真紅の暴君
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圧倒的実力者との決闘、しかも純粋な魔法での勝負。
最初から才能に溢れた2年生と先日入学したばかりのぺーぺーの1年生ではもう結果が大分見えている…しかし諦めるにはまだ早いのだ。
午後の授業が終わった後、作戦を立てるために私はグリム含むエース達と一旦分かれて情報収集に繰り出していた。
エース達にはとにかく時間がないのでグリムを相手に決闘の模擬試合をして、本番中まともに動けるよう訓練をしてもらうことにした。
首輪を付けたままであるから、ろくな練習は出来ないだろうけども、グリムに何かしら物を投げつけてもらってそれを避ける訓練でもしてろと送り出した。イメージではよく跳ねるボール系が理想だ。被弾率を少しでも下げられるだけでも勝ち筋に繋げられる…かも知れない。
魔法も使えない私はそっちの面ではまるで役に立たないので、様々な教科の先生達に聞き込み活動を行ったのである。聞き込み相手が先生なのは私に他に知り合いも友達もいないのと、生徒に教える立場の教師ならばより有益な情報が得られると思ったからである。
占星術や音楽…他決闘に向かない系統の授業はやはりいきなり実践に活用出来そうな魔法はないし、先生にも呆れられるか鼻で笑われてしまった。
魔法解析学や実践魔法はかなり高度な技術を要求されそうな内容だし、薬学と錬金術は決闘のルール的に作ったものは持ち込めないだろうからなぁ…。
バルガス先生はとにかく筋肉!体を鍛えろ!と言うものの筋肉は1日では育たないし、そもそも暴力は縛られているので論外である。
召喚術や防衛魔法は使えたら強いだろうがすぐに習得できるレベルの魔法ではないし…一応2人は防衛魔法の授業を受けた感じでは魔法障壁を張れるのだけども、私が殴って壊せるほど脆いためにリドル寮長の魔法を防げるレベルではないのは明らかだ。
一応魔法史のトレイン先生にも何かこう…歴史的に有効な魔法の戦術はないかと教えを乞いに行ったのだが、あるにはあるが決闘向きでないし、準備が必要だったり魔法の熟練度も必要とされていてとても実践で使えそうにない。
なんやかんやあって決闘を挑む流れとなった事情を話せばアホやん…と言わんばかりにトレイン先生にも、抱えられているルチウスも私を見る目は呆れていて冷たくて、やっぱ抗うだけ無駄なのかと少し心が折れそうになってしょぼくれてしまう。
そんな私を哀れに思ったのか先生はとりあえずハーツラビュルに関する歴史書を机に突っ伏す私の眼前に置くと、ルチウスを抱えたまま教室を去っていった。
「ハーツラビュルの歴史かぁ…」
歴史を知ったところで、寮長の攻略に役立つのだろうか…でも他にどうしていいかもわからない。
ペラペラとページをめくり、静かに歴史書に目を通した。
ハートの女王が治める国は個性的な住人ばかりが住む無秩序な国だったらしい。
謎かけやいたずらしたり、人の言うことは聞かないと好き勝手暮らす住人をまとめ上げるために女王は多くの法律を定め、裁判長としても国の荒くれ者達をしばいて統治したそうだ。
判例を見てると大体首をはねているし、配下のトランプ兵でさえもルールを破れば首をはねるけれど反乱とか起こらないのだから確かな人望があったのだろうか?調べれば調べるほど織田信長に対しての明智光秀ように謀反されないのが不思議だ。
明らかに人間じゃない被告人達と仲間の首でさえ女王の命令とあらば躊躇なくはねるトランプ兵に、唯一理解出来そうな献身的な王様は女王を支えていたとか、異世界でもさらに御伽噺のようにふんわりとした内容に既視感を覚えつつも何も頭に入ってこない。決闘に役立つとも思えない。
それよりも色とりどりのフラミンゴとか、箒の顔の犬だとか眼鏡の鳥とか面白要素でもう集中出来なくて私は静かに本を閉じた。
