真紅の暴君
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また夢を見た。
夢だと気づいたのは前回見た映画館のスクリーンように固定された広い視界に前回見た夢と同じ登場人物と絵本のような鮮やかな景色が広がっていたから。
違うことと言えば状況がやたらと緊迫してるらしく、ほぼトランプの変態ばかりだが登場人物がやたら多い。特に赤と黒を基調としたドレスを着て小ぶりな王冠を頭に乗せた少し太ましい女性は今回初登場にも関わらず、めちゃくちゃお怒りの様子でなんと薔薇の木を片手で持ち上げ振り上げているゴリラっぷりには周りのトランプ達は怯えるばかりである。
どうも薔薇の花が赤く塗られた偽物だと気づいたのか、トランプの変態ばかりの中では異物感満載の唯一普通の感性で感情移入出来そうなブロンド髪の少女が理不尽な暴力に晒されそうな所に3人のトランプ兵が自分がやったと各々告白して少女を庇っていた。
しかし勇気を出したものの責められると怖気付いてしまったのか、仲間のトランプへとなすりつけ合いが始まっていたが女王らしいドレスの女性は無情にも3人全員アウトを言い渡すと、結局薔薇の色を間違えたトランプは仲間のトランプに脇を固められて何処かへ引きずられていってしまった。
正直この程度で罪人のように扱われるなんて馬鹿らしくて何ひとつ共感できない夢だ。
あの女王は偉い立場にあるのかもしれないが、あんなにいっぱいいるトランプ達は理不尽な目に遭わされて誰一人として女王が言っていることに疑問を抱かないのだろうか?
単なるパワハラでしかないと思うのに、どうして誰もおかしいとか、嫌だとか主張しないんだろう?立場が弱いから…?
何より誰も諭す者がいない環境は彼女をより我儘にして行くだろうし、心の底から彼女と真摯に向き合う者は誰もいないのは自分だったらとても寂しいことなんじゃないかと思えた。
それにしてもどっかで見た事ある気がするんだよなぁ…あまりはっきりしない頭で考え込んでる間に闇へと落ちていくように視界は暗闇に落ちた。次第に聞こえてきた謎の声がだんだんと大きくなり、次に重い瞼を開いた時、眩しい朝日の逆光でシルエットしか確認出来ない誰かが私を呼んでいた。
何度か瞬きを繰り返しようやくそのシルエットが見知った人物だということに気づく。
「幸緒、起きろ。今日は『なんでもない日』のパーティーだぞ。遅刻したら首をはねられる!」
「おぅ…デュース…おはよ…」
すでにばっちり支度が完了しているらしいデュースに揺すられてそう言えばそんな話になっていたなと寝ぼけた頭が少し覚めてきた。
あくびをしながら身体を起こすと、上に乗っていたグリムがずるんと床に落ちてぶな゛っと短い悲鳴を上げていた。なんか重いと思ったらこいつのせいだったんかい。
昨日は二人が寝れるくらいにはとリビングの掃除を一緒にしてそのまま馬鹿騒ぎの末に寝落ちしてしまったんだった。寝室のベッドの上じゃないソファーの上で変な寝方をしたせいか、昨日の筋肉痛を引きずってるせいか、はたまた悪夢を見たせいか、身体のあちこちがギシギシする。
改めて頭がはっきりしてきて状況を理解すると、早速夜更かしに制服のまま寝て起きたのは女子としてはあまりにだらしない行動でちょっと後悔した。友達とのお泊まりが楽しかったのは確かだけども、こんな行動してたら女の子であることを自分ですら見失いそうだよ…。
