閑話(単話)
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先日、窓を破壊されてしまったことによりオンボロ寮はやたらと風通しが良くなっていたが、そこはリドル先輩が責任持ってエース達に修繕させたことで何とかなった。
また当初の完治日よりも何日も経過した後にようやくギプスが外れて左手首も何とか完治したので、私はついに完全復活を果たしたのである!
……しかし、その日の私はどちゃくそに体調が悪かった。
「はぁ…はぁ…ひぃっ…ひいっ…うっっっぷっ!」
朝イチからバルガス先生の体力強化の授業では相変わらず男子と同じ練習量を課され、結局皆について行けずに何周遅れかで授業終わりに地面に突っ伏して胃の中のものを全て戻してしまうのはほぼ毎回のことだったが、今日は一味違った。
走りすぎたせいか動悸が止まらず冷や汗がすごいし、目眩もして立ってるだけでフラフラする。いつもよりも様子のおかしい私にグリム達が大丈夫かと訊ねてくるので、私はつい問題大アリなのに「大丈夫だ。問題ない」と戻したての顔で返してしまった…と言うのもこの学園に来てから情けない姿ばかり見せてヨシヨシしてもらうことが多い気がするので、そろそろ威厳を保たねばと自制心が働いてるのである。
…所謂やせ我慢だ。
それにこの2人と1匹から目を離すと翌日とんでもない事態を引き起こす可能性が高くて心配だ…まぁ、私がいたところで防げるとは限らないけど。
そのため移動中にエース達が次回からはようやく飛行術を学べるとのことで、ついに魔法使いらしい授業ができるぞと喜んでいるが、私はそれどころではなかった。
力が出なさすぎてまだ2限目だと言うのにすでに満身創痍であった。
幸い次の授業は魔法史なために座学で比較的に体力を失わずに済んだ。しかし授業中、黒板に書かれた白いチョークの文字が何重にもブレて全くノートに書き写せない…それどころかノートに書いた字もミミズのように這っていて読めない。
「…?……??…あれぇ…?」
頭がクラクラしてこれはいよいよまずいと思いつつも私は生憎我慢強い人間(当社比)これしきで授業を休んではいけないとの強迫観念もあったんだろう…たまにトレイン先生の鋭い眼光に晒されたが、キリッとクールな顔をして何とか2限目を乗り切った。内容は覚えていない。
やっと迎えた3限目は我らが担任のクルーウェル先生が受け持つ錬金術だ。白衣に着替えてゴーグルを身につけて、学園から離れた魔法薬学室の振り分けられた座席に座っていると、先生が今日の授業内容の書かれた黒板に鞭をペチペチ叩きつけながら説明する。
どうやら今日はいよいよ実践授業らしく、先生の指示した通りの材料をきちんと選定して来てゴポゴポと沸騰する大きな錬金釜にぶち込み、提示された薬品を作るようにとのことだった。
グループを組んでの作業となるので私とグリム、当然のようにエースとデュースのセットで課題に挑むことに。ぼんやりしてる私に気を遣ってくれたのか、はたまた気まぐれかエースとデュースは温室に指定された薬草の採取に行き、私とグリムは薬学室の壁一面に広がる棚の中から必要な材料を回収することに…まぁ、皆同じものを作るもんだから一箇所に人だかりができるのでわかりやすくて助かる。
「オラオラー!邪魔なんだゾ!道を開けろーっ!」
こんなガラス容器ばかりのどんな薬品が置いてあるかもわからない環境で今日もこの獣は我先にとオレ様を優遇しろ!と言った傲慢さを発揮して、クラスメイトの頭をピョンピョン踏み付け割り込んで材料を掠め取ろうとする。
「おいバカやめろっ…先の展開が想像出来すぎるぞ!!」
クルーウェル先生が少し離れた所とは言え、同じ空間にいるのに愚かなことをする精神が理解出来ない。これまで何回もシメられているのにあまりにも鳥頭が過ぎる。
そして一般的ナイトレイブンカレッジ生はプライド高く、沸点が低いためにこんなことをされれば秒でキレて暴言が飛び出し、グリムを捕まえようとわちゃわちゃと揉め始めた。
ここまで想像通りの展開で次には棚のガラス容器が落ちて割れて最終的にクルーウェル先生大激怒の未来が見えてる私はフラフラする身体に鞭打ってグリムを止めるために、人垣を掻き分けようとするのだが…
「ふざけんなよ!この野郎っ!」
ドスッ!
「ぐえっ!!」
「抜かしてんじゃねーぞ!クソ狸っ!」
バシッ!