「やべーーー…何もわからん」
せいぜいハートの女王にリドル寮長がそっくりだってことしかわからん。でもそれは寄せてるのだから当たり前か…。
頭を抱えゴンっとまた机に突っ伏していると、誰もいない静かな教室にコツコツと足音が近付いてくる。
大きくなった足音に私はトレイン先生が戻って来たのかと思い、そのまま顔を上げずに突っ伏してると教室へ入って来た足音がちょうど私の突っ伏す机の前で止まった。
何か様子が違うようなとそっと顔を上げようとした瞬間ダンッと目の前に教科書の束を机に置かれて私は思わず飛び起きた。
「おわあっ!?何事!??」
バクバク騒いでる心臓を抑えながら教科書の束に腕を置いてもたれかかり、こちらを見下ろす人物を見て、思っていた人物とは違う姿に私は混乱するばかりだ。
「…えっえっクルーウェル先生?!何でここにゅぁっ!?」
「シット・ダウン!耳障りだ、キャンキャン騒ぐんじゃない」
圧倒的に上からのドSっぷりをいつでも惜しみなく振り撒く担任の登場にキョドる私に先生はグリっと頬に教鞭の先を押し付けてくるので黙らざるおえなかった。
「俺の受け持つ仔犬どもが明日決闘をするのだと先ほどトレイン先生に聞いてな」
「アッハイ…ソーナンスワ」
「まったくしつけのなってない駄犬め。トレイン先生ではなく、まずは主人である俺に理由を話し教えを乞うのが先だろうが」
「えっ…でも先生の授業はあんま決闘要素ないし…怒られたらやだし、コワイシ………あいたたたたっ!!」
グリグリグリっと頬を抉る教鞭に思わず悲鳴をあげる私に先生はやはり怒ったように見下ろしてくる。こうなると思ったから相談するのが怖かったんですけど…。
「後先も考えない上に判断力も足りない駄犬が!やはりお前達にはしつけが必要なようだな」
「すみませんすみません!じゃあクルーウェル先生!格上のしかもユニーク魔法持ちの寮長クラスの実力者に決闘で勝つにはどうしたらいいですか!?」
「バッドボーイどもには無理だ!思い上がるな駄犬!」
「全否定!!!何すか!結局教えてくれないんじゃないですか!」
「当たり前だろう。すでに2年もの月日を経て学園で経験を積んだ生徒と昨日今日学園に入ったばかりの仔犬など比べるまでもない。お前はようやく歩けるようになった子犬が大きく育った成犬に勝てるとでも?」
「そりゃ……まぁ無茶なのはわかりきってるんですけど…でも放置するわけにもいかないんです。今すぐにでもあの寮や寮長さんをどうにかしなきゃいけないって、あのままだとよくないことが起こると思うんです」
予知夢のように最近見る変な夢にハーツラビュルの淀んだ空気、怯え疲れた寮生の顔、リドル寮長の様子も今にも何か糸が切れてしまいそうで…何であれ放っておくのは私の従兄弟のお兄さん以上に酷い未来が訪れるのではないかと嫌な予感がするのだ。
しかしこの感覚をどう先生に伝えようか、上手く説明出来なくてとにかく何が何でもやらなければいけないのだ!いつまでもエース達が寮に帰れないのも不憫だし、最早オンボロ寮で過ごしてる期間が長くなってるのではと思うほどで哀れだ。
「それに何もしないままビビって逃げ出す方がダサいです!負ける可能性が高くても、結局やってみなきゃ結果は出ませんからね。可能性が限りなく低くても勝つ可能性に賭けたいんです」
今もオンボロ寮で頑張ってるだろう2人と1匹のために、私に出来ることは一つもないかもしれないが少しでもその勝利に近付けるように何かを得たいと思って行動しているのだ。
「ふん、生意気な仔犬どもめ。威勢だけはいいようだ」
私の必死の訴えが届いたのか、頬から教鞭が離れて行き先生はフッと笑うと先ほど肘を掛けていた3色の教科書の束をずいっと私に手渡してきた。
「今のままでは可能性は0のままだが、足掻く気があるなら、その教科書をよく読み解き少しでも確率を上げてみろ」