そうして自己嫌悪に陥ってる間に玄関先からノックの音がしたかと思えば、当然のように不法侵入して来てリビングに入って来たケイト先輩がワクワクしたように昨日の夜はお楽しみだったか訊ねてくる。
「ふぁ〜…ケイト先輩おはよーございまーす。しましたよ、トランプ。グリムが全然ルール知らないから、ババ抜きだけど」
「くそー!全然勝てなかったんだゾー!!」
「お前はジョーカーを引いたとき、顔に出すぎだ」
「弱すぎワロタ」
「ぐぬぬぬっ!次は絶対負けないんだゾ!!覚えてろよー!」
「うんうん、存分に頼んだようで何よりだね♪それじゃあ早速、昨日作ったタルトを持ってリドルくんに謝りにいこっか」
さも後輩の謝罪の場をしっかり儲けようとするいい先輩発言の後にボソリとケイト先輩は昨日のトラブルで今人手が足りてないんだな的なことを零したのを私は聞き逃さなかった。聞き返すエースの問いかけを誤魔化してるし、朝になると大体内容が思い出せなくなるが連日変な夢見たせいでなんか嫌な予感がする。
とりあえず寝起きだったのでしっかり顔洗って寝癖直したりしたいと要望を出したのだが、さっくり却下されてしまったために雑に水を顔に浴びせてタオルで拭きつつ、髪型も寝癖は直す暇もないためにゴムで一つ結びにして誤魔化すような寝起きの酷い状況でパーティー参加を余儀なくされてしまったのでテンションは激低のまま、あくまでもエースの付き添いでさっさと退散するつもりで再びハーツラビュル寮へとやってきた。
昨日と比べると奥の方が騒がしい気がする。やはりパーティー当日だからか、人が多そうな予感がする。
「うわぁ、やっぱ場違い感半端ない…もう帰りたいわ」
「んじゃ、パパッと寮長にタルトを渡して謝って……」
「おーい!やっと来た。待ってたよー、オレくん!」
「たっだいまー。お待たせ、オレくん」
「!!??」
横に立っているケイト先輩とは別に寮の方から服装だけ異なるケイト先輩が現れ、私達は揃いも揃って度肝を抜かれた。
「ダ、ダイヤモンド先輩が2人!?」
「双子だったんすか!?」
「影分身の術じゃなかったんすか!?」
「術?監督生ちゃんのはよくわかんないけど、男兄弟はオレだけだよ。コレはオレのユニーク魔法『スプリット・カード』魔法で自分の分身を作れるんだ」
「やっぱり影分身じゃないですか!」
「昨日倒しても倒しても倒れなかったのはこういうことだったのか……」
昨日のディフェンス力の秘密が明かされて、こんな学園生活最序盤からメチャ強ユニーク魔法が飛び出すことに驚きを隠せない。1年生との差がエグすぎだって〜〜グリムがこの学園で1番になれる未来がもう想像出来ない。
「おかえり〜」
「いらっしゃい、監督生ちゃん♪」
「多重影分身の術じゃないですか!スゴぉいっ!お邪魔しますっ!」
「もーマジしんどい!遅いよぉエースちゃんたち」
「うわっ!もっと来た!」
わらわらと2人以上に増えるケイト先輩を見て複数人の分身を出せる事実に私はますますテンションが上がってしまった。こんなんもう…NARUTOじゃん!
「ちなみに本物のケイトくんはオレでーす♪」
と本体宣言したのは体操服姿のケイト先輩。
迎えに来てくれたのは分身とは…なんて便利な魔法!最早忍術!学校に分身寄越して本体は家で休むと言う誰もが一度は思いつくおサボりも現実にできるじゃん!