「うぐっ!!」
人並みに揉まれてる合間に何処からか飛んで来る肘鉄を腹に受け、さらに進めば裏拳を顔面に受けながら棚に張り付き指定された材料の入った大きな瓶を見せびらかして、クラスメイトを煽るグリムの元までようやくやって来た時にはもうHPが減りすぎて瀕死状態だった。
「にゃはははっ!」
「ぐ、グリム…頼む…大人しくし」
高みからクラスメイトを見下ろしてご機嫌なグリムを諭そうと声をかけようとした時、不意にドンっと背後から押されて踏ん張れなかった私は棚に撥ねつけられて、ガンっと思い切り額を打ちつけた。
「ふなッッ!?!?」
その弾みで揺れた棚の振動でグリムは足を踏み外して落ちて来たのだが、棚に両手をついていた私の間に滑り込み、抱えたままの瓶をダンクシュートするように私の頭にゴンっと打ち込む形で落下して来た。
「アッ…モ…ムリダワ…」
度重なるダメージについに視界が白んで、膝から崩れ落ちた私にそこから先の記憶はない。
…
……
…………
仄かに香る薬品の匂いに目を開けば正面に白い天井、左隣を見るといくつかのベッドが並んでて、ローラーの付いた棒に引っ掛けられている透明の液体の入ったパックから私の左腕にその点滴のチューブが刺さっている。最近はよく入り浸りになっていた保健室に私はまたお世話になっているようだ。
ズキズキと頭に走る痛みでそう言えばグリムにトドメを刺されたことを思い出した。
直前に4コンボ入れられたから痛みはあるが一体何故点滴をされてるのかと不思議に思っていると、
「ようやく気が付いたか」
「うわっ!?クルーウェル先生っ!?」
誰もいないと思っていたら突然右隣から声をかけられてビックリしすぎて飛び上がりそうになった。
そこにはちょっと不機嫌そうなクルーウェル先生が腕も足も組んで、実に偉そうにイスに座っていた。
即座にグリムを制御できなかったことを怒られると思い込んだ私は咄嗟に身体を起こしてベッドに土下座の体勢で誠意を見せていた。
「ご迷惑をお掛けして、大っ変っ申し訳ありませんでした!」
深々と額をベッドに埋めて謝罪する私に先生から見下ろされてるような威圧的な視線を感じる。
しばらくの静けさの後、クルーウェル先生の冷たい声音が沈黙を裂いた。
「幸緒…お前、今回は何が問題だったと考えて謝っている?」
「えっと…グリムを制御出来ずに授業が妨害されたこと…その上授業中にぶっ倒れて迷惑かけたことですかね…すみませんでした…」
「不正解だ、この駄犬めっ!俺がもっとも怒っているのはお前の自己管理がなっていない件についてだ!」
「えっ…自己管理っすか?」
確かに今日は1限終わった後から体調がヤバかったし、自分の体調がよくないことを知りつつ授業に出ていたが、そのことを一番叱られるとは思わなかった。
「お前…ここ最近の食生活はどうしていた?」
「食事は基本的に食堂で食べてましたよ…あ、最近片手使えなかったからグリムとかエースとかにいっつもおかずを掠め取られてたんすよ!酷くないですか!?」
思い返せばデュースに協力してもらいながらバイキング形式で皿に盛った料理を私の腕が不自由なのをいいことに脇からさらって食べてしまうのだ。しかもおかずやデザートばかりでサラダなどの野菜系は残すのでここ最近の私は草ばっかり食べていた。
「あのバッドボーイ共め…では朝食と夕食はどうしている?」
「オンボロ寮のキッチンはまだ…ちょっと掃除したものの、そもそも使う機会ないと言うか…料理道具とか食材とかないし、買うお金も無いしで基本的に食べてないっすね。あっ、たまにグリムが食べられる雑草を取ってきて分けてくれます」
「……休日は?」
「学校の食堂がやってない日は…前はリドル先輩達がご飯差し入れてくれましたね。それ以外は…まぁ、お金ないし…」
「………なるほど。それで栄養が足りず、過度な運動によって倒れた訳か…学園長の養育不足の結果だな」
「…えっ…そうなの…?」
グリムにトドメを刺されたのが原因とばかり思っていたが、どうもその前から栄養失調待ったなしの状態で骨折した腕の治りが遅かったのもこれが原因だったらしい…思えばバルガス先生の授業の度に吐いてたし、体に良く無い出来事ばかり心当たりがあるために今現在点滴打たれてる理由もよくわかる。自分では気づかなかったけど、体重も減っていたようだが…不調時の苦しさを思うとダイエット成功だとはとても喜べない。
「入学当初よりも痩せてきたとは思っていたが、まさかこんな事態になるとは…管理下に置きながら、倒れるまで仔犬の異変に気づけなかった俺にもトレーナーとして責任がある」
悩ましげに額を押さえていたクルーウェル先生は苦虫を噛みつぶしたような苦々しい表情でそう呟いている。てっきり怒られるとばかり思ってたのに担任として、めっちゃ責任を感じさせてしまったようで落ち着かなくなる。