「!!クルーウェル先生っ!…あ、ありがとうございますっ!」
「このクルーウェル様の仔犬として無様な姿を晒すことは許さん。結果を出すように」
「ハイっ!」
「返事はワンだ!」
「ワンっ!!」
颯爽と教室を出てゆくクルーウェル先生に私はその後ろ姿が見えなくなるまで頭を下げて感謝を述べた。
何とも高圧的な態度だったけども先生は最初からアドバイスをくれるつもりだったんだろう、わざわざ用意してくれた教科書を胸に抱き私は夕焼け色に染まる空の下を精一杯急いで走って皆が待つオンボロ寮へ向かった。
***
息を切らしながらオンボロ寮の玄関前に戻った私は違和感を覚えた。訓練って普通野外でやらんか?と。
今頃2人と1匹で必死こいて修行に励んでいることだろうと思っていたのだけど、オンボロ寮の外は静かで人の気配はなく閑散としていた。代わりにオンボロ寮の窓から光が漏れている。
室内で訓練してるのか?とドアを開きリビングに向かうと、ワイワイとどデカい男子高校生の声が漏れ聞こえてきた。
「あーー首輪のせいでやる気でねーわ。てか決闘前に魔法の訓練出来ねーって詰んでね?」
廊下を歩く度にギシッと軋む音をエースのやたらデカい声がかき消す。
「喧嘩ならなぁ…だが幸緒も頑張って走り回ってることだろうし、いつまでも休んでる暇はないぞ」
「でももうオレ様石投げるの疲れちまったんだゾ。当たったらオマエらキレ散らかして殴りかかってくるから訓練どころじゃないんだゾ」
「いやだってマジで痛くてちょっとタンマって言ってもやめねーじゃんお前。もう反撃するしかなくね」
「す、すまん…ついイラついて手が出ちまった」
リビングに繋がる扉は開け放たれて、ゴースト達が集まって中の様子を伺っていた。私はゴースト達に声を掛けるでもなく、すっかり整った呼吸を潜めて同じように静かにお喋りに花を咲かせる様子を眺めた。
「そもそも幸緒の指示雑がなんだゾ!魔法使えない代替案で結局全員怪我してちゃ世話ねーんだゾ」
「それなー!こんなの続けたら明日にはアザだらけで決闘どころじゃねーって」
「確かに…このまま決闘前に余計不利な要素が増えるだけになるな。よし、幸緒が帰って来たらもっといい方法がないか相談しよう」
「てかさー…アイツ帰って来んの遅くね?情報収集つってどっか行っちゃったけど、何してるかわかんないし全然帰ってこないじゃん」
「もしかしてオレ様達には訓練するように言って自分だけサボって美味いモンでも食ってるんじゃ…ズルいんだゾ!!」
「2人ともいい加減なことを言うのはよくないぞ。幸緒はそんな嘘をついて裏切るような奴じゃないだろ」
「わっかんねーぞ〜?アイツ大人しそうな顔してすげー暴言吐いてくるし、案外涼しい顔してサボってたりして」
ニマニマと悪戯っぽく笑うエースにグリムもうんうんと頷き、唯一の良心であるデュースも発言の一部には同意したかのようにむっ…と口を噤んでしまった。
「ハーツラビュルではオレ様の冷静さに対して幸緒は落ち着き無く暴れまくってたし、結構短気な奴なんだゾ」
「リドル寮長に対してもめちゃくちゃ馬鹿馬鹿煽ってたよな〜!」
「お前も同調してただろ」
「まっ、そーなんだけど。カッとなったら誰彼構わず噛み付くあの怒りっぽさはヤバいって」
「おい、エースいい加減に…」
「だって事実じゃん?アレじゃ、この先ーーー……」
扉から室内に侵入した私にはお喋りに夢中でまるで気がつかない連中の背後に迫るのは容易く、調子に乗って来たであろうエースが喋りながらソファーの背もたれにぐわっと寄り掛かかった時、ちょうど背後から見下ろす形となった私とバッチリ目が合った。
その瞬間言葉に詰まったエースに続いて隣に座っていたグリムとデュースも私の存在に気づき、ギョッとどよめき言い訳を始めようとしている雰囲気を察した。
「いやこれは違っーーおわっ!」バシッ!