「増えるのってめっちゃしんどいからあんま長持ちしないんだけどね」
「エッ……じゃ100人分身できないんだ…なんだぁ…」
「さっきまであんなに喜んでくれてたのに、すっごい露骨にガッカリするねー!監督生ちゃん」
「コイツ謎に魔法に対して理想高いんすよ、先輩」
そう上手くは行かない現実を語ってくるので、魔法ってばやっぱり便利なだけではないらしい。がっかり…。
能力紹介をそこそこに本題に入ったケイト先輩から昨日の朝と同じように手伝いを依頼された。今回はちゃんと寮長に会わせてあげるとのことなので、いわれなき労働は正直やる気は全く出ないのだけども作ったタルトを無駄にするわけにも行かないし、コレでエースのクエスト達成できるならしゃーないかと私達は再び薔薇塗り労働に勤しんだ。
昨日あんなに足を引っ張りっぱなしのデュースとグリムが今日は失敗もなく、色塗りスピードも格段に上がっている。頼りない場面ばかりが目立つが、この物覚えの良さを見るに名門校の生徒だけあるなと少し感心した。
しかしそれにしても本番直前だと言うのに準備間に合って無さすぎて笑える。分身できると言えどもこの量の白薔薇を1人で赤く塗るのは普通にどうかしてる仕事量だ。華やかな外見に対して裏っ側がまるでブラック企業みたいで、たとえ寮長に許してもらえても今後のエースとデュースの生活が決して明るくないと思うと泣けてきた。
「社畜のエースとデュース可哀想…」
「いや、いきなり何。社畜じゃねーし」
脚立に座って白薔薇を赤く塗りながらスンスン泣いてる私の向かい側で同じように作業をしていたエースが怪訝そうにこちらを伺いながらつっこんでくる。
「じゃぁ毒親に遊び禁止で勉強を強要される子どもか…将来はっちゃけて犯罪に走っちゃダメだぞ」
「何そのたとえ。何もわかんねーんだけど!お前の頭ん中の俺たちはどーなってんのよ?」
「クソどーでもいい規則に縛られて灰色の学園生活を送ってる」
「あのさぁ…急に現実味のあるイメージ語んないでくれる。不安になってきたんだけど!」
「だって部外者の私とグリムでさえ入学早々働かされてるんだよ?身内はもっとやべーに決まってんじゃん」
寮内で堂々とハーツラビュルの悪口を言い放つ私に別の場所で作業をしていたケイト先輩が少し渋い顔をしながらわざわざ会話に参加しに来た。
「…ん〜〜?…監督生ちゃんのうちの寮のイメージって」
「縦社会のパワハラブラック企業」
「そんなに??うちの寮の評価最悪すぎ〜〜。けーくんショック〜」
「んなこと言われても…逆にいいイメージをもてる場面あるかい?エース君」
「ん〜…タルトが美味かったことくらいじゃね?」
「確かに美味しかったけど…意味わかんねー強制労働、他寮にやたら高圧的な寮長となんか2回も因縁つけてくる変な先輩ども、退学騒ぎに家出騒動にと巻き込んで来る同級生…減点要素が上回るよね!」
「あれ?さり気なく俺も貶されてる?ホント根に持つよなーお前」
「ううん〜…ハーツラビュルの名誉のためにも監督生ちゃんにはこれから始まる『なんでもない日』のパーティーでうちの寮の良さを味わってもらわないとね!」
「いや〜〜…関係ない奴が他寮の伝統的パーティー参加とかハードル高すぎません?ただでさえ好奇の目に晒されてんのに、悪目立ちしたくねーっす。それにほら、あのオンボロ寮の片付けしないとこれからの季節辛そうですし、用件済んだらすぐ帰ります」
「監督生ちゃんさっきから冷たすぎない!?そんなこと言わないでちょっとだけでいいから!うちはアットホームな寮だから!」
「アットホームって余計ブラック味がありますよね…家帰って寝ますわ」
「コイツ全然人に合わせるタイプじゃないんで、期待するだけ無駄っすよ先輩」
「けーくんかなしー!」
そんな他愛もない会話をしてる間にも2回目と言うのもあり、優秀な私達は何とかケイト先輩の期待通りにパーティー開催前に作業を終えた。
ネガキャンしまくったものの、ケイト先輩は落ち込んでいたのが嘘のようにケロッと態度を変えて、私達は引きずられるようにパーティー会場へと案内された。
***
会場を囲む整えられた植木のトランプモチーフのパーティー飾りは鮮やかに会場を彩り、白いテーブルクロスが掛けられた丸テーブルには色鮮やかな薔薇が飾られた花瓶と白く可愛らしいティーポット、洒落たケーキスタンドには美味しそうな洋菓子が並んでいる。そんな華やかに飾り付けられた会場には今までどこに隠れていたのかと思うくらいに多くの生徒が集まっており、昨日ケイト先輩が着ていた白にトランプ模様を散りばめたやたらお洒落な服を全員が着ている様子を見ていると、不思議な世界へ迷い込んでしまったような錯覚を覚える。
