした!?」
大声で叫びながらドタバタと激しい物音がして頬を放された私はただ事じゃないと薄目を開けると、目の前には涙目のグリムがエースとデュースにボカボカと殴りかかっていた。
何でそんな事態にと混乱しているとグリムと一緒にオンボロ寮へ様子を見にきていたらしいメイクボックスの持ち主であるケイト先輩が後から部屋に入ってきて、いまだに薄目を開けていた私を見るなりギョッとした表情で慌てて駆け寄ってきた。
「!?」
「ちょっ… 幸緒ちゃん大丈夫!?そのアザ、誰に殴られ……えー…っと…メイク…?」
ガッと両肩を掴まれて驚いたものの、急な事態とあまりの剣幕に声を出せず、とりあえずコクコクと頷いて見せる。
訝しげに表情を歪めていたケイト先輩はチラリとテーブルの上のメイクボックス、いまだにグリムに襲われる二人と私の顔を見て事態を察したらしくはぁ〜とため息を吐いていた。
「幸緒ちゃん…はい、鏡」
一体何が起こっているか、何も察せない私はずっと困惑してるばかりだったのだが…スッとケイト先輩が差し出した鏡を見て合点が行った。
そこに映る私の顔は両瞼がアイライナーとアイシャドウによって黒々と、ついでに少し紫がかった色も乗せられて、ケバすぎメイクを通り越してもはや目元に2発殴られた末にアザになった人のようになっていた。
そして頬は赤く…口元の端は切れて流血したのように見える妙にリアリティのあるメイクが施してあった。完全にボコられた人の顔面だった。
これを見たからグリムは私が暴行を受けたと勘違いして2人に襲いかかった訳だ。
「……はははっ!なるほどねー」
「幸緒ちゃん…?」
全てを察して片手で目元を覆い笑い出す私のそばからケイト先輩の心配したような困惑気味の声がする。
なるほどなるほど…通りで途中から二人の笑い声がすると思った。
エースのメイクの工程が何か変だと思っていたが、ちょっと派手目のメイクにしてるんだとばかり思ってた。
目を瞑ってる間、妙な距離感の近さとかに一人勝手にドギマギしてる私をコイツらは面白メイクを施して笑っていたのかと思うと、一人で浮かれて馬鹿みたいだった恥ずかしさと好き勝手弄んでくれた二人の態度に沸々と激しい怒りが湧いてきた。
「うぅうぅう〜〜っ……ふっっざけんなーっ!!」
「幸緒ちゃん!?」
抑え切れない怒りの感情のままにテーブルに散乱した花飾りやリボンを2人に投げつけ、鎮まらない怒りに地団駄を踏みながら泣いた。
「うわぁああんっ!!馬鹿馬鹿馬鹿ーーっ!!」
お馬鹿な男子高校生だからと言って、髪のアレンジ台無しするノンデリ行動に加えて人の顔でお遊びをして、繊細な乙女のハートを深く傷つけられた私はメソメソと泣きながら怒りのままに二人をオンボロ寮から追放した。
その後はグリムやケイト先輩に慰められた。
グリムはテディベアのように大人しく私に抱きしめられ、ぐちゃぐちゃになっていた三つ編みは再びゴースト達が整えてくれた。そしてケイト先輩には改めてちゃんとしたメイクを施してもらって、無事に式典には問題なく参加することができた。
式典中は怒りが収まらなくて全然集中出来なかったが、ケイト先輩がチクったのだろうハート形の首輪を付けてしょぼくれるエースとデュースを横目に見て何とか溜飲を下げていた。
式典が終わった後、その時は絶対許さん!と絶交する気満々でさっさと帰ろうとしたところをトレイ先輩に呼び止められ、背後から引き連れられたエースとデュースに謝られたが気は収まらず…しかし畳み掛けるようにリドル先輩とケイト先輩にも囲まれて仲介されるから、先輩の圧力に屈した私は渋々2人を許してあげることにした。
しかしまだまだ恨めしく思う気持ちは消えないわけで、ひとまずは先輩達の前で握手をしてそのまま硬い表情で記念写真を撮ることで仲直りした初めての式典式の何とも言えない思い出となった。