「わ、わわ悪口言ってた訳じゃーーフナァッ!?」バシッ!!
「ちょっまっ続き!続き聞いーーギャーッ!!!」メシャァッ!!!
気が付けば私は怒りに任せてクルーウェル先生から貰った青と緑の教科書をデュースとグリムに投げつけ、最後に赤い教科書の束を思いっきりエースの顔面に叩きつけた。
「イッテェーーーッ!!!」
悲鳴を上げながらソファから転げ落ちて、のた打ち回るエースと慌てふためくグリムとデュースに対して、煮えたぎる怒りの感情のまま震える腕を振り上げて頭上で固く拳を握った。
「こんのっバッーー」
罵倒の言葉を投げ掛けようとした瞬間、動揺しながらこちらを見やるデュース達の瞳に映る自分の姿に気が付いた。目を見開き、眉を吊り上げて真っ赤な怒りに歪んだ顔はつい最近見た誰かの表情にそっくりだったことに。
偉そうに止めようとしてる相手と同じような行動をしていることに気がついた後は己の幼稚さを自覚して恥ずかしさで顔が熱を帯びていく。
湧き上がる羞恥心といまだに燻る怒りに訳もわからず溢れそうになる涙を堪えて歯を食いしばり、振り上げたままの拳を下ろして震えていた。
「幸緒…?大丈夫か?」
「……わ、私は、うっ…んぁあ!もうっ!もうっ!!馬鹿ーーーっ!!」
色んな感情がないまぜになった状態ではろくな語彙も出てこず、居心地の悪さについには癇癪を起こして最後に暴言を吐き捨てばっと身を翻してリビングを飛び出した。
ドア前で心配そうにこちらを見守っていたゴーストの透明な身体を蹴散らし突き抜けながら、私は駆け出した勢いのまま玄関を飛び出してオンボロ寮から遠ざかった。
………
……………
………………
とぼとぼと学園に戻って来てしまった私は頭を抱えながら学園の門を潜っていた。
1人で聞き込みに奔走した結果を陰であんな風に言われていたことには今も腹が立つけどもエース達の言う通り私は怒りに任せて直ぐに口か手が出る。事実、それが見事に証明されてしまってショックだった。
「人のこと言えないな…」
別に無茶なルールを強いた訳じゃないし、理不尽な思いをさせられてるのは自分だし、正当な理由からくる怒りだと…自分では思う。だからと言って不意打ちで暴力に訴える理由にもならない。
だがしかし本当にムカついたのだ。
鼻で笑われたり、軽くあしらわれたりしても何人も何人も先生を訪ねて聞き込みしたりした時間は何だったのかと虚しくなったし、協力してくれたクルーウェル先生にも申し訳ないし、トレイ先輩にもクルーウェル先生にもドヤ顔で『仲間信じてますんで』みたいな発言をした自分があまりにも滑稽だったと思い知らされる。それがたまらなく恥ずかしいのだ。
「………」
しかしよくよく考えてみたらまだ出会って1週間も経ってないのにこんな信頼を寄せる方が重くて、まだ打ち解けきれてないのは当然のようにも思う。
たかだか一度だけ共に死戦をくぐりぬけたからといって、親愛度MAXな私がおかしいのではないかと冷静になればなるほど自分のあまりのチョロさに嫌気がさした。
よくよく思い返してみれば元の世界でいた友達にだってこんなに重たい感情を振り翳したりしたことない…もちろん友情のために行動することはあれど、ちょっと期待を裏切られたからと言って殴りつけたりはしない。まだ異世界生活の最序盤だと言うのにこんなにも感情が揺さぶられるなんて、あまりに不安定すぎる。
「出会ったばかりなのに距離感間違えたかな」
先ほどの一件で友達の基準値が彼らと私で大分ズレが生じていることに初めて気づいた。
そんなの人によって違うし、そもそも住んでいた世界も違うのだからそれぞれ差があって当然なんだけど、それがすごく寂しく思ってしまった。