せっかくの実践授業も私が倒れてめちゃくちゃになっていそうだし、壁掛け時計を見れば今現在は4限目の時間帯だから授業予定がないとしてもわざわざ付き添ってくれたかと思うと嬉しい反面、本当に申し訳ない。
しばらく考え込んだ様子だった先生は顔を上げて、色んな感情がない混ぜになってしょぼくれる私の鼻先に突然ビシッと鞭を押し当ててきた。
「ふがーっ!?」
「よし、方針を決めたぞ。お前には俺の授業の手伝いをさせる」
「えっ?手伝いを?」
「今の駄犬共に材料を集めさせてはまた問題を起こすのは目に見えている…そこでお前には助手として実験で使う道具や材料を揃えてもらう。その働きに応じて対価を支払うとしよう」
「それって…アルバイトってことすか!?」
「あくまでも手伝いに対しての礼…つまりお小遣いだ!」
「お小遣いを私に!?先生から!?」
とても嬉しい申し出だが、担任のクルーウェル先生にそこまでさせるのどうなんだろうか。先生としての範囲を超えていて、申し訳ない。
「おっと、勘違いするなよ。本来保護者から貰うものを代わりに渡すだけのことだ。お小遣いの出所は当然保護者である学園長の財布だ!」
「それなら先生に迷惑かからない!やりまぁす!!」
先生が経費から落として最終的に学園長の財布から出てゆくお金なら心を傷める必要ないし、むしろお小遣いを貰って生活が安定すれば先生にも迷惑を掛けないで済む。そして私が手伝うことで先生の助けになるならまさにWin-Winの関係性と言える!
両手を上げて喜ぶ私を見てフッといつもの不敵な笑みを見せたクルーウェル先生はイスから立ち上がると、白黒模様の可愛らしい横長の紐付きポーチのような財布を首に掛けてくれた。
「そこに当面の生活費を入れてある。それはお前達の生命線だ、決して無駄遣いをしないように」
「…!!はいっ!ありがとうございます、クルーウェル先生!」
「返事はワンだ!」
「ワンっ!」
「よろしい。では今日はここでしっかり休んで行け。この後の授業を受け持つ教師にも伝えてあるから気にするな。明日から励めよ」
満足そうに笑ったクルーウェル先生はベッドに正座していた私を枕の方へ倒して寝かせると掛け布団を掛けて仕切りの目隠しカーテンをシャッと閉めた。
「…先生、ありがとー。おやすみなさい」
ツカツカと離れて行く足音にぼそりと小さな声で再度感謝を伝えて、少し重みのある財布を抱き込んで瞼を閉じた。
クルーウェル先生って何だか厳しくて生徒を犬としてし見るような女王様気質なのかと偏見を持っていたけど、正しく責任感を持った立派な教育者で信頼出来る教師だと気づけた気がする。自分のような明らかな異分子にも分け隔てなく親身になって、健康的に教育を受けられるようにサポートしてくれてたんだから私も魔法が使えないからとくさくさせず、勉強も出来るだけ頑張ってみようと思えた出来事だった。
ポタ…ポタ…とゆっくり落ちる点滴の滴の音も、鼻をくすぐる薬品の匂いも今は何だか心地よくて気づけば私は眠りに落ちていた。
次に目を覚ました時、点滴と十分に睡眠を取ったおかげか身体はスッキリと良く休んでコンディションが格段に良くなったのを体感した。
身体を起こし、伸びをしているとふと横のサイドテーブルに包装されたサンドイッチやクロワッサンなどいくつかのパンが置かれていたことに気づいた。
ノートの切れ端を破いたような小さいなメモ紙が添えられており、手に取ってよく見てみるとそれが手紙であることに気がついた。
『ユキオへ
これを読んでいる頃には元気になっているだろうか?
お前が倒れた時は焦ったが、先生から事情は聞いた。そこまで大変な生活を送っていたとは、全然気づけなくて悪かった。でも友達なんだから正直に伝えてほしくもあったぞ。
昼休みにクルーウェル先生にバッドボーイだと怒られるエースとグリムはかなり見ものだったぞ!
グリムのことは優等生として僕がしっかり見ておくから、ユキオはちゃんと休息をとってメシをしっかり食べて元気になってくれ! デュース』
と言った内容が綴られていたが、日本語しかわからない私にも不思議と読めてしまった。一体どういう原理なんだろうね。
大きめに書かれた力強い文体は何だかデュースらしいなと笑みを零しながら、私はベッドからイスに移動してサンドイッチを手に取って包装を破いた。
「いただきまーす」
これから先はひもじい生活を送らなくていいと約束してくれた先生と、なんだかんだと心配してくれる友人の存在にありがたみを感じながら、静かな保健室で誰にも邪魔をされることのない長閑な食事を久々に一人で楽しんだのだった。