「我らがリーダー!赤き支配者!リドル寮長のおなーりー!」
「「「リドル寮長、バンザーイ!」」」
ピシッと軍隊のように整列したハーツラビュルの寮生が声を揃えて高らかに叫ぶと、寮と直通なのか、やたら重そうな扉が開き、王冠に斜めがけの真っ赤なマントとまるで王様みたいな格好のリドル寮長と他寮生と同じ格好ながら白いハットを被ったトレイ先輩が会場へと足を踏み入れる様は、会場の雰囲気も相まってなかなか壮観だった。
細かに会場の様子を見回すリドル寮長は満足気で隣に立ったトレイ先輩も穏やかな顔をしてる。
そんな統一感のあるハーツラビュル寮生にグリムは妙に感銘を受けてるようで目をキラキラさせてはしゃいでいる。その様子にケイト先輩は満足気でマジカルペンでサッと魔法で衣装チェンジ。
「パーティーの日は正装ってハートの女王の法律で決まってるからね。今日はお兄さんがコーディネートしてあげよう」
「自分ここで見守ってるんでいいで「いいからいいから!お兄さんがコーディネートしてあげる⭐︎」
わざわざ準備してもらうのは悪いと断ろうとしたら話を遮られてさっさと魔法をかけられてしまった。
ハーツラビュル寮服を着せられた皆はテンションがさらに高まって楽しそうだが、私は何だかこの妙に既視感を覚える光景が何だか落ち着かない。
「なーんかやな予感が…「ささっ!マロンタルトの贈り物を忘れずに。んじゃパーティーへれっつらごー!」
変装してパーティーへと侵入した私達は空いているテーブルを陣取り、しばらく物々しい雰囲気が落ち着くまではケーキスタンドに乗ったお菓子をつまみながら聞き耳を立てていると、どうも寮長の話が終わったようで乾杯の合図とともに会場はガヤガヤと騒がしくなった。どうやら多少自由にしていい時間のようだ。
「エースちゃん、今がチャンスじゃない?」
そう言えば学園長から出されていたクエストがあったと思い出したようにパーティーの様子をゴーストカメラで切り取って、ハーツラビュル寮生の肖像権を侵害しまくっている横で、そんな風にケイト先輩がマロンタルトの入った箱を指でトントン叩いてエースに耳打ちしていた。
思ったよりも早いタイミングでやって来たその時に少し緊張したようなエースに目配せされた私達は揃って寮長のいるテーブルへと向かう。
「よし………あの〜、寮長」
「キミは……ああ、タルト泥棒の1年生か」
大人しく後ろで様子を伺ってるとエースはかなり不名誉な覚えられ方をしていて出だしから暗雲が立ち込めてる。
「えーっと、タルトを食べちゃったことを謝りたいと思って。新しくタルトを焼いてきたんですけど」
「ふぅん?一応聞くけど、なんのタルトを?」
昨日の怒りっぽさを思うと今日のリドル寮長はかなり話が通じるように見える。
「よくぞ聞いてくれました!旬の栗をたっぷり使ったマロンタルトです!」
エースの後ろでマロンタルトを持っていたデュースが寮長の前のテーブルに置いた箱をエースが自信満々に開けて、自信作のクソデカマロンタルトをリドル寮長へと見せつける。
大喜びとまでは行かずとも結構見事な出来栄えのタルトだったからこれに免じて許しを得れると私達は当然のように思っていたが、驚いた反応を見せていたリドル寮長の顔は瞬く間に怒りに満ちた色を滲ませた。
「マロンタルトだって!?信じられない!」
「えぇっ?」
まさかの怒号にさらされたエースは素っ頓狂な声を零した。そりゃ、わざわざ先輩のアドバイスを参考にしたお詫びの品を渡して怒られるなんて思いもしないだろう。
「ハートの女王の法律・第562条。『なんでもない日』のティーパーティーにマロンタルトを持ち込むべからず。…これは重大な法律違反だ!なんてことをしてくれたんだい!?」
怒りの理由を丁寧に並べてくれてわかりやすいはずなのに全てが耳を滑ってくようで全く内容を理解できない。
そんなキレることないじゃんと私は思ってしまうし他の皆も似た感じだが、リドル寮長は烈火の如く怒るので温度差に困惑するばかりだ。
「完璧な『なんでもない日』が台無しじゃないか!」
「だ、第562条!?」
「ファーッ!全部で何条あるんすかソレ!?」
「全810条。ボクは全て頭に入ってるよ。寮長なんだから当然だろう」
あまりの多さに思わず疑問を声に出してしまうとリドル寮長は急に落ち着いた態度ですかさず言い放つ。確かにソレを記憶しているのはすごいけど…
「日本国憲法のおよそ8倍っっ!?!?」
103条だって覚えるの大変だってのに、昨日今日入学した新入生が覚えられるわけない。アホなのか???