「メンヘラだったのかな…私」
誰に訊かせるでもない独り言をぶつぶつ零していると不意に涙が溢れそうになって困る。
グリムにもしっかり指示しなかったのは失敗だった。そのせいで皆傷だらけだった…それなのに追い討ちをかけるなんて酷な事をした。
「ボール…体育館にならあるかな。バルガス先生にお願いしたら使わせてくれないかな…」
左手に建つ立派な体育館を見上げながら、そんことを思いながらフラッと立ち寄ろうとした時に突然聞き覚えのある声に呼び止められた。
「あっ!!テメー昨日の新入生!」
「昨日はよくもコケにしやがったな!てか財布返せ!ドロボー!」
「…温玉先輩」
このところよく会うなと思いながらゆっくり振り向いた先には温玉先輩の2人とその他のハーツラビュル生徒が複数人。
私を指さしてプンスカ怒る温玉先輩達は財布を返せとズンズンこちらに詰めて来た。
そう言えば今朝もそれどころじゃ無くて返せなかったなと上着のポケットから返し忘れていた財布を差し出した。
「やっぱり犯人お前らかよ!信じられねーほど手ぐせの悪い新入生だぜ!」
バシッと財布を引ったくった先輩達はまじまじと中身を確認しながら横目で私を睨みつけて悪態ついた。
「昨日の夕方からねーからおかしいと思ったぜ!このドロボー!」
「すみませんね。先輩達がダメにした卵代だけ、いただいただけですから…はぁ、あんな頑張って作ったのになぁ」
「あ?何だよ?今朝のマロンタルトのことか」
「エースにデュースだったか?新入生のくせにリドル寮長に意見してんじゃねーよ。1年は隅で大人しくしてればいいものを」
「まったく余計なことしやがって。おかげでリドル寮長の機嫌が悪くてこっちはいい迷惑だぜ」
「ホントホント。あの騒ぎの後、まーた首はねられた奴出たし、マジでどうてくれんの」
「……は?リドル寮長さんが機嫌悪いとか知りませんけど」
ただでさえナイーブな気分になってた所に今1番話題に出して欲しくない内容を出された挙句、ビビり散らかしていただけの連中に迷惑がる態度をされてあの時の怒りがふつふつと湧き上がって無性にイラついた。
「はぁ!?お前らが何もしなければ寮長は荒れる事なく『何でもない日』のパーティーはいつもみたいに無事に終わるはずだったんだよ!」
「関係ない奴がパーティーまで入り込んで荒らしやがって!ふざけんな!」
ブーブーと大人数のハーツラビュル生徒にそう責められて先ほどまであまり怒らないようにしないとな…と言った考えは一瞬で遥か彼方へと吹き飛ばされた。
次の瞬間には私は大声で叫んでいた。
「うるせーーーーっ!!!こっちはアンタらの先輩信用して助言聞いてたのに、こんな首輪つけられる羽目になってホント意味わかんない!ついでにアンタらのやり残した仕事までさせられて、最後にはクソ暴君とヘコヘコしたなっさけない寮生の辛気臭い顔見せられてホント気分悪い!」
「なっなにを〜〜っ!?」
「コイツ!寮長にあれだけ怒られて全く反省してねぇぞ!」
「あの件で私に反省する部分なんてない!!大体食べ物を粗末にする人がリーダーとか笑っちゃいますね。仮に食糧難とかに陥っても律儀にルールに従って食べれなきゃ飢え死にしちゃうんですか〜?馬鹿なんですか〜?あ、でも先輩方も卵を粗末にするような輩ですもんねぇ。さすがリドル寮長の全肯定奴隷達は教育が行き届いてますね〜〜っ!」
「こっコイツ〜〜!!」
「なんて生意気な新入生だ!言って良いことと悪いことがあるだろ!!」
「寮長のことボロクソに言いやがって、もう許せねえな!オイッ!」
私の煽りにキレ散らかした温玉先輩が私の胸ぐらを掴み上げ、背後で笑っていたハーツラビュル生徒も大変お怒りのようで詰め寄って来た。