しかも内容も今まで聞いたのも含めて一体何のためにあるのか、真面目に考えることすらアホらしくなる内容の法律に私は意味わかんなすぎて白目剥いてた。
世界のギャップにパンクしているとすみで様子を伺っていたケイト先輩達が小さい声でヒソヒソ喋ってる会話が耳に入る。
「あちゃー、こりゃヤバイ。……トレイくん、知ってた?」
「俺が暗記出来てたのは第350条までだ。完全に油断してた。タルトの種類にまでルールがあるなんて……」
どうも先輩達でさえ把握してなかったルールらしく、よく周りを見渡せばハーツラビュル寮生は困惑しているだけでルール違反だとぷりぷり怒ってるのはやはりリドル寮長のみだ。厳格だなんだと言われているハーツラビュル寮だと聞いていたけども、どうやら内情はそうでもないようだ。
「ハートの女王の厳格さを重んじるハーツラビュル寮長であるボクが、この違反に目を瞑ることはできない。マロンタルトはすぐに破棄しろ!それから、こいつらを寮外へつまみ出せ!」
わけのわかんないルールを楯にとる横暴な要求に困惑よりもだんだんとムカつきが大きくなってくる。何より昨日私達がどれだけ頑張ってこんなクソデカマロンタルトを作り上げたのか、その頑張りを少しも考慮すらせずにすべて否定されてはさすがに冷静ではいられない。
「ちょっと待てよ!そんな無茶苦茶なルールあるか!」
「そうだゾ!捨てるんだったらオレ様が食う!」
グリムの怒りは方向が違うし、言ってることもイマイチズレているがまぁ食べ物を粗末にしない精神はこの獣のいいところ。
「寮長、申し訳ありません。マロンタルトを作ろうと言ったのは俺です」
「そうそう。まさかそんな決まりがあるなんて全然思ってなくて」
言い合いに発展したことでヤバイと思ったらしい先輩達がすかさず私達とリドル寮長の間に入り、場を納めようとフォローに入るが肝心のリドル寮長は相変わらず怒っていて言ってることだって到底納得出来ない。
「作ったことが重要なんじゃない。今日!今、ここに!持ち込んだこと“だけ”が問題なんだ!」
「はぁ〜〜〜〜っ??そんなアホみたいな理由で厳格だルールだなんだって……ば〜〜〜〜〜っかじゃねえの!?」
「馬鹿……だって?」
いつまでもルールがー!ルールがー!とうるせーし、そのルールだって何のためにあるか理解できない意味のわからないものじゃ、到底納得だって出来ない。
伝統だか何だか知らんが、今の世の中で活用できないルールが丹精込めた詫びの品を無碍に扱われる理由だと言われて誰が納得できるのか?そんな大切なルールなら会場前にでも持ち込み禁止だって張り紙出しとけってんだ!!!