「何です?暴力で黙らせようってことですか?禁止されてる私闘で、多勢に無勢な上に魔法も使えない私を殴るんですかぁ??」
「ぐぬぬっ…このっ!」
拳を振り上げた温玉先輩の腕を仲間が止めに入る。
「おい!今騒ぎ起こすとリドル寮長が…」
「出た寮長!私1人にはこんなに強気なのに、リドル寮長1人には皆さん揃いも揃って恐がってビビってましたもんねぇ!」
「この野郎!?減らず口を〜!!」
「ムカつくコイツ!!」
「事実でしょ。てか不満感じてんならビビってないで寮長に言えばいいじゃん!寮で抑圧されたストレスを私に向けるのはクソダセェし、強い奴にはヘコヘコしてゴマすってる奴らなんかよりも、たとえアウェイでも間違ってる事を指摘できるエースとデュースのが比べるまでもなく立派だし、カッコいいんだよ!馬鹿にしないでよ!!」
やっぱりこの世界に来てから感情の起伏が激しい気がするが、こんな連中ばかりのこの学園にも非がある。
始まりは自業自得でもそこからの友達の頑張りを知ってるからこそ、何も知らない連中にとやかく言われて黙ってられる訳がないんだ。たとえこっからぶん殴られてリンチされたとしても後悔はない。魔法も使えず、チート能力もない私に出来るのは心の底から友達を信じてやることだけだから。
「もう我慢ならねぇ!このクソガキッ!!」
「っ!!」
胸ぐらを掴んでいた手に力が籠り、少し体が浮きかけて息苦しくなったところに振り上げれた拳が顔面目掛けて振り下ろされて来た。
反射的に瞼を固く閉じて迫り来る衝撃に備えていたが、聞こえたのは突如背後から連続で響いたシャッター音だった。
それは拳を直前で止めた温玉先輩も気づいていたようでフワリと風圧だけが頬を撫でてゆく。
「はいはーい、注目注目!ハーツラビュル寮生、複数人でか弱〜い新入生1人をいじめる瞬間!!一部始終を激写しましたー!」
大きな声でそう言いながら、いまだにバシャバシャと写真を撮りまくる声の主へと振り向いた私も、胸ぐらを掴んだままの温玉先輩もポカンと呆気に取られる。
スマホのカメラをこちらに向けたながら近づく人影はキツネのような満面の笑みを浮かべるエースだった。
「あっ!お前今朝の新入生!!」
「今朝のパーティーではどーも。それよりソイツ、うちの監督生のこと解放してやってくんない?」
「はぁ?なんでお前に従わなきゃーー「解放してくんねーの?じゃ、さっき撮った先輩たちの情けないルール違反の写真とか動画とか、世界中に流しちゃおっかな〜♪そしたらリドル寮長に首をはねられるどころじゃないんじゃない?」なっ!お、お前っ!狡いぞ!」
ニヤニヤと私に殴り掛かる先輩や他ハーツラビュル生が映ったスマホ画面をヒラヒラと見せつけながら、エースはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「いやいや、無力な後輩に口喧嘩で負けたからって暴力振おうとした先輩たちに比べれば可愛いもんでしょ。で?どうすんの?皆仲良く首はねられとく?」
「ぐぬぬぬぬっ……!」
「おっおい!さすがにこれ以上はやべーって」
「………くそッ!!」
「わっ!」
胸ぐらを掴んでいた温玉先輩は怒りにブルブルと身を震わせていたが、やがてイラつきをぶつけるように私をドンっと突き飛ばすように手を離したために、爪先立ち状態だった私はその勢いにバランスを崩して背中から倒れ込みそうになった。
「あぶねっ!ちょっと丁重に扱ってくださいよ〜。アンタたちと違って、コイツ繊細なんですから」
ガシッと背後に立っていたエースになんとか受け止められたおかげで私は地面に尻餅と頭を打つことなく無傷で済んだ。しゃがんだ状態で力強く肩を支えてくれたエースは先輩達を見ながら依然笑みを崩さない。