「そーだよ!こんなクソみてぇなルール馬鹿真面目に従ってたら頭おかしくな「ちょ、ストップ!それは言っちゃダメなやつ!てか口悪すぎだね!?」もがががっ!!」
もう熱くなりすぎてこちらをジロリと睨むリドル寮長へ喧嘩を売るつもりで中指立てて口汚く罵ってやろうとしたところをケイト先輩に羽交い締めにされて口を塞がれ、手も後ろへ回された。
「あとリドルくんも、コイツらまだ入学し立てほやほやの新入生だからね」
「いーや言うね。そんなルールに従ってタルトを捨てるなんて馬鹿だって思うだろ。ふざけんなよ」
寮長をなだめようとするケイト先輩を押し退けて、エースがはっきりとそう物申す。いいぞもっと言ってやれ!といまだに羽交い締めにされた私は口を塞がれながらも、怯えず前に出たエース達へ声援を送る。
「俺もエースに賛成です。もちろん、ルールは守らなければいけないものだとは思いますが……さすがに突飛すぎる」
エースよりは控えめに、しかしはっきりと抗議するデュースだがリドル寮長はどちらの声も耳障りだと言わんばかりに目を細めて2人を睨む。
「ボクに口答えとはいい度胸がおありだね。いいかい。小さなルール違反が、大きな問題に繋がるんだ」
たかだかタルトの種類がどんな大きな問題なるってんだよ!アホらしいルールを守る必要性のある具体的な実例を出せってんだ!と私の抗議は相変わらず口を塞がれているため声にはならなかった。
「他の奴らも、魔法封じられるのが怖くて言い出せないけどこんなのおかしいと思ってるんだろ!?」
私達以外シン…と静まり返っていた会場に目をやったエースは何とも言えない気まずそうな顔でこちらの様子を伺う寮生達にそう呼び掛けるが、帰って来たのはなんと弱々しく動揺した声。
「いや、僕たちは……」
「へぇ、そうなのかい?」
ジロリと威圧するようなリドル寮長の視線に晒された寮生達はビクビクと震えて引き攣った笑みを浮かべて次々にゴマを擦り始めやがった。
「と、とんでもありません、寮長!」
「すべては寮長のご決断次第です!」
歪んだ笑みと大量の汗と泳ぐ視線、どこを見ても本心じゃないのは丸わかりだ。このあからさまな反応にリドル寮長は何も気づかないのか…まぁ、わかっていてもルールを重視するのだろう。
「チッ…日和りやがって。ダッセー」
エースの苦々しく軽蔑したような顔にも誰も何も言わない。ナイトレイブンカレッジのプライド高い生徒なら腹が立ってしかたないはずなのに、誰もが下を向いて俯くばかりでただ1人を恐れている様子はとても歪だ。
「ボクが寮長になって1年。ハーツラビュル寮からは1人の留年者・退学者も出していない。これは全寮内でハーツラビュルだけだ。この寮の中でボクが一番成績が優秀で、一番強い。だから、ボクが一番正しい!口答えせず、ボクに従っていれば間違いないんだ!」
確かに彼の実績はすごいのだろう。
しかしどう見てもいい環境でないのはこの場にいる寮生達の様子を見れば猿だってわかるレベル。寮長の方針が彼らを良い方へと導いているわけじゃない。ただ恐怖で怯えて常に寮長の言うことに従って逆らわないようにしているだけなんだから。
「ボクだって、やりたくて首をはねてるわけじゃない。お前たちがルールを破るからいけないんじゃないか」
相変わらずイライラしているリドル寮長は独り言のようにそう呟いていた。しかしどう頑張ったって810条もある法律で日常生活に支障をきたしそうなルールなんて無茶でしかないだろうに、てか自分だって大変なのにこのこだわりは何なんだ…?
「ボクに従えないのなら、まとめて首をはねてやる!」
自身もそんなルールに縛られていちいち首をはねて苦しそうにしてるなんて、まるで何がしたいのかわからない様は本当に癇癪を起こした子どものようだ。
いつの間にか私を放したケイト先輩が私達の前に立ちはだかり、何とも辛そうな声を発した。
「みんな、ほら。「はい、寮長」って言って」
今までみたいに飄々とした態度ではなく、引き攣った顔で子どもの横暴な意見に賛同しろ、と先輩は感情のない声でそう言うのだ。
どうして?と疑問が沸くより前にどうしてそんな心にも無いことを言わせようとするのと、怒りの感情が沸いてくる。
「…………言えません」
「嫌です!言ってること何一つ納得出来ないのに従えるわけないじゃんか!てかウチらの寮長じゃねーし!」
「こんなワガママな暴君、こっちから願い下げだ!」
私と同じような気性らしいエースは随分憤慨した様子でそう食ってかかった。
暴君と言ったワードを聞いたリドル寮長はピクリと眉を顰めてこちらを睨み付けてくる。
「今、なんて言った?」
「オマエはおこりんぼでワガママで食べ物を粗末にする暴君って言ったんだゾ!」
突然ヒヤリと温度が下がったようなリドル寮長に場の空気が読めないグリムはハッキリとついでに今まで思っていた全てのマイナスポイントを色々と付け足してそう言い放った。
「お、おい、そこまでは言ってな…「首をはねろーーーーー!!!!」うわああーー!!!」
慌ててグリムを制しするデュースの行動よりも先に完全にキレてしまったらしいリドル寮長がものすごい形相でユニーク魔法を放った。
パッと光が放たれたと思えば追尾機能でも備えてんのかってくらい正確に飛んできたハートの首輪がガチンッとデュース、グリム、エース(2個目)それから私の首へとしっかりガッチリハマった。
「ぐええ!またこの首輪なんだゾ!!」
「くそっ、外れない!」
「いや、これ私にする意味ある???」
付けられた瞬間はギャッと悲鳴が漏れたが、元から魔法が使えない私に首輪つける意味がないことにふと冷静になってしまった。
「トレイ、ケイト!こいつらをつまみ出せ!」
激おこプンプン丸のリドル寮長は怒りのままに先輩達にそう命じて私達を徹底的に排除にかかる姿勢を見せた。
「………。はい、寮長」
長い沈黙の後に無表情で立っていた先輩達はそんな返事をすると静かに私達へと向かって来た。
「ごめんねー、オレたち寮長には逆らえないからさ⭐︎」
「逆らえないって…本当にあの人の言ってることが正しいって思ってるんですか?おかしいことはおかしいって言ってやるのだって思いやりでしょうが!」
「……悪いな」
何言ったって悟ったような顔してそんな短い返事が返ってくるだけ、おかしいって本当は思ってるくせに、到底納得出来てないからそんな複雑そうな顔をしてるくせに、従ってれば問題ないなんてのはただ問題を先送りにしてるだけだって、そんなことこの酷く澱んだパーティー会場の空気感でわかれよとまたその態度に尚更イライラとしてしまう。
「あぁ〜〜〜、そうかよ!やってやらあ!」
それは私だけでなく、エースも強く感じてるようで向かってくる先輩達に自ら突っ込んでいった。
「……」
しかし首輪しっかりとかけられた私達は今やただの無力な3人と1匹。ただでさえ強力な魔法持ちで分身魔法で人数差だって簡単に埋められてあっさり確保されて担ぎ上げられて抵抗も虚しく連行されて行く。
その最中で見えるパーティーの寮生達はオドオドしながら目を合わせないようにして嵐が過ぎ去るのを待っている。その中で私が財布をスった見知った顔のチンピラ先輩達は昨日の威勢は見る影もないほどに静かに俯いていて、あまりに情けなくて情けなくて
「あーーー馬鹿馬鹿っ!!ほんっと馬鹿しいっ!!ヘコヘコしちゃってさ、皆馬鹿だよ!嫌なことくらい嫌って言えよ!!意気地なしーーっ!!」
奴隷根性の情けない奴らならばと、この負け犬どもにせめて軽蔑の言葉を送ってやろうと、怒り心頭の私は暴れながらひたすらに喚き散らして、トレイ先輩に運ばれる間も会場から出るまでずっと叫んでやった。
先輩達は寮の門を開けて外へと私達を放り出すとガシャンと檻のような重い鉄の扉を閉めて手を振った。
「それじゃあエースちゃんたち、まったね〜」
「謝れば寮に戻れるように寮長はなだめておくから」
「くっそーー!!ぜっっってぇ謝らねえからなーー!!!」
「なーにがアットホームじゃい!!大嘘つきっ!!」
ぶーぶー扉の前で騒がしくするしか出来ない私達(主にエース)を置いて先輩達はさっさと背を向けて会場へと戻って行った。