「コイツには明日の決闘のために協力してもらうんで、怪我されたら困るんでねー」
「エース…」
「寮長に決闘を挑むつもりだと!?あーはははっ!こりゃ、傑作だぜ!」
「まったくだ!身の程知らずの大馬鹿だぜ!」
わははと馬鹿にしたように笑い出す先輩達に対してエースの表情は変わらず涼しげだったが、肩を支える手がわずかに震えてる。それが悔しさから来るものなのか、怒りから来るかは定かではない。
でも私自身の感情はしっかりと把握できる。
こんな奴らにエースを笑う資格なんてないってことを知らしめなきゃ収まりがつかない。
「お前ら笑うなっ!ぐちぐちと文句だけ垂れ流してるお前らと違って、エースは現状を変えようとしてるんだよ。お前らが向き合おうとしないリドル寮長にエースは向き合おうとしてんだよっ!何もする気ないやつは笑うなっ!」
この大事な場面に勢いよく突如出たヤンクミ構文に温玉先輩達だけでなく、エースまで呆気に取られて場がしんと静まり返ってしまい、大声を出した私はだんだん気恥ずかしくなって来た。
「……まっ、そーゆー事なんで。日和見主義の先輩たちは今朝みたく黙って見ててくださいよ」
「……ふんっ!どうせ、リドル寮長にボコボコにされて終わりだぜ。馬鹿らしい」
「ハンっ!明日の決闘楽しみにしておいてやるよ!バーカ!」
一時、変な空気になりかけたが、私達の勢いに気圧されたか、馬鹿らしくなったらしい温玉先輩達は悪態を吐きながらもゾロゾロと身を翻して去って行ったためにリンチされる未来は無くなったようで安堵した。
背中が見えなくなった頃に肩を支えていた手から力が抜けて、は〜〜っとエースは長いため息をついて地面にへたり込んだ。
「エース?」
「あのさ〜〜お前馬鹿なの?」
「はっ?」
唐突に目を細めてジト目で睨みつけてくるエースにほんわか漂っていた仲直りの雰囲気は消し飛んだ。
「何で一人で多人数の上級生に食ってかかるかなー?無謀なのわかんなかった?」
「…別に。無謀なのは承知の上だったし、殴られてもいいと思って言ってやっただけだし」
先ほどまで自己嫌悪していた殊勝な自分はどこへやら、少しイラっと来ただけであっという間に機嫌を損ねてツーンと冷たくあしらおうとする自分が出て来てしまう。
「何ソレ。その思考ムカつくからやめろよな」
「……エースに関係ないからいいじゃん。ほっといて」
言い方ッ!と思ってもまず助けてもらった現状、相手の態度にとやかく文句つける前に真っ先に感謝を伝えるべき場面なのに、どこまでも感情を優先させてムキになる自分が本当に情けない。
「はぁ〜〜?俺らよりも俺たちのこと信じちゃってる馬鹿なんて放って置けるかよ。今回は俺が間に合って機転を効かせたおかげで何とかなったからいいけどさ」
「………」
「マジで俺らが居ないとこで下手に喧嘩ふっかけんなよな。フォロー出来ねーじゃん?……それに心配するだろ。主にデュースが!」
「……」
「…オンボロ寮で俺が言いたかったのもこーゆーこと。信じてくれんのはいいけど、一人で突っ走るなよな。危なっかしいから」
不器用ながらにどうにか優しい言葉を選んでるように見えるエースは私を慰め諌めて、先ほどとは違って恥ずかしがりながらも精一杯に心の内を曝け出してくれた気がして、頑なに閉ざしていた心が紐解かれて行くように開かれるようだった。
「…ん。ごめん。教科書も叩き付けてごめんね…」
「あれなー!マジで痛かったわ。その後に超急いでここまで駆け付けたんだから、俺の優しさに感謝しろよー?」
「うん、助かった…ありがと、エース」
「ん、おう。素直でよろしい」
相変わらず調子のいいエースは直ぐ得意げに笑って偉そうであるが、隠しているものの少し息を切らして汗を滲ませた様子が伺えたから、相当急いで来てくれたであろうことは想像に難くなかった。
先ほどまでひどく思い悩んでいた事は杞憂であり、大切にしたい友達だと思っていたのはどうやら私だけではないらしいと実感して、安心したと同時にどうしようもなく嬉しく思う気持ちが溢れかえって堪えきれず、涙が零れ落ちた。
「えっ!何!?さっき怪我してた!?どっか痛むのか!?」
「いや、これは…」
「おーい!幸緒!エース!こっちにいたか…て、泣いてる!?どうした!?」
「エースに泣かされたのか!?コイツ!許せねーんだゾ!」
「いや、俺何もしてねーって!いって!やめろ馬鹿この!」
夕陽を背に息を切らして駆け付けて来たデュースは泣く私を見て激しく動揺したかと思えばよくわからない身振り手振りを繰り返しあたふたしてるし、グリムはノータイムでエースに飛びかかり煙を巻き上げる漫画的喧嘩が横で勃発するしで、目まぐるしい空気の変化に悶々と悩んでいたのが馬鹿らしくなって私はお腹を抱えて笑っていた。
涙からの爆笑にエース達は呆気に取られていたが、私は霧が晴れたようにとても晴れやかな気分でいた。
特にトラックに跳ねられたわけでもなく、いつの間にか異世界にいて、一人だけ異物としてこの世界に学園に紛れ込んだ事実はドワーフ廃鉱山で受け止めていたつもりだった。
でも本当はいつだってホームシックになるし、心を許せる友人には同じように自分のことを気遣っていて欲しい。勝手に期待して勝手に裏切られた気になっていたけど、そもそも自分と違う人間なのだから、そんなのは無理に決まってる。
ショックだったし、自惚れすぎて恥ずかしかったけども、今日のことで形は違えど、それぞれ確かに私のことを心配してくれるくらいには想ってくれてることを知れて本当に良かったと思えたんだ。
私はデュースとグリムにも教科書をぶん投げた事を謝り、向こうからも謝罪を受け取り仲直りの後に共に修行内容を考えた。
まだ体育館が開いてる内に実技修行で私とグリムが様々な角度からドッジボールのごとくボールを投げ付け、避ける訓練。
夜は身体を休めつつクルーウェル先生から受け取った教科書を読破し、イメトレをすることで明日の決闘に備える事にした。
「夜更かしは良くないから、後はしっかり睡眠とって明日頑張る!以上!」
「やれる事やったし、まあー…何とかなるっしょ!」
「うん、心なしか強くなった気がするぞ!」
「わっかんねーけどオレ様もパワーアップしたような気がするんだゾ!」
何となく達成感を分かち合い、私達はそれぞれ寝床に戻って眠ることにした。
足の間にハマり込み、すっかり眠りこけたグリムに寝返りを封じられた私は枕に頭を埋めて欠伸を溢しながらゆっくりと瞼を閉じた。
お父さん、お母さんーー
まだ異世界に来て間もない私ですが、ひょんなことから友達の付き添いでとんでもない謎ルールに縛られた寮の内情を知り、また改革のための決戦に挑む友人の手助けをするために奔走した一日となりました。
友達とは色々あって喧嘩…一方的にしちゃったけど、無事に仲直りして明日の決闘に備えて訓練をしました。ちょっとコーチっぽく指示出しなんかしちゃったりして、楽しかったです!
それと今日は幸晴君のことを思い出しました。
可愛い従姉妹が訪ねなくなって寂しいんじゃないかと少し心配です。
生存確認がてらに、たまに様子を見に行ってあげてください。
「…おやすみ」
今日もまた両親とリドル寮長の件で思い出した従兄弟の幸晴君のことを思い浮かべて、少しホームシックになりながらゆっくりと眠りに落ちた。